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植物園よもやま話(2009)

これもお宝(平成21年12月13日)

紅葉シーズンもほぼ終了して、地面には落ち葉がいっぱいたまっています。我々にすると実はこれも宝物なんです。落ち葉を集めて捨てるなんてもったいないんです(樹木からすると落葉に含まれている、チッ素や炭素、リン酸などの養分を土中の根から吸い上げ、栄養分として樹体内に再び取り入れる自己施肥系(セルフコントロール)のサイクルからはずれてしまうので、収奪しているのかもしれませんが。)。
昨年は植物生態園のいろいろな樹木(マツなどの針葉樹は使いませんが)の葉をブレンドして作りましたが、今年はケヤキ、クヌギ、アベマキの一級品だけを集めました。

アベマキの葉を集めている写真 集まった落ち葉の写真

落ち葉のほかに、ソテツのこも巻きに使った残りの藁と牛糞をサンドウィッチにして、最後に水を掛けます。

今年の落ち葉とできあがった腐葉土の写真 カブトムシの幼虫の写真

左の枠が今年の葉で、右の黒くなったのが昨年に作っておいた腐葉土です。1年で完熟して最高の腐葉土に仕上がっています(左上の写真)。これから植え付けなどのシーズンにはいりますが、植物を良く育てようとすると、良い土を作ることが大事です。植物園のエリアや担当の好みによって腐葉土の質も変わりますが、園内でのリサイクルシステムは同じです。
腐葉土の中には、カブトムシの幼虫がよくいます。彼らも腐葉土づくりのお手伝いをしてくれています。 

目にやさしい紅葉(平成21年12月3日)

紅葉散策ツアーは去る11月21日から23日の3日間で定員をはるかに超える174名の御参加があり、植物園の色とりどりの紅葉・黄葉を楽しんでいただけたと思っております。

12月に入り紅葉も終盤を迎えましたが、まだまだ美しい紅葉を見せている樹木があります。

メグスリノキの紅葉の写真 メグスリノキの葉の写真(河内静子氏提供写真)

「メグスリノキ(Acer nikoense カエデ科、植物生態園に植栽)」は、民間薬として葉や枝を煎じ、目の病気の治療に使われたため、この名前がついています。

メグスリノキの葉の裏表の写真

 紅葉は、その日の天候、日の当たる方向、時間帯、紅葉の進み具合などによって同じ木でも違った色彩になります。メグスリノキは上の葉の写真を見てもらいますと、表側(左)は真っ赤ですが、裏面(右)は白色をしています。実際には木を下から見上げるので、葉の裏面を見ていることになりますが、光が葉を通過することによって、赤からピンク色のさわやかな紅葉の色が目に染みこみます。

メグスリノキの葉の写真

葉は、切れ込みが深くなった3出複葉(さんしゅつふくよう:3枚の小葉で1枚の葉になります。)で、葉の裏面や葉柄(ようへい)には、毛が密生しています。また、左右の小葉の基部は左右非対称になっています。

スギ科の紅葉(平成21年11月19日)

スギ科の植物は北アメリカや東アジアなど限られた地域に分布する針葉樹の仲間です。「針葉樹」というと紅葉のシーズンには少し縁遠いように思われますが、この仲間にもとびっきり紅葉(黄葉)が美しいものがあります。

ヌマスギの紅葉 メタセコイアの紅葉

写真左のヌマスギ(Taxodium distichum)は北アメリカの湿地に自生するスギで、別名をラクウショウ(落羽松)と言います。はなしょうぶ園付近に植栽していますが、夕日が当たると鮮やかな赤褐色になります。
写真右のメタセコイア(Metasequoia glyptostroboides)は中国南西部原産のスギです。かつては、化石でしか見つからなかったので、絶滅したと考えられていましたが、1945年に中国四川省の奥地で発見されたため、「生きた化石」と呼ばれます。梅林近くに植栽のメタセコイアは、まだ黄葉のピークに達していませんが、これからが見頃です。
さて、日本固有種であるスギ(Cryptomeria japonica)ですが、上の2種と違い常緑樹です。あまり美しいとは言えませんが、これから寒くなるにつれ赤銅色に紅葉します。

現在、モミジなどの紅葉は見頃を迎えていますが、少し違った紅葉(黄葉)を観察してください。

紅葉散策ツアーは、11月21日(土曜)、22日(日曜)、23日(月曜、祝日)の13時から行います(各日とも定員先着30名)。

日米交歓の木(平成21年11月5日)

今週はじめに強い寒気が到来して、植物園の木々もかなり色づいてきました。アメリカヤマボウシ(ハナミズキ)の紅葉も美しくなってきました。

アメリカヤマボウシの写真 植物園会館前のアメリカヤマボウシ

写真のアメリカヤマボウシは、植物園会館の前に植栽されているもので、園の古い植栽台帳には、「ベニバナヤマボウシ Cornus florida var. rubura  昭和15年(1940年)12月16日に植栽」の記録があり、「東京市公園課より昭和13年(1938年)年4月23日到来のもの、アメリカとの交歓樹木と聞く。6株。」とあります。

日本最初のアメリカヤマボウシは、明治45年(1912年)に尾崎行雄東京市長がアメリカ合衆国にサクラの苗を寄贈した返礼として、大正4年(1915年)に日米親善の花木として渡来したことは有名です。最初は白花種のみで、数も少なかったようですが、昭和12年の第二回目に寄贈されたときは白花種3000本、赤花種1000本、枝垂れ種25本が寄贈され、一般に知られるようになったようです。この木は、アメリカ原産で、春には白または紅色の花(色づく部分は、花弁ではなく苞(ほう)という器官です。)をつけるとともに、秋には紅葉がきれいなため、アメリカではもっとも美しい花木とされています。

当園のアメリカハナミズキは昭和12年の第2回目に寄贈されたもので、戦前戦後の植物園を見つめてきた貴重な樹木であることは言うまでもありません。

参考図書 「四季の花辞典 花のすがた 花のこころ」 麓次郎(元京都府立植物園長)著 八坂書房

ニレ科いろいろ(平成21年10月8日)

本日は、2年ぶりのしかも大型の台風の通過ということで、朝から職員総出で園内の掃除にかかりました。幸い大きな被害もなくホッとしています。折れた枝や飛ばされた葉を集めていますと、いろいろな果実(種子)が混ざっていることに気がつきます。自然界では台風による倒木と種子の散布が連動して、種の更新が行われているのだと思います。

さて、河川敷や公園、社寺などに生えている大きな樹木といえば、エノキ、ムクノキなどのニレ科の樹木であることが多く、人とはもっともなじみが深いと樹木と言えるかもしれません。これらの樹木の種子は、鬱蒼とした森林よりも、明るく開けた場所で発芽し生育するためです。

よく、鴨川の河川敷にはえている樹木の名前を聞かれることがありますが、同じニレ科の樹木でも果実や樹皮などに個性がありますので、簡単に説明します。

エノキの果実の写真

エノキの果実(核果)緑、黄、赤褐色と変化していく。 

ムクノキの果実の写真

ムクノキの果実(核果)。熟すと黒くなり、干し柿の味に似ている。葉はざらつく。

ケヤキの果実の写真

ケヤキの果実(そう果)。果実がついた葉は枯れ、枝ごと落葉する。果実のついた枝の葉は小さい。

アキニレの果実の写真

アキニレの果実(翼果)。果実には丸い羽根がある。

次ぎに樹皮です。大木になると肌が荒れ、樹種の特徴がよくでます。

エノキの樹皮の写真

エノキの樹皮。表面に裂け目はないが、皮目(ひもく)という、表面に出た粒状の組織が多い。(大芝生地周辺)

ムクノキの樹皮の写真 ムクノキ老木の樹皮の写真

ムクノキの樹皮。縦に筋が入り(写真左)、老木になると、縦に樹皮が剥がれる(写真右)。エノキのようなツルッとした樹皮ではありません。(なからぎの森)

エノキの樹皮の写真

ケヤキの樹皮。ある程度大きな木になると、樹皮がうろこ状に剥がれます。(ケヤキ並木)

アキニレの果実の写真

アキニレの樹皮。若いうちから、ケヤキのように鱗状に剥がれますが、老木になると小さく剥がれ、皮目が目立ちます。(大芝生地南側にある樹齢200年以上のアキニレ)

写真はすべて植物園内のもので、これから紅葉(黄葉)も美しくなり、ぜひ観察いただけたらと思います。  

秋に咲くアキニレ(平成21年9月6日)

夏から秋にかけて咲く樹木にはミツバチがいっぱい集まります。植物園の中でもカラスザンショウ、ニンジンボク、イヌゴシュユ、シリブカガシなどが、咲き連れる順にミツバチの群が収穫のために移動しているようです。特に植物園会館前にあるシリブカガシ(写真)の大木は大量に開花するため、この時期の貴重な蜜源植物になっているようです。

シリブカガシの開花の写真 シリブカガシの開花

8月下旬からシリブカガシに集まっていたミツバチですが、9月に入り、花のピークが過ぎると、どこかにいなくなります。
本日、ここにいました。大芝生地西側のアキニレのまわりから聞こえる「ブオー」と響く音。アキニレが開花しており(この個体は開花期が早い。)、驚くことに、ミツバチがアキニレの花から蜜を収穫していました。ということは、アキニレの花粉はミツバチによって運ばれている可能性があるということです。

アキニレに集まるミツバチの写真

以前から、植物園のガイドなどをとおして、ニレ科の花は「風媒花」で、アキニレは種子も風で運ばれることが多いので「風と縁のある木です。」と説明をしていました。しかし、これからは、「風媒花ですが、虫による助けもあります。」と説明を変える必要があります。

花粉を出すアキニレの花の写真 花柱が伸びている写真 アキニレの果実の写真 

秋に咲くのでアキニレと名がつきますが、開花から種子ができるまでは、きわめて短い期間で行われます。開花すると大量の花粉を出し(写真上左:2005年9月22日)、2裂した花柱は伸びだし(写真上中:9月23日)、受粉後すぐに子房がふくらんできて、まもなく果実の形ができます(写真上右:10月3日)。その後、翼のある果実(翼果)につつまれた種子は木枯らしによって遠くに運ばれます。(写真提供:河内静子氏 下3枚の写真のアキニレは大芝生地南側にある樹齢200年以上の個体)

甘い香りに要注意(平成21年9月4日)

乾燥した日が続きますと、水やりという作業はもっとも優先すべき仕事になります。植物のほうもたいへんで、葉にある気孔を閉じ、葉をうなだれさせたり水分の蒸散を防ぐなどして、乾燥から体を守ります。
「綿菓子」と「しょうゆ」のにおいをたして2で割ったような香り? いま植物園の中を歩かれると甘い香りが漂っているのがおわかりになると思います。これはカツラという樹木が出している香りで、花ではなく葉から出ているものです。常緑樹のように分厚い葉をもつものは、多少の乾燥には耐えられますが、カツラようにうすい葉をもつ植物は落葉させることで水分が失われるのを防いでいます。

カツラの葉の写真 落葉した葉の写真 

香りのもとはマルトールという糖物質で麦芽糖とも呼ばれ香料などにも利用されるものです。葉の付け根の部分に離層(りそう)という境界線ができて、葉と樹木本体との間で行われる水や養分の流れがなくなり、葉に香りが綴じ込められてしまうわけです。
カツラの名は「香出(カヅ)」からきているといわれ、紅葉(黄葉)する時期に香ることはよく知られていますが、この時期に甘い香りを出すことは水切れのサインなのです。 

京都由来の植物その17(平成21年8月6日)

近畿地方も梅雨が明け、やっと夏らしい天気になってきました。真夏に咲く花木のひとつに「木槿、ムクゲ(Hibiscus syriacus)アオイ科」があります。学名のsyriacusの意味は「シリア産の」という意味がありますが、もともとの原産地は中国とされ、古い時代に日本に入ったといわれています。
江戸時代には多くの木槿の園芸品種が作出されたようで、今でも、夏のお茶花として木槿が多く用いられます。中でも「宗旦(そうたん)」、「祇園守(ぎおんまもり)」と呼ばれる木槿は貴ばれているようです。

ムクゲ宗丹の写真 左の写真’宗旦’は茶人千宗旦(千利休の孫で侘び茶を完成した人と呼ばれる)がこよなく愛したとされる木槿。

また、木槿の花形や色は大変豊富で、一重、半八重、八重咲き、乱れ咲きと呼ばれる花型。色は白、赤、紫などや底紅(そこべに)と呼ばれる花の中心部が紅色のものなど、多くの品種があります。
花形を分類する上で、例えば、「祇園守型」といえば、「半八重咲き。内弁が小さく、外弁との大きさの比が40/100以下で、内弁の数が30個以下のもの。(園芸植物大辞典、小学館)」と定義されています。
品種名については、’白祇園守’、’赤祇園守’、’大徳寺祇園守’、’大徳寺花笠’、’宗旦’、’角倉花笠’、など京都に由来の名を持つ京都産出の品種がたくさんあります。品種名の由来などは不明なものも少なくなく、もう少し調べていく必要があります。
少し、うんちくが多くなりましたが、夏の主役、木槿をいつもと違う眼で見ていただければ幸いです。木槿は、北山ワイルドガーデン西側、大芝生地北側ほかで9月いっぱいまで咲き続けます。

ムクゲ白祇園守の写真 

祇園祭の頃に咲く、’白祇園守(写真上)’は祇園八坂神社の境内にも植栽されています。

参考文献:むくげ 立花吉茂 淡交社

これからが正念場(平成21年7月16日)

萎れたリョウブの写真 斜面に埋め込んだ材の写真

日本の森「植物生態園」では、大きな樹木ですら萎れてくることがあります。一見、自然の森のような雰囲気がありますが、もともとは平地に凹凸をつけた造成地に多くの樹木を人工的に植栽しているために、地盤が浅く狭いエリアの中で樹木がひしめき合う厳しい環境で生育しています。地上部では光の奪い合い、地下部では根による水の奪い合いが行われています。そのため乾燥した日が続きますと「水まき」を行う必要があります。
植物生態園の中には、すぐに「萎れ」の現象をみせる樹木が何本かあるため、それにより、地下部の乾き具合を知ることができます。リョウブ(リョウブ科、写真左)は比較的乾燥した林地に自生する樹木ですが、写真のように乾燥が続くと葉を垂らしてストレスのサインを出します。
「ゲリラ豪雨」という言葉をよく耳にするように、最近、局所的に大雨が降ることが増えているよう思えます。植物生態園でも、一旦、大雨になると雨水が地中にあまり浸み込まずに地表を流れ、通路が水浸しになることがよくあります。非常にもったいないことで、そのため、枯損や伐採した樹木を利用して、すこしでも雨水が地中に浸透するように工夫しています(右の写真は傾斜の大きい斜面に材の下半分ぐらいを地中に埋めています。)。数年で腐朽すると思いますが、できるだけエリアのなかで物質循環させることも大事なことだと思います。 

ひっかけてよじ登る(平成21年7月6日)

つる性植物の多くは他の植物によじ登り生育しますが、その登り方にもいろいろパターンがあります。幹や枝をねじるようにしてあがるもの(フジなど)、吸盤や根で張り付いてあがるもの(ツタやツルアジサイなど)、巻きひげで巻き付くもの(ブドウなど)、棘を引っかけてあがるもの(ノイバラなど)などです。
「カギカズラ(Uncaria rhynchophylla アカネ科)」はネコの爪のような鉤(かぎ)で、他の植物に引っかけてあがる珍しい植物です。
植物生態園の南入り口付近に植栽のカギカズラは20メートルほどあるスギの樹幹上にまであがって生育しています(写真は2007年6月22日のスギ樹幹上での開花状況。河内静子氏提供。)。

カギカズラの開花の写真

2年ほど前に周辺の一部のスギを伐採して地表に光を入れるようにしてから、地面からニョキニョキとカギカズラの若い枝が生えるようになりました。

直立するカギカズラの写真 葉えきから鉤のでている写真

本来、つる性の植物ですが、夏頃までは人の背丈ぐらいまで直立して成長します(写真2枚目)。その後、近くに、引っかける適当な植物がない場合は、茎が傾斜し始め、ねらいの他の植物をさがします。ネコの手のように伸びた茎には、葉腋(ようえき)ごとに、1つと2つの爪が交互に出ています。これもうまく引っかけるための戦略でしょうか(写真3枚目)。
下の写真はたまたま横に生えていたムクロジの枝に引っかけた鉤の状態で、いったん引っかけてしまうと、鉤は丸まって枝や葉ははずれない仕組みになっています。

鉤にからまれた葉の写真 枝に鉤がからんだ写真

日本の暖地に自生する植物ですが、京都府では絶滅危惧種に指定しており、また、京都市西京区にある松尾大社のカギカズラの野生地は京都市の天然記念物として指定されています。 

最も遅い芽出し(平成21年6月22日)

5万本以上ある植物園の樹木で最も遅く芽出しする樹木がくすのき並木の東側付近にあります。「ダルベルジア・フーペアーナ Dalbergia hupeana マメ科」。

ダルベルジアフーペアーナの芽出しの写真 デルベルジアフーペンシスの写真

毎年芽出しは梅雨時期の6月下旬になります。それまではまったくの冬枯れした状態のため、「この木、枯れてる。」と思われる方もおられます。目線より高いところに枝があるためトラックの荷台から撮影しました。
開花は7月初旬頃になります。隔年で大量開花しますが、今年はどうなるでしょうか。

デルベルジアフーペンシス開花の写真

開花してから1週間以内が見頃になります。上の写真は2004年7月8日に望遠レンズによる撮影(河内静子氏提供)の開花中のものです。
この樹木は、1935年(昭和10年)に中国南京植物園から種子交換で導入された個体で、当園での貴重木の一つ。

カナダからの手紙(平成21年5月30日)

ナイアガラパークス植物園から届いた種子 

海外の植物を導入する手段とし、世界中の植物園間で種子を交換しあうこと(Seed exchange)があります。希望とする種子は、その国に自生する植物の種子を基本に注文しており、冬から春にかけて注文した種子が各国から届きます。今回、カナダにあるナイアガラパークス植物園からCorunus alternifolia(アオミノミズキ、写真右)とTilia americana(アメリカシナノキ、写真左)ほかの種子が届きました。種子には、植物園内で採取されたものと植物園周辺の山地などで採取されたもの(Wild collected)がありますが、特に、野生採取のものは、採取日や採取地の標高等のパスポートデータがついていることから、将来の植物園での展示や保存に貴重な財産となります。
種子は到着後すぐに播種しますが、乾燥等の理由で発芽しないことがよくあります。しかし、かつて先輩諸氏が連綿と努力されてきた結果、当園の植物が存在していることを考えると、いろいろな植物を集め、多くの方に見てもらうためには、あきらめずに種を播き続けていかなければなりません。

センダンは双葉より芳し?(平成21年5月28日) 

園の案内でセンダン(センダン科、写真左)の木を紹介すると、来園の方からは必ずいってよいほど「「双葉より芳し」のセンダンやね。」と言われます。そのつど、そのセンダンはビャクダン(白檀、写真右)のことで、熱帯のビャクダン科の植物ですので、日本では、戸外では育たず温室がないと育ちません。」と説明をします。ビャクダンは中国では「栴檀」とかくためこのような混乱と誤解が生じたものと思われます。センダンは別名を「あうち(おうち)」とも呼ばれ、年配の方にはこの名の方がとおります。

センダンの花の写真 ビャクダンの写真

観覧温室ジャングルゾーンには、ビャクダンが展示してありますが実際に嗅いでみても、芳香はありません。扇子やお香などに使われるビャクダンは、30年生ほど経過した木の心材(赤みの部分)を用いるそうで、ことわざとは異なるようです。(実際に播種したのち、双葉のときに香りを確認する必要がありますが。)
一方、センダンのほうは、大芝生地の周囲で薄紫色の花をいっぱいにつけて咲いていますが、芳しい良い香りがします。特に大芝生地の北側(中央売店東側)にある個体は、目線のやや上に咲いていますので、香りを確認することができます。
日本国内において、ビャクダンの開花の記録は、ほとんどありませんが、温室担当者からは「株に元気が出てきたので、咲かせますわ。」という言葉がありました。期待できそうです。

ウツギいろいろ(平成21年5月8日)

ゴールデンウィーク後半からは雨天がつづきましたが、4月当初から乾燥した日が続いていたので、植物には恵みの雨となりました。
雨の日によく似合う花の代表格にアジサイがありますが、ウツギの花も雨がよく似合う植物のひとつではないでしょうか。

バイカウツギの写真 タニウツギの写真

「ウツギ」と名がつく植物はいっぱいあり、植物生態園では、日本に自生するウツギの仲間が、新緑の頃から梅雨の時期にかけて次々と花が咲いていきます。バイカウツギ(ユキノシタ科、写真左上)は花が大きく少し芳香があります。タニウツギ(スイカズラ科、写真右上)はピンク色の非常に美しい花をつけます。
「○○ウツギ」という名のつく植物は、ユキノシタ科(ウツギ、ノリウツギなど)、バラ科(カナウツギ、コゴメウツギ)、ミツバウツギ科(ミツバウツギ)、スイカズラ科(タニウツギ、ハコネウツギなど)、フジウツギ科、ドクウツギ科(展示はしていません。)にまたがっていて、植物園にもたくさんの種類を植栽展示しています。

ウツギの茎の写真

ウツギを漢字では、「卯月」または「空木」と表します。「卯月」は陰暦の4月のことで、この時期にたくさん花が咲くことからついたという説があり、「卯の花」とも呼ばれます。「空木」の方は上の写真でもわかりますが、茎が中空またはスポンジ状になっています(写真左はタニウツギ、右がウツギの茎)。
参考図書 「森の木の100不思議」 日本林業技術協会編 東京書籍

京都由来の植物その16(平成21年5月3日)

「この紋所が目に入らぬか」と印籠が大アップに写し出されるのは三つ葉の葵。これはドラマ「水戸黄門」での話ですが、この三つ葉の葵の紋章は、ウマノスズクサ科の「フタバアオイ(別名カモアイオイ)」という多年草の葉がもとになっています。実際のフタバアオイは「双葉葵」と書くように葉は2枚(下の写真左側)で、葉の付け根から紫色の花(下の写真右側)がひっそりと下向きに咲きます。

フタバアオイの葉の写真 フタバアオイの花の写真

京都では、毎年5月15日に葵祭が行われ、このフタバアオイの葉を飾り付けた、祭人や牛車の列が御所から下鴨神社、そして賀茂川をはさんで植物園の対岸をとおり上賀茂神社に向かいます。
葵祭でフタバアオイとともに用いられるのが、新緑のカツラの枝です。カツラは渓谷沿いに生える、わが国特産の樹木(下の写真)です。

カツラの写真

両種ともハート型の葉が特徴で、よく似ています。植物生態園には、両種とも展示していますので、近くで見てもらうことができます。
最近では、葵祭で使われるフタバアオイが減少してきたため、地域の小学校などが、フタバアオイを増やそうという試みがされております。また、上賀茂神社と徳川家との関わりは古く、一昨年には、徳川家にフタバアオイを献上した「葵使」が140年ぶりに復活するなど、地域をあげて環境保全などに取り組まれています。

京都由来の植物その15(平成21年4月23日)

ジュウニヒトエの写真

年配の女性から、「京都らしいお名前ですね。」と言葉をいただきました。昨年の「源氏物語千年紀」では、源氏物語に因んだいろいろな植物が新聞等で登場しましたが、それを目当てに来園された方も多く、これらの古典に出てくる植物に対する関心の高さを改めて知りました。
残念ながら、昨年にジュウニヒトエ(Ajuga nipponensis シソ科)を、展示できませんでしたが、播種した株がようやく植物生態園で今年咲いてくれました。花穂を伸ばしながら、紫の線が入った花弁を上に重ねるように咲いていきます。その姿を、宮中の女性が着た「十二単(じゅうにひとえ)」に見立てたものです。
園芸店でよく売られている「アジュガ(通称、セイヨウジュウニヒトエ)」などと同じ仲間ですが、日本のジュウニヒトエは、ほとんど山中から姿を消してしまいました。多年草ですが、数年経つと株が消えてしまう(移動する)ため、毎年、種子から育てるつもりで展示しています。

ブナの花(平成21年4月10日)

今年は、花冷えした日が多かったため、ソメイヨシノ、ベニシダレなどの見頃が大変長くつづいています。たくさんの花見の来園者を迎える中、園内では珍しくブナ(Fagus crenata ブナ科)の花がひっそりと咲いています。

ブナの花の写真 満開のブナの写真

ブナは、雌雄異花の花です。左の写真では、垂れて咲いているのが雄花序で、上を向いているのが雌花序になります。植栽場所は植物生態園北口付近(梅林側から入ると左手30メートル付近)ですが、目線より3メートルほど上にたくさん花がついていますので、双眼鏡などがあればよく見えます。
よもやま話「ブナが結実(平成18年11月16日)」では、植物生態園のブナの果実をお知らせしましたが、そのあとに果実を播種したところ、発芽しませんでした。しいな(充実していない果実)ばかりのようでした。当植物園のような低地では結実が難しいのかもしれません。 今秋は3年ぶりの結実が期待できそうです。
写真提供者:河内静子氏

京都由来の植物その14(平成21年3月26日)

「京都府の花」をご存じでしょうか。「枝垂れ桜」は、すだれのようなしなやかな枝に花をつける優美さと風雪にも堪える強さをあわせもった、京都府の姿にふさわしい魅力ある樹木です。昭和29年に公募によって選定されました。
京都円山公園には、有名な枝垂れ桜がありますが、当園の花しょうぶ園にある「大枝垂れ桜」は円山公園の枝垂れ桜の「姪」にあたります。桜守として有名な佐野藤右衛門さんの先代が昭和39年に植栽されたものです。樹齢約50年生になった今、かなり見応えがでてきました。

大枝垂れ桜の写真 大枝垂れ桜の花の写真

上の写真は、3月26日現在、3分咲きの「大枝垂れ桜」

枝垂れ桜は野生種である「エドヒガン」を親として、枝が枝垂れる品種のことで、「糸サクラ」と呼ばれこともあります。八重咲きのものは、「八重紅しだれ」で、一重の枝垂れ桜より1週間程度あとに満開になります。 

ウメ、アンズ、モモ、サクラ(平成21年3月18日)

昨年は3月18日がウメの満開日と記録していますが、今年はすでにウメは終盤にかかり、ソメイヨシノ(写真:下の左)の蕾も顔を覗かせてきました。ソメイヨシノと同時期に咲くチューリップ「レッドエンペラー(写真:下の右)」も本日、数輪が開花しました。例年より早い春の訪れを感じます。

ソメイヨシノ蕾の写真 チューリップレッドエンペラーの写真 

標題の4種はバラ科サクラ属(Prunus プルヌス)の仲間ですが、当園の春は、早咲きのウメから4月下旬に咲くサトザクラまで次々と咲いてきます。
この仲間は、開花の時期や果実の形などに少し違いがありますが、花のつき方にも違いがあります。

ウメの写真 

ウメ(Prunus mume cv.)

アンズの写真

アンズ(Prunus armeniaca cv.) 

モモ矢口の写真

モモ 品種名’矢口’ (Prunus persica cv.)

トウカイザクラの写真

トウカイザクラ (Prunus ×takenakae cv.)

ウメ、アンズの花は、花柄(かへい)がほとんどなく、アンズは萼(がく)は反り返ります。モモは葉腋(ようえき:葉のつけ)に芽が普通3つつき、花と葉が同時につくことがあります。サクラは一つの芽に通常3から4個の蕾が入っており、長い花柄につきます。人に例えれば、「うなじ」の部分がすこしづつ違いますので観察の時には、花の裏側も一度ご確認ください。 

こんな花も咲いています(平成21年2月17日)

「早春に咲く花は、ひっそりと咲くものが多いですね。」とカワラハンノキの前で来園の方からお声がかかりました。
あまり目を引くような花も少ない時期ですが、それぞれの樹木の冬芽も徐々に大きくなり、遠目でも樹木全体が赤くなってきているように見えます。
カワラハンノキの写真 セイヨウハシバミの写真

写真左のカワラハンノキ(Alnus serrulatoides カバノキ科、植物生態園)は雌雄異花の樹木で、垂れ下がっている雄花序と上向きの赤っぽく見える小さな雌花が開花しています。湿地性のため、田んぼの稲木やワサビ田の遮光木として植栽されることがあります。写真右のセイヨウハシバミ(Corylus avellana  カバノキ科、しゃくやく園西側)は垂れ下がった雄花序(これから開花)と芽鱗に包まれた小さな花(秋にはヘーゼルナッツができます。)が開花しています。
数日前の初夏を思わせる気候から一転して、本日、植物園では、白銀の世界に戻りました。植物の世界も大変な状況かもしれませんが、これらの花を見ているとなぜか、勇気づけられます。

京都由来の植物その13(平成21年2月11日)

つばき有楽の写真 有楽の子房の写真

椿の中には、同種異名の品種がたくさんあります。「佗助(わびすけ)」=「胡蝶佗助」、「日光(じっこう)」=「紅卜伴(べにぼくはん)」、「月光(がっこう)」=「卜伴(ぼくはん)」、「黒佗助」=「永楽」、「玉兎」=「白菊」などがあります。上の左の写真の椿は関西では、「有楽(うらく)」、関東では「太郎冠者(たろうかじゃ)」と呼ばれる佗助です。
以上の文章を記しただけでも、混乱してしまいそうになります。
「有楽」は、織田信長の実弟で茶人の織田有楽斎が愛でた椿といわれ、京都の有名社寺などには、「有楽」の古木が多くあります。椿の中でも、いち早く咲くため、春の呼び出し役の意味で「太郎冠者」という名がついたとされます。
また、佗助というのは、一重で小輪の猪口(ちょく)咲きで、早咲き(一般に2月ごろまでに咲きはじめるもの)などの特徴がある椿の総称になります。
「有楽」には、「子房に微毛がある(写真右)」、「葉が長楕円形で先端が鋭尖状」など、日本の椿にはない特徴があり、中国原産の椿とする説や日本産の椿との雑種であるとする説などがあり、謎が多くあります。 室町時代から戦国時代にかけての他国との交易や茶の湯の文化を物語る、京椿の銘椿(めいちん)のひとつです。 

スプリングエフェメラルと呼ばれる植物(平成21年2月2日)

Spring ephemeral (スプリング エフェメラル)は、「春のはかない命」、「春の妖精」などと呼ばれる、早春に咲く植物です。
セツブンソウ(節分草)は、スプリングエフェメラルのひとつで、園内では、うまい具合に節分の日前後に咲いてくれます。落葉広葉樹の下で、他の植物が動き出す前に成長、開花し、6月頃には地上部がなくなり、休眠期に入ります。

 セツブンソウの写真

あしたは「節分」で、まもなく春です。今年も積み重なった落ち葉の中から、「こんにちは」と顔を覗かせています。写真のものは背丈約5センチ。まさに「妖精」のような花です。見頃は植物生態園で2月中旬ごろまでです。 

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