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トップページ府民だよりトップ2026年1月号新春スペシャルトーク 京都から未来を拓く-文化力×産業創造-

新春 スペシャルトーク
京都から未来を拓く-文化力×産業創造-

文化庁長官
都倉 俊一

京都商工会議所 会頭
公益財団法人 関西文化学術研究都市推進機構 理事長
株式会社堀場製作所 代表取締役会長 兼 グループCEO
堀場 厚

京都府知事
西脇 隆俊

今回は、文化庁長官 都倉俊一氏と、京都商工会議所会頭であり株式会社堀場製作所代表取締役会長兼グループCEOの堀場厚氏を迎え、京都に息づく文化の力と産業創造の可能性について語り合いました。

大阪・関西万博を振り返って

西脇お二方と共に京都の未来を語るに当たって、まずは来(き)し方を振り返りたいと思います。昨年は何といっても「大阪・関西万博」に沸いた1年でしたね。

都倉盛り上がりましたね。私も今回の万博には7、8回行きましたが、70年万博の勢いとは違った貫禄を感じました。関西パビリオンの京都ゾーン「ICHI-ZA KYOTO(一座きょうと)」も素晴らしかった。もっとスペースが広くても良かったくらいです。

西脇京瓦(きょうがわら)タイルで統一したゾーンを設け、「文化」「食」「産業」「環境」「いのち」「観光」の6つの分野をほぼ毎週入れ替えながら、展示だけでなく実演や体験イベントを実施しました。自治体や大学、伝統産業からスタートアップまで、100を超える企業・団体が出展し、オール京都で魅力を発信できたことは大きな成果です。

堀場京都商工会議所が支援するスタートアップ企業5社も出展し、社会課題解決のための製品やサービスを展示しました。官民が連携してこの一大イベントを成功させたことは、関西全体の一体感を醸成する上でも、非常に良かったと思います。

大阪・関西万博の関西パビリオン内に出展した京都ゾーンは、「一座建立」のコンセプトのもと京都の多彩な魅力を発信。多目的エリアと合わせて会期中、約53万人の来場者が訪れた

京都ゾーンでの展示の一例。オープニングとして、生け花の展示や呈茶体験を通して「一座建立」を体感いただいた

西脇この万博は京都のポテンシャルを広く世界へ発信する好機でもあったんです。府では、行政や経済界、関係団体の長、有識者などで構成される「大阪・関西万博きょうと推進委員会」を設置し、万博開催前から府内すべての市町村でアクションプランを展開しました。中でも、フラッグシップ・アクションとして開催した「きょうとまるごとお茶の博覧会」や「けいはんな万博2025」では、お二方にもご尽力いただきましたね。

都倉「きょうとまるごとお茶の博覧会」ではプレ・オープニングに参加させていただきました。会場となった北野天満宮は、かつて豊臣秀吉が身分を問わず茶碗一つで誰でも参加できる茶会「北野大茶湯(きたのおおちゃのゆ)」を開いた場所。茶の湯の精神である“おもてなしの心”が日本文化を支えてきたことを思うと、感慨深いものがありましたね。

西脇ええ。その後も府内各地でお茶にまつわる多様な文化に触れるイベントを展開し、グランドフィナーレでは再び北野の地で438年ぶりの大茶会を催しました。一服のお茶による文化の広がりを、多くの方々に感じていただける機会になったのではないかと思います。

北野天満宮でのプレ・オープニングイベント(令和6年11月)を皮切りに、府内各地でお茶のさまざまな魅力を発信した「きょうとまるごとお茶の博覧会」

堀場「けいはんな万博2025」では、遠隔操作ロボットのパレードや、新技術を体験できるスタートアップフェス、通常非公開の研究施設のツアーなどを開催しました。また、「けいはんな万博 in 夢洲」と題して、万博会場でもワークショップや体験展示などを実施し、京都企業の力を世界へアピールできたのではないかと思います。

西脇各会場とも大変好評でしたね。「けいはんな学研都市」は、万博終了後にその成果の受け皿となる「ポスト万博シティ」にも位置付けられていて期待も大きいですから。

堀場そうなんです。大学や研究機関などが集まる知の集積地として、万博のレガシーを継承し、答えのない社会課題に答えを見いだす。そんな文化をこの地に根付かせたいと思っています。

「ロボット・アバター・ICT」「ウェルビーイング」「スタートアップ」「サイエンス&アート」のフェスティバルを中心に多彩なイベントを開催した「けいはんな万博2025」

文化庁の京都移転で見えてきたもの

西脇明治維新後、初めての中央省庁移転となった文化庁の京都移転から、早いもので間もなく3年がたちます。千年の都・京都で新たな文化政策をつくり上げることは、日本全体の地方創生推進につながる。さらに、京都から世界へ文化を発信することが国際的に日本の存在感(プレゼンス)を高めることにもなると考えています。

都倉今回の移転では、私を含め7割ほどの職員が京都に移住したのですが、みんな異口同音に言うのが「京都の生活の匂いを感じながら暮らし、京都という現場から文化行政をするのと、霞ヶ関の机上でするのとでは全く違う」ということです。これは非常に大きな意義だと思いますね。

堀場企業として海外展開をする際にも、現場主義は非常に重要です。日本の文化の原点ともいえる京都に文化庁が移転されたことは自然な流れだったのでしょうね。

都倉ええ。移転に当たっては、政官財、そして茶道や華道をはじめ、京都の文化を守り継がれている各分野の方からも熱いエールを頂きました。同年に「食文化推進本部」と「文化観光推進本部」を新設しましたが、特に食文化の進展は目覚ましかったですね。

西脇そうですね。府としても、昨年開催した「京都 食の博覧会」などを通じて、和菓子や出汁(だし)、松花堂弁当など、京都の伝統的な食文化の魅力を世界へ発信してきました。移転を契機として、文化の定義が広がったようにも思います。

京都移転から3年目となった文化庁(画面右)は、府庁(画面左に見えるのが旧本館の一部)に隣接して建つ

“攻めの文化”と“発見される文化”

西脇移転後の新たな取り組みの中で特にインパクトが大きかったものの一つが、昨年初めて開催した国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN 2025」の授賞式です。都倉長官には、旗振り役として日本の音楽文化のPRにご尽力いただきました。

(Copyright)CEIPA MUSIC AWARDS JAPAN 2025
国内最大規模の国際音楽賞として新設された「MUSIC AWARDS JAPAN」の授賞式を令和7年5月ロームシアター京都で開催

都倉「世界とつながり、音楽の未来を灯(とも)す」というコンセプトのもと、ソーシャルネットワークを使って全世界へ同時配信しました。国内の大きな反響が世界へ広がり、再生数も増加したとのことで、記念すべき第1回目として大成功といって良いと思います。

西脇そうですね。音楽だけでなく、アニメやゲーム、映画など、京都発のコンテンツ産業が秘める可能性は計り知れません。

都倉そして、日本は今や世界有数のコンテンツ産業国になりました。これらは、日本を世界に売り込むための“攻めの文化”です。一方で、先ほど少し触れた食文化や、茶道や華道などの伝統文化、伝統的な建築や祭りなど、京都が世界に誇る有形無形の文化財は“発見される文化”だといえます。何度訪れても底が見えない奥深さがある。

西脇その奥深さは何かというと、平安の昔から連綿と都を支えてきた地域文化の重層性なんです。それを「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」「竹の里・乙訓」という地域ブランドとして展開していますが、私自身も訪れるたびに新たな発見があり、興味が尽きません。

堀場都倉長官の言葉を借りると、京都は“発見される文化”が府内各地に点在しています。このバランスの良さ、総合力の高さも、京都の大きな魅力なんでしょうね。

京都の文化に息づく革新へのトリガー

西脇千年を超える文化の蓄積が今も生活に根付いていることこそが、京都の強みですが、実は昔のままの形で残っているものは多くはなく、革新を繰り返したからこそ伝統として続いてきた。そして近年は、伝統産業の技術をベースにしたスタートアップ企業なども数多く誕生しています。

堀場そうですね。京都商工会議所では、京都経済の未来を担う若手企業家やスタートアップ企業の支援にも取り組んでいます。しかし、大きく飛躍するスタートアップは一握りであり、その過程で失敗は付き物。失敗を許容し、挑戦を促す土壌も必要です。伝統工芸をはじめとして、京都には優れた種(シーズ)が本当にたくさんある、それらを活かして“ほんまもん”を育てていくことが大切ですね。

西脇その仕組みづくりの一つとして、国内最大規模のスタートアップ・カンファレンス「IVS」を京都に誘致しました。これは起業家や研究者などが集まってイノベーションやビジネスチャンスを創出する場で、2023年から3年続けて京都で開催しています。

国内最大級のスタートアップ・カンファレンス「IVS」を3年連続で京都に誘致。昨年の来場者は約1.3万人と過去最多に

昨年は、世界的な業務効率化ツール「Notion」のCEOであるIvan(アイヴァン)氏とトークセッションをしたのですが、彼は京都に住んだことがあるそうで、その時に木工や陶芸職人の仕事ぶりに感銘を受けたことが、自身の突破口になったと語っていました。

都倉伝統工芸にはすべてのビジネスに通じるヒントがたくさんあるんですよね。

西脇そうなんです。「職人さんから学んだ、常に使う人の気持ちを考える精神が、その後の成功につながった。だから京都は恩人だ」と話してくれて、私もうれしくなりました。

都倉作詞家の故・阿久悠さんともよく話していたのは、高度経済成長期以降の日本の歴史を振り返ると“落とし物”がたくさんあるということです。経済大国になった今、日本人は何を失ってきたのかを改めて考える必要があるのではないかとも。しかし、京都は違います。これだけインバウンドが増え、観光産業が盛んになる中でも、生活の基盤となる文化を決して失っていませんから。

西脇急須でお茶を淹(い)れたり、打ち水や門掃きをしたり、といった習慣が今も京都では自然に続いているのがその典型ですね。

都倉そう。有形無形の伝統文化だけでなく、人間関係や生活そのものの中に“日本の心”が根付いている。私自身、京都で暮らしたこの3年間で、自分が何を忘れてきたかに気付くことができたように思います。

堀場私も仕事で全国へ行きますが、京都へ帰ってくると時計がゆっくり動きだすような感覚を抱くんです。一方で、日本では未(いま)だ明治維新が終わっていないとも感じています。世界に誇るべき文化が多数あるにもかかわらず、“とにかく舶来品が上等”という感覚から脱しきれていない。そこから脱却し、“本来の日本”の力を取り戻すトリガーになるのが京都の文化だと思います。

京都の優れた種(シーズ)を活かし
未来の“ほんまもん”を育てていく

「メイドイン京都」に誇りを

西脇京都には43の大学・短期大学が集積し、約17万人の学生が府内で学んでいます。そして、先ほど堀場会頭にお話しいただいた「けいはんな学研都市」には、大学などを含めて160の研究施設と約1.2万人の研究者を擁しており、脳科学やICT(情報通信技術)をはじめ多様な分野で世界をけん引するような研究が行われている。こうした環境も、京都の強みの一つといえます。

堀場昔から、京都は産業とアカデミアの距離が近いんですよね。世界と競争できる力を付けるためには、この強みである関係性をより親密にしていく必要がある。だからこそ産学連携を推進し、京都経済の発展に不可欠な若者たちの育成に取り組んでいます。

都倉ものづくりの中心が若い世代へ移りはじめ、新たなアイデアが生まれているのは大変素晴らしいことですね。京都で連綿と受け継がれた叡智(えいち)と技の遺伝子を継承しつつ、クリエイティビティを発揮していくこと。ここに京都の産業がさらに発展していく可能性があると思います。

西脇千年の都が育んできた文化は、京都の未来をつくる土壌でもあります。その土壌があったからこそ、伝統の職人技と最先端の技術が共存・進化してきた。京都の伝統産業を背景に育った世界企業の多くが今も京都に本社を置いているのは、世界に京都のブランドが通用するからなんですね。

堀場おっしゃるように、京都では伝統を継承しながら、心を込めて良いものを追求する意識が非常に高いんです。そして、“真似(まね)しぃ”はカッコ悪いという風土があって、オリジナリティを大事にする。だからこそ世界で認められる製品を生み出すことができるんですね。最近、ビジネスの現場でよく聞くのは「メイドインジャパンと言うと値切られるけれど、メイドイン京都と言うと値切られない」と(笑)。

都倉それは面白い。京都というブランド自体が付加価値なんですね。

西脇そうしたブランド価値も、根底に京都の文化があってこそ。京都の価値を輝かせ続けていくためにも、私たちは文化を磨き続けていかねばなりません。

千年の叡智(えいち)と技の遺伝子を継承しつつ
創造性を発揮できるのが京都

京都の未来に向けて

西脇お二方のお話を伺い、産業や教育、生活など、京都に息づくあらゆる“文化”の魅力と可能性を再認識することができました。本日の結びに、府民の皆さまへのメッセージをお聞かせいただけますか。

都倉次々に新たな技術や産業が生まれてくる時代だからこそ、時代に流されない千年の都・京都の文化の重みや、府民の皆さんのメンタリティがより高い価値を放ち続けます。ソーシャルネットワークの普及によって京都の魅力がどんどん発見され、インバウンドも増えていますが、これからも変わらぬ懐の深さで受け入れつつ、この豊かな生活文化を守っていただきたいと思います。

堀場私自身、小学生の頃に京都のことを勉強しましたが、今は日本や京都の文化を学ぶ機会が相対的に少なくなっていると感じています。自分の郷土を深く知り、そこにプライドを持つことは非常に大切。京都には身近に“ほんまもん”の技術や商品があるので、この環境を活かして果敢にチャレンジしていきましょう。

西脇これまで文化を常に磨き、産業の創造に結び付けてきた京都の営みそのものが京都の歴史であり、京都の魅力の源泉です。これからも共に、身近な暮らしに息づく文化を磨き上げ、柔軟な発想で新たな産業を創造し、未来への進化を続けてまいりましょう。

文化の力を基盤とした産業創造で
京都は進化し続ける

PROFILE

文化庁長官 都倉 俊一

外交官の父のもと東京都に生まれる。4歳からバイオリンを始め、ドイツで基本的な音楽教育を受ける。大学在学中に作曲家としてデビュー。ピンクレディーなど多数の歌手の曲を手掛け、数多(あまた)の音楽賞に輝いた。1,100曲を超えるヒット曲を世に出す一方、海外でも映画やミュージカルなど幅広い分野で活躍。2021年、文化庁長官に就任。

Q.座右の銘は?
A.「我以外皆我師也」
Q.子どもの頃の夢は?
A.野球選手
Q.府内のお気に入りスポットは?
A.京都御所
Q.好きな食べ物は?
A.カツ丼
Q.ストレス解消にはコレ!
A.愛犬(“プリンセス”ちゃん)と遊ぶこと
京都商工会議所 会頭
公益財団法人 関西文化学術研究都市推進機構 理事長
株式会社堀場製作所 代表取締役会長 兼 グループCEO
堀場 厚

ベンチャー企業の先駆け・堀場製作所創業者 堀場雅夫の長男として京都市に生まれる。幼少期は工場兼自宅で社員らと家族のように過ごし、大学卒業後、米国のオルソン・ホリバ社に入社。1992年に株式会社堀場製作所代表取締役社長に就任し、同社の町工場的な良さを残しながら世界的な開発型企業に成長させた。2025年、京都商工会議所会頭に就任。

Q.座右の銘は?
A.「open&fair」
Q.子どもの頃の夢は?
A.市電の運転手
Q.府内のお気に入りスポットは?
A.天橋立
Q.好きな食べ物は?
A.チキングラタン
Q.ストレス解消にはコレ!
A.ヨットクルージング
京都府知事 西脇 隆俊

雑穀卸業・土産物店を営む両親のもと下京区で生まれ育つ。中学・高校時代は野球部に所属し、サードとピッチャーを務めた。1979年、建設省(現・国土交通省)に入省。2016年より復興庁事務次官。18年、第51代の京都府知事に就任し、現在2期目。子育て環境日本一を掲げ、全ての人が暮らしやすい京都の実現を目指す。

Q.座右の銘は?
A.「雲外蒼天」
Q.子どもの頃の夢は?
A.野球選手(中学・高校時代は野球部でした)
Q.府内のお気に入りスポットは?
A.貴船
Q.好きな食べ物は?
A.蕎麦(そば)
Q.ストレス解消にはコレ!
A.ジョギング(フルマラソンは4時間前後で走ります)

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ファックス:075-414-4075
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