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京都府鴨川条例(仮称)シンポジウム

 《この記事は、平成18年12月17日の京都新聞に掲載されたものです》

 京都府主催の京都府鴨川条例(仮称)シンポジウムが「世界に誇る鴨川を子どもたちへ」と題して11月5日、きらっ都プラザ京都産業会館シルクホールで開催された。府では、府民共有の財産である鴨川を、次代の子どもたちによりよい姿で引き継ぐために、「京都府鴨川条例(仮称)」の策定作業を進めている。シンポジウムには、約200人が参加し、基調講演やパネルディスカッション等を通して、鴨川の魅力を共有し、住民と行政がともに何ができるのかを議論した。

基調講演

これからの鴨川と私たち


新川 達郎(にいかわ たつろう)氏
同志社大学大学院  総合政策科学研究科長
東北学院大学助教授、 東北大学助教授などを経て、 2003年から現職。
政府や地方自治体の制度に関する分析とその改革、行政における住民参加について研究するとともに、京都府府民参画行動指針検討委員会座長、京都市政策評価制度評議会会長など歴任。著書に「地域空洞化時代 の行政とボランティア」など多数。


 鴨川は、京都に都が定まって以来、地域で暮らす人々に大きな恩恵を与え、時に洪水という災害ももたらしながら、生活に深い関わりを持ち続けて今日まで流れ続けています。
 忘れてならないのは、鴨川は人や物、地形、地物や動植物、さらには時代ごとの暮らしや文化も含め、実に様々なものによって形づくられていることです。ですから、現在、策定が進められている「京都府鴨川条例(仮称)」を検討する時も、鴨川を巡る様々な視点を受け入れる寛容さを持たねばなりません。関係者が時に対立するような課題に直面しても、鴨川という一つの存在を共に考える姿勢を共有することがとても大切だと思います。
 幸いなことに、京都では多くの流域住民の人たちが鴨川に対して、強い関心を持っておられます。1950年代の鴨川の景観を守る運動。1980年代の鴨川ダム是非論。1990年代の歩道橋問題などは、その例です。そして2003年に開催された第3回世界水フォーラムでは、地域住民やNGO、NPOが幅広く参加し、世界の水環境を住民主体で考え直す動きが京都でも広がりました。これほど住民と河川との関係が維持されている例は、全国でも珍しいと思います。
 住民参加の形態に、私は3つの段階があると考えています。まず、第1段階では清掃活動などをきっかけに川に関心を持つこと。第2段階では、子どもたちが総合学習などに取り組み、大人も河川を利用することから進んでもう少し深く川を学ぶこと。そして第3段階では河川の管理や川づくりに住民が責任を持って参画することです。
 京都府では、住民の方に関心を持ってもらおうと、出町の河川公園整備に当たってのワークショップや「知事と和ぃ和ぃミーティング」、自然学習の試みなどに取り組まれているようです。私たち住民はこの様な機会も大いに活用して、主体的に川に関わっていくべきでしょう。
 鴨川の将来を考える時、もっともっと市民的な視点や価値観を河川管理に組み込んでいくことが大切だと思います。住民が継続して参加できるような協議機関をつくったり、府県の境を越え流域一体となって河川管理を進めたりするような具体的な取り組みが必要です。
  「京都府鴨川条例(仮称)」は、鴨川という自然の恵みとともに生きる私たちが、将来にわたり鴨川と関わっていくための住民宣言そのものです。次の世代に美しい鴨川を残すため、実効性ある条例が制定されることを望みます。

パネルディスカッション

鴨川に魅せられた私たち

 

コーディネーター
金田 章裕(きんだ あきひろ)氏

京都大学大学院
文学研究科 教授

 

 

 

 

パネリスト

小鴨 梨辺華(おがも りべっか)氏
能楽金剛流 師範

 

 

 

 

パネリスト

杉江 貞昭(すぎえ さだあき)氏
鴨川を美しくする会 事務局長

 

 

 

 

パネリスト
砂田 信夫(すなだ のぶお)氏
京都市教育委員会 指導部長

 

 

 

 

パネリスト
田中 真澄(たなか しんちょう)氏
岩屋山志明院 住職

 

 

 

 

パネリスト
槇村 久子(まきむら ひさこ)氏
京都女子大学大学院
現代社会研究科 教授

 

 

 

金田 京都府鴨川条例(仮称)の検討が進んでいるのを受けて、鴨川にご縁のあるパネリストの皆さん、鴨川への思いなどをお聞かせください。

槇村 古来、世界の都市の多くは河川を中心に形成されてきました。それほど川の持つ力は重要です。鴨川は、大都市の中にありながら、周辺の建物は低層で、緑があふれる独特の景観を持っています。人工的ではない自然の景観を保っているという点で、非常に特徴的なのです。
 五山や比叡山を望む大景観は是非守らねばなりません。その一方で、生活景観との調和も大事です。最近ではエアコンの室外機がむき出しになっているなど、川を背にした生活によって、川からの眺めが阻害されています。住民がともに、鴨川の景観をどのようにつくっていくのかを考える必要があります。

小鴨 私は今朝、めいの結婚式に出席しました。世界遺産に指定されている上賀茂神社で挙式したのですが、神官の祝詞を聞きながら、ふだん見慣れている鴨川が、実は「世界の鴨川」であることを再認識しました。私は能楽に携わっていますが、能には京都の川を題材にした作品が多くあります。『賀茂』という能は、鴨川を包み込むようにして鎮座する上賀茂神社、下鴨神社の縁起を表現したものです。平安時代末期の歌人・鴨長明作の「石川や瀬見の小川の清ければ月も流れをたづねてやすむ」の謡から舞が始まり、「貴船川水も無く見えし大井川それは紅葉の雨と降る」と、川にまつわる古歌を謡い、連れ舞う場面へとつながっていきます。現在の鴨川を意味する石川の瀬見の小川や貴船川の水の清さをいつくしみ、季節の移ろいを楽しむ日本の心が込められています。鴨川は日本文化を形づくっている大切な自然景観のひとつなのです。

田中 川を守るには、上流域の自然と生態系の保全が重要です。私が子どもの頃、鴨川に生息していた、アマゴ、ゴリ、ドジョウなどが今はほとんど見られなくなり、川の中の環境は悪くなっています。鴨川に限らず、全国の河川の自然改変の現状を直視し、再生しなければいけない状況になっています。 ある時、私の住む志明院にやって来た子どもから、山門下を流れる清水を「消毒してあるのか」と尋ねられました。自然の恵みで安全に飲める水があることを知らないのです。子どもたちに原水である、湖、小川、森の持つ意味や自然の大切さを教える心の教育も、私たちの使命だと感じています。

杉江 私が鴨川を美しくする会の活動に関わったのは25年前のことです。当時の会長、藤谷虎男氏との出会いがあり、氏の活動への熱意に感化され入会し、現在に至っています。
 今、会では鴨川合同クリーンハイクという鴨川のゴミ拾いを続けています。意識して鴨川を見ると、日頃見えないところも見えてきます。最近は家庭のゴミが増えてきました。時には抱えきれないほどの生ゴミやバーベキュー用の鉄板、テーブルも捨てられています。クリーンハイクでは、いつも3トンくらいのゴミが集まります。ゴミを捨てないという一人ひとりのマナー向上が急務と感じます。

砂田 小学校3年生から上の学年では、年間100時間程度の総合的な学習の時間が設けられています。京都市内の小中学校の約1割がこの時間に「鴨川」の学習をしています。課外学習やクラブ活動で取り入れている学校も多くあります。自然、環境、生態、歴史、洪水など幅広く学んでいます。昨年度の新道小学校5年生は、6ヵ月かけて鴨川の歴史から環境問題に至るまで、詳しく調べ上げ、素晴らしい論文にまとめ、発表してくれました。「これからゴミを捨てるのにお金のかかる時代です。鴨川にゴミを捨てる人が増えてくるかもしれません。一人ひとりがゴミを出さない心掛けと行動が大切です」と、彼らは、ここまで鴨川のことを思い、考えています。鴨川を学びの場としている小中学生の姿を大切にし、私たちも見習うべきでしょう。

金田 鴨川の価値についてのお考えや、条例策定への期待はいかがでしょうか。

杉江 鴨川の視察に、全国や海外から多くの方が見えます。鴨川の景観は、河川を中心に形成される都市の川として、世界の中でも優等生でありたいと思います。皆さん方の心掛け一つでゴミは減らせます。検討中の条例ができたなら、鴨川にかかわる地域住民、企業などが密に連携を進め、今以上に環境が良くなって、「さすが京都の鴨川」と言っていただけるよう願っています。

砂田 残念ながら、子どもたちの姿を見ていると、まだまだ鴨川の価値や実態を知らず、関心も低いように思います。鴨川に興味を抱き学ぶための、学習プログラムが必要です。鴨川に関する副読本を作成できれば、と考えています。

金田 なるほど、川への関心の低さということは、子どもだけでなく大人にも共通することでしょうね。

田中 生き物にとって水質は命です。川を利用し、利便性を追求してきた人間中心の考え方を変える時期だと思います。鴨川は信仰の川でもあり、心のよりどころでもありました。人工的な整備ばかりでなく、自然豊かな流域を保全することも重要です。

槇村 鴨川の景観は、歴史的につくられてきた景観を守ることと、新しくつくっていくことの両方を考えねばなりません。
 特に、鴨川を一過性のイベント広場ではなく、日常的に楽しめる河川空間としてつくる視点が必要です。そして、川、道路、街路樹、建築物などの調和を図るためには、行政、企業、団体、市民が連携して取り組むことが重要です。

小鴨 能役者は演じる前に必ず演目の舞台となった土地を訪れます。自分の肌で風を感じ、目で時の流れを確認して鏡板の前に立つからこそ、観客に臨場感を味わっていただけます。鴨川も、私たちがもう一度しっかり見て、感じて、その上で、良き日本の心を忘れない川づくりを考えることが大切だと思います。

金田 ありがとうございました。今回のシンポジウムでは、鴨川の価値を見つめ直すこと、環境の重要さ、子どもと大人への教育という課題がクローズアップされました。これからも、住民の皆さんからの御意見をいただきながら、京都府鴨川条例(仮称)の検討を進めてまいりたいと思います。

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