更新日:2025年5月30日

ここから本文です。

サンリット・シードリングス株式会社(京都企業紹介)

【生物多様性の科学による、産業の生産性と持続可能性の改善・向上・解決】

(2024年9月10日更新 産業振興課 坂井)

画像1

サンリット・シードリングス株式会社(京都市)の石川奏太代表取締役にお話をお伺いしました。

 

-まず、事業の概要を教えてください。

当社は生物多様性に関するビジネスを行っている会社です。主に、農林水産業や環境・インフラ・生物多様性保全などに関わる事業現場において、生態系の再構築や技術開発などに強みを持っています。

 

-生物多様性に関するビジネスとは?

まず、なぜ生物多様性に焦点を当てているかを説明します。例えば地球温暖化は、その対処として2050年の世界のあるべき姿を見据えCO2排出量を削減していくといった国際的な取り決めがありますが、実は生物多様性にも、その危機を見据えた世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組(2022.12)」といった国際的な取り決めが存在します。

これは、2050年までのビジョンとして「自然と共生する世界」を、2030年までのミッションとして「自然を回復軌道に乗せるために、生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」とされており、その中で、「企業・団体等は生物多様性に係るリスク、生物多様性への依存や影響を評価・開示し、持続可能な消費のために必要な情報を提供するための措置を講じる」と示されました。これからの企業は地球温暖化だけでなく、生物多様性についても対処が求められているのです。

ただ、生物多様性の問題解決には専門の知識が必要であり、どうすればいいかといったマニュアルもまだありません。そこで、当社が研究の中で培ってきた専門知を、企業等における課題解決に役立てる、といった「専門知のアセット運用」が当社のビジネスとなります。

 

-ありがとうございます。では、具体的な取組についてお伺いします。

当社の事業は持続可能な農業や林地保全、食品関係やヘルスケアへの適用など分野は多岐に渡りますが、基礎となるのは「biosphere(生物叢)」という考え方で、これは「生物の多様性とそこにある環境を一纏めにして扱う」といったアイデアになります。下の図を見てください。

 

サンリット 画像2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当社では、Biosphereを「可視化する」「設計する」「管理する」3つのステップを一気通貫でサポートするサービスを提供しています。例えば農業の事業現場において、農作物を育てるとき、畑の周りには様々な生物が、そして土の下にはたくさんの微生物が存在しています。これは漁業・林業においても同じことで、何かを生産するとき、そこには必ず土台となるBiosphereが存在しています。我々はこのbiosphereを可視化するサービス(Biosphere-View)を行っています。

 

- biosphereの可視化、ですか。

農業などがイメージしやすいですが、例えば畑のbiosphereを可視化するには、まず畑に行って土壌や水などのサンプリングし、どのような生物が存在するかという生物多様性の情報を取得して調べます。同時に、土の性質や立地条件など、環境そのもののデータも調べます。生物多様性と環境の2つのデータを統合的に分析することで、biosphereがどのように構成されているのか、その設計図を取得することができます。当社ではこれを委託・調査分析業務として実施しています。

もう一つは、biosphereで発生している問題に対しての解決策の提示です。例えば病気が発生している畑に対し、どのように微生物生態系を再構築すれば病気の起こりにくい土壌環境を作れるのか、どんな生物が定着すれば作物の収量=生産性の向上に繋げられるのかなどを、biosphereの設計(design)から管理(manage)まで繋がる解決策を提示することができます。

 

- なぜそんなことが分かるのですか?

DNAメタバーコーディングという技術によるものです。これは水中や土の中などの環境において、どのような生物がその環境にいるのか、環境DNA(※)という形で可視化することが出来るのです。(※環境DNA:海や川・湖沼・土壌などの環境中に存在する生物由来のDNA)

ただ、技術自体は一般化されていますが、生成される情報は膨大なものであり、そこから必要な情報(何がどう影響するのか)を見つけ出すのは非常に難しいのです。しかし、当社にはその情報を分析し必要な情報を見つけるための独自の技術があります。

 

- すごいですね!詳しく教えてください。

例えば土壌や水中にはたくさんの生物が生息していますが、そのうちどの生物がどんな相互作用を生じ、環境に影響を与えているのか、それを判別するためには生物同士がどんな機能的ネットワークを形成しているかを確認する必要があります。当社にはこの分野における今までの研究成果があるため、その環境に影響を及ぼしている生物同士の機能的ネットワークを判別し、可視化することが出来ます。これが当社のみのコア技術であり強みです。

また、このコア技術は今まで未利用だった資源の発見・活用にも繋がります。例えば畑の土壌改善のためには化学物質・薬品などを使うことが多いですが、実は土壌の中にも病原菌を防除できるような微生物がいます。化学物質など環境へのリスクが高い従来の手法ではなく、その土地に元々存在する微生物等環境そのものの資源を有効活用することで、より持続可能な事業の在り方に繋げることが出来ます。こうした微生物を始めとする未利用の生物資源の探索や活用において、当社の技術が活かされています。

そして、実際にこれらの手法を用いてbiosphereに干渉したことによる影響なども数値化し、定量評価が可能です。干渉以前に負の状態にあった生態系や環境が改善されているのかなど、リアルタイムで分析し、将来予測モデルも作成することが出来ます。

 

- なるほど・・・。少し難しい話ですね。

農業での事例を参考に説明しますと、土壌のサンプルを取ることでその畑が持つ生物的なポテンシャルを数値的に評価したり、生息する微生物のパターンから病原性の有無を確認することも出来ます。なお、畑ごとに生息する微生物は異なり、それぞれが独自の生態系ネットワークを形成しているため、病気のなりやすさも畑によって違います。下の絵を見てください。

 

サンリット 画像3

 

このように、畑によって良い影響を与える有用ネットワークや、悪い影響のある有害ネットワークなど、その土地にいる微生物ごとに様々なネットワークが存在しています。

また、当社の技術はbiosphereのネットワークにも手を加えることができます。もし畑が悪い状態にある=病原性の微生物などによる有害なネットワークが形成されているなら、そこに有用なネットワークを定着させる、といった具合です。なお、有用なネットワークを定着させるには、鍵となる微生物(コア微生物)を見つけだす必要がありますが、当社の技術を活用すれば、膨大な種類の土壌微生物の中から、機能的ネットワークの中心に位置するコア微生物を特定するとともに、コア微生物を土壌や植物試料から単離・培養することで大量生産可能な生物資源として確立し、有機的な資材(有機液肥や植物残渣加工物、炭などの有機質担体)に物理的にコア微生物を定着させ、土壌環境にコア微生物資材を投与し、有用微生物を「逆輸入」することで、微生物ネットワークを良い状態に誘導することが可能です。

 

- ありがとうございます。畑の環境をその場にいる微生物で改善するということですね。

そのとおりです。そして、実際にこの手法を用いた事例が、鹿児島県で実施した「サツマイモ基腐病」対策です。これは近年発生するようになった病害で、感染するとイモが腐ってしまう病気です。厄介なことに、感染したイモの残渣(くず)が残っているとそこから基腐病の病原菌が土地に拡散し、次のシーズンに植えたイモにも感染してしまう、というのが繰り返されてしまうのです。基腐病菌そのものは、実は最新のDNA分析を使っても検出しにくいことがあるのです。土壌を調べても見つけられないが、一見すると病原菌が居ないように見えるだけで、実は感染した作物の残渣に潜伏しており、雨で湿気が高まったときに一気に増殖します。基腐病菌はただ検査をするだけでは非常に見つけにくいのです。

この問題に対処するにあたり、まずは現状把握のため我々は100近い圃場の土壌を調査しました。その結果を分析するうちに、基腐病発生率の高い圃場には、基腐病の直接の病原菌だけでなく、土壌を汚染する菌や、つる割病など他の病原菌など、「有害」な微生物による特定のネットワークが共通して形成されていることが分かったのです。基腐病菌がすべての原因ではなく、様々な有害な菌がいるような環境だからこそ基腐病が発病したのですね。言うなれば、治安が悪いところでは犯罪が起きやすいということでしょうか。そして、犯罪グループとでも言うべき有害な菌のネットワークを見つけることで、、どの圃場の病原リスクが高いかなどを判断できるようになりました。

 

- この技術を使って基腐病にはどのように対処できるのですか?

上記のように、基腐病が発生する高リスク圃場には、他にも有害な菌がたくさん存在し、特徴的なネットワークを形成することが分かりました。つまり、仮に基腐病菌が植物残渣等に潜伏して検出されにくい時期、例えば収穫直後の畑、であっても他の有害な菌類のネットワークが存在するかを確認することで、高リスク圃場の事前判定が出来るのです。基腐病をはじめ、様々な病害の発生を栽培が始まる前から予測できるのであれば、予防的な対策を強めることで被害を未然に防ぐことができます。例えば、高リスク圃場では耕盤破砕をしっかりやって、病害菌の潜伏先である植物残渣の分解を早める。苗の植付後1か月程度は病害の発生しやすい時期となるため、高リスク圃場では作物状態の観察頻度を強め、病気になった苗をいち早く除去する、などが事前診断によって可能になります。

 

- とてもわかりやすいです。ちなみに、この判別法による精度はどれくらいでしょうか?

「今年度基腐病発生の有無」を回答した66の圃場に対し、当社技術を用いた判別アルゴリズムで、圃場のリスク判定を行いました。単に基腐病発生の有無だけでは潜在的リスクを判別できないため、基腐病が発生しそうな有害ネットワークが有るのか、または環境に良い有用ネットワークが存在してないのか、という観点でリスク度合いを測り、リスクが高いものは「高リスク圃場」か「要注意圃場」に分けています。そして、実際に基腐病が発生したかどうか、生産者からのフィードバックデータと比較し、答え合わせを行いました。

結果、高リスク圃場の判定については誤答数0件と非常に高い精度であることが証明されました。また、生産者からみて病害が発生していない圃場でも、有害な菌のネットワークが定着しているため、次の栽培シーズンで病害発生確率の高い「要注意圃場」の判定も行い、全体の30%前後の圃場について潜在リスクの割り出しに成功しました。

この判別法であれば、圃場一律の対応ではなく、リスクに応じた個別の対応を取ることができます。また、土壌の採取も既存の手法よりはるかに低いコストで可能で、検体採取から結果が出るまでおおよそ2-3週間のスピードで出来ます。。今後、この手法を様々な産地に水平展開できればと考えています。

 

- 先ほど陸上養殖の絵がありましたが、こちらについても教えてください。

水産業についてですが、陸上養殖って実は運転コストが非常に高いんですよ。環境に優しいクリーンな方法ではあるものの、そのための水質管理が非常に難しい。もし外部から病原菌が混入すると一気に全滅するリスクがありますし、一方で無菌状態をキープするのも薬剤や浄化槽のコストがかかる。自然の水質と養殖の状態は違うからか、餌をあげても食べないこともあります。

このように陸上養殖は困難な事業ですが、我々は水の中の微生物のパターンがそれらに影響しているのでは、と考えました。そして実際にウナギの陸上養殖において、活発に餌を食べているときに必ず存在する微生物グループを見つけることが出来ました。

 

サンリット 画像4

この微生物がどのような条件下で活性化するかが分かれば、微生物を管理することで適切な給餌のタイミングを判断することもできますし、適切な水温・水質を理解しIT機器を用いて管理すれば運転コストをもっと削減出来るかもしれません。このように、従来とは違う環境管理からのアプローチを当社であればできると考えています。

 

-最後に、今後の展望について教えてください。

成長戦略では、持続可能な農林水産業、土地の再開発と環境再生、都市緑化、といった分野をフォーカスしています。今後2-3年のスパンでは、各分野において技術実証とパイロット事業の実施を行い、5年後までに国内における事業化を進めます。その後、技術適用とビジネスモデルを海外での事業へと水平展開させる予定です。

 

-石川様、ありがとうございました!

お問い合わせ

商工労働観光部産業振興課

京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ファックス:075-414-4842

sangyoshinko@pref.kyoto.lg.jp