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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日:令和2年2月18日、ものづくり振興課 足利)
株式会社オリゴジェン(外部リンク)(京都市左京区)代表取締役兼社長で医学博士の城戸さんにお話をおうかがいしました。
--まずは、御社の概要を教えてください。
城戸)2015年に東京で会社を設立しましたが、2018年にここ「イノベーションハブ京都」に本社を移転しました。現在3名体制で、弊社の特許技術である「オリゴジーニー」というヒト神経幹細胞を用いて、脊髄損傷や先天性大脳白質形成不全症等に対する再生医療製品開発や創薬を進めています。
--オリゴジーニーですか。
城戸)脳や脊髄を構成する主要な細胞には、神経やアストロサイト、オリゴデンドロサイトがあり、この内オリゴデンドロサイトは神経軸索周囲に髄鞘と呼ばれる絶縁体を作る働きを持ちます。神経幹細胞は神経、アストロサイト、オリゴデンドロサイトに分化する細胞ですが、弊社のオリゴジーニーは、このうちのオリゴデンドロサイトへ非常に効率良く分化できる神経幹細胞です。実際に人の神経に存在する体性幹細胞から作っています。
--なるほど。では、オリゴデンドロサイトについて詳しく教えてください。
城戸)脳内の情報伝達は、神経軸索と呼ばれる電線のような構造を通る電気信号によって行われており、電線が絶縁体の被膜で覆われているように、神経軸索の周囲には髄鞘と呼ばれる絶縁体構造があります。この髄鞘を作っているのが、オリゴデンドロサイトという細胞です。オリゴデンドロサイトが神経軸索に一定の間隔で絶縁テープのように巻き付いて髄鞘を形成することにより、電気信号が絶縁した部分を飛び飛びに伝わり100倍以上のスピードで伝わっていくのです。これを「跳躍伝導」と言いますが、オリゴデンドロサイトは髄鞘をつくることにより、情報伝達のスピードアップに寄与しております。一方、髄鞘に異常が生じると、漏電を起こしたような状態となって神経の電気信号をうまく伝えられなくなり、麻痺や感覚障害が起こったり、様々な神経や精神の障害が引き起こされます。
--なるほど。
城戸)従って、高効率でオリゴデンドロサイトへ分化できる弊社のオリゴジーニーは、多くの神経疾患の治療に有効であると考えられています。この細胞及びその大量培養方法については既に日米欧を含む世界30カ国で特許が成立しており、この特許と細胞の分化制御技術のノウハウを合わせたものが当社のコア・テクノロジーであり、一つのプラットフォームテクノロジーを成しています。
--素晴らしいですが、作るのは難しいのですか?
城戸)開発当初は大変難しかったです。弊社と同じ体性幹細胞由来の神経幹細胞の開発を行う競合他社はありますが、これまでオリゴデンドロサイトを大量に製造する方法の開発に成功したところは、ありませんでした。
--なぜ御社は?
城戸)一言で言えば、培養条件の工夫、すなわち、培養液の成分に秘訣があります。米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)で神経幹細胞の培養方法の最適化研究やヒト胚性幹(ES)細胞から神経幹細胞や神経・オリゴデンドロサイトへ分化させる方法の研究を行なっていた経験と製薬企業と共同で再生医療製品開発を行っていた経験が役に立ちました。
--なるほど。
城戸)こうして弊社独自のノウハウを用いて製造されたオリゴジーニーは、競合他社よりも神経幹細胞としての純度が高く(>99%)、脊髄損傷などの疾患で治療効果を示すのに重要と考えられているオリゴデンドロサイトへの分化効率が5倍以上高い(他社が5-20%なのに対し、当社は>99%)ため、より高い治療効果に繋がると期待されます。
--なるほど。
城戸)また、ES細胞やiPS細胞由来の神経幹細胞よりも安全で低コストということも言えるでしょう。ES細胞やiPS細胞から誘導した神経幹細胞やオリゴデンドロサイト前駆細胞と比べると、ガン化する可能性がほとんどないため安全性試験のコストを低くできます。また分化誘導の必要がなく凍結保存も可能であるため、一度に大量に増やして凍結しておくことにより製造コストを大幅に抑えることが可能です。
--iPS細胞だと、ガン化の可能性を慎重に除いていく必要もあり、1人の患者さんのために、現段階で例えば1億円かかるといったことも聞きますね。
城戸)はい。iPS細胞を使った再生医療は将来的には実用化に進んでいくと思いますが、現時点では安全性にまだ懸念がありお金も時間もかかるため、一般に広く使われるまでにはかなりの時間が必要と考えられます。オリゴジーニーは生体外で1京倍にまで増やす事が出来、製造コストも100分の1程度ですむため、安全で安価な治療法を提供する事が出来ると思います。
--1京倍?!すごいですね。設立の経過は?
城戸)私は元々神経内科医として働き、治療法のない神経疾患で苦しむ数多くの患者さん達を診てきました。このような患者さん達をなんとか助けたいと考え、京都大学に勤務中は遺伝子治療の研究を行なっておりました。ただ、1990年代は遺伝子治療を実現するには十分なテクノロジーが開発されていなかったため、2000年に米国国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)に留学して神経幹細胞や胚性幹細胞の研究を開始しました。
--そうなのですね。
城戸)2004年には再生医療をこの手で実現するため、米国メリーランド州ロックビルにてStem Cell Medicine, LLCというバイオベンチャーを設立し、脊髄損傷の再生医療製品開発に携わってきました。2011年にオリゴジーニーを開発し、その大量培養方法の開発にも成功いたしました。2014年11月に日本でこの細胞および培養方法の特許が成立し、同時期に日本で薬機法が成立し、条件付承認という新しい制度が導入されました。そのためオリゴジーニーを用いた臨床治験を日本で行うために帰国して、2015年8月に株式会社オリゴジェンを創業いたしました。
--なるほど。
城戸)弊社では、オリゴジーニーと独自の細胞培養技術を用いて、有効な治療法のない多くの神経疾患、例えば、脊髄損傷、先天性大脳白質形成不全症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、アルツハイマー病などに対して、新しい治療法を提供することを目指しています。
--いいですね。
城戸)例えば、「脊髄損傷」に対する再生医療が挙げられます。スポーツ・日常生活の怪我や交通事故などの原因で脊髄が損傷されると、手足を動かす神経の通り道である脊髄が損傷され、手足の麻痺がおこるのが脊髄損傷です。 日本では慢性期の患者は10万人以上で、そのうち半数は車イスまたは寝たきりの生活を強いられています。弊社のオリゴジーニーを脊髄の損傷部位へ移植すれば、「細胞保護因子を分泌する」、「断裂した神経軸索の再延長を促進する」、「損傷した髄鞘を再形成する」等の作用により症状が改善すると考えられています。 従来医療ではリハビリ以外に有効な治療法がないとされている脊髄損傷の患者さんに対して、新たな治療法として期待できます。
--なるほど。
城戸)また髄鞘が壊れる疾患として代表的な「先天性大脳白質形成不全症」に対する再生医療にも有望だと考えられます。この疾患は遺伝子の異常により中枢神経系の髄鞘が徐々に壊れて、大脳白質が正常に形成されない事によっておこる疾患群で、生直後からの眼振や精神発達遅滞、痙性四肢麻痺、小脳失調やジストニアなどの症状を示します。厚生労働省の小児の指定難病にもなっており、現時点では有効な治療法がありません。このうち代表的なものはペリツェウス・メルツバッハ病(PMD; Pelizaeus-Merzbacher Disease)があり、日本では230人しか患者がいない希少疾患です。弊社は、現在この疾患に対する臨床治験に向けて準備を進めております。
今後の展開が楽しみです。
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