ここから本文です。

京都府の産業支援について


シーメックス
ものづくり振興課の主要事業体系(PDF)ZET-valley構想 メディアパーク
けいはんな住人 バーチャルスタジオ
部品相互融通プラットフォーム 売まれ買われ
 挑戦 スタートアップ 承継 相談窓口タイトル 知恵の経営 チャレンジバイ 国家戦略特区
協創 商談ナビ 助け合いの輪 補助金タイトル ロボットセンター 北部産業創造センター 北部
産業コミュニティ 脱炭素 ものづくり スマート 食 ライフ メディアコンテンツ
京都企業紹介(業種別) 京都企業紹介(五十音順) 知の京都

目次

2020年代、地球・社会・経済の最適化と心を照らす付加価値産業の創出を目指す—

全世界を巻き込んだパンデミックによって、仏教やギリシア哲学が誕生した3,000年前の枢軸時代、フランス革命や産業革命が起こった近代に次ぐ、第3の意識革命が人類に起きていると言われています。人々の行動や価値観が変化し、気候変動や貧困など世界の積年の構造的課題が顕在化する中で、共感やアハ・モーメント(熱狂)が世界を動かす時代となりました。

これまで私どもは、精神文化や芸術・工芸関連を筆頭に、伝統に革新を重ねてきた老舗企業、伝統産業の技からハイテク技術を生みだした電子部品等のグローバル企業、ニッチトップの技術でそれらのマザーマシンを支える中小企業、最先端研究を進める大学・研究機関など、京都の重層的な産業構造を基盤に、産学公が連携してクリエイティブ企業の集積やデジタルマニュファクチュアリングの促進、AIやロボットによるコネクテッド社会やスタートアップ・エコシステムの形成を推進してまいりました。

しかし、世界的なテクノロジーの進展が、スマートシティ分野でインフラ後進国にリープフロッグを許し、デジタル化の波が、京都の誇る「精緻なものづくり」や「コト消費」を脅かすなど、京都産業を取り巻く状況は厳しさを増しています。また、貧困や自殺、交通弱者の問題など、足下の様々な困難を解決できぬ間に、海外ではテクノロジーで家庭や個人の問題解決への挑戦が進められており、日本人の強みと言われる「きめ細やかさ」を活かすべき分野においても遅れをとりつつあるのです。

この危機を乗り越えるためには、京都の多彩な産業分野間の融合、特に文化力や自然など「強い京都コンテンツ」の組み込みが不可欠です。
例えば、1つは、高い文化力を活かし、人材不足・超高齢化が進む日本において、インフラ整備で培ってきた技術を社会さらには個人の課題解決に応用する「パーソナライゼーション産業(あるいは人間拡張産業)」です。それは、文化芸術が培ってきた創造性やおもてなし等の心(メンタル)と、自動運転や自律ロボット等のサイバー・フィジカルシステムの融合により、全体調和と快適性を両立するものでありましょう。
もう1つは、四季折々の豊かな自然の未知なる機能を活かすことで、サプライチェーンのカーボンニュートラル化とあわせて、日本を資源貧国から資源大国に変貌させる「ネイチャーイノベーション産業(あるいはバイオファウンドリー産業)」です。それは、多くのエネルギー資源、原材料、食料を他国から導入し生産・消費してきた従来のシステムから、地産地消システムへと大転換を図るものでありましょう。

そこで、アート、メディアコンテンツ、ゼロ・エミッションテクノロジーなどのテーマ性を持つ「リーディングゾーン」を形成し、(1)創造性(クリエイション)の高い起業家人材等の育成、(2)新たな挑戦の経験(プロセス)を重ねることで、変化・連携への対応力の高い企業の創出、(3)文化芸術と最先端研究、伝統産業とハイテク産業等の新たな結合(イノベーション)による高付加価値ビジネスの創出、(4)社会課題の提示や社会実装を推進する産学公の連携を、一貫して行う「共創の場」づくりを進めることで、京都経済を支え、世界をよりよい場所にするため、全力を尽くしてまいります。

トピックス

企業 起業 承継 戦略 販路 税 補助  全般
産業社会 特区 脱炭素 ものづくり スマート フード ライフ コンテンツ 地域

KOINイベント中小企業ガイド補助金Webコロナ制度コロナ制度(企業向け)

 企業ステージ別メニュー

起業スタートアップ支援

世界のエコシステム

果樹園が広がり学生の就職先が乏しい地域であったため、起業を推奨したスタンフォード大学ターマン教授の教え子が1932年にヒューレット・パッカードを設立、さらにはトランジスタの発明でノーベル賞を受賞した1人ウィリアム・ショックリーが1956年に半導体研究所を設立したのがその起源と言われ、19世紀のゴールドラッシュ以来の「一発屋DNA」を軸に、Yコンビネーター500スターアップなどの、いわば起業の「受験塾」と言える「アクセラレーター」という新たな機関をも生み出したシリコンバレー。1999年の巨大なインキュベーションCICの設立を皮切りに、たった20年足らずでバイオやロボットの世界的な集積地となったボストン。香港の加工貿易を支える製造拠点から、北京オリンピックの頃を境に人件費高騰による空洞化に対応するようにIT、金融、バイオ、エネルギーなどの新産業拠点に様変わりしたシンセン。

言わずと知れた世界的なスタートアップの街ですが、今や、どこかの中心地が世界をリードする時代は過ぎ、世界中で異なる文化や技術の融合を原動力にイノベーションが生まれています。

教育機関としても技術の導入先としても軍隊の果たす役割が大きなイスラエル。USBメモリーの発明や、自動運転の肝となる画像認識チップを手掛けてインテルに買収されたモービルアイが有名です。ライドシェアサービスの普及に当たり、職を失いかねないタクシードライバーに自社株を配ることで、彼らが積極的に顧客を呼び込む仕組みを生み出すといった大胆な発想と行動力のあるスタートアップ企業も存在感を発揮しています。

「2000年問題」でITのアウトソーシング先として一躍有名になったインド。今やグーグルやマイクロソフトのCEOも輩出し、特に2014年発足のモディ政権がスタートアップ政策を打ち出すとともに、旧高額紙幣の廃止に伴う混乱を契機にキャッシュレスを推し進めるなど、先進国が一歩ずつ歩んできた進歩の段階を一気に飛び越える「リープフロッグ」を起こしやすい環境にあります。BtoCが多い中国と比べ企業向けのBtoBのスタートアップ企業が多い一方、ハイエンドでかつ安価な医療ビジネスも生まれているそうです。

アルベルト・アインシュタインが生まれ、欧州最大のフラインホーファー研究所が本部を構えるドイツ。世界三大発明の一つ「活版印刷」だけでなく「コンピュータ」も生み出した発明の国であり、芸術家が集まる街の強みを発揮し、製品のUXデザインに定評があります。日本と同様ハードウェアに強みを有する国ですが、ベルリンは年間500社のスタートアップが生まれているそう。マイクロアントレプレナー、ライドシェアやゼロエミッションなど循環型経済に関するもの、ブロックチェーンなどのITビジネスに関するものが多いのが特徴。「アートの街」「テクノ」「クラブ」のイメージが強く、世界最大のハッカー集団「カオス・コンピュータ・クラブ」に象徴されるような、近代資本主義の歪みやGAFAMの「情報の中央集権主義」への反発心など、アンダーグラウンドな雰囲気が若者を魅了しており、25%が外国籍、6割が宗教登録をしていないといったように多様な集積がその原動力となっています。

「社会の強さは、もっとも豊かな人たちが持つ富の多さではなく、最も脆弱な立場の人たちの幸福によって計られます」と、34歳で女性首相となったサンナ・マリンが語る福祉国家フィンランド。第2次世界大戦では敗戦国として多額の賠償金返済のため、さらに1960年代以降は1次産業から2次、3次産業への構造変化と都市化による住宅価格の高騰に伴い、多くの人の就業、共働きが不可避となり、現在、男女とも7割が就業(大半がフルタイム)。天然資源も人口も少ないからこそ、一人ひとりの能力開発を重視し、大学院まで無料、2021年からは義務教育が18歳まで引き上げられました。小学生では英語教育に加え、結婚離婚や住まい、納税も学べば、教育分野でのゲーム、アプリ開発も盛んとのこと。リカレント教育も盛んで、大学生と社会人は特に区別なく、就労と学びを行き来しているそう。スタートアップは全土で毎年4,000社生まれており、スマホ戦略に失敗したノキアが携帯電話事業をマイクロソフトに売却し、社員のリストラと合わせて起業支援を開始したのが大きなきっかけです。シリコンバレーではコネクションを使ってコミュニティに入り込めないと成功できないと言われますが、人口の少ないフィンランドでは競争よりも協調が好まれているそう。社会課題を国民みんなで解決する風土があり、充実する社会保障で失敗をフォローできるフィンランド・ドリームは、アメリカン・ドリーム以上かもしれません。

1880年代に日本の工芸品や美術品を研究し、それらの制作過程における忍耐、精神性にまで着目し、北欧独自の表現を加えて新しいデザインの体系を作り出したデンマーク。今ではレゴブロックで有名なレゴ社、造船所の自動化に関わった技術者達が牽引する協働ロボットのユニバーサルロボット社、風力発電のべスタス社、インシュリン製剤のノボルティクス社など、世界市場でシェアの高い企業を輩出しています。敗戦国でありながら、「Hygge(ヒュッゲ。暗く厳しい冬に暖炉を囲み幸福感、連帯感を得る知恵)」に代表されるように道徳を鍛え、厳しい自然環境にありながら、建築家と家具職人が連携して建築空間と家具を一体としてデザインするなどの異業種連携を進展させ、資源貧国でありながら、ソフトウェアや量子コンピュータの開発、風力発電など自然エネルギーの活用に活路を見出してきました。そのため「森の学校」に代表されるように課題解決の直観力を鍛える教育を進め、さらに1960年代の経済成長による労働力不足に伴い専業主婦や障がい者の社会進出を進め、フォルケホイスコーレ(全寮制教育機関)や保育ママ(保育士の自宅で近所の子どもを預かる制度)などを整備してきました。近年は医療現場の労働力不足の深刻化に伴って、CRナンバー(マイナンバー)を普及させ、患者へのエンパワーメント(権限付与。医療従事者との情報格差の打開)に繋げています。さらに、全ての家庭でスマートメーターの設置が義務付け、いかに低価格でエネルギーにアクセスするかを重視してきましたが、近年は、冷暖房システム、廃棄物管理、交通システムなどスマートシティ化を、やはり「人間中心」のコンセプトを大切にしながら推進しています。最近ではフィンテックも普及しており、子どもがおこづかいをもらう際にも紙幣では拒否されるという笑い話も聞こえてきます。中央銀行は2015年から紙幣硬貨の製造を他国にアウトソースするなど完全キャッシュレス国家を目指しています。

京都の先輩スタートアップ

一方、京都においても、今やグローバルで活躍する多くのスタートアップ企業を輩出してきました。

1869年(明治2年)、明治維新による東京遷都に危機感を覚えた京都の人々は教育と科学技術による産業振興を行いました。町衆が私財を投じることで小学校を創設、京都府においても、1870年の舎密局(せいみきょく:舎密はオランダ語で「化学」)のほか、博物館、女紅場、画学校、外国語学校、貧民授産所などを次々と設立するとともに、灌漑、上下水道、精米水車、水運、防火、世界で二番目の水力発電による工業振興を目的とする琵琶湖疏水建設(この電力によって、京都・伏見間で日本初の電気鉄道開業)や、京都商工会議所創設、第4回内国勧業博覧会開催などを進めました。舎密局では、陶磁器、ガラス製造などの理化学、印刷技術等を学生に教え、その中には、1875年(明治8年)に島津製作所を創業した初代島津源蔵氏もいました。

  • 株式会社島津製作所
    1875年、教育用理化学器械製造で創業。現在は、分析・計測機器(光吸収分析装置、環境測定機器など)、医用機器(デジタルX線システム、医用画像機器PET・CTスキャナシステム、超音波診断システム)、産業機器(半導体製造装置等の油圧機器、携帯電話等に使用する成膜装置)など。(2022年3月期は、半導体製造装置向け分子ポンプや医薬品開発等向けの計測機器が伸び、売上約4300億円(1割増)、純利益は2期連続で過去最高)
  • 株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーション
    X線写真撮影に成功した島津製作所の2代目島津源蔵氏が、1895年に日本初の鉛蓄電池を製造したのが起源(GSは「Genzo Shimazu」のイニシャル)。現在、産業用電池、自動車電池、電力貯蔵用電池、燃料電池、特殊電池など。特に自動車・二輪車用の鉛蓄電池のシェアは国内トップ、世界でも第2位(2022年3月期売上約4,300億円(1割増))。
  • 株式会社任天堂
    1889年に花札の製造・販売からスタート。戦後、トランプ、玩具、ゲームメーカーへと変遷。(2022年3月期は、巣ごもり需要やスイッチ販売がやや落ち着き、売上約1.7億円と微減)
  • オムロン株式会社
    1933年創業で、レントゲン写真撮影用のタイマー、家庭用電子血圧計などを開発していました。戦後の高度経済成長下、鉄道の混雑が大きな社会問題になる中で、世界に先駆けて自動改札機などを開発。現在、制御機器・ファクトリーオートメーションシステム事業、電子部品事業、車載電装部品事業、健康医療機器事業、社会システム事業等を展開(2022年3月期売上約7,600億円(1.5割増))。

 

戦後、京都でも食料増産などの国土復興に向けた取組が進められましたが、国家レベルでは、戦災復興でインフラが整備され始めたこと、1950年勃発の朝鮮戦争による特需で得た外貨を元手にした設備投資による生産増大、労働組合をバックにした賃金上昇による購買力増大がかみ合って、1956年度から1973年度まで実質GDP増減率が平均9%を超える「高度成長期」が始まりました。この間、1964年開通の東海道新幹線1965年全線開通の名神高速道路などのインフラ整備、1964年開催の東京オリンピック1970年開催の大阪万博などの特需もあって、神武景気(神武天皇即位以来の好景気という意/31ケ月)、岩戸景気(神武天皇よりさらに遡って、天照大神が天の岩戸に隠れて以来の好景気という意、42ケ月)、いざなぎ景気(いざなぎとは、日本神話で、天つ神の命をうけ日本列島をつくったとされる男神/57ケ月)といった好景気が続き、1960年から10年間で所得を2倍にするという所得倍増計画が7年間という短期間で達成されました。資源や食料を輸入に頼る中、主な輸出品目は繊維・織物関係であったものの、インフラ整備、特需、所得増大等を背景に、鉄鋼・造船・化学などの重化学工業や、三種の神器(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)、3C(カラーテレビ、クーラー、自動車)などの耐久消費財市場を担う電機産業自動車産業が大きく伸び、1968年には、西ドイツを抜きGDPベースで世界第2位となりました。一方で、公害や環境破壊、東京一極集中による地方の過疎化、大企業と中小企業の二重構造が進み、1956年下請代金支払遅延等防止法1963年中小企業基本法1970年下請企業振興法が制定されました。

  • 株式会社村田製作所
    1944年創業。当時の数少ない娯楽だったラジオの温度補償用に使われた円筒形の磁気コンデンサを製造。現在は、セラミックが持つ優れた高周波特性を持ち、小型で大容量を実現できる積層セラミックコンデンサーで世界一。その他、表面波フィルタ、MEMS センサ(加速度センサ)など(2022年3月期は、コンデンサやリチウムイオン二次電池等が伸び、売上約1.8兆円(1割増))。
  • 株式会社堀場製作所
    創業者の堀場雅夫氏は学生時代に原子核物理を研究していたものの、GHQによって原子核の研究を禁止されてしまったため、1945年、コンデンサー事業で創業。現在、自動車計測システム機器、環境・プロセスシステム機器、医用システム機器、半導体システム機器、科学システム機器等の事業を展開し、特に、エンジン排ガス測定・分析装置(分子の赤外線吸収を利用した計測方法で成分検出する仕組みなど)分野で世界トップシェア
  • ローム株式会社
    創業者の佐藤研一郎が、大学在学時に考案した「炭素皮膜抵抗」の特許を元に1958年創業。現在は様々な機能を顧客の要望に応じてカスタマイズする「カスタムLSI」が主力で、国内の集積回路のトップシェアを誇る。また、高速動作、低抵抗、高温動作によってエネルギーロスの大幅削減をもたらすSiCにも注力。(2022年3月期は、EV化によるLSI需要増などで過去最高売上約4,500億円)
  • 京セラ株式会社
    1959年、ファインセラミックス製造業として設立。現在の事業領域は、さらに情報機器、半導体部品、電子デバイス、太陽光発電、医療、ヘルスケア関連に及ぶ。(2022年3月期は、5G・半導体向け部品の投資が奏功し、3期ぶり過去最高売上約1.8兆円)

 

1973年の固定相場制から変動相場制への移行に伴う為替差損による輸出産業の大打撃、同年10月の第4次中東戦争を発端とする中東産油国の原油輸出制限に伴うオイルショック(原油価格の大幅上昇)による総需要抑制政策などの結果、1974年には実質GDPが戦後初のマイナスとなり、1974年度から1990年度まで実質GDP増減率約4%の「安定成長期」へと移行しました。税収不足により1975年度から赤字国債が発行され恒常的な財政赤字が始まりましたが、産業界は、そうした危機を乗り越えるため、工場の海外移転、経営の合理化・省エネ、素材産業や重厚長大産業からエレクトロニクスなどのハイテク産業への構造転換を進めました。京都においては、1978年の提言を皮切りに関西文化学術研究都市、1981年に京都縦貫自動車道の建設がスタートしています。
しかし、1985年のプラザ合意に伴う急激な円高で、工場の一層の海外移転が進み、産業の空洞化が生じる一方、政府・日銀は、金融緩和(低金利政策)を採り、円安促進(円高対策として金利の安い円から他の通貨への変換による円安を促す)と、内需拡大(低金利で資金を借りて設備投資を促す)を目指した結果、資金が設備投資だけでなく、株式や土地投機にも使われバブル経済が発生しました。またこの頃、行政改革の一環で、1989年の消費税導入、国鉄や電電公社の民営化が行われました。

  • 日本電産株式会社
    1973年設立。スマートフォン、PC、車などの様々な用途に使われる精密小型モータで世界を席巻。
    「まずは理想」と、設立初日に3名の社員を前に「1兆円企業を目指す」と明確なビジョンを1時間45分にもわたって語ったという永守氏。小さい会社は給料その他資力では勝てないからこそ、人心を掴むことを重視してきた。
    「経営は原理原則どおりにすれば簡単だ」との考えがあらゆる場面で生きる。価格設定では、「売値は市場で、原価は自社で」と、コストダウンや価格に関する感性を常に磨き、顧客離れや競合登場を許さない売値設定も追求。M&Aでは、「経営」立て直しをしやすい大幅に経営状況が悪い企業の中で、「技術」「人材」を抱える大手企業の関連会社に絞る。資金繰りでは、創業間もない頃に、取引先の不渡りで何度も倒産の危機に見舞われた経験から、不動産や設備も半分はキャッシュで払っても残りは分割払でキャッシュを残すなど、キャッシュフローを重視。
    当時は新興ベンチャーというだけで相手にしてくれない日本から、飛び込んだ米国で品質を見極めて大手が取引に応じてくれた経験もあって、世界中に事業を残し社会に貢献する夢とロマンのため、「企業価値の向上」を最大の目標にした「企業成長」が真骨頂。経営環境が安定している時には踊り場と捉え、危機の時にこそ常に各業界のトップメーカーを取引先に見据えてチャレンジをするというのも理に適う(そういう時には金融機関、取引先も融資先・新規取引先が少ない)。半分は自力で、もう半分はM&Aで、時間をかけてジグソーパズルのように事業ポートフォリオを埋めていく。さらには現地法人で稼いだ分は現地で再投資して現地に貢献しながら、為替差損対策としても常にグループ全体で債権債務のバランスをとる。
    16歳から株式投資を行い、自らも同社最大の個人株主である永守氏は、株主にも長期的視点を説く。2021年3月期の連結売上は京セラを上回り、2020年代のEV、さらには2050年のロボット社会を見据えている。2023年には社名をNidecにする予定。(2022年3月期は、過去最高売上約1.9兆円(営業利益も過去最高)。HDDモータで培った技術からPC用小型ファン、スマホ用リニア振動モータ(リアルな振動を演出する機能)、EV化の流れを掴むトラクションモータシステム等で攻勢をかけておられます)

 

1989年に日銀が行った金融引締(金利の段階的な引き上げ)、1990年に政府が行った総量規制(土地関連融資の抑制)というバブル経済抑制策をきっかけに、バブルが崩壊。途中、米国中心に起こったインターネット・バブル(2001年の世界同時多発テロもあって崩壊)、いざなみ景気(いざなぎの妻、いざなみから命名/戦後最長の73ケ月)、アベノミクスによる好景気(71ケ月)もあったものの、現在に至るまで実質GDPは漸増で推移しています。この間、1999年に経営革新や経営基盤の強化等の基本方針を盛り込む中小企業基本法改正が行われ、2013年制定の小規模企業活性化法2014年制定の小規模企業振興基本法に先んじて、京都府においても、2007年に中小企業・小規模企業を総合的に応援する中小企業応援条例を制定し、2008年のリーマン・ショック2011年の東日本大震災2020年以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大などが起こる中で、各種施策を展開してまいりました。

地球・社会・経済の構造的課題の解決のために

そして現在、パンデミックを契機に、地球・社会・経済の各分野における積年の構造的課題が大きく顕在化しています。

  • 気候変動問題。世界の自然災害損失額は、東日本大震災のあった2011年の4500億ドル、アメリカを2つの巨大なハリケーンが襲った2017年の3500億ドルなど近年増加の一途を辿っています。
  • プラスチック問題。プラスチック自体は、有害化学物質ではなく(生物に化学的な害はない)、分解による副生物を発生させるリスクも小さいが、それ故に、長期に亘って残ることが問題となっており、マクロプラスチックがそれを飲み込む生物を死に至らせる問題、食物連鎖を通じて人間の体内にまで入り込んでくる問題等が指摘されています。特に日本では、試算によると、再生プラスチック素材に生まれ変わるのは24%、そのうち国内でリサイクルされたものは9%と大変低く、生分解性の素材に変えていかねばなりません。
  • 水不足問題。地球の14億キロ立法メートルの水のうち、人類が水資源として利用できる淡水は2.5%にあたる3,500万キロ立法メートルで、さらに南極の氷や地下水等を除くと、わずか0.01%、10万キロ立法メートルしかなく、こうした真水の利用率において、日本等は砂漠地帯の次に高いと言われています。しかも、ものづくりの原材料、人々の食料などを多く輸入していることから、現地での真水の利用を考慮した「バーチャルウォーター」の輸入は、世界最大の年間804億tに及んでいます。海水の淡水化技術として、エネルギー資源が豊富なアラブ等では蒸留方式がとられていますが、エネルギーを使わない逆浸透方式に注目が集まっています。また、データセンター用に大量に水を必要とするIT大手等は、人工衛星データやAIを使った水資源常時把握システムや空気から水を作るウォーターサーバーを開発しています。
  • 食料不足問題。日本は、2005年に先進国の中で最も早く人口減少が始まりましたが、1950年には30億人弱であった地球の人口は、現在78億人に達し、国連の2019年発表データによれば、2050年に97億人、2100年に109億人に推移するとされています(ただし、2022年からは中国が人口減少に転じるなど、世界の人口増加率は1%割れで推移します)。こうした人口増加を支えてきたのが「食料増産」です。1961年と2017年を比較すると、世界の生産量は、食糧(主食の穀物)で3.4倍に、野菜で5.5倍、果物で4.3倍に伸びています。食料増産を図る手法の1つは、成長のために根から窒素を吸収する植物のためにアンモニア(窒素化合物)を大量生産する「ハーバー・ボッシュ法」による「化学肥料」、「農薬」、「品種改良」などの「収量増加技術の発達」ですが、エネルギーの大量消費等の弊害が指摘されており、スマートアグリなどのテクノロジーや、生産者の所得に配慮したフェアトレード等が注目されています。もう1つは、「生産面積の増加」です。アメリカやヨーロッパ諸国に比べアラブ諸国や日本等は食料自給率が低く、日本はカロリーベースで1960年の79%から最近は37%(生産額ベースでは66%)になっているのは、米からパン、野菜から肉食・乳製品へと消費の拡大の影響も大きく、今後、発展途上国でも、穀物・野菜中心から肉食・乳製品へのシフトが考えられます。しかし、家畜の飼料としての大豆栽培のためにブラジルの熱帯雨林が、食用油、スナック菓子、洗剤等の原料としてパーム油栽培のために東南アジアの熱帯雨林が、多く伐採されるなど森林破壊の問題が生じており、肉食をやめる「ビーガン」や、人工肉の開発等の動きが起こってきています。
  • 魚介類乱獲問題。2017年時点で21,000tに及ぶ世界全体の魚介類生産量の内、漁船漁業による生産量は1990年頃から9,000万t程度で横ばいであるものの、繁殖数や成魚になる年数等を加味した漁獲してもよい限界量「最大持続生産量」を上回る乱獲状態の種は、1975年の10%から最近は33%に上昇し、同量を下回り余裕のある種は40%から10%以下に減少しています。一方、中国を中心に養殖が漁船漁業を上回るまでに大きく伸びているものの、その飼料としては結局大量の魚粉を用いています。
  • 感染症問題。北里柴三郎は1894年にペストの病原菌を発見し、狂犬病やインフルエンザではワクチン開発の源となる血清開発で大きな功績を残し、野口英世は1910年代に梅毒や黄熱の病原体研究で国際的な成果を残しましたが、ペスト、マラリア、AIDS、コロナウイルスなど未だワクチンが開発されていないものも多くあります。近年では、2000年代初頭のSARSコロナウイルスの「重症急性呼吸器症候群(SARS)」、2009年の「新型インフルエンザウイルス」、2012年の「中東呼吸器症候群(MERS)」などが相次いで発生し、今回の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」も未だ解決していません。
  • 介護現場の問題。必要とされる介護従事者245万人に対し、現実は183万人(施設職員153万人、訪問ヘルパー30万人/2015年度)。グループホームでは3人の利用者に対し職員1人、24時間対応なら3人必要であるものの、実際はそうはいきません。同居家族だけの世話には限界があり(韓国では家族介護者にヘルパー資格を与え、ヘルパー間の交流・支援を実施)、外国人材には日本語の壁が課題です。
    問題の背景の1つには、厳しい業務であるにもかかわらず給料が低いということがあります。例えば、介護従事者の74%が利用者やその家族からのパワハラ、セクハラ被害にあっているという調査結果があり(日本介護クラフトユニオン)、認識の低い利用者はもちろんのこと、自身の力量不足かと悩む介護従事者(ヘルパーは直行直帰も多く相談機会が少ない)、利用者から契約を打ち切られる恐れで消極的になる介護経営者、人手不足、給料が安い、仕事がきついなどの介護現場へのマイナスイメージを有する世間の目など悪循環が起こっているのかもしれません。韓国では「産業安全保健法」に感情労働(相手の気持ちを優先して自分の感情をコントロールしなければならない働き方)者への保護条項が盛り込まれましたが、日本でもテクノロジーを駆使した「見守り」などが必要なのかもしれません。
    2つ目として、様々な人と関わりやりがいのある仕事ですが、制度上の不都合も指摘されます。介護保険制度(1~3割の自己負担)で認められなかった、掃除やペットの世話、電球の取り替え、外出先への送迎、散歩同行や墓参り、同居家族分の調理や洗濯などが、混合介護により全額自己負担の保険外サービスでは対応可能となりましたが、同居家族分の調理や洗濯は、利用者本人と家族分を分けねばなりません。また、ヘルパーが行う「身体介護」と「生活援助」のうち、後者は60分から45分に時間短縮されたり、病院への付き添いにおいても病院内は介護保険対象外となっているなどの弊害もあるそうです。こうした制度の隙間を埋めるものが、2025年を目途に自治体に移行される「地域包括ケアシステム」で、地域内のボランティアやNPO、商店等の新しいサービスが期待されています。
  • トラック物流問題。1990年施行「物流2法」の規制緩和に伴う競争激化(過積載・長時間労働(現在は働き方改革により4時間走行30分休憩など))、荷主第一主義(ドライバーの荷役作業負担)、2003年のリミッター装着規制に伴う90km速度規制、EC普及に伴う需要の増大、これらに伴って「過酷で給料が安い」というイメージが定着したことによる人手不足(50歳以上が4割以上という高齢化、ドライバーは就労ビザ対象外)という様々な問題を抱えています。

ESGについては、2004年に国連環境計画・金融イニシアティブが最初に提唱し、2006年に国連責任投資原則(PRI)に盛り込まれ、将来を見据えて運用されるべき世界の年金基金の中でも最大である、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GOIF)も2016年にPRIに署名したように、2020年時点で全世界35兆ドルにまで成長していますが、特に、リーマンショックを起爆剤としてヨーロッパがリードする形で進み、

  • 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年国連サミット採択)で、SDGs(持続可能な開発目標)17ゴール・169ターゲットが定められ(16平和、17連携、10人・国平等、5ジェンダー平等、1貧困、2飢餓、3健康福祉、13気候変動、12作る・使う責任、7エネルギー、14海、15陸、8働き・経済成長、9産業・技術革新、11まちづくり、6水・トイレ、4教育)、
  • 日本においても、「第5次環境基本計画」(2018年閣議決定)にて環境・社会・経済の総合向上、地域資源活用ビジネス、生活の質を高める新たな成長が謳われているところであり、京都においても、京都府環境を守り育てる条例(1995年)、京都府環境基本計画(第1次1995年、第2次2010年、第3次2020年)など推進してきたところです。

古来、食文化、織物産業をはじめ自然と共生した豊かな文化・産業を育んできたものの、石油資源を中心とした近代産業の波の地球規模での拡大に飲まれ、また、政治の中心地であるだけでなく町衆による高度な自治が培われてきたものの、少子高齢・人口減少社会に突入した現代においては地域コミュニティの弱体化、社会の担い手の不足が課題となっている中で、こうした地球・社会・経済のリスクの克服、その全体最適化、持続的発展に寄与する技術や産業の創出を図るためには、柔軟な発想を有するスタートアップ企業の集積が必要です。

世界観を描き、「絶対ほしい」を生みだそう

日本の開業率は1980年頃は約20%でしたが、現在の開業率は5.0%(京都4.3%)、廃業率は7.6%(京都7.4%)となっています(2016年経済センサスから便宜上算出した数字であり、支店等の開設廃止も含むため、起業・廃業の実態とはややかけ離れています)。しかし、パンデミックによる社会の構造的課題の顕在化に呼応するかのように、世界のユニコーン企業(創業10年以内、未上場、評価額10億ドル以上、テクノロジー企業。ちなみに、持続的成長と社会貢献を目指すのが「ゼブラ」)もVC投資額も急増しています。

  • 2015年には176社で、かつその大半がシリコンバレー発のものであったユニコーン企業は、2020年には568社、さらに2021年には959社に至り、うち494社はアメリカですが、アジア295社など分布は世界中に広がっています(ユニコーンになるまでにかかる時間は、1998年創業のGoogleは8年、2004年創業のFacbook(現メタ)は5年、Uberはわずか2年と年々スピード化。なお、世界最大のユニコーンはTikTokを運営するバイトダンス、国内第1号はメルカリ)。
  • 世界時価総額ランキングの平成元年のトップはNTT22.5兆円でしたが、令和元年のトップアップルは106兆円、2位マイクロソフト103兆円、3位アマゾン101兆円、4位アルファベット88兆円など、上位10社のうち7社はVCが投資した企業です(ナスダックの時価総額の中央値が500億円だとすると、東証マザーズは50億円)。
  • 世界の年間投資額ランキングでは、1位アメリカ3,474億ドル、2位中国1,079億ドル、3位イギリス376億ドル、4位インド368億ドル、そして日本は16位45億ドルとなっています。

「発明家」すなわち、スタートアップ企業に必要なものは何か?

  • 人々を魅了する「世界観(ピクチャー・ビジョン=問題意識と解決アイデア)」
  • ベンチャーキャピタル(VC)等の投資獲得の面で重要な「市場規模」
  • 「独自の洞察」、すなわち、具体的なユースシーン、局地戦で勝てる市場獲得戦略(ランチェスター戦略)、他者との協業のために求められる強み(比較優位の原則)
  • 「ビジネスモデル(マネタイズ)」や「チーム(デザイン、プロダクト開発力等)」

スタートアップ企業は、世界を一変させるような「創造的破壊」ほど「既知(気づいている)の未知(理解できていない)」「未知の未知(気づきも理解もしてない)」など未踏の領域へのアプローチを試みるものであるため、一般の金融機関ではなく「資本家」のサポートが必要です。

  • エンジェル:シード期(起業前)、小型資金、意思決定速い、人脈活用など多様な支援があり得ます。
  • VC:アーリー期(マネタイズ前)以降、中型大型資金、リターン最優先、財務以外の支援が乏しいです。
  • CVC:ミドル期(単月黒字化)以降、大企業とのシナジー

中でも、VCは大きなウエイトを占めていますが、彼ら自身、熾烈な競争にさらされています。セコイア・キャピタル、ベンチマーク、アクセル(フェイスブックに初期投資)らシリコンバレーでも有名な世界のトップVCらにおいては、徹底的に世界の最先端の技術をリサーチし投資案件を見極めるとともに、有望スタートアップ企業に選ばれるよう、資金だけではなく様々なサポート、付加価値を提供しています。

  • 米国の約8700社のVCにおいて、投資案件の65%が失敗・損失をし、利益(ヒット)が出るのはわずか35%、特に投資額の10倍を超えるホームラン案件は1%に過ぎません。
  • 投資の仕組みとして、年金基金や保険会社などの機関投資家(有限責任組合員LP)から、VC(無限責任組合員GP)は資金を集め、一般に10年のファンドを組成して、スタートアップに投資しています。LPにおいては、他への投資と比較し10年間で2倍~3倍になることを求めますし、GP(VC)においては、エグジットの際に投資金額を上回った場合にはその20%の成功報酬があるほかは、年2%の管理報酬しかありません(よって、シリコンバレーのVCとて数名程度の小さなものがほとんどです)。

そのため、重要となる1つは、将来エグジットする際の企業価値(バリエーション)です。

  • エグジット
    種類:経営権を持ったまま株式公開するIPO、経営権を他に譲るM&A
    実態:スタートアップ投資先のIPO:M&A=日本86件:47件、米国59件:750件
    IPO基準:株主数・流通株式時価総額=東証プライム800人以上・100億円以上、スタンダード400人以上・10億円以上、グロース150人以上・5億円以上など
  • バリエーションの算定方法
    DCF(割引キャッシュフロー)によるもの、PER(株価収益率)によるもの、売上額に一定倍率(5倍など)を掛けるものなど国や業界によって様々です。例えば医療機器では、薬事対応、販売対応などが必要なため、スタートアップ企業では難しい黒字化も、体制の整った大企業に買収されればすぐに実現できる事情などから、海外ではPERで無理に黒字化を目指すよりも売上倍率での算定が通例となっています。
  • 必要資金:将来のバリュエーションを見極めた上で逆算します。
    研究(魔の川)や起業のためのシードマネー
    開発(死の谷)・事業化(ダーウィンの海)のためのシリーズA
    競争(顧客拡大)のためのシリーズB
    安定経営のためのシリーズC

そして、もう1つは、市場規模、マーケティングです。

  • そもそも努力して売るのでなく、黙っていても売れる「セクシーな商品」を目指さなければなりません。なぜなら、先の資金調達の実情のとおり、市場の分析が不十分な「販売リスク」のある案件は論外だからです。
  • VCがリスクを負えるのは、「開発リスク」だけで、それとても、例えば医療機器でクラス4の開発リスクの高い製品の場合には、大きなリターンが見込めないと資金調達が難しいのです。たしかに、ニーズドリブン(マーケットイン)で顕在需要に対応する医療機器等と違って、創薬その他多くのスタートアップ企業が目指す、アンメットニーズ(ウォンツ)、潜在需要を具現化するテクノロジープッシュの分野では、「創造的破壊=発明(潜在需要×解決策(アイデア×テクノロジー))×社会普及」の公式からも分かるように、「偶然性」が付きまといますので、ネットワーキングパーティーのような出会いの場を増やすことがエコシステムとして重要です。しかし、何よりも、早い段階で市場規模を見定めねばなりません。ライフサイエンス分野であれば、「命までの距離」が遠いテーマを解決する商品ほど、価格が低くマーケティングや販売戦略の重要性も増すものの、技術、薬事、保険償還、ビジネスモデル、特許などの「解決策(アイデア×テクノロジー)」の検討の前に、病態の深掘(発生機序の解明)、市場分析(セグメント別ユーザー数)、ステークホルダー分析(ユーザーの満足度)という市場の吟味・評価を徹底的に行わねばなりません。

世界に伍するスタートアップ・エコシステム

そこで、「(1)アイデアや技術を持つ起業家」「(2)リスクを見越した適切な指導を行える先輩起業家、リスクのある中で投資する投資家」「(3)スタートアップ企業のプロダクトを使い、買収し、または人材を供給する地域企業」のトライアングル(エコシステム)を充実させることが必要であると考え、まず最初にオール京都・京阪神体勢の整備に取り掛かりました。

  • 2018年に、起業家等の産業人材の育成や産学公連携、重要な社会課題であるスマート社会の形成のためのオール京都のハブ機能として「一般社団法人京都知恵産業創造の森(外部リンク)」を設立
  • 2019年に、交流機能「オープンイノベーションカフェKOIN」(外部リンク)利用44,000人超:2019年度25,000人、2020年度・2021年度5,000人、2022年度3,000人(8月末))、連携支援機能(40以上の多様な経済団体が集積)、人材育成・ビジネス創出機能(20以上の会議室等:年間6,000件(時間利用率3割程度)、累計333,000人来場(2019年度165,000人、2020年度・2021年度は各75,000人))を有するオール京都の産業支援拠点として「京都経済センター(外部リンク)」を開設
  • 2020年に、オール京都体制をさらに拡充するため府内各地の37の支援機関で「京都スタートアップ・エコシステム推進協議会」、オール京阪神体制として「大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム」をそれぞれ立ち上げ、国の「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」におけるグローバル拠点都市の選定を受け(2024年までのKPI:スタートアップ企業166社(大学発96、VISA15)、ユニコーン1社)、施策の相互乗り入れや情報発信の強化

 

その上で「(1)アイデアや技術を持つ起業家」の輩出・育成を図るため、2020年度から「起業するなら京都」プロジェクトをスタートしました。

  • ピッチ会・プログラム等の年間開催回数(京都全体)2020年度:151件(知恵森36、京大32、KRP26など)、参加者延3,700名(2020年度)、2021年度:221件、参加者延15,500名
    2021年度も、研究者向けには関西イノベーションイニシアティブKSII(外部リンク)がシーズの掘り起こしを進めると共に、JSTプログラム(研究者に最大1,000万円など。2021年度「SCORE」14大学26件(うち京大4件)、2022年度「START」15大学27件(うち京大12件(バイオ等)、立命館大2件(ロボット等))など、学生向けには「マンスリーディスカッション」(毎月第3水曜開催)など、海外起業家向けには「K-GAP+」など実施中
  • コワーキング(京都全体):57カ所、インキュベーション(京都全体):22カ所(500区画以上)
    京都発の若手VC経営者による週一相談会「スタートアップアドバイザー」:2021年6月開始、VCとのコミュニケーションの取り方などを気軽に相談できます(2021年度114件、2022年度59件)。
    その若手VCのネットワークから引っ張ってきた東京等のVCによる壁打ち月一相談会:2021年5月開始、VCは売上を分解し売上/コストの大きなものから着手する頭の良さ等に着目しているそうです(2021年度61件、2022年度27件)。
    京都のVCによる壁打ち相談会「京都VCデスク(外部リンク):2022年7月開始(毎月第1・第2金曜日)(2021年度5件、2022年度5件)
    先輩起業家団体による月一グループメンタリング:2021年11月開始、若手経営者どうしで悩みを相談できます。
    スタートアップ月一専門相談会:2021年6月開始、弁護士や公認会計士にVC交渉時の注意点やバリエーションの相談ができます(2021年度6件、2022年度4件)。
    プレシード向けセミナー「Startup Challenge」:3ヶ月1クール、2021年4月開始
    女性コンシェルジュ相談窓口:2021年10月開始(第2・3水曜)相談累計50件
    小中学生向けアントレプレナープログラム「BizWorld」:2022年開始
    学生向け月一起業家交流会「Monthly Discussion」:2021年6月開始
    オンラインコミュニティ(JETRO京都との共同運営):2021年3月開始
    その他企業・支援機関による情報発信
  • ものづくり振興課関連補助金(スタートアップ企業採択):2020年度35件(2021年度50件)
  • その他、例年、京都商工会議所の創業相談7~800件、各商工会等の創業セミナー7~80回

その結果、

 

続いて「(2)リスクを見越した適切な指導を行える先輩起業家、リスクのある中で投資する投資家」の集積を図るため、2021年度から「世界に伍するスタートアップ支援事業」をスタートしました。

その結果

  • 投資家等ネットワーク:80機関以上(今後、例えばテックベンチャー支援に強いAmadeus(外部リンク)や、創業間もないアマゾン・グーグル・ツイッター・ウーバーなどに投資してきたクライナー・パーキンスなどとも連携が取れれば理想です)
  • 資金調達総額(民間調査):2020年度100億円以上、2021年度166億円(うち京大発スタートアップ企業が133億円)、2022年度上期150億円以上
  • 時価総額100億円超のスタートアップ企業数(民間調査):7
    2021年度も10億円前後の大型調達が相次ぎました。

次なる「(3)スタートアップ企業のプロダクトを使い、買収し、または人材を供給する地域企業」との連携促進については、社会課題のシーズ・ニーズマッチング等に取り組んでいます。

既に大企業への売却(子会社化)によるエグジット案件や、海外大型プロジェクトへの参画案件も数件生まれてきています。

リーマン・ショック後、米国東海岸では大企業を辞めて起業するケースが増えたように、今回のコロナ禍は、大企業より事業転換の点で小回りが利くこと、シリコンバレーや東京等ともリモートで繋がれると分かったこと、さらには金余りであることから、スタートアップにチャンスが到来しています。府外から京都に拠点を移すスタートアップ企業、支援者も散見されるようになり、新たな支援団体も立ち上がるなど徐々に「集積が集積を呼ぶ」状況が生まれつつありますが、シリコンバレーで約40,000社、パリ、ベルリン、ボストンで各約4,000社というスタートアップ企業数には依然遠く及びません。「最先端研究(0→1)、起業家(1→10)、事業会社(10→)」という一連の事業化・産業化フローの幅を更に広げることが重要です。

脱炭素イノベーションを実装するまちづくり「ZET-valley」

スタートアップ企業と大手企業との連携、さらには「まち」へのテクノロジーの実装を実践する場として、「ZET-valley構想(PDF:1,575KB)」をスタートしました。

京都は、1997年に「京都議定書」を採択した地です。2020年には、知事が「2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ」を宣言しました。ライフサイエンス、ロボット・ものづくり、AI・IoTの分野のスタートアップ企業、EVやバッテリーなどの大企業やサポートインダストリーが集積する京都の強みを活かす「脱炭素イノベーション」をテーマに、人材の育成から、共創、実証、そして社会実装までの「アジャイル型まちづくり」を進めます。

  • 資源貧国である日本において、石油由来ではなく「自然由来」のグリーンリカバリー(バイオファウンドリー):鉄道車両・ビル壁面の全面太陽電池化、再生エネルギーとEV充電の連携、CO2固定による素材製造のリモート操作、等
  • 人材不足・超高齢化が進む日本において、物理制限に囚われず「人間拡張」を図るリモート社会参画テクノロジー:寝たきりの方も働くことができるアバターロボットカフェ、分身AIアバターが自律的に社会参画(収入獲得) する「完全別世界(バーチャル)」、等
  • AI/IoT/XaaSによるスマートシティ:スマート街灯による人とロボット・自動運転車の共生社会、ごみリサイクル・アップサイクル、等
京都のスタートアップ支援の取組状況(PDF:298KB)

施策

事業承継・人材支援

 京都起業・承継ナビオール・京都の支援情報ポータルサイト 事業承継税制金融支援 batonz

事業継続・創生支援センターによる京都式第三者承継マッチング

既に日本の経営者の平均年齢は60歳を超え(京都府は60.1歳)(外部リンク)60歳代の経営者の約5割、70歳代の約4割が後継者不在(外部リンク)という状況です(帝国データバンク調)。

京都府では、2013(平成25)年度から、金融機関等を含めたオール京都体制(現在、ネットワーク会議)の下、M&A支援をそのスタートする事業承継・引継ぎ支援センター(外部リンク)(京都商工会議所)と、独自に全国に先駆け中小企業事業継続・創生支援センター(外部リンク)」を創設し、「事業承継」の支援、その中でも最も困難な問題と言える後継者不在企業への「後継者マッチング」に取り組んでまいりました

  • 「事業承継」は、単に企業の経営上の問題だけでなく、経営者とその家族、親族との相続税その他の財産問題、人間関係上の問題など課題は幅広く、業務改善や社内統制などの経営支援から税務、財務、法務等の専門知識まで幅広いサポートが必要であり、これまで金融機関、商工会・商工会議所等とも協力し、累計で約17,000件の相談(2022年度は8月末まで1,800件超)、約12,000社・者(同1,600社・者)の事業承継診断を行ってまいりました。
  • 「後継者マッチング」については、そもそも後継者不在情報が取引や資金獲得上の信用失墜の恐れから表面化しにくいため、後継者不在企業を探すことも、後継者候補を探すこともいずれも容易ではありませんが、当日まで企業名を伏せて行うマッチングイベント「未来ミーティング」の開催や、インターネットによる後継者募集企業情報の発信(外部リンク)などによって、累計約400件のマッチング(2022年度:第三者承継5件、従業員承継2件、親族承継13件など62件)を実現してまいりました。しかも、経営者を突如交代するものでなく、後継候補者を入社させ、育成してから交代する「京都式」第三者承継として、幹部候補人材も含めた幅広い人材マッチングを行っています。

課題は、後継候補者側の準備不足です。企業に候補者の紹介を行っても候補者の心構え・資質の不足で、企業の求める水準に達せずマッチングが不成立になるケースが多いです。従って、第三者承継の候補者を集めての「心構えセミナー」の実施などが必要かもしれません。

また、2021年度から副業・兼業人材のマッチングにも着手し、既に成約約50件(2022年度は8月末までで17件)に上ります。製造業・サービス業を中心に多岐に渡る業種の企業から依頼があり、東京等のWebデザイナーやコンサルタント等を使って、通販サイト制作や教育のAI化、旅館の経営改善や介護施設のブランディングを進める例をはじめ、ECサイト構築や業務のデジタル化のほか、マーケティングや薬事の専門相談など多岐に亘る業務で利用されています。

なお、府内有効求人倍率(有効求人数/有効求職者数)1.21倍(2022年7月、前年同期+0.15)、府内完全失業率(完全失業者/労働力人口)(外部リンク)2.8%(2022年1月~7月、前年同期-0.2ポイント)です。

事業引継ぎ支援補助金による事業承継型M&A支援

一方、府内事業所数は113,774(2016年経済センサス)でありますが、対2012年比率は96.5%で、もっとも大きく減少しているのは製造業89.1%です。

  • エリア別内訳は、京都市内70,637(対2012年比率96.2%、同製造業88.4%)、山城21,882(99.0%、96.5%)、南丹5,194(97.1%、95.3%)、中丹9,066(97.1%、91.3%)、丹後6,995(90.7%、81.8%)となっており、事業所数減少の最大要因は繊維工業の減少と見込まれます。
  • 業種別内訳は、建設業約8,500製造業約13,500(繊維工業約4,400、機械金属・樹脂約4,000、食料飲料等製造約1,300)、情報通信業約1,000運輸業約2,000卸小売約29,000(小売約21,000)、金融・不動産約9,000宿泊・飲食約15,200医療福祉約8,700サービス約26,000となっています。

こうした中、2021年の京都の廃業は1,003件と3年ぶりに増加しました(人手不足や人件費・資材高騰等が重なった建設業をはじめ全業種で増加/東京商工リサーチ調)。廃業時の従業員数の平均は約3名弱、往時で6名弱の小規模企業が大半であり、9割以上の経営者が後継者を探さない、5割以上の経営者が継いで欲しいと思っていないという状況(外部リンク)です(日本政策金融公庫調)。こうした実態から、廃業による周囲への影響が少ないケースが多いとも言われる一方、従業員の雇用の場の確保や、地域経済やサプライチェーンにとって貴重な財産である培われてきた技術・サービスの引継ぎは重要な課題です(2022年度の承継診断5,100件のうち廃業意思約40件(うち3件廃業(1件は引継ぎ)、3件廃業準備中(1件は引継ぎ))。

そこで本府では、2021年度から、「中小企業事業引継ぎ支援補助金(外部リンク)」を創設し、本来、景気後退期など買い手企業の買収意欲が弱い時期はM&Aは進みにくいものですが、コロナの影響を受ける厳しい状況の中にあっても、事業譲渡や廃業・縮小等の意向を持つ府内中小企業を引き継ぐ中小企業を応援するための補助制度を開始しました(2021年度6件採択、2022年度4件採択・6件相談中。食品、不動産、卸小売など多岐に亘り、同業者どうし、旧知の異業種で実施)

課題は、企業側の準備不足です。中小企業の場合、公開情報が限られ、経営と所有の区分が少ないなどのため、簿外債務をはじめ内部統制が不十分であることが多く、買い手企業にとって大きなリスクとなっていてM&Aが進みにくいのです。従って、築いてきた大切な資産等を継承するために、廃業時に事業承継型M&Aがスムースに行われるよう、将来の売り手企業(廃業企業)向けに、内部統制の整備など、計画的な廃業準備を支援することも、場合によっては必要かもしれません。

  • M&Aで実際に取引が成立するのは、相談案件、売買プラットフォームの登録案件のうち、せいぜい数%~1、2割と言われています。成長市場・高利益率の業種は当然ですが、継続的に売上がたつストック型ビジネス、規模のメリットが働きやすくて寡占化が進んでいない業種、あるいは人手不足の業種など、比較的サービス業やIT関連が向いているのに対し、設備投資が大きく、ニッチ部品を扱うケースも多い製造業は特に難しいとも言われます。そこで、規模のメリット(同業種)範囲のメリット(異業種)を活かせる「買い手企業」などに繋いでいくことが重要です。
  • また、特に中小企業のM&Aは、敵対的買収や乗っ取りといったものではなく友好的なものである一方、会計書類が公開で会計監査もなく、内部統制も十分ではない、あるいは属人的な要素が強い故に買収後に社員が辞めるケースがあるなど、容易ではありません。そこで、「売り手企業」は、逆に以上の内部統制をしっかりしておくことが重要です(2020年に、国内でも「表明保証保険」が登場)。

「親族承継」と「第三者承継・M&A」の企業評価の違い

事業承継は「経営(代表者)の承継」(親族承継や第三者承継)、「所有(株式)の承継」(MBO(経営陣による買収)やM&A)のほか、中小企業の場合は「代表者個人資産(会社に提供しているもの)の承継」が絡まり合いながら、売り手(企業)、買い手(後継者・企業)間で取引を行っていくこととなりますが、その価格の非公表性や算定ノウハウ不足などが第三者承継・M&Aの難しさの要因の1つです。

  • 親族間における非上場株式の評価」については、その例外として租税公平主義の見地から、租税負担を回避する取引は認められておらず、同族株主の有無や個人・法人の別などによる細かな計算方法が税務基準で定められています。
  • 「純然たる第三者」の場合は「契約自由の原則」どおり、当事者間での合意による価格となります。M&Aの場合は、時価純資産額(コストアプローチ)、類似事例額(マーケットアプローチ)、将来収益額(インカムアプローチ)など様々な理論がありますが、中小企業の場合は、「時価純資産額+営業権(営業または経常利益×数年分(業種による))」が目安とされるケースが多いです(最近は、事業引継ぎにもAIの活用による効率的な手法(外部リンク)も登場)。
  • なお、MBOの場合には、資力を補填するためファンドを活用されるケースもあります。GP(無限責任組合員=運営者)は、LP(有限責任組合員=投資家)の協力を得てファンド(投資事業有限責任組合等)を組成し、キャピタルコールと言って、投資案件ごとにSPC(特別目的会社)を設立して、ファンド出資とLBOローン(金融機関借入)を行い実行します。

なお、非上場会社の株式等取得に係る贈与税・相続税の納税猶予を行う「事業承継税制」について、事前確認は2018年以降の累計で約300件(年50件以上)、認定は2009年以降の累計で約190件(近年は年2~30件)の活用があり、中長期的に事業承継の準備を進める契機になっています。

中小企業事業継続・創生支援センターの取組(PDF:269KB)

事業承継施策

人材支援施策

子ども・学生向けセミナー等レポート(一部)

戦略・知財支援

京都企業紹介(業種別) 京都企業紹介(五十音順)

プロセス改善と魅力ある製品づくりの同時実現

2021年度の国の税収が約67兆円となり、2年連続で過去最高を更新しました。5Gや脱炭素関連技術の実用化の加速、コロナによる巣ごもり需要の増加を背景に法人税収が増えた2020年度に続き、コロナ禍からの経済回復や円安による輸出企業の好業績を反映して法人税が約14兆円(+2兆円)、大企業から株主への配当が増えたことなどで所得税が約21兆円(+2兆円)、個人消費の回復、年度後半の物価上昇の影響もあり消費税も約22兆円(+1兆円)の見込みです。しかし、そもそも利益計上法人は法人数全体の約3割にとどまり、残る7割が欠損法人である(外部リンク)日本の実情を反映するかのように、2020年度の国内総生産GDPの対前年比(実質/速報値)マイナス4.6%となり、リーマンショック(アメリカ経済は、世界経済に対しGDP約2割、決済通貨6割超、上場企業時価総額5割超、債権時価総額約4割と、大きな影響力を有している)が起きた08年度のマイナス3.6%を上回り、比較可能な1995年度以降で最大の下落となってしまいました(雇用調整助成金の利用ではリーマンショック時の4倍)。そこから回復を辿り、2021年度の工作機械受注は、半導体製造装置向けなどの受注が伸びて、対前年度比7割増、過去3番目の高水準の1兆6,677億円に達し、2021年度の月平均消費支出は28万935円と4期ぶりに増え、コロナ第6波が明けた2022年4-6月期のGDPは中国のロックダウンの影響等があったものの年率換算で2.2%となり、コロナ前の2019年10-12月期を超えました(今後第7波の影響が心配されます)。この間、瞬間的な問題だけでなく構造的な問題も明らかになりました。

  • 感染拡大による港湾関係者の出勤減に端を発するコンテナ不足その他の物流の混乱
  • グローバル化によって分散されてきたサプライチェーンの脆弱性、日本のデジタル化の遅れの露呈

そして、コロナは、立地、プロモーション、価格、製品など様々な面で構造的な変化をもたらしています。例えば、

  • 立地:2022年1月の全国の公示価格(土地取引:公示価格(国交省、1月1日時点、約2万6,000カ所)、基準地価(都道府県、7月1日時点、約2万カ所)、相続・贈与税算定:路線価(国税庁、1月1日時点、約33万カ所))は、平均で2年ぶりに前年比増に転じました。工業地は巣ごもり需要増による物流施設用地などの上昇が目立ちました。商業地も上昇するもコロナ禍での通勤者減によるオフィス街の低迷が目立っています(大阪がマイナスである一方、京都はインバウンドが減少するも国内観光客の需要が高いこともあって増加に転じました)。住宅地はテレワークの拡がりによる郊外の住宅地需要増を反映しました(それ故、コードレススティック型は伸びていますが、ロボット掃除機は全体として減少)。
  • プロモーション:様々なSNSを駆使して、大量の情報の中からターゲットにピンポイントで情報を届ける必要が生じています。

そもそも日本は、長きにわたり、付加価値や賃金が上がっていません。

  • 付加価値が上がらない一人当たりGDPが米国で127.6千ドルなのに対し、日本はG7諸国中最低の77.8千ドル(2019年)で、1995年頃から横ばいです。何より深刻なのは、これまで世界的シェアを誇る電子部品を生み出すグローバル企業、そのマザーマシンの部品づくりを支える中小企業の存在が象徴する「精緻さ」が京都の強みでしたが、AI、IoTなどのDXによってナノレベルの加工も機械が実現し、職人技に取って代わるようになっています。
  • 賃金が上がらない:付加価値が上がらない要因の一つが、宿泊・飲食や医療・福祉分野を中心とした非正規雇用の増加です。これによって、女性の年齢階層別労働人口比率の「M字カーブ」が消滅するなど、女性の社会進出が進んだ面もありますが、1997年を100とした場合、2016年でスウェーデンが138.4、フランスが126.4、米国が115.3なのに対し、日本は89.7と大きく下回っており、2020年も平均給与は433万円と前年より下回っています。

一方で、現在、コストは上がっています。

  • 原材料・電気料金・エネルギー価格が高騰している
    原油や鉄等は、基本的に需要が高いものである一方、脱炭素の流れを受けて投資(産出)が抑制され、投機筋も絡むなどして高騰基調が続いています。原油に関しては、OPECの原油産出の抑制に対し、米国等でシェールオイル・ガス(地下深くのシェール層に閉じ込められたままの石油・天然ガス)の開発が進められていますが、レアメタル(経済産業省指定31元素)、レアアース(バッテリーに使われるコバルト、永久磁石に使われるネオジム、レーザーに使われるYAGなど世界標準17元素。一般にマグマで生成され、N核軌道(原子の内側からK,L,Mの順)に電子の「空席」がありつつ外側のO核に電子があるもの)はもちろんのこと、鉄は過去数十年において経験したことのない価格上昇をしています。
    --鋼材(鉄筋、鉄骨、H型鋼、薄板、厚板等:建築用の鉄筋・鉄骨については、2010年から2020年までは、鉄筋が50,000~75,000円/t、鉄骨が62,000~89,000円/tで推移してきましたが、2022年5月では、それぞれ124,000円/t、119,000円/tまで上昇しています。また、工業用のH型鋼・薄板、厚板も2倍程度に跳ね上がっている様相です。その原因は、「原料価格の上昇」(鉄筋は、電気炉で生産され主要原材料は鉄スクラップ、鉄骨は、高炉で生産され原材料は鉄鉱石と石炭で、いずれの原材料も2倍以上に高騰)もありますが、コストに占める割合は大きくなく、自動車・造船など「コロナ禍からの需要回復」、CO2排出削減のための「鉄鋼メーカーの供給制約」(高炉から電気炉への転換の大きな流れはあるものの、高付加価値化・大量生産の実現にはまだ遠い)による影響が大きいと考えれらます。
    --アルミカット材:「ボーキサイト」「地金(輸入)」「合金(大手製鋼所)」「アルミカット材(地域商社)」というサプライチェーンの中で、地金の輸入価格は2倍以上(2021年初旬約280円/kg、2022年春約480円/kg)になっているものの、コストに占める割合は大きくなく、カット材の価格自体は決して大幅に上がっているわけではありません。今後も、半導体不足に伴う半導体製造装置でのアルミカット需要が見込まれるなど、需要は拡大傾向です。

    国内物価指数は前年比10%増(素材は6割)であるのに対し、最終財は5%増(いずれも2022年4月速報値)となっています。商社や、これまで様々な調達ルートを確保してきた一部の中小企業等では収益を向上させる機会にもなっていますし、この際価格転嫁を順調になさっている企業もあります(製品単価に占める原材料比にもよりますし、切削液など原材料費そのものではないものは難しい)が、価格転嫁が進みにくい理由の1つには、賃金が上がらない中での最終製品の値上げは顧客離れが進みかねない懸念があることだと思われます。

    電気料金も値上がりしています。日本卸電力取引所(JEPX)の価格に連動して電気料金単価が変わる「市場連動型プラン」もありますが、「従量電灯プラン」など一般的な電気料金は次の要素で構成されています。
    --基本料金(大手電力会社は発電・送電・小売を内製化しているものの設備費がかかる。新電力は設備費はからないものの、仕入れが必要。新電力は、FIT(FIP)の交付金を見込んで営業人件費を押さえたり、さらには検針票を発行しない、支払方法を限定するなどコスト削減に取り組むことで、中には基本料金無しのところもあります。)
    --電力量料金(燃料費調整額除く)=1kWh単価(省エネ促進で使用電力量累進(東京電力従量電灯B19.88円~30.57円)。統計から見込む「基準燃料価格」が含まれる。)×月使用電力量(kWh)
    --燃料費調整額=1kWh単価(過去3カ月の「平均燃料価格」「基準燃料価格」差額を2カ月後に反映。東京電力EP従量制2021年6月-3.29円→2022年1月-0.53円→2022年6月2.97円(外部リンク))×月使用電力量(kWh)
    --再エネ賦課金(再エネ発電から電力会社(小売)が電気を買い取る費用の補填原資)=1kWh単価(2012年度0.22円→2021年度3.36円)×月使用電力量
    このように、新電力の場合、仕入れを主とし、薄利で供給するビジネスで、利益を確保するために多売先行で動いた結果、価格急騰に耐えきれず破産、撤退するケースが生じてきています。設備費がかからない分、原価における材料費が大きく、今回値上げ幅が大きいです。仮に倒産した場合、新しい電力会社に切り替えるまでの間は、旧来の大手電力会社が電気を届けます(最低保障料金となるため、一般に民生であれば標準的な電気料金の2割増、入札で個別に契約している大規模施設等の場合はさらに大きな増加となります)。
    現在問題となっているのが、先の見えないコスト値上がりのため、大手電力会社すら契約更新(入札)に応じられず、最低保障額への変更となり、結果として電気代が数割増となることです。

    鉄鋼や化学等を含む全産業においては、消費エネルギーは、熱8割、電気2割と言われています。
    --ボイラー(火炉式・ガス式・電気式):食品や染色などの分野で、洗浄、乾燥、殺菌、反応・溶解、濃縮・蒸留などの主要工程で、ボイラー(水などの液体を加熱した熱で、湯や水蒸気を作り出す)による蒸気が用いられています。
    過剰な加熱の改善、燃焼空気比の改善、蒸気から発生したドレン(結露)回収による効率化、ボイラーの廃熱再利用、蒸気タービンによる発電利用
    --コンプレッサー(電気式):多くの工作機等を動かすためにコンプレッサーによる圧縮空気が用いられています。
    過剰な吐出圧力(使用電力に反映)の改善、吸気口を低温にして空気密度の向上(効率化による使用電力抑制)、吸気口とコンプレッサ-の間に空気タンクを設置し過剰な圧力変動の抑制、空気圧縮機構(ピストンまたはスクリュー)へのインバータ導入、複数のコンプレッサーを導入している場合における、工作機の稼働状態に応じたコンプレッサー稼働台数の自動制御、通常の工場全体にくまなくエアを送る集中管理方式から必要な箇所だけの分散方式への切替え、コンプレッサーの廃熱再利用
    --省エネ冷蔵庫、省エネ工作機
    --空調・断熱:フィルター・フィン(熱交換器)の清掃、室外機の遮光
    --照明:LED照明の導入
  • 部材が不足している
    部品調達に関しては、企業人において心労にも繋がっており、心配されるところです。
    プリント基板用コネクタ等の樹脂成形品の不足:原料であるナイロン6,6(電子部品や自動車等で用いられる、耐熱性・強度の優れたナイロン)の不足、正確には、ナイロン6,6の原料である化学材料アジポニトリルの不足(その合成が技術的に高度でメーカーが限られていること、その中で中国の工場の爆発事故さらには昨年の米国の寒波等で数ヶ月生産が停止したこと、EVやゲームなど需要が増加していること)
    半導体デバイス(及びそれを搭載する製品全般):5Gの実用化、コロナニーズなどの需要急増、コンテナ不足などコロナによる供給体制の逼迫、旭化成・ルネサスなど工場火災などの不足の事態などが重なった。そもそも半導体、特に最も需要が多いICチップは、代替品に変更することが困難であることも要因(それを組み込む装置を動かすソフトウェアの変更が必要となるため)(ただし、供給不足で好調であった半導体市場ですが、中国経済の減速懸念やインフレを受け、2022年春を境にDRAMの在庫がだぶつき価格が3割ダウンするなど、別局面の新たな懸念も生じています)
  • 輸出恩恵が少なく輸入コストが高まる円安が進む:世界で広がる金融引締の流れの中での金融緩和(低金利)の維持、資源が少ない国故に物価上昇率が低い中で輸入コスト増加の拡大などによって円安が進んでいます。日本での生産を想定すると、円安により輸入部品価格が上昇し、国内販売分は価格転嫁しない限り利益が縮小、輸出販売分は円安により売上価格が上昇(あるいは価格を下げて売上拡大)ということになるわけですが、企業の海外生産が進み、輸出恩恵効果が乏しい一方で、エネルギー・原材料価格の高騰が一段と輸入コストを引き上げています。(経常収支=貿易収支(輸出(価格(為替変動)×量(景気変動))ー輸入(価格(為替変動、実態変動)×量(実態変動)))+サービス収支(輸送、旅行等)+所得収支(外債の利子)+経常移転収支。2021年度の経常黒字は12.6兆円と原油高等の影響で14年ぶりの低水準)

こうした中、日銀は現時点(2022年3月)では金融緩和策をとっています。

  • 金融緩和(金利抑制・マネー増で経済を活発にする)
    公定歩合引下げ、量的緩和(公開市場操作の買いオペレーション、法定準備率引下げ)
  • 金融引締(金利引上・マネー減で経済を抑制する)
    公定歩合引上げ、量的抑制(公開市場操作の売りオペレーション、法定準備率引上げ)

内閣府「月例経済報告」(2022年8月)、日銀京都支店「管内金融経済概況」(2022年7月)、京都府「京都府経済の動向」(2022年8月)は、いずれも「景気は緩やかに持ち直している(コロナ、海外景気の動向を注視)」という見立てでありますが、以上のとおりグローバル経済による問題が深まっており、世界銀行は1970年代のように物価高と景気後退が併存するスタグフレーションが生じるリスクを懸念しています。

  • ウクライナ侵攻に伴う一層の原材料価格高騰・不足
  • 中国ゼロコロナ政策(ロックダウン等)による生産・物流など経済全体の停滞による世界経済全体への影響

このように「労働者(消費者)の賃金が上がらない」中で、「エネルギー・原材料価格の上昇」に耐え、「価格転嫁」を実現するためには、販管費の抑制(技術力で勝負)、材料費の抑制(内製化できない材料ではなく加工力で勝負)など「プロセス改善(生産性向上)」と「魅力ある製品づくり(付加価値向上)」を同時に図らねばなりません。

文芸理の融合

そのためには「文芸理」の融合視点で改革していくことが最適ではないかと考えています。

  • 「芸」とは、自社の中の強みを徹底的に掘り起こすことであり、いわば「自分軸・主観的視点(創造性・クリエイション・逆説性、近づいてみる鳥の眼、子どもの無邪気さ、無形資産と時価総額を作る)」です。
  • 「文」とは、ヒューマンインサイト・満足・集合的無意識を捉えるために、知財戦略やビジネスモデル、プラットフォームなど、他社との接続に関する戦略を徹底的に考えることで、いわば「顧客軸・客観的視点(新結合・イノベーション・社会性、流れを見る魚の眼、大人の目線、無形資産と時価総額を拡大する)」です。
  • 「理」とは、イノベーションの阻害要因である先入観に囚われず、データ解析から問題を的確に捉えるとともに、デジタル化によりローコストで自分軸から顧客軸を繋ぐ、いわば「神や仏の視点(俯瞰する鳥の眼、経済合理性)」です。

芸 --知財戦略

「特許(技術の占有)」「標準化(技術の開放)」「競争法(独占禁止法等)」のバランスを保ちながら、オープンイノベーションにおける知財戦略は、「方法」は「秘匿(ブラックボックス化)」して守り、「原理(効能)」は「特許化(オープン化)」して信頼性を高め、「インターフェース」は「標準化(普及)」して市場拡大を図ることが重要です。

まず「特許化」に関しては、新型コロナウイルス感染症が地球規模で蔓延し、経済に大きな打撃を受けた2020年においても、国際特許出願件数は対前年比4%増と過去最高を更新するなど、世界中で留まるところを知りません(近年の特許出願:世界300万件超、日本約30万件(国際出願約5万件)、京都約1万件)。

  • 特許権
    【対象】発明=自然法則を利用した技術的思想(アイデア)の創作(発見ではない)のうち、高度もの(物、方法) (産業利用可能、新規性、進歩性、先願等)
    【手続】出願(発明者(自然人)又は発明承継人(自然人たる従業員を使用する法人など)。方式審査)、出願公開(1年半後)、審査請求(実態審査。3年以内)、登録・公報掲載
    【効力】(1)保護:自ら特許発明実施権(生産・使用・譲渡等)を専有。(2)利用:他者に特許権(全部)移転、他者に実施権(通常実施権(契約で定めた範囲)、専用実施権(譲渡者も含めて排他的))移転。なお、職務発明の場合、従業員が特許を受ければ企業は無償の通常実施権を得るし、企業が特許権、専用実施権等の移転を受けると従業員に相当の対価を払う。
    【期間】出願から20年
  • 実用新案権
    【対象】考案=自然法則を利用した技術的思想の創作で、物品の形状、構造又は組み合わせ(産業利用可能、新規性、進歩性、先願等)
    【手続】出願(方式審査)、登録・公報掲載
    【効力】特許権とほぼ同様
    【期間】出願から10年
  • 意匠権
    【対象】意匠=物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるもの(工業上利用可能、新規性、創作性、先願等)
    【手続】出願(方式審査・実態審査)、登録・公報掲載
    【効力】特許権とほぼ同様
    【期間】登録から20年
  • 商標権
    【対象】商標=文字、図形、記号、立体的形状、色彩の結合したマーク(標章)で、事業者が商品・サービスに利用するもの
    【手続】出願(方式審査・出願公開・実態審査)、登録・公報掲載
    【効力】(1)保護:使用権(専用権)、禁止権(類似物に対する禁止)。なお「団体商標登録制度」の場合は、使用するのはその団体の構成員。(2)利用:商標権・実施権移転など。なお「地域団体標登録制度(全国的知名度がなくとも一定の周知性があればよい)」の場合は、使用するのがその団体の構成員であることに加え、商標権・専用実施権の移転は不可
    【期間】登録から10年
  • 著作権
    【対象】著作物(思想又は感情を(単なるデータは不可)、創作的に(単なる事実は不可)、表現したものであって(アイデアは不可)、文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属するもの(芸術的建物、コンピュータプログラムは含む。農産物、工業製品、出版は不可)。創作性の高い二次的著作物を含む)、著作隣接物(実演、レコード、放送・有線放送)(出版は不可)
    【手続】無(著作者(自然人又は法人(職務上の創作の場合は、自然人たる従業員ではなく、使用者たる法人)による創作)
    【効力】(1)保護著作権は、譲渡・相続できない著作人格権(公表権、氏名表示権など)、譲渡・相続できる著作財産権(複製権、上演・演奏・上映・公衆送信・譲渡・貸与等の権利、二次的著作物創作権・利用権)。著作隣接権は、実演家には実演家人格権財産権(利用許諾、利用報酬請求)、その他には財産権(2)利用:財産権、使用権(実施権)の移転
    【期間】人格権は生存中、財産権は生存中及び死後(無名、団体、映画の場合は公表後)70年

次に「標準化」は、産業革命を起こした蒸気機関、紡績機等においても既に採り入れられてきました。技術の普及には、従来技術との比較優位性、既存行動との適合性、分かりやすさ、試用可能性、可視性の5つが重要だと言われるように(E・ロジャーズ)、単純化・統一化により互換性を確保する必要があります。

  • 市場競争の結果として生まれた事実上の標準「デファクトスタンダード」
    自社のみの努力で実現でき、技術は非公開であるため、利益に直結します。
  • 通常の「標準」
    その取扱いは諸刃の剣でもあり戦略が重要となってきます。
    供給者側には「参入が容易(「すり合わせ」から共通規格の既存部品の組み合わせで済む「モジュラー化」が進むため)」「開発・製造コストダウン」「市場拡大(ネットワーク外部性、スイッチングコストによるロックイン(顧客囲い込み))」と、かつての日本、現在の新興国のように、安く作れる者にとってはメリットがありますが、「技術漏洩(参入障壁減少。モジュラー化で共通規格の部品さえ作れれば参入可))「差別化困難・非標準品市場開発困難」「販売価格低下」といったデメリットがあります。
    一方、需要者側にとっても「調達互換性拡大」「調達コストダウン」「調達量・品質の安定」というメリットと、「製品選択肢の減少」「購入品へのロックイン」というデメリットが並立しています。
    従って、供給側の戦略としては、シェアを落としてでも市場全体を拡大する戦略、あわせてユニット化する標準化していない部品で差別化を図る戦略(標準化の周辺に特許を配置する戦略)、自社規格を公的標準化することでライバルの参入を抑止する戦略(コンデンサーメーカーでは、これによってセットメーカーへの提案型ビジネスを展開し、回路モジュールまで設計)、他社と調整して技術を統合するのではなく、互いの技術それぞれを標準規格とするマルチスタンダード戦略などが必要です。
    一方の需要側の戦略としては、競合他社より調達コストを下げるなら一定の範囲のみ(例えば日本のみ)で標準化を行う戦略などが考えられます。
    なお、標準化の手法は、製品標準化の場合は、様々な製品の平均をとるなどなされますが、特に検査標準化の場合は、その方法で測ると、性能差があることは一目瞭然だが、なぜその性能差が実現できているのか、どこをキャッチアップできるのかは分からない試験方法であるべきと言えます。
  • 一般に認められている団体によって認証される「デジュール標準」
    世界三大標準化機関(IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)、ISO(国際標準化機構。ISO9000シリーズ(品質マネジメントシステム)、ISO14000シリーズ(環境マネジメントシステム)等))によるもののほか、製品安全4(電気用品安全法、ガス事業法、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律、消費生活製品安全法)、CEマーキング法(EU地域に販売される指定の製品の適合性評価。自主宣言と第三者認証がある)、CCC(中国における製品第三者認証制度)、JISマーク表示制度(本来強制力はないが法律で引用されるケースも多い。2005年改正以降、民間認証機関による製品認証制度)、地域団体商標(加入自由な組合が組合員に使わせるもので、産地・販売地、原材料など一般的な用語で登録可能)など様々なものがありますが、主に供給側と需要側の間に立って「信頼性を高める」ものです(地域団体商標と合わせて独自の地域ブランドで差別化を図る取組も行われることがあります(今治タオルなど))。
    一方、SIAAマーク(抗菌加工製品。持続性試験後の抗菌活性値が無加工品と比べて増殖割合1%以下の場合に「抗菌加工品」と呼ぶ。JIS化、ISO22196でも「KOHKIN」の記載あり)など「差別化を図る」ための認証もあります。
  • 標準化しようとする技術の中に特許が存在する「標準必須特許(SEP)
    標準規格に必要な特許を指しますが、特許保有者自ら判断・宣言するもので、例えば5Gに関するSEPは約4万1,000件と言われるものの、実際に活用されているのはその3分の1程度という調査結果もあります。パテントポリシーが標準化団体で決められていたり(特許の排除、無償提供等)、パテントプールが特許の一括管理したりといった仕組みがあります(クアルコムのように対象技術の製造部門は売却して、特許ライセンス料だけで収益を上げる例も)。欧州は認証ビジネスが盛んで、ジュネーブに本社を置き、従業員8万人、世界140カ国に展開しているSGSなどの認証機関が数多く存在します。

文 --ビジネスモデル・プラットフォームによりQCDからVPS

QCDだけでなく、V(顧客にとっての価値)P(プラットフォーム活用)S(シナジー)の時代です。GAFAM、BATをはじめとするプラットフォーマーが席巻している現代において、それらといかに組んでいくかを考えることが重要だからです。プラットフォームも多階層化していることに加え、プラットフォームの発展に伴い周辺のエコシステムの構築にローカルのツールが必要となっていること、さらに、巨大プラットフォーマーになるほど汎用化し独自性のあるビジネス主体との連携を求めており、地域の中小企業には自社ビジネスの発展の大きなチャンスとも言えます。

Prodact・Priceに関する事例

  • 高付加価値化と低コスト化の両立
    品数増やして魅力を高める一方、開店時間を短くしてコスト削減
    個室は就寝・身支度スペースに限定する一方で、共通スペースを広く快適なリビング・コワーキングスペースとするホテル
    一流フレンチシェフに好きな食材によるメニュー提供を許す代わりに、その高い原価率を立ち食い方式による高い回転率でカバー
    理系出身者の研究開発により人気飲食メニューに絞ることで、食材ロスを減らし効率性向上
    飲食の注文が入った時だけキッチンを借り、メニューの充実に注力
    「無料・制限有・広告有」と「有料・無制限・広告無」の組み合わせによる音楽配信(スウェーデンでは著作権問題が25%減少)、「無料POSレジ」と「データに基づく有料情報提供」の組み合わせによる飲食店支援
    高額料金だが2ヶ月で目標達成できねば全額返金されるフィットネス(完全予約制でスタッフの稼働も無駄をなくす)
  • パーソナライズ
    1対1の試着コンサルティング
    数百のマーカー付きボディスーツを試着しスマホ360度カメラで採寸することで、在宅オーダー衣料提供、メガネを自宅で試着でき、SNSに投稿するとアドバイスを得られ(広告塔)、最後は視力検査アプリで検査し注文
    オーダーメード飲食メニュー
    VRで様々な世界を巡る高付加価値型のフィットネス
  • 社会課題意識
    リサイクル促進のための衣類・プラスチック回収プラットフォーム(集めた服から作ったバイオ燃料でデロリアンを走らせる)
    違法銃から金属リサイクルして得た資金を途上国の社会課題解決に活用
    保険の余剰金を共感する社会課題の解決に関係する団体に寄付する仕組みで、保険を使わないようにさせる
    ポイ捨てゴミを回収し写真をネットで提供(自治体の施策に活用するオープンデータ)
    真っ暗闇の中での体験エンターテインメント(視覚障害者が健常者をサポート)
  • シンプル化・シェアリング
    農家どうし、自動車部品メーカーどうしが、仕入れ価格の相場を知ることができる情報プラットフォーム
    ジーンズリース
    AIでインターネット上の情報を見つけ、報道機関に提供
    職業的スキルや趣味の共有
    複雑で各国で異なる国際貨物輸送を支援するデータプラットフォーム
    海外への送金において、大量の双方向の送金者を抱えることで実送金量を抑え送金手数料を激安にする、各国に支店を有することで各国内での取引に変換し手数料をとらなくする
    語学学習者に任すことで企業向けに翻訳を激安にする
    手料理をシェアリング

Promotionに関する事例

  • チャネル増加とデータ収集の両立
    ベータ版専門小売店で、天井カメラによるアイトラッキングで来店者の視線や手の動きを計測した結果を、出品者に提供
    オンラインブランドに一時的な実店舗を提供するため、空き物件をシェアリング
    返品商品と各種再販サイトをつなぐプラットフォーム(情報、倉庫、決済)、宿泊予約を販売できるサイト
    ネット配信で「ギフト」を送るほど、視聴者は目立つポジションに位置取れる
    インターネットに埋もれる情報の中から見出した(評価した)人に金銭的インセンティブを与える
    不揃いな野菜や有機農法野菜専用宅配システムで、消費者の評価も合わせて集める
    田んぼアートをアプリで読みとった人は、その田の米が買える
    購入者が共同購入のノルマを達成すると割引される
    患者が医療データを提供すると報酬が発生
    UberやLyftなどのライドシェアサービスの車内でコンビニBox提供
    施術後の「リカバリー」にこそ不安が最大になっていることを見い出した「整形日記」により、価格も実力も分かりにくかった美容整形業界において、患者とマッチングするサービスが生まれている
  • キャッチフレーズ
    生魚を敬遠するアメリカで、明太子を「タラの卵」ではなく「ハカタ スパイシーキャビア」と言い方を変えて成功

Placeに関する事例

  • 人材育成
    フルカラー化、ストーリー転換のスピード化(テーマを女性に絞りドラマチック性を追求)や、若者がスマホを使う夜9時配信など、徹底した「スマホ最適化」、視聴履歴から監督、俳優、ストーリーの組み合わせを最適化してコンテンツ制作を行う「レコメンド制作」を行う(漫画アプリ「快看漫画」)
    若手漫画家が投稿する無料漫画アプリの最後に広告を表示させ、最後まで読まれたら漫画家に広告収入が入る(国内マンガ市場6,600億円(2021年)のうち、既にLINEマンガやピッコマ、少年ジャンプ+、マガポケなどの電子市場が4,000億円を超えています)
    美容スタッフ個人の指名アプリ
  • 資源活用
    有名人が10秒単位で時間を「発行」し、プライベートで繋がれる時間として売買、流通される
    空きスペースと荷物保管場所を探す人をつなぐプラットフォーム(倉庫版Airbnb)
    要るのか判別の付かない荷物の保管と、要らないと判断した際のヤフオク出品支援
    開店時間前レストランをコワーキング提供
    ゴルフセットの保管、ゴルフ場への配送サービス
    キャッチボールやキャンプ、ビアガーデンなど市民開放プロ野球場

「理」のサービス(データ収集)・ものづくり(データ活用)両輪経営

リアルかオンラインかの選択ではなく、オンライン絶えず接点があるOMO(Online Merge Offline)時代を迎えた今、具体的には、仮にものづくり企業であっても、「サービス事業(データ収集)」と「ものづくり事業(データ活用)」の両輪経営が必要ではないでしょうか。

  • 生産性向上系DX(社内データ活用、コスト削減に直結)は、画像処理AIによる検査など生産性向上に資するDX推進セミナーを数多く実施し、府内のAIスタートアップ企業の増加とともに、徐々に取り組む企業が増えています(見積AI、生産管理AI、検査AIなど)。
  • 付加価値向上系DX(社内外データ活用、効果保証なし)は、データ活用ハッカソンやデザインセミナーなどを実施しているものの、顧客のデータの収集等に課題があり、まだ進展途上です。
    韓国で学校にカメラをつけ地域住民にオープン化することでいじめが減ったように、データによる信用スコアが人間の善行にもつながって中国が「おもてなし社会化」しているように、社内データをオープン化することで品質を向上させることができます。
    既に京都でも社内のノウハウを用いてサービス事業に取り組むものづくり企業も生まれてきています。今後は、サービス事業を通じて顧客との接点を増やすことで、顧客や市場のデータから、ものづくりに活かし、ユーザーエクスペリエンス(UX)をいかに高速で改善していくかが、変化の激しい時代での生き残り戦略だと考えられます。
    有名な話で、「ミルクシェイク」を朝の通勤用に求められるのは、「味」よりも通勤時間を費やす「ボリューム」が必要で、休日の夕方に求められるのは、子ども用の「味」と少ない「ボリューム」が必要だったと、データで初めて分かったという逸話があります。こうして、データ活用が高まれば効果の不確実性という課題も克服できると考えられます。

こうしてDXで生産性を上げることで、人間的な個別対応も含めた付加価値向上につなげる、あるいは、顧客情報(ID)を、独自の世界観(IP)につなげて付加価値を高めるなどすることで、好循環経営を実現できるのではないでしょうか。

行政が仕掛ける戦略

欧米が、ビジネスモデル、特にビジネスルールづくりに強い背景には、その歴史にも一端があるようです。
鉱物の製錬技術の発達により貨幣流通量が増大すると、農耕社会から飛び出し商業社会の形成を目指す人々が生まれ、やがて前者代表のカトリックと後者代表のプロテスタントの衝突、すなわち宗教改革、三十年戦争が起こりました。1648年、その終結の際に、ヨーロッパのほとんどの国を巻き込んで結ばれたウェストファリア条約は、オランダやスイスといった商業国家や商業的創意工夫をする考え方を認めました。それ以降、プロテスタントを中心に、社会の仕組みを変えるツールとしてルールを多用することになりました。

  • 「出資」は、地中海貿易や北海貿易の造船のために、中世から行われてきましたが、大航海時代に、ポルトガルとスペインに出遅れた、オランダとイギリスが、民間に出資を勧め、その見返りとしてアジア貿易独占権という勝手なルールを持ち出して生まれたのが東インド会社です。勝手な理屈には違いないのですが、国の「お墨付き」で安心感を与える巧妙な国家戦略とも言えます。その後、19世紀の鉄道の実用化時代に、欧米では株価の操作等を抑制するため、株式会社に関する開示制度等が整えられていきました。
  • 「金貸し」という職業は、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」での描かれ方でも分かるように、嫌われることが多かったのか、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教では禁止されていました。17世紀にカトリックが厳しく利息を禁止し始めると、ユダヤ人からは借りてもいいというルールを、ユダヤ教も他の宗徒には貸してもいいというルールを定め、ロスチャイルドなどのユダヤ金融が発達しました。なお、サブプライムローンは、様々な債権を組み合わせて「高い格付け」を確保していた故に人気でしたが、実際には非常にリスクの高い債権であり、やがて綻び、リーマンショックが生じたのは周知のとおりです。
  • 「特許」は、ヴェネチアで職人を呼び寄せる特権(10年間のヴェネチアでの独占権)として生まれましたが、開花させたのはイギリスです。エリザベス女王は王室の収入源にしようと特許料を求め、議会がその濫発による国内産業の混乱を守るために特許内容の公開を求めたことが、「発明を世に広めたい」発明者達の心を揺さぶり、特許制度が形づくられていきました。こうして「権利化」と「公開」の制度が整うと、国レベルで盛り上げるために発明を活用しようと考え、1861年に世界初の万国博覧会がロンドンで開催されました。
  • 「著作権」は、ドイツで発明された活版印刷の普及後、出版物による政府批判を抑えたいイギリス政府がギルドの独占権をロンドンに集中させ、検閲権限を与えてきた名残です。登録事業者が許されたコピー権が、やがてギルドの独占権の廃止に伴って、海賊版防止のために、1709年に著作権法によって著作権となったのです。特に音楽の著作権制度が発達したのは、ウェストファリア条約以降も王室が栄え、多くの芸術家が仕えていたフランスです。

東洋の蹴鞠は、協働で回数を続ける方式で発展しましたが、そこから派生したサッカーやラグビーは、対戦方式で発展するなど、ルールの発展のさせ方は、その国民性が大いに反映されているとも言われています。

  • イギリス:農業に適さぬ土地故に、コストパフォーマンス感覚に秀で、牧羊、やがて繊維産業を発展させました。
  • フランス:ルネッサンスの華やかな文化と芸術を継承し、ナポレオン3世の時代、パリ大改造による舗装道路の整備、世界初のファッションショーなど高級ブランドの育成、関税の引き下げによる百貨店の育成のほか、自動車の普及に当たり、1894年に世界初の自動車レースを開催するとともに、レースの委員会をフランス自動車クラブに発展させ、1898年には業界初の自動車産業協会を設立し、モーターショーや自動車ジャーナリズムも発展しました。
  • ドイツ:技能、品質を重んじ、ギルドによる徒弟制度、品質保証を育んできました。
  • アメリカ:広大な国土で人手不足に悩まされた結果、機能分化と役割分化により高い成果を出すべく、大量生産方式を生み出しました。また、石油メジャー・ロックフェラーや製鉄王・カーネギーなどが生まれましたが、自由競争を阻害するとして、セルドア・ルーズベルトは寡占企業を解体していきました。

2022年4月、中小企業応援条例について、「経営者の一層の高齢化に伴う廃業の増加など、産業の分業体制を支える担い手企業の不足」「脱炭素対応、人口減少による構造的な担い手人材不足など、社会の諸課題への対応の必要性の増大」「POSTコロナ時代に大きく変貌を遂げる社会経済情勢への対応必要性の増大」といった情勢を踏まえ、次のような改正を行いました。

  • 中小企業の果たす役割として、「経済の維持形成」に加えて「産業基盤・地域社会の維持形成」「社会の諸課題の解決」を追加
  • それを踏まえ、次の3点を強化
    --企業等の連携の推進(新規):「企業間・産学間の連携の支援」「連携のための人材育成」を追加
    --創業等の促進(拡充):「技術実証の施設の提供」「教育機関と連携した起業教育の推進」を追加
    --成長発展の促進等(拡充):「研究開発等事業計画」の認定・支援、「知恵の経営」の支援の有効期限を5年延長(3回目)

中小企業応援隊では訪問・窓口相談をそれぞれ毎年約5万件行っているほか、2020年度・2021年度・2022年度において、(公財)京都産業21(S41.9~。中小企業支援法で規定する指定法人。常勤約50名、嘱託約30名、コーディネータ約40名、外部専門家約170名)では13,000件・13,000件・14,000件の相談対応(下請かけこみ寺171件・163件。近年は建設業・運送業・個人IT企業における代金未払相談が増加)、400件・550件超の受発注のあっせん(造船関係から電力等のプラントメンテナンス受注への転換など含む)を行い、ものづくり振興課関連の補助金では、887件・1,078件・約26億5,000万円、3,811社・3865社・約25億円3,000万円の支援を行なってまいりました。その中には、感染症対策の新商品・サービスに参入された例のほか、和装から和菓子その他幅広い商品卸・プロデュースに拡大された例店舗販売から輸出等に軸足を移された例製造業でありながら工作機プログラミングAIのサブスクサービスを始められる例などの「広義の事業転換」、工場でのリモートワークを図ろうとする例などの「工程変革」に関するものも多く含まれています。また、新たな事業に挑戦する企業を応援する「知恵の経営」が累計248件(2008年度~、2020年度9、2021年度9、2022年度1)、「元気印」認定が409件(2007年度~、2020年度39、2021年度23、2022年度7)、不動産取得税軽減措置48件(2020年度16、2021年度5、2022年度1)、チャレンジ・バイ認定が176件(2007年度~、2022年度7)に及ぶとともに、チャレンジ・バイによる販路開拓(2015年度~)も累計110件超の商品、総購入額1億円1,000万円超を達成するなど、厳しい中でも前向きな挑戦をする姿も見られました。

  • 起業家育成:次世代地域産業推進補助金
    AI企業と医療関係者らでCT画像の超高速ノイズ除去システムの開発、AI企業と漁業関係者らで良好漁場情報提供システムの開発、など
  • 企業支援:京都エコノミック・ガーデニング支援強化補助金など
    痛んで廃棄する野菜の外葉を利用した新素材の開発(SDGs対応)、Siより安く、SiCより高性能で、電力ロスが少ない酸化ガリウムを用いた半導体材料の応用開発(5G時代への対応)、工場用ロボットのコントローラーのリモート操作化(人手不足対応)、など
    飲食店でのセントラルキッチンの設置(コロナで減る飲食店部門の省力化と、増える通販への対応時間の確保)、和菓子屋での可食プリンタの導入(個人顧客の掘り起こし)、紙器製造業での重量物電動台車の導入(高齢職人の負担軽減と時間短縮)、金属加工業でのNC旋盤とマシニングセンタからその複合機への転換(作業時間4割カット、人材育成時間の確保)、金属加工業での高倍率・高精細な光学顕微鏡の導入(顧客の要求精度の高度化への対応)、など
  • 連携支援:共創型ものづくり等支援補助金など
    「AI開発企業×薬局」による小規模調剤薬局のDX(スマホによる処方箋伝送から薬の配送まで)、「eスポーツ主催企業×映画館」による映画館の新たな活用法の模索、など
    農家どうしでの農作物1次処理機材のシェアリング、板金加工企業どうしでの自動ブランク機のシェアリング、機械加工企業5軸加工機のシェアリング、など
  • 社会課題解決:「産学公の森」推進補助金
    --2021年度30件の内訳:フードテック・スマートアグリ6件(サプライチェーン全体でのタンパク質使用量を軽減する世界初のゲノム編集動物(魚)の開発、大量発生する牡蠣を地ビールの水質硬度調整剤に活用など)、脱炭素・バイオプラスチック問題5件(CO2から素材を作るバイオファウンドリー、CO2とグリーン水素からバイオ燃料の開発、自然分解可能な研磨剤用粒子開発)、コロナ対策5件(抗ウイルス加工など)、少子高齢化3件(悪徳商法対策AIなど)、医療健康3件(がん免疫療法開発など)、POSTコロナものづくり3件(汎用ロボットピッキングなど)、ICT教育(リモート・オープンキャンパスなど)、スマートシティ2件(世界の物流スピードアップと道路インフラ維持コスト軽減のための走行車重量測定システムの量産化など)
    --2022年度47件の事例:スマートアグリ(ドローンによる高速森林管理、機能性腸内細菌による養殖効率化)、脱炭素(マイクロ波を用いたバイオマス熱分解によるCO2固定化)など
  • コロナ関連:
    新型コロナウイルス感染症対策技術結集補助金

    超高速PCR装置の開発、密アラートと購買行動促進リテールメディアの同時実現、など
    ものづくり中小企業等経営変革緊急補助金
    金属加工業が眼鏡フレームのオーダーメイド・オンライン販売の開始、生地整理加工業が制菌加工の開始、アルミ表面処理技術を活かした体反射皮膜開発による航空機向けから光学機器向けへの市場転換、三次元測定器導入による一貫受注体制の構築
    助け合いの輪補助金等
    助け合いの輪補助金(613グループ、3,365企業)、観光・伝統・食関連補助金(474グループ、2,290企業)、危機克服緊急連携支援補助(269グループ、1,041企業)、計1,356グループ、6,696企業
  • 原材料高騰・部品不足関連:
    中小企業等緊急相談窓口
    (2022年3月22日~8月末。原油原材料電気代高騰・ウクライナ情勢の影響に関する相談:132件)
    中小企業緊急対応支援事業(2021年11月補正(予算2億円)63件採択、2月補正予算(1億円)50件採択、2022年5月補正(予算1億円)36件1採択)
    --食品加熱処理槽の改良や食品製造時の高効率蒸気ボイラ導入、染色機のポンプ流量のインバータ制御化による「省エネ化」、衣類製造における全自動折り畳み機と自動袋詰機の導入、非対面型冷凍食品自動販売機の導入による店舗運営の「効率化」などの【省エネ】
    --調達困難な産業用カメラに変わりオンライン会議用Webカメラを用いた画像検査装置、海外から調達困難となった切断に強い特殊生地の国内製織、新商品開発時の食品表示・原価計算自動作成システム、など連携による【代替品製造】
    省エネ経営支援体制強化事業(省エネ診断)(6月29日~11月15日、相談約40件、診断約10件(9月21日時点))省エネ診断を求められるのは、化学、食品など連続プロセスがあって設備稼働時間の長くエネルギー使用量の大きい製造業が多く、原油価格高騰に加え、大企業との取引によってカーボンニュートラルを求められる場面が増え、省エネ診断ニーズが増加中。LEDや最新型空調・ボイラー等の最新型の省エネ設備を導入した場合も、運用や管理の工夫次第でエネルギー使用料を5~10%削減できる(清掃するだけでも効果あり)。
    ものづくり相互融通プラットフォーム
    既に世界にはMouser(外部リンク)Digikey(外部リンク)などの部品調達サイトが多く存在しますが、身近な京都の中で、わずかでも互いに在庫を融通し合うための「ものづくり相互融通プラットフォーム」を立ち上げました。大企業だけでなく、中小企業においても、日頃から様々な調達ルートを確保している企業に、活躍頂いているところです。2022年8月末時点でリスト約300品目、相互融通実績約3,000点(コネクタ、ICチップ等)に及びます。
  • 京都ビジネス交流フェア
    2019年度:出展189団体、来場5,650人、商談1,000件弱
    2020年度:出展139団体、来場3,100人、商談約500件
    (バーチャル:出展152団体、アクセス7,000件弱、商談475件弱)
    2021年度:出展148団体、来場者4,000人、商談400件
    (バーチャル:出展145団体、アクセス2,700件、商談250件)
  • KYOTO町工場バーチャルツアー(2022年2月~)
    出展8社、アクセス5,700件

企業情報

施策

(認定等)
 専門家派遣等)
(融資)

販路開拓支援

京都商談ナビ チャレンジ・バイ中小企業新技術開発応援制度 福祉・医療商品導入補助福祉施設・病院等の皆様へ

コト消費はメタバースに移行し、街はショウルーム・メンテナンスセンターに

買い物はメタバース、という時代。パソコンのウェブカメラ越しに店員さんが商品説明をし、顧客は気に入ればインターネットサイトで購入するという取組が始まっているように、これまでリアル店舗で行われてきた「コト消費」はメタバースに移行し、リアル店舗は商品展示場として、消費者からではなく出品企業からお金を取る形に姿を変えるかもしれません。
商品並べはAI(外部リンク)ロボット(外部リンク)が自動で行い、3D計測機で身体のサイズを採寸し、AIが自動で商品を提案するといった取組(外部リンク)も始まっており、京都の街もショウルームと化し、京都観光に新たな要素が加わるかもしれません。
限界コストが限りなくゼロに近い「サブスク」を活用することで、京都の得意とするニッチな商品群でロングテールを容易に実現できる時代を迎えるとともに、リアル店舗や街の電気工事業等は、貸出品のメンテナンス・リカバリーセンターとしての機能を発揮するかもしれません。
既に自動車や家電、アパレルや薬などの分野でマスカスタマイゼーションの足音が聞こえてきており、モノの流れと逆に情報の流れは川下から川上へのデマンドチェーンを構成し、サプライチェーンは素材、パーツ、色などの「組み合わせ」、さらには3Dプリンタによる「単品」で対応するために、物流のシェアリングの本格化が必要かもしれません。

こうした時代になれば、ものづくり企業は、作り手としての本業に集中できる、すなわち、サブスクなどの新しい活用形態の中でユーザーに求められているユニークな企画・設計、高度な研究開発、優れたUXデザインなど真価を発揮する時代になるのではないでしょうか。

1次情報を活かしたものづくり

事業者が店舗規模を維持できる自治体の人口規模のボーダーラインは、郵便局は600人、コンビニは2,200人~3,800人、喫茶店は1,400人~6,500人、介護老人保健施設は9,500人~2万2,500人、一般病院は1万7,500人~2万2,500人と言われています(国土交通省「市町村人口規模別の施設の立地確率」2020年)。
もちろん、現在の買い物は、ヘルスケアや贈り物など分野を特定した「パーティカルコマース」を対象とするような、発見を楽しむ「発見系」よりも、日用品に強いAmazon、ギフトに強い楽天などのように「目的系」が大半です。買う物が決まっている客(ZMOT=Zero Moment Of Truth)はリアルでもオンラインでも一直線に売り場に向かうだけであり、広告宣伝は意味をなしません(なお、2019年、日本ではインターネット広告費(約2兆1,000億円)がテレビメディア広告費(約1兆9,000億円)を超えました)。2010年には、世界中で1年間に流れる情報量は、2010年は1ゼタバイト(世界中の砂浜の砂の数)、2020年には59ゼタバイトに拡大し、昇華しきれない情報があふれる中でCM(最低6回見ないと商品が記憶されないと言われています)はせいぜい「認知」までで、「間違えたくない」という心理を突いた「デジタルシェルフ」や「レビュー」が「判断材料」となるのです。2021年1月時点で世界全体では、Facebook25億人、Youtube20億人、Instagram10億人、TikTok8億人、Twitter4億人のアクティブユーザーがいます。そして、レビューは、買う前だけでなく、買った後のものも重要であり、パッケージの工夫による「開封の儀」など、買ってから始まる顧客体験を演出することも必要となってきます。アメリカではソーシャル映画鑑賞等が興こっていますが、今後は、趣味のつながりなどへの働きかけ(将来はVRで集まるなど)が鍵となってきそうです。

一方、こうしたEコマースに勝てるのは小商圏ビジネスかもしれません。コロナ禍でAmazonよりも、ウォルマート(大量仕入で安い)の方が、店舗に取りに行けば早いということで、より伸びたとも言われています。自宅を倉庫代わりにするフランチャイジーを集め、より早く商品を提供するサービスを始めた大学生のスタートアップ企業が登場したり、Eコマースが伸びる中国でもデジタルと融合した出店ブームが起こったりといったことを耳にします。生活者は「モノ」ではなく「目的」を買っているのであって、こうした1次情報を得る機会は重要です。

今後、マスマーケティング、その上層にD2C(メーカーが直接個人に販売)、更に最上層にはP2C(個人発D2C)が君臨してくる時代、CS(マスマーケティング)からCRM(1対1)さらにはCX(1対個)マスメディアからマンメディアが不可欠となる時代、ファーストペンギン、アーリーアダプターを捉え、インフルエンサーと一緒にものを作る、あるいは企業自身の哲学・ストーリーを磨くことが成功の近道かもしれません。

Z世代

デジタル生活時代の川上にいるのが「Z世代」(1990年代中盤以降2010年頃までの出生)。不景気、ガラケー第一世代であった「ゆとり世代」が、消費減や同調圧力によるスモールライフ指向であったと言われている一方、アベノミクスなどの好景気と少子化による人手不足、スマホ・SNS第一世代として、チル(まったり)やミー(自意識)の風潮が特徴ともいわれます。チルに関しては、睡眠やリラックスに関する商品が狙い目かもしれません。ミーに関しては、テイクアウトして映えるためにワンハンドで持てることが大事かもしれません。時限フードや時限コンテンツ、過剰ネーミングやギャップのある商品、自撮り「せざるを得ない」ゲームフィルターも流行りました。

2022年度

2020年度

設備投資、税の優遇

エンジェル税制

不動産取得税軽減

固定資産税軽減

その他

補助金

2022年度

2022年度(募集終了)

2021年度(2022年度も実施のもの除く)

2020年度(2021年度も実施のもの除く)

その他支援機関等

産業別メニュー

特区・産学公連携

宇宙の原理を活かす

「無(「ゆらぎ」のある状態)」から1cm角スケールへの「インフレーション」。その膨張エネルギーによって「ビッグバン」が発生。そのエネルギーで「物質(電子、クオークなどの素粒子)」「反物質(異なる電荷を持つ陽電子などの素粒子)」、さらにはそれらの衝突で光子が生まれるとともに、膨張の拡大に伴う冷却による「素粒子結合」で陽子、中性子が誕生・・・。
現在半径470億光年の広がりをもつ宇宙が138億年前に誕生した「1秒間」に起こった出来事です(時間目線で「すり鉢型」に宇宙が膨張しているからこそ、常に誕生時の光が「しずく型」で観測できる)。3分後に「陽子・中性子結合」によって水素やヘリウムの原子核が、38万年後に水素とヘリウムの原子が生まれました。やがて星の重力による核融合でヘリウムより大きな軽元素が、中性子星の合体によって鉄より大きな重元素が生まれました。
こうした光子(アインシュタインがノーベル賞を受賞したのは、これ以上分割できない光の最小単位を示した「光量子仮説」)、電子、陽子、中性子や原子などの「量子」。今のコンピュータに入っている1辺数cmのCPUに、10nmサイズのトランジスタ(1秒間に10億回ON/OFFの切り替えが可能)が10億個程度入っていますが、例えば原子1つのサイズは約0.1nmとさらに小さいです。こうした量子は「粒でもあり波でもある」ため、有名な「2重スリットの実験」のとおり2つの隙間を同時に通り抜けます。2択ではなく「重ね合わせ」(しかも「確認」すれば1つに集約)という、一見、古典物理では説明がつかない量子のふるまいが、私たちの世界を支配しています。最近では10兆個の原子からなる長さ0.04mmの金属板でもこの現象が確認されています。
この量子力学の原理を活用するのが「量子コンピュータ」です。量子ビットと量子論理演算によって構成されるものです。情報を保有する「量子ビット」は、イオン方式、半導体(電子)方式、光子方式など様々な方式が研究されていますが、1ビットについて、電気や磁気によってONかOFFかの2択で表すのではなく、量子の性質によって重ね合わせ、つまりどちらをも表せるので、nビットの場合に2のn乗通りのパターンをいちいち全て判別する必要はなく、そのnビット1本が全てを含んでいるため、それだけを判別すればいい、つまり大量の計算を並列処理できます。演算を行う「量子論理演算」は、波の干渉を操るような仕組みです。これらにより従来のコンピュータを大きく凌駕するスピードを実現しようというものです。2014年にGoogleが大学の研究グループを取り込み自社開発を宣言したことがきっかけでブームが到来したものの、本格的なものはまだ見通しは立っていませんが、素因数分解を高速に解く(現在の暗号化技術をあっさりと打ち破るものでもあります)、新素材を発見するなど、大きな期待がもたれています(日本においても日立、トヨタなどが量子技術による新産業創出協議会の設立を目指しています)。なお、2022年度は、政府は初の国産量子コンピューターを整備する目標を有し、また、疑似量子技術を用いて自然災害向けの再保険のリスク計算に活用する動きも始まります。

そして宇宙へ、ユニバーサル時代

市場・サプライチェーンが国境を越えた「グローバル時代」の次は、大気圏を越える「ユニバーサル時代」。

人が大砲に乗って月を周回し地球に戻るという「宇宙の旅」を本気で妄想し小説化した『地球から月へ』(ジュール・ヴェルヌ(仏)1865年)を皮切りに、人類の宇宙開発はスタートしました。

  • 1897年、ロシアの科学者ツィオルコフスキー「ロケットの公式」発表
  • 1926年、米国の発明家ゴダードが液体燃料ロケットを打ち上げ(2.5秒、12m)
  • 第二次世界大戦中、ドイツのV2ロケット(弾道ミサイル)
  • 1957年、ソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」
  • 1961年、ソ連「ボストーク1号」とガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行(108分)
  • 1969年、米国「アポロ11号」とアームストロングらによる人類初の月面着陸

米ソの疲弊に伴って、1984年にレーガン大統領が発表した「人が滞在できる宇宙基地建設」には、欧州や日本だけでなくロシアも加わり、「国際宇宙ステーションISS」(1998年~)を国際協力により運営する時代になり、近年は、米中が競い合っています。

  • 米国を中心とした諸国の「アルテミス計画」は、2024年の月面着陸、月周回宇宙ステーションや月面基地の建設を目指すもので、月の砂からコンクリートを生成する、月の氷から水や水素を取り出して月生活や火星までの燃料に活用するなどの狙いもあります。
  • 中国も既に月や火星に無人探査機を到達させています。

そして、軍事目的で開発されたインターネットが民間開放されたように、宇宙産業も民間主導へと時代が変化しつつあります。これまでの軍需企業、旅客機メーカー、電機メーカなどに加え、既に2,000機以上の人工衛星を打ち上げているスペースX、ブルー・オリジンをはじめ、国内にも多くのスタートアップ企業が生まれています。

  • 人工衛星ビジネス:通信・放送衛星(海底・地上ケーブルの敷設など不要な「宇宙インターネット」など)、地球観測衛星(光学観測、レーダー観測)、測位衛星(GPS(電波))などの衛星製造(アクセルスペース(外部リンク))、衛星ビッグデータビジネス(Ridge-i(外部リンク))などがあります。
  • 宇宙デプリ除去ビジネス:衛星でデプリを捕獲する(アストロスケール(外部リンク))、レーザービームを照射する(スカパーJSAT(外部リンク))などして、デプリを大気圏に突入させ燃やす方法が進められています。
  • ISS商業利用:2024年以降、映画撮影、宇宙ホテルなど民間による商業利用で運用・維持される方向です。タンパク質の結晶化に邪魔となりがちな重力がないため新薬開発にも効果的で、宇宙作業用ロボット(GITAI(外部リンク))の開発等も進められています。
  • 宇宙輸送・宇宙旅行ビジネス:サブオービタル飛行(弾丸飛行)、地球周回旅行(90分で地球1周)、ISS滞在旅行などのためのロケット、スペースプレーン、エンジン、宇宙港などの製造・運営システム開発(PDエアロスペース(外部リンク)インターステラテクノロジズ(外部リンク)スペースウォーカー(外部リンク))
  • テラフォーミング:UAEやスペースX社等が火星のロボットによる都市建設、その後の移住のほか、月資源開発(ispace(外部リンク))などに関する開発が進められています。また、京都大学と鹿島建設が手を取り合い、自転による遠心力で人工重力を生み出す居住施設「ルナグラス」と「マーズグラス」の構想を発表しています。
  • その他:宇宙食、宇宙ファッション、人工流れ星(ALE(外部リンク))など

日本発の新技術

これまでも日本発の技術はたくさん生まれています。

  • セルロース(植物に含まれる地球上で最も多い炭水化物)を原料にした「セルロースナノファイバー」は、木材チップ、さらにはパルプを細かくしてほぐしたゲル状の物質です。まず、髪の毛よりも細い繊維故に、その接点の多さから結合力が強く、鉄の5分の1の重さで5倍の強度を有し、プラスチックに練り込み自動車に利用されています。あるいは、発砲材料としてスニーカーのクッションにも利用されています。食物繊維と同じで体内に入れても害がないため、ソフトクリームに入れると長時間形が崩れません。金属イオンを付着させることから銀イオンを保有させた抗菌消臭おむつとしても利用されています。
  • 自然界に存在する酸素の「同位体(同じ元素で重さが異なるもの)」比率は、軽いO16(99.8%)、重いO18(0.2%)ですが、地球上で最も長生きする樹木(年輪)の主成分セルロースに残る、樹木が過去に取り込んだ水(酸素が含まれる)の同位体比率を調べることで、過去数千年の気象変化(干ばつ時は乾燥し軽いO16の水の蒸発が進む)が分かります。
  • 同位体の中には不安定なために放射線を出しながら壊れるもの「放射性同位体」があり、C14の放射線エネルギーを電気エネルギーに変える装置「原子力電池」。放射性同位体が壊れて半減する時間「半減期」は、NASA火星探査車バーシビアランス搭載の原子力電池に使われているプルトニウム238で88年という長期。現在、半減期5730年の核廃棄物、C14を用いたダイヤモンド電池(半導体に人工ダイヤモンドを使用)の研究も進められています。ちなみに、C14は宇宙線を通じて生存中の生体内に採り入れられるので、その減少量から化石の年代特定で調べられるものでもあります。
  • 導電性、加工性、防錆性に優れる(光の三原色・赤緑青のうち青を吸収する故に金色に反射)は既に約19万tが採掘され、残る埋蔵量(自然界にある総量のうち現代の技術・資本で採掘できる量)は約5万tと言われ、注目されているのが都市鉱山。金鉱石1tで約3gなのに対し、スマホ1tで約280gが採掘可能で、それを容易にしているのが「有機王水」です。
  • シリコン太陽電池より安く、塗布するだけなので薄くて軽く、室内照明でも発電できる「ペロブスカイト(灰チタン石)太陽電池」の耐久性、大面積化等の研究が進められています。
  • 静止衛星から地球、宇宙の双方向に伸びる100tに及ぶケーブル(宇宙エレベーター)にかかる万有引力と遠心力に耐える素材として注目されている「カーボンナノチューブ(炭素でできた細い筒)」。炭素原子だけのシンプル=強固な結合故に髪の毛の50,000分の1の細さで鉄鋼の10倍以上の強さ、パイ結合故に電気や熱を良く通し電流耐性は銅の1000倍、2800度までの耐熱性を有しています。
  • 振り子、水晶の振れなど1秒間の振動数を図ることで時を正確に刻む時計。セシウムの振動数(92億回弱/秒)を基にする原子時計(3000万年に1秒しか狂わない)より高精度で、ストロンチウムの振動数429兆弱/秒を基にする「光格子時計(300億年に1秒しか狂わない)」と、相対性理論(動いている方が、あるいは重力が強い方が時間の流れがゆっくり)により、GPSの時刻情報の補正だけでなく、時間の差でわずかな地表の高低差の把握や、地下の比重の大きい鉱脈の発見が可能になります。
  • X線回析法が結晶(大量)でないと解析できないため、「結晶スポンジ」に対象分子を流し込むことで同じ方向を向いた状態を少量で作り出す方法で、苦味成分の物質変化を解析し、より美味しいビールが開発されています。
  • 通常2個ワンセットの「対」で安定する電子を、1個の「不対」で不安定な状態で有する原子・分子・イオン、すなわち「ラジカル」は、周囲の物質から電子を入手しようとします。その代表例が「活性酸素」であり、細菌やウイルス(過剰になれば正常細胞まで)を攻撃します。「」は空気中にある水と反応し、水をラジカルに変えるため、抗菌性を有するのです(新型コロナウイルスの生存期間は、プラスチックやステンレスの表面では2~3日であるのに対し、銅の表面では4時間程度と言われます)。
  • 光で作用する触媒「光触媒」には「葉緑素」のほか「酸化チタン」があり、UVが当たると空気中の酸素と水が「活性酸素」に変化します。なお、自動車の有害排ガス「窒素酸化物(NOx)」も触媒で無害化しています。
  • 細胞と細胞の間のタンパク質が糊の働きをして器官は形を保っていますが、心臓や角膜の再生のために貼り付ける細胞シートを作る際にも、タンパク質が細胞培養シャーレの底に貼り付く問題があり、「温度によって性質が変わる高分子(低温にすると水と吸収しはがれる)」をシャーレ表面にナノレベルで敷き詰める方法が考えられました。
  • ラップやヤモリで有名な「ファンデルワース力」(電気的中性であっても周囲の粒子によりプラスマイナスの偏りを生じることで引力が働く)で、皮膚に電極を貼り付ける「スキンセンサー」「スキンディスプレイ」の研究も進んでいます。
  • 手術(切除)化学療法放射線治療(照射でがんDNAの1本を切断)、免疫療法(オプジーボ、CART-T、iPS細胞由来T細胞など)に続く第5のがん治療として期待される「ホウ素中性子捕捉療法」。がん細胞が採り入れるフェニルアラニン(アミノ酸)にホウ素を結合させ、放射線を照射すれば、ホウ素が分裂しがん細胞を破壊(DNAを2本とも切断でき修復の恐れがない上、ホウ素2粒子は当該がん細胞を破壊するエネルギーしか持たない!)。照射までの時間、ホウ素をがん細胞に留めておく課題の克服に「液体のり(プリビニルアルコール)」が有効とのこと。

そして、宇宙から地球環境、産業競争力、社会、家庭や個人の心に至るまで、創造力とイノベーションを興していくことが重要です。

特区推進

そのために、まず、障壁となる規制の緩和、制度の見直しのために「国家戦略特区」を活用しています。

2013年に大阪府・兵庫県とともに10地区の1つに定められ、2022年8月末時点で、全国では、特区措置66メニュー、全国措置59メニュー(ちなみに、一時期特区でも議題になり現在「原動機付き自転車」扱いの電動キックボードは、新聞類への検討が進められています)や税の特例があり、そのうち京都府では、税の特例(減価償却費の100%(当時)を繰り越して税額控除できる研究開発税制)を含め15メニューを実施してきました。例えば、

  • PETと診断機器との複合化促進
    PETは、がん細胞が好むブドウ糖類似物質から放出される陽電子と、電子との結合で発生するガンマ線を検出し画像化する装置で、がんの早期発見が可能であり、一方、MRIは、強い静磁場の環境で頭や体にパルス状の電磁波を当て、返ってきた信号を計算・画像化する装置で、正確な位置把握が可能です。特区制度で可搬型PET装置による撮影をMRI室で行うことができ、それにより、すかさずMRIによる詳細把握に繋げるもので、延べ50件を実施【京都府提案案件】
  • 血液由来特定研究用具製造
    2020年9月に血液法が改正され全国措置になりましたが、特区制度で「血液由来特定研究用具」も「血液製剤」と読み替えて、血液を採取することが認められ、府内2社が、採取した血液由来iPS細胞の研究ツールとしての販売、試験研究への活用が進展。【京都府提案案件】
  • 特定試験局制度
    無線通信における「実験試験局(科学技術振興用)」免許について、特区制度により、予備審査を行っておくことで申請時即日免許発給ができるもので、電動車両、センサー、トンネル点検車への無線給電を実施
  • 高度外国人材受入促進
    研究、教育、自然科学、人文科学の高度な専門能力を有する外国人で、学歴・職歴・年収等から算定されるポイントが一定(70点)以上の場合、在留活動の優遇(複数の在留活動が可能、在留期間5年、点数によっては永住申請が可能、など)が受けられるが、本府の特定の補助金(エコノミック、産学公の森、等)で支援を受けている製造業等は、ポイント算定時に予め10点を加算(4社認定)。
  • スタートアップビザ(特区)
    事業所の確保、2名以上の常勤雇用又は500万円以上の出資金等の確保という在留資格を、上陸申請時ではなく上陸6ヶ月後に満たす見込みがあれば入国を認めるとともに、当該6ヶ月後に在留更新許可を受ける際、その時点から1年間に限り京都府が認定するコワーキングスペース・シェアオフィスも「事業所」として取り扱うもの(2022年8月末時点で知事証明2件)
    対象となるコワーキングスペース等:イノベーション創出コミュニティー(STC3)、Impact Hub Kyoto(外部リンク)engawa KYOTO(外部リンク)Garden Lab コワーキング棟(外部リンク)Serviced Office OFFISTERIA(外部リンク)
  • スタートアップビザ(経済産業省)
    上陸後最長1年後に上記在留資格を満たす見込みがあれば入国を認めるもの(2022年8月末時点で知事証明13件・ビザ取得7件

など、着実な歩みを進めています。

国際科学イノベーション拠点と産学公連携推進部

そして、産学公の連携・融合によって諸課題の解決、産業の活性化を図ろうとしています。

産学公連携機構10周年を機として、京都大学、京都府、京都市等で、2012年に「国際科学イノベーション拠点整備事業(COI)」の採択、2013年に「COI STREAM(最大10億円×9年間)」の採択をそれぞれ受けるとともに、2015年には府・市もオフィスを構え、京大オリジナル株式会社(京大の技術シーズの事業化支援)、京都大学イノベーションキャピタル「iCAP」(京大発ベンチャー等への出資)、関西TLO株式会社(技術移転の支援)等とも連携し、COI棟「KUViC」入居企業(20社弱)や京大の研究室中心に訪問・支援を行っています(年間、研究機関訪問約20件、企業訪問約120件)。

COI STREAMにおいては、「離れてくらす家族・仲間と日常を共有」する「しなやかほっこり社会」の実現のための通信・センシング・先端医療・予防先制医療に関して、2013年から32テーマ、2016年から15テーマ、2019年から13テーマ、合計60テーマが実施され、特許出願は142件(企業109件、京大7件、共同6件)に及びます。無線給電、フィルム型太陽電池、ミリ波レーダーを用いたバイタルセンシング、iPS細胞培養装置、歩行支援ロボット、育児サポートコミュニケーションロボットなどの開発が進み、既に発売されているものもあります。そしてCOI-NEXT(JST共創の場)については、ゼロカーボンバイオ産業創出による資源循環共創拠点をスタートさせているところです。

そして、2018年設立の(一社)京都知恵産業創造の森。その「産学公連携推進部(外部リンク)」は、府内中小企業等と、京都の34の大学(京都産学公連携プラットフォームには30大学が参画)とを繋ぐハブとなって、企業の狙う企画に沿う大学研究室を探してマッチングするところからサポートを行っており、年間約20件の橋渡しを実現しています。

 

脱炭素

コロナの次に世界が直面する課題は、脱炭素

世界が直面する二つの危機、感染症気候変動
パンデミックにより、2020年度の世界の経済成長率はマイナス3.5%となり、1日1ドル90セント未満で暮らす極度の貧困層の割合は、2019年の8.2%から8.8%へと、過去20年で初めて上昇しました。一方、産業革命前に比べ平均気温の上昇を1.5℃以下(2℃では極端に気候が変化すると言われています)に抑えるために、温室効果ガスの排出量から、森林による吸収量等を差し引いた実質的な排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」の今世紀後半の実現を目指すパリ協定(2015年)に対し、既にEUコペルニクスプログラムの観測によれば、2020年の世界の平均気温は産業革命前から1.25℃上昇しており、1.5℃まで残り0.25℃だけとなっています。
コロナで甚大な影響を受けた人々を救済し経済を蘇らせるのに従来の経済手法を採れば、新型コロナウイルスの出現以前に世界が直面していた気候危機をさらに悪化させてしまうため、各国が打ち出しているのが「グリーンリカバリー」です。

  • 2021年に誕生したアメリカ・バイデン政権の「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」
    インフラ投資:電力網、再エネ発電(太陽光、風力)、5G網、EV充電ステーション、小型モビリティ、クリーン資材による老朽住宅建て替えなど
    テクノロジー投資:蓄電池、炭素回収技術、クリーン材料、グリーン水素、次世代工業プロセス、精密農業
  • 2019年の「欧州グリーンディール(グリーン・デジタル・レジリエント)」
    自動車の制限:CO2を排出するガソリン車などの新車販売を2035年から全面禁止
    投融資の制限:グリーン・タクソノミー(分類) に合致したものしか投融資しない
    国境炭素税等の制限
    公正な移行への再教育:英国ではその恩恵を受けた若い世代が脱炭素ビジネスに続々と参入
    その他英国では、2016年以降の新築住宅は全てゼロカーボンにすることを義務付け、看護師の制服を軽くしてCO2を削減するよう誘導
  • 中国「両新一重」
    インフラ投資:電力網、5G、充電ステーション
    5G×AI×EV:街中カメラで道路交通制御、レベル4自動運転車を5Gクラウドによるリモート支援で保証
    再エネ導入促進

そして、「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」(1997年)が開催され、温室効果ガス削減に関する初めての法的拘束力をもった国際的枠組み「京都議定書」が採択された地である京都においても、「京都府総合計画(京都夢実現プラン)」(2019年)において、「脱炭素社会へのチャレンジ」を掲げるとともに、2020年に、日本を含む他の国々同様、「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」を目指すことを宣言したところです。

京都産業にとって不可欠な「脱炭素テクノロジー」

そもそも、世界の脱炭素の動きは、経済への大きな危機感から生まれたものです。1つは、災害や自然環境の変化による物理的リスク。もう1つは、世界のビジネスが「脱炭素前提」へと変化していることによる経済システム移行リスクです。

  • 投資家等
    これらのリスクは世界共通であり、最初に敏感に反応したのは投資家です。例えば自然災害が頻発すれば保険が成り立ちません。世界で運用されている資産約3京円のうち、個人資産を除くと約4割を機関投資家が占め、その中でも最大勢力が年金基金です。彼らと、関連する保険会社、運用会社が結集し、株主として大企業・金融機関(金融機関から企業)、更には政府に対し温室効果ガス削減の要求を開始したのです。国連では既に「責任投資原則(PRI)」「持続可能な保険原則(PSI)」「責任銀行原則(PRB)」の三原則が定められ、石炭からの撤退が続く資金の向かう先が、2020年度全世界で35兆ドル(4,000兆円)にのぼるESG投資です。社会の持続的な成長に貢献する企業は長期的にパフォーマンスが優位になるはずだと考えられ、現に世界最大級の年金基金である日本のGPIFが選定したESG銘柄は、2017年4月から2020年3月までの年率リターンでTOPIXを上回る成績を上げ、また、投資リスクを量る意味でも気候変動に関する対応やビジネス獲得に関する情報(座礁リスク)開示を求める動きが当たり前になりつつあります。また融資においても、エールフランスKLMへの支援融資の条件として、2024年までの国内線CO2排出量50%削減などを条件に課すケースや、削減目標を達成できれば金利が低くなる商品等も登場しています。
  • 事業会社
    「2030年カーボンニュートラル」宣言を表明したアップル。サプライチェーン全体を見ると、CO2排出量の大半を占めるのは、京都の電子部品関連を含むサプライヤー企業です。ダイムラーは2039年に乗用車からのCO2排出ゼロを宣言し、フォルクスワーゲンはカーボンニュートラル、マイクロソフトはカーボンネガティブを打ち出しています。
  • 政府機関
    設定された「CO2排出枠」を超えた企業がその超過分まで、下回った企業から余剰分を買い取る「排出量取引」(排出量1t当たり7,500円など)は、既に世界の温暖化ガス排出の2割分に価格設定がなされています。また、日本も既に導入(地球温暖化対策税)している、CO2排出量に税を課す「炭素税」は、北欧やカナダ等が高い税率(日本のは排出量1t当たり289円だが、EUでは数千円以上)で企業の取組を促進しています。こうした「カーボンプライシング」で先行する欧州は、対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せする国境炭素税を導入する方針であり、脱炭素の取組の遅れは、企業・産業の国際競争力に影響を及ぼす恐れがあります。

このように、世界に部品を供給している京都産業にとっては、再エネへの転換、製品(部品)の100%リサイクル品又は再生可能な素材での製造等が不可欠となってきます。しかしながら、日本は「脱炭素インフラ」が未発達なのです。

  • 世界平均では、過去10年で太陽光、風力の各発電原価が、石炭、ガスなどのそれを下回り最も安い電気となっています。世界最大の洋上風力発電を有する英国は、CO2を1990年比で42%削減しながら、73%プラスの経済成長を実現しています。
  • しかし、日本では、再エネが火力発電より4割程度高く、依然として石炭火力が主流です。石炭は化石燃料の中でも炭素集約度が最も高い燃料で、同じエネルギー量を消費した場合、石油や天然ガスより多くCO2を排出してしまいます。

ある調査によれば、世界の時価総額の20%を占める大企業338社は売上を伸ばしながら、2015年から2019年までの5年間で排出量の絶対量を25%削減させることに成功しています。また、スウェーデン、ドイツ、英国などの先進国においては、既にGDPを伸ばしながら、温室効果ガス排出量をマイナスにしています。新興国ではいずれも増加していますが、人口増加によるものと言われています。日本のインフラ面の不利の中にあって、京都産業が世界の中で発展していくためには、日本・京都がオイルショック以来世界をリードしてきた優れた省エネ・環境技術と、スタートアップ企業等の柔軟な発想による複合によって、環境制約、社会生活の質向上、経済成長の3つを両立させる新しい「脱炭素テクノロジー」を創出することが不可欠です。

温室効果ガスの発生源

太陽光のうち、雲等による「日傘効果」を除く約7割が大気中または地表に届き、地表からの跳ね返る赤外線を、雲等と同じく、吸収し再び地表側に跳ね返すのがCO2、メタン、フロンガスなどの「温室効果ガス」で、これがなければ氷点下19度とも見積もられる地表付近の温度は温められているのです。

温室効果ガスの中でも最もウエイトが大きいCO2に含まれるカーボン。これまで発見され、作り出された物質の8割は炭素を含んだ化合物(有機化合物。ただし、元々は生物が作り出す化合物を指す言葉故にCO2やダイヤモンド等は含みません。)です。他のあらゆる元素と異なり、炭素はお互いに長くつながり合って安定な分子を作ることができるからです。DNAやタンパク質、脂肪など我々の体も、木材、紙、プラスチック、アスファルトなどの材料も炭素が基軸となっていますし、石油や石炭などの化石資源も炭素と水素、炭素と炭素が結びついてできているのです。

  • 炭素の酸化還元: (炭素(有機化合物、エネルギー内蔵))+(酸素)=(エネルギー)+(CO2)
  • 水素の酸化還元: (水素)+(酸素)=(エネルギー)+(H2O)

このようにカーボン等を含んだ物質からなる「原材料」や「エネルギー」の生成・使用等の際に、温室効果ガスが排出されます。

  • 原材料
    例えば「紙・パルプ」や「木材」はCO2を吸収する森林が原料であり、「セメント」の原料はCO2を排出して製造され、「化学肥料」は分解されれば一酸化二窒素を放出し、「鉄鋼」は錆を取るためにCO2を排出して製造されます。
  • 1次エネルギー
    自然から得られたままの物質を源としたエネルギーのことで、石炭、石油のような「有限資源(化石資源)」、植物などの「バイオマス」を燃やすものはCO2を排出しますが、太陽光、風力、水力など、自然の力を活用して何度でも使える「再生可能エネルギー」、原子の核分裂や核融合の際に発生する熱を利用するものはCO2を排出しません。
  • 2次エネルギー
    1次エネルギーを転換・加工して得られ、工場、オフィス、一般家庭等に送られる「重油・ガソリン」、「都市ガス」、「電力」、「水素」等です。

現在の温室効果ガス年間排出量は世界全体で50Gtです。

  • 産業(1次産業)
    農業」では、トラクターの燃料燃焼、ビニールハウスの電気照明のほか、土壌で分解(発酵・腐敗)されると一酸化二窒素になる化学肥料、同じく放置しておくと一酸化二窒素やメタンガスになる動物の排せつ物、大量のメタンガスが含まれる牛やヤギなどの反芻動物のげっぷなど、温室効果ガスを排出しています。「林業」では、森林伐採の際に、燃やせばCO2が排出され、放置しておけば分解されメタンガスが発生します。「漁業」では、漁船の燃料燃焼、冷凍冷蔵の冷媒の代替フロンなどにより温室効果ガスを排出しています。
  • 産業(2次産業)
    エネルギーの使用、原材料の創出を行う「工場」が約3割。そのうち、「セメント工場」は全体の約3%。石灰石と酸素に熱を加え、酸化カルシウムとCO2に分解することで、原材料となるクリンカを生成しているのです。「化学工場」は全体の5%強。原油由来のナフサを高温で分解する工程で大量のCO2を排出しています。「製鉄工場」は全体の7%強。高炉では、鉄鉱石から錆び(酸)をとるためにコークス(炭)を投入してCO2が排出され、転炉では、そうしてできた銑鉄(炭が結びついて脆い)から炭素をとるため、また酸素と結びつけてCO2が排出されています(もちろんこれらの工程で大量のエネルギーも用いられています)。
  • 運輸
    電気エネルギーを作り出す過程で二酸化炭素を生み出す「鉄道」は0.4%ですが、ガソリンやディーゼル燃料を燃やす(炭素に酸素を結合させる)「自動車交通」が約1割、「航空機」「船舶」がそれぞれ2%弱
  • 民生
    それを作り出す過程でCO2を生み出す電力・ガスエネルギーを大量に使用する「住宅」が約1割、「商業不動産」が6%超

そして脱炭素テクノロジーが求められているのは、温室効果ガスの「回収・固定」と「排出抑制」です。

温室効果ガスの回収・固定

温室効果ガスの回収・固定の方法は、「CCS(回収・貯蔵)」「CCU(回収・利用)」「CCUS(回収・利用・貯蔵)」などと言われます(「還元」して酸素を切り離せばいいのですが、例えば金属を結びつけてCO2を還元する場合、その金属を精製するのに結局エネルギーを使い、CO2を排出してしまいます)。

  • 植林・森林管理
    世界の植林ポテンシャルは9億ha(日本の面積の24倍)と言われ、実現すれば地球の森林面積は25%増え、大気中のCO2の25%に相当する200Gtを吸収できます。サハラ砂漠南部で国連、アフリカ連合、EUらによって2030年までに1億haを植林する「グレート・グリーン・ウォール」プロジェクトが進んでいます。
  • ブルーカーボン
    海藻(ワカメ、昆布等)、海草(アマモ等)、植物プランクトンなど海洋植物によるCO2吸収(「ブルーカーボン」)は、地球上の生物による吸収の55%を占めます。マングローブ林の育成や藻場の増床等が重要です。
  • バイオ炭
    農林漁業や食品の廃棄物などのバイオマスを無酸素・低酸素環境下で350℃以上の熱で分解して得られるバイオ炭(分解されにくい)を田畑に撒くことで、土壌にCO2を固定化するとともに、土壌の養分を豊富にして作物の生育を促進するものです。
  • バイオエコノミー
    CO2を吸収した植物を工業製品等の素材として活用するものです。
  • 直接空気回収(DAC)
    大型換気扇で大気中のCO2を化学吸着するもので、現在、世界で15ケ所以上あると言われますが、動力エネルギーを再生可能エネルギー化等が必要です。
  • 工場等の排ガス等から選択的に透過する膜技術(キャリア活用ナノセラミック透過膜)や吸着固定材料の開発が進んでいます。

温室効果ガスの排出抑制(1次エネルギー・原材料)

幕末に神戸を訪れた外国人が「神戸の山には木がなくて丸裸だ」と驚いたと言われています。あるいは歌川広重「東海道五十三次」に出てくる山にも木がポツンポツンとしか描かれていないものがあります。徳川幕府が江戸にあるのも、奈良から京都に遷都されたのも、あるいはメソポタミアや黄河文明の跡が砂漠化しているのも、「木材」の伐採・枯渇が、原因の一つと言われているのです。19世紀にエネルギー源として「木材」が「石炭」にとって代わられ産業革命が起き、第1次世界大戦を契機に「石油」の時代となりました。日本でもペリー来航により木材から石炭へ、そして石油の時代を迎え、窮地に陥っていきました。

石油・石炭あるいは食料などの化学エネルギーのほか、光エネルギー(波長が短い方がエネルギー高い)、電気エネルギー熱エネルギーなど様々な形があり、同じ大きさで変換が繰り返されています(エネルギーの原則:3E+S(環境適合、エネルギー安定供給、経済効率性+安全性))。

世界の1次エネルギー消費量(2020年)は、石油31%、石炭27%、天然ガス25%、水力7%、再生可能エネルギー6%、原子力4%などとなっています。日本全体の電源構成(2018年)は、天然ガス火力38%、石炭火力32%、石油火力2%、その他火力5%、水力8%、再生可能エネルギー9%、原子力6%となっています。

世界の温室効果ガス排出量の3割を占める中国は、2015年時点で排出量100億tを超え、その6割を石炭が占める一方、世界の太陽光発電メーカーの上位10社のうち8社も中国で、風力発電量も世界一という、再生エネルギーの国でもあります。英国では2200基、ドイツでは1500基の洋上風力発電が稼働しています。こうした世界的な動きを受けて、2020年、一時的にエクソン・モービルを時価総額で上回った風力・太陽光発電の米ネクステラ・エナジー、再生エネルギーへシフトしている世界最大の売上高を誇る電力会社・伊エネルなど「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」や小型原発のスタートアップ企業等が登場しています。一方、日本は、オイルショックを機に原発、太陽光に傾斜したものの、世界に先駆けてFIT(固定価格買取制度)を実施したドイツなどEUのメーカーに追い越されました。日本でも遅れること2012年にFITを導入したものの、買取価格が高額となり、イノベーションの芽が育ちませんでした(2022年4月からは、市場価格の変化に関係なく予め定めた固定価格となるよう、その隙間の額を発電事業者に補助していたFITから、補助額を一定とする(すなわち市場価格に連動して価格が変動する)FIP(フィード・イン・プレミアム)への移行が大規模電力から順次始まりました)。そして福島原発事故以降、LNGの輸入や高効率な石炭火力発電所の新設に目が向き、その間、太陽光発電の適地が徐々に少なくなり、風力発電の洋上建設は日本にもレノバというスタートアップ企業が登場していますが、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海洋の利用の促進に関する法律」が2019年に施行されたばかりで、浮体式なら日本の水深の深い海でも、風の強い沖合でも設置でき、大きな発電量が期待できるものの時間を要すると考えられます。そして今、原発に改めて脚光が当たっています。京都議定書が発効した2005年頃は世界の原発への期待が高まっていましたが、日本では福島事故時点で54基あった原発は、2020年度時点で36基まで減り、そのうち9基が再稼働しています。

  • 化石燃料は、燃焼させれば、つまり、酸素を結びつけて「酸化」させれば、エネルギーが取り出せますが、炭素の酸化物CO2が生じてしまいます。
  • そこで、再生(永続利用)可能エネルギーへの転換が必要です。

    (1)燃料
    バイオマス燃料として、さとうきびやとうもろこしから作られるエタノール燃料、使用済み天ぷら油から作られるバイオディーゼル燃料、藻類から作られるバイオジェット燃料などがあります。光合成しながら移動し植物と動物の両方の性質を有す微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を用いて、世界の課題解決に取り組んでいる尊敬すべき先行事例が出てきています。培養に関するプロセス改善、品種改良(突然変異、ゲノム編集)などの研究を着実に進められ、ユーグレナの栄養素豊富で細胞壁がなく吸収しやすい利点を活かして「食用」に【食糧問題】、あるいは、酸欠になるとエネルギーとして油脂を蓄積する仕組みを活かしてバスやフェリー、航空機等の「燃料」に【脱炭素】、あるいは、有機酸を含まない優れた有機肥料成分、医薬品としての価値すら見込める繊維成分、さらには宇宙での物質循環をも支えるものとして【素材(繊維、飼料、肥料など)】など、大きな可能性を示しています。バイオスタートアップちとせは、藻類の光合成を活用した代替燃料の生産プロジェクト「MATSURI」を始動しています。ナノセラミック膜から分離回収したCO2と水素による燃料を作る動きもあります。

    (2)電力
    日本の年間発電量は約1兆kWhです。
    水力は低コストで発電量を大きく伸ばす余地があります。日本には高い山、大量の雨、そして多くのダム(鉄筋がないコンクリート(砂、石、セメント(石灰石))が岩盤に固定されており、壊れない)があり、年間の降水の位置エネルギーを全て水力発電に変換できたとすると、7,200億kWhになるという試算があり、電力需要の70%を賄える計算ですが、実際には900億kWhにとどまっています。河川法第1条の目的は、明治期は「治水」、昭和には「治水」と「利水」、そして平成には「治水」「利水」に「環境保全」が加わりましたが、貯水が多い方が望ましい「利水」と、貯水が少ない方が望ましい「治水」の矛盾する目的を目指す故に、「多目的ダム」は貯水量が半分になっており(特定多目的ダム法)、砂防ダムをじめ発電に使われていないダムが数多く存在しているからです。従って、小水力発電を、水源地のために興していくことが重要です。
    風力では、風車のサイズを大きくできる洋上風力を中心に欧州等でイノベーションが著しく、将来的には「着床式洋上風力も期だけでなく、「浮体式洋上風力」が主力になると見込まれています(風力発電の効率化をサポートする京都のスタートアップ企業もあります)。
    太陽光では、現在量産されている「シリコン系太陽電池」、「化合物系太陽電池」に匹敵する高い変換効率で、溶液の塗布、印刷といった製造プロセスにより大幅な低コスト化が可能な「ペロブスカイト太陽電池(外部リンク)」や、製造コストはシリコン型の半分、重さは100分の1で材料も数十万種あると言われる「有機薄膜型太陽電池」、未利用エネルギー遡源である赤外光活用するための新規材料の開発(外部リンク)、「量子ドット太陽電池」、「宇宙太陽光発電」なども期待されています。
    地熱発電には開発リスク、減衰リスク、経済コストリスク等が伴いますが、アイスランドが先行する「超臨界地熱発電」(沈み込み帯の延性域(マグマに近い領域)では、プレートテクトニクスによって地下に引き込まれた海水に起因する水分が、マグマの周辺に高温・高圧(超臨界状態)で賦存していると考えられている)などの次世代地熱発電が模索されています。
    エネルギーハーベスト(環境発電。太陽光や照明光、機械の発する振動、廃熱などのエネルギーを採取し電力を得る技術)では電磁波利用、力学的エネルギー利用、熱エネルギー利用など注目されています。

    (3)
    地中熱(浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギー)は、地中の温度は地下10~15mの深さになると、年間を通して温度の変化がなく、夏場は外気温度よりも地中温度が低く、冬場は外気温度よりも地中温度が高いことから、この温度差を利用して効率的な冷暖房等を行います。
  • 風力
  • また、原子力もCO2を排出しません。
    事故を引き起こしたことのある現在の「核分裂型」(天然ウランには、中性子をぶつけると核分裂して熱エネルギーを放出するウラン235と、核分裂しにくいウラン238があり、ウラン235の含有率は0.7%程度しかないため、3~5に濃縮する)だけでなく、事故のリスクを小さく抑えられる「小型モジュール炉」や、事故のリスクが限りなく小さいと言われる「核融合型(外部リンク)」等の研究が進められています

温室効果ガスの排出抑制(2次エネルギー)

日本、関西・京都はバッテリー開発に強い地域であり、現在もEVに関連する多くの企業が集積しています。

  • 電力網・VPP
    増加する太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電は、天候や気温など、自然の影響を大きく受けるため、発電量が大きく左右されることが避けられないという面があり(発電)、電気を直接貯めることができる蓄電池、電気自動車などの普及(蓄電)、家庭や企業のIoT化の発達(消費電力)も見込まれるため、大規模な発電所の代わりに工場・ビル・家庭など点在する複数の小規模な発電設備や蓄電設備をIoTでまとめて集約し、遠隔制御することで、1つの発電所のように機能させる「VPP(Virtual Power Plant・仮想発電所)」の構築が重要となっています。既に京都においても、電力監視システム電力予測システムに取り組んでいる企業があります。
    そして再生可能エネルギーの電力需給のバランスはもちろん、交流電力網から直流製品への転換に必要なコンバータ直流電気(太陽電池等)から交流電力網・交流EV用モーターへの転換に必要なインバータなども含め、より全体効率化を図るスマートグリッド(電力・情報統合ネットワーク)の構築も大きなテーマとなっています。
  • 2次電池
    発電量が変化する再生エネルギーから転換された電気の蓄電に、2次電池の需要がますます高まっています。
    電池とは、「電気(電子)が詰まってる」のはなく「発電する」ものです。負極の材料は、電解液に溶けやすい金属にして、溶けてイオンになる分、電子が導線を伝って正極に移動します。正極の材料は電解液に溶けにくい材料で、導線を伝わってきた電子は電解液(イオン)と結びつきます。こうして正極の電子がすぐに消費されるので、また負極から電子が移動してくるのです(「電池」では、イオンになりやすい方の金属が「負極」に電子を残して溶けだし、電子は負極から導線を通って「正極」へ移動し陽イオンと結びつき、「電気分解」では、電池の「負極」から導線を通ってくる電子が「陰極」で陽イオンと結合し、陰イオンは「陽極」に電子を渡します)。そして、イオンになりやすさ(イオン化傾向)が「電圧」を決めるものです。また「2次電池」の充電は、外部エネルギー(コンセントにつなぐなど)によって、こうした放電とは逆の動きをさせるものです。
    塩をよく溶かし、溶解したイオンが速く動くので、電解液に水を用いる「水系電解液」(液体のままでなく、紙にしみこませたものは「乾電池」)は、水が1.5Vより大きな電圧では水素と酸素に電気分解するため、「小型(電気を蓄えるための必要な体積(体積エネルギー密度)が小さい)」「軽量化(重量エネルギー密度が小さい)」、すなわち高電圧化に不向きです。そこで、「非水系有機電解液」として、「1次電池」では金属リチウム電池が、「2次電池」ではリチウムイオン電池が開発されました。リチウムは、金属で最大のイオン化傾向を持ち(高電圧)、軽い元素である(軽量化)ため、特にリチウムイオン電池は、携帯電話に、これからはEV(ガソリン車が給油1回で600km以上に対し、現行では充電1回で2~400km)に用いられます。
    リチウムイオン電池は、負極にカーボン、正極にコバルト酸リチウム(セラミックの一種)が用いられています。スーパーのレジ袋などに使われるポリエチレンは、「単結合」(隣り合う分子が互いに電子を1つずつ出し合っている。)のみの安定的な「シグマ結合」で電気は流れませんが、カーボン、中でも一般的なグラファイトは、「二重結合」(2つずつ)と「単結合」が交互となっているような不安定な「パイ結合」で、電気が流れやすいのです。「化学電池」に位置づけられますが、化学反応は使っておらずサイクル寿命が長いです。
    こうしたリチウムイオン電池を世界に先駆けて商品化した日本は、電池メーカーのほか、負極材(グラファイト。最近はシリコンを混ぜる研究が進む)、正極材(コバルト酸リチウムやニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムなど)、セパレーター、電解液などのメーカーが多数存在し、京都にも、エンジンスターター鉛電池に加えEV用リチウムイオン電池の生産を始めている企業(外部リンク)負極材の開発や鉛蓄電池とのハイブリッドなど斬新な電池の開発を進める企業もあります。しかし、2000年頃は小型タイプのシェアの大半が日本であったものの、今や中国が世界の7割を占め、特に車載用では中国・韓国勢が主流となっています。そんな中、京都には、EV向けバッテリー検査装置で世界で高いシェアを誇る企業や、交流モーターが主流となっているそうしたEV向けに世界初の交流(高電圧、大容量(電力(電圧×電流)×時間))リチウムイオン電池を開発するスタートアップ企業も生まれています。こうした開発の先の本命は、体積エネルギー密度がリチウムイオン電池の2倍以上である全固体電池と言われています(マクセルが京都で量産を進めます)。また、埋蔵量が豊富なナトリウムイオン電池カリウムイオン電池の研究(水素、リチウムと同様、元素周期表の最左列(アルカリ金属)であり、課題は軽量化)や、リチウムイオン電池の充電回数や時間等の面の制約を補い代替するものとして、物理現象によって瞬時に充放電が可能で、それによる劣化が少ない物理電池であるキャパシタも、EV業界からは引き続き注目がなされているところです。さらには、EVの消費電力の多くを占めるエアコンの省エネ冷媒の開発など周辺技術の向上も進められています。
  • 水素燃料電池
    燃焼してもCO2を生み出さない水素の酸化を活用してエネルギー(ここでは電気)を生み出すものとして、水素燃料電池(発電)があります。水素と酸素の混合ガスに火を付けると、水素から電子が飛び出すことにより水素イオンになります。そして電子は酸素と衝突し酸素イオンができます。こうしてイオン同士が結びついて水ができるのですが、水素から電子が飛び出す工程と、電子が酸素と衝突する工程を分けて、電子の通り道を作ることで、電気が起こるという仕組みです(石油化学や鉄鋼業等での副生水素を「グレー水素」、それに回収固定装置を付けた「ブルー水素」、再生可能エネルギーを用いて生成する「グリーン水素」など様々な呼称があります)。
    水素自動車(燃料電池車/FCV)は、タンク内の水素と空気(酸素)で、H2Oを排出しながら電気を生み、それでモーターを回すものです。まだ、通常のガソリンスタンドが数千万円なのに対し、水素ステーションは何億円かかるため、現在はルートが決まった路線バス等への導入が現実的ですが、将来期待されるものです。ただし、EVもそのものからCO2が出なくとも、動力となる電気を化石燃料でまかなっているとすれば、効果が乏しいということになります。また、水を水素と酸素に分解する光触媒シートを太陽光に当てて水素を取り出し(グリーン水素)、FCVに活用するする研究も進められています。
    エネファームは、既に普及が進む、都市ガス・LPガスから水素を取り出し、空気中の酸素と水素が化学反応を起こすことで発電を行い、それと同時に排熱を利用してお湯をつくり出す家庭用燃料電池です。
  • 水素サプライチェーン
    水素の「利用」は、このような民生用のFCV、エネファームのほか、産業用の半導体・ガラス・食品製造等での活用、さらには発電用の水素タービンによる発電用などがあります。
    輸送・貯蔵」は産業ガスメーカーによる液化や、水素ステーション(水素製造付きオンサイト、無しオフサイト)などがあります。
    製造」は、石油化学メーカーにおける製造鉄鋼メーカーにおける副生、あるい運輸船(常温、液化)などがあります。
    原料」は、原油(ナフサ)天然ガス(LNG)、あるいは海外の褐炭などです。
  • メタネーション
    同じく燃焼時にCO2を排出しないアンモニアや、(水素)+(酸素)ではなく、(水素)+(二酸化炭素)から都市ガス(メタン)を生成するメタネーションへの期待も高まっています。ガス田から採取した天然ガスではなく、再生可能エネルギーで作る水素と、工場等から回収した二酸化炭素で作ることで、カーボンニュートラルを目指すものです。
  • エレクトロヒート(電気加熱)
    ヒートポンプのほか、抵抗加熱、アーク・プラズマ加熱、誘導加熱、誘電加熱、赤外・遠赤外加熱、電子ビーム加熱、レーザ加熱などで、加熱に際して酸素を必要とせず、作業環境の改善だけでなく二酸化炭素の排出量を少なくするとともに、高効率(加熱材の被加熱部分を直接、加熱し、不必要なエネルギー消費が軽減できるため加 熱効率が高い)、局所加熱(高周波焼き入れのように、処理に必要な表層部分だけを加熱できるなど、必要個所を必要温度で加熱することができる)、急速加熱(被加熱部分を短時間で加熱でき、製品の生産性を高めることができる)、雰囲気加熱(不活性ガスや真空中での加熱が可能で、加熱材の酸化防止と、品質や歩留まりの向上が図れる)、高温加熱(金属の溶解・焼結、炭素の黒鉛化など高温加熱に優れている)など、産業イノベーションにも貢献するものです。

温室効果ガスの排出抑制(エネルギー・原材料消費)

リニアエコノミー(直線型経済)から、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への転換が重要です。食品ロス(食品ロスの削減の推進に関する法律、2019年)や脱プラスチック(京都府プラスチックごみ削減実行計画、2020年)などの制度が始まっています。まず、産業部門です。

  • 農林水産分野
    「化学肥料」は土壌で分解(発酵・腐敗)されると一酸化二窒素になってしまうため、化学肥料や農薬を用いないリレジェラティブ農業を指向する動き(化学肥料ではなく生物から肥料を作る動き)、「もみ殻」も土壌中で分解されればCO2になってしまうため、予め炭化した「バイオ炭」を用いてCO2になる量を減らす(土壌に貯留する量を増やす)研究、稲わらなどの穀物の「藁」や家畜の「排せつ物」も分解されるとメタンガスが発生するため、昆虫を使って素早く分解する研究が進められています。畜産においても、牛やヤギなどの反芻動物のげっぷにも大量のメタンガスが含まれるため、げっぷが出にくい成分を飼料に混ぜる研究等が進められています。
  • 建設分野
    セメント生成に使用する石灰石を最小限に抑え、コンクリート焼成時に水に替わりCO2を使用・固定化する技術を米国スタートアップ企業ソリディア・テクノロジーが確立しました。また、CO2とカルシウムを合成した炭酸カルシウムでコンクリートを作る技術(外部リンク)を大成建設は確立しています。
  • 食品分野
    米インポッシブル、ビヨンドなど「代替肉」「培養肉」に関するスタートアップ企業も登場してきています。京都でも、サプライチェーン全体でのタンパク質使用量軽減を目指し、ゲノム編集魚の開発(外部リンク)コオロギなどの昆虫食の開発が進んでいます。
  • 繊維分野
    服一着作るのに排出される平均的なCO2=25kgは、500mlのペットボトル250本を作るのと同じであり、水消費量2,300lは浴槽11杯分と同じです。しかも製品の3分の2が焼却処分によってCO2を排出しているのです。洋服がライフサイクル全体の中でどれだけのCO2を排出しているのかを表示する「フットプリント」や、CO2排出や水消費、大気汚染など数千項目に及ぶ「EP&L(環境損益計算書)」などの取組が始まっています。あるいは、川上から川下まで異業種30社が集まる「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」でも廃棄魚網からリサイクルした生地で製品開発する例など、企業どうしの共創も生まれてきています。
  • 化学分野
    自家発電ボイラーの燃料を石炭から天然ガスへの転換、マテリアルレベル(数回リサイクルすると廃棄せざるを得ない)ではなくケミカルレベル(ポリマー(分子の鎖)をばらして再構成)、原子レベル(酵素の力で再構成)のリサイクル技術の開発に加え、「第5次産業革命」ともいわれるバイオファウンドリー(遺伝子改変生物×AI/IoTが注目されています。
    特に植物は注目されています。35億年前、植物による光合成が始まって以来、地球上の酸素が光合成で作られているということのほかに、葉に当たる僅かな太陽光をエネルギー源にし、大気中にわずか0.04%しか存在しないCO2を還元し糖分に変換しているということが重要です。具体的には、太陽エネルギーと、葉緑体に含まれるタンパク質複合体「PSII」の触媒機能により、水が酸素(放出)・水素イオン・電子に分解されます(「明反応」)。蓄積された水素イオンの濃度差がエネルギーとなって生じる物質ATPと、電子を蓄える物質NADPHにより、CO2から糖質を作ります(「暗反応」)。化学プラントに見られるような、高温も高圧も必要とせず、幹や根、花や実を作り出しています。この仕組みに倣う「人工光合成」の研究では、植物のように葉緑素を利用するもの、人工的に改変したタンパク質を活用するもの、半導体と分子触媒を用いた完全に人工的な系など、アプローチは多岐にわたっており、植物が主に作る化合物は、ブドウ糖を連結させたセルロースやデンプンなどですが、植物が作れない化合物を作ることも可能となります。
    京都にも海洋性光合成細菌由来・CO2固定バイオプラスチック工業用トウモロコシ由来生分解性ポリ乳酸鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を持つセルロースナノファイバーの機能向上(外部リンク)などの開発を行うスタートアップ企業が登場しています。地球上には数百万種とも言われる生物種が存在していると言われますが、まだまだ自然には未解明の機能が底知れず眠っており、その有効活用を図るネイチャーテックによって、四季折々の豊かな自然を抱える日本は、まさに世界一の資源大国と言えるかもしれません。
  • 金属分野
    2021年には、鉄鋼連盟も、業界トップの日本製鉄も2050年のカーボンニュートラルを宣言しました。高炉の排気口にCO2を回収・固定化するためのCCUS装置を取り付ける方式や、コークスの代わりに水素を用いる研究や電子をぶつける研究が進められています。あるいは、鉄スクラップを原料として不純物を取り除く方式である「電炉」への転換にも着手されています。国内では電炉メーカーも少ないこと、鉄スクラップの調達コストがかかること、再エネが未普及であること、自動車向けの高級鋼の品質確保の観点などから、コークスを用いる「高炉」が主流です。
  • 機械加工・製造分野
    高効率・高輝度な次世代レーザーの開発による省エネ、空調と高性能生産設備の稼働のために多くの燃料と電気を要する半導体製造工程の省エネなどが必要です。
  • 電子電気分野
    かつて日本がトップランナーであった多くの技術が、徐々に地位を失いつつある中で、セラミックコンデンサでは、材料を原子レベルで制御して小型化しエネルギー使用量を減らそうという試みも始まっています。
    また、冷媒においては、オゾン層破壊効果があると指摘されたCFCやHCFCに代わる代替フロンHFC、PFC、SF6には温室効果が指摘されたものの、ダイキン工業は再生HFCを提案し欧州で認められています。一方で、ノンフロンと言われるCO2、アンモニア、HFCを活用する研究が進められています。
  • 情報産業分野
    データセンターへのAI導入で電力消費量を大幅削減する事例が生まれているほか、超電導状態で動作し電気抵抗がゼロで廃熱を出さない量子コンピュータの導入を目指す動きもあります。

次に運輸部門です。

  • 交通・運輸分野
    EVトラックの開発を進めるスタートアップ企業(外部リンク)も生まれてきています。

    (1)燃料
    陸上では、EVスクーターは既に世界中で普及していますし、EV大型バスは中国BYDなどがアメリカ大陸や欧州で販売し、EVトラックはテスラやボルボ、ダイムラーなどが開発を進めています。Uberでは、シェアによる排出量削減を謳っていたものの、電車や徒歩からUber利用へのシフトで排出量が増加してことが判明しいたため、2030年までには北米・欧州の車両を全てEVに切り替える計画です。
    海上では、バイオエタノールで運行する長距離航路を運航する計画もあります。
    では、ボーイングがバイオ燃料による航空機の開発を、エアバスが水素燃料による航空機の開発を、それぞれ進めています。

    (2)軽量化
    材料開発(素材の高強度化、部材の軽量化)、接合・接着技術(構造解析、信頼性評価)、設計(最適構造設計・信頼性設計)による軽量化の追求が重要です。

そして、民生部門です。

  • 商業不動産分野
    2018年に日本の小売業で初めて「脱炭素ビジョン2050」を公表したイオンは、再生可能エネルギー100%での事業運営を目指す国際イニシアティブ「RE100」に参加し、グループ全体で日本の総電力の1%分に相当する国内最大の需要家が再エネ100%を目指すという大きなインパクトを与えました。固定価格買取制度の期間満了で売り先がなくなった個人宅の発電を買い取りWAONポイントで還元する仕組み、EVに貯めた電気買い物中に店舗で放電しいてもらいポイント還元する仕組みなどで再エネをかき集め、一部店舗で再エネ100%を実現しています。
    世界シェア5割を誇るソニーのデジカメやスマホに欠かせない、「CMOSイメージセンサー」の製造には、クリーンルームでの24時間操業に膨大な電気が必要で、工場の屋根の上の太陽発電だけではまかなえないため、電力会社が開発した予測技術(転機に発電量が左右される再エネを、発電量と消費量が一致しなければならない既設の送電網につなぐのに必要)を利用することで、他工場から電力を融通する仕組みが実現できました。
  • 建築分野
    ゼロカーボンの住宅「ZEH」やビル「ZEB」の推進のほか、鉄材、セメント、コンクリート生産時のCO2排出が大きい鉄筋コンクリート造に代わって木造が見直されています。

脱炭素経営

中小企業の脱炭素経営は、CO2排出削減(地球)、資源対策(社会)、経営革新(産業)の推進です。固定費(自社加工、人材、設備)を有効活用し、変動費(材料費、外注費)を減らし、付加価値(売上―変動費)を高めることが重要です。よって、固定費・変動費の内訳の把握から、資源・エネルギー使用量、CO2使用量の換算を行うことで、事業の選択と集中(付加価値/資源・エネルギー消費の大小)を図る必要があります。

これまでから京都府では、環境部局や京都市とも連携し、(一社)京都知恵産業創造の森・スマート社会推進部を核として、スマート製品等の開発支援を行ってまいりました。

  • エコ、エネルギー、ICTなどの先端テクノロジーを支援する「スマート社会実装化促進事業(補助率2分の1、上限500万円)」では、HEMSや省エネのための高機能膜分離技術、リユースバッテリーのリモートメンテナンス、物体検知ソリューション、急速充電可能な電動自転車の給電スポット開発等の事例が生まれています(2020年度、2021年度、2022年度とも4件(エシカルファッション、水素・窒素混合ガス製造、バイオマスからの低炭素燃料製造など))。
  • 画像検査等へのAI導入、省人化のためのロボット導入などのスマート技術の進展は、同時に電力等の消費増加の恐れを伴うものであり、エネルギー消費の見える化(定額補助、上限150万円)、生産性向上(補助率3分の1、上限350万円)を支援する「スマートファクトリー促進支援事業」によって、生産管理システムの導入や簡易見積もりシステムの導入などを進めています(2020年度は10件、2021年度は9件、2022年度は4件(コンプレッサー電力の見える化、樹脂充填工程のログ記録・分析など))。
  • 開発されたスマートプロダクトを認定する「京都スマートプロダクト認定」においては、大気からガスを発生する装置やお手軽CO2センサーなどユニークな製品が2008年度から累計133件生まれています。
  • その他、温室効果ガス削減のために施設改修の支援を行う「京-VER創出促進事業(補助率3分の1、上限800万円)」(2020年度採択事業分で高等学校2校分に相当するCO2を600トン弱削減)、再生可能エネルギー設備や蓄電設備の新設等の支援を行う「自立的地域活用型再生可能エネルギー設備等導入補助事業」、「省エネ診断(例年25件程度無料診断)」などを行っています。

施策

ものづくり

日本のGDPの約2割を占める製造業。中でも「自動車」と、自動車やスマホをはじめとする様々なIoT機器に搭載されている「半導体」が、現在の日本のものづくりの代表格でありましょう。

次世代自動車を見据えた垂直連携

出荷額約60兆円で、GDPの1割強、主要製品出荷額約300兆円の約2割を占める自動車産業。特に次世代自動車は、ダイムラーが2016年に発表した「CASE」に表されるように、製造業だけでなく異分野の参入が拡大するとともに、巨大市場を背景に技術革新著しい中国など国家も巻き込んだ群雄割拠状態で競争が進められており、求められる技術も、従来の自動車関係にとどまらずIT、電機・電子など裾野が広がっているため、府内ものづくり中小企業にとって、自動車産業との関わりのウエイトがこれまで以上に大きくなっていると実感されるところです。

「CASE」を概観すれば、

  • まず「Electric(電動化)」(2021年の世界のEV販売台数は460万台と、初めてHVを上回りました)については、充電スポットや電池コストの問題がありますが、環境問題先進地である北欧ノルウェーでは既に新車販売の過半をEVが占め、ディーゼル車の排ガス不正問題を契機とするドイツ、ガソリン車で後発故にEV車購入補助やその開発品質の向上の両輪で進めている中国などの国策が目立つとともに、「人類を救済する」というミッションと、エネルギーを太陽光発電で創り、蓄電池で蓄え、EV車で使うというグランドデザインを描く米国のテスラが先導してきました(創業者イーロン・マスク氏のスペースX、アマゾン創業者ジェフ・ベソス氏のブルーオリジン、ヴァージン・ギャラクティックなど宇宙船開発競争も進んでいます)。データを蓄積しつつ、そのノウハウはオープン化しており、中国でBYDをはじめとする数十社のEVメーカーが誕生することにつながったのかもしれません(圧倒的な安さで中国国内ではテスラを上回る売上を達成する企業も。日本の自動車メーカー、トラックメーカーが出遅れる中で、京都企業は世界のEVメーカーに部品提供を行っています)。そして、EV車で高まる電力消費に対しエネルギー業界では「3つのD」、すなわち、より限界費用が小さいクリーンエネルギーによる脱炭素化(Deccarbonization)、分散化(Decentralization)、デジタル化(Digitalization)を進めており、石油メジャーもEV充電ステーションを抱える企業の買収を図ったり、ソフトバンクグループは「ビッツ(情報革命、IoT)、ワッツ(エネルギー革命)、モビリティ(移動最適化)」と評し、CASEの様々なレイヤーの企業に投資をしています。タイヤメーカーにおいても、EVは大量の電池を積み重量が重くなるため、ゴムの使用量の削減によるタイヤ軽量化、溝の形成の工夫による耐摩耗性向上を図ろうとしています。
  • 次に「Autonomous(自動運転)」については、運転手の人件費を不要にできる業務用分野で先行する傾向がありますが、アルファベット傘下のWaymoや、自動運転技術のオープンソース化によって多様なパートナーと協業する「アポロ計画」を進める中国のバイドゥ(国策AI事業である自動運転、都市計画、医療映像等をバイドゥ、アリババ、テンセント等が分担)、さらには、2020年の米中両国での自動運転試験走行距離で、この2社を抑えて首位に立ったGMなどがひしめいています。また、自動運転の核となるLiDER等によるセンシング、AIによる判断、制御等をスムースに行うためのGPU等の半導体においてはエヌビディアが存在感を発揮しています。しかし、ここでも際立つのはテスラ。高コストなLiDERを使わず視覚情報をベースに、実運用面で圧倒的なシェアを誇り、もはや「車輪のついたソフトウェア」として日々収集されるデータから、ディープラーニングでアップデートされています。また、アップルが、自動運転のソフト分野尾ほか、シートやサスペンションと言ったノリ心地に直結するハード分野でも存在感を発揮しようとしています。なお、日本でも2022年度にもドイツ(自動車メーカーと所有者による事前認可、限定ルート)に続きレベル4の法制化が見込まれています(米国自動車技術者協会や日本の国交省の区分/レベル1:アクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の一部支援、レベル2:同両操作の一部支援、レベル3:運転者対応待機状態付きでの一定条件下全操作支援、レベル4:一定条件下全操作支援、レベル5:完全自動運転)。
  • そして「Shared & Service(シェアリングとサービス)」MaaSの1つ、ライドシェアではウーバー(選択肢を広げるため有人ドローンを開発中)、リフト(自動運転部門をトヨタが買収)や滴滴出行などが有名ですが、P2Pを成立させるための与信情報、相乗りを実現する経路・到着時間予測などAI、ビッグデータが重要な技術です。また、カーシェアにおいては、ダイムラーでは逆に購入(所有)を刺激し押し上げたり、長距離利用が多い北米からは撤退するなど試行錯誤が続いていますが、同社のIT企業並のAIアシスタント「MBUX」はドライバーのスケジュール管理や好みの音楽やレストランの紹介など、そのホスピタリティが好評を博しています。
  • 最後に「Connected(つながる化)」。既にインドでも、配車アプリで、目的地入力と二輪車・三輪車・四輪車の選択をすれば、評価の高い運転手が割り当てられ、クレジットカードでキャッシュレス決済ができると言います。今後、自動運転によって「どう運転するか」から「どう過ごすか」がポイントとなる中、音声認識技術アレクサアマゾンエコー(AIスピーカー)やアマゾンゴー(無人店舗)等の無人システムを進めるアマゾンが、2020年に自律走行車開発企業を買収した動きは注目です。「エンジンをかけて」と話しかければ走り出す車など、既に中国では地元アイフライテックや米セレンスなどが車内音声AIでシェア争いを繰り広げています。

「壊れない自動車」として人気の日本車を支えてきた日本のものづくり技術。今後、いずれかの分野の企業から総合プレイヤーが登場し、OEM(生産受託)、ODM(設計・生産受託)、EMS(電子機器生産受託)等が加速するとしたら、それらが追求する「規模の経済(生産規模拡大)」に対応する低コスト化、「範囲の経済(種類拡大)」に対応するデザイン指向による幅広いアイテムの提供、「速度の経済」に対応するデジタル試作などが、中小企業にとっての鍵となるかもしれません。仮にその総合プレイヤーがITなどの異分野からの参入企業であった場合は、ものづくり中小企業の強みである要素技術、生産技術、量産技術を活かしてIT企業の弱みを補完するチャンスだと考えられます。

何より、こうした次世代自動車によって狭義の自動車産業は縮小し、大手自動車メーカーには収益性を含めて厳しくなる反面、広義の自動車産業は拡大し、中小企業にとってはユニット開発という新たなチャンスが広がっています。FA分野で日本が世界をリードするきっかけとなったのは、ファナックが、PCへの搭載よりも早い1975年にインテルMPUをCNCに搭載し、それを多様なマシンに組込補完材として搭載していったことがきっかけだと言われているように。

例えば、ガソリン車からEVへの変化としては、搭載部品点数が3万点から2万点に縮小するとともに、

  1. 「ガソリンタンク(給油)」が「バッテリー(充電)」へ:スマホなどと同様のリチウムイオン電池が主流(EVの原価に占める割合は3割)。しかし、アップルのEV開発プロジェクトでは、リン酸鉄系の正極材料が用いられているとされ、エネルギー密度は高くないが耐久性が抜群と言われています。京都のスタートアップ企業では「交流」のリチウムイオン電池を開発しています。
  2. 「燃料ポンプ」が「コントローラー」へ:バッテリーの直流電気をモーター用に交流に変換する「インバータ」や電圧をコントロールする「コンバータ」などを組み合わせたユニット開発のチャンスがあります。
  3. 「エンジン」が「モーター」へ:モーターには、磁界に挟まれたコイルに直流電流を流すことで、フレミングの法則によりコイルが回転する「直流モーター」、コイルに電流を流すブラシをなくし、外側に配置したコイルにインバーターで制御した電流を流すことで、内側の電極を回転させる「ブラシレスモーター」などがありますが、EVで多く用いられているのは、向かい合うコイルに交流電流を流すとフレミングの法則によってN極、S極が生まれ切り替わることで、同法則によってコイルの間にある軸が回転する「交流モーター」です。なお、日本電産はモーターとインバータと減速機が一体となったユニットを開発しています。

このように、ガソリン車のような系列サプライヤーによる垂直統合モデルのバリューチェーンではなく、例えばモーターとバッテリー連携をはじめ、ユニット開発のための水平分業モデルへの移行が鍵を握っていると考えられます。

バーチャルエンジニアリング

日本では、詳細部位までの製品形状表現ができない2D図面を用いて、加工技術者が、設計者の意図を汲み取り、あるいは意図以上の具現化を図ることで「日本品質」の製品を製造してきており、現在も3DCADだけでの設計は2割以下と言われています(『2020年版ものづくり白書』)。しかし、世界の自動車メーカーでは、1980年代から3Dデータを活かした開発・生産の模索が始まり、1990年代後半には3DCADの活用へと大きく変革し、今はほぼ完了しています。例えば溶接工程も、3DCADなら、溶接打点に流れる電流値と流れる時間を属性情報として入力できますから、極論すれば、3D図面なら、機械が同じならば同じ品質を実現できます。しかも、図面を送付することで、輸送コストと輸送時間を掛けずに、現地で同じモノを生産できるということです。
工場の「制御盤」も同様です。その中のPLCやインバータ、ブレーカー等の配置は、各装置から発生する熱や磁力線の影響を配慮して設計が行われます。日本では依然として、2D図面と熟練技術者に委ねられ、仮組立の上で組み立てるという調整作業が行われていますが、海外では2000年を過ぎて、各装置の3Dモデルがカタログ化され、3D設計で一発対応できるようになり、現地での組立時にはMRデバイスで指示を送ることもできます。

製品開発費に対するソフトウェアの割合は7割を超え、特に3万点を超える自動車の各モジュール、電子系部品に組み込まれているソースコード行数は1億行以上(マイクロソフトOfficeのOSが4400行)と言われます。以前はハードウェアのモジュールを検証していたところですが、2010年頃にはCAE解析が始まり、ECUの計算時間の検証、さらには自動車1台丸ごとの挙動検証可能なシミュレーションも登場しています。
これまで日本は、設計者のラフ図、解析技術者の機能検討、製造技術者の量産仕様検討の「すり合わせ」から最終量産図面を作成することを得意としてきました。これにより海外よりも少ない工数であったと言われています。しかし、欧米の自動車メーカーはシミュレーションを用いて「バーチャルスリアワセ」が可能な、開発・解析プラットフォームを整えたのです。2008年にCADが専用のUNIXワークステーションでなくともWindows上で稼働し、メールで送受信できるようになったことも大きな要因ですが、特に欧州は、戦後の米国の経済拡大、日本の高度成長に対抗すべく数十年掛けて産業育成のシナリオを作って、自動車メーカーの自社CADから汎用CADへの転換、CADメーカーの育成(その三大メーカーのうちシーメンス、ダッソーの2社は欧州)、ギアの表面精度はミクロンオーダー、ボディはミリ単位などの違いへの対応などの規格の構築、型式認証に変わるバーチャルテスト認証制度の構築などを図ってきた賜物です。既に検査工程においても、日本ではレーザー計測や非接触3D計測がようやく広がり始めたところですが、欧州では複雑形状で見えないところも測れるCT計測検査が始まっているとも言われています。
日本では量産受注を前提に設計提案をサービス的に行う向きもあったところですが、これによって、サプライヤーから自動車メーカーへの効果的な設計提案が可能になって、モノではなくバーチャルモジュールそのものが「価値」となる上に、自動車メーカーとの対等な協業も行われることとなり、サプライチェーンの変革をももたらすものです。

もちろん、発注企業の設計(CAD)技量によっては、受注企業の加工(CAM)の手間や、検査の手間が増えるため、サプライチェーン全体での統一意識、技能向上を合わせて行うことが必須ですが、水平分業でのユニット開発を推進するためには「意を汲む力」と「すり合わせ力」の強みを活かすためにも、こうしたプラットフォームを「輸入」し、この「バーチャルスリアワセ」を取り込むことで、シミュレーション、バーチャルモジュールの流通を進めていくことが効果的です。

半導体とロボットによって、時代は再びソフトからハードへ

もう1つの半導体産業は、デバイス産業だけを捉えるとGDPの1%に過ぎませんが、サプライチェーン全体を捉えれば、1割弱にも及びます。

産業構造を概観しますと、ダイオード(整流)やトランジスタ(スイッチ)のほか、トランジスタを組み合わせたCPU/MPUやメモリなどの集積回路(IC(LSI等))、イメージセンサやLEDなどのオプトデバイス、センサなどの「半導体デバイス産業」(国内市場規模約5兆円、世界市場規模約50兆円(その大半がIC))、その川上の「半導体材料産業」(同約0.7兆円、約6兆円)、「半導体製造装置産業」(同約1.8兆円、約8兆円)、川下の「電子機器産業」(同約23兆円、約250兆円)で構成されています。

  • 半導体デバイス産業」は、CPUが強い米国、DRAM、フラッシュメモリが強い韓国のシェアが高く、インテルやサムソンは設計・製造とも一貫して行う垂直統合型(IDM)ですが、微細化に伴い、シリコンウエハ上での薄膜形成、回路焼き付けなどの前工程を中心に、水平分業への転換が起こり、設計・開発を行うファブレス企業(クアルコムやエヌビディアなど)や、前工程の製造だけを行うファウンドリ企業(台湾のTSMCなど)、後工程の組立だけを行うOSATなどが生まれてきました。そのため、おおまかには「英国が設計、米国(巨大IT企業)が開発、台湾が製造、スマートフォンは中国で製造」といった世界的サプライチェーンが構築されています(近年は巨大ファウンドリ企業の存在を背景に、台湾でもファブレス設計企業の台頭が著しいです)。
  • 日本は、ロジック半導体(演算処理)、パワー半導体(電力制御・供給)、CMOSセンサ等で依然高いシェアを誇っているものの、半導体デバイスの世界シェアは10%を切っていると言われます。「電子機器産業」が、1970年代頃の家電や電卓、1990年代頃のPC、2010年代のスマホ、そしてこれからは自動車、ロボットと変遷を続ける中で、国内にはビッグユーザーがいなくなったことが大きく影響しており、日本の半導体産業の最大の課題です。
  • また、シリコンウエハ(信越化学工業、SUMCOで世界シェア約5割)、レジスト(JSR、東京応化工業、信越化学工業で約9割)、フッ化水素(森田化学、ステラケミファで約8割)などの「半導体材料産業」や、上位10社に東京エレクトロン、アドバンテスト、スクリーン(洗浄装置で約5割)、日立ハイテクの日本企業4社が食い込む「半導体製造装置産業」では存在感を発揮していますが、製造装置トップのアプライドマテリアル(米国)は前工程のほとんどをカバーし、2位のASLM(オランダ)は露光装置で世界シェア約8割を占め、波長の短い極端紫外線露光(EUV)を用いて微細化(7nm以下)対応可能な装置は同社のみとなっています。

半導体は技術革新のスピードが速く、それが長年に亘り続いています。

まず、電気を通す「金属」と、通さない「絶縁体」の両方の性質を有す「半導体(材料)」。

  • 元素半導体:シリコン、ゲルマニウムなど。ソニーがゲルマニウムを用いたトランジスタをいち早くラジオに用いたことが、日本に半導体産業が興るきっかけとなりました。
  • 化合物半導体:ガリウム・ヒ素、ガリウム・リンなど。化合物の特長を生かして高性能パワーデバイス、マイクロ波パワーデバイス、発光ダイオード、半導体レーザーなど様々な半導体デバイスに応用されています。

いずれも不純物の添加によってP型(正電荷の正孔が電気を運ぶ)、N型(負電荷の電子が電気を運ぶ)になり、その組み合わせにより様々な働きを生む「半導体デバイス」が生まれました。

  • ダイオード:2個の電極しかなく、P型とN型を接合させた構造で、電気をP型からN型へ(電子をN型からP型へ)一方向にしか流さないため、交流を直流に変える整流器に用いられます。
  • トランジスタ:3個の電極を持ち、様々な型があり、電気の増幅やスイッチングが可能。熱を使い経年劣化し、小型化に限界がある真空管に代わり、コンピュータのスイッチング機能を担っています。
  • IC(CPU、MPU、メモリなどのLSI等):トランジスタ、ダイオード、抵抗、容量等の電子部品を1つの基板に搭載し、特定の回路機能を持たせています。(なお、IC、コンデンサ、リレー、コネクタなどを搭載しているのが、電子基板(プリント基板)
  • フォトダイオード:半導体に光を当てると電気が流れる性質を利用したもので、太陽電池、CCDセンサ(光をRGBに分光してフォトダイオードでキャッチ)、CMOS(各フォトダイオードで電気信号化)に用いられています。
  • 発光ダイオード(LED)・半導体レーザ:化合物半導体によって、電気から光を有むものです。
  • MEMS:半導体の機械的な性質を利用したもので、加速度センサや角速度センサ、手ぶれ防止やディスプレイ・デバイスにも用いられ、自動車やロボットに必須デバイスとなっています。

1970年代の初頭までは、米国は軍需・コンピュータ志向、日本は民生分野志向という棲み分けでしたが、日本のオイルショック以降のハイテク産業への移行と、コンピュータ業界の磁気メモリから半導体メモリへの移行が重なり、国内市場の盛り上がりに牽引される形で日本製のDRAMが席捲するなど、1980年代末には、日本のデバイス産業は世界最大のシェアを誇り、半導体は「産業の米」と言われました。しかし、それが国内の海外製品のシェア目標を定めた日米半導体協定の締結等にも繋がりました。さらに、90年代以降のインターネット・ブームやスマホ市場に乗り遅れ、川下産業では日本は世界の1割に過ぎません。その間も世界中で様々なイノベーションが生まれています。

  • 今やハイテク産業の覇権はGAFAMに移り、それら巨大IT企業がクラウドサーバーやスーパーコンピュータの半導体チップ(CPU、画像処理やAI用等に用いられるGPUなどのプロセッサ)開発に注力しています。
    2020年6月、世界スパコン・ランキングで、5部門のうち4部門を理化学研究所・富士通の「富岳」がトップを独占しましたが、残る1部門のトップを獲得した日本のAI企業Preferred Networksもチップの自社開発に取り組んでいます。ディープラーニング(学習と推論)やビッグデータ処理に対応するため、ライバルに差を付けるため、ハードの制約を受けるソフト開発の効果を高めるため、チップ開発に進出しているのです。ムーアの法則によれば、1チップのトランジスタ数が18ケ月で倍化しますが、トランジスタが微細化するに従い電流漏れや過剰な熱の発生が起こるため、近年のパソコンは、クロック周波数を保ったまま性能を上げようと、演算ユニットを多数内蔵(マルチ・コア)した汎用CPUを並列(マルチプロセッサ)で繋いでいますが、先の両者のスパコンは、命令を同時に複数のデータに並列に適用するかつてのベクトル方式も組み合わせ、富岳にあっては毎秒41.6京回の浮動小数点(仮数、基数、指数の要素で表現する数字)計算を実現しました(2022年は、米国フロンティアが110京2000兆回とトップとなり、富岳は44京2010兆回と2位でした)。
    このため、スーパーコンピュータは、「理論」「実験」と並ぶ現代科学の第3の柱「シミュレーション」の高度化を実現し、天気予報のほか、宇宙シミュレーション、材料研究、量子化学や量子コンピュータ開発、空力設計、がんゲノム医療研究などに用いられています。例えば、新型コロナウイルス感染症の治療薬。一般に創薬開発は、病原である標的タンパク質の探索(ターゲット探索)、それと結合する化合物の探索(リード探索)、人間が飲める形にする薬剤変換(リード最適化)、動物評価(前臨床試験)、ヒト評価(臨床試験)という長い工程を経て、成功確率は2.5万分の1程度と言われています。そこで、リード探索のシミュレーションが行われてきましたが、通常は標的タンパク質を「固定」した形で探すので精度が低いのに対し、富岳を用いて「動かす」ことで高い精度で検索が進められています。三次元座標に、標的タンパク質を構成する数万個の原子を配して質量や電荷を基に加速度を計算し、フェムト秒単位で移動後の座標を求めるという膨大なデータ量をこなしているそうです。
    スーパーコンピュータは、自国の産業基盤の強化などを目的に「汎用機」開発において国家間でしのぎを削っているところですが、富岳は、最高レベルのマシンをコンシューマー製品にも幅広く応用できる点も高く評価されています。一方、計算量が数ヶ月ごとに2倍に伸びているAIの学習のため、巨大IT企業は自社開発のAI計算用チップやエヌビディアの最新GPUなどを数千個搭載したAIスパコンの自社開発を進めており、計算速度毎秒100京回に達しています。
  • また、製造装置・手法においても次々とイノベーションが生まれています。トランジスタやコンデンサなどを配置する基板である電子回路を、スパッタリングでウエハに銅箔成膜、レジスト塗布、フォトマスクで露光・現像(レジスト廃棄)、エッチング(銅廃棄)、レジスト除去(レジスト廃棄)という従来の回路形成方法は、線幅10nm程度までに対応できるものですが、波長の短い極端紫外線露光(EUV)を用いて微細化を行う技術が生まれています。また、東京のスタートアップ企業で、銀ナノインクジェットプリント、銅めっきという新方式で、少工程・廃棄レスで実現するところも生まれてきています。あるいは、型をウエハに押しつけて、回路線幅15nmほどの回路パターンを形成するナノインプリントリソグラフィ(NIL)は、EUVと比べ消費電力を10分の1に抑制できると言い、キオクシア・キャノン・大日本印刷などが実用化に向けて進めています。一方今後は、こうした前工程だけでなく後工程の技術革新も今後のトレンドの1つとも言われています。回路幅3nmの量産は、サムスンが2022年前半に、TSMCも同年秋に予定しており、NEDOも研究開発で回路線幅3nmを実現し、2nmの新工場も建設中の台湾TSMCとも組んで、素材や製造装置に強みを有する日本の強みを活かし、従来の2次元基板「プレーナー型」から、2.5次元「フィン型」を飛び越えて、微細構造を縦に積み上げる「ナノシート」と呼ぶ3次元実装技術の確立を目指しています。ベルギーの研究機関imecによれば、2027年にも回路線幅1nm以下品が実用化されると言われ、EUVによる露光装置の開発が進められており、実用化の暁にはエッジAIの拡大、それによるデータセンターとの伝送電力の削減が見込まれます。

こうした中で、日本が半導体デバイスを注ぐべき川下産業は、ロボットではないでしょうか。ロボットの知能にはロジック半導体(演算処理)が、ロボットのエネルギーにはパワー半導体(電力制御・供給)が、ロボットの五感(視覚・聴覚・触覚など)にはCMOSセンサをはじめとする様々なセンサが必要で、日本がまだシェアを獲得している半導体デバイスを多く必要とする分野だからです。

高機能材料、微細加工、生産材

元来、日本は、こうしたハード、特に「高機能材料」や「微細部品」、量産を支える「生産財(工作機等)」の技術は得意としてきました。
例えば高機能材料。半導体分野では、SiC(炭化ケイ素)をはるかに凌ぐ電気性能のGaN(窒化ガリウム。高周波等が得意)やGa2O3(酸化ガリウム。電力ロスが少ない)などの新たな材料開発パワーデバイスの開発が、京都の企業においても進められています。
あるいは微細加工。成膜やエッチングなど2次元加工の半導体製造、光学系のレンズ表面加工などの「ナノ加工」に次ぐ、1μm~30μm程度の「微細加工」です(肉眼で見えるのは300μm程度まで)。「生産財部品」では医療ロボットを支える微細機構などがそうですし、「製品部品」では痛くない注射針、カプセル内視鏡、スマホの微細部品の検査プロープ、カメラ内蔵あるいはAR用ディスプレイ内蔵スマートコンタクトレンズなどがそうです。
さらにこうした部品を生産するための「マシン(生産財)」も日本の中小企業が存在感を発揮しています。直径0.01mmのエンドミルや微細加工用マシニングセンタ(自動工具交換・数値制御機能付きフライス盤)等がそうです。小径ゆえに回転数を上げながら冷却液等で収縮を抑える主軸の構成、数値制御の補正をも超えるナノレベルの位置決めを実現する組立時キサゲ作業など匠の技が盛り込まれています。さらには加工ヘッドに超音波振動を加えることでセラミックスやガラスへの微細加工もできるようになっています。また、セラミックスの放電加工が可能になったり、CO2レーザーから、ファイバーレーザー、さらにはフェムト秒レーザーなどが登場したりと、非接触で高アスペクト(深穴)を実現できる放電加工機、レーザー加工機も飛躍的に発展していますし、量産向けのプレス加工や医療分野のディスポーザブル等で利用が進む樹脂成形でも、微細加工は深化しており、精度を測る非接触3次元測定器やX線CTスキャン等も発達しています。京都においても、光学ミラー金型などナノレベルの超微細加工(外部リンク)ミクロン単位の補正技術と研究者の知見を組み合わせて開発型企業へ飛躍する取組フェムト秒レーザーのシェアリングなどを後押ししています。

エンジニアリングチェーンのDX、そして「ものを特定顧客に」から「ノウハウを不特定多数に」へ

ただし、京都の課題は2つです。

1つ目は、技術・製品(精緻さ)の差別化が困難になる中で、AI・IoTなどのDXを用いて、技術・製品を支える哲学やストーリー、設計力や生産技術・現場カイゼン力などのオリジナルのノウハウを、新しい強みとして見い出し、それを活かすプロセスエコノミーの構築です。

そこで、まず、前提として、市場や顧客の変化に対応して、製品を作り替えることができる設計人材の不足を解消することが不可欠です。機械設計においては、3D CADで自由な形状にモデリング(造形)できますが、「品質の90%以上、コストの80%以上が設計段階で決まる」と言われるように、実現できて、低コストな加工法を想定した設計を行う必要があります。そして、家電や事務機器などの電子機器における機械系部品の加工コストの構成は、板金3割、樹脂成形5割、切削1割となっていますが、量産を前提にすれば低コストな板金(生産性は樹脂の10倍、型の温度制御は樹脂ほど困難ではない)、樹脂成形、切削の順、少量・精度を前提にすれば逆の順で検討すべきです(板金なのに厳しい「公差(設定としての基準値との差。量産では正規分布)を求めると、切削で補正しなければなりません)。

  • 板金:打ち抜き・曲げ、絞り、溶接(スポット、アークなど)など2次元から3次元への変身で、せん断、引張り、圧縮に注意した設計が必要です。例えば、薄板からサイコロを作る際に正確な曲げを実現するための順序や組み合わせを工夫する、曲げ回数が多いほど引張力の関係で「バラツキ(結果としての基準値との差)が大きくなることを見越す、薄くて大型の板金を曲げるなら三角リブを組み込む、強度試験ができない溶接では念のため多点で溶接する、電極が容易に接触できるように配慮する、異種金属どうしを溶接しない、溶接する2つの部材のそれぞれに突起と穴を設けることで治具を用いず経験に関係なく、誰でもが位置決めを手早くできるように設計する(セルフロケータ)などです。
  • 樹脂成形:雄型(コア)と雌型(キャピティ)の間にできる注入空間(キャピティ(同名))への射出(側のソリッド、中空にするために不活化ガスを注入するガスアシスト)、熱成形(真空成形)、フロー成形などペレット粒から3次元への変身で、熱、流動、型開閉に注意した設計が必要です。例えば、割れる強度上のトラブルで多いウェルドライン(2方向からの解けた樹脂の接合部)への配慮、同じ材料でも細長いと冷却時間がかかり生産性が落ちることへの配慮などです。
  • 切削:板金樹脂成形の型を作るための研削、旋盤、フライス加工(エンドミル)旋盤・フライス加工等を自動で行うマシニングセンタ(技ではなくプログラミング)など3次元から3次元への加工で、熱変形、加工変形、応力集中に注意した設計が必要です。割れが生じにくいよう逃げ溝を設けRをつけておく、加工困難な2段テーパは避けるかテーパ角度を同じにする、エンドミルの垂直応力によるワークのたわみによる変形を考慮して補強リブをつける、径の違うエンドミルへの交換回数を少なくするなどです。

その他、「公差(設定としての基準値との差)」の量産時の正規分布を理解した設定、RoHS指令(電気・電子機器における特定有害物質の使用制限に関する欧州連合による指令)対応として、6物質(鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル、ポリ臭化ジフェニルエーテル)含有量を一定範囲内にするなどが、必要です。

次に、技術・製品の品質向上・担保のための分析(分離、測定)が重要で、中小企業技術センターなどにおける貸付、すなわち、加工精度の診断を行う工作機械精度診断測定システムや高性能高さ測定機、ものの表面の解析を行う電子顕微鏡、内部の解析を行うX線透視装置などのほか、電子部品の有害物質に関する欧州の規制強化への対応の関係では、有機物の分析を行うガスクロマトグラフ、金属の分析を行う放電発光分析装置などの検査装置や生産装置の貸付などを行っています。

  • 酸化・還元
    原子から電子を奪われること(酸素がくっつくこと、水素が離れること)が「酸化」、電子を得ること(酸素が離れること、水素がくっつくこと)が「還元」です。
    例えば「光触媒」は、光のエネルギーによって化学反応を促進する物質全体を指しますが、その中で実用化されているのが酸化チタンを用いたものです。酸化チタン(TiO2)に光を照射すると、電子が飛び出します。飛び出した「電子」が空気中の「酸素02」に作用することで不対電子を持つ「スーパーオキシド02・-(活性酸素)」が生じます。一方「正孔」が空気中の「水H2o」から電子を奪うことで不対電子を持つ「水酸ラジカル・OH(活性酸素)」が生じます。これらスーパーオキシドと水酸ラジカルが、アルコール、植物の葉、ゴキブリさらにはCO2までをも分解(酸化)する、これによって汚れなどを太陽光で分解するというものです。
  • 共有結合・水素結合・金属結合・イオン結合
    例えば純水の「水分子」では、「共有結合」と呼ばれる水素2個と酸素1個の強い結び付きが起こっています。原子には外側の軌道に8個の電子があると安定する性質があり、外側の軌道に6個の電子を有する酸素原子に対し、水素原子2個は、それぞれなけなしの電子1個を酸素の電子軌道に供与するかわりに、酸素原子からも自分の電子軌道に電子1個を供与してもらうことで、互いにしっかりと結び付いています。また、酸素分子(O2)は4個の電子を共有することで、それぞれ外側の軌道に8個の電子を有することとなり安定しているが、オゾン(03)はそのバランスが崩れ、強力な酸化力(電子を奪う力)を有します(なお、酸素やオゾンは紫外線を吸収します。高度20kmより上空では、強い紫外線により酸素分子が分解して酸素原子となり、それがまわりの 別の酸素分子と結合してオゾンが生成されます。さらい、オゾンは酸素原子と反応して2つの酸素分子に変化します)。
    さらに、酸素原子と水素原子が一直線に並んでいないため電子の分布に偏りが生じる「極性」を有しているため、そのわずかなプラスとマイナスによって「水分子どうし」の引き付け合う力(「水素結合」)を有し、水は表面張力が強いのです。しかし、油の分子には極性がなく互いに引き合う力は弱いため、互いに引き付け合う水と、油が混じり合うことがないのです。そこで、石けんや洗剤などの界面活性剤は、同じ分子内に極性部分と無極性部分を持つことで水と油それぞれに親和し洗浄効果を発揮するのです。
    一方、「金属」は「金属結合」によって、導電性、展性、延性を生んでいます。金属原子は外側の軌道の余っている電子を放出しプラスイオンになりつつ、放出されたマイナスの電子に引きつけられます(クーロン力)。こうして動き回る多くの電子と多くの金属プラスイオンが引きつけ合っているのです。
    また、電子ではなく、陽イオン、陰イオンの電気的引力(クーロン力)による強い結合は「イオン結合」です。
  • 酸性・塩基性
    溶媒(水など)」に「溶質(食塩(塩化ナトリウム)、砂糖(ショ糖)など)」を混合した結果、「透明」なものを「溶液」と言います(うち「溶質」分子が分かれるもの(塩化物イオン(-)とナトリウムイオン(+))を「電解質」と言います)。具体的には「溶質」分子またはイオンに「溶媒」分子が結合する「溶解和」(ナトリウムイオン1つと水分子4つが結合)が起こった状態です。溶媒が水の場合はそれぞれ「水溶液」「水和」と言います。
    液体は、そのごくわずかな割合が解離してイオンになっており、水の場合は、2つのH20からH3O+(水素イオン)とOH-(水酸化物イオン)に分かれます。純水や水溶液では、水素イオンと水酸化物イオンの量の積は10のマイナス14乗mol/L(25度)と一定で、「中和」(水素イオン、水酸化物イオンが同量)より水素イオンが多い状態を「酸性(pH0~7)」(酢など)、水酸化物イオンが多い状態を「塩基性(pH7~14)」(石けん水など)と言います。
    例えば、次亜塩素酸水(pH6.5以下の酸性の電解水)は、電解によって生じる次亜塩素酸(HCLO:酸化数(電子の基準に対する数)+1)濃度が高く、酸化力(電子を奪う力)が強いため除菌力が強いです。次亜塩素酸ナトリウム溶液(アルカリ性)は、次亜塩素酸イオン(CLO-)濃度が高く、除菌力は弱いです。
    なお、1mol=原子6×10の23乗で、大きな単位は、キロ(10の3乗)、メガ、ギガ、テラ、ペタ、エクサ、ゼタ、ヨタ(10の24乗)、小さな単位は、ミリ(10のマイナス3乗)、マイクロ、ナノ、ピコ、フェムト、アト、ゼプト、ヨクト(10のマイナス24乗)です。

こうした基本原理を応用した様々な分析方法があります。

  • 分子分光分析
    光(電磁波)は、電場と磁場による質量を持たない「波」でもあり、ガラス等をすり抜けますが、エネルギーの最小単位・光子を有する「粒子」としての性質をもっており、遮る物質によっては吸収されたり反射したりします。1秒間に30万km進む中で、振動数が大きい(波長が短い)ほど大きなエネルギーを持ち(光量が多い)、γ線(波長1~10ピコ)、X線(~10ナノ)、紫外光(~400ナノ)、可視光(~800ナノ)、赤外光(~1ミリ)、それ以上の電波領域などの種類があります。
    こうした光の性質を利用して、大気中の窒素酸化物濃度を測定する「スペクトル分析」「吸光光度測定」、果物の糖分等を非破壊で測定する「近赤外分光」、折れ曲がった分子や左右非対称の動きの分子の振動エネルギーとして吸収される赤外線(CO2のうち左右非対称に動くものが赤外線を吸収して温室効果ガスとなる)を分析することで化合物の官能基を推定する「赤外分光」、以上のような光の吸収を図るのではなく、物質が光を受けより波長の長い光を放出する蛍光現象を測定して感度が高い分析を行う「蛍光分析」、さらに散乱光を測定して異物解析や微少物分析を行う「ラマン分光」などがあり、様々な周波数の波が合成されたパターンから各周波数成分がどの程度含まれているかを描く数学的な処理方法であるフーリエ変換も広がってきています。
  • 原子分光分析
    分子をそのまま分析するのではなく、炎や大電流でバラバラの原子状にして分析する方法で、原子が吸光(電子が外側の軌道に移動する励起状態)するのを測定する「原子吸光法」、電子が内側の軌道に移動して安定な状態に戻る際に同じ波長で発光するのを測定する「発光分析法」などがあり、金属、化学、食品、環境など様々な分野で用いられます。
  • X線・電子線分析
    原子番号の大きな元素ほどX線を透過しにくいことから、結核やがんの検診、歯科治療、手荷物検査、工業製品の品質管理に使われる「X線」、元素に固有の蛍光X線を分析する「蛍光X線分析」、X線を照射した際、X線が原子の周りにある電子によって散乱、干渉した結果起こる回折を解析することで、無機・有機物質の粉末、高分子材料、タンパク質、金属部品、有機・無機薄膜半導体などを測定する「X線回析」、光学顕微鏡(可視光)で見られない小さなものを見るために電子線(波長2ピコ)を用いた「電子顕微鏡」などがあります。
  • 質量分析
    分子や原子一つずつの質量を測定するもので、電子線や、高速原子、レーザー等を当ててイオン化・断片化したものを飛ばして分離する(軽いほど遠くに飛ぶ、磁場でよく曲がるなど)ことで、同位体を識別できます。
  • NMR(核磁気共鳴分光)
    原子核は正電荷を持って自転(スピン)し、磁場を発生させている磁石です。そのスピンを測定することで、分子構造や有機合成、医療用MRI診断装置等に応用されています。
  • クロマトグラフィー
    固定相(カラム)を流れる移動相(気体、液体)を測定する方法を「クロマトグラフィー」、装置を「クロマトグラフ(GC、LC)」、得られる図を「クロマトグラム」と言います。

2019年オープンの「北部産業創造センター」の高速開発支援センター」(中小企業技術センター本所のほか、丹後、けいはんなも含めた4か所でオンライン利用可)によるエンジニアリングチェーンのDX、すなわち、3Dスキャナ、CAD/CAE、3Dプリンタ等を駆使したデザイン、設計、検証プロセスのデジタル化支援を行っています。さらには、補助金・伴走支援による、ノウハウなどの強みとDX等の掛け合わせの推進(残留応力まで配慮した加工プロセスの工夫とSNSによるパターのオーダーメイドや加工プログラムノウハウのAI化によるサブスクサービスなど)を行っています。

2018年開設の北部産業創造センターにおいては、2020年度はコロナの影響で来場者数は4割減の9,000名程度でしたが、機器貸付は約1,200件と横ばいで推移し、2021年度はそれぞれ10,000名、1,000件でした。2022年度はそれぞれ2,000名、250件で推移しています(7月末)。特に「高速開発支援センター」は、中小企業で従来ほとんど導入されていなかったCAE等を推進を図り、現在デジタルマニュファクチュアリング関連で年間100件以上の利用(3Dスキャナ:部品のリバースエンジニアリングなど、3Dプリンタ:顧客への試作提案など、CAE:部品の形状や強度、疲労の解析、工作マシンの振動解析など)がなされるなど、中小企業の開発力向上に寄与しています。丹後ものづくりパークにおいても、2020年度は研修受講者が1,300名程度に半減したものの、機器貸付は約2,000時間、交流スペース利用は1,300時間超と、それぞれ横ばいで推移し、2021年度はそれぞれ1,700名、1,700時間、1,200時間(食品製造装置、新型織機などの開発プロジェクト等も実施)でした。2022年度はそれぞれ450名、450時間、570時間で推移しています(7月末)。さらに、CAEとAIやデジタルツインとの融合なども挑戦してまいりたいと考えています。

  • CAE1.0(1980年代以降):作らずに試せるフロントローディング
  • CAE2.0(1990年代以降):設計最適化
  • CAE3.0(2010年代以降):フロントローディング+設計最適化=試作
  • CAE4.0(2020年代以降):CAE×AI(プリント基板にIC等の部品を実装するリフローにおける温度管理等)や、CAE×デジタルツイン(商品ビジネスモデル・全般)

これらの推進により、ものづくりのエンジニアリングチェーンのDX化は進んできています

  • 設計工程のバーチャル化:CAEなど
  • 生産工程のロボット化:マシンプログラミングのAI化学、工場ロボット化
  • 検査工程のAI化:AI企業の増加によってAIを用いて中小ものづくり企業でも自社での検査が増加

また、コロナを機に京都北部での人材確保を促進するため、遊休古民家の活用促進も狙う「ふるさと売まれ!買われ!プロジェクト」も進めています。2022年4月から8月までで、売却希望・購入希望はそれぞれ約20件、成約は2件に及びます。

垂直統合から水平分業へ移行してきたサプライチェーンのDX化、そして「競合との開発競争」から「未来への開発協創」へ

もう1つは、文化芸術や最先端研究、伝統産業からハイテク産業に至る多彩な企業等どうしの強みを結合させ、そのイノベーション(新結合)によって高付加価値を生み出すユニット化です。府内工業製品出荷額は約5兆9,000万円(京都市内2兆6,700万円、山城2兆1,000万円、南丹3,700万円、中丹6,500万円、丹後1,100万円)であります(2019年工業統計調査、従業員4人以上)と、これらの様々な付加価値を融合させることが重要です。

  • 京都試作ネット
  • 京都航空宇宙産業ネットワーク(なお、2022年3月期決算では、川崎重工もIHIも航空機エンジン事業が回復(IHIは過去最高益))

半導体、自動車業界の概観のとおり、サプライチェーン垂直統合から水平分業への移行傾向にあります。自動車、半導体、機械などの産業は、樹脂材料や金属材料などの「素材工場」、最終製品などの「製品組立工場」、そして、その間には多くの中小企業や多くの京都の大企業が担う「部品製造工場」などから成り立っています。

  • その部品製造工場の加工機に着目すると、複数の加工機が並ぶ中を加工部品が順番に流れる「ライン生産型工場」(中堅企業等。一人等でまとめて管理する場合は「セル生産」)、同種の加工機が集まるエリアから別のエリアへと加工された部品が渡り歩く「ジョブショップ生産型工場」(多くの中小企業)、1つの加工機だけの「単一工程型工場」(一人親方企業等)に区分でき、
  • フローに着目すると、自社オリジナルの「汎用部品」を製造している場合は、販売計画を基にした「計画生産」、親会社からの依頼の「専用部品」を製造している場合は、「生産指示方式(内示、確定受注)」や「在庫補充方式ジャスト・イン・タイム、かんばん方式)」を基にした「受注生産」という区分ができます。

多くの中小企業が担っているジョブショップ生産型工場、生産指示方式受注生産(製造指示書(現品票)で管理)はスケジュール管理が難しいわけですが、近年の多品種化、人手不足に加え、パンデミックにより、納期遅れの増加が露呈しました。

  • 自動化されているケースも多い食品産業、化学産業の「加工製品工場」と違って、半導体工場を除けば、完全自動化はほとんどありません。各工程の加工機(自動機)が稼働している正味製造時間と、その前後の余裕時間(セットアップ時間や待ち時間)を、機械増強、現場改善、品質向上などでいかに短くするかが引き続き重要です。
  • また、ジャスト・イン・タイムはパンデミックや災害に弱いことも分かりました。需要変動(計画生産)生産変動(受注生産)に備えた一定の安全在庫は必要です(逆に安全在庫を求める動きは、世界的な資材不足の原因の一端になっているかもしれませんが)。

そこで今後、共創のためのDXプラットフォームづくりが重要だと考えています。

  • 企業間での生産履歴や不良の原因把握など品質管理のためのIoT(制御盤(PLC、インバータ、サーボ等を収めた箱)や加工機からデータ収集))の推進
  • 個別大量生産時代を踏まえ、様々なパーツを独自に提供、組み合わせることができるプラットフォームの形成(バーチャルプロダクションで先行)

施策

スマート(AI/IoT・Robot)、サイバー・フィジカル・メンタル融合

日本こそリープフロッグに

時価総額世界トップ30社のうち、日本企業は1989年には21社であったのが今は1社のみ。自動運転、AI、5G、フィンテックなどが、アメリカや中国ではもはや「先端技術」ではなくなり、新たなビジネスが次々と興ってきています。
例えばフィンテック(あるいは保険領域のインステック)は、長く続いたデフレの影響等で50歳以下の金融資産シェアが約2割しかなく、家計の金融資産構成の約半分もが現金・預金である日本では発展が難しいですが(スウェーデンでは金融機関の支店の大半が現金を持たなくなり、銀行強盗が数千件から数十件に激減)、中央銀行デジタル通過CBDCは世界が注目していますし、アメリカではリーマン・ショック(金融機関への不信感の増大、金融機関をリストラされた人々の存在)がきっかけの1つとなりました。日本でも資産運用、税金を考慮した投資、目標貯蓄の達成のための日々の支出のアドバスなど、ロボアドバイザーは登場していますし、徐々に各金融機関が金融デジタルプラットフォーム等も徐々に構築されつつありますが、何より重要なポイントは、ミレニアム世代(スマホ世代)、ビッグデータ、クラウドです。これらによって、ATMを持たなくていい、ライフログ(SNS上に残っている行動記録、自動車運転の急ブレーキの回数など)から審査を自動で行うなどにより、低コスト化と高い与信力を発揮できるため、書面不要でより高い預金金利や低い貸出金利の設定、これまで金融が届かなかった幅広い消費者へのサービス展開が実現できるのです。さらには、オープンAPIによって、オンラインショッピングを支える基盤にもなるなどカスタマーリレーションシップの強化を目的としたBtoBサービスも発展しています。
現在、日本は世界に先駆けて高齢化が進行し、人材不足が加速しています。まさにこうしたテクノロジーの遅れを逆手にとって、リープフロッグを実現するチャンスではないでしょうか。

DX- 社会全体の業態変革のためのオープンイノベーション

人口減少時代のPOSTコロナ社会において、効率化と付加価値向上を両立させていくためには、従来のやり方を根本的に変える「業態変革」、言い換えれば「構造改革&意識改革」を「社会全体」で行うことが必要です。そして、その有効なツールであるDX、大型コンピュータやPCの導入では世界にキャッチアップできていたのに日本が出遅れてしまったDX、にも同様のことが言えます。
例えばテレワークを例に挙げれば、紙ではなく業務を行えるなどの「企業のDX」のほか、家庭の通信インフラの整備などの「家庭のDX」、取引先等もオンライン対応してくれること、すなわち「業界のDX」や、必要な手続に関わる「行政のDX」、必要な時だけ必要な場所に移動するMssS等の「都市のDX」など、一企業だけでは不可能だということです。
そのためには、「オープン(イノベーション)」が不可欠です。

オープンソース

まず、1980年代には既に「オープンソース」の動きが始まっていました。プログラムには、人間が分かる(人間が書いた)「高級言語(ソースプログラム。Python、Java、Cなど)」と、機械が分かる「機械語(オブジェクトプログラム:コンピュータ(ハード)の構造を反映していて、そのまま計算回路への動きの指示になる)」があり、高級言語を機械語に翻訳(一括翻訳のコンパイラ方式、1行ずつ翻訳するインタープリタ方式)して実行されるわけですが、人間が理解できるソースプログラムをオープンにするのがオープンソースです。
その1つである、人間を相手にする「情報処理系コンピュータ」関係のGNU(グニュー)プロジェクト(1983年~)から、情報処理系のOSであるUNIXに繋がっていきます。現在、PC用のWindows、スマホ用のiOSやAndroidがありますが、クラウドサーバーのOSである Linuxは、UNIXから生まれました。1980年代の、IBM互換の「メインフレーム」と呼ばれる一部屋を丸ごと使う大型コンピュータでは各メーカー純正OSが使われていましたが、家具サイズに小さくなった「ワークステーション」で、大学や企業の研究室を中心に、オープンソースのUNIXが使われ始め、1990年代になりLinuxとしてPCに移植され(一般のビジネスでは、マイクロソフトのOS、MS・DOSとインテルのプロセッサを搭載したIBMのPC等が活用されました。)、現在、クラウドサーバーのOSとして、オープンの代名詞である「インターネット」のサービスを支えています。
もう1つの、機械を相手にする「組込系コンピュータ」関係のTRON(トロン)プロジェクト(1984年~)によるOSは、トヨタの自動車のエンジン制御や、ヤマハの楽器、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」シリーズなど様々な機械に用いられています。(なお、組込系OSは情報処理系OSの10倍近い利用台数に及び、TRON系OSは世界一の数が出ているのですが、情報処理系OSが実行中のプロセスにプロセッサ処理時間を一定で割り振り切り替える(ラウンドロビン)のに対し、組込系OSはプロセスの優先度に応じて振り分ける(プライオリティ・スケジューリング)ので、より職人技的なプログラミングが必要で、日本には人材が不足していると言われています。)
この間も、IBM互換機に対する問題(IBMが製品に付けていた回路図等を基に、完全コピー製品をより安く作る互換機メーカーが席捲し、やがて産業スパイ事件に発展)、パッケージソフトのコピー禁止問題(メインフレーム時代は、機能が限定されていた上、ハードの仕様をよく知る技術者でないと開発できないなどの事情によって自前OSであったものの、PC時代になってソフトウェアの価値上昇に伴い、ソースコードは隠され、オブジェクトコードは渡すがコピー禁止とされた。)など、「クローズ化」の傾向もありましたが、再度「オープン」にしたのはインターネットです。コンピュータの高機能化に伴い、プログラム開発に多大な時間を要するようになり、オープンな資産を用いたアジャイル(素早い)開発の動きが生まれてきたのです。
現在、GitHub(外部リンク)Kaggle(外部リンク)などの公開サイトがあります。

なお、国内でもフィンテックサービスが芽生えてきた背景に、2018年施行の改正銀行法でオープンAPI公開努力義務が課せられたことが大きいです。半日だけの保険にスマホだけで入れる決済アプリなど、金融機関のデータとつなぐことで実現されています。

オープンデータ

また、2009年に米国大統領に就任したオバマ氏が「オープンデータ」政策を唱え、ワシントンでは、行政に問題を知らせるAPIが公開され様々なアプリが開発されているとともに、集まった問題指摘内容が公開されビジネスの種として利用され、データを公開するだけで連鎖反応的に新サービスが生まれているそうです。オープンデータの乗数効果は高く、例えばダイナミックマップや信号状態から、自動運転だけでなく視覚障害の方に音声で信号状態を知らせるサービスなど様々なものが生まれてくると考えられます。既にグーグル・マップでは、道路の傾斜等をAIが自動計算してよりCO2排出量が少ないルート提示を行うなど、ESGの視点も重要となってきています。また、カルテ情報の創薬への活用、DNA分析による美容ケアサービスなど、ビッグデータで健康増進を図る取組も進みつつあります。今後、こうしたデータアセット(資産)の証券化など、ビジネスモデルの構築も重要となってきます。

ただし、データ分析技術の進化によって、携帯電話の位置やパソコンの動作環境等の匿名データからもその人の好みや生活習慣が導き出せるようになりました。このため、氏名や住所など個人を特定するデータだけでなく、そうした「顔の見えないプライバシー」も個人情報をみなす動きが、EU(「一般データ保護規則(GDPR)」)を中心に加速しており、便利さとプライバシー保護の両立が不可欠な時代となってきました。ブラウザからサーバーに閲覧履歴を返すCookieも個人情報保護の観点からEUやアメリカで制限されるよういなりました(今後「人」ではなく「枠(ページ)」にあった広告づくりが求められましょう)。

データを活用する際には、OECDのプライバシー原則や日本における個人情報保護法は、データの安全管理はもちろん、データの利用目的の特定、同意なしに第三者に提供不可などの制約を設けており、データをプライバシーを保護した状態に加工(仮名化:個人が特定できるデータをID等に変換(他のデータから特定できる可能性が残る)、匿名化:データの抽象度を高めて管理)することでの活用が考えられます。

クラウドとエッジ

さらに、こうしたサービスやデータの提供方法も自己完結ではなくなってきています。

既に世界人口78億人のうち半数超がインターネットにアクセスしていると推計されています(2018年時点)。デジタル経済の特徴は、サーバー、ゲートウェイ、通信回線、冷却音頭管理などGAFAMの巨大インフラ投資を基盤に、複製・流通など「限界費用の安さ」、利用者増が利便性を拡大し更なる増加を招く「ネットワーク外部性」、プラットフォームの乗換コストがかかることによる「ロックイン効果」によって、GAFAMのような勝者がますます勝者となる点にあります。それ故、「物理層」のアマゾンAWSなどのIaaS(インストラクチャー・アズ・ア・サービス)をはじめ、「ミドルウェア層」にもマイクロソフトAZUREなどのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)が存在しますが、中小企業やスタートアップ企業は「アプリケーション層」のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を中心に展開することになりましょう。プラットフォーム企業は、APIを公開し、オープン・クローズ戦略を展開していますが、売り手と買い手の間の信頼リスクを引き下げる基盤でもあるため(例えば、発注時に資金を預かり、完了時に支払うなど)、中小企業・スタートアップ企業は、その信用の上で、個別の課題解決サービスを創出することになりましょう。既に2024年に建設業界の時間外労働の上限規制が向けられる中で、現場写真の保存や工程管理をスマホで行い、現場で報告書作成ができるアプリ(外部リンク)スマホで手軽に3次元画像の作成、編集ができるアプリ(外部リンク)、ユーチューブでの音楽・映像コンテンツのIP(知的財産)の不正利用を探すサービスなどが次々と生まれています。

通信環境の向上(1G(1979年頃)で9.6キロバイト(1秒間に1万ビット弱を伝送)、4Gで1ギガバイト、5Gで20ギガバイトと40年で200万倍の性能向上)なども背景にありますが、グーグルのクラウドサービスは、全世界数十か所、数千万台あると言われるサーバーのうち、AIを駆使して冷房効率が高く電気代が安い夜側の半球での処理を高め電気代を4割も削減したと言われています。マイクロソフトのOfficeもクラウド化によるサブスクリプションモデルに移行しました。

一方で、エッジAIの拡大により、クラウドを経由せずに、現場で協力し合って作業を行うロボットも登場してきています。

程度のバランスとAI

そしてAI
社会全体の最適化を目指す際には、様々な事象を「程度の問題」「確率の問題」として俯瞰し、バランスを考えながら進める必要があります(ベイズ哲学)。新型コロナウイルス感染症対策においても、日々変わる事態の中で、正しさを「程度」で判断するしかないハードな状況が続いてきました。そして、「正しさは確率」「すべては程度の問題」というベイズ主義の申し子と言えるのがAIです。
AIは1960年代のコンピュータ黎明期から謳われてきたものですが、現在の第3次AIのブームのきっかけは、当時カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授の論文で謳われた「ディープネットワーク」(2006年)と、その重要性に気づいた当時中国・百度(バイドゥ)所属のアンドリュー・ング氏の論文で謳われた「ディープラーニング」ですが、複数の入力値について、重みづけ、バイアス、しきい値といった「パラメータ」を設定し「程度」を判定していくものです。ベストではなくベターな解を長年の経験から掴み取るようなものと言いましょうか、人間の脳の神経細胞・ニューロンの樹状突起(入力)と軸索(出力)の接続部シナプスが、頻繁に刺激を受けると感度が鈍くなったり、しきい値を超えると出力されるのと同様です。

そして、このパラメータは何億、何十億個もあり人間が設定するのが不可能であるところ、大量の正解データを与えることで、正解から逆方向を辿って途中のパラメータをコンピュータが自動的に決定する「学習」を行えるようになり、現在のAIが実現しました。
その要因の1つは、そのゲームの普及でGPUが大量に使われ安価になり、スマホやニューラルネットワークに活用できるようになったことです。
そしてもう1つは、オープン化です。グーグルがAIソースプログラムのAPIの公開を進めたことがきっかけで、マイクロソフトやアマゾンも追随しました。アルファ碁を開発したグーグル傘下のディープマインド社は、化学式からタンパク質の三次元折り畳み構造を推測するAIも開発し、GitHubでプログラムや学習データを公開しています(例えばアルツハイマー病は、化学式的には同じなのに正常とは違う折り畳みをしたタンパク質が脳に沈着することで引き起こされます。)。通常は10年かかると言われてきたワクチン開発が、たった1年程で緊急承認までこぎ着けられたのも、ディープマインド社のAIをはじめ、世界規模での研究の連携が背景にあるのです。

AI時代のDX、デジタル時代のDX、そしてコロナ時代のDX

このように、従来のDXが、データ化を人手で行い課題抽出し、デジタル化を人手で行いシステム開発し、変革というアウトプットが出てきたのに対し、AI時代のDXは、データ化、デジタル化が自動で行われるようになり(人を介さずリアルタイムに進化する)、デジタル時代のDXは、他者や社会とも繋がるようになりました(System of Systems/自由につなげる反面、脆弱性は増す)。これにより、社会全体の大きな変革を乗り越えていこう、人間中心の新価値を実現しようというのが、コロナ時代のDXではないでしょうか。

  • まず、社会の諸課題を解決するには、社会そのものに目を向けなければなりません。「答ありき」ではなく「データから」であり、「答に合わせてデータを揃える」ではなく「データを掛け合わせて問題を突き詰める」である必要があります。(例えばメジャーリーグでは近年「フライボール革命」と言って、打球は転がすよりも打ち上げた方がヒットになりやすいことがデータで示されました)。そして、ディープラーニングや因果推論(入力と出力の因果の統計(確率)上の推論。もし入力を変えたらどうなるか)等のデータ解析(データベース管理システム:Oracle、データ操作言語:SQL、マークアップ言語:XMLなど)、回帰分析(将来予測)により真の課題を見つけたら、ビジネスへと展開するわけですが、それもプロダクトアウトで「生み出す」のではなく、データから利用者を理解し「体験価値を意識する」ことが重要です。本人すら気付いていないことをAIやデータで気付かせることができれば、なお良しです。つまり、「DX×UX」です。そこにはデータを様々な視点で考察できるデータサイエンティストの能力が不可欠ですが、日本の大学では統計学を教えてこなかったため、大学院レベルで育成することが重要とも言われます(海外では、データをオープンにして、様々な分野の方に解析を競わせる手法も採られています)。
  • その際、「技術」ではなく「課題解決」が重要であり、問題を見誤らないことが重要です(「待ち時間」が問題なのか、「何もすることがない時間」が問題なのか)。サービスも、「単独」ではなく「複合」させることで、コストも価値も補うことができるはずです。
  • そして、「技術競争」に飲み込まれないために、技術の基礎となる「思想」を見定めることも重要です。技術の進歩に対してお互いに教えたくなる仕組みを作ることも有効です。
  • さらに、産業構造が変化する中でサプライチェーンの一部に特化してみることで新サービスが展開でき得ること、デジタル化に取り残される方も多く存在する中で、人間が介在してもいいし、むしろそういうサポート人材を増やすことが重要です(取り残されている人であっても、周囲が問題に気づくことで解決できるケースもあるのです)。

また、政府のデジタル臨時行政調査会では、7項目のアナログ規制、すなわち(1)目視規制、(2)実地監査、(3)定期検査、(4)書面掲示、(5)常駐選任、(6)対面講習、(7)往訪閲覧についてデジタル技術の活用方針を示しており、例えば、ドローンによる遠隔確認による河川・ダム検査、カメラ監視による介護施設管理などが期待されます。

スマートシティは移動技術からリモート技術へ

これらを踏まえて、社会環境に目を向ければ、スマートシティ自体の変革が起こってくるのではないでしょうか。

スマートシティを最初に打ち出したバルセロナ、官民連携組織を立ち上げたコペンハーゲンのほか、シカゴ、ラスベガス、サンディエゴ、ジャイプールなど欧米・アジアの都市を中心に、センサープラットフォームが整備されていますが、それらの国々に共通するのは、古い都市が過密になりインフラのカイゼンが必要であったことであり、日本は出遅れました。

しかし今後の更なる技術の進展により、新たなチャンスは生まれてきます。例え触らなくても開くドアや、店頭や体調不良を察知するセンサーなど、より障がい者や高齢者にとって住みよい街づくりが進められるかもしれません。

  • 5Gや量子コンピュータ(クラウド)、エッジAI(エッジ)、RFIDタグ(センサ)やNFT(人の認証)の発達により、ドアノブや靴、道路などのインフラが、人やロボットを「所有(管理)」する、より簡便な次世代スマートシティとなりましょう。
  • Beyond 5G(6G)のようなネットワークから端末まで光のまま伝送する技術や、チップ内に光通信技術を導入する「オールフォトニクス技術」も生まれてきましょう。

あるいは、既に今、「行かなくても同じ体験ができる」時代が訪れようとしています。日本の在宅勤務率は諸外国に比べて依然低いと言われるものの、経団連企業への調査では、2020年の新卒採用活動において、9割の企業がウェブ面接を実施し、最終面接までウェブで行ったのは6割強にのぼります。つまり、移動技術からリモート技術(リアルタイム、双方向、動画)へ、時代が変わりつつあるのです。

  • 新しい交流のチャンス:場所や世代等を超えた、多くの(世界中の人々との)交流、新しい(これまでつながりの乏しかった分野の人々どうしの)交流の創出
  • 地方のチャンス:移住の促進(地方からの越境ワーカー、遠隔移民(テレマイグランツ))と都会のオフィスのあり方の変更(ミーティングスポット化、JRによる駅ナカオフィスなど))
  • ロングテールビジネスのチャンス:見積もりや商談のオンライン化のほか、大会場で行うには知名度の低い公演のオンライン上演や行きたくても行けないアフリカの奥地などへのオンライン旅行などのロングテール需要に対応する新ビジネス、オンライン旅行に過去の風景も重ね「時空」を超える新ビジネス、障害をお持ちの方が自宅からロボットをリモート操作して接客・配膳をする(外部リンク)、脊椎損傷の入院生活者がPC用マウスを手先で動かしてメルマガ執筆や情報サイトのキュレーション等で収入を得るなどの新たな就業機会の創出

プラントイド

次に、自然環境に目を向けても新しいチャンスが埋まっているようです。

これまでからバイオミメティックス(生命模倣)は、様々なものがありました。エッフェル塔の骨組みは人間の大腿骨における骨小柱の配置を、新幹線の先端はカワセミのくちばしを、人工吸盤はタコの凹凸があってざらざらした足と軟体性を、這い上る粘着テープはファンデルワース力を発揮する繊毛の生えたヤモリの指を、それぞれ模倣しています。また、パラシュートはキバナムギナデシコの種子の羽毛を、面ファスナーはゴボウの実を、撥水加工はハスの葉の超撥水性を、それぞれ模倣しています。

私たちは、ロボットの基本構成を「センサー(触覚)、制御(脳)、機構/アクチュエーター(筋肉)、通信」といったように、人間や動物をベースに考えていますので、「動物」を模倣した「アニマロイド」は多く生まれています。

  • 1秒間に体長の15倍を超える距離を移動できる、重さ300グラムの完全自律型昆虫ロボット「iSprawl」
  • 壁をすばやく登る、ヤモリ型ロボット「SticyBot」
  • 柔らかな素材の体とひれを有し、本物の魚と紛れて泳ぐことができる魚ロボット「SoFi(Soft Robotic Fish)」
  • カメのひれと同じ硬さの4枚のポリウレタン製のひれを使ってカメのように泳ぐウミガメ型ロボット「マドレーヌ」
  • 水中を身をくねらせて泳ぐウナギ型ロボット「サラマンドラ・ロボティカ」
  • 腕を本物のタコのように2倍以上に伸ばすことができるタコ型ロボット「OCTOPUS」
  • 昆虫などの群れ行動を模した「群れロボット」

京都で進むのは「人間」に模した「ヒューマノイド」です。

  • ATRで進められている、感情移入できるアンドロイドや脳を知るためのプラットフォームとしてのヒューマノイド

一方、世界では「植物」を模して、脳による中央制御ではなく、エッジ自律制御でエネルギー消費の少ない「プラントイド」の開発も進められています。

  • 植物の根の先端部が新しい細胞を増やして成長するように、先端部に組み込まれたセンサー情報に基づき自動で身体を設計し、同じく組み込まれた小型3Dプリンタで自動で身体を構築していく、自律で身体が成長するロボット
  • 植物の細胞壁の機能を模した、塩のチャージだけで燃料補給が不要な浸透圧アクチュエータ

維管束を持つ高等植物の葉のクチクラ層が、接触によりコンデンサとして150V以上もの電気を生み出す機能を有していることが発見され、植物が街頭になることが分かりました。京都でも「自然」の未知の機能を活かしたものづくりが始まっており、これらの融合によりより高度なスマートテクノロジーが生み出されるものと考えています。

ブレインテック

3つ目は、人間内部です。既にスウェーデンでは、人間の体内に注射で埋め込んだマイクロチップでデジタル決済を行っているそうですが、ここでは「脳」に注目しています。

従来、アルファ波、ベータ波等の「ムード」のような脳の状態を把握する「EEG」、動作や知覚、思考の際の脳内各部の血流動態反応を画像化する「fMRI」がありましたが、近年注目されているのが、脳にマシンを接続し双方向で情報をやり取りする「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」。
「知覚」の際の「脳内反応部位」をfMRIで捉えた画像を、「AI」に学習させることで、「脳内反応部位のパターン」から、知覚した映像の再現がある程度なされるように、ある「動作」をする際の「脳の電気信号」を捉え、そのデータを「AI」に学習させることで、「脳の思念(意図)だけ」で、つまり「動作なし」で物事を行えるようにするものです。これまでも、パーキンソン病の患者らの脳に小型電極を埋め込み、微弱な電気信号を与えることで各種症状を沈静化する治療方法が既に活用されていますが、事故や病気で身体の麻痺した患者が手足を動かそうと念じることで、自身の手足の筋肉あるいは代替ロボットを動かすBMIや、念じるだけでテキスト入力ができるBMI等の開発が進められています(文字を手書きするイメージを持つと正確性が増すなど様々なノウハウが試されています)。
半導体チップ等を脳に埋め込む「侵襲型」は、イーロン・マスク氏らのニューラルリンク社等が取り組んでいます。人間の髪の毛の20分の1以下の糸状電極数千本を手術時間内に埋め込むには手術ロボットの開発が必要だと言われており、脳の広範囲に貼り付けるシート状の装置の開発も進められています。また、米豪シンクロンはステントロードという手法を開発しました。通常のステント(カテーテル)治療では、直径数ミリの柔らかいチューブ(カテーテル)の中に、閉じた状態の金属製網状チューブ(ステント)を挿管し、手首や足の付け根の動脈から、狭窄部まで到達させ、そこでステント内部のバルーンを膨らませますが、この原理を応用して首の付け根から脳までセンサーを挿管したカテーテルを届けます。
一方、ヘルメット等のウエアラブル端末による「非侵襲型」は、メタ(旧フェイスブック)が、脳が活動する際の一瞬の変化を高速にスキャンした「光学画像」を作って把握しようという研究を行っていますが、他にも仏ネクストマインド社(VR/AR用ヘッドマウントディスプレイに脳波計を組み合わせたものを扱っており、イメージの訓練(キャリブレーション)によって特定の脳波でゲームを行える)、米カーネル(光トポグラフィーによる精神疾患の診断)、米ドリーム(軽微な音波による骨伝導で脳の特定領域を刺激することによる睡眠の改善)、米ニューラブル(労働の改善)などの取組が進んでいます。
さらに、ケーブル型からワイヤレス方式への移行など通信面の改善はもちろん、ロボット等のセンシング情報を逆に脳に「知覚」として伝える技術の開発、カメラ映像を変換して舌に電気信号を与えることで視覚を失った方において味覚領域で視覚を感じ取る「感覚代行」、ウイルスベクターで光に反応するタンパク質を脳に組み込み、発光ダイオードなどを用いて光で脳をコントロールする研究等も進んでいます。
こうしたブレインテック・スタートアップ企業は、世界全体で2010年には約50社程度であったものが、現在は500社以上と言われています。いずれは、「リハビリ」などだけでなく、人間の記憶力の向上、食欲などの欲求のコントロール、さらには新しい職業に必要となる技能や知識を脳に直接ダウンロードするといった「教育の限界を超える」使われ方をする時代が来るのではないでしょうか。

社会、家庭、そして個人の課題を解決

京都の大学やけいはんな学研都市の様々な研究機関とも一層連携を図ることで開発ステージを高め、例えばロボットというハード起点でUXやアプリケーションを思考するという流れではなく、デジタルでつながれた世界の中での「振る舞い方(それはデータ活用によって向上を重ねる)」「ビジネスモデル(自動運転車はロボタクシーとして貸し出すことで24時間稼働)」を起点に考えるなど、これまでの延長線上ではないアプローチを図ることで、社会から、家庭、さらに個人の課題を解決するイノベーションを生み出していくことが重要です。

情報セキュリティ

テクノロジーの進化とともに、サイバー攻撃のリスクが拡大し、それに対応するセキュリティもまた同時に発展を遂げ続ける時代です。

デジタルコンピュータが誕生したのは1940年代です。世界初のコンピュータは、最大29元の連立方程式を解く目的で、1942年に米国アイオワ州立大学のアタナソフとベリー によって作られた「ABC」です。学習机程の大きさで、二進法を使って数値やデータを表す、計算をする部分とメモリを分離する、計算は歯車や機械的なスイッチではなく300本の真空管を用いて電子的に行う、原理的にはDRAMと同じキャパシタメモリ(1600個のコンデンサを内蔵)を用いる、交流電源の周波数である60Hz がマシンの基本動作周波数としているといった「コンピュータ」の原型となっている一方、プログラムは内蔵しておらず、メモリの読み書き、十進法と二進法の相互変換、連立方程式の整理などを操作者がスイッチ操作するものでした。

ハッキングのはしりは1950年代後半に台頭した電話マニア(フリーク)による「フォンフリーキング(電話のハッキング)」です。通信技術者が遠隔作業で用いるプロトコルを乗っ取り、無料通話や長距離電話の料金帳消しなどが行われました。こうしたフリークのコミュニティにはスティーブジョブスなどテクノロジーの先駆者も参加していたと言います。

ハッキング初登場は1960年代後半です。1967年、IBMが高校生たちを招待し、新しいコンピュータを試用させます。学生たちは、外部からアクセス可能なシステムの脆弱性を発見した後、より深く探究するためにシステムの言語を学び、システムの他の部分にもアクセスできるようになりました。高校生のおかげで、コンピュータの脆弱性が明らかになり、防御手段を開発することになったのです。

インターネット、サイバーセキュリティの誕生は1970年代です。1972年にインターネットの起源であるARPANETという、米国国防総省の高等研究計画局(ARPA)が実行した研究プロジェクトに端を発し、社会におけるコンピュータの重要度が高まり、ネットワーク化が進むにつれて各国政府の認識も高まっていきました。1979年、ケビン・ミトニックという16歳の青年が、OSの開発に使用されていたコンピュータをハッキングし、ソフトウェアのコピーを作成しました。その後も数十年に渡ってサイバー攻撃を繰り返しますが、最終的にハッキングからセキュリティへ転身し、コンサルティング業を展開しています。

  • OSI参照モデル:物理層(ピン、ケーブル等【ハブ】)、データリング層(物理通信路、MACアドレス等【スイッチングハブ】)、ネットワーク層(通信経路、IPアドレス等【ルーター】)、トランスポート層(HTTPなどのポート)~アプリケーション層(【ゲートウェイ】)
  • NAT:プライベートIPアドレスのグローバルIPアドレスへの変換(IPマスカレード:複数のプライベートIPアドレスと1つのグローバルIPアドレスの割り当て)
  • DHCP:グローバルIPアドレス自動採番
  • DNS:グローバルIPアドレスとドメイン名を対応させる仕組み

ウイルス、ワーム、トロイの木馬、アンチウイルスの登場は1980年代です。不正なコンピュータプログラムが核ミサイルのシステムを乗っ取る映画『ウォーゲーム』が公開された1983年には、コンピュータウイルストロイの木馬という用語が初めて使われ、1987年はアンチウイルス製品が誕生しました。ワームによる世界で最初の攻撃は、1988年11月、コーネル大学の学生であったロバート・T・モリス氏(現在MIT教授)がMITから放った「Morris Worm」です。ただし、攻撃目的ではなくインターネットの広がりを知るため、電子メールシステムの欠陥等を利用して、各コンピュータにワームを侵入(増殖)させました。その際、バッティングしていた場合は潜入しないプログラムに欠陥があり、一定の割合で何度も同じコンピュータへ侵入を繰り返す想定外の動作(今で言うDoS攻撃と同じ効果)で、各コンピュータがダウンしてしまったのです。当時インターネットに接続された世界6万台のコンピュータの1割が被害を受けたと言われています。

  • ウイルス:「宿主(寄生先)」となるプログラムの一部を書き換え、自己増殖していくもの
  • ワーム:ウイルスのように他のプログラム(宿主)を必要とせず、自己増殖していくもの(ネットワークに接続しただけで感染するものも数多く存在)
  • トロイの木馬:一見しただけでは問題のない画像や文書などのファイル、スマートフォンのアプリなどに偽装して、デバイス内に侵入して、外部からの指令によってそのデバイスを操るもの(自己増殖しない)
  • スパイウェア:本人も気付かないうちにPCなどのデバイスにインストールされ、ユーザーの個人情報やアクセス履歴などを収集するもの。うち、ランサムウェアは、データを暗号化して操作不能にし、復号するために料金を請求するもの(近年、増加傾向で、特に企業への攻撃などビジネス化している例が目立つ。報復の例として、パソコンが勝手に起動して、プリンタからは大量印刷、電子カルテが使用不能となったものなど)

多様なマルウェア、ファイアウォールの登場は1990年代です。新種のマルウェアの数は1990年代に爆発的に増加し、NASA のある研究者が、建物の火災における延焼を防ぐ物理的な構造をモデル化し、初のファイアウォールプログラムを開発しました。

  • ネットワーク対策:ファイアウォール(パケットフィルタリングやプロキシ機能のルーター、サーバーによる不正アクセスの排除)、IDS(不正アクセスの監視)、DMZ(公開サーバーを内部ネットワークと区分して設置)、バックアップとミラーリング
  • 権限の制限:アクセスコントロール、認証
  • 運用面の対策:ウイルス対策ソフトを導入し常に最新バージョンにアップデートしておく、PCの場合にはインストールしているOSを最新版に保っておく、怪しいURLはクリックしない、不審なメールや不審な添付ファイルは開かない、重要なファイルは漏洩しても開けないように暗号化しておく、機密情報を保存してあるサーバーは許可のないデバイスから隔離しておく、暗号化(共通鍵暗号方式、公開鍵暗号方式)するなど

クラウドアンチウイルス、OSセキュリティパッチの登場は2000年代です。アンチウイルスにおける重要な課題は、コンピュータのパフォーマンスを低下させないまま、機能することであり、クラウド技術を導入したアンチウイルスが発達しました。また、定期的なOSのパッチ更新、アンチウイルスのアップデート、ファイアウォール、アカウントの安全管理など、様々なセキュリティ機能がOSに組み込まれました。その後、スマートフォンの普及に伴い、iOSやAndroidにも適用されます。そして、サイバー攻撃も多様なものが登場しています。

  • マルウエア(ウイルス、ワーム、トロイの木馬、スパイウエア(ランサムウエアなど)
    --フィッシング:なりすましメールなどで、悪意のある添付ファイルを開くと、コンピュータにマルウェアがインストールされ、リンクをクリックすると合法に見えるウェブサイトが開き、重要なファイルにアクセスするためという理由でログインが求められるなど、認証情報を入手するためのトラップ
    --SQLインジェクション攻撃: Webサイトのフォームに、アプリケーションが想定しないSQL(シークエル。データベースと通信するために使用されるプログラミング言語)コマンドを実行させることにより、データベースを不正に操作し、情報漏洩・改ざん・消去されたりするもの
    --クロスサイトスクリプティング:Webサイトのフォームに、悪意のあるJavaScriptなどスクリプトへのリンクを埋め込むなどすることで、ユーザーがサイトに送信する機密情報(認証情報、クレジットカード情報、個人データなど)がハイジャックされるもの
  • 大量負荷
    --バッファオーバーフロー攻撃:コンピュータのメモリの容量以上のデータを不正に送りつけ、不具合を起こさせるもの
    --DoS攻撃:WebサイトやWeb上のサービスに対し、メールを大量に送信する、F5キーを何度も押してページを繰り返し再読み込みするなどの方法で過大な負荷をかけ、システムの動作や機能を停止させるもの
    -- DDoS攻撃: DoS攻撃がひとつの端末から行われるのに対し、DDoS攻撃は、まず多数のコンピュータや機器に侵入し、それらの機器から一斉に攻撃が行われるもの(行政情報のポータルサイトなどでの被害が相次ぐ)
  • 不正アクセス・不正アカウント
    --パスワードリスト攻撃:ユーザID、パスワードを何らかの方法で入手し、そのユーザIDとパスワードを利用して別のサイトなどで不正ログインを行うもの

デジタル化の進展で国家や大企業に甚大な被害をもたらすようになったのは2010年代です。2012年、サウジアラビアのハッカー「0xOMAR」が40万枚分以上のクレジットカード情報をオンラインで公開し、2013年には元CIA職員が国家安全保障局(NSA)の機密情報を流出しました。2014年にかけてヤフーのシステムからユーザーの個人情報30億人分を奪取しました。2017年、1日で23万台のコンピュータが「WannaCry(ワナクライ)」というランサムウェアに感染する事件が起こり、2019年には、複数のDDoS攻撃により、ニュージーランドの株式市場が一時的に閉鎖しました。そして、次世代型のアプローチも目指されるようになりました。

  • 多要素認証
  • ネットワーク動作分析(通常の動作パターンから逸脱した動作を検知し、悪意のあるファイルを識別する手法)
  • 脅威インテリジェンスとアップデートの自動化
  • リアルタイム保護(オンアクセススキャン、オートプロテクト)
  • サンドボックス(疑わしいファイルやURLの開示を仮想のテスト環境で実行する手法)
  • フォレンジック (既出の攻撃を分析し、将来的な攻撃の対策に役立てる手法)

ボットの暗躍、ランサムウェア・DDoS攻撃が続く2020年代。AIの進展に伴い「買い占めボット」が世界の通信の25%を占め、ネット上の自動プログラム「ボット」が暗躍しています。また、ハッカー集団ロックビットによる徳島の町立病院へのランサムウェア攻撃(電子カルテが使えないなど)、ハッカー集団ロビンフッドによるトヨタ下請会社へのランサムウェア攻撃(データ暗号化)、ロシアのハッカー集団キルネットによるリトアニア政府機関や民間企業へのDDoS攻撃など続いています。

  • アイデンティティへの脅威:最も一般的なものとして、個人情報の窃盗やアカウントの乗っ取りなど、アイデンティティの脅威(フィッシング、不正アクセス・不正アカウント)は引き続き大きなテーマです。
  • 組織内部からの攻撃:2022年にカーネギーメロン大学が行った調査では、セキュリティ事件の15%から25%は、内部の人間やビジネスパートナーが関与しているとのことです。
  • クラウドサービスプロバイダへの攻撃:リモートワークの増加に伴い、データ共有などの目的でクラウドサービスを利用する個人や企業も増加し、アフターコロナにおいてもクラウドサービスの利用は増加すると見込まれますが、2020年に発生したデータ漏洩は、オンプレミス(企業等に設置された情報システム)のストレージよりもクラウドシステムで多く発生しています。
  • 医療機関への攻撃:コスト削減のためにセキュリティ機器が古いままであることが多く攻撃しやすいこと、個人情報が多く究明手術など命に関わるケースも多く「身代金」要求に応じる可能性が高いと一般的に思われてしまうことから、医療機関へのサイバー攻撃が増加しています。
  • 自動車への攻撃:自動化された様々なソフトウェアが搭載されています。ただし、これらは通信にBluetoothやWi-Fi技術が使用されているため、ハッカーによる脆弱性や脅威にさらされています。特に2022年からは、自動運転車の普及に伴い車両の制御やマイクを使った盗聴が増加すると予想されています。
  • 5Gの脆弱性への攻撃:5Gの構成は業界でも比較的新しいものであり、外部からの攻撃に対してシステムを安全にするための方法を見つけるためには、まだまだ多くの研究が必要です。データ漏洩を制御するために洗練された5Gのハードウェアとソフトウェアを厳密に構築する必要があります。

米セキュリティ大手・マンディアント社によると、組織がサイバー攻撃を受けた場合、米大陸では組織内検知が60%、外部指摘(犯罪集団からの脅迫状を含む)が40%であるのに対し、日本を含むアジア太平洋地域では、それぞれ24%、76%で、世界全体で攻撃者が組織内のシステムに侵入してから検知までに要した日数を調べたところ、組織内検知での中央値は18日、外部指摘では28日とのことです。セキュリティ体制の強化が急がれています。

  • 啓発・一般相談Ksisnet(京都中小企業情報セキュリティ支援ネットワーク)(外部リンク)を京都産業21内に開設し(2015年10月~)、相談支援(197件(2022年度4(5月末)、偽サイト、ランサムウェアなど)、啓発セミナーの開催(15回)、メルマガによる情報提供(100以上)を行っています。
  • 具体相談: 府内IT関連企業団体に委託し、具体相談のホットラインを構築します(情報セキュリティ専門家派遣事業。募集100件(1社5回まで)、2022年8月末時点で10社受付(「現在の対策はウイルス対策ソフトのみだがいいのだろうか」「人的・予算的に当社の規模・業務に見合うセキュリティレベルを知りたい」「スタッフへの教育方法を知りたい」など))。
  • 即対策:サイバーセキュリティ対策を図る中小企業への補助も行います(情報セキュリティあんしん対策事業補助金。予算額2,500万円、2022年8月末時点で5件申請(ウイルス対策・ログ管理・ネットワーク管理等の機器、それら複数のセキュリティ機能を統合したUTM(統合脅威管理)、ソースコード検査一式など))。

施策

食産業・イートテック

クリエイティブ産業

そもそも、私たちが日々当たり前のようにいただいている食品・料理は、その全てが最初は、人類の歴史のある時、どこかで、誰かが生み出した「新商品」でありました。
例えば、移民の国・アメリカで、ドイツ・ハンブルク出身者が生み出したのが、ありあわせの肉を刻んで丸めて焼いた「ハンバーグ」です。イタリアの食材・マカロニと、フランスの調理法・グラタンを合わせたのが「マカロニ・グラタン」です。やがて豊かな時代になり、より健康的な朝食の提案として生まれたのが「グラノーラ」や「コーン・フレーク」です。
遡って、ヨーロッパを慢性的な飢饉状態から解放したのは、大航海時代に南米からもたらされたジャガイモです。見てくれの悪さで、永らく栽培されませんでしたが、18世紀、フランスの農学者パルマンティエという人物が、ジャガイモ畑を作って昼間は兵隊に警護させました。貴重なものだと思わせ、思惑通りジャガイモ泥棒が現れ、各地に広がったと言われています。そのおかげで「フライドポテト」、「フィッシュ・アンド・チップス」など様々なメニューが誕生しました。トウモロコシも、小麦のようにグルテンがないため、ふんわりとしたパンに仕上がらず普及しませんでしたが、粉を練って平たく焼いた「トルティーヤ」や、具を入れ、ちまきのように蒸した「タマ―レス」などが生まれました。また、永らく飲料原料であったカカオからチョコレートが生まれたのは19世紀です。オーストラリア原産のマカダミア・ナッツを、ハワイ土産の定番としたのが「マカダミア・ナッツ・チョコ」です。そして「カレー」は、インドなどでは本来、香辛料たっぷりの汁物・煮込みの総称ですが、日本で馴染み深い、いわゆる「カレー風味」のカレー粉は、イギリスで最初に開発されました。
さらに遡れば「漢」の時代の中国では、シルクロードで小麦粉料理が伝わるものの、「焼パン」ではなく、古来から中国で用いられてきた蒸気で蒸す技術を用いた「蒸しパン」が発達しました。
ついでに申せば、「レストラン」というビジネス形態を世界で最初に開業したのは、18世紀末、フランスの貴族に仕えてきた元料理人ボーヴィリエという人物です。フランス革命の前夜の時代で、貴族たちに仕えていた料理人の失業、厳しい同業者組合が崩壊し自由に料理を提供できるようになったことが背景です。ちなみに、ナポレオン三世の時代に軍の携行用バターの代用品として懸賞募集され、化学者によって開発されたのがマーガリンです。

そして、京都が誇る和菓子も創造性豊かな歴史に彩られています。

  • 古代
    くだもの(果子、菓子):自然界の木の実・草の実(最初の菓子は11代垂仁天皇に持ち帰った「橘」の実)
  • 奈良時代
    唐菓子(からくだもの、唐から穀物を主原料とする加工法が伝来。米に飴・油を加える):大豆餅、小豆餅、麦形、煎餅等。やがて今日の団子、饅頭、煎餅
  • 鎌倉時代
    点心(定時の食事の前後の軽食、禅宗の影響):饅頭類、羹類、麺類等
  • 室町時代
    茶席用:麩焼、栗、シイタケ、昆布、餅と味噌、等
  • 室町末期
    南蛮菓子:カステラ、ボーロ、金平糖、カルメラ、等
  • 江戸時代
    饅頭、羊羹、落雁、豆菓子、最中(日本発祥)など完成(明治:饅頭に小豆餡)
    注1)幸福を呼ぶ5色の豆:青(木曜日)、赤(火曜日)、黄(土曜日)、白(金曜日)、黒(水曜日)
    注2)打物:「寒梅子(またはみじん粉)+砂糖」を木型(均一に固い桜が適する)で形成する干菓子で落雁等

このように、今日、私たちがいただく食品や料理は、世界の食品業界の皆さんが、数々の時代の転換点を乗り越えてこられた「証」そのものであり、地球上の「おいしい」は土地や風土、歴史等によって多様で無数に存在します。

サイエンスの粋

また、食品・料理は科学の粋を集めたものとも言えます。
そもそも、食品の原料として大きなウエイトを占め、食物連鎖のはじまりである植物自体がすごい仕組みを有しています。まず、舌の味蕾で感じる「旨み」「甘み」「苦み」「酸み」「塩み」の味覚のほか、舌が「痛い」と感じる「辛み」がありますが、植物にはそれらの元となる栄養素(五大栄養素:カラダをつくる「タンパク質(アミノ酸)」、エネルギー源「糖質」「脂質」、体の調子を整える「ビタミン」「ミネラル」)を自ら生産する能力があります。例えば、酢豚に入っているパイナップルのように、タンパク質を分解する成分を有し、肉をやわらかくしてその消化を助けるものもあれば、紫外線によって人や植物の内部で生じるスーパーオキシド、過酸化水素などの「活性酸素」(老化や成人病、がんの引き金になるとも、病気全体の原因の9割を占めるとも言われます。)を消去する成分(抗酸化成分)として、「苦み」の成分でもあるポリフェノール(及びそれを作用させるためのポリフェノール酸化酵素)やその一種であるアントシアニン(花びらの色の成分で、紫外線が強い高山の植物の方が色鮮やかになる)、「酸み」の成分でもあるビタミンC、ビタミンE、ビタミンAに変換されるカロテン等、香り成分である「フィトンチッド」等があります。
最近では、欧州のシェフの中には、調理や味の表現を分子レベルで解析している方、日本の食材をくまなく調べ上げ、新しい料理を創造する方も多数いらっしゃいます。シンガポールのCRUSTは、売れ残りのパンを使ったビール製造を始めています。そして、米国では、米国初・世界一の料理大学カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカとMITとの提携、ハーバード大学デザイン学部での食研究チームの発足など、研究が一層本格化しています。

京都では「清酒」づくりがまさに発酵技術の粋を集めたものと言えます。

  • 蒸米:清酒造りでは、酒米の内側の麹菌の菌糸が伸びやすい心白(デンプン)が必要であり、外側のタンパク質は精米して削り(削られたタンパク質は肥料として再利用)、洗米・浸漬し、「炊く」よりも水分が少なくなる「蒸す」ことで、硬さを残して削られる量を少なくして、表面積の大きい、すなわち、麹菌が繁殖しやすい蒸米を作ります。それ故、酒米も、低タンパク質で大きく丸いものがふさわしいのです。
  • 米麹:温度30-35度、湿度60-65度という密閉環境の中で、デンプンを糖分に発酵させるための酵素として、種麹屋(もやし)から仕入れる黄麹菌(日本酒・味噌・醤油:黄麹菌、焼酎:白麹菌、泡盛:黒麹菌)を供して蒸米を床もみし、12時間後に切り返し、撹拌・積替えして米麹を作ります。納豆菌や鉄分は厳禁で、菌の数を増やしすぎず、菌糸を米の中までしっかり繁殖させることが重要です。
  • 酒母:その米麹蒸米を加えたものに対し、雑菌対策としてph4以下の酸性環境にするための、糖分から乳酸に発酵させる酵素としての乳酸菌(これ自体アルコールで減少する)と、酒の香りとして重要で、糖分からエタノール等に発酵させる酵素としての清酒酵母(酒造免許保有蔵元のみが入手可能な、きょうかい酵母(スタンダード:7号)。酵母自体は自然界のあらゆるところに存在)を投入します。明治末以来の手法である速醸酛は完成まで12日程であるのに対し、江戸時代以来の生酛では酒造用具等に潜む乳酸菌を用いるため、25日かかりますがアミノ酸が多く含まれます。
  • 醪:この酒母に対し、3回に分けて、蒸米、米麹、水を仕込みます(3段仕込み)。使用する米は、酒母が全体の7%、残り93%を6で割って、初添が1、仲添が2、留添が3という割合で仕込むことで、雑菌対策のための乳酸(酸性度)の濃度を一定維持するのです。
  • 水:伏見の地下水は、「御香水」とも言われ、灘のそれとは違って硬度が40程度と低いため、すなわち、酵母の栄養源となるミネラル(カリウム、マグネシウム等)が少ないため、糖の分解が遅く「甘口」になります。月桂冠は、米国でも近い水質のサクラメントで生産をされています。
  • 搾り・濾過・火入れ:圧搾した粕が「酒粕」となり、圧搾、濾過した後、通常は2回加熱殺菌を行いますが、行わないものが「生ビール」ならぬ「生貯蔵酒」です。こうして酒米1kgから、1440mlの清酒ができます。

なお、

  • 純米酒は、醸造アルコールを加えず米(蒸米)・米麹のみを原料にするもの
  • 吟醸酒は、精米歩合が60%以下(大吟醸は50%以下)

ヘルシー・表現豊か・繊細さ

残念ながら、日本の調理師学校の専攻割合は西洋料理8割以上、中華料理・日本料理が2割未満と言われますが、日本料理(「会席料理」。なお、「懐石料理」は、僧侶が空腹や寒さをしのぐため懐に温めた石で暖を取っていたことになぞらえ、茶事の際の空腹をしのぐために軽い料理、お茶を楽しむ前に客人に出す料理)は世界に誇る特徴を有しています。

  • ヘルシー:油をほとんど使わない
  • 表現豊か:四季の旬の素材を色濃く表現できる
  • 繊細な味:素材とだし(フランス料理はソース、中華料理は調味料、スペイン料理・イタリア料理は素材)

調理は、素材を活かすことに注力されています。

  • 切る:割烹(割主烹従)という言葉どおり日本料理の基本で、肉や野菜では繊維に沿って切るか繊維を断ちきるように切るかで食感も味のしみこみ方も変わり、魚では繊維を壊さないように包丁を引くことが重要です。西洋包丁がステンレス製・両刃が多いのに対し、和包丁は鋼製・片刃が多く、武士の刀の精神性に通じるところもあります。
  • 焼く:フライパンではなく炭火での直火がメインで、後付けの香りではなく、炭に落ちた食材の脂による自身の香りを食材はまとうことができます。また、水分が抜けてしぼむのではなく、遠赤外線により外側は揚げるように、中側は蒸して膨らむように焼けると言われます。炭は高温・長時間焼ける硬くて長い紀州備長炭等が人気です。また、かつてうなぎ屋さんで「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言われたように「串打ち」も重要で、肉は繊維に垂直に、魚の姿焼きでは頭を左側にして持ち上がるように、尻尾も立つように「踊り串」で串を打ちます。
  • 揚げる:天ぷら、とんかつ、唐揚げなど、衣を付けて揚げるのが特徴です。かき揚げののように最初は温度の低い油で形を整えながら中まで火を通し、最後に高温で周りをカラッと揚げるケースや、その逆のケースもあり、一つの鍋の中で火からの近さで異なる温度差をうまく利用されます。衣に使う粉や卵を冷たく保存しておいて油との温度差を大きくしておく工夫もされています。
  • 煮る、蒸す、和える(和え衣)、盛り付けるなど

素材についても、日本料理は独特です。

  • :魚は生きている間はATP(糖(クエン酸)から呼吸で分解(代謝・異化))というエネルギー源により筋肉が「ぷりぷり」していますが、死後は徐々にATPが分解されイノシン酸という「うまみ」成分に変化(熟成)し、更に時間が経つと劣化します。そのため、日本では、刺身で使う魚は、浜の水槽で釣り上げ時にストレスの掛かった筋肉を休ませ、市場では生きたまま競りにかけられ、競り落とした仲卸は水槽に入れ、顧客への配送時間に合わせて活け締め(血抜き)、神経締め(死後も脳神経がATPを消費するため神経を抜く)が行われます。塩焼きとして食べる場合は、数日おきます。こうした処理は海外ではほとんど行われていません。
    なお、うなぎは、現在は川や湖の汚染により天然物は減ってしまいましたが、マリアナ沖で生まれた稚魚が日本の川をのぼり湖に辿り着き、成熟するとマリアナ沖まで泳ぎ産卵をして一生を終えることが分かってきました。夏場のうなぎは食欲減退で脂ののりが悪く、夏場は売れなかったため、平賀源内が「土用の丑」の「う」にひっかけて、夏の名物にしたと伝えられています。関西では「腹開き」、砂糖入りのタレで焼きますが、関東では武士の切腹とイメージさせるとして「背開き」で、白焼きにして蒸してから、タレで焼きます。
  • :牛は競走馬と同じく血統が重要視され、宮崎、鹿児島、沖縄には、エース牛の冷凍精子から種付けを行う繁殖農家が多く、子牛は8ヶ月、成牛は26~36ヶ月で出荷されます。牛の生体から内臓、骨、皮などを取り除いた枝肉から得られる部分肉の割合を、A、B、Cの3段階で評価する「歩留等級」と、脂肪交雑(サシ/霜降り。最高級は「トビ(とびきり)」)、肉の色沢、肉の締まり及びきめ、脂肪の色沢と質の4項目を5段階で評価する「肉質等級」で格付けされ、最高ランクの「A5」は、年間約90万頭のうち20%弱(豚では、極上、上、中、並、等外の5段階のうち最高ランクの「極上」は、年間約1200万頭のうちわずか0.2%)です。なお、運動量、すなわち筋肉が少なくやわらかい背肉の部分「サーロイン」やその内側の脂肪が少ない部分「ヒレ」はステーキなどに、それより頭側の「ロース」はすき焼きなどに、お腹のあばら骨周辺の部位「バラ」はカルビとして焼き肉などに、筋肉の詰まった「肩」「モモ」はカレーなどの煮込み料理などに、用いられます。菌をつけて熟成させるドライエッジングも行われることがあります。2014年にはEUへの和牛輸出が解禁になりました。
  • 松茸:95%程度が輸入で、うち中国産が70%、トルコ・米国・カナダ産が15%ほどとなっています。
  • :気候変動による新種の登場、食生活の変化による嗜好の変化などにより、コシヒカリ1強時代から変化が生じてきています。
  • 水と野菜:日本の、ミネラルやマグネシウムが少ない「軟水」を吸って育った野菜は、繊維が柔らかいです。
  • だし:昆布は植物性のうま味成分であるグルタミン酸を豊富に含み、魚・肉などオールマイティに合いますし、鰹節は動物性のイノシン酸を豊富に含み、野菜料理によく合います。お椀に用いられる繊細な一番だし、その他の全ての料理に使う二番だしなど料理人の工夫がなされます。輸出について、昆布は規制がありませんが、カビのついている鰹節は発癌性物質であるPAHが基準値より高いという理由でEU向け輸出製造施設認定工場で作られたものに限られています。

SDGs・SNS・グローバル時代への対応

日本の食品産業の国内生産額は、比較的大きな国内消費者に支えられ約80兆円(加工業34兆円、流通業24兆円、飲食店20兆円/2010年度、農林水産省調)(外部リンク)で推移してきました。穀物自給率が3割以下と言われるように、安さを求めて「原料の輸入」は多いものの、海に囲まれた立地や歴史・文化的な背景も重なって、独自かつ世界有数の多彩な進化を遂げてきたため、「製品の輸入・輸出」のウエイトや大企業のシェアが小さく、地域に根ざした中小企業・小規模企業が担ってきた分野であり、参入しやすい分野で、府内の事業所は、製造業が約1,300、卸・小売業が約11,000、飲食店が約17,000(2009年、事業所統計)に上ります。

  • 食品消費税:酒類、外食、ケータリング(有料老人ホーム等で行う飲食料品除く)を除く食品表示法の食品の消費税は8%(軽減税率)
  • インボイス:消費税の納税では、重複を避けるため、売上に掛かる消費税総額から仕入れに掛かる消費税総額を控除します(仕入控除)。その際、仕入先が免税事業者(売上1,000万円以下など)の場合も、仕入額の10/110を仕入控除額にすることができます。しかし、2023年に始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式、または仕入控除の対象となる請求書のこと)では、課税事業者からの仕入しか仕入控除の対象になりませんから、免税事業者からの仕入が避けられる恐れがあり、免税事業者は課税事業者になる選択をするケースが増えると見込まれます。
  • 圧縮記帳:固定資産取得のための補助金を国や地方自治体から直接受けた場合には、課税標準から当該補助金額を差し引くことで、受け取った補助金が当該年度の税金で差し引かれないようにするとともに、翌年以降は減価償却費も補助金分が小さくなって(収益計上が増えて)税金が増えるというもの

これまで、まず、食品特有の衛生管理対応と京都の伝統技術の伝承の支援を行ってきました。

  • 食品表示法対応は、2022年3月末には原産地表示の経過措置が完了しますが、これまでから担当課から多くのセミナーで周知を図ってまいり、例えば京都府食品産業協会では560アイテム以上の全ての「京都吟味百選」認定商品の検査も完了しています(逆に府内への生産回帰の動きなど、チャンスも巡ってきています)。
    食品表示法(2015年4月1日施行(経過措置期間も終了し現在は完全施行))は、JAS法、食品衛生法、健康増進法の3法の食品表示部分を一元化したもので「名称」「原材料名」「添加物」「内容量」「消費期限又は賞味期限」「保存方法」「販売者・製造所」等及び「栄養成分表示」の表示について定められています。
    --表示項目として、アレルゲン(原材料名、添加物)、消費期限又は賞味期限、保存方法、表示責任者(販売者・製造所)が省略不可となりました。
    --「原材料名」において、重量割合1位の品目と、別表15の1で個別に掲げられる品目については、原産地表示(例:「小麦全粒粉(米国産)」など)が義務化されました。
    --「原材料名」において、特定加工食品のアレルギー表示が省略不可(例:「クリーム(乳成分を含む)」)となりました。
    --「添加物」を「原材料名」と分けて表示することとなりました。
    --「販売者」の名称・所在に加えて、「製造所」の名称・所在の表示が必要で、製造所固有記号は、同一製品を複数工場で製造する場合に限り利用可となりました。
    --加工食品の「栄養成分表示」が義務化(加えて「ナトリウム」は「食塩相当量」に表記変更)
  • 食品衛生法に基づくHACCP対応のうち「HACCPに基づく衛生管理」は、従業員50名以上の食品製造業(府内約130施設)が対象で、国や府等の「7原則12手順」を記した手引書に基づき、(1)製造工程の異物混入・微生物汚染等のリスク要因の分析、重点管理点の選定、(2)重点管理点の継続管理を行うものです。また、「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」は食品製造業・運送業・小売業、飲食店(府内56,000施設)が対象で、府の手引書を参考にするならば、(1)原材料受入、保管温度管理、汚染防止、健康管理の4分野に関する衛生管理計画策定と、(2)カレンダー形式による日々の取組確認を行うもので、引き続き保健所を中心に周知徹底を図られているところです。
  • 技術伝承・人材育成の基盤として「京もの伝統食品」指定も行ってまいりまして、2007年に京つけもの(千枚漬、すぐき、しば漬)、2019年に京上菓子(あんを用いた多彩な生菓子、落雁・有平糖などの干菓子)が、それぞれ指定を受けました。

また、2020年から拡大したコロナで食品産業は大きな打撃を受けています。まず、「実店舗」について、製造から見て「直営店」の場合については、「常使い」されてきた商品以外は大きな打撃を受けました。「他店」に卸す場合は、スーパー・コンビニは好調でも、人流抑制による旅行者・インバウンドの激減によって百貨店・土産物店・飲食店は大きな打撃を受けました。一方、「オンライン販売(宅配)」は伸びました。

  • 「Food’s Voice Kyoto」の開設、「助け合いの輪」補助金の開始、代行商談会(京都企業が東京に行かずに、試食品を送って、代行業者が商談)で20社に144件の商談成立支援

そして、近年の社会の変化を踏まえた商品開発、広報展開、販路拡大の推進に取り組んでいます。

  • SDGsの視点による商品開発の推進(2019年度~):
    規格外で廃棄されるものを有効活用しつつ、ブランド力のある「京野菜」を加工食品に活用するための加工体勢の整備(野菜1次加工施設のシェアリング)の推進、粉体・乾燥・ペースト・冷凍に関する知見の整理(「京野菜加工のトリセツ」)などを行っています。
  • SNS等を活用したダイレクトマーケティングの潮流の変化を踏まえた広報展開の推進(2021年度~):
    近年は、顧客層ごとに発信方法・タイミングを検討するなど緻密で丁寧な対応が不可欠となってきており、自社で研究し「生菓子の全国配送」を実現している例も登場してきており、自社にそのノウハウがないならば、「まるごと京都直売所」など先行している事例に合流、連携する手法が考えられます。インスタ、インフルエンサー活用術などのセミナーなどを実施しています。(2021年度、キャンペーン参画企業6社)
  • コロナの影響から活路を見出すための輸出の推進(2021年度~):
    海外の日本食レストランは2005年2.5万軒から2020年15万軒へと大幅に増加しているそうです。一方、国内においては、いずれインバウンドが戻ってくることを見越して事前PRを目的とするパターン、本格的な輸出を目的とするパターンが考えられます。賞味期限が長いものであること、米国FDA対応をはじめ食品衛生体制がしっかりしていること、輸送費や通関、中間業者のマージンなどによって消費者価格が日本の「1.8倍」になることなどの制約条件を踏まえると、現地の食文化と親和性があるものであって、日本らしさ、オーガニックなどといった分かりやすい付加価値のあるものが好ましく、日本酒や抹茶のほか、和菓子や味噌等の調味料、佃煮などの総菜等が候補でありましょうか。商社を活用する場合、京都には現地拠点を有しているため、円建てで決済でき、為替相場を気にする必要がない商社もあります。あるいは、現地インポーターに直接依頼する手もありますが、いずれにおいても、条件を調べ、少量で試してみて、良かったら本格的に活用するという手順でありましょう。各社で輸出担当者を置くなど社内の方針を定めることが絶対不可欠ですが、慣れている企業様であれば、JETROのJAPAN MALL(外部リンク)を活用して商社や現地インポーターを探す挑戦をされてもいいですし、不慣れであればJETROのハンズオン支援(外部リンク)を活用し、現地情報を把握するところから始めるのもいいです。
    また、冷凍・急速冷凍技術のほか、フリーズドライ(凍結乾燥)・熱風乾燥・缶詰瓶詰め(加熱殺菌)・レトルト(加熱加圧殺菌)などの乾燥殺菌技術などを駆使しながら、おいしい食品を開発される例が、コロナを契機に国内外において増えています。京都でも既に急速冷凍機等をシェアするサービス等も生まれてきています。
    輸出の足掛かりとして、海外インフルエンサーを活用した販路開拓を進めています。2021年度は、シンガポールの人気レストランと連携した「シンガポール・京ものフェスティバル」に京都企業11社の商材を提供しました。通常の海外物産展等は、委託販売方式(収入は売れた分だけで売れ残りはロス)、商談会参加後の取引対応が必要(企業にとっての障壁)、ノンローカライズ(現地に合わない商品もそのまま)といったことが障壁となっているため、全量事前買取、代行商談によるサポート有、レストランでローカライズという方式でトライしたところ、現地の方の苦手な商材を加工調理によって克服したり、日本酒もまだ輸出の余地が多くあることが発見できたり多くの収穫が得られたところです。2022年度は台湾SOGO展へ7社出展。

食品輸出

コロナによるインバウンドの減少、冷凍技術の進歩、円安などの状況を踏めると、今後注力すべき分野として「食品輸出」がありましょう。

まず1つ目として、輸出の「対象食品」については、陸上動物の肉類やその加工品が原則禁止の国が多く、輸出相手国が要求する証明書類(外部リンク)が様々あります(検疫:伝染病を予防するため、その有無につき診断、検査し、伝染病の場合には消毒・隔離などを行い、個人の自由を制限する行政処分)。

  • 植物検疫証明書・輸入許可証(外部リンク)(植物防疫所(神戸)。加工食品については「製茶」が関係)
    輸出国(日本)における植物の病害虫の発生状況等に鑑み、輸出相手国の要求によって、「輸出国(日本)における栽培地検査」の実施、「輸出国(日本)による植物検疫証明書」の発給、事前の「輸出相手国による輸入許可証」の発給などが求められるものです。
    具体的には「品目」「輸出相手国」「手段(貨物、携帯、郵便)」によって、「書類なしで輸出できるもの」「植物検疫証明書が必要なもの、輸入証明書が必要なもの、両方が必要なもの」「二国間で取り決められているもの」「輸出できないもの」など様々です。
    例えば米国の場合、生果実・野菜は原則輸入禁止(細かな規定あり)、イネは種子・籾付のものは輸入禁止ですが、食用玄米・精米は書類なしで輸入可能です。
  • 輸出検疫証明書(外部リンク)(動物検疫所(各空港・港)。加工食品については「牛肉・鶏肉」等が関係)
    輸出国(日本)における家畜伝染病の発生状況等に鑑み、輸出相手国の要求によって、「輸出国(日本)における輸出検疫証明書」の発給が求められるものです(輸出相手国において、日本の畜産物・水産物の輸入が認められていない場合もあります)。
    検査が必要な「指定検疫物(外部リンク)」は、(1)輸出相手国が家畜の伝染性疾病の病原体を拡散するおそれの有無についての証明書を必要としている動物その他の物(二国間で衛生条件を締結している牛肉・鶏肉等、台湾向けシカの角、米国・カナダ・台湾・EU等向け養魚用飼料等、ベトナム向け装飾用貝類など)、(2)産大臣が国際動物検疫上必要と認めて指定するもの((1)の定検疫物のうち、生きた動物、種卵、精液、受精卵、未受精卵、野生動物由来の畜産物)、(3)その他((1)(2)の家畜伝染病予防法に基づくもの以外に、狂犬病予防法に基づく犬、猫、あらいぐま、きつね及びスカンクなど)
  • 施設認定、衛生証明書(外部リンク)
    畜産物・水産物の輸出については、輸出相手国の要求によって、相手国が認定・登録した施設において処理を行い、衛生証明書の添付が求められる場合があります。
    例えば、京都においては京都市と畜場、京都食肉市場株式会社が認定施設となっているケースが多いです。
  • 自由販売証明書(外部リンク)(地方農政局)
    日本で製造され国内で問題なく流通している食品を輸出する際に、輸出相手国の通関関係機関等から国内で問題なく流通していることを証明するものとして提出を求められることがあります。

次に2つ目として、「食品・添加物の国際規格、各国規定」に沿う必要があります。

  • 規格(外部リンク)
    食品に関する国際的な基準には、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)によって合同で設立されたコーデックス委員会が策定している次の規格などがあり、「成分」「量」「製造方法」「表示」等に関し規定されています。
    --CODEX:安全基準(農畜産物の生産段階から消費者の食卓に並ぶまで)と品質規格(成分とその量などの規格と、製造方法・内容表示に関する検査や輸出証明の方法・手続などの定め)
    --FDA:食品、医薬品や医療機器、化粧品などの販売・流通において、許可や違反品の取締りを行っています。
    --FSSC22000:ISO22000をベースにしたもので、FDA監査にも対応できるものです。
    --ISO22000:HACCPと異なり11項目が決められています。
    --HACCP:国や府等の「7原則12手順」を記した手引書に基づき、(1)製造工程の異物混入・微生物汚染等のリスク要因の分析、重点管理点の選定、(2)重点管理点の継続管理を行うものです。
  • 食品・添加物規制(外部リンク)
    食品を輸出するにあたっては、輸出先国の食品・添加物規制に対応する必要があります。

そして3点目として、「輸出の手続・リスク分担」の概況は、次のとおりであり、これらを自社自ら行うことを「直接貿易」(手数料不要である一方、為替リスク、資金回収リスクなどを負います)、代行してもらうことを「間接貿易」と言います。

  • モノの流れ
    国内輸送、輸出通関、船積み、荷卸し、輸入通関、海外輸送
  • カネの流れ(消費税免除)
    モノとは逆方向の流れ
  • 書類の流れ

輸出企業側の具体的な手続の順序としては、次のとおりです。

  • 輸入企業との売買
    輸出企業は、相手国の輸入企業と、売買契約を締結
  • 通関業者への船積依頼、商品の保税地域への移送
    輸出企業は、通関業者に、船積依頼(通関と船積の依頼)し、商品を保税地域へ移送
  • 税関手続
    通関業者は、税関に、輸出申告(オンライン)し、税関は、審査・現物検査、輸出許可
  • 船積み
    船会社は、船積みを行い、通関業者に、船荷証券(B/L)を渡し、通関業者は、輸出企業に、輸出許可書・船積書類(インボイス(荷物送状+代金請求書)、パッキングリスト(梱包明細書)、原産地証明(輸入申告時の関税率決定に用いられる)、保険証券、船荷証券)を渡す。
  • 決済
    輸出企業は、銀行に、荷為替手形(為替手形+船積書類)を提示し、決済

売買契約におけるリスク分担は、ICC(国際商業会議所/International Chamber of Commerce)が策定した世界で最も利用されている国際貿易取引条件インコタームズ(INCOTERMS/International Commercial Terms)が目安になりましょう。

  • 輸出企業・輸入企業の費用負担
    輸出入時の通関費用、船積み・荷下ろし費用、運送費、保険費用の分担
  • 引渡時期の分岐点
    危険負担(船の座礁による損失、輸送途中の事故、荷下ろし作業の不手際等)の分岐点
  • 引渡に関わる輸出企業と輸入企業の役割分担
    輸入許可、輸出許可などの取得や貿易書類を用意するのかなどの役割分担

具体的には、次の2グループ11規則があります。

  • 全ての輸送手段に適用する規則
    EXW(工場渡=輸入企業の負担が最も大きい)、FCA(運送人渡)、CPT(輸送費込)、CIP(輸送費保険料込)、DAP(仕向地持込渡)、DPU(荷卸込持込渡)、DDP(関税込持込渡=輸出企業の負担が最も大きい)
  • 海上輸送と内陸水路輸送に適用する規則
    FAS(船側渡)、FOB(本船渡)、CFR(運賃込)、CIF(運賃保険料込)

また、島国である日本の貿易の多くは海上輸送で行われ、そのほとんどの貨物がコンテナ船に詰められた状態で運ばれています。

  • FCL(Full Container Load/一荷主がコンテナを占有している貨物)
    外注するかどうかはともかく荷主の手配でコンテナに詰めます。船からの荷卸しの後も、そのままのコンテナでトラック輸送できます。
  • LCL(Less than Container Load/複数荷主の貨物を混載してコンテナ内の空間をシェア)
    混載のため、船積み前に貨物をコンテナフレートステーション(CFS/保税蔵置場)に集めてコンテナに詰め、輸入であれば荷下ろし後にコンテナを開けて積載貨物を仕分けする作業が必要です。通関、貨物の受け渡しもCFSで行われ、その後、仕向地に運ぶためトラック等に積み替えられます

さらに4点目として、食品輸出の「戦略」の概況は次のとおりです。

  • 輸出国を決定するための調査
    どんな商品がどれくらいの価格帯で売れるのかなどの地域特性、動植物検疫、衛生証明、関税などの輸出条件を、展示会への出展その他様々なルートで調べましょう。
  • 輸出計画の策定
    輸出先の国やターゲットとなる顧客層と商品の強みを明確にし、輸出時期、検疫手続、輸送方法、価格・数量などを決定します。また、他社から商標出願されていないかあらかじめ確認し、輸出先に対して商標等を出願、登録しておきましょう。
  • 輸出に取り組むための体制の整備
    貿易実務の担当者を決め、輸出に対応できる生産体制も整えましょう。
  • 事業パートナーの選定
    国内の輸出業者、輸出先の輸入業者・卸売業者など必要に応じて事業パートナーを選びましょう。
  • 輸出国での販売継続方法の検討
    試験輸出も必ず行うほか、法令などが変わる場合もあるため、輸出の手順・管理などは定期的に見直し・改善を行いましょう。

イートテック

地球・社会・経済の観点で俯瞰すると、世界の食料システムの市場規模10兆ドルに対し、肥満や糖尿病治療など健康損失6兆6000億ドル(安価な加工食品の多用によるフードデザート、調理の効率化の余剰時間によるおやつ採取の増加など)、異常気象の被害や生物多様性の破壊など環境損失3兆1000億ドル、フードロス(世界で全食品の3分の1が廃棄)などの経済損失2兆1000億ドルで、総じて1兆9000億ドルの損失と言われています。そして、2050年の世界の人口は約97億人と、現在より20億人も増加するのに、既に世界の7~8億人もの人々が飢餓や栄養不足で苦しんでおり、日本においても食品ロス(食品ロスの削減の推進に関する法律、2019年)は600t以上で、国連などが世界各地で行っている食料支援の1.5倍に匹敵します。
一方、家庭や個人の目線に立ち返れば、60歳以上の高齢単身者の67%が朝昼晩全て孤食となっているなど様々な課題が山積しており、大量生産・大量販売や効率化を主眼としたバリューチェーンでは対応できなかった新たなニーズ、すなわち、価値観に合った食材、食材発見の喜び、調理の楽しみ、コミュニケーション、食のパーソナライズ化などの、ニッチでロングテールのニーズへの対応も必要となっています。
こうした中、マイクロソフト、アマゾンの本社やスターバックス1号店もあるシアトルなど、フードテックが盛んな都市を抱えるアメリカにはフードテック分野を扱うVCが200を超えるなど、欧米を中心に多くの食にまつわる技術革新やビジネスモデルが登場しており、食品開発設備を提供するオープン型研究開発コミュニティ「MISTA」(スイス香料メーカー・ジボタン)や食品製造ラボのあるフードテック専門シェアオフィス(米キッチンタウン、日本の新大久保フードラボ等)も生まれています。
また、コロナ禍を契機に「三間(時間、空間、仲間)」のあり方の変化や、立ち返るべき原点(オリジン)の重要性が高まる中、外食ビジネスにおいては、アンバンドル(分解)、すなわち、「場所」機能を切り離すデリバリーサービス、「調理」機能を切り離すゴーストキッチンなどの動きが進むとともに、コミュニケーションや体験の場としての「場所」機能の新たな価値の創造や、郷土料理やシェフの人生観など「コンテンツ」機能の強化など、新しい形が求められています。

まず1つめは「食材の進化」です。

次に「買い物・レシピの進化」です。

  • デリバリーサービス(飲食店の「フロント」)
    届いた菓子の好き嫌いをアプリでフィードバックすればより好みに合ったものが届くネットフリックス的な健康菓子サブスクサービス(日本スナックミー)、急速冷凍ノウハウを活かして農家の余剰フルーツ等の冷凍販売(日本ディスブレイク)、飲食店の余剰食材と一般購入者を結びつけるプラットフォーム(日本コークッキング/TABETE)、置配サービス(クックパッドマート)
  • 食材・人・調理を連動させるパーソナライゼーション
    血糖値やグルコースの低侵襲測定サービスと連動した購入食材や調理法の提案サービス(米Abbott)、検査した自身のDNAにマッチした食材を色で提示する小売店サービス(英DNANudge)、最適食材を処方箋に記す病院と小売との連携(英Kroger)、食意識・気分・環境からのレシピ提案(ニチレイ/conomeal)
  • フードロス関連
    京都においても、規格外京野菜の活用促進のための1次処理設備のシェアリング食品ロス解消を目指す「食のSDGsステーション」開設等を推進しています。

そして3つ目は「調理・食事体験の進化(家の外の食)」です。

  • シェフの人生観を伝える店(飲食店の「ミドル」)
  • シェアキッチン(飲食店の「バック」):デリバリー専門レストランを束ねるゴーストキッチン
  • フードロボット:ハンバーガー自動調理ロボット(米Creator)、各種厨房機器ロボット(日本コネクテッドロボティックス)、AI搭載バウムクーヘン専用オーブン(ユーハイム/THEO)
  • 自販機(移動型レストラン):サラダ製造(米Chowbotics)、ラーメン製造(米Yo-Kai Express)、受取時間を考慮したAIカフェロボット(日本ニューイノベーションズ)

最後に「調理・食事体験の進化(家の中の食)」です。

  • 買い物、レシピ、調理のプラットフォームとなる「キッチンOS:音声によるキッチンのコントロール(Amazon)、料理を選択したら購入食材、選択すべき調理器具や加熱時間を提案するプラットフォーム(米イニット)、タブレットのレシピとBluetoothで連動し自動で温度調節を行うIoTフライパン(米Hestan Smart Cooking)、レシピ連動調味料サーバー(クックパッド)、お茶を煎れる人の体温・心拍、周囲の温湿度をセンサで読み取り茶葉に応じて抽出時間を自動調節するIoTティーポット(日本Load&Road)、味噌の発酵を見える化し温度調節をサポートするデリバリーキット

京都においては、「和食×サイエンス×デジタル」によるイートOSづくりなどが期待されるところです。

施策

ライフサイエンス・ヘルステック

生命の誕生と寿命

138億年前に宇宙が、50億年前に太陽が、そして46億年前に地球が誕生しました。原始の地球は溶岩や硫酸ガスが噴き出し、宇宙から強い放射線や紫外線が降り注ぐ、化学反応が起こりやすい環境で、有機化合物、すなわち、「」や「塩基」等が生まれました。そして、偶然「RNA」や「タンパク質」が生まれ、さらにそれらが偶然にも密着した液滴状態において生産効率の良い自己複製マシーンになりました。やがて、含まれる糖の種類が異なり、二重らせん構造を取りやすく、安定して分解されにくい「DNA」が偶然生まれました。さらに偶然、RNA又はDNAとそれを取り囲むタンパク質(太陽系の小惑星からアミノ酸が発見されており、宇宙から飛来した説もあります)、偶然生まれた油性の袋からなる数十nmの「ウイルス」、DNAやリボソームを有して自らタンパク質を作ることができる生物、数μmの「細菌(バクテリア)」が38億年前に誕生しました(地球最初の生物・細菌は、個別の環境に適応しており、実験室での培養は容易ではなく、未解明のものが多く、PETを分解できるものなども発見されています)。RNAやDNAは放射線等ですぐに切れ、細菌の中では炭水化物からエネルギーを得る際に生まれる活性酸素によって酸化してしまうため、2本鎖で復元しやすいDNAが生物の遺伝物質として残ったのです。つまり、度重なる「偶然(ミラクル)」から多様な分子が生まれ、その中で効率よく複製するものが勢力を増して残る「正のスパイラル」(ただし、最大勢力でなくとも生き残るものもある)、これらを促進するように新しいものと入れ替わる「ターンオーバー」によって、生物は生まれたのです。

さらに、細菌(原核生物)どうしが偶然融合し、例えば、酸素呼吸を行う細菌との融合で生まれたミトコンドリアや、光合成を行う細菌との融合で生まれた葉緑体等を含む、大きな「真核細胞」が生まれました(「酵母」など)。また、分裂で増えた細胞がそのまま塊となり、やがて集団の中で役割を持ち始めた「多細胞生物」が10億年前に誕生しました。そして、約6,650万年前の白亜紀に起きた隕石の衝突で、恐竜等の大型動物が絶滅したおかげで、樹上生活をしていた哺乳類に時代が開かれました。夜行性であったネズミの中から、偶然、昼行性のものが現れ、行動範囲も広がり果実を豊富に獲ることができ勢力を拡大しました。南アメリカの霊長類グループはそのまま樹上生活を続けましたが、アフリカでは砂漠化の進行により肉食獣のいる地上に降りざるを得ず、その多様な種類の中でたまたま生き延びた集団が人類の祖先です。ウナギが深海で産卵するのも、サケが川の最上流で産卵するのも、捕食者が少なく安全で、そういう行動をとる種がたまたま生き延びているということです。

日本人の寿命は、旧石器時代の13~15歳から、弥生時代20歳、平安時代31歳と伸びたものの、戦が続いた室町時代は16歳に下がり、世の中が安定した江戸時代は38歳、明治・大正時代には43~44歳となりました。戦後は栄養状態と公衆衛生の改善で乳幼児の死亡率が低下し、2019年の平均寿命は女性87歳、男性81歳と過去最高を更新しました。死因は、がん、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎の順です。人間の約37兆個の細胞は、ミトコンドリアで酸素呼吸を行い糖からエネルギーを作り出す代わりに、活性酸素が生じてDNAを含む細胞の構成要素を酸化する副作用も生み、がん化のリスクを有しています。そこで、1つは「免役」によってがん細胞やウイルス等を攻撃します(免疫を阻害するがん細胞を、さらに阻害する薬がオプジーボなど)。もう1つは「細胞老化」です。「体細胞」は幹細胞から分裂し、腸管内部の上皮細胞は数日で、皮膚は4週間で、血液は4ケ月で、骨は4年で全てが入れ替わります(心臓と、脳・神経細胞は生涯変わりません)。DNAの末端部分のテロメアが分裂のたびに短くなり、50回ほど分裂して半分くらいの長さになると信号が発せられ、細胞の老化が始まります。老化細胞が、細胞死(アポトーシス)で内部から分解するか、免疫細胞に食べられるかして除去されるのですが、免疫細胞を呼び起こすサイトカインを巻き散らかし、免疫による炎症、臓器の機能低下やがんなどの原因にもなることもあります。一方、「幹細胞」と「生殖細胞」が生涯生き続けるのは、テロメア合成酵素が発現されて、テロメアが短くならないからで、50回を超えても分裂ができますが、やがては機能が衰えます。こうした結果、55歳くらいがターニングポイントです。

最近では寿命に関する遺伝子も見つかっています。1つは、栄養分である糖の代謝に関わる遺伝子GPR1が壊れることで、栄養が利用できない代わりに(活性酸素も少なくなるため)寿命が延びます。他は、複製が不安定なリボソームRNA(これ自体は、mRNAやtRNAと連携してタンパク質を合成する働き)に関する2種類の遺伝子です。

超高齢社会のコストとバリュー

65歳以上人口割合が7%以上の「高齢化社会」、14%以上を「高齢社会」、21%以上を「超高齢社会」と呼びますが、世界平均が9.6%に対し、日本は28.7%となっています(「世界人口白書2021」。ちなみに生産年齢人口は約7500万人)。

「健康」「医療」「福祉」に関するライフサイエンス、ライフイノベーションには、(1)健康増進による医療・福祉費に関する国民負担コストの抑制と、(2)付加価値の高い、あるいは安く手頃な健康・医療・福祉関連製品・サービスの創出促進による国民へのバリュー提供の2つの意義があるとともに、医薬品市場、医療機器市場、再生医療市場とも世界的に年数%の伸びが見込まれる成長産業であることから、京都が世界に誇る「iPS細胞」をはじめとする研究開発や府内中小企業の本分野への参入を支援してきました。

そして、新型コロナウイルス感染症が世界を席巻した今、コロナ禍からWITH・POSTコロナ社会の構築に向けて、そのテクノロジーの開発を一層進めねばなりません。

コロナ時代に生命・健康を守る--

風邪ウイルス、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス(SARS-CoV)、MERS(中東呼吸器症候群)ウイルス、そして新型コロナウイルス(感染症名はCOVID-19ですが、RNA配列がSARSと近くウイルス名はSARS-CoV-2。ただし、SARSの致死率が15%程度と高い(故に濃厚接触者の特定が重要)のに比べると格段に低いですが、高齢者や基礎疾患保有者の重症化リスクがある)は、ウイルスの外周に突起(スパイクタンパク質)が出た形が王冠に似ているため「コロナ」ウイルスと呼ばれます。哺乳類の中でリスやネズミなどについで種類の多いコウモリ等からの「動物-人感染」だけならば、当該動物と接する人のみが感染するため、人間社会に広く感染することはありませんが、「人-人感染」によって地球規模で蔓延しました(日本の場合、インフルエンザがシーズン1,000万人規模で感染するのに比べると数百万人規模に留まる)。

一つひとつが生きている細菌と異なり、ウイルスは全ての粒子が感染性を有しているわけでないこと、細胞が感染するためには一定量以上のウイルス粒子の侵入が必要であることから(ウイルスのRNAを検出するPCR検査ではウイルス粒子量が少なくても陽性となる)、人の感染門戸である目・鼻・口に付着するウイルス粒子量を「手洗い・マスク・うがい」で減らすことが感染抑止に効果的です(エイズウイルスの場合にも感染門戸に対応した対処法が推奨されているのと同様)。

ウイルスの遺伝子を見つける「遺伝子検査」は、京都においても中小企業はOEMで、大手は自ら、それぞれ高速PCR検査装置や全自動PCR検査装置の製造を行い、大学病院でもPCR検査ロボットシステムの実証が行われています。
ウイルスのタンパク質、すなわち、抗原あるいは抗体に接合させる「抗体検査」「抗原検査」は、遺伝子検査に比べて精度が低いとされていますが、京都のスタートアップ企業において、タンパク質をダイレクトに製造する方法により高精度な検出法の確立を目指す動き等が起こっています。

抗原から身を守る仕組み「免疫」。免疫は、白血球(マクロファージ)や皮膚・肺等の樹状細胞が細菌やウイルスを取り込む(そしてT細胞等の他の免疫細胞に情報伝達を行うサイトカイン(低分子タンパク質)を分泌する)ことから始まりますが、ウイルスを取り込むこうした貪食細胞をiPS細胞から作り研究用に提供する取組が、京都のスタートアップ企業で進められています。がん治療用に攻撃(免疫)細胞(T細胞)をiPS細胞から作るなど「細胞性免疫」の研究開発が京都でも進められていますが、コロナ関連で注目されるのは、「体液性免疫」すなわち、ヘルパーT細胞を経てB細胞により抗体を自ら作り出すための「ワクチン」です(実際には細胞性免疫にも関係します)。2021年2月に国内で接種が始まったファイザー(米国)・ビオンテック(ドイツ・スタートアップ企業)や、モデルナ(米国)の世界初となるmRNAワクチン(開発に時間がかかる不活化ワクチンではなく、ウイルスのスパイクタンパク質を体内で作らせるもの)、アストラゼネカ(英国)のウイルスベクターワクチンのほか、国内でも塩野義製薬の遺伝子組み換えワクチン、田辺三菱製薬のウイルス遺伝子を組み込んだ植物から抽出するワクチン、VLPセラピューティクスらの投与後に体内で自己増殖するため投与量が少なくて済むmRNAワクチンなど、様々な開発が進められています。京都のスタートアップ企業においては、ウイルスのスパイクタンパク質をmRNAから生成するのではなくダイレクトに生成するスパイクタンパク質の成分そのものを生成する攻撃(免疫)細胞(B細胞)を活性化するヘルパーT細胞を制御する細胞(Treg)を抑制しB細胞の活性化環境を作るといった研究開発が行われています。

ウイルスの増殖を抑制する「治療薬」については、スーパーコンピュータ富岳や府内スタートアップ企業による既存薬の中からAI等で候補を絞り込む取組が進められながら、RNAポリメラーゼ(転写因子と結合し遺伝子複製を作動させる酵素)を阻害するタイプの重傷患者用注射薬「レムデシビル」、RNAの複製を抑制する世界初の飲み薬「モルヌピラビル(メルク)」、軽症者向けに中和抗体を増やして注射する抗体カクテル療法「ロナプリーブ(米リジェネロン、中外製薬)」(濃厚接触者への予防投与についても承認申請)、肺炎治療薬では「バリシチニブ」が承認済)等が生まれています。ウイルスの遺伝子(mRNA)に直接作用する核酸医薬」の開発を目指す京都の大手創薬メーカーなどの意欲的な取組も進められています。

なお、実験室における病原微生物の取扱い、すなわち、バイオセーフティレベル(BSL)については次のような指針があります。

  • BSL1:ヒトあるいは動物に病気を起こす可能性の低い微生物
  • BSL2:実験室職員、地域社会、家畜、環境にとって重大な災害となる可能性のない病原体(サルモネラ菌、赤痢菌、コレラ菌など約300種)
  • BSL3:通常の条件下では感染は個体から他の個体への拡散は起こらない病原体(強毒性インフルエンザウイルスなど約70種類)
  • BSL4:通常、ヒトや動物に重篤な疾患を起し、感染した個体から他の個体に、直接または間接的に容易に伝播され得る病原体。通常、有効な治療法や予防法が利用できない(エボラウイルス、狂犬病、天然痘ウイルスなど約10種類)

コロナ時代に医療崩壊を防ぐ--

以前より「Apple Watch」「Amazon Halo(ヘイロー)」などのウェアラブルデバイスが有名ですが、米国では、2020年、遠隔医療がコロナ前の30倍に当たる10億回利用されました。患者がスマホに個人情報を入力すれば希望時間帯に希望する医師を選んで画像や通信で診療を受信できる遠隔医療プラットフォーム「テラドック・ヘルス」や、AIを利用した医療ケア「ニュアンス・コミュニケーションズ」、ウェアラブル遠隔健康診断「アイリズム・テクノロジーズ」、遺伝子データによる治療最低化「インビテコーポレーション」などのスタートアップ企業が登場しているほか、ドローンによる市販医薬品の宅配もスタート。従来型の医療システムがあまり整備されていなかった中国でも、「平安グッドドクター」やテンセントに買収された「We Doctor」などの遠隔医療プラットフォーム・スタートアップ企業が生まれています。

一方、日本。血中酸素濃度など患者や施設入居者の状態をリアルタイムでリモート監視するシステムや、排尿計測記録システムなどは、府内企業が既に上市しており、現場での使いやすさ、UIが重要なポイントとなっています。さらに、コロナの影響で拡大する産後うつ問題に対して、相談体制を構築する健康管理を行うといったスタートアップ企業も生まれてきています。声で感情認識を行う(外部リンク)とか、家電のリモコン操作から認知症の兆候を掴もうとする研究等も国内で進められています。

また、クリニック等の院内感染リスクを下げるとともに、患者を繋ぎ留めるためにも有効なAI問診(外部リンク)オンライン診療システム(外部リンク)医療従事者間コミュニケーションアプリ(外部リンク)などは府外スタートアップ企業が先行しています。初診の場合、本人確認や基礎疾患の事前把握など困難さはあるものの、重症度に応じた優先順位の見極め等にも有効です。一方、AIとオンラインを駆使して薬局の新しい姿を模索する動きは、京都のスタートアップ企業から生まれてきています。

病院と薬局の相関において、対面・訪問診療と対面・訪問服務指導、対面・オンライン診療とオンライン服務指導という区分に加え、オンライン診療とオンライン服務指導という組み合わせも進められており、さらに今後、病院が発出し薬局に繋ぐ処方箋の電子化も進められる予定です。

コロナ時代に感染拡大を防ぐ--

高性能CPU・GPUを駆使してSLAM、物体認識、AI顔認証などをエッジ完結で行い、エレベータ・システムとも連動して各階のフロアマップを参照しながら自律的に動くロボットが、介護施設の巡回、深紫外線を用いた消毒等を自動で(外部リンク)、あるいは遠隔操作で(外部リンク)行うなどRaaS(Robot as a Service)の取組も始まっており、多くの京都企業も追随しているところです。

また、スマホの活用に関しては、アンドロイド(グーグル)、iPhone(アップル)がOSどうしで連携し実現した「COCOA(外部リンク)」をはじめ、大手通信会社の取組、海外では体温計の値の全国分布、京都でも人流分析、混雑やコロナ感染者発生アラート発信など、様々な取組が生まれています。

コロナ時代に感染症に強い社会を築く--

感染の恐れを最小限にするために人を介さず3Dプリンターでの食品製造(外部リンク)、動物を用いない植物由来の人工肉開発、店舗に出掛けずスマートミラーでの試着、ラフな手描きのイメージ図をスマホカメラで撮影すれば自動で3D図面ができあがるリモート設計相談(外部リンク)企業の枠を超えた共同デジタル試作(外部リンク)ARによる共同現場管理(外部リンク)リモートでの重機操縦(外部リンク)など、新しい取組が登場し、大手自動車会社では「都市OS」構想等も生まれてきていますが、京都企業もデジタルツインに着手しているところです。

また、コロナによる物理的・心理的距離が生じていることがきっかけで企業の福利厚生にも取り込まれたAI恋愛ナビゲーションアプリ(外部リンク)オンラインパーティシステム(外部リンク)リモート応援システム(外部リンク)のほか、ARと連動したリモート音楽ライブ、VRと連動したエクササイズ(外部リンク)エクササイズの動きで進めていくゲーム(外部リンク)など、新しいビジネスが登場してきています。

ゲノム編集

ヒトの大人の体には37兆個、250種類以上の細胞(直径20µm)があり、細胞核の中には23の染色体 (23対目は男女を決めるX・Y染色体) 、31億対の塩基(ゲノム)があります。マウスだと27億対、小麦170億対、イモリ310億対のゲノムがあります。

  • 染色体=ヒストン(タンパク質)+DNA(デオキシリボ核酸)
  • DNA=糖+リン酸+塩基(アデニン(A)・チミン(T)、グアニン(G)・シトシン(C))
  • 塩基(ゲノム)遺伝子配列(ヒトの場合1.5%)+その他配列

その他配列中のハイエンサーと呼ばれる配列への転写因子(タンパク質)結合がきっかけとなり、同じくその他配列中のプロモーターと呼ばれる配列に転写因子とRNAポリメラーゼが結合することで、遺伝子配列の転写が開始されます。

  • 進化(自然淘汰のゲノム変異)
    放射線や紫外線でゲノムは欠損し、復元しやすい二重らせんのDNAで修復されますが、時に違う並びになることがあります。例えば天然トラフグでは、DNAが4個欠失している箇所が1万箇所以上あると言われています。
  • 育種(人為的淘汰のゲノム変異)
    この変異を集めて、人為的に新品種を作製するのが育種です。人類は、どう猛なオーロックスから黒毛和牛、イノシシから大ヨークシャー(豚)、甘さが少なく食用ではないエゾヘビイチゴからあまおうが、臭みが強いノラニンジンからニンジンを、時に数千年掛けて育種(ゲノムの変異を集めて新品種を作製してきました。
    それを効率的に行うのが「ゲノム編集」などの「遺伝子改変」です。「遺伝子改変」には、従来の放射線利用、微生物の酵素による化学変異などの「人工突然変異法」のほか、近年は人工制限酵素やクリスパー・キャス9等のツールを用いた「ゲノム編集」が飛躍しつつあります。ゲノム編集は2層構造になっており、1層目はゲノムの認識です。複数の人種のデータをつなぎ合わせる形でのヒトゲノムの解読は2003年に完了し、最近では次世代シーケンサーで31億対を数日で解読(個体差を判別)できるようなりました。また、旧世代のゲノム編集ツールでは標的とする塩基配列を特定するためのタンパク質をオーダーメイドしなければなりませんでしたが、クリスパー(gRNA)では遙かに簡便なRNAを用いています(ヒトの塩基配列が31億に対し、18対の塩基配列、すなわち、600億分の1の確率でターゲットなる塩基配列を同定)。2層目はキャス9などの酵素で遺伝子を切断(一部除去)する遺伝子ノックアウト(自然突然変異と同等の影響)、除去された部分を修復(手本に合わせて復元)することで生じる遺伝子ノックイン(従来の遺伝子組換と同等の影響)があります。

ゲノム編集によって、遺伝性疾患の研究などライフサイエンスへの応用のほか、病気に感染しにくい家畜や花粉を撒き散らさない杉の開発など様々な農林水産の品種改良が進められています。また、昆虫の擬態にはどのような遺伝子が関係しているか、クマムシはなぜ放射線を浴びても生きることができるのか、イモリの脚はなぜ完全に再現できるのかなど、地球上の生物について多くが未解明であり、その解明が資源問題をはじめとする幅広い社会課題の解決にもつながるものとも期待されます。

創薬・再生医療

世界の創薬市場は年5%程度で成長し、2021年時点で1兆4000億ドルを超えています。また再生医療市場も2019年時点では17億米ドルですが、今後大幅な伸びが見込まれ、いずれも世界のメガファーマがリードしているところです。1990年代から、生活習慣病向けの「低分子医薬」開発が多かった日本メーカーは、2000年代のジェネリックの台頭に促される形で出遅れ感が否めない中で、がん・神経系等向けのアンメッド・メディカル・ニーズ向けの「バイオ医薬品(抗体薬等の高分子医薬)」の開発に進んできたところです。例えば、がんについては、外科手術、抗がん剤などの薬物療法、放射線治療に続く「第4のがん治療」として免疫療法が進化してきています。がん細胞はリガンド(シグナルを出すタンパク質)のPDL1を、T細胞の受容体(シグナルを受けるタンパク質)PD1に接続させることで、T細胞による攻撃にブレーキをかけているのですが(加齢とともに遺伝子変化が蓄積し、自己と非自己の境界があいまいになると、免疫細胞が自己を攻撃することになるためのブレーキでもあると考えられています)、受容体に結合してそれを阻止する「オプジーボ」や、特定のがん細胞の抗原にだけ反応する人工的な抗体(受容体)を装着したCAR-T(それ故、血液のがんなど、抗原が1種類の場合は効果的ですが、臓器がんのように、抗原が複数種類の場合への対処法は、現在様々な研究が進められています)、さらにはiPS細胞由来T細胞などが生まれてきています。そして「第5のがん治療」として光免疫療法やホウ素中性子補足療法のほか、L-グルコースによるDDSといった細胞が必要とする栄養素に着目した新方式の開発が勧められています。さらに現在は、低分子と高分子(細胞内に入れない、抗体薬は胃で消化される故に経口投与ができない)の中間の分子量の「ペプチド」細胞内の標的分子を直接ターゲットにできる「核酸医薬」、「マイクロバイオーム」による創薬など次世代医薬の開発も行われてきています。
また、医療機関から患者の細胞や血液を預かり再生医療などに使うために培養する「細胞・組織のセントラルキッチン」事業を行うスタートアップ企業・セルソースが注目を集めています。
一般に創薬開発は、病原である標的タンパク質の探索(ターゲット探索)、それと結合する化合物の探索(リード探索)、人間が飲める形にする薬剤変換(リード最適化)、動物評価(前臨床試験)、ヒト評価(臨床試験。第1相:少人数の健康な人を対象に安全性を確認。第2相:少人数の患者を対象に有効性・投与方法等を確認。第3相:多数の患者を対象に安全性・有効性を確認)という長い工程を経て、成功確率は2.5万分の1程度と言われています。原子や素粒子の学問「物理」、分子と分子の化合物の学問「化学」に比べ、細胞の中のバリエーション豊かな「生物」は、まだ未知なることが多く成功確率の低い極めて厳しい分野であるため、大学から技術移転されたシーズや民間企業で培われてきたシーズ等を基とするテクノロジープッシュの様々な研究開発を行うスタートアップ企業に対し、資金調達ピッチ会への登壇や海外アクセラレーターへの繋ぎ、個別開発案件への補助金支援等での支援を行っています。

創薬、再生医療に不可欠な「細胞培養」とは、生体組織から分離した細胞を培養液中で増殖することで、(1)細胞バンクから入手する場合と、(2)ドナーから採取した組織から細胞を単離する場合があります。

  • 解凍
    まず、(1)細胞バンクから入手した細胞から培養を開始する場合、マイナス何十度や百何十度という超低温の「超低温フリーザー」から、液体窒素容器などの保冷容器に入れて運ばれてきたものを、37℃温水槽等で融解し、素早く「培地」を加えて凍結液を薄め、遠心分離により沈殿させ、凍結液を含む上澄みを除去します。
  • 細胞単離
    次に、(2)ドナーから採取した組織から細胞を単離する場合、不要な組織の付着を切除した上で、組織をタンパク分解酵素液に浸漬し細胞を単離します。そして、酵素反応阻害剤により酵素反応を停止させます。
  • 培養 -培地と足場-
    そして、37℃に加温した新しい「培地」を添加します。「培地」とは、生体外で細胞を培養するために用いられる組織間液を模した液体です。また、上澄みの除去や、こうした培地の添加などの作業は、よくピペット等を用いて手作業で行われますが、この際必要なのが、コンタミネーション(埃や雑菌の混入)を防ぎ無菌状態で作業するために、内部を陽圧にして空気を外に押し出している「クリーンベンチ」です。その後、顕微鏡や細胞数計測器等を用い、「セルカウンター」で細胞数、細胞濃度を計測します。計測した細胞数/細胞濃度をもとに、適切な量の「培地」を加えて希釈し、細胞懸濁液を調整し、新しい培養容器に所定量の細胞懸濁液を移動させることを「細胞播種」と言います。
    生物の体内にいたときに血液中を流れていたものは、培地内で浮遊した状態で増殖する浮遊培養系細胞、組織にくっついていたものは、培養容器に付着し増殖する接着培養系細胞として培養されます。接着培養系で、単層(2次元・平面)培養の場合は、ペトリディッシュ(シャーレ)、培養フラスコ、マルチウェルプレートなどが用いられます。マイクロウェルプレートは、平板上の多数のくぼみ(ウェル)に、目的の細胞を播種して細胞培養を行うデバイスで、1 枚あたりのウェル数が 48 個や 96 個の製品が一般的です。また、3次元(高さ方向・厚み)で細胞を増殖させる立体的な培養方法は、生体内に近い環境であるため重要となっていますが、細胞の接着及び増殖を支え、立体的構造を維持するための担体「足場」が必要です。例えば多孔性軟質ゲルなど様々な材質、構造の足場の開発が進められています。
    こうした培養等を行うための装置が「CO2 インキュベーター」で、解凍後はこの中で細胞が増えていきます。細胞代謝により培地が酸性化してしまうのを防ぎ、培地のpHを一定に保ちながら細胞を培養するために、一定のCO2濃度を保つものです。
  • 培地交換と継代
    細胞は、培地から必要な栄養素を使いそれらの栄養素を代謝します。そのため、栄養分が低下し、代謝産物が多くなった培地を捨てて、新しい培地に交換します。培地交換の前に、まず細胞観察を行い、培養が正常に進んでいるかどうかを確認します。新しい培地は、事前に37℃に温めて、細胞に急激な温度変化を与えないようにします。
    細胞が増えてきたら、培養容器いっぱい(コンフルエント)になる前に、新しい培養容器に植え替え「継代」を行います。細胞がどのくらい増えたか、細胞観察して、モニタリングをしておく必要があります。細胞を容器から剥がすために、トリプシン処理によって細胞を洗浄。そして洗浄液を取り除くために遠心分離し、それを新しい容器に移して、培地を注ぐ、という手間がかかります。

そして、iPS細胞の「自家培養」は、作製時間・費用が大きい反面、安全性で優れます(HLA(細胞表面に発現する白血球抗原で、自己・自己以外を判別する)による免疫拒絶反応があり、主要4種類のHLA型は日本人の40%に共通するものの、数万種類ある残り型は、自己と完全に一致するケースは数百~数万人に1人の確率である)し、「他家培養」は、予めストック(冷凍)しておけるため、利用時に短時間で済み費用も抑制できます。京都大学iPS細胞研究財団におかれては、「my iPSプロジェクト(完全オーダーメイド型)」「iPS細胞ストック(日本人の40%をカバー)」「HLAゲノム編集iPS細胞ストック(日本人の95%をカバーするために必要なのは7株、全世界では12株と試算され、HLA-A/B/CIITAをゲノム編集でなくすことで拒絶反応のリスクを低減するもの)」を進めておられます(2022年1月時点で7名の方から作製した27株のiPS細胞を提供)。

医療・介護機器、医療・介護サポート機器

世界の医療機器市場は年4%程度で成長し、2019年時点で4,000億ドルを超えています。日本のメーカーも内視鏡、超音波診断装置、CTやMRIなど診断機器分野では高いシェアを有しています。また、例えば世界のリハビリテーション機器市場は2016年時点で100億米ドルに迫るなど、介護機器等の市場も伸びています。超音波で排尿のタイミングを予測するもの、マットレスのセンサーとAIで転落転倒を予測するもの、音声解析で誤嚥リスクを分析するものなど、介護テックも盛んになってきています。
この世界的な成長市場への参入をビジネスチャンスにするためには、医療現場・介護現場との「言葉」の違いを乗り越えてニーズをしっかり把握した上で、薬機法等への対応ノウハウを身に付けることが重要であるため、医療現場等とのマッチング、補助金等でのビジネスプランの支援、薬事相談などを通じて、様々な手術器具、細胞培養器具、介護機器等の開発を後押ししています。

  • コーディネータによるマッチング支援:320件(2014年度~、共同開発先・OEM先のマッチング等、2022年度44件(8月末))
  • 窓口専門相談(外部リンク)180件(2014年度~、容:薬事手続50%、販路・参入各15%(参入は大半が医療機器関連))
  • 薬事支援センターとの連携による薬機法相談:179件(2020年度~、2022年度30件(8月末))
  • iPS細胞による再生医療等の技術開発応援プロジェクト
    iPS細胞ストックの拡大や、がん免疫細胞開発、輸血に必要な血小板前駆細胞開発等を図るスタートアップ企業への支援等に役立てられています。(2020年度463者4,500万円、2021年度300者5,300万円)

その結果、様々な事例が生まれてきています。

また、コロナ禍で新しいニーズとして見えてきたのが、医療・介護サポート分野です。医者や看護婦、病院や介護の現場での多岐に亘る困りごとへの対応は、医療機器開発のような、薬機法や医療点数などの業界特有のしきたりや多額の開発費を必要とせず、業界とのつながりを作ることができ、医療機器開発へのステップアップのための機会として有望です。

  • チャレンジ・バイ補助金:嚥下食用電気圧力鍋、病理検査用組織二分割デバイスなど約120件、購入総額約1億1,000万円超(2015年度~)

デジタルヘルス

最近名付けられた病気「天気痛」の患者は日本に約1,000万人いると言われています。低気圧が内耳を通じて脳に伝わり頭痛になるほか、内耳の受ける影響と目で見える影響の無さのアンバランスから自律神経が乱れ、肩こりその他の症状が出ることもあると言います。台風や雨の日や、その数日前から体調を崩す人がおり、それに疑問を感じてきたお医者さんが、天気予報の民間企業と連携し、気象情報データを基に解明したものです。現在は気象データと連動したアラートアプリも登場しています。

ペットテック

ペットの健康管理や行動を記録する首輪型機器などを開発するスタートアップ企業も登場してきています。

施策

メディアコンテンツ・メタバース

DX時代だからこそ、自分のものの見方、自分なりの答え、すなわち「創造性」を!

ルネッサンス画家と20世紀アーティストの違いは何でしょうか?
前者は、教会や王侯貴族らに雇われ、依頼され、キリスト教をテーマにした宗教画や、権力者の肖像画などを、臨場感ある表現、生き写しのような正確な表現こそ正解だとしていました。
しかし、20世紀に入ると、目に映るとおりに世界を描くという従前のゴールが根本から崩れてしまいました。そう、カメラの登場によって。
そして、芸術家たちはアートにしかできない新しいゴールを目指し始めます。例えば20世紀の最も著名な画家の一人、パブロ・ピカソ。1907年に描いた当初、世界から酷評された『アビニヨンの娘たち』。しかしこれは、遠近法や人間の視覚だけの物差しによる「従来のリアル」と決別し、様々な視点から認識した「新しいリアル」を1つの画面に再構成した彼なりの答だったのです。
また、アートは創った本人がその見方を決めるだけではありません。典型的な例が音楽鑑賞です。「作曲家の意図」「作品の背景」とは別に、聴き手一人ひとりが自由に、自分の思い、自分の体験をベースに「作品そのもの」とやりとりします。つまり、アートは、芸術家だけではなく、鑑賞する側の解釈にも支えられ、成り立つものなのです(誰であっても同じように解釈する「デザイン」との違いでもあります)。
そして21世紀の今、DX等のテクノロジーの進歩によって、日本・京都の強みであった「職人技による精緻さ」が危機を迎えています。今こそ、あらゆる常識、既成概念、枠組みを取っ払い、自分の内なる興味、好奇心、疑問をもとに自分のものの見方で世界を捉え、自分なりの答を探求し続ける「アート思考」、すなわち、「創造性」が求められています。なぜなら、「必要性」よりも「自分の欲求」、これこそが究極の付加価値、究極の需要だからです。

創造性のビジネス戦略

2019年の世界の美術品市場は7兆円(米国4割、英国2割、中国2割弱)と言われます。創造性という究極の付加価値をビジネスとして成り立たせた歴史はどうだったのでしょうか。20世紀アート以前を振り返ってみましょう。

  • 労働者(働く人)の大半が文字を読めなかった中世ヨーロッパにおいて、絵画彫刻は、聖職者(祈る人)が人々の平安を保証し、貴族(戦う人)が人々の安全を保証していることをプレゼンテーションする最適なビジュアル表現として重宝されてきました。そして、教会や貴族というスポンサーの中でもひときわ有名なのはメディチ家です。フィレンツェの君主になったばかりか、ローマ法王に多額の献金や行い一族から法王を出すに至るなど、スポンサーのスポンサーでもありました。メディチ銀行は1396年に創業しましたが、キリスト教では(ユダヤ教、イスラム教でも)、聖書で利息を禁じており、その贖罪のために芸術支援を行ったのです。11世紀末の十字軍の遠征を機に、活発化した東方貿易を先導したイタリア商人が、為替や複式簿記の技術を発達させてきましたが、この為替レートを巧みに使って事実上の金利を得ていたのです。
  • 「絵画市場」が成立するために必要であったのが、ルネサンス中期に登場した画材「キャンパス」です。従前は壁画や天井画といった、いわば不動産絵画でしたが、これによって描く場所も飾る場所も選ばず、画期的な流動性がもたらされ、絵画の動産化が進んだのです。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』(1498年)は不動産絵画ですが、『モナ・リザ』は動産絵画です。
  • 20世紀のアーティストが「新しい手法」によって新しいリアルという独自性を生み出したのに対し、「新しい題材」で独自性を生んだのは、17世紀のオランダです。宗教改革で祭壇画や礼拝像の排除が進む中で、教会等のスポンサーではなく、市民の購買による市場を見出し、さらには、聖書等のお仕着せの題材ではなく、画家が自分で決めた題材で絵を描き始め、レンブラントやフェルメールなどの巨匠が登場しました。注文品ではなく既製品として、食器や花、風車などこれまで「脇役」に過ぎなかった題材を主役にした静物画や風景画を描くことで、「美」とは、同じくこれまで「脇役」であった市民の日々の生活の中にこそあることを説き、市民を新たな主役として顧客にしたのです。その結果、パン屋より多くなった画家はブランド化戦略を図り始めました。レンブラントは、その荘重な画風の席捲に伴い工房で組織的に生産するようになりましたが、やがて、供給過多になるとともに、模倣品も出回り、市場との乖離も経験したのです。
  • 一方、同じ17世紀頃、カトリック国フランスでは、教会の権威に代わって王室の圧倒的な権力を人々に知らしめるものとして、豪華絢爛の王室美術が栄華を極めました。宗教改革で神の代理人としての法王や法王を守護する皇帝の権威が失墜する中で、各地の王たちは自分の王権を神から直接授かったものだと考え始め(王権神授説)、あたかも神の代理人として乗り出し始めたのです。フランスの王室美術に権威を与えたのが「アカデミー」です。それ以前の同業者組合ギルドで継承される「技術(工芸)」としての美術に対抗するため、アカデミーは解剖学的知見を踏まえた人体デッサンを導入することで「科学的」なものへと昇華させることを目論みました。さらに、ヨーロッパ美術の指導的な立場にあったイタリアを凌駕し、巨匠の傑作群で壮麗に飾られた古都ローマやカトリック総本山ローマ法王庁の威光を凌駕することを目論み造営されたのがヴェルサイユ宮殿でした。
  • パリを古代ローマをも凌駕する美術の都とすることを夢見たのは、フランス革命後の混乱を収拾し19世紀初頭に活躍したナポレオンです。凱旋門やオベリスクといった古代ローマ風記念建築を市内の随所に配し、威光をフランス内外に訴求するとともに、王ではなく一将軍の地位で画家を従軍させた彼の戴冠式の様子を描いた絵画では、古代ローマ帝国皇帝の再来を思わせる姿が見て取れ、ローマ帝室のファッション美学を近代パリに復権させています。古代メソポタミアの「ハムラビ法典」、東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスが編纂させたローマ法大全「ユスティニアヌス法典」に並ぶ世界三大法典となる「ナポレオン法典」において、私有財産の所有を認めることで愛国心の土台を築き、財源を浮かすために傭兵制から徴兵制への転換を図るなど、巧みな戦略を展開しました。
  • ナポレオンの「古代帝国ルネサンス」はアメリカ合衆国にも継承されています。大統領官邸ホワイトハウスは古代神殿風で、ワシントン市街には記念塔としてオベリスクが屹立しています。
    19世紀後半にフランスに端を発したモネ、ルノワールなどの印象派絵画は、アカデミーにも評価されず、時にガラクタと見なされるほどでしたが、パリの画商ポール・デュラン=リュエルは、印象派絵画の並外れた新規性を緩和するために、クラシックな金ピカ額縁で飾ることで、作品の価値を顧客に担保する手法を採りました。18世紀のルイ王朝様式の金ピカ額縁に入った作品と猫足家具で埋め尽くした「サロン」を開設し、まるで自宅にいるような感覚で、かつての高位聖職者や王侯貴族が味わった体験を与える巧みな接客戦略を展開しました。これよって、粗雑にも映る印象派の新規性こそが「新時代の貴族」のステータス・シンボルであるような演出を施し、「ガラクタ」を超高額品へと変容させたのです。平等な社会を願って出現したフランスの市民社会でさえ貴族文化に憧れを抱いていたように、伝統や格式には人々を畏敬や畏怖を喚起するものが備わっていることが明らかになりました。
    この空間演出がとりわけ効果を発揮したのが、貴族のいない新興国家アメリカでした。南北戦争の軍需景気と戦後復興による鉄鋼や鉄道産業の急成長で次々と新興財閥が生まれ、大富豪たちが富を注ぎ込んだのがパリのファッションと美術の市場だったのです。今で言う「爆買い」が行われていました。
  • なお、美術市場類例のない19世紀の印象派絵画という超高額商品を生み出したもう一つの背景は、ジャーナリズム、批評家の存在が挙げられます。注文制作ではなく既製品を売るためには、ブランド化によって「名」を認知させることが不可欠であるとともに、王侯貴族のように美術品に対する世代的蓄積がない市民顧客に対し、その欠けている商品知識を補充することが必要であり、今で言う「インフルエンサー」が登場したのです。

現在の美術経済のプレイヤーは次のとおりです。

  • 生産者:美術家(教員など副業をされている例も多い)
  • 発表機会:公募展(美術団体や美術館等、美大展など)、芸術祭(ベネチア・ビエンナーレなど)
  • 卸小売:美術商・百貨店(古美術商、画商など「古物商」の許可を得ている。画廊は入場料を取らない)、オークション(18世紀に誕生したサザビーズ(外部リンク)クリスティーズ(外部リンク)等。売り手買い手双方から落札額の1~2割の手数料)
  • 購入者:コレクター、美術館
    コレクター:日本の場合は、住宅事情から家に飾れず、京都でも襖絵や屏風を買っていくのは外国人ばかりだと言われます。
    美術館:全国美術館会議に所属するのは国公私立含めて約400あり、これに属していない小美術館も含めれば2000館とも言われます(特に私立美術館は、コレクターがシェアする人間の本質的動きがベースになっていると言えます)。パーマネントコレクション(収蔵品を手放さない)を原則としており、収蔵されることがステータスとなります(それ故、一般価格より安く収蔵される傾向があるとも言われます)。建物の維持費も高額であり、バブル崩壊以降、収蔵力が低迷していると言われています(京都市京セラ美術館は、改修費100億円の半額を50年のネーミングライツで獲得)。
  • その他:鑑定士(鑑定料は数万円からと言われています)、評論家

オークションで100億円ほどの落札額も生まれる美術品ですが、これまでの歴史を踏まえれば、美術の経済の本質が見えてきます。

  • 後世に残るような先鋭的で斬新なものは、同時代に生きる保守的な価値観を持つ多くの人に理解や共感を得にくく、学術誌等の説得力ある評論や、展覧会、美術館等での取扱いなどの「箔」が必要です。
    それを理解する画商で弟のテオが売り急がなかった故に、ゴッホの生前売れたのは1枚だけでした。現代アートを先導する村上隆も、ルイ・ヴィトンとコラボレーションをするなど、様々な試みをされてきました(なお、レンブランドと同様、工房形式で制作し、それが後継者育成の場ともなっています)。
  • 無名作家の作品を売るなら「たくさん」集め、額装や表装を整えることが重要です。
    北斎は素晴らしい肉筆画を残すなど「芸術家」の側面も持ち合わせていましたが、有名なのは浮世絵です。富士山信仰ブームを背景にした葛飾北斎の冨嶽三十六景、旅行・観光ブームを背景にした歌川広重の東海道五拾三次は、版元の指示で作られた「職人」「デザイン」的な仕事です。明治維新で幕府という後ろ盾がなくなる中にあって、版画故に多くの作品が作られ、輸出された陶磁器の詰め物として欧州で多く目にされたことがきっかけで、浮世絵は欧州で注目されることとなりました。

美術工芸のまち

一方、京都の絵画は、空海が持ち帰った「真言五祖図」や手本となる曼荼羅図などの「密教絵画」で開花しました。
やがて、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像の後壁に描かれた日本の自然の姿など、「唐絵」に対し日本生まれの絵を意味する「大和絵」が成立し、神護寺に残る「伝源頼朝像」などの「似絵(肖像画)」、同じく同寺に残る、猿や蛙などを人間に見立てた日本最初のマンガとも言われる「鳥獣人物戯画」といった「絵巻物」、さらに南北朝時代には大和絵の伝統を受け継ぐ、朝廷お抱えの絵師らによる「土佐派」も成立しました。
室町時代には、将軍家に収集された中国の水墨画を学びに、晩年「天橋立図」を描いた雪舟や、幕府お抱えの絵師となり「狩野派」を開いた狩野正信などの絵師が京都に集まり、桃山時代には「洛中洛外図屏風」を描いた狩野永徳、江戸時代には二条城二の丸御殿障壁画を描いた狩野探幽らが活躍しました。同じく桃山時代から江戸時代に亘り、「風神雷神図」屏風を描き、本阿弥光悦とともに「琳派」を開いた俵屋宗達、琳派を発展させた尾形光琳らが活躍しました。
江戸中期以降は与謝蕪村、伊藤若冲、円山応挙なども輩出し、文人画・写生画の諸流派が形成され、今日の日本画の基盤が築かれました。明治になると「美術」という言葉が作られ、明治13年には日本初の美術学校「京都府画学校(現京都市立芸術大学)」が設立されました。

京都の彫刻も、絵画同様、仏教文化の伝来とともに始まります。
仏像には、悟りを開いた姿を表す「如来」(仏教の開祖、釈迦の像である「釈迦如来」、無限の光を放ち時間を越えたという意味の「阿弥陀如来」、さまざまな病気を治すとされる「薬師如来」など、薄い衣をまとい、ほとんど何も持たない姿として表されることが多い。)、悟りを求めて修行する姿を表す「菩薩」(釈迦入滅後56億7000万年後に如来となってこの世に現れる(現在修行中)とされる「弥勒菩薩」、その弥勒菩薩が現世に現れるまで民衆を救済するという「地蔵菩薩」など)、怒りの表情が特徴の「明王」(不動明王など)、仏教に帰依したとされるインド神話の神「」(毘沙門天など)など様々なものがあります。
渡来系の秦氏が創建した蜂岡寺(広隆寺)の弥勒菩薩像(国宝第1号)、空海による大日如来を中心にした曼荼羅の立体的表現、そして、仏師・定朝による、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像などが生まれ、定朝以降生まれた京仏師から分かれた奈良では運慶・快慶を輩出し、随心院の金剛薩田坐像は快慶作と知られています。
なお、京都の仏教については、603年に建立された広隆寺が京都最古の寺院です。そして、奈良の仏教勢力の影響力を弱める目的もあり遷都した桓武天皇が最澄、空海を中国に送り出し、それぞれ天台宗(延暦寺)、真言宗(東寺)を開かせました。やがて末法思想によってひたすら来世の幸せを願う浄土教(阿弥陀仏の極楽浄土に往生することを説く教え)が流行し、鎌倉時代になると、「鎮護国家」から次第に民衆の救済を目指すものとなり念仏思想が広がりました。中でも浄土教に基づき、「南無(おじぎ等を意味する)阿弥陀仏」と念仏を唱え続けることで救われるとする法然の浄土宗、その弟子・親鸞の浄土真宗(真宗、一向宗)が生まれるとともに、「南無妙法蓮華経」と唱えることで救われるとする日蓮宗(法華宗)も生まれました。一方、この時代には中国からもたらされた臨済宗、曹洞宗の2つの禅宗が、武士に好まれました。室町時代には臨済宗は幕府に保護され、京都五山(南禅寺を筆頭に、天竜寺、相国寺、建仁寺、東福寺、万寿寺)が定められる一方、曹洞宗は民衆に日蓮宗は商工業者に普及したと言われています。また、当時最大勢力であった浄土真宗は、戦国時代から江戸時代にかけて、大谷、山科、石山、やがていわゆる東・西本願寺へと本山が変遷しました。

大宮付近は平安時代に織部司があったところ(やがて朝廷の仕事だけでは成り立たず独自の座(大舎人座)を結成)で、先染めである織物は、鎌倉時代から室町時代にかけて「大宮絹」の名で知られていましたが、応仁の乱での疎開後、西軍の陣地であった地域に織手が集まり「西陣織」の名が生まれました。後染めのものでは、宮崎友禅斎の「友禅染」など織物とは異なる自由な文様が生まれました。

桃山時代以降、茶の湯の場は、絵画や工芸品の展覧会場でもあり金工の茶釜(三条釜座の西村道仁、辻與次郎など)、陶芸の茶碗・花入、竹工芸の茶筌などが発達しました。そして、俵屋宗達とともに「琳派」を開いた本阿弥光悦は、徳川家康から受領した鷹峯に職人を集めた「光悦村」を開きました。京焼は、野々村仁清が江戸時代初期に御室に釜を築いて色絵陶器によって新風を吹き込み、やがて粟田口、さらには五条坂を中心とする清水焼に受け継がれていきました。

着物のまち

聖徳太子の時代に冠の色によって宮廷内の階級を表そうとした「冠位十二階」以降、衣服のルールは細分化や変更を繰り返し(例えば、相手から見て右の衽を上にする「右前」は唐の影響です(死装束は逆に「左前」になりました))、やがて「着物」が登場しました。

  • 平安時代、遣唐使が廃止され、それまで中国式の宮殿・朝堂院にて立礼で行われてきた儀式が、天皇の住まい・内裏にて座礼で行われるように変化するに伴い、幅広のゆったりとした形状、内裏に仕える女性の感性による美しい色彩が求められ、宮殿に昇殿する際の正装は、男性は「衣冠束帯(いかんそくたい)」、女性は「唐衣装(十二単。唐衣(からぎぬ)は上着、装(も)はロングスカート)」になりました(「衣装」の語源は「唐衣装」)。
  • 鎌倉時代、武家の台頭に伴い経済基盤が弱くなった公家の衣装は簡素化され、公家の女性は唐衣や装を略し、唐衣の中に着ていた「袿(うちぎ)」を小さくした「小袿(こうちぎ)」を着るようになり、その後江戸時代まで宮中の女性の正装は、袿と袴になりました。また、安土桃山時代の上級武家の女性の正装は「小袿」から変化した「打掛(うちかけ)」となりました。
  • 一方、鎌倉時代、地方の武家の女性は動きやすさを求めて、「小袿」の下着として着ていた「小袖(こそで)」に色や柄を付けて表着として着るようになり、紐状の「細帯」をしていました。既に鎌倉時代のうちに庶民に浸透し、江戸時代に「着物」と呼ぶようになりました。江戸前期は、歌舞伎や遊女を中心に豪華なデザインの着物が流行し、帯もそれを邪魔しない「細帯」や、現在の「帯締め」のような組紐状の「名護屋帯(佐賀県唐津市の地名で朝鮮出兵時に集まった遊女たちから流行った)」が流行しましたが、江戸後期には、贅沢が禁止され、着物の模様は「総柄」から、上半身は無地で裾に柄を施した「裾模様」へと変化するとともに、地味な上半身を補う意味で帯の幅が広がり、それが解けないように「帯締め」を使うようになりました。明治時代には、着物腰のあたりで着物をたくし上げて丈の長さを調節する「御端折り(おはしょり)、「お太鼓結び」、お太鼓結びに必要な「帯揚げ」も普及し、現代と同じ着方が定着しました。大正時代には、化学染料で着色した糸を機械織りで安価で生産できるようになり、若い女性の着物がカラフルな総柄になりました。
  • また、明治時代には洋装化が進められ、現在でも旭日章(顕著な功績)・瑞宝章(公共的業務への勤務)といった勲章、藍綬(団体)・黄綬(企業)といった褒賞のドレスコードは燕尾服やドレスの決まりがあります。しかし、明治時代、そのコスト高への苦肉の対応として、江戸時代までの裃、宮中の女性の袿・袴から、白衿紋付(白衿:表着の着物の下に重ね着した白無地の着物が見える。紋付:背中、両胸、両袖に5つの家紋を入れる)、すなわち男性の場合は、黒紋付羽織袴、女性の場合は裾模様付きの黒無地の着物が認められ、最上級の礼装と定められました。
  • 一方、明治20年、鹿鳴館をリードしてきた井上馨の外務大臣辞任を機に、明治の洋装化の勢いが下火になり、一時期洋服着用が定めた華族学校においても女袴着用を定め、瞬く間に他の女学校にも「ハイカラさん」スタイルが広がりました。

女性の人生儀礼との関係で様々な着物があります。

  • 成人式での「振袖」は、昭和の高度成長期に呉服業界が、江戸時代以前の「元服」をヒントに仕掛けたものです。江戸時代以前は成人年齢に統一されたものはありませんでしたが、15歳前後において行われた成人になった儀礼としての「元服」において、髪型と衣服を子どもから大人に変更する儀式が行われていたのです。なお、成人式の振袖姿の写真がお見合い写真として多用されました。
  • 白無垢」は、室町時代から武家の娘の婚礼衣装として用いられるようになりました。白は古代から神聖な色として敬われてきた色で、無垢は汚れないことを表す仏教の言葉です。また、かつて花婿の自宅で結婚式や披露宴が行われていた時代には、三三九度の盃の儀式の後、披露宴の前にお色直しを行い、赤地の着物に着替え、花婿も裃から黒紋付に着替えました。なお、皇太子時代の大正天皇の結婚の儀式が宮中賢所(皇居の神殿)で行われ、国民の間でも料理旅館などの大会場で披露宴が行われるようになりました。
  • 明治時代に義務教育が始まった小学校を経済的に支援する組織として、家長である父親 やその代理をする兄が参加する「父兄会」が生まれ、入学式や卒業式には父親か兄が出席するのが普通でした。第2次世界大戦後、米国の制度を見倣ったPTAが組織され、母親が参加するようになりました。仰々しい黒留袖の代わりとして、黒地の絵羽織(黒羽織)が流行りました。

着物はSDGsの観点でも特徴を有していると言えます。

  • ボタンを使わず帯だけで着用し、幅は前合わせの重なりで、丈は御端折りで、それぞれ調整する「フリーサイズ」
  • 立体裁縫された洋服と異なり、一枚の布(反物)を直線的に活用するため、仕立て直しがしやすい「何度でも新品」

日本の繊維の代表格は、麻、絹、木綿です。

  • :本来は植物の茎から採取される繊維の総称で、日本に自生していた「麻」「藤」「葛」「科」「楮」などの繊維です。
  • :弥生時代末期に養蚕が日本に導入され、平安末期からは中国・呉(蘇州付近の地名)から絹織物や糸の大量輸入も始まりました(「呉服」とは呉で織られた布の意)。明治時代以降は日本の輸出品で最も多いのが絹の生糸でした。
    蚕の繭から引き出した「繭糸」を数本繰ったものが「生糸」で、膠成分セリシンに覆われクリーム色をしています。精練してセリシンを取り除くと美しい光沢と柔らかさを持つ「練糸」ができます。京都・西陣では、江戸時代に中国からの輸入が多過ぎて輸入禁止された練糸づくりの技術を向上させた故、全国の養蚕地から生糸が運び込まれ、西陣織友禅染の着物になりました。一方、生糸にならない繭糸が「紬糸」で、織ったものがです。現在は紬糸も精練してセリシンを取り除き、光沢や柔らかさを持つものが多くなりました。
    高級帯は「織り」、高級機物は「染め」と言われますが、「織り」は先染めのため、練糸が持ち込まれた西陣織(西陣で生産される多品種少量生産の先染紋織物。「錦」「唐織」など12種類の織り方が「伝統工芸品」に指定)や、養蚕の産地である大島紬・結城紬など生産地で発達しました。
    染め」は後染めのため、京友禅・加賀友禅・江戸小紋など消費地・都市部で発達しました。染めの生地には、経糸と緯糸を上下に交差させ凹凸がない「平織」、経糸を細い2本で織ることで柔らかい生地となる「羽二重(はぶたえ)」、経糸は生糸、緯糸は撚糸2本で織ることでシボ(凹凸)を立たせる「縮緬(ちりめん)」などがあります(生地にしてから精練するが、「お召(縮緬)」は糸の段階で精練し「織り」に分類されます)。染めの手法について、手描友禅では、模様の輪郭に(色の定着のためではなく)防染のための糊を置いて、輪郭の外に染料が流れてしまわないようして染め(それ故、輪郭は白いまま残り、その線を「糸目」と言います)、色の定着や光沢を増すために生地を蒸し、水で糊等を洗い流します(水元)。型友禅では、色を定着させるために染料に糊を混ぜた色糊を用いて、型置(糊置)をします。絞り染めでは、糸で小さく括って布面に凹凸を残した「京鹿の子絞」があります。
  • 木綿:鎌倉時代末期から渡来し、その肌触りの良さのため、麻に代わって下着の繊維として人気を呼びました。「更紗」は、インドやインドネシア等から運ばれてきた木版で染められた布又は模様です。
  • 羊毛:明治時代になると採り入れられ、昭和30年代にはウールの着物地が製造されるようになりました。
  • 化繊:現代は、洗濯が簡単で買いやすい価格ということで、ポリエステル、レーヨン、アステート等の化繊の着物もあります。

着物の小物の中でも、江戸時代に目立つ存在になった「帯」にも格式や形態の違いがあります。

  • 丸帯:幅70cm弱、長さ約4mの生地を、幅方向に2つ折りにして縫い合わせたもので、その結果、幅30cm強となって裏表に柄があります。帯の中で最も格式のある帯ですが、現代では花嫁衣裳や舞妓さんの衣装で使われる程度です。
  • 袋帯:幅30cm強で、丸帯を改良し裏側を無地の生地にして軽量化したもので、丸帯に代わりフォーマルシーンで着用されます。お太鼓の部分は帯の幅そのまま使いますが、腰に巻く部分は幅方向に2つ折りにして巻きます。
  • 名古屋帯:安土桃山時代に流行った紐状の「名護屋帯」とは違い、大正時代に名古屋市の女学校の先生考案したもので、袋帯で言うところの、幅方向に2つ折りして腰に巻く部分を、最初から半分の幅で作られたもの

その他、小袖の下に着る襦袢帯締め帯留め、帯の腹側に張りを出すための帯板、お太鼓の形に立体感を出すための帯枕など様々あります。

建築のまち

建築については、屋根の形には切妻造寄棟造、そして天守閣の頂上部分でよく見かける入母屋造などがありますが、神社建築では吉田神社本宮などで見られる「春日造」(切妻造、妻入)、上賀茂神社本殿・下鴨神社本殿などで見られる「流造」(切妻造、平入)など様々です。宮殿邸宅では、御所紫宸殿に残る「寝殿造」、金閣・銀閣の初層や二条城二の丸御殿に残る、床の間などのしつらえを供えた「書院造」、わび茶の精神同様、無駄をそぎ落とすなど質素ながら洗練されたデザインで、桂離宮や修学院離宮に残る「数寄屋造」なども発達してきました。

さらに近現代の建築においても京都は檜舞台となってきました。1979年制定の「建築界のノーベル賞」プリツカー賞でもアメリカと並ぶ最多8名(丹下健三、安藤忠雄ら)受賞者を生み出してきた日本において、京都は、伝統と対峙する場として建築家たちに選ばれてきたのです。
片山東熊設計1895年完成の、国の重要文化財に指定されている京都国立博物館明治古都館。1872年創設の東京国立博物館に続き、奈良と京都に西洋的な博物館が置かれたのは、かつて東洋文化を大規模に導入し国家の基盤を整えるプロジェクトであった平城京や平安京が置かれた日本の文化の中心地で、西洋文化の導入を急ぎ実利に左右される東京から距離をとることで、最先端の調査研究を行うためでした。建物の中央は、ペディメント(破風)や柱形アーチは古代ローマの凱旋門を参照した形式で、そのペディメントの内側には、古代ギリシアやローマの神々ではなく、工芸の神・毘首羯磨、技芸の神・伎芸天といった仏教の神々が彫られています。幅約85メートルの朱雀大路を平安京の中心に通したように、左右均整のとれた正門や建物の権威的な外観は、過去、現在、未来への普遍性を表現し、歴々と連なる日本を、近代的・西洋的な研究手法で再編する現場であることを象徴しているようです。
一方、辰野金吾設計、1906年竣工の旧日本銀行京都支店(現京都文化博物館別館)は、独特の軽やかさが印象的な建物です。江戸時代には東海道の起点として栄え、京都で最も往来が盛んであった三条通が、明治維新後の衰退を乗り越え、銀行や郵便局等の諸施設が洋風建築で建てられはじめたため、道路拡張せぬまま歩行を中心としたストリートとして残り、その独特のデフォルメやアレンジが施された浮遊感ある外観が際立っています。
また、1909年完成の京都府立図書館。桓武天皇を祀る平安神宮の権威に寄り添うように、書籍を収容する権威性よりも、それを使う人間の佇まいを感じさせる建物となっています。煉瓦の下段には花崗岩が貼り巡らされ、しっかりとした基礎の上にある安心感を与えつつ、屋根という実用的な部位で住まいらしさが強調されているとともに、柱や梁、アーチといった各部位の重みではなく、壁面のデザインが要となっています。1925年に立てられた旧京都大学本館(現百周年時計台記念館)も同じ武田五一の設計です。
1926年完成の東華菜館も親しみやすい味わいがあり、大丸ヴィラ(大丸百貨店の社主を務めた下村氏の自邸)とともに、ウイリアム・メレル・ヴォーリス建築事務所の設計です。
コンペにより選ばれた前川國男設計、1960年竣工の京都会館(ロームシアター京都)。打放しコンクリートの大庇と伽藍のような統合が特徴です。現在は、50年間総額52億5,000万円の命名権、蔦屋書店等の民間活力によりスマートな賑わいを見せています。
京都中央郵便局の跡地に産業・文化・観光の一大センターを確立しようという京都財界の機運の高まりの中で、1959年に株式会社京都産業観光センター(現京都タワー株式会社)が設立され、様々な批判や反対運動もありながらも、1964年に完成した京都タワー。山田守による抽象化されたデザインにより、都市で遠望した際にすぐにそれと認知できる独創的なシンボルとなっています。
1966年開館の国立京都国際会館。質の高い公開コンペにより最優秀に選ばれた大谷幸夫が設計者となって、台形や逆台形により合掌造りの集落や神社を連想させる外観や、インフォーマルなコミュニケーションを促進する溜まりとなる場が巧みに配された空間などが見事です。
1997年完成の京都駅ビル。東京の新国立劇場では日本初の国際コンペが行われ、関西国際空港旅客ターミナルビルでは初めて審査員に外国人が加わるなど、国際化の流れに従って国際指名コンペが行われました。建築家や哲学者の梅原猛も加わった審査委員会により、「歴史への門」という設計思想を掲げた原広司の案が採用されました。

文化芸能のまち

平安時代、国家運営の基本は唐を手本とした法体系「律令」で、全て漢文で書かれていました。その律令制度を支える官僚の中に、平安朝始まって以来の秀才と謳われ、40歳頃には官僚養成機関の長を務めた菅原道真がいました。海賊対策に伴う財政危機に対し、遣唐使を廃止するとともに、地方有力者の土地所有を認め課税するなどの改革を断行しました。その姿勢が律令制度の転換を図るように見られ、結果として都を追われることとなりました。一方、実質的に道真と同様の改革を進めたのが、藤原氏御曹司で(故に官僚登用試験を免除され)和歌の腕前抜群の藤原時平でした。唐を絶対視する官僚の意識を変えるため、考案されて間もない、日本独自の文字「ひらがな」でした。そこで紀貫之ら歌人を集め、ひらがなを用いた「古今和歌集」を編纂させたのです。日本古来の音を表すひらがな故に、心情を素直に表現できる、掛け言葉など独自の工夫ができるなど、ひらがなの多くの効用を見出しただけでなく、官僚の意識改革、財政の立て直しにも成功しました。言葉の改革が、寝殿造りや十二単など、建築や着物、その他国風文化の開花につながっていきました。

  • 京都の歌道は、905年に紀貫之らが醍醐天皇に奏上した日本最初の勅撰和歌集「古今和歌集」に始まります。同時代には小野小町がいます。鎌倉時代には、晩年に「小倉百人一首」を手掛けた藤原定家から、二条家、京極家、そして冷泉家に分かれ中世の歌壇を導いていきました。明治以降では短歌の与謝野鉄幹・晶子が著名です。
  • 華道は、仏前に花を供える「供華」に始まり、平安時代には貴族の遊びの一つとして、栽培した花の優劣を競う花合せ、室町時代には武家や貴族の床や書院においた瓶花の観賞が普及しました。そして、法会などの催しに花を立てることが盛んになり、「立花」の名手として六角堂頂法寺の池坊専慶住職が名を挙げました。
  • 茶道については、臨済禅とともに茶種と喫茶法が伝わって以来、喫茶の本格的な普及と京都の栂尾と宇治など各地での茶栽培が始まりました。やがて、村田珠光が禅の精神を採り入れて創始した「草庵の茶」を受け継ぐ千利休により茶の湯が大成されました。やがて利休の孫・千宗旦は三男、四男、二男に表千家、裏千家、武者小路千家をそれぞれ興させて、三千家を確立しました。なお、抹茶を用いる茶の湯に対し、茶葉を湯で煎じて飲む煎茶道も江戸時代後期に成立しました。
  • は、奈良時代に唐からもたらされた散楽(平安時代以降は猿楽)から発達したもので、奈良の興福寺に奉仕していた観阿弥・世阿弥父子が室町幕府将軍の愛護で京都に進出。世阿弥が幽玄優美な能を完成させました。また狂言は、能の合間に演じる芸能として発達しました。
  • 歌舞伎は、異様な振る舞いや風俗を指す「傾く」が語源で、江戸初期、出雲の阿国が京都で始めた「かぶき踊り」がその始めとされます。やがて風俗取締りを理由に幕府から禁止され、成年男子の役者による野郎歌舞伎が生まれ、後に幕府の許可を得て京都・大坂・江戸には常設芝居小屋(南座など)が設置されました。
  • 京舞井上流は、江戸後期に始まる京都の座敷舞の流派で、明治5年の京都博覧会において、祇園町の芸妓・舞妓による「都をどり」の振付を行い成功させました。(五花街:祇園甲部、祇園東、宮川町、先斗町、上七軒)

映画のまち

日本・京都の映画産業の歴史を振り返ってみます。

  • 世界では、フランスのカフェでリミュエール兄弟が「シネマトグラフ(スクリーン投影方式)」で有料公開した189512月28日が「映画誕生の日」とされ、日本では、エジソンが発明した「キネトスコープ(覗き穴による一人用)」が神戸(メリケンシアターに碑)で初公開された189612月1日が「映画の日」とされています。翌1987年、日本でシネマトグラフが初試写されたのが京都で(元立誠小学校跡に碑)、初有料公開されたのが大阪(現在のTOHOシネマズなんば。東宝創始者小林一三による碑)です。
  • 日本人初の映画撮影として、浅野四郎氏が「化け地蔵」など短編映画を撮影したのが1898です。初期の頃は特に、映画でも歌舞伎の影響で女形が女性役を演じていたなど、人形浄瑠璃や歌舞伎、歌舞伎の改革運動として勃った新派等の他の芸術の影響を受けていたそうで、日本にシネマトグラフが持ち込まれた時からいらした説明者、後の「活動弁士」は、日本独自です。
  • 日本最初の撮影所1908(明治41年)に吉沢商店が東京目黒に作られましたが、それに続いて自社製作を始めたのが、京都で外国映画の輸入を営んでいた横田商会。同じ年に、日本最初の映画監督であり、後に日本映画の父と呼ばれる、当時、芝居小屋「千本座」経営者の牧野省三氏に依頼し、その第1作目「本能寺合戦」を京都市左京区の真如堂で撮影、発表。それら吉沢商店、横田商会など4社で日本初の本格的映画会社「日本活動写真株式会社」つまり「日活」を作ったのが1912。東京と京都の二条城西櫓下に撮影所を設けました。これは、ハリウッドのフォックス、ワーナー・ブラザーズなど(前身の会社)と同時期の設立です。牧野が見出した「目玉の松っちゃん」こと尾上松之助は、日本映画最初のスターとしてその後1,000本以上の作品に出演。しかし、牧野さんは、やがてよりリアルな殺陣を求める顧客の要求に応じ、日活から独立して、「バンツマ」こと、阪東妻三郎など多数のスターを輩出するとともに、彼らの多くも牧野さんに倣って独立プロを擁立するなど、京都の映画都市としての基盤が作られました。
  • 「松竹キネマ合名社」は1920年に設立されました。ユニバーサル社を視察し、撮影所が丸ごと都市になっていて、世界中にフィルムが輸出されることも踏まえ、満を持して設立されたものです。日活がリアルで重厚路線であったのに対し、松竹は都会風で洗練されたものという傾向があり、俳優養成所を建てて女優を次々と輩出し、独立プロでは設備の問題もあり難しく普及しなかったトーキーを日本最初に成功させた作品『マダムと女房』を1931年に作るなど、先鋭的な取組を重ねてきました。東映の母体である東横映画は1938年に設立され、東急電鉄沿線に映画館を経営していました。
  • 戦後、東映は大陸から引き揚げてくる映画人の救済のため、京都太秦の大映の第二撮影所を借り受けました。この頃、日活は大映と関係を解消し、製作・配給・興行とも一手に担い、映画館で上映する作品も映画会社が決定権を握り、その年間の上映日程が映画会社のスケジュールに沿って上映する「プログラムピクチャー」方式を導入しました。俳優も大きな目立つ顔の方から、長身で手足の長い石原裕次郎さんのような方が人気を博すようになりました。さらに、1950年代は、黒澤明監督が「羅城門」(大映)でベネチア国際映画祭のグランプリを、溝口健二監督も3年連続エネチアで受賞。こうして、日本映画は1960年に製作本数547本とピークを迎えます時代劇も大人気で、1955年の年間174本をピークに年間150本程度で製作されていたそうです。
  • 1960年以降、高度成長期でテレビの普及などレジャーの選択肢が広がったこともあり、日本映画は下降路線を辿ります。東映は、時代劇に加え任侠映画も多く製作し、松竹は1969年に山田洋次監督の『男はつらいよ』が始まりました。

一方、ハリウッドは、特許訴訟を連発するエジソンから逃れて辿り着いた新天地でした。

  • 初期は、ショックや驚きのような直接的な刺激を強調するようなものが多かったのが、20世紀前半にかけて確立された「古典的ハリウッド映画」では、「見せる」ことから「物語を語る」ことへとシフトしていきました。まず、「コンティニュイティ編集」といって、物語に没入させる様々な技法が生み出されました。画面の外に視線を向けている人物を写し、次のショットでその視線の対象を写す「アイライン・マッチ」、会話している2者を撮影する際に、観客に映像の構図を混乱させないよう定まった方向から撮影する「180度システム」、アクションの途中でカットし、次のショットで前のショットのアクションの続きを見せる「アクションつなぎ」などです。そして、プロデューサー主導で、製作の各プロセスは分業化され、スターの人気や知名度に依拠して、画一的・量産システムが生まれました。こうした初期のハリウッドを支えたのはユダヤ系の経営者たちで、「製作」「興行(映画館)に加え、それらを橋渡しする、つまり、どの映画館でどの作品を公開するかの手配を行う「配給」という3つのセクションに分かれた現在の仕組みの原型が出来上がりました。パラマウント、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザーズなどは、それらを一手に引き受ける「垂直統合」により成功を収めたけれど、独占禁止法違反の判決により、それが崩壊しました。
  • 「西部(フロンティア)」開拓完了に伴い、西部劇人気が陰り始めましたが、次に見定めたフロンティアが「宇宙」です。ピクサー(現ディズニー)「トイ・ストーリー」シリーズの主人公と相棒役が、カウボーイとスペースレンジャーであるのには、そういった背景が潜んでいると言われます。ちなみに、世界的なアニメーション・スタジオとして知られているピクサーは、もともとルーカスフィルムのCG部門で、それを買収し赤字を支え続けたのがスティーブ・ジョブスです

日本映画は、創造性の面では、世界に大きな影響を与えてきました。

  • 黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』(1958年)は、ジョージルーカス監督の『スター・ウォーズ』に影響を与えたと言われ(「武士」の中でも「貴人(時代によって変化)に仕える武士」が「侍」であって、「浪人」(戸籍に登録された地を離れて他国を流浪している者、失業中の武士などのこと)、「野武士」(山賊化した武士)、「足軽」(戦時の臨時雇い兵)は含まれない)、『用心棒』(1961年)はクリント・イーストウッド主演の『荒野の用心棒』(1964年)としてリメイクされています。結婚式のシーンで始まる『悪い奴ほどよく眠る』(1960年)も、コッポラ監督に影響を与え、『ゴッド・ファーザー』(1972年)も結婚式のシーンから始まっています。『天国と地獄』(1963年)では、白黒映画にあって、一部色を付けるシーンがあり、犯人を追い詰めるインパクトが強く響いてくるのですが、スピルバーグ監督も『シンドラーのリスト』(1993年)で同様の手法を用いています。『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のポン監督も、「『天国と地獄』にインスパイアされています」と語っています。
  • 一方、溝口健二監督は、特にヨーロッパで評価が高いと言われており、「長回し」は、同時代のハリウッド映画等と決定的に異なるもので、1950年代末に次々と登場したフランスの新人映画監督ら(スタジオから飛び出し果敢にロケを行うなど「ヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)」と言われます)に同監督は絶大な支持があったそうです。また、小津安二郎監督の『東京物語』(1953年)は、イギリス映画雑誌『サイト・アンド・サウンド』で10年に1回行われる「史上最も偉大な映画」ランキング(監督部門)で、直近2012年で堂々1位です。180度システムなどの古典的ハリウッドの作法を壊したり、パン(カメラを左右に振る)、ティルト(上下に振る)もなく固定カメラにこだわったり、独自の手法を用いました。
  • 世界三大映画祭でも日本の作品も数多く評価されてきました。カンヌ国際映画祭(5月開催、1946年~)の最高賞「パルム・ドール」を『楢山節考』『万引き家族』などが、ベネチア国際映画祭(8月~9月開催、1932年~)の最高賞「金獅子賞」を『羅生門』、『HANA-BI』などが、ベルリン国際映画祭(2月開催、1951年~)の最高賞「金熊賞」を『千と千尋の神隠し』などが受賞してきました。あるいは、原則ハリウッド地域での上映作品に限定されるものの、歴史が古く影響力の大きな米国アカデミー賞(2月~3月開催、1929年~、アカデミー会員約6,000名の投票、映画部門のみ)の主要6部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞)では渡辺謙さん(『ラスト サムライ』、助演男優賞)、菊地凛子さん(『バベル』、助演女優賞)らが受賞してきました。

世界の映画興行収入は、213億ドル(2021年)を突破し、日本の市場規模は世界3位です。国内の映画興行収入は、2019年2,612億円(2000年の興収発表以降最高)、2020年1,433億円(最低)、2021年1619億円(ワースト2、前年比113%、19年比62%)となりました。その内訳は、邦画が1283億3900万円(前年比:117%、19年対比:90%)、洋画が335億5400万円(前年比:98.7%、19年比:28%)であり、邦画は2000年以降、第3位の好成績でした(東映株式会社売上:2021年3月期1,076億円(前年対24%減)、2022年3月期1,175億円(前年対9%増)、松竹株式会社売上:2021年2月期524億円(前年対46%減)、2022年2月期718億円(前年対37%増))。

京都は、国内において東京以外で唯一、映画の撮影所(製作・配給・興業を一貫して担う国内大手3社のうちの2社)が存在する都市であり、加えて、東京に比べてもロケ地が近いこと、さらには、特に時代劇の制作に関して深い知見と高い技術・ノウハウを有する中小企業、人材が撮影所周辺に多く存在することなどが強みであり、時代劇製作は往時に比べて少なくなったとは言え、京都での撮影ニーズは依然として高いものがあります。

これまで、ベトナムでコメディ映画を製作しハリウッド映画を上回るヒットを飛ばした日本人監督など、最初から他国でローカライズした映画でデビューを飾る若手監督も出てきているなどの近年の背景を踏まえ、「国境を超えた撮影誘致」を促進するため、2010年より若手映画監督等を育成するための映画制作ワークショップ「フィルムメーカーズラボ(外部リンク)」と映画企画コンペ「京都映画企画市(外部リンク)」を、2011年より著名な映画監督等が京都に集う機会ともなる「京都ヒストリカ国際映画祭(外部リンク)」を開催してまいりました。

  • ラボ(外部リンク)」は例年50~60カ国、200~300名の応募の中から約20名に絞って参加いただいており、2020年までに延べ257名が卒業し、劇場映画監督デビューが10名以上、短編映画祭グランプリ受賞者も多数輩出するとともに、卒業生が京都で映画を制作する事例も生まれています。
  • カンヌなどの市場タイプの映画祭では、吹き替えや字幕が未だ付いていない映画、パイロット版、脚本だけ、企画だけのものを、セリのように買い付けに来るような場がありますが、京都の「企画市(外部リンク)」は、国内唯一の映画企画コンペティションとして、最優秀企画には京都で撮影してパイロット版の制作を支援するものであり、2021年までに延べ340件の応募の中から11作品のパイロット版を制作するともに、過去の応募企画の中から公開映画に採用される事例も生まれてきています。
  • ヒストリカ(外部リンク)」は、「世界唯一の歴史映画祭」と銘打ち、東京、ベネチアなどの有名映画祭との連携や、著名監督の招聘などを通じて、映画業界における京都の知名度向上を図ってきました。2020年はコロナ対応として、シアター上映22本のほか、オンライン上映71本YouTube配信29本1,500名を超える来場、1,100本を超える購入がありました。2020年までに約18,800名が来場しています。

また、ロケ地情報発信のために2012年より「ロケスポット京都(外部リンク)」を開設し、500件以上のロケ地を紹介しています。地域からはロケ地として有名になることによる喧騒への懸念、製作側からは「とっておきのロケ地は秘密にしておきたい」など様々な思いがあり、センシティブな一面がありますので、こうした情報をきっかけに、市町村フィルムコミッション・ロケーションオフィス(京都市、宇治市、亀岡市、京丹波町、舞鶴市、京丹後市)等に問い合わせが繋がることが目的であり、これまで900件弱の撮影実績を挙げています。

こうした支援もあり、東映・松竹の各撮影所では、毎年、映画数本、TV数十本などの制作・スタジオ提供の実績を重ねています。

近年は、興業サイドから見れば、京都にはシネコンを含め15の映画上映施設がありますが、かつてテレビが映画に取って代わらんとしたように、動画配信、レコメンド制作に加え、ゲーム配信にも進出するNetflixやDAZN、アマゾンなどに追随する動きなど、インターネットの台頭が「興業」だけなく、「製作」「配給」を含めたサプライチェーン全体に影響を与えています。既にスマホ向けの縦型、ショートストーリーの映画も作られており、背景は映りにくい一方で、人物にフォーカスされ心情描写に向いているとの考察もあります。また、フィルムへの焼き付けという現像工程不要(陰影表現ではやや劣る)で、ハードディスクに保存するだけのデジタル映画撮影・保存技術により、低コストながら大きなヒットを得る作品も登場し、資金は多く集めやすいものの制作会社に著作権がない製作委員会方式だけでなく、クラウドファンディング等を活用した自主製作を行う新たな潮流も生まれ、その支援を行っています。

また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は映画製作に大きなダメージを与えましたが、それを逆手にハリウッドの最新方式を採り入れた取組も支援しています。

ゲームとXRのまち

世界のゲーム市場は1803億ドル(2021年予測、前年比1%増)、ゲームユーザー数は30億人(2021年予測、前年比5%増)と言われ、国内のゲーム市場は約2兆円(2020年、ソフトが3分の2)、ゲームユーザー数は家庭用・PC・スマホ合わせて5,000万人(2020年)を超えると言われています(国内家庭用ゲーム市場は、ソフト・ハード合わせて3,674億円(2020年、前年比113%)、3,614億円(2021年、前年比98%))。米国エピックゲームズの「フォートナイト」ユーザーは4億人を超えるなど巨大ソフトが増加している一方、ゲームの高性能化で1本当たりの開発費が10倍の数十億円に及ぶようになり、グーグルなどIT大手がクラウドゲームに参入し、10年前は市場の過半を占めた家庭用ゲーム機のシェアは2割を割り込んでいると言われています(任天堂の2022年3月期決算は売上約1.7億円と微減。巣ごもり需要やスイッチ販売はやや落ち着いてきたものの、「ニンテンドースイッチスポーツ」はじめ今後もソフトの品揃えは充実の見込み)。

 

NINTENDOの存在によって、京都は世界中のゲームクリエイターにとっても憧れのまちであるものの、スマートフォンの登場以降、小規模・低予算で開発されながら斬新なヒット作が多く登場していたインディーゲーム市場においては、欧米に先行されていました。そこで、国内外のインディーゲーム企業・クリエイターを発掘・育成し、日本にその市場を創出することを目的に、2014年からゲーム展示会イベント「BitSummit(外部リンク)」を産学公連携で開催してまいりました。2021年までに延900チーム以上が出展、6万人以上が来場、460万以上のネット視聴があり、イベントでの受賞チームなどは、取引拡大にも効果を発揮しています。2021年度からは大手出版社もゲームクリエイター支援を目指して参加され、2022年度は出展約90チーム、来場9,300人、ネット視聴は過去最大の136万人を記録しました。そして、この間、米国STEAMなどインディーゲーム等を投稿できるゲーム配信プラットフォームの登場なども追い風となり、京都のゲーム企業数は、2012年の15社(経済センサス)から、2019年には60社(独自調査)を上回っています。

  • その制作手法については、インディーゲームに限らず、日本、京都の場合は、ゲームのコアとなる「遊びの仕組み」のアイデアが生まれた時点で、細かい設計や全体計画が確定する前に作り始め、「世界観」や「ストーリー」は後付けになることも多いと言います。
  • 近年は、プレイヤーやゲームコミュニティ主導で、世界観をファンとともに作るケースや、オンラインゲームで難しい課題をクリアした別々の国に住む男女が国際結婚したケースも生まれています。
  • さらに、ゲーム、アニメ、マンガでは大手企業が自社のIP(キャラクター)を開放し、新しいゲーム企画を募る(外部リンク)など、その有効活用を進めるケースも増えています

また、おもちゃの入った石鹸で子どもの手洗い促進に成功する海外事例も生まれていますが、社会課題の解決が大きなテーマとなっている昨今、ゲームの普遍的要素(即時性、自己統制と称賛演出、目標設定と成長可視化など)を活かしたゲーミフィケーションの重要性も一層高まっています。

アニメのまち

日本のアニメには、これまで何度か転換点がありました。

  • 大正時代-- 映画CM
    世界初のアニメーションは、1906年、アメリカのJ・S・ブラックトンが、黒板上に絵を描いて作った3分間の作品『ゆかいな百面相』と言われます。それ以降、海外のアニメーションが日本にも輸入され、1917年には国産アニメーションが開花しました。観客の目をひくため動かないものを動かしてみせるアニメーションに注目した映画会社からのスカウトで下川凹天、幸内純一らが作品を発表し、北山清太郎は日活に作品を売り込みました。さらに映画業界では、関東大震災をきっかけに京都への映画撮影所移転が進むとともに、復興の一環でアニメーションへの参入も進み、特に斬新で印象に残る表現を求めて映画CMでの活用が盛んに行われました。アメリカのディズニーがセルアニメの利点を活かして分業体制を採り入れ発展する一方、日本ではセルが自由に使えない中で工夫を凝らし、多くの作家性のある短編作品を生み出したのです。
  • 戦中・戦後-- テレビCM
    日本アニメーションの父」と称される政岡憲三は、当時の京都市立美術工芸学校等を卒業し、京都のマキノ映画を経てスタジオを設立し、セルの多用、サイレントが主流だった中でトーキーの積極導入といった「制作の近代化」を図りました。戦中や冷戦時代には、戦争もしくは民主主義のプロパガンダとしての作品が、日本を含め各国で作られました。1950年に国内でも公開されたディズニーの長編アニメ『白雪姫』が、商業的成功を知らしめたことが契機となり、政岡退社後のスタジオが事実上の母体となって、1956年、「東洋のディズニー」とも形容された東映動画(現東映アニメーション)の設立に繋がっていきました。東映(1951年設立)初代社長の大川博は、無国籍性故に輸出に向いている点、映画観客の子ども層への拡大に繋がる点、テレビCM動画への進出に繋がる点に着目したと言われます。この頃、映画に加えてテレビという新メディアが登場し、初の長編アニメ『白蛇伝』を1958年に公開しましたが、数百人の長編制作のスタッフの雇用を支えるため、大量のCMを制作したのです。
  • 第1次ブーム(1960年代半ば)
    こうしたテレビCMアニメで育ったアニメーターたちが『鉄腕アトム』(1963年~)以後のテレビアニメ時代を支えることになります。
    漫画で稼いだ元手でアニメ制作に進むと公言していた手塚治虫率いる虫プロダクションは、ディズニーのような大仰な機材がない中で、フルアニメーションではなくリミテッドアニメーション(一部のみを動かす)、24コマでなく12コマ、同じ動画を繰り返し使う(バンクシステム)などの手法により『鉄腕アトム』を制作しました。毎週1回、1話30分(心理描写を盛り込む)、連続放送というスタイルでの量産を実現し、アニメの観客層が拡大しました。また、「主題歌」や、人気漫画のテレビアニメ化など、現在では当たり前になっているビジネスも興ることとなりました。
    そして、他の多くのスタジオ、すなわち、『鉄人28号』などを手掛けたTCJ、後に『ルパン三世』を手掛ける東京ムービー、後に『タイムボカン』シリーズを手掛けるタツノコプロ(吉田豊治(久里一平)ら)らがテレビアニメに参入しました。アメリカのホームコメディドラマ『奥様は魔女』が女の子の視聴率が高く、家庭でのチャンネル争いで女の子が強いことが分かっていた東映動画は、『魔法使いサリー』から始まり『プリキュア』に繋がる魔法少女ものジャンルを構築しました。一方で、東映動画に入社した高畑勲宮崎駿は組合活動で出会い、時間をかけてじっくり長編アニメを作るその理想主義が、テレビアニメ主体に効率的な制作を目指すようになった経営側と合わなくなり、共に退社しました。こうして東映動画の長編アニメのは、結果的にスタジオジブリに引き継がれたのです。
    数百人体制に拡大した虫プロは、徐々に手塚漫画以外の原作のアニメ化を始め、『巨人の星』(東京ムービー)などのスポ根・劇画ブームの中で、梶原一騎原作、ちばてつや作画による『あしたのジョー』を手掛けましたが、やがて倒産、1977年に再興されました。
  • 2次ブーム(1970年代半ばから80年代半ば)
    『ルパン三世』は東京ムービー製作ですが、作画など実質的な制作を担ったAプロダクション(『ど根性ガエル』や、シンエイ動画となってからは『ドラえもん』など)には、東映動画移籍組の高畑勲宮崎駿がいました。また、同じく東京ムービーのアニメ制作を担ったスタジオゼロは、石ノ森章太郎、藤子不二雄、赤塚不二夫など、手塚治虫が一時期住んでいたトキワ荘に集まった漫画家達が設立しました。
    さらに、TCJから独立したエイケンで、現在まで最長放送期間を誇る『サザエさん』も始まり(1969年~)、高畑勲宮崎駿が移籍した日本アニメーションが『ハイジ』を手掛け、ごく普通の登場人物の日常が描かれました。宮﨑はこの作品で「レイアウト」を工程として本格的に導入しました。
    そして、東映動画は、特撮『ウルトラマンシリーズ』やイギリス『サンダーバード』の影響により、『マジンガーZ』から始まるSF・巨大ロボットものを構築し、やがて『宇宙戦艦ヤマト』(讀賣テレビ)『機動戦士ガンダム』(日本サンライズ。虫プロから独立した創映社が母体)、『銀河鉄道999』(東映動画)に繋がっていきます。特に『ガンダム』は、富野由悠季(虫プロ出身)が自身が描く世界像を、抽象化に優れたアニメを選んで映画を作ったものと言われ、作り手としての監督の独創性に注目が集まる先駆けとなりました。さらに『ヤマト』に魅了されたという庵野秀明など、アニメファンがアニメを作る側になり、「自分たちが本当に見たいものを自分たちが作る」という野望と意欲の結集として『超時空要塞マクロス』(タツノコプロ)も生まれました。こうして、アニメの観客にヤングアダルト層が加わりました。
    さらに、宮崎駿監督は『風の谷のナウシカ』で、1000年後の地球という、実写では描けない想像しがたい世界を構築し、アニメファン以外にも作家性で大きく注目されることになり、アニメが子どもから若者向けの大衆文化として認識されるようになりました。
    80年代は、現在の『鬼滅の刃』に至る、『週刊少年ジャンプ』連載漫画のテレビアニメ化などキッズ向け作品も進みましたが、オリジナルビデオアニメの台頭による先鋭的、冒険的な作品も多く生まれましたし、劇場用アニメAKIRAは、子ども向けでしかなかった欧米のアニメに対し、対極的なインパクトを残しました。
    しかし、任天堂ゲームの台頭なども背景に、アニメブームは終焉を迎えます。
  • 3次ブーム(1990年代半ばから2000年代半ば)
    1980年代に8ミリの普及で自主制作アニメーションが盛んになり、新しいタイプの作り手が生まれてきました。庵野秀明の『新世紀エヴァンゲリオン』(GAINAX)が明確に中高生以上のアニメファン向けに、独自の世界観(個人の運命が世界全体の運命に直結する「セカイ系」など) で社会現象を引き起こすとともに、テレビ放送後のビデオパッケージ販売を見込んだ上で製作を行うビジネスモデルも構築しました。DVDは、必然的に同時収録する必要があるDVDが、作家の個人史をまとめるのに役立ちました。1990年代に『イカ天』『エイ天』がバンドマンや映像作家の登竜門となったように、2000年に放送開始されたNHK『デジタル・スタジアム』など若手個人映像作家のコンペ番組の存在、そして、『エヴァ』の再放送が深夜枠を使って成功したことがきっかけで、深夜アニメが大量製作されはじめました。この際、1クールという短いシリーズでの製作が一般化し、大ヒットしたとしても得られる利益が少なくなるため、リスク分散として製作委員会方式が本格的に定着しました。
    また、宮崎駿監督の『もののけ姫』(1997年)が成功し、海外でanimeという語が一般化して、アニメが日本発の大衆文化として認識されました。
  • 第4次ブーム(2010年代半ばから)
    2010年代に入って、世界的に大きな地殻変動が起こっています。
    まず、アニメーション制作用のソフトウェアが安価となり、高価なフィルム・プリントも不要となりました。その結果、アカデミー賞に長編アニメーション部門ができたのが2000年であるように、20世紀においてはアメリカ、日本以外では「例外」であった「長編アニメーション」が普及し、1995年の『トイ・ストーリー』(ピクサー)の大ヒットを皮切りに、製作品数百億円の「大規模作品」はCGを主流に作られ(ディズニーは2004年にセル・アニメーション部門を閉鎖)、数億円の「中規模作品」や数千万円までの「小規模作品」にも、ヨーロッパの映画祭を中心に活躍してきた短編巨匠たち、グラフィック・ノベルやドキュメンタリーなどの別分野の専門家、個人ベースの参入が相次いでいます(ヨーロッパには助成制度あり)。一方、さらに動画サイトの登場で作品発表コストが極限まで下がり、SNSによりコミュニティを通じて世界的な共有を可能とするような時代になったことで、短編映画祭に代わり、Vimeoなどの投稿サイトで「短編アニメーション」に新たな作家が次々と登場してきました。学生時代に自主制作した短編アニメがインターネットで人気を得て、卒業後はスタジオコロリドを拠点に『ペンギン・ハイウェイ』などの制作を続けている石田祐康など、専門学校より在籍期間が長い大学でアニメーションを学ぶ学生の中から、在学中に制作した短編アニメが注目されプロへの足掛かりを得る作家も増えてきました。
    こうして、キャラクターの生命感の乏しさが弱点だと言われてきCGが主流の時代になる中で、新たに生まれてきたのは、CG作品であるなしに拘わらず、作品を一方的に受け止めるものではなく、見ているうちに視点が移ろい視聴者自身の記憶や認識を探らせる、いわば「アート」に近い作品群です。中でも『アナと雪の女王』(2013年)は、できる限りファジーでたくさんの断面を見せることで、できる限り様々な人々がそこに自分自身を見いだせる環境を作ったものと言えます。アニメではありませんが、ソフトを使うことで歌わせるおとができる『初音ミク』も、ユーザーは1対1の関係を築き上げるものです。2016年に公開された『この世界の片隅に』(片淵須直監督)が中心に据えるのは主人公の視点であるのに対し、同じ年の『君の名は。』(新海誠監督)、『映画 聲の形』(京都アニメーション)は、様々な人の視点に憑依します。新海誠監督は、短編アニメ『ほしのこえ』では、実写以上ともいえる圧倒的な風景描写を、パソコンとソフトウェアでほぼ単独で制作しました。1981年創業で、当初は主にセルの着彩工程を下請けしてきた京都アニメーションは、地方故に人材育成体制など労働環境の充実を図り、デジタル制作のワークフローの共有・統一化にも努めてきました。
    1960年から始まる世界最古にして最大の「アヌシー国際アニメーション映画祭」は、1985年に長編部門を、1986年に国際見本市を併設するなど、作家性(実験性)と商業性ともにカバーしてきました。作家性が、作家という「私」が見た世界の内側、見慣れないリアリティを表現するものだとすると、なるべく多くの人に楽しんでもらうことが重要とされる商業性では、それらが排除されてきました。しかし、2010年代に入って、「私」ではなく「私たち」という形態をとることで、商業性の中にもパーソナルな世界、異質なリアリティを表現する例が増えてきたのです。それは、実写ではなく抽象的に表現できるからこそ、自分自身のこととして受け止めさせやすい、アニメの真骨頂なのかもしれません。

2019年の国内アニメ産業市場は3,017億円と過去最高を記録(外部リンク)し、2011年以降、制作元請を中心に制作本数の増加や配信料などライセンス収入の増加に支えられ9年連続で拡大していたが、2020年はコロナ禍による制作スケジュールの遅延や制作見合わせの影響などが響き市場規模は2633億円に減少し、2021年はさらに放映タイトル数も減少したことで仕事量も減少し2495億8200万円へと減少しました。キラーIPなど従来からの「日本アニメ」ブランドは一定健在で、近年は日本のアニメ制作会社が、海外の動画プラットフォーマーと取引するケースも増加していますが、中国を中心に海外の制作会社の制作力・供給力が向上する中で、従前から構造的課題を抱えています。

1つは、アニメも、映画やゲームと同様に、製作本数に対するヒット率は高いわけではありません。従って、現在主流を占める製作委員会方式は、受注額が逼迫した額だとの指摘もあるかもしれませんが、リスクをアニメ制作会社の代わりに製作委員会が負うというセーフティネットとしての機能も供えており、現在のサプライチェーンを変えることは簡単なことではありません。

2つ目は、生産性の低さです。1本の作品の制作予算は、日本もアジアもさほど差がないのですが、動画や原画の描写スピードが遅いと言われています。その理由はアニメを好む故に丁寧過ぎること、しっかり訓練を受けないままに独立してしまい、ますます訓練の機会を逸してしまうことなどが指摘されています。

3つ目は、特に3DCGなどのデジタル技術の担い手の層の薄さです。その分野では中国等が先行し、日本企業が技術力が足らずに下請けに入れないケースすら生じていると言います。

こうした状況から、これまで東京一極集中であったアニメ企業が、人材獲得を図るため、動画や原画等の作画部門を地方に拡大する動きが活発化し、コンテンツ系大学の多い京都にも近年5、6社が新たにスタジオを構えられました。

そこで本府では、現在のセーフティネットを活かしつつも、アニメーター(動画マン、原画マン)の実力向上を図るため、アニメ企業どうし、さらには産学公連携によるワークショップ「アニメーターズキャンプ」を開始し、初年度の2020年度は、6企業が横断的に指導役になって、学生がデザインしたアニメキャラクターを用いて、6名のアニメーターが一連のアニメ制作全般を体験し一本のフルアニメを制作しました。2021年度は、そこで、既存のサプライチェーンに連なる市場とは異なる、全く新しいアニメの市場に関するアイデアソンを行いました。

クロスメディア・コンテンツのまち

重要なのは「感動」であり、日常のストレス等を発散できること(仮に多くの利用があれば一人当たりの満足度を落とさないこと)です。そこには、企画側の「本気度」が試されるわけで、経年劣化しにくい最高級のブランドづくりを目指す必要があります(仮にリノベーションであっても、それがリノベーションだと気づかないくらい新しい価値を創造できるかどうかです)。そのためには、企画においては「目的」を徹底的に考え、「必要条件(戦略)」を絞り込んで上で、類似例調査を含めた「アイデア(戦術)」の模索をする必要があります。特に、マーケティングにおいては自分自身がその市場に身を置くこと、また、たとえ近年のコロナ等の厳しい情勢の中でも「それにアクセスすることを肯定する大義名分づくり」も重要でしょう。

京都には、以上の、映画・映像、ゲーム・XR、アニメなどのコンテンツ企業、彼らがこれまで蓄積してきた深いノウハウ、そして約9,000名のコンテンツ学部学生といった人材が存在しています。

コンテンツ企業の事業支援・異分野展開や学生の地元就職等を支援するため、2014年に「KCC(京都クロスメディアクリエイティブセンター)」、2016年にはその後継の「KCROP(京都クロスメディア推進拠点)(外部リンク)」を開設・運営してまいりました。KCROPにおいては、2020年度まで370以上の雇用を創出し、延580以上の企業の伴走支援を行ってまいりました。

しかし、ネット配信をはじめコロナで加速する構造転換に伴う従来型コンテンツ市場の飽和、制作スピード(生産性)や3DCG技術に優れる新興国等との競争激化など、状況は厳しさを増しています。このように、世界を視野に入れた付加価値の高いコンテンツを生み出せる産業への転換が急務となっており、京都が蓄積してきたクリエイティブな精神・ノウハウと、最新技術の融合による「クロスメディア・イノベーション」を生み出せる仕組みづくり(蓄積のアーカイブや人材育成)が今後の課題です。

メタバース-- パーソナライズされたバーチャル世界

ロボットやIoT、AR・MR等を駆使して「リアルの世界」の高度化・スマート化を主目的にする「デジタルツイン/ミラーワールド(サイバー・フィジカルシステム)」に対し、VR等を駆使して「バーチャルの世界」の、よりパーソナライズされた心地良さを追求するのが「メタバース」です。メタバース(仮想空間)関連市場は、2020年の約5兆5,000億円から2028年には約95兆円に伸びると言われていますし、日本デジタル空間経済連盟や日本メタバース協会(外部リンク)メタバース推進協議会(外部リンク)など団体も次々と生まれていますが、「セカンドライフ」が流行した2006年頃と、現在のブームとの違いは何でしょうか?

1つは、デバイスがガラケーからスマートフォンへと進化し、インターネット環境が進化したことで、市場の成熟度合いが異なります。全盛期の「セカンドライフ」のユーザー数が約100万人であるのに対し、「フォートナイト」のそれは2021年で3億5,000万人です。ゲームエンジンunreal engineも含め幅広いラインナップで攻勢をしかけるepic games社のほか、アバターを作って仮想空間で交流できる「メタバースSNS」により、無料アプリの1日のダウンロード数で首位に躍り出たゼリー社、仮想空間内で不動産売買できる虹宇宙社、手軽にゲームを作成してユーザー同士で交流ができる「ゲーム版ユーチューブ」リワールド社やVR端末の出荷を伸ばしているピコ・テクノロジー社など中国勢も動きが活発で、テンセントやバイドゥなどネット大手による囲い込みも進んでいます。

  • アバター:コンピュータグラフィックスで作成した自分の分身アバターで仮想空間に参加。ゼペットなど。写真からアバターを自動生成するサービス、そのアバターをNFTで承認するサービスも生まれてきています。かつての「たまごっち」のように、アバターを愛おしく思い、アバターのための買い物も増えましょう。
  • 仮想空間生成:リコメンド広告や、音声AI・自動対話AIなど様々な技術を結集したメタバース空間プラットフォーム。有名人との100万人とのデュエット、有名講師による100万人相手の授業、大規模な電波伝送の再現実証など「仮想」空間ならではの取組はもちろん、ショッピングでは、アバターを使っての買い物やアバターのための買い物、不動産では、有名ショップ・有名人の横の土地をほしがるファンがおり(横の土地が高く売れる。有名ショップ・有名人を誘致してくることが重要)、観光では、お稽古体験の予習、歴史上の一定時間を味わうツアーなども人気を博しそうです。メタ(旧フェイスブック)Horizon Workrooms 、Decentralandなど様々なプラットフォームが登場していますが、メガプラットフォームに選ばれる(組める)ようトガッた特徴を有しておくことがビジネス戦略上重要だと言われています。。

2つ目は、VR(ゴーグルでCGを体験する「仮想現実」)、AR(ディスプレイで現実世界にCGを重ね合わす「拡張現実」)、MR(コンピュータに現実世界の情報を取り込み、現実世界との整合性を高めた高度なAR「拡張現実」)等の技術の進化です。

  • スマートグラス:装着者の視界を遠隔地のPCに映し出し、そこからの指示で装着者の視界に2次元デジタル情報を表示(アノテーション)させる。
  • ARグラス(MRグラス):装着者の周囲の壁や床などをカメラセンサで認識し、装着者の視界上の現実世界に正確に3Dホログラムで情報を表示するマイクロソフトHoloLens2、マジックリープなど。自動車整備時に現実の自動車に重ね合わせて手順を表示したり、机の上にバーチャルのピアノ鍵盤を表示させ、指で押してピアノを弾くことが可能となる。また、日本から海外工場の生産ラインの立ち上げに用いる例(外部リンク)も生まれている。
  • VRヘッドセット:メタ(元オキュラス)クエスト(手のトラッキングもスムース)、HTC VIVEなど
  • ホログラフ:人間を「3Dイメージング(キャプチャ)」し、その情報を「リアルタイム圧縮」して伝送し、ヘッドセット装着ではなく、裸眼で立体視ができる「3Dディスプレイ」によって、遠隔地どうしでもまるで目の前にいるかのように面会を可能とする手段。マイクロソフトholoportation、グーグルProject Starlineなど

3点目として、ブロックチェーン技術から生まれたNFTの登場です。

  • ブロックチェーン:過去の取引を全て引き継ぐデータ構造のデジタル帳簿で世界中に同じ帳簿がコピーされており、書き込みには分散する全てのコンピュータの合意が必要で、改ざんされたとしても多数決で自動修正される技術。こうしたマイニングで電力を大量消費しているので、低電力化等も重要です。
  • 暗号資産(仮想通貨):銀行システム(為替)を活用した従来の電子マネーと異なり、ブロックチェーン技術を用いて銀行システムを使わずにユーザー間で直接「経済価値」をやりとりできるようにしたデジタル通貨。ビットコイン(個人情報を含めて管理している組織・企業も不要(無い))、イーサリアム、CBDC、Diemなど
  • NFT(Non-Fungible Token/非代替性仮想通貨。分割できず同じものが存在しない仮想通貨):ブロックチェーン技術を用いて、誰がいつデータを作成したか、誰の手に渡ったのかといったオリジナル性を証明する技術で、「所有権」をやりとりするもの(よって「経済価値」は変化するし、商用利用は一般的に契約上許されていない)。転売時に価格の一部を創作者に自動振込み(ロイヤリティ)するなどのスマートコントラスト(電子化された高度な契約)機能を有するイーサリアム(単位はETH)が多用されています。イーサリアムブロックチェーンの規格として、ERC20(仮想通貨の発行管理)、ERC721(NFTの発行管理)、ERC1155(両社を合体させたもの)などの規格が定められています。

既に出品、売買の仕組みが形成されています。セキュリティはログイン、確認コードなどによる2段階認証が一般的です。仮想通貨の「価格」、NFTの「ガス代」は、常に変動しており、取引が盛んになるほど高騰し、特にイーサリアムのそれらが上昇しているため、Enjin Coin、Chiliz、Polygon、FlowなどNFT関連仮想通貨が次々と生まれてきています。

  • 仮想通貨取引所(インターネット上の取引サイト): NFTの売買に必要となる仮想通貨(イーサリアムの「価格」は45万円程度(2021年末頃))を入手するサイトであり、取引所とユーザーが売買を行う「販売所」方式(売買価格を取引所が決定するため手数料は無し)、ユーザーどうしで売買する「取引所」方式(手数料あり)がある。Coincheck、DMM Bitcoin、bitFlyerなど。
  • ウォレット(ウェブブラウザで、あるいはスマホにダウンロードするソフトウェア):仮想通貨取引所で購入した仮想通貨を出庫するための「財布」。MetaMaskなど。
  • NFTマーケットプレイス(インターネット上の取引サイト):「出品者・転売者」はNFTを発行(NFTマーケットプレイスにログインし、作品をJPEGやPNG、MP4などの形式でアップロードするとともに、振込先銀行口座を登録)し、「購入者」は仮想通貨を用意(NFTマーケットプレイスでログインし、ウォレットに接続するなどの手順を踏む)し、「取引成立」時(定額販売やオークション)には双方がガス代(手数料。認証のためのマイニング(採掘)作業を行う第三者(マイナー)への報酬、スマートコントラストの運用手数料などの総称)を払う。OpenSea、Rarible、Mintbase、NiftyGateway、AdambyGMO(日本)、NFTStudo(日本)、nanakusa(日本)、LINEなど既に200以上が存在。NFT平均販売価格は2022年3月に過去最高の7911ドルであったものの、4月には仮想通貨の値下がりに引きずられて1000ドルを割るケースも生じるなど、世界の投機は冷めつつあり、投機から実用化への段階に進みつつある。
  • 市場データ提供サイト:DappRadar、CoinMarketCap、CryptSlam、NonFungibleなど

こうした技術的特徴を有するNFTは、次のようなパラダイムシフトの可能性を有しています。

  • 希少性:リアルの創作と同様に、作者の人気が上がるほどに希少価値が上がって高額で売買される。
  • 追求性:リアルの創作と異なり、贋作や劣化がなく鑑定の必要すらない上、創作者にとって最初の販売時だけでなく転売のたびに収入を得ることが可能となる(EUで既にアートの世界で定められている「追求権」)。
  • 発展性:映画やゲーム、アニメなどの歴史的な意味を記録するなど作品の文脈を伝えて付加価値を高めることが可能となる。また、数十年、数百年先を見通した作品造りも重要となり、別の創作者が手を加えていくこと、その記録を刻んでいくことも可能となる。

アートやゲームのほか、既にダイヤモンドの流通等でも利用されています。リアルの世界との結合によって希少性(そこに行かないともらえない)を活かした新たなサービスや、地域コミュニティにとどまっていたものを発展性(デジタル故に世界展開しやすい)を活かして大きく展開する取組など、可能性が拡大しています。

  • アート
    創作者からの正しい手続を経て獲得したという自覚が持てること、購入価格より高値で転売できる可能性があることから、デジタル創作物の取引での活用が始まっています。
    2017年に登場した最初のNFT作品、コンピュータが自動生成した24ピクセル×24ピクセルの小さな顔画像(Larba Labs社(米国))の中には、約8億円で取引されるものも生まれました。
    猫のキャラクターを集めて繁殖させるゲーム(Axiom Zen社)で、珍しい模様の猫には約2,000万円もの高額で取引されるケースも生まれました。
    1日1作品制作し続けて生まれた5,000枚の絵を貼り合わせたデジタルアート『Everydays:The First 5,000 Days』(ピープル氏(米国))は老舗オークション・クリスティーズにおいて約75億円で落札されました。
    セクシー女優のデジタル写真が、開封するまで中身の分からない福袋的手法や売れ残りは焼却(廃棄)されるというレア感を生む巧みな工夫によって、約3,000枚が約1億6,600万円で完売しました。
    ライブ・パフォーマンスでVR作品を作り上げるせきぐちあいみ氏の作品が1,300万円の高値で販売されました。
    その他、ツイッター共同創業者の初ツイートが3億円以上(2021年3月時点。しかし2022年4月の競売では100万円未満に下落)、小学生のドット絵が約80万円で取引されています。
  • アニメ・マンガ
    セル画やマンガのワンシーンをNFT化して販売する「楽座」も生まれています。
  • ゲーム
    オンラインゲームの進展により加速しそうです。
    カードをお互いにゲームの場に出して戦うカードゲームでは、強いカードを持っている方が有利なので、カードの売買が行われますが、この取引をNFTが支え始めています(「Crypto Spells」「Axie Infinity」「My Crypto Heroes」「Sprare」など)。
    セカンドライフの流れを汲むコミュニケーションゲームでも、仮想空間の土地や建物、展示絵画などに活用される可能性があります。
    今後、eスポーツのように強いゲーマーになって賞金を稼ぐスタイル以外に、ゲームのアイテムを転売して稼ぐゲーマーも登場してきそうです。
  • トレカ
    日本ではアイドルグッズが、米国ではプロスポーツが人気です。
  • メタバース
    アバター用のスニーカーやドレス、メタバース内での土地取引のNFT化も進んでいます。
  • その他
    NFTをイベント会場で配布できる、音楽に乗せて配布できる、(仮ならば)NFT Walletなしでも可能(外部リンク)」「NFTにより無担保でメタバース空間のアバターや不動産を貸す」「業界団体の資格証明にNFTを用いる(外部リンク)」など、次々と新たな取組が生まれてきています。

4点目として、NFTと同じくブロックチェーン技術から生まれたDAO(Decentralized Autonomous Organization/分散型自律組織)の注目が高まっていることです。

  • 平等:中央集権的な管理者がおらず参加者全員が平等であり、かつ誰でも自由に活動に参加できる(強力なクリエイターにより創造性ある製品を生み出すケースに比べ、創造性で劣る場合ががある)。
  • 透明:運営ルールや決まりは全てスマートコントラクトに書き込まれているなど、全てがオープンになっている透明性の高い組織体系である(未整備であることもある)。
  • 調達:会社の株式ではなく、参加者(創業者(経営者)、参加者(従業員)、投資家、顧客)一人ひとりが投票を行うことができるガバナンストークンによって素早く調達が可能となる(法的枠組みが未整備である)。

人気の組織としては、MakerDAO、BitDAO、Compound、BitCoin等が挙げられます。

5点目として、消費者分類で言うところのイノベーターやアーリーアダプターが好んで使っている時流がありましょう。ウクライナ侵攻でも、リアルの金融機能停止に備え、寄付や富裕層の資金堆肥として仮想通貨の取引が増加し、韓国では、デジタルリテラシーが高い若者を取り込むために、AIのディープフェイクを使っての大統領選選挙演説なども行われています。

究極は「社会(人間)拡張」と「別世界」

以上のことから現時点では次のように捉えています。

  • 「メタバース(3Dインターネット)」の本質は「時空」を超えること:共有仮想空間(臨場感)、アバター(没入感)、オブジェクト創造(ビジネス可能)という特長を活かして実現すべきは、過去の街並みや未来のたてものなどの「時」、遠隔地への移動や超巨大な建物などの「空」(例:ニュースは文字情報からメタバース記者会見に)
  • 「メタバース(バーチャルの高度化)×デジタルツイン(リアルの高度化)」の本質は「人間拡張」:IoA(能力のインターネット)やJackin(他人や物への憑依)など「人間拡張」(例:「atama+(外部リンク)」などのAI教材などエドテックが、途上国の貧困問題などの社会課題解決に繋がるものが登場しています。あるいは「自分の声」の大量データを学習したAIが、スマホ等で打った文章を「自分の声」に変換して読み上げるサービスが、声優の収録なしにアニメが作れたり、障がいで声が出なくなった方も「声」を出せたり、素晴らしい活用がなされています。)
  • 「Web3.0(ブロックチェーンなどのP2P技術に基づく新しいインターネット)」の本質は「別世界(第二の自分)」を生きること:オープン(拡張自由)、NFT(流通自由)という特長を活かして現実世界ではできないことを実現できる世界(例:障害をお持ちの方も運動ができる障がい者スタジアム)

京都においては、これまでからゲーム分野を中心にAR、VR、MRなどのXR技術の活用を進めてきました。産業分野への拡大を図るため、2020年には、XR人材の養成スクール「VRIA(外部リンク)」の開講に合わせて、用途開発ワークショップ「xR KYOTO」を開始し、コロナ禍で京都での「コト消費」が不可能になる中、VRのみ高価な清水焼の販売に成功する事例などを生み出してきました。

2022年度からは、動きを本格化させ、メタバース時代のトラスト認証モデルを構築するほか、ユースケースのモデル事例を生みだそうと考えています。

  • アバターロボットによる障がい者の方々の社会参画機会を拡大する実証実験(アバターロボットによる社会拡張
  • AIアバターによる現実とは別の人間関係をつなぐ実証実験(AIアバターによる別世界拡張
  • 簡易NFTによる新ビジネスの実証実験(NFTモデル導入によるビジネス拡張
  • NFTによるアーティスト作品の販売拡大(NFTによるアート販売拡張

創造性の伝承とイノベーションを目指す「Media-park」

日本・京都は、これまで、映画、ゲーム、アニメなどの分野で世界に影響を与え続けてきました。一方で、最新テクノロジーの活用に関しては、新興国の台頭著しい状況にもあります。そこで、日本・京都に蓄積される「創造性の知恵(技術・ノウハウ)」の伝承と、それらと最新テクノロジーとの融合による次代のコンテンツづくりを推進する「Media-park」の形成を目指してまいります。

施策例

地域

南部

京都市・中部

北部

お問い合わせ

商工労働観光部ものづくり振興課

京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ファックス:075-414-4842

monozukuri@pref.kyoto.lg.jp