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知の京都- 彌田智一さん(同志社大学 ハリス理化学研究所)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

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自然のマイクロ構造を活用

(掲載日:令和3年7月1日、ものづくり振興課 鴨井)

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 同志社大学 ハリス理化学研究所の彌田智一教授にお話をお伺いしました。

バイオテンプレート

まずは研究をされているバイオテンプレートについて教えてください。

彌田)バイオテンプレートは構造を模倣するのではなく、生物そのものが持つ構造を転写利用する技術です。研究対象の一つとして「スピルリナ」という藻類を利用しています。その構造はらせん状(Spiral)に繋がった多細胞で、特徴的な形状をしています。

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(SCIENTIFIC REPORTS, 4, 4919 (2014)より)

なぜ、このような形状をしているのですか。

彌田)スピルリナはシアノバクテリアの一種で光合成を行う藻類ですが、実は、なぜこんな形状をしているのかはわかっていません。遺伝子学的には解析が進んでいる部分もありますが、形状の観点ではまだまだ謎に包まれています。とても面白い構造ですよね。

 その一方で、スピルリナは何十年も前からサプリメントとして販売されるなど、量産・事業化の実績があります。ただ、この構造を利用するためにはらせん形状を固定化、保存して活かすプロセスが必要です。スピルリナ自体は炭酸ガスを与えておけば光合成によって簡単に増えていきます。成長の過程でランダムに折れて2個になるということを繰り返すので、我々の実験室の培養条件では約1週間で同じものが約250個に増えていきます。面白いことに、その生成の際に光強度を強めたり、水温を上げたりしてストレスを与えることで、巻きの間隔を制御することができます。

とても興味深いですね。

彌田)スピルリナは培養条件に順応して構造が変わります。ストレスが少ない状態ですと巻きが緩くなり、逆にストレスが多い状態ですと、巻きのピッチが狭まります。培養によって、糸状体の長手方向にどんどんと伸びていきますので、同じ形状のスピルリナを大量に培養でき、1mmの長さにまでなるものもあります。なお、自然界ではほぼ左巻きですが、突然変異体の右巻スピルリナを見つけて、単離培養し、右巻マイクロコイルを作製することもできました。

ますます興味深いですね!このスピルリナにはどういった経緯で興味をもたれたのですか。

彌田)約10年前、顕微鏡を導入した際、学生の一人が維管束植物の道管壁に形成される結晶性セルロースからなる「らせん」を撮影したことがきっかけです。太さの揃った管にらせん状の繊維が巻き付いた構造で、スイートピーの花弁やバナナの皮などにも見られるように植物の種類や部位によってらせんの直径やピッチが異なります。ここから、規則的ならせん構造に興味を持ち、現在の研究に発展していきました。

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(Electrochemistry, 84, 715 (2016)より)

工業的には、やはり同一のものを大量に生成することが必要になりますよね。

彌田)はい。スピルリナは同じ構造のものを量産できるという所がポイントです。ある企業の方に、スピルリナという植物がありますよとご紹介いただき、現在の研究に至っています。

バイオテンプレートですので、この構造を転写利用するということですね。

彌田)スピルリナをバイオテンプレートとし、無電解めっき技術を用いて銅、ニッケル等に置き換えることで金属マイクロコイルを作製しています。スピルリナは死滅すると、らせん形状を維持できなくなり、不規則なひも状になります。そこで、グルタルアルデヒド処理を利用してホルマリン漬けのように細胞を固定化することで、長期間保存可能なバイオテンプレートを作製することができ、大量生産にも繋がっていきます。

研究を進める上で、どんな所に苦労されたのですか。

彌田)生き物そのものの形状を変えず、無電解めっきをするところが大変でした。古くから活用されてきた要素技術であるめっき技術ですが、実はノウハウの結晶で、大学でその技術を一から開発することはとても困難です。そこで、めっき液のノウハウをもつ企業の協力により、このマイクロ構造の転写を実現いたしました。企業の協力なしには成し得なかったと思います。

産学連携による成果ですね!この金属マイクロコイルですが、どのような応用が期待されますか。

彌田)コイルが小さくなるほど共振周波数が高くなることから、特にテラヘルツ波帯域の材料として期待されます。金属マイクロコイルを含んだ分散シートは、その特異で微細な形状から、従来の磁性材料では吸収効率が低下していた次世代の通信帯域であるミリ波・テラヘルツ波においても高い電波吸収と遮断機能を持つことが実証されています。

ミリ波・テラヘルツ波は高速通信でとても注目が集まっていますね!

彌田)情報通信社会の発展に伴い、人々の生活には電磁波を発する製品が増え続けています。近年の5G通信ではサブミリ波(~28GHz)が利用され、2030年代には、6G通信として300GHz帯へ発展していくことが期待されます。周波数が高いということは、それだけたくさんの情報を効率的に伝送できるということで、世の中は更に便利になっていきます。

 ただ、便利なことばかりではなく、電波障害や健康被害がますます重要視されています。そこで、外部の電磁波で誤動作しない、あるいは外部へ電磁波を出さないようにうまくシールドする必要があります。一般的に電磁波をシールドするための電場吸収体といえば、フェライトが有名ですが、周波数が高くなるにつれて電波吸収効率が低下するため、含有量を増やし重くなる点が課題です。そこで、ミリ波・テラヘルツ波でも高い吸収特性と遮蔽機能を持つ新たな素材が必要になってきます。

金属マイクロコイルがこのミリ波・テラヘルツ波帯域に対応できる材料として期待されているのですね。

彌田)スピルリナを利用した金属マイクロコイル分散シートではテラヘルツ波帯域での電波吸収特性を持ちます。広い周波数帯域に対応できることも特徴で、可視光を透過する程度の含有量を混ぜるだけで1.5~2THzの電磁波をほぼ定量的に吸収するなど、広い周波数帯域をカバーしつつ、軽量化・透明化・塗工可能性などの様々なメリットを有する材料として期待されています。また、スピルリナのピッチや巻きの向きを制御することによって、周波数制御や電磁波制御等も期待される可能性を秘めた材料です。

この分析に京都府中小企業技術センターテラヘルツ非破壊検査装置もご活用いただきありがとうございます。

彌田)高度な装置を有する京都府中小企業技術センターの存在はありがたいものです。テラヘルツ分析は、未だ一般的に普及していませんので、気軽に実施できるものではありませんが、京都府中小企業技術センターでは安価に装置を利用でき、また、技術職員のサポートも充実しておりますので、研究を進める上で大変役立っています。こういった施設は企業が新たな事業や分野に挑戦していく上でも、大学と企業が交流していくという視点でも重要なものであると実感しております。

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今後もご活用をお願いいたします。最後に先生が研究を進める上で意識されていることを教えてください。

彌田)たくさんの研究機関で様々な研究に携わってきましたが、一貫して面白いと感じることにチャレンジしていくということです。ご紹介しましたバイオテンプレートも興味から生まれた研究ですが、一方で、研究者として新たな可能性を提案していく責任も担っています。この研究も大学だけでは成し得なかったもので、企業などとの連携によって、ここまでのものに発展してきました。このバイオテンプレート等の研究成果を通して、今後も生活を豊かにするための出口をサポートしていきたいと考えております。

ありがとうございました!今後の御活躍が楽しみです!

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