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知の京都- Giuseppe Pezzottiさん(京都工芸繊維大学 副学長)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

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「分子の囁き」と体に優しい抗ウイルス性材料開発

(掲載日:令和3年2月2日、ものづくり振興課 鴨井)

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京都工芸繊維大学のGiuseppe Pezzotti副学長(材料化学系 教授)にお話をお伺いしました。

光で「分子の囁き」を観察

-先生は「光」を用いた研究をされていますが、「光」でどんなことが分かるのですか?

Pezzotti)我々はラマン分光法と呼ばれる光を用いた分析手法を用いています。物質に単色の光を当てると反射・屈折・吸収・散乱などの現象が発生します。この中の散乱光には、光と物質の相互作用によって入射光と異なる波長(色)を持つラマン散乱(非弾性散乱)光が含まれます。ラマン散乱光は物質の分子レベルの構造によって異なる特徴(スペクトル)を示し、このスペクトルの特徴を分析することで、物質の同定や分布等を観察することが可能です。簡単に言うと、ラマン散乱光というシグナルは分子振動に基づき発生するので、我々は親しみを込めて「分子の囁き」と呼んでおり、この囁きから分子の「秘密」を沢山教えてもらっています。

-「分子の囁き」ですか。どんな材料の分析ができるのですか?

Pezzotti)ラマン分光の用途は幅広く、無機材料から有機材料、有機・無機複合材料まで様々な材料を測定することができます。特に、有機系材料は複雑な分子構造に由来した複数の特徴的ピークを持つため、有力な分析手法として広く活用されています。また、ラマン分光法は物質に光を照射するだけで、物質の分子構造を解析できることも重要なポイントです。

このラマン分光の利用例についてご紹介します。例えば、インフルエンザウイルスにはA型、B型があることがよく知られています。A型の中でもH1N1やH3N2型など様々な種類がありますが、同じA型インフルエンザウイルスであっても、含まれている分子構造の細部が異なります。この小さな違いに由来し、ラマンスペクトルの特徴も大きく異なってくるため、これらの特徴を分析することでウイルスの種類を特定することができます。もちろん、インフルエンザウイルス以外の様々なウイルスの特定も可能です。ただ、ここまでの説明で分かるように、各材料のライブラリ整備が大変重要になってきます。

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-材料の分布もわかるということですが、どのように観察するのでしょうか?

Pezzotti)ラマン分光には一般的にレーザー光を用います。皆さんご存じの通り、光はレンズ等で集光させることができ、局所的な照射が可能です。そのサイズは数百nmサイズまで小さくすることができますので、照射するレーザーを動かしていくことで面内の分布を観察することができます。イメージとしては「ウォーリーを探せ」のように、絵の中から特徴を掴んで特定していく作業に似ています。(笑)

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-先生は元々、無機材料がご専門ということですが、医学分野等の様々な分野に携わっておられますね。

Pezzotti)機械力学や流体力学、セラミック材料等を研究してきましたが、近年は医療分野に興味を持っています。色々な分野に携わってきたため、工学、理学、整形外科学、免疫学の博士号取得に至っています。

-なるほど!こういった様々な研究から「体にも優しい抗ウイルス性セラミック」の機能性を発見されたのですね!

Pezzotti)はい。本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構の令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業(外部リンク)で「新型コロナウイルス感染拡大を阻止する機能性材料とその界面構造の解析」として採択され、京都府立医科大学の松田修先生(免疫学)と足立哲也先生(歯科口腔科学)ら(外部リンク)とともに現在も研究・開発を進めています。この材料は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にも効果を持つことが確認されています。

体にも優しい抗ウイルス性セラミック

-抗ウイルス性セラミックとはどんな材料でしょうか?

Pezzotti)一つの例として、窒化ケイ素(Si3N4)と呼ばれる材料が抗菌性を持つことを発見いたしました。窒化ケイ素は窒化物セラミックの一種ですが、窒化物セラミックは水(H2O)と反応して加水分解反応を起こす事がよく知られています。一般的に窒化物セラミックは水と反応することで、窒化物が酸化物となり、アンモニア(NH3)を発生します。窒素との組み合わせとして、様々な元素が存在しますが、イオン結合型窒化物の場合は強く反応しやすく、遷移金属は反応を起こしにくい特徴があります。窒化ケイ素が含まれる共有結合型窒化物は緩やかに連続的に反応を起こします。この緩やかに連続的に反応するということがポイントになってきます。

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窒化ケイ素も水と反応することで、窒化ケイ素の表面が酸化ケイ素(SiO2)となり、アンモニア(NH3)を発生します。ここで、アンモニアは水に溶けることからアンモニア水となりますが、アンモニア水はアルカリ性ですので、窒化ケイ素の表面に残った酸化ケイ素を溶かします。すると、新たに窒化ケイ素の表面が現れますので、再度、水と反応してという反応を繰り返していきます。ウイルスは材料の表面電荷に引き寄せられる性質を持っていますので、引き寄せられたウイルスはアルカリ性のアンモニア水で破壊されます。つまり抗ウイルス性を発揮するということになります。

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-世の中には銅などが利用されていますが、どのような違いがあるのでしょうか?

Pezzotti)銅は高い抗ウイルス性を持つ材料として知られていますが、激しく反応を起こします。その反応について、我々の研究結果では正常な細胞にまでダメージを与えるという結果が得られています。一方で、窒化ケイ素の場合は正常な細胞へのダメージが少なく、また、反応過程で生成されるアパタイト等の中間物質も細胞に親和性の高い物質であるため、体にも優しい材料です。

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-素晴らしいですね!この材料の今後の展望について教えてください。

Pezzotti)この窒化ケイ素材料は水だけで反応します。ということは、霧吹き等で水を吹き付けるだけで抗ウイルス性を発揮するということです。例えば、窒化ケイ素を布に固定化したり、プラスチックに複合化したりと、製品に対して抗ウイルス性を付加することが可能です。また、今後はラマン分光法による解析を組み合わせ、分子構造の観点から、ウイルス破壊の過程をモニタリングすることで、創薬にも活用できるのではと考えています。

最後に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とともに生きていく社会を構築するには、医療分野にとどまらない、私たちの身を守るためのさまざまな技術が必要です。ワクチン・治療薬開発と並行して、コロナウイルスの存在を前提にしつつも、制限無く移動ができ、自由に人と会える・集える、経済活動ができる社会の実現が望まれていますが、そのためには「見つける」「清める」「護る」観点からの技術開発が重要になっています(JSTが推進する「プランB」(外部リンク))。そのためには、科学技術の発展も当然必要ですので、今回ご紹介した材料も、こういった社会の実現の一助になれば幸いです。

-ありがとうございました!今後の活躍を期待します!

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