ここから本文です。

30年度茶業研究所月報

3月

茶業技術研修生プロジェクト研究発表と修了式

平成30年度の茶業技術研修生修了式を3月20日に開催しました。本年度の研修生は、宇治市の茶生産者の後継者で、一年間茶業経営に必要な知識と技能について学ぶとともに、就農後に直面する課題の解決方法を習得するため、プロジェクト研究にも取り組みました。
プロジェクト研究の成果発表では、自園の在来茶樹の品種登録を目指す取り組みが報告され、「データを集める難しさが判った。これから品種登録を目指す。」と意気込みを語りました。
大正14年の茶業研究所創設以来、191人目の研修生が巣立ちました。今後は、茶業の担い手として宇治茶を支えていきます。

 

修了証書授与 謝辞を述べる研修生
修了証書授与 謝辞を述べる研修生

 

2月

新たな機能性成分など最新の研究成果を報告

2月8日、研究成果を速やかに普及することを目的に、平成30年度茶業研究所研究報告会を開催し、茶生産者や茶商業者など280名が参加されました。高品質宇治茶の新しい機能性成分、海外輸出に向けた病害虫防除体系、高品質なてん茶製造のための技術開発について報告するとともに、てん茶の熟成、繊維含有率推定による摘採適期判定についてのポスター発表を行ったところ、参加者からは「機能性や輸出など最新の研究のトレンドを知ることができた」「今後もてん茶の熟成についての研究を進めてほしい」、「自分の判断している摘採適期の確認のため、データを取ってみたい」などの意見があり、関心の高さがうかがえました。
今後も宇治茶の生産・流通現場のニーズを捉えた研究を行い、宇治茶ブランドの発展につながる成果の普及を目指します。

 

発表風景2 発表風景1
研究成果を報告する研究員 ポスター発表での活発な議論

 

1月

平成30年度京都府育種専門部会(茶業チーム)を開催

育種専門部会(茶業チーム)では、京都府育成品種のスムーズな普及・定着を目指して、宇治茶として新品種に求められる特性や育種方針について、毎年茶市場・流通業者団体・生産者団体等の関係機関と協議を行っています。
今年度は1月29日に開催し、現在育成中である煎茶用新品種候補の求評を行いました。その結果、外観の色が青く収量が多い系統、さわやかさ、香ばしさ、うま味を連想させる柔らかな香がバランスよく調和した香りの濃い系統については、次年度以降の試験で新品種としての適性を見極めていくことになりました。
また、抹茶ブームによる需要増加を背景とする中で、はさみ摘みてん茶品種に求められる特性について意見交換を行ったところ、「収量が確保できること」や現場導入時に作業分散を図るために「現行の主力品種と異なる摘採時期が必要」等の意見が挙がりました。
当所では、専門部会で得られた意見を活かし、ニーズを捉えた京都オリジナル品種育成を進めていきます。

 

煎茶用新品種候補について意見交換  

 

宇治茶の担い手の経営力向上に向けた実践技術講座開催

当所では、京都府茶業会議所※1との共催で宇治茶アカデミー※2を開講しています。本年度から、リニューアルした施設を活用した講座をカリキュラムに取り入れており、1月17日に第2回講座「研究所で学ぶ効果的な病害虫管理」、1月28日に第3回講座「オープンラボで分析する茶品質の違い」を開催しました。
新規導入した機器・顕微鏡を用いた茶の害虫の観察実習、オープンラボの機器による成分分析等を通じて、「農薬を気にされる消費者が多いので、今回得た害虫や農薬に関する知識をお茶の普及活動につなげたい」、「今回学んだ簡易な分析法(含水率、糖度計、スマホアプリでの色情報取得など)をお茶やお茶を使った食品の分析に活かしたい」などの感想が聞かれました。
当所では、今後も施設を活用した技術研修、新商品開発支援等を通じて、宇治茶の担い手の経営力向上を支援します。
※1 京都府茶業会議所…宇治茶の生産者団体(京都府茶生産協議会)と、流通業者でつくる事業協同組合(京都府茶協同組合)を会員とする公益社団法人
※2 宇治茶アカデミー…宇治茶の生産、流通、販売等に携わる担い手の経営力・発信力の向上や交流を目的として、平成26年度から開講

 

害虫の拡大画像観察 茶の成分分析を体験

 

12月

自然仕立て園における省力防除技術の開発

宇治茶を代表する高品質な玉露・てん茶は手摘みで収穫されており、自然仕立て園※1で生産されています。自然仕立て園での防除作業は、地面に近い葉から長く伸びた枝の上の葉まで薬液が付着するように、長い薬液散布用の竿を上下しながら、うねの片側ずつ散布する必要があり、大きな労力がかかっています。そこで、当所では、うねの両側の茶樹全体を同時に防除することで、防除作業の省力化ができる自然仕立て用防除機の開発に取り組んでいます。
今年度は、施設園芸で作業省力化の実績がある防除機を活用して、茶樹の枝が最も長くなる生育停止期以降の12月18日に、走行性と感水試験紙を利用した散布の均一性を確認しました。その結果、基本仕様の2輪よりも1輪の方が走行安定性が高まること、屋内での使用を想定した防除機のため、風により薬液付着状況が不均一になることが明らかになりました。
今後、薬液付着状況の調査を進め、自然仕立て園での防除に適する部品・設定条件を検討し、新たな防除機の試作を行います。

注※1 自然仕立て園…機械による摘採がしやすいように半円筒状に整えられた機械摘み仕立て園と異なり、チャの自然な樹形を活かした茶園

注※2 感水試験紙の設置…水分により色が変わる試験紙を水平と垂直にした板の両面に設置することで、葉の角度・表裏による付着の違いを見る

 

今回用いた施設園芸用防除機 うねの両側の地面付近から1.5m程度の高さまでを同時に薬液散布可能 感水試験紙の設置※2

11月

宇治茶アカデミーを開講しました

当所は、京都府茶業会議所※1との共催により、宇治茶の生産、流通、販売等に携わる担い手の経営力・発信力の向上や交流を目的として、平成26年度から宇治茶アカデミーを開講しています。
今年度は、「経営向上に役立つ実践技術」について、全5回の講座を33名の受講生を迎え、実施しています。
11月27日に第1回講座を開催し、茶の品質評価のための官能検査※2の技術研修と、茶の特性を消費者に伝える表現方法についてのグループワークを実施しました。受講者からは、「グループでの意見交換により、自分の感じ方と他の人の感じ方を比較しながら、品質の比較ができたのが良かった」、「商品の紹介にチャートや表を使ってみたい」などの声が聞かれました。
第2回以降は、オープンラボをはじめとしたリニューアルした茶業研究所の施設を活用した技術研修、講演等を通じて、宇治茶のイノベーションに繋がる人材づくりを進めます。
注※1京都府茶業会議所…生産者で組織する「京都府茶生産協議会」と、流通業者で組織する「京都府茶協同組合」を会員とする公益社団法人
注※2官能検査…人間の感覚(味覚、嗅覚など)を用いて品質を判定する検査のこと


官能検査に取り組む受講生

10月

茶園品評会の審査研修会を開催

茶園の適切な栽培管理により宇治茶の生産性・品質の向上を図るため、毎年10月~11月に各市町村又は京都府内の茶生産者団体が主催となり、府内各地で茶園品評会が開催されています。当所では、茶園品評会の開始に先駆け10月11日に、審査員(農業改良普及センターやJAの職員等)を対象として、審査方法を確認するための研修会を実施しました。
研修の内容は、茶園審査の観点(枝・葉の付き方、病害虫管理、土づくり等)について講義を行った後、現地茶園において実地研修を行いました。受講者は、昨年までの審査で評価にばらつきのあった幼木茶園の生育状況などの項目について活発に意見交換し、審査の視点について統一を図りました。


自然仕立て園での実地研修で意見交換をする受講者

9月

てん茶の製茶品質を改善する

近年、抹茶の原料であるてん茶の生産量が全国的に増え、品質が向上しつつある中で、宇治茶ブランド維持のために高品質なてん茶生産が求められています。
しかし、てん茶の荒茶※1製造工程における乾燥の過不足・むらによる、香味不足等、品質低下が問題となっています。仕上げ乾燥は、てん茶の乾燥の過不足・むらを改善できるため、当所では、仕上げ乾燥条件と品質の関係について調査を進めています。
今回、品質を調査するため、官能検査※2を実施したところ、高温条件のサンプルで香りが薄くなる傾向が見られました。今後、現在進めている香気成分の分析結果との関連を解析し、仕上げ乾燥の設定が適切となるよう、指標作りを進めます。
※1荒茶:茶流通業者が製品にする加工を行う前の状態の茶。
※2官能検査:人間の感覚による茶の品質評価方法。

香気成分の分析機器

8月

煎茶用新品種育成に向け、製茶品質の評価を行いました

当所では、高品質な煎茶の生産に向けて、府オリジナル品種の育成を進めています。
新品種の候補として、宇治在来種18系統と、奨励品種「うじひかり」、「あさひ」等を母樹とした自然交雑実生※1の中から選抜・育成した4系統の計22系統について官能検査による品質評価を行いました。官能検査の結果、全国でも京都府でも最も生産量の多い品種である「やぶきた」と比較して、味と香りが同程度かそれ以上の系統が2系統みられました。
今後、今年度を含めて5年間同様の品質評価を行い、有望系統の選抜を進め、茶商工業者やJAなどの評価などを踏まえながら、品種登録に向けた現地適応性試験※2を2023年から実施する予定です。
※1 自然交雑実生:人工交配によらず自然にできた種子を発芽させて得た植物体
※2 現地適応性試験:現地での生育特性や製茶品質を調査する

試験ほ場、摘採直前の新芽

高校生の科学学習を支援~宇治茶の魅力、茶業研究所の取組内容の情報発信~

当所では、研究内容の紹介や宇治茶についての理解を深めてもらうため、多方面からの視察を積極的に受け入れています。
8月1日、西舞鶴高等学校理数探究科の生徒16名が、科学学習合宿(サイエンスキャンプ)の一環として、来所されました。「宇治茶についての研究紹介」、「茶種・淹れ方の違いによるお茶の味・成分の変化」をテーマとして、施設見学、お茶の淹れ方実習を行いました。施設見学では、オープンラボ、茶園、人工気象室等を案内しながら、宇治茶の成分的な特徴の解明、病害虫対策技術の開発、新たな品種の育成など、当所で取り組んでいる研究について説明を行いました。
生徒からは、「お茶について幅広い研究がされていると分かり興味深かった」、「玉露は、いつものお茶と違って出汁の味や海苔みたいな香りがする」、「茶種による味の違いを比べるのが楽しい」などの感想が聞かれました。

 

交流室でのお茶の淹れ方実習 人工気象室での栽培実験を見学

7月

第36回京都府茶品評会の運営を支援

茶の栽培・製造技術の改善による府内産茶の品質向上を目指して、京都府茶生産協議会主催の京都府茶品評会審査会が、7月3、4日に宇治茶会館で開催され、煎茶、かぶせ茶、玉露、てん茶について審査が行われました。
当所は、審査員を担当するとともに、審査の補助員として、関係機関と連携し、審査用見本茶の準備や得点記録の集計など、円滑な審査会運営に努めました。
本年は2月下旬から4月下旬までの平均気温が平年と比べて高く、新芽の萌芽・生育が早まり、被覆期間や摘採時期の判断に注意が必要でしたが、上位のお茶は香りや味など品質の優れたものがそろっており、出品者の高い技術と努力が伺えました。
来年京都府で開催される関西茶品評会での上位入賞に向け、審査会で指摘された栽培、製造工程での改善点について、普及センターや地域の部会等関係機関を通じて出品者に伝えるなど、生産技術の向上を支援します。

 

てん茶の外観審査 審査用見本茶への注湯作業

多方面からの視察受け入れ、宇治茶を情報発信

当所では、平成29年度のリニューアルを機に多方面からの視察を受け入れ、当所の取組や宇治茶についての情報発信を行っています。
7月には、茶業関係者のみならず、林業関係、建築関係、金融関係等16団体の視察を受け入れました。
視察者からは、「手摘みと機械摘みの違いで品質がどのように変わるのか」など、宇治茶に関する具体的な質問を受けました。
また、7月12日には、林野庁長官が林業大学校の学生とともに府内産木材を利用した研究棟・製茶棟の木製工法・構造物について視察され、併せてシンプルなオープン空間の交流室で学生に対して、今後の林業振興、木材振興について講義をされました。
今後もより多くの方に情報発信できるよう、積極的に視察を受け入れます。

 

林野庁長官が製茶棟を視察 交流室を利用して林業大学校が授業

 

6月

高品質な宇治茶に含まれる特徴的な成分の解明

当所では、宇治茶ブランドの価値をさらに高めることを目指し、宇治茶の健康機能性について研究しています。
今年度は、宇治茶を代表する高品質なてん茶(抹茶の原料)に多く含まれる成分を明らかにするために、市場に流通している約150点のてん茶について、100項目の一斉成分分析を行いました。
今後、成分データの解析を進めるとともに、大学等と連携し、テアニンをはじめとする特徴的な成分の健康機能性を明らかにしていきます。得られた情報は、茶業団体等と協力して、消費者へ向けて発信し、宇治茶の消費拡大を目指します。
※テアニン:玉露やてん茶に多く含まれるアミノ酸。茶のうま味成分の一つで、リラックス効果等の健康機能性を持つ可能性が示されている


左上. サンプルの抽出作業
右. 一斉成分分析データを用いた解析の例
左下. 一斉成分分析データ(イメージ)
(ピーク(例:↓)の数が成分数に対応する)

5月

近赤外光を利用したてん茶の摘採時期判定技術の開発

当所では、新芽の生育状態を数値化・可視化することで、熟練が必要なてん茶の摘採時期の判断について、近赤外光を利用した判定技術の開発を行っています。
これまでに、製茶品質と関連の深い新芽の繊維※1含有率を推定するために近赤外光反射率※2との関係を解析し、有効な近赤外光の波長域を明らかにしました。
今年度は、近赤外光と実際の製茶品質との関係性を確認するために、経時的にサンプリングを行い、製茶をしました。今後、てん茶の成分分析と官能検査を行い、近赤外光による摘採時期判定技術の確立を目指します。
※1 新芽の繊維:新芽の硬さの指標っています。
※2  近赤外光反射率:植物ではストレス状態や葉の構造によって変化するため、成長や発達段階を把握する研究に用いられている

 30-5

  近赤外光反射率による新芽生育の数値化(イメージ)

4月

平成30年一番茶新芽の生育状況調査

茶業研究所の定点茶園において、一番茶新芽の萌芽・生育状況について調査を行い、府内生産者及び関係機関に情報提供を行っています。
本年は2月下旬以降の平均気温が平年と比べ高くなり、一番茶の萌芽が前年より4日、平年よりは2日早い4月3日となりました。萌芽以降も平年より平均気温が高く(4月平均気温 平年差+1.3℃)なり、新芽の生育は平年より1週間程度早まりました。
一番茶の摘採が終了する6月以降には、萌芽・生育状況・収量調査の結果をまとめ、本年の一番茶を振り返るための資料として公表します。
※萌芽:新芽の長さが包葉(芽を包んでいた葉)の約2倍になった状態のこと

 

  

  

左上. 萌芽宣言(記者発表)
左下. 萌芽した新芽っています。
右上. 摘採前日の茶園
本年. 摘採前日の新芽

 過去の月報リンク

お問い合わせ

農林水産部京都府農林水産技術センター 茶業研究所

宇治市白川中ノ薗1

ファックス:0774-22-5877

ngc-chaken@pref.kyoto.lg.jp