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知の京都-的場聖明さん(京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学 教授)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

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ビッグビジネスへのアクセス-「京丹後長寿コホート研究」の最前線

(掲載日:令和元年9月24日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利)

的場先生

 的場聖明さん(京都府立医科大学大学院医学研究科循環器内科学 教授)にお話をおうかがいしました。

全国有数の長寿地域・京丹後で2,000項目もの調査実施

-「京丹後長寿コホート研究」を進めてらっしゃるとお聞きしました。

的場) 京丹後市は、男性長寿世界一のギネス記録を持つ故・木村次郎右衛門さん(享年116歳)が暮らしてらっしゃったところで、100歳以上の百寿者の人口比率が全国平均の3.4倍という、わが国有数の長寿地域です。

-そうなのですね。

的場) それに目を付けた弘前大学から共同研究のオファーがあったのです。「短命県」を返上したいと弘前市が文部科学省の予算を獲得されたのですが、短命と長寿で何が違うかということで、2017年から一緒に研究を始めたのです。

-なるほど。調査項目はどういったものですか?

的場) 弘前の調査項目に合わせているのですが、広く4つの分野、すなわち、職業・学歴、日常生活の状況などといった「社会環境的データ(社会科学分野)」、食事や睡眠時間、趣味や会話の頻度などの「個人生活活動データ(人文科学分野)」、腸内細菌、血管年齢、血液検査、運動能力、認知機能などの「生理・生化学データ(健康科学分野)」、そして、ゲノムなどの「分子生理学的データ」で、約2,000項目をみています。

調査風景 調査風景

-2,000項目とはすごいですね!

的場) 一般的には50~100項目くらいのものが多いので、飛びぬけていますね。

-どうしてそれほどの項目の検査が可能なのですか?

的場) 大学、企業、地域・住民のみんなが協力して連携しているということだと思います。大学はリーダーシップを発揮して、これだけの調査をするんだという強い意志を示してやっていますし、企業もデータを活かしたいという思いで参画されています。また、病院に来ている人ではなく、健康診断で来ている人を対象としているからこそ、これだけの項目が調査できるのだと思います。運動能力検査も含めて約2時間かかりますが、この2年弱で400名近くの方に協力いただきました。まだ始まったところで、少なくとも2032年までは続けていく予定です。

見えてきた長寿の秘訣

-現時点で何か見えてきたことはあるのでしょうか?

的場) 血管年齢が全国平均より若く、80歳以上100歳代でも60~70代の血管年齢を保っていることがわかりました。これはCAVIという方法で、手と足への脈の伝播スピードから計算しています。また、京都市とも比較しましたが、腸内細菌の善玉菌も多く、大腸がん罹患率も低いのです。食事アンケートの結果、食物繊維が多い、地域ならではの特徴があるのではないかとみています。遺伝子は寿命にほとんど関係ないことが分かってきており、生活習慣の方が重要だと考えています。

調査結果例

-なるほど。

的場) あるいは、弘前との比較で言いますと、同居人数が少ないです。多くの若い人と同居していると、用事をその人たちがやってくれますが、同居人数が数ないと、郵便局に行くにも何をするにも、自分のことは自分でしなければならないという状況に迫られ、結果、いつまでも体が動くといったことになっているのではないでしょうか。男性の家事にかける時間が長いといったデータもあります。

-わかる気がします。

的場) 同じく京丹後は、社会活動にかける時間が長い、運動習慣が高い(冬も運動にかける時間が長い)人づき合いにかける時間も長い、友人との個人的会話時間も長いといった結果も出ています。家庭だけでなく、地域で求められる役割があるということではないでしょうか。人間は一人では生きられませんし、また、100歳の人が頑張っているのを見れば、90歳の人も頑張ろうという気になる、人間とはそういうものだと思います。

-医療関連など、先生の専門分野以外の項目の分析はどうされているのですか?

的場) ビッグデータ解析の第一人者である、京都大学の奥野恭史教授(大学院医学研究科)に協力していただいています。

天文学、医学、心臓、ミトコンドリア、健康

-ところで、先生はそもそも、どうして医療、医学を志され、中でも循環器を選ばれたのでしょうか?

的場) 夜空の星が好きで、小学生の頃は天文学者になりたかったのです。今は眼鏡を使用していても大丈夫だそうですが、毛利さんが行かれた、スペースシャトルに搭乗する初の日本人宇宙飛行士を募集された際は、視力が1.5以上ないとダメでしたので、諦めました(笑)。そして、宇宙と同じく、分からないことだらけである医学を志し、特に、止まったら一大事である心臓に特に興味を持ったのです。

-ミトコンドリアの研究もされてらっしゃったと聞きました。呼吸で取り入れた酸素が肺を通じて血液中のヘモグロビンに吸収されて細胞まで運ばれ、ミトコンドリアがその酸素を使って糖や脂肪を分解してエネルギーと二酸化炭素を産出するといったことですとか、その際に電子伝達によりフリーラジカル・活性酸素が生じるといったことは、聞いたことがあるのですが・・・。

的場) 心臓は生涯休むことなく拍動し続けますし、この拍動に必要なエネルギーを作り出しているのがミトコンドリアであり、心筋細胞はミトコンドリアが多いという特徴があります。心臓は、脂肪酸や糖といった化学エネルギーから、アデノシン5‘三リン酸(ATP)等の動的エネルギーへのエネルギー変換を行っているわけですが、エネルギー変換効率は98%程度ですごく効率がいいのです。しかも、電気自動車でも音がしますが、心臓は音も静かですよ。なお、心臓の発生期から老化の過程において、あるいは、様々な生理的状態、病的状態の環境において、エネルギー合成や代謝適応することで、長持ちさせることができると考えられていまして、心筋虚血状態、心不全状態など、心臓のミトコンドリア機能の低下とともに脂肪酸利用が低下し、糖やケトン体の役割が増すことなども知られてきています。

-そこからコホート研究へというのは?

的場) ミトコンドリアの研究を通じて「老化」について考えることとなり、今の取り組みに至っているのです。医学は日々進歩しています。例えば90歳の方の大動脈弁狭窄症や心筋梗塞も治しています。私どもの循環器内科の外来には、70歳代、80歳代の方が多くいらっしゃいます。しかし、早く治ってもらって病院からは早く帰ってもらって、もっとその先の生涯、未来を明るいものにしたいのです。

現場を知り、試練を受け止める

-先生の日常はどんな感じでらっしゃるのですか?

的場) 土曜日も含めると週3日、外来で・・・

-えっ?!今でも、週に3日も外来?!

的場) まあ、特に外科や内科等では教授が外来をやっているというのは、患者さんが「教授」というものに期待するところがありますよね・・・。

-「ありがたみ」みたいな、ですね。ありますよ、絶対、確実に!(笑)

的場) 私も若い時は患者さんから「先生、そうは言っても、金を払うのは俺だよ」とか言われたこともありますし、その時その時で学べることが違うわけですが、逆に今はあまりそういうことを言われないので、物足りない気もします。それに、このこと以外に何よりも、「現場が分かってないと」ということがありますね。今はどういった医療が必要なのか、現場で働く若い人たちがどう思っているのか、府民感覚・市民感覚を分かっていないと、何か改革をするにも説得力もないだろうと思うのです。

-なるほど。

的場) 他の日は、回診、そして、病院内のミーティングや共同研究プロジェクトの打ち合わせ、研究指導等ですね。大学院生が50名近くもいます。自分で研究をする時間は、あまりありませんし、人をいかにいい方向に導けるか、はっぱをかけるのが私の役割です。みんなそれぞれの得意分野があると思います。そうした各人の強みを活かして、各自に与えられた能力を最大限に使ってほしいですね。

研究室メンバー

-「ストレス解消法」は何かありますか?

的場) 辛いことはいろいろあります。患者さんから厳しい苦情をいただくこともあります。想定外の人間同志のトラブル等もあります。しかし、聖書の「ローマ人への手紙」5章に「患難は忍耐を生み出し、忍耐は練られた品性を生み出し、練られた品性は希望を生み出す」といった文章があります。つまり、自分に課せられた「試練」だと思うようにしています。若い先生達にも勧めています。

ビッグビジネスへのアクセス

-今後の展望については、いかがでしょう。

的場) SDGsですね。まず1つ目の、「健康長寿」は、医療費軽減のため、日本の社会の持続的発展のために、避けては通れない課題です。

-そうですね。

的場) 2点目としては、その健康長寿は、役所や医者の力だけでは解決できないし、産業、企業の力こそが必要だということです。未知なる病気を見つけるといったことは大学の研究室で、あるいは薬を開発するといったことは大学と製薬メーカーで、ということだと思いますが、みんなが関わる長寿研究などは企業が一緒に入ってきていただけたらと思うのです。私たちのプロジェクトでも、正直、1人当たりのコストも数万円かかっています。今は科研費などで対応していますが、今後は企業スポンサーを募りたいのです。日本には寄付文化がないので難しいのですが、企業は私どものデータを使って、新しい製品サービスを生み出していただくと良いのです。ビッグビジネスへのアクセスと思って、どんどん参画いただけば、社会がもっと良くなるのです。「長寿の京丹後の人達が愛用している○○○」みたいな商品も出てきてよいのではないでしょうか。

-なるほど。

的場) 産業界でも様々なデータをお持ちだと思いますが、そうしたものだって、もっとオープンに活用することができれば、「花粉症マップ」のように、産業界で有用な「ものが売れるマップ」も出てきましょうし、住民・医療分野で有用な「心不全マップ」だって出来るかもしれません。産業界ではアジアの台頭が目覚ましく、分野によっては抜かれてしまうものもありましょう。しかし、「長寿」についてはまだ当面は抜かれることはないでしょう。だからこそ、今のうちに社会システムとして構築を図っておくべきだと思うのです。そうすれば、鉄道システムを輸出するように、システムとして輸出できるようになればと思っています。

-そうですね。

的場) 3点目は、病院は患者さんにとって一過性のものでなくてはならない、地域の病院は別として大病院は、一時的な診療機関であるべきということです。日頃はできるだけ社会に参加しつつ、必要な健診や診療はさっとうける。そしてみんなで健康になろうということです。例えば「そんなことなら、京丹後に移住しよう」という人も出てきてほしいですね!

 

今後の研究成果が本当に楽しみです。

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