京都で働きたい医師・医学生の方へ 京都で暮らし、京都で築くメディカルキャリア
学術講演会
京都府医師会理事 上田 朋宏先生
ガッテンドクターのエビデンスレシピ
私のキャリアの出発点は、20数年前の1988年、京都市山科区の洛和会音羽病院での医長としての赴任から始まります。
その頃の私は、1987年京都大学医学部泌尿器科に入局して間もない頃でした。
昔は、研修修了後3、4年目で医長としていきなり臨床に出ていました。今と違い「自分のキャリアは自分で作らざるを得なかった時代」でした。
この頃の私は、病棟で寝たきりの患者さんのバルーンやおむつをはずし、排尿自立にもっていこうと、他の診療科の医師とコミュニケーションを図り、治療に取り組んでいました。
この症状何?
この頃、頻尿、膀胱痛のため外出が困難で、以前から他の病院や診療科で診察してもらったのに、「検査」「投薬」を繰り返すばかりで、症状の改善がみられず、つらいつらいと訴える、どう解決していいかわからない患者さんにたくさん出会いました。見た目は元気で、健康そうな患者さんです。
まず診察の基本は「問診」です。今迄の状況をじっくり聞き、その後「検尿」を行いました。
問診での患者さんの訴え
『他の医院、病院、泌尿器科、産婦人科で「異常なし」と診断される。』
『精神的なもの。と精神科を紹介されたが、処方された薬はきかなかった。』
『抗生物質を処方されたが、良くならない。』
『排尿は1日30回、尿が溜まってくると痛い』
さて検査では―
1回の排尿量は100mlを切り、検尿では細菌も白血球も出ていません。
鑑別診断は?
膀胱機能は自律神経に支配されていますので、ストレスなどにより頻尿となることもある。「神経性頻尿」?
神経因性膀胱(※1)も可能性がある。昔ならラクナ(※2)、陳旧性脳梗塞(※3)も疑われたでしょう。
尿意切迫感と考えると、過活動膀胱(※4)は考えておく必要があります。
実際、過活動膀胱と診断され、抗コリン剤(※5)を処方して終わるケースはよく見受けられます。
しかし薬を処方しても患者さんが通院しなければ、その後の経過は分かりません。薬を処方して“終了”では、症状は改善されないままで患者さんが困っているというケースはしばしば見受けられます。
―さあ、既に他院で診療を受け、治療もされていますが症状は全く改善していません。どうする?
この時点では、私は診断名をつけることが出来ませんでした。
当時は、ガイドラインも無く、治療法も確立されておらず、すなわち「エビデンス」は存在しませんでした。その後、患者さんのこの症状がずっと頭に引っかかっていました。
皆さんは、この診断名もうお分かりでしょうか?
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(※1)神経因性膀胱・・・排尿に関与する神経の障害によって膀胱機能に異常が生じた病態。
(※2)ラクナ梗塞・・・細い血管(動脈)が詰まることで起こる小さな脳梗塞。
(※3)陳旧性脳梗塞・・・かつて脳梗塞が起こったものをいい、治療されているものもあれば、部位によっては症状がはっきり出ず、気づかれないこともある。脳ドックの検査で発見されることもある。
(※4)過活動膀胱(OAB)・・・膀胱の不随意の収縮による尿意切迫感を伴う排尿障害。病因に基づき、神経因性OABと非神経因性OABに大別される。
(※5)抗コリン剤・・・アセチルコリンがアセチルコリン受容体に結合するのを阻害する薬物。抗コリン作動薬とも呼ばれる。これにより副交感神経が抑制される