| 選定理由 |
堆積岩が広範に分布する地域の中に岩株状に露出している。岩体は白亜紀前期に形成したものと考えられ、近傍の大規模な花崗岩体よりも古い。また、チタン鉄鉱系列の花崗岩に分類され、Srに富むアダカイト質の化学組成を示すなど、西南日本内帯では非常に珍しい岩体である。岩石には多量の磁硫鉄鉱が含まれ、酸化によって独特の錆色を生ずる。古くから鞍馬石と称して茶庭の高級石材として尊ばれてきた。 |
| 分布 |
チタン鉄鉱系花崗岩は西南日本に多く分布し、アダカイト質の花崗岩は岩手県にまとまって分布する。磁硫鉄鉱を多量に含む石英閃緑岩は中新世のものが山梨県徳和地域から産する。府内では本地域の周辺に同様な小岩体がいくつか存在する。京都府内ではアダカイト質花崗岩体は花背別所の花崗岩質岩体、船井郡日吉町生畑の花崗岩質岩体、綴喜郡井手町の大峰トーナル岩質岩体などに分布する。いずれも小岩体であり、保存に対する配慮が必要である。 |
| 特徴（特異性） |
現在、百井谷と旧花背峠南方の２ヵ所で庭石用石材として採石されている。百井谷では径約250mの範囲に露出している。一部では岩脈状に貫入する様子が観察される。主岩相にはチャート質のゼノリスが少量含まれるが、全体に暗色包有物や堆積岩源ゼノリスに乏しい。堆積岩との境界付近では壁岩の取り込みが認められ、黒雲母が多く生じている。近傍の堆積岩には珪長質脈が発達する。旧花背峠南方では幅約280mで北西〜南東方向に640m以上延びる。岩体南部の採石場では堆積岩と低角度で接する（ルーフ接触）露頭が観察される。泥質岩のゼノリスが多い。また、暗色包有物や珪長質レンズも少量みられる。百井谷の主岩相は中〜細粒の角閃石黒雲母トーナル岩である。構成鉱物は累帯構造の発達した斜長石、他形の石英、角閃石、黒雲母および他形充填状のカリ長石からなり、副成分としてチタン石、不透明鉱物、アパタイト、ジルコン、褐れん石を含む。黒雲母は鱗片状で赤褐色の軸色を示す。不透明鉱物では磁硫鉄鉱が最も多く、他に少量のチタン鉄鉱が認められる。旧花背峠南方の岩相も構成鉱物の特徴は百井谷のものと同じであるが、苦鉄質鉱物の量（とくに角閃石）が多い。不透明鉱物では磁硫鉄鉱がめだつ。鞍馬石の特徴は0.04〜1.35％の磁硫鉄鉱を含むことである。おそらく、高温のマグマが周囲の泥質岩と反応することにより、多量の硫黄を取り込んだものと考えられる。磁硫鉄鉱は空気中で不安定であり、天水と結合して容易に水酸化鉄を生じる。黒雲母K-Ar鉱物年代として約103Maの測定値が得られている。本岩体の主岩相の化学組成は主成分ではNa、微量成分ではSrに富み、Yに乏しい。このような特徴はスラブメルト起源のアダカイト質マグマが本岩体の形成に類似することを示している（貴治・湯川、1993；貴治ほか、1995；貴治ほか、2000）。
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| 現状 |
磁硫鉄鉱を含む岩体は鞍馬地域周辺の各所に分布しており、小規模な露頭が認められる。山林には転石が多数見られる。 |
| 保存に対する脅威 |
周辺の道路整備やリゾート施設の開発などによって岩体の一部が失われたり、露頭が人工物によって被覆される可能性がある。風化した露頭は機械の導入によって容易に改変できる。 |
| 必要な保全対策 |
岩体の地質学的、岩石学的意義を広く訴え、採石場を除く露頭を保存する努力が必要である。 |
| 特記事項 |
鞍馬地域の堆積岩、とりわけ泥質岩には硫黄の含有量が多いと考えられ、鞍馬温泉の泉質も硫黄泉である。 |
