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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日:平成29年2月27日、聞き手・文:ものづくり振興課 倉橋)
平成27年度元気印認定企業の伸栄工業株式会社(外部リンク)の榊田代表取締役様にお話を伺いました。
―御社の概要について教えてください。
榊田) 当社は、昭和60年に回路基板の加工事業で創業し、加工時にバリの出来やすいガラス繊維複合材で出来た電子機器等の基板加工で培った技術を基に、新素材として利用が拡がりつつあった炭素繊維複合材の切削加工にも取り組むこととなりました。現在では、表彰用の木工楯の加工も含め、京田辺市と生駒市の工場を拠点に事業をおこなっています。
―御社が技術的に得意とされている分野はどういったところでしょうか?
榊田) 難削材として知られる炭素繊維複合材の精密な研削加工を得意としています。当社には長年に亘ってラジコンパーツや釣り具といった指先程度の小物から、人や馬のレントゲン用のフィルム装填具まで幅広い寸法の加工を取り扱ってきた実績があります。加工が難しいとされる炭素繊維複合材料ながらも、要求仕様に沿った高品質な加工技術をお客様に評価頂いており、新日鉄住金マテリアルズ様などの業界の大手企業からも受注を頂いております。
―近年ではアクリル樹脂のオーダーメイドサービスも始められたとのことですが?
榊田) はい。2008年のリーマンショック以降、炭素繊維複合材の加工の海外シフトが進んだことから、当社の事業も少なからず影響を受けることとなりました。そのため、新たな事業分野に展開する必要に迫られたことから、透明性が高くディスプレー用品としても近年利用が増加してきたアクリル樹脂に注目し、乾燥棚やディスプレーなどお客様のご要望に応じた形にアクリル樹脂をオーダーメイドで加工するサービスを始めています。
―御社のアクリル加工の特徴を教えてください。
榊田) アクリル樹脂はガラスに匹敵する透明度を持ちながらも、ガラスよりも軽く衝撃に強いことから展示会や店舗等のディスプレー棚としてよく使われています。ただし、既存の製品は組み立ての際にネジや接着剤を用いて部材同士を固定するために後々の形状変更が難しいことや、接合部が固定されているために移送途中に不意の負荷が掛かった際に割れてしまうといった問題があります。また、傷防止などの特殊なコーティングが施されたアクリル樹脂については特に接着が難しいとのことをお客様から聞いたことで、何か接着剤無しで組立が出来ないかと新たな接合技術の開発に取り組んだ結果、インナースリットジョイント加工(ISJ加工)を見出すこととなりました。
―ISJ加工とはどのようなものでしょうか?
榊田) ISJ加工とは、パズルのピースのような凹凸を付けて切り出したアクリル部材について、凸の短辺にレーザー加工機でサブマイクロから数ミリの微小な裂け目を作る加工を行うものです。ISJ加工を施すことで、部材の凹凸を合わせた際に、単なる凹凸の填め込みとはならず、凹の中で凸の裂け目が変形することで部材間の固定が行われます。
―なるほど。ISJ加工の難しさはどんなところにありますか?
榊田) 部材の大小に拘わらず、凸に入れる切り込みは非常に小さいことから、レーザー加工機の出力調整や加工軸の校正が非常に重要であり、対象の厚みやアクリルの種類によっても微妙な調整が必要になります。そういった機器の微妙な調整については、当社がこれまでに指先サイズの炭素繊維複合材料の加工を行ってきた中で培ったノウハウが生きているのかもしれません。
―ISJ加工によりどのようなものができるのでしょうか?
榊田) 基本的に部材の接合が必要なものであれば、どのような形状にも応用することが可能です。特にディスプレースタンドについては、従来のように接着剤を使った場合、接着剤に含まれる溶媒により接合部が白濁するなど美観を損ねるような問題が起きていましたが、ISJ加工で接合することでアクリル本来の透明度を保ったまま組み上げることが可能になります。このように透明性を保ちながら構造物を作ることの出来る技術としてISJ加工は非常に意味のあるものと考えています。
―今後の展望についてお聞かせください。
吉田) このISJ加工については新たな接合技術として応用の可能を強く感じています。例えば、現時点では接合部に気密性を与えることまでは出来ないのですが、いずれ可能となった場合には水槽のような美観を強く求められるような用途にも適用することが出来るものと考えています。また、アクリル樹脂以外の様々な樹脂にISJ加工を適用することで、これまでに無い新しい機能を持った商品も出来るのではないかと思っています。今後の夢は色々とありますが、まずはISJ加工を着実に進化させつつ、炭素繊維複合材の加工と木工加工に加えて、アクリルの受託加工を当社の第3の柱となるような事業に育てて行きたいと考えています。
新たな接合技術を強みに展開を進める同社のこれからが楽しみです!
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