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京都府レッドデータブック2015

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京都府の昆虫相

本州のほぼ中央部に位置する京都府は、南は奈良県、西は大阪府と兵庫県、東は滋賀県と福井県に接しているが、北は日本海に面し、南北に長い地形である(東西約83km、南北約125km)。府内には特に高い山はなく(最高峰:皆子山972m)、由良川、木津川を除いては特に大きな河川もない。しかし、北部には積雪の多い丹後半島と、その周辺に小規模な砂浜海岸があり、また中央部には原生林の残る芦生や里山的自然が残されている丹波山地、南部には京都盆地を流れるいくつかの河川があり、さらに琵琶湖と関係するいくつかの水系と八幡市で淀川に合流する木津川には広い砂地の広がる河川敷があるなど多様な環境が見られ、京都府全体としての昆虫相は比較的豊富である。また、舞鶴市沖の若狭湾には、オオミズナギドリの繁殖地として有名な冠島があり、沖合を流れる対馬海流の影響で南方系の昆虫が生息しており、京都府ではここにしか見られない昆虫も多い(京都昆虫研究会 1991ほか)。このように京都府中・北部は本州北部に生息する種の西南端に当たる種が分布する一方、南方系の種の北限である場合もある。

一方、京都市北山には古くから昆虫類の採集や調査地として有名な「貴船」や「鞍馬」があり、特に水生昆虫や鞘翅(コウチュウ)目昆虫類にはこれらの地がタイプ産地となっている種が多数あることは特筆すべきであろう。また、京都の地名を種小名にもつ昆虫種は、おそらく日本で最も多いと思われる。これは、これまで京都を含む近畿圏の大学や研究機関に多数の昆虫研究者が在籍し、また伝統的にアマチュア昆虫同好者も多く、府内各地で採集した標本をもとに記載や生態観察が行われてきたためである。

府内の貴重な昆虫類については、1983年に府内に生息する貴重な昆虫類の分布が調査され、ムカシトンボ、ゲンジボタルなど8種が「貴重種」として、さらに「貴船」をタイプ産地とするカスミハネカをはじめ40種が「重要な種」として挙げられている(「京都の昆虫」(1))。その後1985年には、さらに「京都の昆虫(Ⅱ)」が出されたが、2002年版レッドデータブックはそれ以来の京都の貴重な昆虫類を扱ったものとなっていた。

執筆者 吉安裕

近年の昆虫類をとりまく状況と今回の改訂の概要

2012年に公表された環境省の第4次レッドリストで、そのランクが上がり絶滅が危惧される昆虫群の一つとして、水生昆虫類を挙げることができる。第2次世界大戦後の昆虫相の変化を湿地性(水田を含む)の昆虫類についてみると、二つの大きな減少期があったように思われる。最初の減少期は、およそ1960年前後から1970年前後にかけての時期であろう。1950年代から農地で有機合成農薬が導入され農業生態系の単純化が進み始め、さらに1960年ころからの急激な経済成長に伴う様々な営為による都市近郊を含む生息環境の減少や攪乱によって、それ以前には人里で普通種であった昆虫が絶滅、あるいはほとんどみられなくなった。たとえば、近畿以西では水田のイネの害虫であったサンカメイガや大型あるいは中型のゲンゴロウ類、タガメ、コバンムシ等があげられよう。ついで水生昆虫類の第二の減少期は、1990年前後から2000年前後であるように思われる。1970年代からは農薬類も環境や生物に対する影響を低減したものが使用されることになり、また家庭や工場の排水もそれ以前と比べて改善が進んだ。その一方で、その後のバブル期には、都市やその近郊の再開発に伴う小湿地や草原の消失、自然生態系内の観光地化や舗装道路の拡充に伴う森林の伐採と分断、防災のための河川改修等により、生息場所の消失と分断化が進行した。また、急性毒性等は改善されたが多岐の化学農薬の使用等が昆虫の体内生理に何らかの影響を及ぼしたことは否めない。他方、都市近郊の明るい照明、いわゆる光害も多くの夜行性昆虫の活動を妨げたに違いない。同時に、魚類を含む外来生物類が各地の湿地に放たれた影響も大きい。特定の原因は不明であるが、これらが複合的に、あるいは特定の種に対して影響した可能性もある。京都でも、この第2の減少時期にミズスマシ類、小型・中型のゲンゴロウ類がほとんど見られなくなり、トンボ類も絶滅と判断されるか、絶滅が危惧される種が増加した。また、水生ではないが、木津川流域の開けた草原に生息するオオウラギンヒョウモンを含む草原性のチョウ類、河川敷の砂地にいるオオヒョウタンゴミムシなどが絶滅に近い状態となった。環境省の第4次見直し結果は、この第2の減少期を反映しているように思える。

昆虫類全体をみると、今回の見直しで新たに注目されるのは、自然生態系において、とくに京都中部から南部地域にかけて、シカ(ニホンジカ)による下草や樹木の加害に伴う生態系へのダメージと単純化である。多くの昆虫群がその影響を受けていると思われるが、チョウ類では、ササを寄主としている種でかなり個体数の減少がみられ、中には絶滅が危惧される種も出てきた。また、ギフチョウはシカの食害による食草の減少で南部では1か所を除いて絶滅したと思われる。シカによる被害を防ぐ手立てについては、自然生態系では広範囲に及ぶため対策が難しく、今後の重要な課題となるであろう。

今回の見直し結果を、クモ類を含めて、2013年に公表した内容を多少改変して再録する。なお、この公表後、今回の冊子刊行まで長時間を要したため、多少のランクの変更がなされたことをお断りしておく。

(1)昆虫類・クモ類の絶滅のおそれのある種の総数は、2002年版では、448種であったが、今回は497種(絶滅種:28種、絶滅寸前種:82種、絶滅危惧種:106種、準絶滅危惧種:68種、要注目種:213種)となり、49種増加した(56種追加、7種除外または削除)。したがって、昆虫・クモ類の生息状況が依然として改善されていないことが示されている。また、これまで情報が不足していた一部の種について生息状況等の新たな知見が得られたことで、2002年度の公表の意義もみられた。

(2)今回の注目されるランクの変更と追加は、水生昆虫類で多い傾向を示している。とくに蜻蛉(トンボ)目では3種を絶滅寸前種から絶滅種にした。ほかのトンボ類も個体数と生息域の減少がみられ、合わせて14種を新たに要注目種に加えた(トンボについては別稿を参照)。このことは今世紀に入ってからも、外来生物の影響も含め湿地環境は改善されていないといえる。ほかに、絶滅が危惧される水域の昆虫として、イトアメンボ、エサキアメンボ、オヨギカタビロアメンボ(今回初記録)、ミズアブ類、ミギワバエ等を新たにリストに加え、また一部はそのランクを上げた。

(3)海岸砂地やそれに続く草原、あるいは河川沿いの草地では、近年全国的にも多くの昆虫の生息域の減少が報告され、京都府でも、従来のカワラバッタやオオウラギンヒョウモン等に加え、例えば膜翅(ハチ)目では海岸砂丘に生息するシロスジコシブトハナバチ、ニッポンハナダカバチを新たにレッドリストに加えた。

(4)鞘翅目では、2002年版で絶滅種としていた、コガタノゲンゴロウとクビナガヨツボシゴミムシの2種が今回各1地域で新たに発見され、絶滅寸前種とした。今後これらの生息状況を注視していくとともに、生息地の保全策を検討する機会となった。一方で、鞘翅目でも多くの種が依然として絶滅が危惧されており、新たに10種(絶滅寸前種1種、要注目種9種)をレッドリストに加えた。

(5)今回の見直し調査の過程で、新たに発見された昆虫も多く、特に鞘翅目では前回のリスト作成以降に340種が新たに追加記録され、京都府産の鞘翅目昆虫は合計3,887種となった。

執筆者 吉安裕

蜻蛉目の動向

 京都府から記録されたトンボは、大陸からの飛来種1種(スナアカネ)が追加され、今回99種となった。2002年版では、絶滅寸前種4種、絶滅危惧種4種、準絶滅危惧種11種を選定していた。今回の見直しにおいて、6種をランク変更し、新たに要注目種14種を追加した。その結果、絶滅種3種、絶滅寸前種2種、絶滅危惧種3種、準絶滅危惧種11種、要注目種14種の合計33種となった。

前回には絶滅寸前種であった4種の内、マダラナニワトンボ、オオキトンボ、ベッコウトンボの3種は、40年以上もの間それぞれの産地において生息が確認できず、他所に生息している可能性もないので絶滅種とした。同じ絶滅寸前種のヒヌマイトトンボも産地では姿が見られなくなっており、危機的な状況になっている。依然と確認記録のないハネビロエゾトンボを、絶滅危惧種から絶滅寸前種へランクを上げた。また、生息地と個体数の減少が著しいアオヤンマも準絶滅危惧種から絶滅危惧種へランクを上げた。一方、キイロヤマトンボは、2002年以降の調査により、個体数は少ないが比較的安定した環境に生息地が見つかったので、絶滅危惧種から準絶滅危惧種へランクを下げた。そして、私たちの身近なところに生息しており、今までは普通に見ることができたが、最近は簡単に見られなくなっているオオイトトンボやカトリヤンマ、生息環境の変化が懸念されるヒラサナエなど、今後注意して見守っていく必要のある14種を要注目種として追加した。

トンボは幼虫時代を水中で過ごし、成虫になると空中を飛び回る。種類ごとに好みの水辺環境と自然豊かな地上環境の両方が必要である。山奥の源流域を生息地とする種もいるが、それより身近な河川中流域や、里山の水田、山裾のため池などに生息しているトンボが多い。開発や農地改良、河川改修、ため池の埋め立てなど、トンボの生息地は被害を最も受けやすい所にある。それに最近では利用しなくなったため池や、里山の荒廃が目に付く。これまで比較的安定しているとしていた山奥の環境も、シカの食害や排泄物による湿地の異変、産卵植物の消失などが懸念される。新たな絶滅種を出さないためにも、早期に京都府全域のトンボ生息状況を把握し、貴重な種、重要な地域について、周辺部を含めた生息地の現状維持などの保護対策を行う必要がある。

執筆者 田端修

2015年度版作成にあたっての昆虫・クモ類の改訂の体制と作業

 今回の京都レッドリストの見直しについて、昆虫類については7名、クモ類については2名の委員で担当し、京都府産の種の目録の改訂とレッドリスト種の見直し作業を行った。レッドリスト種の解説は基本的に2002 年の前版をもとに行われ、その一部は今回の委員の補筆や連名で更新され、また新たに指定した種の解説を加えた。一方、種の目録については、可能な範囲で充実させたが、京都府の昆虫・クモ相の解明や情報の集積はまだ十分ではなく、これを機に次回の改訂に向けてこれからも新たな、また継続的な調査が望まれる。また、種数の多い昆虫類では、分布記録の新知見や学名の変更等も非常に多く、これらの情報を集約・統括する体制も今後望まれる。

 最後になったが、委員以外の下記の方々には、一部の種の解説の執筆、校正、写真や情報の提供等を含め、今回の見直し作業において大変お世話になった。記して厚くお礼申し上げる。

稲畑憲昭(日本昆虫学会)、伊藤建夫(日本甲虫学会)、黒田悠三(日本甲虫学会)、松田潔(大阪府府立大学)、中嶋智子(京都府保健環境研究所)、小野克己(日本鱗翅学会)、初宿成彦(大阪市立自然史博物館)、竹門康弘(京都大学)、谷田一三(大阪府立大学)、八尋克郎(滋賀県立琵琶湖博物館)(敬称略、abc順)。

執筆者 吉安裕

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