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知の京都- 田中洋光さん(京都大学大学院理学研究科 生物科学専攻生物物理学教室 助教)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

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シナプス研究から脳というスパコンへ辿り着け

(掲載日:令和2年8月13日、ものづくり振興課 足利)

田中先生

 京都大学大学院理学研究科 生物科学専攻生物物理学教室 助教の田中洋光さんにお話をおうかがいしました。

シナプスでの受容体が新たに増えるルートを発見!

--先生はどういった研究をなさってるのですか?

田中)シナプスにおいて、どう神経情報が伝わるかを研究しています。

--神経情報の伝達って、基本的には電気化学的な伝達なのですよね。

田中)そうですね。神経細胞は、内側はカリウムイオン(プラスイオン)が多く、外側はナトリウムイオン(プラスイオン)と塩素イオン(マイナスイオン)が多く、そのせいで細胞膜の内側はマイナス数十ミリボルトの電位差、すなわち静止電位が保たれています。そして細胞は、情報を受ける部分である「樹状突起」、核のある「細胞体」、情報を送る部分である「軸索」からなっています。軸索において、一過的にプラスの電位が伝わっていく信号 (活動電位) が送られる時、樹状突起と軸索の接合部分、シナプスにおいてその情報が樹状突起へと伝わります。

--「細胞」と聞くと、数週間や数年で入れ替わってるというイメージがありますが、神経細胞って、もしかしてずっと同じものが、でしたっけ?

田中)そうですよ。よく肝臓等は数週間でとか、骨も数年でと言われていますが、脳神経系の細胞は一部の例外を除いて変わりませんね。だから細胞が死んでいくと、アルツハイマー病になったりするわけです。

--なるほど、そうか、そうですよねえ。

田中)シナプスでの情報伝達をもう少し詳しくお伝えすると、情報の送り手側であるシナプス前細胞からシナプス小胞が放出され、受け手側であるシナプス後細胞にある受容体が、シナプス小胞から出たグルタミン酸等の伝達物質を受け取ります。興味深いことに、活動電位によってこの伝達頻度が多くなると、受容体の数も増えるんです。この現象を「長期増強」と言いますが、これが記憶や学習の細胞基盤ではないかと言われており、その研究をしています。例えば当研究室では、グルタミン酸受容体が新たに増えるルートを発見しました。

--すごいですね。

田中)グルタミン酸受容体はシナプス後部の細胞膜表面にあるだけでなく、シナプス後部の内側やシナプス外の細胞膜上にもあって、活動電位が多い時に様々なタイプの受容体が異なるルートで増えるのです (図1)。

--そうなのですね。

田中)あるいは当研究室では、放出されたグルタミン酸のシナプス前部への「戻り」の仕組みも研究しています。シナプスでは、100Hzという生体内では最速の情報伝達を実現しているので、物質を生成していたらこの速さにはとても間に合いませんから、何らかの精巧な戻りの仕組みがあると考えています。

--生物ってよくできてますよね。

田中)よくできてる部分の話ばかりを見聞きするのでそう思うのですが、実際には逆に、何の役にも立っていない機構もたくさんあるんですよ(笑)。今は役に立ってなくとも、いつか役に立つものもあるかもしれませんが。

受容体

任意のシナプスを作る!

--なるほど!無駄、無意味なものもたくさんある、ということですか。今、やっと進化論に納得できた気がします(笑)。

田中)また、任意のシナプスを人工的に作ることにも成功しました。正確には、先ほどの研究を効率よく進めるために、シナプスを意図的にガラス面上に作りました。

--どうやってですか?

田中)先行研究よりニューロリジン、ニューレキシンンというシナプスの細胞膜上にある分子 (シナプス接着分子)がシナプスの形成を誘導するという報告がありました。そこで私は、ニューロリジン、ニューレキシンンのいずれかをガラス面にコートすることで、従来の実験系より詳細なシナプスのライブイメージングを実現しました (図2)。具体的には、ニューレキシンをコートすることで、シナプス後部のみの構造を形成させて、受容体の動きを観察したり、ニューロリジンをコートすることで、シナプス前部のみの構造を形成させて、シナプス小胞の放出を観察しました。

--研究者の方ってすごいですよねえ。いつも感心するのですが、研究したいことのための、手法まで自分で編み出される。まあ、先端研究なさってるんで、手法がないから仕方がないでしょうけれど。

田中)先ほどの進化論じゃないですが、うまくいった話だけをしているとそう思われますが、たくさんの失敗をしていますし、全く見当違いのことを行ってしまっていることもありますよ。しかし、たしかにおっしゃる通り、RPGみたいなところはありますね。ボスを倒したいんだけど、そのための武器を手に入れるために、他のことをしなければならない、といった感じで(笑)

海馬神経細胞

研究と言う名のRPG

--RPG!まさしくそうですね!先生はいつから研究者を目指されたんですか?

田中)私、「宇宙」とか人間の「意識」とかがどうなってるんだろうと、中高生の時から、ずっと「中二病」だったんですよ(笑)。だからここの理学部に入ったんです。

--理学部を選択って、すごいですよね。

田中)人生一度きりなんで、思い切って自分の興味のままに進もうと思いました。研究の道へと考えた時、宇宙も魅力的なんですが、自分の手で触って実験ができるものがいいなと考え、この道を選びました。

--研究の道の苦労する点と良い点は?

田中)そうですねえ。思った通りにうまくいかないことが多過ぎますねえ(笑)。だから、粘り強くやるしかないですし、そういう意味では楽観的な人が向いているんじゃないでしょうかね。

--楽観的!その点だけは私も向いてるかも!(笑)

田中)良い点は、自分の知りたいこと、やりたいことを、そのまま仕事にさせてもらっているということですね。そして、あたかも「答のない問題集」を解いているようなものなのですが、その中で、シナリオを見つけ、答を見つけられたと思った時は、嬉しいです。

--そのためのコツは?

田中)そうですねえ。研究ってある時、様々な実験結果に相当する点と点が結ばれて、ブレイクスルーみたいに突然ぐぐっと伸びて大きな成果が出ることがあります。みんなそれを目指していると思うんですが、先ほどRPGに例えましたとおり、その頂上への到達の仕方にはいろんなルートがあります。どのルートが早いのか、どのルートが実は途中で道がなくなっているのか、誰も分かりません。だから、常にアンテナを高く張っておくことが重要ですね。もちろん専門知識は重要ですが、総合力が問われる面も多くあるので、色々な事に関して広く浅く知っている事も大事なのかなと思います。

--最後に今後の展望についてはいかがでしょうか?

田中)今はシナプスについての研究をしていますが、今後は神経回路全般を対象にしていきたいですね。今こうして話をすることができるのはなぜか?コンピュータもすごいのですが、脳ってたった1~2kgの重さで、数10wの電力で、スパコンレベルの仕事をしますよね。スパコンほど厳密な計算はしないですが、どういったことでもなんとなくのことを理解します。

--生物って奥深いですよねえ。私も、ロボットも好きなのですが、生物も本当におもしろいなあと感じています。

田中)究極のロボットですよね。他の細胞と違って神経細胞は変わらずそのままだと言いましたが、そうした神経細胞や脳を集めて、巨大な脳を作れば、それがスパコンの代わりになる、そんな未来が来るかもしれませんよ。全てを明らかにして理解するためには、それが実は近道かもしれませんね。

--その手法もまさしくRPG的ですね!

田中)いかにも!

 

 

大変楽しみです!

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