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知の京都- 亀井謙一郎さん(京都大学高等研究院(KUIAS)物質ー細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)准教授)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

知の京都 京都府の産業支援情報

マイクロ・ナノ工学を駆使した「生体」再現

(掲載日:平成30年8月17日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利)

亀井謙一郎さん

 京都大学高等研究院(KUIAS)物質-細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)准教授、工学博士の亀井謙一郎さんにお話をおうかがいしました。

リバース・バイオ・エンジニアリング

―先生はどんな研究をなさっているのですか?

亀井) マイクロ・ナノ工学を駆使して「生体」の再現を目指しています。私のバックグラウンドは工学で、ものづくりです。中でもマイクロスケール、ナノスケールのものづくりを得意としています。こういう微細加工は、普通はPC、スマホをはじめとする半導体分野等に用いられるわけですが、我々はこれを「生体」に向けているのです。

―どうして、生体の再現に微細加工を用いるのですか?

亀井) 細胞の大きさは10um~30umですが、細胞の構成因子等がナノ単位、ミクロン単位の大きさだからです。例えばガンプラを作るという場合、普通は「設計図」があって、それを基に「製造」して、ガンプラという「モノ」ができますね。

―おお、なつかしい!先生っておいくつですか?

亀井) 今、43歳です。

―ほぼ同世代ですよ!

亀井) そうですか(笑)。ところが、そうした設計図が失われ、ガンプラという「モノ」しか残っていないという場合、それを「分解」して、「図面」を起こすという逆行工学、リバースエンジニアリングの手法を用いることになりましょう。私たちの目の前に、様々な「生物」が現にいて、遺伝子情報なんかも分かってきています。しかし、それがどうやって組み立てられているのかというのは、よく分かってないわけです。そこで、リバース「バイオ」エンジニアリングの手法を採り入れようということなのです。その1つが「Body on a Chip(ボディ・オン・チップ)」です。

複数の組織を一つのデバイス内で連結するBody on a Chip(ボディ・オン・チップ)

―それは何ですか?

亀井) ヒトや実験動物を用いることなく「生体外ヒトモデル」を創出する画期的な技術でして、このデバイスを用いて、これまで難しかった抗がん剤の心臓における副作用の生体外における再現に、世界で初めて成功しました。

―生体外ヒトモデル?

亀井) 新しい医薬品開発には多くの困難、巨額の費用と長い時間が必要です。一つの新しい薬を開発するためには数百億円というお金と、10年以上の月日がかかるものです。それほどの費用と時間をかけて開発を進めても、最終段階の「臨床試験」で予期せぬ効果が現れ、試験が中止に追い込まれるなどということも頻繁に起こります。

―そうですね。

亀井) また、そうした薬効・副作用などを実際のヒトで評価する「臨床試験」の前に行う、薬効・毒性を詳細に検討する「前臨床試験」では、実験動物を用いた薬効評価・毒性評価試験などが行われていますが、実験動物を使うことが動物愛護・倫理的な観点からも問題となっています。今や日本や韓国以外では難しいです。

―そうなのですね。

亀井) 何より、ヒトと異なる反応を示すことが多く、その後の臨床試験における薬効や毒性の予測を難しくしています。そのため、ヒトの整理化学反応を生体外で再現する新しい試験法の開発が早急に求められています。そこで、注目されるモデルの一つが「Organ on a Chip(組織チップ)」です。わずか数センチメートルの大きさのチップ内に、肺や肝臓などの組織の構造を模倣してモデル化するとても斬新なアプローチです。しかし、このOrgan on a Chipも単一臓器モデルですので、例えば、組織が放出する物質が血管を通して他の臓器に与える影響などは再現できません。

―なるほど。

亀井) そこで、複数の組織を一つのデバイス内で連結する新しい技術が、この「Body on a Chip(ボディ・オン・チップ)」です。ヒトの組織・循環器などをわずか数センチメートルの大きさのデバイス内に搭載し、ヒトにおける生理反応を模倣したデバイスなのです。

マイクロ・ナノ工学を駆使したBody on a Chip

―とても小さいですね。これって大学で作られたのですか?

亀井) そうです。私どもが独自に開発したフォトリソグラフィを応用した立体加工技術によって、高性能なバルブとマイクロポンプをチップ内に集積しています。

―そうなのですね。

亀井) 2層構造、すなわち、流路層と制御層からなっており、流路層(マイクロ流路)には細胞培養チャンバ、バルブ、循環用ポンプを搭載しています。バルブやポンプはPC接続によりプログラム制御されています。

―すごいですね。具体的にはどういう用途ですか?

亀井) 従来の細胞培養実験では困難でありました、抗がん剤の心臓における副作用を生体外において再現する生体外ヒトモデル開発に取り組みました。抗がん剤の副作用は、がん細胞が抗がん剤を代謝し、その代謝産物が正常な心筋組織に循環器を通って到達、代謝産物が筋細胞へダメージを与えるという段階を経た反応に起因するものとして、モデル化しました。

「細胞の環境問題」を解決する

―素晴らしい。

亀井) また、細胞を培養する装置についても、取り組んでいます。従来、細胞培養は皿(dish)を用いるばかりです。しかし、それですと、例えば1つの臓器を作るのに、例えば10万枚もの培養皿が必要になってきます。

―そうなのですか。

亀井) それに、出来上がりの品質も悪いです。さらには、毎日毎日培養液を交換する作業が必要です。

―なるほど。

亀井) そこで、私は「細胞の環境問題を解決する」と言っておりますが(笑)、ナノファイバーを使った布を用いて、高純度、高効率に、かつ細胞のストレスを軽減する方法を編み出しました。これにより、従来だと、細胞培養は1か月で70倍程度であったのが、1週間で40~50倍に増え、培養液の交換もその間1回だけです。

スペース・ノア計画!

―素晴らしい。どうしてそんなに斬新な発想でらっしゃるのですか?

亀井) Body on a Chipについては、発想は、東工大の後に行きましたUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にありました。しかし、実際に形にしようと思うと、細胞生物学、生理学、工学、薬学その他さまざまな異分野連携が必要です。

―どうして先生はそうした様々な分野の連携を実現されたのでしょう?

亀井) もともと東工大出身で工学が大好きなのですが、日本の場合、時々、工学のための工学をやってるんじゃないかとか、重箱の隅をつついているだけじゃないかとか感じることがありました。そんな時に、ふと、バイオの分野の人はどう考えているのだろうかと知りたくて、UCLAのがん研究をしているところに移ったのです。そこではマウスのES細胞や遺伝子組換技術などを学びました。

―そもそもどうして大学で研究を?

亀井) まず、ものを作るのが楽しくてしょうがないのですが、企業だとどうしても利益が上がらないと、というのがあると思います。しかし、大学だと、今すぐには役に立たないものであっても、自由な発想で、様々な開発ができると思うからです。

―なるほど。

亀井) それともう1つは、研究というより、教育にも関心があります。アメリカで学んできたことを日本の学生に伝えていきたいです。

―今の学生はどうですか?

亀井) すごくまじめですが、少し元気がないかもしれませんね。もっとはちゃめちゃでいいかも。まじめで、正解を置きにいっている、周りの顔色を見てしまうところがあると思います。京大生なので、ある程度、論理的に考えるということはできますが、更に斜め目線で考えてみるとか、もっと違う見方をしてみるとか、飛躍があっていいと思うのです。

―なんとなく分かりますわあ(笑)。最後に今後の展望について、いかがでしょうか。

亀井) Body on a Chipに関しては、大量のデータが集約されてますから、AI創薬等との組み合わせができればと思いますね。

―なるほど。

亀井) それからもう1つは、「スペース・ノア計画」なるものを考えています。

―なんですか、それは!?

亀井) Body on a Chipのように、小さいチップに載せられるということは、省スペースといううことですね。つまり、宇宙にもっていって実証するのにも適していると思うわけです。いつ人体模擬実験を火星で行うという日が来るのではないかと。

 

大変楽しみです!!!

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商工労働観光部ものづくり振興課

京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ファックス:075-414-4842

monozukuri@pref.kyoto.lg.jp

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