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R5(2023)年度 茶業研究所の活動報告(月報)

3月

宇治茶の未来を担う若者2名が巣立ちます

当所では、茶業の担い手確保と技術や知識に加え経営力を持った人材を育成するため、大正14年から技術研修制度を実施しています。

令和5年度は、それぞれ宇治市、南山城村から入所した2名が1年間の研修期間を終え、令和6年3月18日に修了しました。

修了式では、研修生が就農後に直面する課題の解決方法を習得するために1年間取り組んできた「プロジェクト研究」の成果を報告し、当所から修了証書を授与しました。

今年度の修了生を含め、これまでに本研修制度で203名の研修生が巣立っており、宇治茶を支える茶業後継者として活躍しています。

当所は、今後もより多くの茶業後継者を送り出せるよう努めていきます。

プロジェクト研究の成果を報告する研修生

修了証書を受け取る研修生

 

2月

てん茶の安定生産を可能にする技術を紹介 研究報告会を開催

当所は、京都府茶生産協議会と共催により、2月15日に宇治茶会館(宇治市)にて研究報告会を開催しました。本会は、研究成果を速やかに生産者・茶商工業者に普及することで、宇治茶の価値・魅力を向上することを目的として開催し、約200名の茶関係者が出席しました。
当日は、研究成果として、当所の研究員2名から「機械摘みてん茶の省力製茶技術について」「てん茶工場におけるコンタミネーションの影響調査と防止手法の検討」、また京都府立大学から「京都府特産物抹茶原料の副産物である茎を活用した抗菌物質の探索」について報告しました。
会場では、生葉の硬さを簡易・迅速に測定し、その硬さに応じ製茶条件を変えて製茶した茶も展示しました。多くの出席者から、「この技術が早期実用化してほしい」「スライドや話がわかりやすかった」との意見をいただくなど有意義な研究報告会となりました。今後も茶業関係者に役立つ情報を提供します。

研究報告する当所研究員(左:第1報告、右:第2報告)

1月

宇治茶アカデミー10周年記念公開セミナーの開催

当所では茶業関係団体と連携して、京都府内で茶の生産、流通・販売や加工商品の製造・販売等を行っている若い担い手を対象に、経営力、宇治茶の伝統や価値の発信力を高めるとともに、参加者同士の交流・連携を深め、宇治茶のイノベーションにつなげるため、平成26年度から宇治茶アカデミーを毎年開催してきました。今年度10周年を迎えるに当たり、この10年間を総括するとともに、今後の宇治茶のさらなる発展に向けて、1月16日に公開セミナーを開催したところ、110人の参加がありました。
講演では、農研機構果樹茶業研究部門の水上裕造上級研究員が「宇治茶の香りが未来を拓く」と題して、宇治茶のおいしさを感じさせる香りの重要性を話されました。
パネルディスカッションでは、当アカデミーの総括アドバイザーである京都府茶業会議所の会頭、副会頭の3名が登壇し、10年間の成果や今後の展開への期待等を語り合い、「若い人には、いろいろな人の話を聞き吸収し、イノベーションを起こし、1000年先も京都のお茶が残るように頑張ってほしい」とメッセージをいただきました。
当所では、今年度、当アカデミー全4回の開講を予定しており、宇治茶のさらなる発展に向けて取り組んでいきます。

水上上級研究員の講演を
熱心に聞く参加者

若い担い手へメッセージを送る
総括アドバイザー

12月

令和5年度南山城村茶品評会の開催を支援

南山城村産茶の生産技術と品質の向上を目指して、南山城村茶品評会が、12月1日にJA全農京都宇治茶流通センターで開催され、当所職員が審査員を務めました。品評会は、煎茶、かぶせ茶、てん茶の部に分かれ、それぞれ外観、内質(香り、色、味など)の審査が行われました。
当所は、審査を通じて南山城村の茶の品質がさらに向上するよう、出品茶の順位を付けるだけではなく、栽培や製茶における注意点についても指摘しました。昨年も同様の品評会を行いましたが、全体に昨年度よりも品質が良くなっており、生産者の努力の成果が見られました。また、今回の品評会では、審査補助員を務めた南山城村の生産者が審査員から直接フィードバックを受ける機会が設けられ、良い意見交換が出来ました。
今後は、南山城村産茶のさらなる技術・品質の向上につながるように、今回出た被覆や製造上のポイントを関係農業改良普及センターを通じてより多くの生産者に伝えていきます。

南山城村産茶の審査を行う審査員と審査準備を行う審査補助員

11月

宇治市生産組合青年部研修を支援

宇治市内若手生産者の茶生産技術向上を図るために、様々な研修会を宇治市茶生産組合青年部が開催しています。昨年からは、各青年部員がてん茶の荒茶を持ち寄って互いの品質を比較する取組を行っており、今年は宇治茶の主要品種である『さみどり』※1について栽培や製茶のポイントを議論しました。
当所は、生産技術の向上を目指す取組を支援する立場から、予め官能評価※2を実施し、その結果をもとに栽培や製茶における注意点を山城北農業改良普及センターとともに、説明しました。青年部員からは、改善点に対する質問のほか、「折れ葉」※3「重なり葉」※4といったてん茶の審査用語に関する質問やその原因についての考察、さらに、「夏場の農薬散布を人に安全でかつ軽労化してほしい」「SDGsの観点から茶殻の有効活用を考えてほしい」など、将来実現してほしい技術等について意見が出ました。
当所では、今後も若手生産者の技術向上につながるよう支援を行っていきます。
※1 さみどり:宇治由来のチャの品種名。抹茶の原料、玉露、煎茶などに適する
※2 官能評価:味覚などの感覚を使って、対象の品質を評価する方法
※3 折れ葉:茶葉が折りたたまれた状態で乾いたもの
※4 重なり葉:別の茶葉どうしが重なった状態で乾いたもの

『さみどり』の荒茶について意見交換する青年部員と職員

10月

茶園品評会審査のために審査研修会を開催

茶栽培技術の向上による宇治茶の生産性と品質の向上を目的に、府内各地で茶園品評会が開催されます。良質な宇治茶が生産される茶園は、生産者が丹精込めて育て上げたものであり、品評会には厳正な審査が求められます。

府内各地の茶園品評会が開催されるのに先立って、当所では、京都府茶生産協議会と共催で、茶園品評会の審査員となるJA、市町村、普及センター等の職員を対象に、審査研修会を開催しました。研修会では、当所の研究員が審査のポイントなどを説明しながら、実際の品評会と同様に採点を行いました。研修会後には、品評会の審査で見るべきところがよく分かったなどの感想がありました。

当所は今後も、茶業関係者の技術力向上に寄与することで宇治茶ブランドを振興・発展させる取組を支援します。

審査方法を説明する研究員1.

審査方法を説明する研究員2.

 

当所施設公開を実施

当所では、一般の方々に宇治茶の魅力を体感していただくために、毎年、施設公開を実施しています。

今年度は10月24日に実施したところ、約70名が来所されました。研究員による研究成果の紹介の他、当所の本館、茶工場、茶園の見学、お茶の審査や茶摘みの体験を通じて宇治茶に対する理解を深めてもらいました。

来場者からは、「スタッフの皆様の笑顔が素敵でした」、「工場の製茶過程が多くとても手間がかかることを実感しました」、「お茶に対する意識が高まりました」等の声が聞こえました。

当所では、研究所の特徴を活かした宇治茶の情報発信を続け、宇治茶ファンの裾野を広げることで、茶業振興に貢献していきます。

お茶の審査体験

茶工場の見学

茶摘み体験

最近の研究成果の紹介

 

9月

京都先端科学大学の見学を受け入れ

当所の重要な機能として「宇治茶の価値、魅力の発信」があります。9月5日には京都先端科学大学の学生25名が授業の一環として見学実習のため来所されました。宇治茶についての情報のほか、研究機関の役割や取り組んでいる研究内容など、当所の仕事への理解を深めてもらいました。
学生はチャの新しい品種が長い年月を経て育成されることに高い関心を示し、また、「京都の大学生なのに宇治茶について初めて知ることが多かった」「これからはいろいろなお茶を飲んでみたい」等感想を述べていました。
今後も、より多くの方のニーズに応え、積極的に見学を受け入れていきます。

当所の研究内容を紹介

育種ほ場で新品種育成について説明

8月

お茶をテーマに研究体験~夏休み自由研究プロジェクト~

宇治茶の情報発信拠点である当所は、府内小学生に宇治茶の魅力をより深く知ってもらおうと、本年度で5回目となる夏休み自由研究プロジェクトを8月8日に開催しました。
プロジェクトでは、自由研究テーマとして宇治茶を取り上げてもらうために、2つの体験コース(1.茶園の虫を観察しよう、2.お茶を鑑定し成分を測ろう)を企画し、7家族18名(うち小学生11名)に参加いただきました。参加者は、「お茶には、いろいろな体に良い成分が入っていることを初めて知った。」と驚いたり、「いろいろな虫が捕まえられてうれしかった。」と喜んでいました。当所では、研究所の特徴を活かした宇治茶の情報発信を続け、宇治茶ファンの裾野を広げることで、茶業振興に貢献していきます。

研究内容をわかりやすく紹介

茶園で捕まえた虫を顕微鏡で観察

7月

茶品評会審査会の運営をIT化

茶の栽培・製造技術の改善による府内産茶の品質向上を目指して、京都府茶品評会審査会が、7月4~5日に宇治茶会館で開催され、当所職員が審査員、審査補助員を務めました。審査会は、煎茶、かぶせ茶、玉露、てん茶の部に分かれ、それぞれ外観、内質(香り、色、味など)の審査が行われました。
当所は、審査を担当するとともに、審査の補助員として、茶業団体、普及センター、JAと連携し、審査用見本茶の準備や得点記録の集計など、円滑な審査会運営につとめました。特に本年から、審査得点や指摘を手書きでの記録から、PCを用いた審査番号のバーコードからの読み込みによる記録に変更するなど、審査運営のIT化と効率的な運営を目指して取り組みました。
今後は審査会で指摘された栽培、製造工程での改善点について、関係農業改良普及センターなどを通じて出品者に伝えるなど、生産技術向上を支援します。

外観審査を行う審査員
 

バーコード読み取り装置を用いて
審査の記録を行う審査補助員

 

6月

 

宇治茶の新品種を育成する

他産地との差別化を図るため、「宇治茶の新品種」は、生産者や茶商工業者から常に求められています。そこで当所では、京都の優良品種を交配1親として、品質や収量性に優れる茶の品種の開発・育成に取り組んでいます。
現在、てん茶2用品種の育成を目指して、収量の調査や一番茶を製茶した試料茶の官能検査3などを行っています。今年は4つの系統4を調査したところ、収量が多く、品質にも優れるものが2系統ありました。
今後は、生育状況や均整度の調査などのほか、品種化に向けてより詳細な調査に取り組んでいきます。

1 交配:種子を得るために、雌しべに花粉を受粉させること
※2 てん茶:抹茶の原料となる茶
※3 官能検査:視覚や味覚などの感覚を使って、対象の優劣などを検査する方法
※4 系統:種子から育てた茶樹を挿し木で増殖したもので、品種候補となるもの

茶の香りを官能検査しているところ

宇治茶実践型学舎の二番茶期現地実習を実施

当所では、令和元度から宇治茶実践型学舎を開講し、新規に宇治茶生産農家を目指す担い手の育成を進めており、令和4年11月に4期生が1名入舎しました。
当所は、学舎4期生に対して一番茶製茶実習で基礎的な栽培管理方法、製茶方法の研修を実施した後、4期生の就農予定地である南山城村で、茶業後継者・新規就農者の確保・育成を目指す「南やましろ村茶業塾(事務局:南山城村)」の茶業指導員7経営体に協力いただき、6~7月に二番茶の現地実習を行っています。
学舎生は、就農予定地で多くの先輩経営者と交流し、より実践的な実習を行うことで、現場の経営感覚に触れながら地元生産者との信頼関係を深め、スムーズな就農に向けた準備を進めています。

揉み茶の摘採、製造実習を行う4期生(K共同製茶組合)

5月

生産現場における製茶省力化試験の実施

てん茶製造工程において、蒸熱・乾燥条件の設定は、経験の蓄積を要する技術です。この条件を設定するために生葉の繊維含有量は重要な指標であることが近年の研究で明らかになってきましたが、現在の技術では迅速かつ簡単に測定することができません。
そこで、当所では、茶の生葉繊維含有量を迅速かつ簡易に測定し、さらに適切な蒸熱・乾燥条件を測定値に基づき設定する研究を進めています。一番茶期に5か所の生産現場を訪問し、現地生葉の繊維含有量の測定を行ったところ、現地の茶園においても当所が開発した方法により概ね測定できることを確認しました。
今後は、得られた生葉の繊維含有量のデータに基づき、蒸熱・乾燥条件の自動設定ができるシステムを開発する予定です。

生産現場で茶の生葉の繊維含有量を測定する研究員

気象データを活用した茶園ごとの害虫防除適期予測

クワシロカイガラムシは、茶樹の枝に寄生して吸汁し、最悪の場合、茶樹を枯死させる茶の重要害虫ですが、防除適期は卵から孵化して2~3日の間に限られます。幼虫は0.3mm以下と肉眼での観察が困難なサイズであるため、防除適期の見極めが非常に難しい害虫です。
当所が開発した「茶生育等予測マッピングシステム」は、茶園ごとの気温を推定し、推定した気温の積算によりクワシロカイガラムシの孵化時期を予測可能であり、今年度はタスクチーム活動として府内各地で実証を行っています。本システムのメールアラート機能により、当所茶園で孵化時期になったと通知があり、調査を行ったところ防除適期であることを確認しました。
今後は本システムの利用可能地域を広げつつ、予測できる機能を拡大していく予定です。

システムのアラート画面
 

上:枝についた幼虫(肉眼では見えない)
下:カイガラ内で孵化した幼虫(顕微鏡写真)

宇治茶実践型学舎の一番茶期実習を実施

当所では、令和元年度から宇治茶実践型学舎を開講し、新規に宇治茶生産農家を目指す担い手の育成を進めており、令和4年1月に3期生が1名、同年11月には4期生が1名入舎し、現在2名の学舎生が就農に向けて研修に励んでいます。
4月25日~5月18日に当所の一番茶期の摘採・製造実習を実施しました。学舎生にとって、年に一度の貴重な一番茶期の作業経験であり、摘採機の取扱いや揉み茶・てん茶製造方法を研究員から学びました。
また、3期生は、南山城村の共同製茶組合において実地研修も行い、茶業技術を習得するとともに農業者との信頼関係を深め、就農に向けた準備を進めています。

茶の摘採実習(当所)

4月

令和5年度茶業技術研修生入所式

当所では、茶生産農家と茶流通業者の後継者を対象に、宇治茶業界を担う人材を育成するため、大正14年から本研修を実施しており、現在までに201名の研修生を現場に送り出しています。
令和5年度は、入所式が4月11日に開催され、宇治市、南山城村から各1名の計2名が入所しました。1名は生産農家、1名は流通業者の後継者です。研修生は、当所職員の指導を受けながら、1年間のほ場実習、製茶実習、講義カリキュラムを通じて、茶業経営の技能の習得に努めるとともに、就農、就業後に直面する課題を想定し、1人1課題のプロジェクト研究に取り組みます。

所長の式辞を聞く研修生

入所にあたり宣誓する研修生

令和5年度製茶技術研修会

当所ではお茶の技術普及を行う普及指導員を対象に、製茶期を目前に控えて、製茶技術の基本習得を目的に研修会を開催しています。
今年は4月18日に開催し、京都府内から集まった普及指導員など8人に対して、当所が講義を行いました。受講者たちは製茶指導年数別に研修の獲得目標について理解した上で、2班に分かれて、工場で説明を受けながら実際に製茶作業を行いました。最後は自分たちで製茶したお茶の香り、見た目、味などを審査し、製茶作業を振り返りました。
受講者からは「実際に体験したことにより、生産者目線でどういった点に気をつけながら作業をするべきか理解できた。今後、この体験を普及活動に活かしていきたい。」などの声が聞かれました。

製茶に関する講習を聞く受講生

実際に製茶しながら説明を聞く受講生

 

過去の月報リンク

お問い合わせ

農林水産部京都府農林水産技術センター 茶業研究所

宇治市白川中ノ薗1

ファックス:0774-22-5877

ngc-chaken@pref.kyoto.lg.jp