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昆虫類概要



 昆虫類概要

1.京都府の昆虫類相
 本州のほぼ中央部に位置する京都府は、南は奈良県、西は大阪府と兵庫県、東は滋賀県と福井県に接している
が、北は日本海に面し、南北に長い地形である(東西約83Km、南北約125Km)。府内には特に高い山はなく(最
高峰:皆子山972m)、由良川、木津川を除いては特に大きな河川もない。しかし、北部には積雪の多い丹後半島
と、その周辺に小規模な砂丘があり、また中央部には原生林の残る芦生や里山的自然が残されている丹波山地、
南部には京都盆地を流れるいくつかの河川があり、さらに琵琶湖と関係するいくつかの水系と八幡市で淀川に合
流する木津川には広い砂地の広がる河川敷があるなど多様な環境が見られ、京都府全体としての昆虫相は比較的
豊富である。また、舞鶴市沖の若狭湾には、オオミズナギドリの繁殖地として有名な冠島があり、沖合を流れる
対馬海流の影響で南方系の昆虫が生息しており、京都府ではここにしか見られない昆虫も多い(京都昆虫研究会,
 1991他)。このように京都府中・北部は本州北部に生息する種の西南端に当たる種が分布する一方、南方系の種
の北限である場合もある。
 一方、京都市北山には古くから昆虫類の採集や調査地として有名な「貴船」や「鞍馬」があり、特に水生昆虫
や鞘翅目昆虫類にはこれらの地がタイプ産地となっている種が多数あることは特筆すべきであろう。また、京都
の地名を種小名にもつ昆虫種は、おそらく日本で最も多いと思われる。これは、これまで京都を含む近畿圏の大
学や研究機関に多数の昆虫研究者が在籍し、また伝統的にアマチュア昆虫同好者も多く、府内各地で採集した標
本をもとに記載や生態観察が行われてきたためである。
 これまで、府内の貴重な昆虫類については、1983年に府内に生息する貴重な昆虫類の分布が調査され、ムカシ
トンボ、ゲンジボタルなど8種が貴重種として、さらに「貴船」をタイプ産地とするカスミハネカをはじめ40種
が重要な種として挙げられている(「京都の昆虫」(1))。その後1985年には、さらに「京都の昆虫(II)」
が出されたが、今回はそれ以来の京都の貴重な昆虫類を扱ったものとなる。
 今回のレッドデータリスト選定種を見ると、それらは人里はなれた山地や深い森に生息する種もあるが、むし
ろ湿地や里山に以前は普通に見られた種のほうが多い。都市化や人間の活動によって、都市近郊の環境が著しく
影響を受けたことの証拠でもあり、それらの環境の脆弱性を改めて痛感する。また、同じように河川敷や農耕地
周辺の草原にも、意外に多くの貴重な昆虫種が生息していることにも気づく。これらの種を守るにはその生息場
所だけでなく、周辺の環境も含めて保全されるべきであろう。それぞれの分類群の概説の中にも生息環境とその
保全に向けた提言が詳述されている。
 今回、昆虫・クモ類のレッドデータ種選定には、ほかの都府県と異なり、3つの分科会が設けられ、それぞれ
に選定作業を行った。昆虫 I・クモ類分科会では、昆虫類(カゲロウ目、トビケラ目、膜翅(ハチ)目)および
クモ類、昆虫 II分科会ではトンボ目、ゴキブリ目、半翅(カメムシ)目、双翅(ハエ)目、鱗翅(チョウ)目、
シリアゲムシ目、カマキリ目、ハサミムシ目、脈翅(アミメカゲロウ)目、および昆虫 III分科会では鞘翅(コ
ウチュウ)目、直翅(バッタ)目の昆虫類を扱った。これ以外の昆虫目については、今回は委員数の制約から調
査できなかった。またレッドデータのランク選定は各委員会独自の基準で行った。自然環境分布リストにはすべ
ての分類群をとりあげられなかったとはいえ、約6,500種が京都府から確認されている。そのうち、鞘翅目はその
半数以上の約3,500種が記録され、全国的に見ても充実した内容になっている。今後調査が進めば、さらに多くの
種が追加され、また、レッドデータのリストに掲載すべき種も増えると思われる。今回の取り組みを契機に京都
府の昆虫類についての関心が高まって、その昆虫相や生息する昆虫類の生態の解明が進み、ひいてはそれらの保
全・保護意識が高まることを切望する。
                                執筆者 遠藤 彰・吉安 裕・荒谷 邦雄



2.選定基準
 前述のように、選定基準は委員会によって、また、分類群によって異なる。特に調査が進み、分布の確認情報
が多いチョウ、トンボ類は、比較的具体的に要件を示した。それ以外の多くの昆虫類はほかの動物分類群に比べ
て種数が多く、しかも過去からの個体数の増減とその現状とをつかみにくい分類群である。したがって、取りあ
げた種の相当ランクは基本的に調査に携わったそれぞれ担当の委員にゆだねることにした。今後十分な調査を経
て、次の機会に改めて選定基準の見直しと判断をすることにした。


<鱗翅目(チョウ類)及びトンボ目>
 
カテゴリー/内容
要件
絶滅種
京都府ではすでに絶滅したと判断
される種。
京都府では1950年以前に記録があるが、
その後信頼できる調査によって現在にいたるまで
生息が確認できない種(該当種なし)。
絶滅寸前種
絶滅の危機に瀕している種。
生息地が限定され、個体数も減少傾向
があり、現在の状況が変わらない
限り、個体群を維持するのが困難
と判断される種あるいは1970年以
降記録がない種。
1.既知の生息地が2ヶ所以内で、
 いずれの生息地においても1990年当時の個体数に
 比べて50%未満に減少したと思われる種。
2.既知の生息地が2ヶ所以上であるが、
 1980年以降の信頼できる調査で分布が
 確認できない種。
絶滅危惧種
絶滅の危機が懸念される種で、絶
滅寸前種に比べて深刻ではないが、
現状が続けば絶滅寸前種に移行す
ることが考えられる種。
1.既知の生息地が2ヶ所以内で、
 1990年と比較して個体数が約
 50〜70%に減少していることが確認された種。
2.既知の生息地が1ヶ所だけで、1990年と比較して
 個体数は減少していないが、
 今後減少が予想される種。
準絶滅危惧種
絶滅の危険度は低いが、環境の悪
化によっては、絶滅危惧種になる
可能性のある種。環境が現在のま
ま推移すれば、種の絶滅の危険度
は低いが、生息条件が損なわれや
すい生息地に分布する種。
1.既知の生息地が3〜5ヶ所で、1990年と
 比較して、個体数が70〜90%に減少している種。
2.既知の生息地が2ヶ所だけであるが、
 1990年と比較して、個体数の減少は
 見られない種。
要注目種

注目を要する種または個体群。現
状では個体数の減少はないが、個
体群の推移を見守っていく必要の
ある種、あるいは全国的に見て京
都における分布が注目される種。
1.既知の生息地が6ヶ所以上であるが、1990年と
比較して70〜90%に個体数が減少している種。
2.既知の生息地が5ヶ所以内であるが、
 個体数の減少は認められない種。
3.京都府の特産種あるいは京都産個体群が
 別亜種になっている種。
4.京都府を含めて全国で生息地が
 3都道府県以内の種。
5.京都府が地理的分布限界となっている種。
6.環境指標性が高い種。


<カゲロウ目、カマキリ目、ゴキブリ目、革翅目(ハサミムシ目)、半翅目、脈翅目、
シリアゲムシ目、双翅目、トビケラ目、鱗翅目(ガ類)、膜翅目>

 基本的にチョウやトンボ類に従って選定したが、これらの分類群では、年代や生息場所はそれほど、厳密には
考慮しなかった。生息分布の確認さえ不十分であるので、担当委員のこれまでの調査から判断して選定した。た
とえば、双翅類では、50年以上記録がない種も絶滅種としては扱わなかった。この群は一般に小型で、研究者も
比較的少なくまた過去の知見も十分とはいえないからである。


<鞘翅目>

 環境省のレッドデータブック記載種に限らず、3年間にわたる現地調査の結果と各分類群の専門家である分科
会委員の知識と経験に基づき、分科会独自の選定をおこなった。絶滅寸前、絶滅危惧に関しては、特にその危急
性を最大限に考慮した。要注目種に関しては、希少性を考慮した他、京都府をタイプ産地とするもの、北限地な
ど分布上注目されるもの、生態が不明で記録情報も少ないものを中心に選定した。また、近年深刻化しつつある
侵入種問題を考慮し、外来種(偶産記録も含む)も選定に加えた。選定にあたっては、研究が進み、愛好者も多
く、多数の情報・判断材料を得ることができる甲虫ばかりでなく、いわゆる雑甲虫と呼ばれ、一般にはほとんど
馴染みのない群に関しても十分検討するよう考慮した。記録情報の収集・整理にあたっては、できる限り証拠標
本の現認に努め、地元の研究同好会である関西甲虫談話会や丹後・若狭虫の会等の発行する関連文献資料をはじ
め、近隣他県の甲虫類に関する文献も十分参考にした。


<直翅(バッタ)目>

 3年間にわたる現地調査の結果を考慮しつつ、環境庁のレッドデータブック記載種を参考に独自に選定した。
市川(2001)「日本産直翅類のカタログVer.5.1(フロッピーディスクによる頒布)」をはじめ、近隣他県の
直翅類に関する文献資料も十分参考にした。


3.おもな分類群の概要

<カゲロウ目> 

 環境省が平成12年4月12日に公表した昆虫類のレッドリストに掲載されているカゲロウ目は、全部で4種に過ぎ
ない。その内訳は、準絶滅危惧(NT)のヒトリガカゲロウOligoneuriella rhenanaとリュウキュウトビイロカゲロ
ウChiusanophlebia asahinai,情報不足(DD)のアカツキシロカゲロウEphoron eophilumとビワコシロカゲロウ
Ephoron limnobiumである。これらは、いずれも京都府から記録されていないが、情報不足(DD)とされた2種に
ついては京都府内に生息している可能性はゼロではない。これらについては、京都府内で記録のあるオオシロカ
ゲロウEphoron shigaeとの混同も考えられるので、これを要注目種とした。さらに、カゲロウ目については、一
般に情報が不足しているためにレッドリストに掲載されにくいものの、河川中下流域、平地流、里山など人為的
変化の著しい環境に生息している種には、知られていないだけで実際には絶滅が危惧される種がありえる。そこ
で,客観的な根拠となる資料が稀薄であっても、希少性が高いと思われる以下の種を要注目種として掲載した。
                                執筆者 竹門 康弘


<トンボ目>

 京都府から97種のトンボが記録されている。このうち、レッドリストには19種を選定した。トンボは水域に生
息するため、河川改修や道路工事、開発等の影響をもともと受けやすいが、今回選定した種の多くも、水草の生
える古い池や、河川の中下流域に見られ、近年生息環境が悪化していると考えられる所に生息している種である。
また、ブラックバスなどの外来魚が放流された沼池では、トンボの幼虫や成虫が捕食され、大きなダメージを受
けるので、このような外来魚の放流はすぐに禁止すべきである。
 絶滅寸前種として、ベッコウトンボ、マダラナニワトンボ、ヒヌマイトトンボ、オオキトンボの4種を選定し
たが、ヒヌマイトトンボを除き、京都府内での最近の記録がなく、今回の調査でも確認できなかった。ベッコウ
トンボとマダラナニワトンボは京都市内の深泥池だけが産地として知られていたが、30年以上記録がなく、深泥
池では絶滅した可能性が高い。深泥池は天然記念物に指定されており、その生物群集は保護されているが、周辺
環境の変化等が池の水質に影響して、トンボの生息環境が悪化していることが懸念される。なお、深泥池からは
これまでに62種のトンボが記録されており、全国的にみても記録された種数は多い。同じ京都市の南部には昔の
巨椋池の名残である木幡池があり、ここにはオオキトンボが生息していたが、これも最近の記録がなく、絶滅し
た可能性が高い。ヒヌマイトトンボは京都府北部に分布するが、生息地は狭く、生息地の環境の早急な保全対策
が必要である。
 絶滅危惧種に選定した4種のうち、ネアカヨシヤンマ、キイロヤマトンボ、ハネビロエゾトンボの3種は京都
府内での最近の確実な記録がないもので、絶滅寸前種に近いものである。コバネアオイトトンボは現在も生息地
が残っているが、全国的に衰亡している種である。準絶滅危惧種に選定した11種も、京都府内の生息地が非常に
少ない種や、近年急激に衰亡したと考えられる種であり、生息環境の保全等が必要と考えられるものである。
 なお、府内では数少ない高層湿原である八丁平湿原には、ルリボシヤンマ、ヒラサナエ、ハッチョウトンボな
どが生息するが、近年乾燥化が進みつつあり、今回の調査ではハッチョウトンボを確認できなかった。今後、こ
の湿地の長期的変化を見守る必要がある。
                                執筆者 藤井 恒


<直翅(バッタ)目>

 京都府の直翅目相の特徴は、北部の若狭湾沿岸に海岸・海浜性の種類(ハマスズ、イソカネタタキ、ヤマトマ
ダラバッタなど)および暖帯性の種類(クチキコオロギ、コバネコロギスなど)、中北部の山岳地に冷温帯性の
種類(イブキヒメギス、無翅型ササキリモドキ類、セモンササキリモドキ類など)、南部の丘陵地や河川敷に草
原性の種類(セグロイナゴなど)が生息することである。また、宇治川・木津川・由良川などの大規模河川敷に
発達する草原環境に生息する種類相にも大きな特色がある。フキバッタ類やササキリモドキ類については、様々
な地域種の分布境界にあたっている点が興味深い。また、移入種であるアオマツムシは、近畿地方で最も早い時
期に阪急沿線を中心に広がったようである。
 一般に直翅目昆虫は生息環境との相関性が高いものが多く、環境指標として有効であると思われる。ゆえに、
過去からの増減傾向を検討すれば、環境の変化をとらえることが可能であろう。同様の観点から、絶滅危惧種の
種類組成をもとに府下における危機的な環境を抽出することはできないだろうか。残念ながら、過去のデータ蓄
積が不十分なことと今回リストされた種類はごくわずかであるために、その検討はできない。しかし、絶滅寸前
種のカワラバッタや絶滅危惧種のハマスズとヤマトマダラバッタについてみると、大規模な砂丘や河原の減少・
消失あるいは環境の変貌が、絶滅現象の背後にある可能性を指摘できる。京都府の昆虫相の保全のためには、こ
うした環境を早急に抽出し、それを守ることが必要であろう。
                                執筆者 藤井 伸二・荒谷 邦雄


<脈翅(アミメカゲロウ)目>

 ウスバカゲロウ科(アリジゴク)にとって、砂地は生息にとって必須である。この点で京都府北部の丹後半島
には、海岸段丘が連続し、オオウスバカゲロウ、コカスリウスバカゲロウ、リュウキュウホシウスバカゲロウ、
クロコウスバカゲロウが生息しており、全国的にみて、4種が共存している場所は少ないといえる。また、内陸
部の木津川には10数Kmにわたって砂州が形成され、前述の海岸に分布するクロコウスバカゲロウの多数の巣穴が
みられる。これらの環境の保全がこれらの群の生息にとって重要である。
                                執筆者 松良 俊明


<シリアゲムシ目>

 この目の昆虫は種数が少なく、京都でも記録種は多くはないが、分布の解明度は高いと思われる。山地性のヒ
ウラシリアゲは、京都、滋賀の一部にのみ局所的に生息し、この地域の特産種であるため、レッドリストに挙げ
た。一方、平地性の種は環境破壊の影響を強く受け、分布域がかなり極限されるようになった。残された河川林
にのみ分布するイッシキガガンボモドキはこの例で、今後の保全対策が必要と思われる。
                                執筆者 大石 久志


<トビケラ目>

 京都府のトビケラ相の特性として、京都大学でトビケラ分類の研究を進めた岩田正俊や津田松苗、カゲロウ類
の研究をした今西錦司などの採集地が京都市内を含めて多くの地点があることがまずは第一にあげられる。記載
種のタイプ産地も多い。タイプ産地は、古典的分類学でも重要な意味を持つが、近年の分子系統学の進展に伴っ
て、生体資料を採取するための基本の産地として、その重要性は著しく大きくなっている。また、津田の記載に
用いた標本の多くは失われてしまったため、新タイプ標本(ネオタイプ)の指定が必要になることが多い。その
場合には、タイプ産地での新たな標本の採取が望ましい。その意味でも、京都府におけるトビケラ類のタイプ産
地の重要性は高い。今回、過去の記録の再検討を行ったが、加茂川中流域の環境が著しく悪化したことに大きな
危惧をいだいた。ヒゲナガトビケラ科、クダトビケラ科などには、中流域をおもな生息種とする種が多く、この
水域がタイプ産地となっている種もある。そのなかには、近年の採集記録のないものがある。津田松苗博士は、
京都大学構内にある植物園で多くのトビケラを採集していたが、ここも環境が激変したため、過去に採集された
種の大部分は確認されていない。過去と現状のトビケラ相からみると、加茂川水系は、琵琶湖淀川水系の一部で
あるという当たり前のことに気がつく。琵琶湖は、東アジア有数の古代湖として、特異で豊かなトビケラ相をも
っている(Tandia et al.,1999)。ヒゲナガトビケラ科などの中には、琵琶湖以外に淀川水系の河川にまで分布を
広げている種類も多い。これが、京都府のトビケラ相を豊富にしている。京都市の北山山地は、貴船川に代表さ
れるように、豊かなトビケラ相を保持している。これは、研究者などが頻繁に訪れたことだけでは説明できない。
安定した地質、二次林、さらによく手入れされて北山杉などの森林が残っていることの反映であろう。カタツム
リトビケラなど、神社仏閣のなかの細流や湧水に生息する種類が多いことも、京都の特徴であろう。しかし、上
水道の導入や湧水の枯渇、それに改築などで失われた産地も多い。
                                執筆者 谷田 一三


<鱗翅(チョウ)目>

 京都府内からは115種のチョウが記録されており、レッドデータには18種を選定した。全国的に草原や湿原、
里山に生息する種の衰亡が指摘されているが、今回のレッドデータに選定された種も、それを反映したものと
なっている。
 絶滅寸前種には4種を選定したが、オオウラギンヒョウモンは全国的に衰亡が著しく、京都府内でも最近確実
な記録がない。シルビアシジミ、ヒメヒカゲも最近の記録がほとんどなく、絶滅寸前の状態である。ベニモンカ
ラスシジミは、京都府北部での未発表記録があるが、その後の記録がない。絶滅危惧種には選定した8種うち、
ギンイチモンジセセリ、ツマグロキチョウ、クロシジミ、ウラナミジャノメは全国的にも衰亡しているもので、
オナガシジミ、ヒロオビミドリシジミ、オオヒカゲ、クロヒカゲモドキは京都府内での分布が狭いものである。
また、準絶滅危惧種に選定した種にも、一部地域だけに限定して考えれば絶滅が危惧されるものも含まれている。
たとえば、スジボソヤマキチョウは京都府南部では近年の記録がないし、京都府中北部地域では安定して発生し
ているギフチョウも、南部地域では最近激減している。
 なお、全国的に指摘されていることであるが、衰亡する種がある一方で、南方系の種を中心に個体数が増えた
り、分布を拡大しているものがある。ナガサキアゲハ、クロコノマチョウなどは京都府内でも近年、増加傾向に
あるし、ホシミスジも南部地域を中心に分布が広がっており、南方系のサツマシジミやイシガケチョウなどの記
録も散見されるようになってきた。また、木津川の草地で発生しているホソオチョウは外来種で、人為的に放蝶
されたものが定着したものと考えられる。このような外来種を野外に放す行為は、生態系保全の観点から、慎む
べきものである。
                                執筆者 藤井 恒

 チョウに比べてガ類全体のまとまった知見はこれまでない。したがって、レッドデータリストの選定には、芦
生地域でおもに大型のガ類を調べた鴨脚・井上(1998〜2000)の分布記録知見や府内各地のいくつかの調査(笹
川ら, 1983等)等をもとに分布特異性、希少性、環境指標性を総合的に判断した。このうち、湿地性のガは環境
の変化を直接に影響され、たとえばガでは唯一の絶滅寸前種としてあげたヒメコミズメイガ(深泥池)は1985年
の記載後に生息確認がされていないので、絶滅が危惧される。
 芦生から丹後半島にかけての中北部には、北方系(キオビハガタナミシャク等)と南方系(タッタカモクメシ
ャチホコ、イノウエトガリメイガ(冠島のみ)、キモンクチバ等)が記録され、京都府が分布の北限、南限とな
る種も多い。また、南部地域にはおもに暖帯性のガ類が分布するが、南山城地域や深泥池などの湿地には一部の
北方系のガも分布する(ガマヨトウ、ウスマダラミズメイガ等)ことで注目される。
                                執筆者 吉安 裕

<双翅(ハエ)目>

 双翅類はごく一部の種をのぞき、一般に移動性があり分布域は広く、地域的な分化はみられない。一方、生活
史は極めて多様で、特定の環境にはこれに対応する独特の双翅目相がみられ、環境の指標性が高い。したがって、
大まかにいえば、記録された種数の多寡が自然度の多様性の目安となる。
 京都で記録された双翅目種数は比較的多く、全国の都府県の記録をみても上位に位置する。特に従来から京都
付近に研究者がいたユスリカ、ヌカカ、ハモグリバエ、ハナアブ類は解明度が高い。しかし、その他の群は少な
く、今回調査したにもかかわらず、不十分である。これに加えて、これまで継続的な調査は行われておらず、レ
ッドリストの選定は大変困難であった。
 京都中部の山地帯では、標高は低いにもかかわらず、北方系の種を含む多数の種が生息する。この中には、全
国的にも希な種(オオナガハナアブ、ガロアアナアキハナアブ等)が記録されている。北部〜南部の低山帯、平
地には主として南方系の種が分布し(ハラビロミズアブ、ハイイロハナアブ等)、また例外的に深泥池には北方
系のハナアブ類であるクロツヤタマヒラタアブやハナダカマガリモンハナアブが遺存的に生息する。他方、冠島
にはムツボシナガハナアブなど南方系の種が分布する。中部の山地帯に生息していた種のうち、京都市貴船、鞍
馬まで分布していたが、1960年代を境に記録の途絶えた種もかなりある(カスミハネカ、ベッコウタマユラアブ
等)。これは、環境破壊、悪化に起因すると思われる。
 平地の暖帯林や草原、河川(敷)、海浜などは、これよりも以前からよりいっそうの破壊が進行し、絶滅に近
いと思われる種もかなりある(シロスネアブ、カエルキンバエ等)。しかし、一部の地域では局所的に自然度の
高い環境が残されており、京都市西山や東山などの低山地にはネグロクサアブ、オオハチモドキバエ等が、また
桂川や木津川の河川ではキスネハラキンミズアブ、ナギサツルギアブ等、さらに北部の海浜では、ハマベコムシ
ヒキやハマベニクバエ等の注目すべき種が確認された
                                執筆者 大石 久志


<鞘翅(コウチュウ)目>

 今回のレッドデータ調査を通じて、京都府内では絶滅種6科23種、絶滅寸前種24科65種、絶滅危惧種24科68種、
要注目種27科、87種、合計53科242種の甲虫類がレッドデータブック掲載種として選定された。これは科の数で
いえば、府内に産する科の約半分、種数では一割弱にあたる。県レベルのレッドデータブックにおいて50科以上
にわたる広範囲な甲虫類を選定対象とした例は過去にない。最も掲載種数が多かったのはオサムシ科の44種、つ
いでコメツキムシ科の41種、カミキリムシ科の28種、ゴミムシダマシ科の11種である。
 選定種を概観すると、特徴的なのは絶滅種の中でオサムシ科が10種と半分近くを占めたことである。オサムシ
科は地表歩行性昆虫であり、生息環境変化の影響を直接かつ早急に受けやすく、重要な環境指標性昆虫とされて
いる。オサムシ科の多数の絶滅はそれだけ過去において府下の自然環境に大きな変化が生じたことを物語ってい
る。
 生息環境の面で見ると、絶滅種の大半は湿地性や水生のものであり、これは京都盆地最大の湖沼であった巨椋
池の干拓・消失に起因するところが極めて大きい。かつて平地の湿地や池沼などの水環境に普通に見られた甲虫
類が、圃場整備等による湿地や池沼の消滅、改修、農薬の流入による水質悪化などにより減少し、近年まったく
見られなくなったものは枚挙にいとまがない。水環境からの絶滅種をこれ以上増やさないためにも、埋め立てや
干拓などによる湿地や池沼の破壊を止めるとともに、水質浄化対策等に努めることが急務であろう。
 絶滅寸前種および絶滅危惧種をその生息環境の面から見ると、上述の湿地や池沼などの水環境に加え、河川・
海浜環境と森林環境に生息する甲虫類が数多く選定されていることがわかる。
 京都府内の河川環境は、特に、京都市街地を含む南部地域を中心に、近年の河川改修やダム建設、農地化など
による直接的影響を受け、その環境は激変した。中でも、河川敷や河原はただでさえ河川の氾濫などの影響を受
けやすい不安定な環境である上に、河川改修やダム建設、河岸の道路工事などによって直接的に、また水流の変
化などの結果として間接的にも簡単に失われてしまう。上流域における伐採や堰の建設なども悪影響を与え得る。
河川敷や河原に生息する種の保全においては、直接の発生地はもちろん、上流部から発生地に至る河川全体の保
全を念頭に置く必要がある。
 海浜、特に砂浜環境の悪化も深刻である。琵琶湖のような広大な砂浜環境をもたない京都府では北部の自然環
境の残った砂浜にそれこそしがみつくように生息する甲虫類は多い。こうした甲虫類にとっては砂浜環境の直接
の破壊はもちろん、海水浴場化や四輪駆動車の乗り入れなどによる悪影響も大きい。護岸工事や堤防建設によっ
て自然の岩礁環境に生息する種が絶滅の危機に瀕していることも忘れてはならない。
 府内の森林環境で最も環境の悪化が著しいのはいわゆる里山の雑木林であろう。かつて薪炭林と利用されたこ
うした林は宅地造成などの開発によってことごとく消滅し、かろうじて開発を逃れた林も荒廃が著しい。幸い、
府内の場合、社寺林や公園林などが里山に生息する甲虫類の保全に大きな役割を果たしているようである。
 山地の森林環境に生息する種にとっては大規模な伐採や林道建設はもちろん、ハイキング道の整備や下草刈り
などによる林内の乾燥化も深刻な影響をもたらしかねない。幸い、芦生地区には京都大学演習林として自然林が
比較的良好に残されており、府内において芦生、およびその近隣地域でしか記録されていない昆虫は数多い。こ
れらの個体群は低標高のブナ林に隔離された遺存個体群として極めて貴重であるが、生息条件の限界にある産地
のため個体数は非常に少なく、微妙な生息環境の変化で絶滅してしまうおそれが極めて高い。まさに、こうした
種は芦生演習林の自然環境の中でかろうじて絶滅を免れてきたのである。唯一の生息地である芦生演習林が人工
林化、ダム工事などによって様相を著しく変えることになれば、これらの種の否応なく絶滅に至ることは必至で
あることに十分に留意したい。
 こうした生息環境の破壊・悪化に加えて、近年、クワガタムシ科やカミキリムシ科などのいわゆる大型の人気
昆虫にとっては過剰な採集による影響も見逃がせないものになってきた。中でも、クワガタムシ類は、近年の異
常なブームの悪影響による商業目的の悪質な採集が目立ち、新たな脅威となっている。特に、生息環境の破壊に
もつながる過剰な「材割り採集」が横行しており、現存個体数の極めて少ない種や特定の地域個体群の存続に深
刻なダメージを与えるおそれが多分にある。
 さらに、最近では国内の他地域産の個体群はもちろん、外国産クワガタムシ類生体の輸入規制が一部緩和され
た結果、大量の外国産の別亜種や近縁種が日本に持ち込まれるようになり、輸送・飼育個体の逃亡や放虫された
個体との交雑による遺伝子汚染が新たな脅威となりつつある。府内でもすでにタイワンカブトムシが採集されて
いるが、細心の注意を払って今後の動向を見守る必要がある。
 こうした現状下、採集・飼育マナーの向上はもちろん、侵入昆虫のもたらし得る様々な影響に関する正しい知
識を身に付けるための十分な啓蒙活動が不可欠である。
                                執筆者 荒谷 邦雄


<膜翅(ハチ)目>

 京都府で分布の確認されている膜翅目昆虫類は、他府県にくらべると、それなりに過去の記録が残されている
方であると思われるが、それでも現況の正確な把握には程遠い状態である。今回は過去の文献記録を中心にして、
筆者のもつ記録などをそれに追加して取りまとめた。戦前からの記録としては、山科の竹内吉蔵氏や鴨川の木村
輝夫氏などの貴重な記録があり、参考になった。また岩田久二雄氏の観察記録もたいへん貴重であった。とりわ
け、寄生性のヒメバチ科やコバチ科などは多数の種を含むが、同定の困難さもあり、きわめて不十分な状態であ
り、またアナバチ科の小型種の多いグループの調査もできていない。京都府内の膜翅目各種の分布記録はまだま
だ不十分で、なによりも採集や観察にかかわっている人数が少ないのが決定的で、最も調査が進んでいるのは、
福井県ついで埼玉県である。正確なレッドデータ記録として整備するには、将来の精査を待たねばならない。地
域的には、綾部・福知山など中部地域の調査がまったくないこと。丹後・箱石海岸以外では日本海側の調査もで
きていない。
 ハナバチ類は、京都市内(京都大学近辺と深泥池近辺)と貴船、芦生での季節ごとのさまざまな花を訪れた種
類についてかなり詳細な記録があるほか、ごく断片的な記録しかない。カリバチ類ではいずれも断片的な記録で
あるが、筆者自身が観察したヤブカラシの花など訪れた記録はかなり有用であった。また、営巣地についての記
録や獲物の記録などは過去の文献とともに、断片的ではあるが、筆者の記録に依ったことを記しておく。
 以上のような制約があるが、膜翅目昆虫の生活様式は、植食性のハバチ・キバチ類から寄生性のヒメバチ・コ
バチ類、さらに被子植物の送粉に関与するハナバチ類、さまざまな昆虫を専門的に狩猟するドロバチ類、アナバ
チ類、クモ類を専門に狩るベッコウバチ類や一部のアナバチ類、また広く昆虫・クモ類を利用しているアシナガ
バチ・スズメバチ類からアリ類にいたるまで、その食性さらに営巣場所の面でもそれらの生息環境はきわめて多
彩であり、その分布生存条件はさまざまな自然環境の兆候を端的に示してくれる。限られた情報からではあるが、
10〜20年前とくらべて、ごく普通にいた種が激減していることは確かであり、その原因については個別に簡単な
コメントを付したが、それ以外にもかなり多くの種が、個体数を減らしている。夏にヤブカラシの花などを訪れ
る種・個体数がともに激減しているのは事実である。どのような自然環境の変化がそれぞれの個体群にどのよう
に作用しているのか、まだ不明なことが多いが、膜翅目昆虫の現況把握は、他の昆虫・クモ類の趨勢、また開花
植物の季節的な推移、営巣地の環境悪化などとも密接に関連しており、詳細に調査すれば、重要な自然環境情報
を提供するはずである。
                                執筆者 遠藤 彰




4.謝辞
 本調査にあたって、同定、文献、分布情報、写真提供等についてご協力いただいた下記の方々に厚くお礼申し
上げる。
 市田忠夫(青森県黒石市)、祝 輝男(神奈川県大和市)、内田正吉(埼玉県寄居町)、奥野晴三(大阪市)、
大原賢二(徳島県立博物館)、桂 孝次郎(大阪市)、上宮健吉(久留米大学)、(故)木村輝夫(京都市)、
倉橋 弘(国立感染症研究所)、笹川満廣(枚方市)、佐藤雅彦(利尻町立博物館)、新村捷介(兵庫県芦屋市)、
田端 修(京都市)、玉水長寿(埼玉県毛呂山町)、千葉武勝(岩手県病害虫防除所)、永冨 昭(鹿児島市)、
畑山武一郎(大阪市)、林 利彦(国立感染症研究所)、春沢圭太郎(大阪府狭山市)、前田泰生(鳥取大学)、
三輪成雄(京都市)、松村 雄(農業環境研究所)、茂木幹義(佐賀医科大学)、米津 晃(京都市)
(五十音順・敬称略)。

	
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