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R3年度茶業研究所月報

3月

宇治茶機能性コンソーシアムセミナーを開催

宇治茶機能性コンソーシアムでは、機能性成分を豊富に含む高品質な抹茶の健康促進効果の解明を進めてきており、令和元年度から3年間取り組んだ研究、「宇治茶(抹茶)でおなかの調子を整えよう」(京都府立医科大学)、「3ヶ月でみられる高品質抹茶の作用」(京都府立医科大学)、「乳酸菌で、てん茶の茎からスペルミジン」(京都工芸繊維大学)及び「高機能性成分を豊富に含む宇治茶を遺伝子レベルで選び出す」(京都府立大学)の4課題について3月22日に消費者向けセミナーを開催しました。
セミナーは、宇治茶会館からオンラインで実施し、約250名が視聴しました。Zoomのチャットでは「4週間の抹茶飲用で腸内フローラが変わるのか」など多数の質問が寄せられ、30分の質疑応答時間で対応しきれないほどでした。
本セミナーの内容は、当所HPからの申し込みにより視聴できるよう準備をすすめています(https://www.pref.kyoto.jp/chaken/index.html)。
また、次年度以降も本研究成果を継続発展させて行く予定です。

※京都府茶業研究所、(公社)京都府茶業会議所、京都府立医科大学、京都工芸繊維大学、京都府立大学等が参画し、高品質な抹茶の機能性に関する研究や情報発信により、宇治茶の消費拡大を推進

講演の様子をZoomで配信
講演の様子をZoomで配信

チャットで寄せられた質問に応える講演者
チャットで寄せられた質問に応える講演者

~煎茶をもっと美味しく簡単に~
当所が開発協力したティードリッパーが発売されました

急須で淹(い)れたお茶は、ペットボトルのお茶よりも、旨味成分や健康に関わる機能性成分が多いことが報告されています。しかしお茶の美味しさは、茶葉の量や抽出時間など、様々な要素に左右されるため、急須で美味しいお茶を淹れるのは少々難しいとされています。
そこで当所では、家庭で美味しい宇治茶を楽しんでいただくために、京都府茶協同組合と民間企業と連携し、簡単に美味しい煎茶を淹れることができる、ティードリッパーを開発しました。このティードリッパーを使うと、茶葉やお湯の細かい調節を必要としないので、誰でも簡単に煎茶本来の旨味を楽しむことができます。
また当所にて成分分析を行った結果、ティードリッパーで淹れたお茶は、急須で淹れたお茶と同程度の旨味成分(アミノ酸類)を含み、免疫を高めるとされている成分(カテキン類)をより多く含むことが分かりました。
当所では、今後も新しいお茶の飲み方を提案し、宇治茶が機能性成分の摂取にも有効として愛飲されることで、宇治茶のさらなる需要拡大を目指します。

3月10日に発売されたティードリッパー煎茶モデル
3月10日に発売されたティードリッパー煎茶モデル

お茶に含まれる主要成分の比較
お茶に含まれる主要成分の比較

 

2月

お茶をおいしく保管するための技術の確立に向けて

コロナ禍で在宅時間が増えたことで、緑茶を飲む機会が増えたと言われています。しかしながら、開封したお茶は、購入時のアルミ袋のまま保管する場合がほとんどで、開封後1か月が経ったころには、お茶の味が劣化しています。
そこで、当所では最後までお茶を美味しく飲んでいただくために、家庭でも使用頂ける保管容器の開発に取り組んでいます。
温度、酸素、水分がお茶の品質に与える影響を調査したところ、特に水分の影響が大きいことが分かりました。お茶が吸湿すると品質の劣化が進み、1か月後には、赤みがかった渋味のあるお茶になりました。
今後は、民間企業と協力して、お茶が空気中の水分の影響を受けにくく、お茶を美味しいまま保管できる技術を開発します。

温度、酸素、水分がお茶の品質劣化に与える影響を調査
温度、酸素、水分がお茶の品質劣化に与える影響を調査

様々な保管容器でお茶を保管し、お茶の品質劣化程度を調査
様々な保管容器でお茶を保管し、お茶の品質劣化程度を調査

 

1月

宇治茶実践型学舎3期生入舎式

当所は、宇治茶生産の担い手を確保し、新規茶業経営者の育成を図るため、令和元年度に「宇治茶実践型学舎」を設立し、京都府内での就業・就農を推進しています。
このたび、当所において、令和4年1月19日に宇治茶実践型学舎3期生の入舎式を執り行い、伊藤裕貴さんが入舎されました。伊藤さんは、非農家ながら、宇治茶の栽培や製造に強い関心を持ち、茶業経営で生計を立てることを志し、2年間のカリキュラムを通じて、茶の栽培や製造の実際と理論について研修されます。
当所では、伊藤さんのスムーズな就農に向けて、技術指導、座学による講義、現地実習の調整、就業地とのマッチングなどを行っていきます。


所長式辞に傾聴する伊藤さん

12月

「宇治茶実践型学舎」初の修了生が茶業経営を開始します

当所は、宇治茶生産の担い手を確保し、新規茶業経営者の育成を図るため、令和元年度に「宇治茶実践型学舎」を設立し、京都府内での就業・就農を推進しています。
このたび、宇治茶実践型学舎を設立後、初めてとなる2名の学舎生が研修を修了したため卒舎式を行いました。学舎生からは、「学んだ知識や技術を活かして、高品質の宇治茶を作れる農家になりたい」と決意表明がありました。
今後、修了生の2名は、実地研修を行った南山城村で新規就農することとしており、宇治茶生産農家としての第一歩を踏み出します。

左上から右回りに:卒舎式で修了証書を受け取る修了生、就農に向けて決意を新たにする修了生、当所での製茶加工研修の様子、茶生産現場での実施研修の様子

「宇治茶実践型学」
茶業経営に必要な茶園管理、製茶加工に関する基礎的な知識や技術の研修と就農地で先進農家の元での実地研修を組み合わせたカリキュラムにより、原則2年間で技術や経営能力を身につけることができる研修制度

京都府茶業連合青年団との交流会開催

茶商工業者と茶生産者の青年で組織される京都府茶業連合青年団40名と互いに親交を深め、協力体制を強化することを目的に交流会を開催しました。当所から本館の案内、新型てん茶機の紹介を行った後、場所を宇治茶会館に移し、当所が現在進行中の研究課題の紹介、新型てん茶機で製造した荒茶の展示、新提案の煎茶の入れ方による試飲を行いました。その後、研究員と青年団の意見交換を行いました。
青年団から研究課題への熱心な質問があったほか、研究内容に対する貴重な意見をいただくなど、互いに有意義な交流会となりました。
今後も茶業関係者と密に連携し、宇治茶の生産振興につなげる活動を行っていきます。

左上から右回りに:てん茶機(左:新型、右:従来)の説明、新型てん茶機による荒茶を吟味、新提案の煎茶の入れ方に興味津々、研究課題への質問に丁寧に回答

11月

令和3年度宇治茶アカデミーを開校しました

当所は、宇治茶の情報発信拠点として、京都府内の茶生産者、流通、販売業者等を対象に、経営力や宇治茶の伝統や価値の発信力の向上、参加者の交流を目的として、令和3年度宇治茶アカデミー(全5回)を「時代の変化を意識して経営力を養う」をテーマにオンラインで開催しています。
11月25日開催の第1回は、38名の参加があり、京都市の老舗和菓子屋である亀屋良長(株)の吉村由依子氏から新商品開発について、「作り手の思いだけでなく消費者の望まれる商品を開発すること」、ネット販売アドバイザーである(株)たねをまくの高口大樹氏からECサイトでの効率的な農産物販売について、「販売開始1時間で商品が完売するためにするべきこと」などの講演を頂き、今後の経営に活かせることを意見交換しました。
受講者からは「お客様が商品を使うシチュエーションを想像しやすい商品作りをしていきたい」、「商品の魅力や希少性が一目で分かるコピーライティングなど購入したくなる仕組みを作っていきたい」などの感想がありました。
第2回は1月25日に福岡県八女市農業振興課の椎窓孝雄氏を講師に玉露の新たな可能性についての講演とグループワークを行います。


左:具体的な新商品を例に開発ポイントを確認(吉村由依子氏 講演)
右:販売する時のチェックポイントを確認(高口大樹氏 講演)

10月

茶園品評会審査研修会を開催

秋が深まってくると、茶の木の生育は止まります。この頃には、茶栽培技術の改善により宇治茶の生産性と品質の向上を図ることを目的に、府内各地で茶園品評会が開催されます。茶園品評会の審査員には、審査の視点を理解し、厳正に審査することが求められます。
そこで、当所の職員が講師となり、京都府茶生産協議会と共催で、審査員である農業改良普及センターやJAの職員等を対象とした審査研修会を開催しました。研修会では、当所の研究員が実際の審査を模した実演と解説をしました。「実演だったので分かりやすかった」「品種の違いがよく分かった」といった反響がありました。
今後も、宇治茶ブランドを守るために、茶園品評会をはじめとした取組を支援していきます。

審査の実演を交えて解説

9月

宇治茶文化講座2021の第1回講座を開催

京都府と京都文教大学が共催の「宇治茶文化講座」は、宇治茶の世界文化遺産登録に向けて、宇治茶の魅力と価値を学ぶことを目的に開催しています。今年で8年目を迎え、昨年よりオンライン講座としたことから国内の宇治茶ファンをはじめ、今回、海外からの受講が2件あるなど、お茶に興味のある方の受講が増えてきています。
当所で行われた第1回講座は、約100名の受講があり、当所の歴史や研究成果の説明、オープンラボの案内、茶園でのクイズを交えながらお茶の栽培について学んでいただきました。最後に、おいしいお茶の淹れ方を研究員が実演しながら説明し、文教大学学生「宇治☆茶レンジャー」とともに淹れたお茶を楽しみました。受講者からは「茶研でやっていることがよく分かった」、「茶園現地リポートやお茶の淹れ方の実演などでわかりやすく楽しめた」などの声が聞かれたほか、「品質向上やニーズに合ったお茶などを更に研究してほしい」という御要望もいただきました。
今後もこのような広報活動を通じて宇治茶ファンの裾野を拡げ、京都産茶の生産振興につなげる活動を行っていきます。

左:Zoomによる配信
右:おいしいお茶の淹れ方を説明

8月

宇治茶の新品種を育成する

他産地との差別化を図るため、「宇治茶の新品種」は、生産者や茶商工業者からつねに求められています。そこで当所では、京都の優良品種を交配注1親として、収量性や品質に優れる茶の品種の開発に取り組んでいます。
現在、てん茶用品種の育成を目指して、収量の測定や一番茶を製茶した試料茶の官能検査注2などを行っています。今年の一番茶について13の系統注3を調査したところ、収量が多く、品質にも優れるものが1系統ありました。
今後は、生育状況や均整度の調査などを含め、同様の調査の年次反復を行い、品種登録を目指します。
注1 交配:種子を得るために、雌しべに花粉を受粉させること
注2 官能検査:視覚や味覚などの感覚を使って、対象の優劣などを検査する方法
注3 系統:種子から育てた茶樹を挿し木で増殖したもので、品種候補となるもの

浸出した茶の味を検査しているところ
(審査中はマスクをはずしています)

7月

府内小学生に宇治茶の魅力を発信~夏休み自由研究プロジェクト

宇治茶の情報発信拠点である当所は、府内小学生に宇治茶の魅力をより深く知ってもらおうと、本年度で3回目となる夏休み自由研究プロジェクトを7月27日~29日に開催しました。
プロジェクトでは、自由研究テーマとして宇治茶を取り上げてもらい家庭で学ぶ機会を提供するために、親子で一緒に学べる2つの体験コース(「茶園の虫を観察しよう」、「お茶を鑑定し成分を測ろう」)を企画し、7家族27名(うち小学生16名)に参加いただきました。
参加者は、「いくつもの種類のお茶を飲めてとても面白かった」「抹茶をしゃかしゃかした(茶筅で点てた)のが楽しかった」「日頃なにげなく飲んでいるお茶について、親子で一緒に学べる機会ができ、お茶の奥深さについて新たな発見があった」と大変喜ばれていました。
当所では、研究所の特徴を活かした宇治茶の情報発信を続け、宇治茶ファンの裾野を広げることで、茶業振興に貢献していきます。

左から:品質の異なる抹茶を飲み比べ、お茶の審査に挑戦、分析機でお茶の成分を測定、茶園にいる虫をつかまえよう!

6月

新たな凍霜害対策に向けた予備調査を行いました

近年、暖冬により新芽の生育が早まる傾向にあり、春先の低温による凍霜害が従来より問題となっています。そのため、既存の凍霜害対策に加え、新たな対策について、現場から要望されています。
そこで、新たな凍霜害対策について、国の研究機関である農研機構農業環境研究部門と意見交換会を実施しました。その際得られた知見や意見をもとに、新たな被覆資材が被覆内温度に与える影響について、室内で予備調査を行いました。被覆資材の違いにより被覆内温度に差が見られたことから、新たな対策に繋がる可能性が期待できました。
当所では、現場で問題となっている凍霜害の軽減に向けて、様々な被覆資材やその設置方法などについて調査研究を行う予定にしています。

室内(人工気象器)における異なる資材による被覆内温度の影響調査
(1時間かけて室温から5℃に温度を降下させた場合)

5月

宇治茶実践型学舎の一番茶期実習・現地研修を実

当所では、一昨年度から宇治茶実践型学舎を開講し、新規に宇治茶生産農家を目指す担い手の育成を進めています。一昨年12月に1期生、昨年11月に2期生が1名ずつ入舎し、研修を進めています。
4月30日~5月21日に当所の一番茶期の摘採・製造実習および一番茶期の茶市場、現地の茶工場で研修を実施しました。
学舎生にとって、年に一度の貴重な一番茶期の作業経験であり、摘採機の取扱いや揉み茶・てん茶製造を学ぶとともに、茶市場の状況や実際の農家での茶製造などについて熱心に実習を行いました。
6月以降は、南山城村において複数の生産者の元で実地研修を行い、茶業技術の習得や農業者との信頼関係を深め、就農に向けた準備を進めます。

左から:被覆茶の摘採実習(当所)、揉み茶の製造実習(当所)、品質鑑定研修(JA全農茶市場)、てん茶農家での実地研修(南山城村)

4月

緑茶カテキンのコロナウイルス抑制の可能性を検討

新型コロナウイルス感染症は、第4波が襲来し、その収束の見通しがたっていません。
一方、緑茶には抗ウイルス作用を持つ茶カテキンが含まれ、新型コロナウイルスに対しても効果があるのではないかと期待されています。
当所では京都大学ウイルス・再生医科学研究所と共同で、茶カテキンの新型コロナウイルスへの効果試験を行ってきました。また、国内では複数の医学系大学で、同様な研究が行われており、少しずつ成果が出始めています。
そこで、国内で茶カテキンの新型コロナウイルス感染抑制効果を研究中の先生方をお招きして、「緑茶と健康シンポジウム」をZoom配信しました。視聴者は国内外から700名におよびました。ディスカッションでは、茶カテキンは治療薬ではないが、口腔内のウイルスの活性を低下させる可能性があることから、多くの国民が緑茶を飲用することで、集団での感染を抑制する公衆衛生的な使い方が出来るのではないかとの提案もありました。

パネルディスカッションのZoom配信の様子
(リモート参加者らは飛沫感染防止のうえ、マスクを外しています)

令和3年度茶業技術研修生入所式

当所では、茶業の担い手確保と技術や知識に加え経営力を持った人材を育成するため、大正14年から本研修を実施しており、現在までに196名の研修生を宇治茶を支える現場に送り出しています。
令和3年度は、入所式が4月9日に開催され、宇治市、久御山町から各1名の計2名が入所しました。研修生は、当所職員の指導を受けながら、1年間のほ場実習、製茶実習、講義カリキュラムを通じて、茶業経営の技能の習得に努めるとともに、就農後に直面する課題を想定し、1人1課題のプロジェクト研究に取り組みます。

入所にあたり意気込みを語る研修生
 

過去の月報リンク

お問い合わせ

農林水産部京都府農林水産技術センター 茶業研究所

宇治市白川中ノ薗1

ファックス:0774-22-5877

ngc-chaken@pref.kyoto.lg.jp