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コンテンツを学ぶ「勝手読書会」 第2回:アニメ制作

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(令和3年2月22日、京都府ものづくり振興課)

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ものづくり振興課職員が、勝手なシロウト目線で、インターネットや書物で学んだことを紹介し合う「読書会」。第2回目は、前回に続きアニメを掘り下げていきたいと思います。ちなみに本日2月22日は、にんにんにん「忍者の日」です。

企画

足利)今回はアニメ制作について、少し学んでみたいと思います。

中尾)はい。

足利)一般にアニメ制作と聞いて思い浮かべられる絵を描く工程の前には、「企画」「シナリオ」「絵コンテ」などの工程があります。

中尾)プリプロダクションですね。

足利)テーマ、コンセプト(何を、何のために、どのように作るのか、など)、ストーリー、フォーマット(劇場公開か、TV放映か、オンデマンド配信か、など)、スケジュール(予算内で完成させるための配分)など「企画」がないと始まらないわけだね。

中尾)はい。

作画と美術

足利)そして、本題の絵を描く工程「プロダクション」ですが、まず、絵コンテを元に、キャラクターの配置等も含め舞台の設計図なるレイアウトづくりが行われます。その上で、キャラクターやメカなどの「作画」(「原画」とその間の動きを埋める「動画」)と、背景、BOOKなどの「美術」とに分かれます。「第1回:アニメの原則」でも触れたように、アニメは通常、背景の上にセル画を重ねて撮影しますが、セル画のキャラクターの手前に樹木や草などの前景が入ることがありますな。そういう手前に来るものを背景とは分けて別々に作成するのだけど、それをBOOKと呼ぶそうです。空に雲が流れているとしたら空と雲とを別々に作る必要があり、その雲の方をBOOKと呼ぶんだそう。

中尾)なるほど。

足利)この作画と美術が分かれている、キャラクターと背景が分かれている故に、僕個人的に、最近の多くのアニメで気になって仕方がないことが1点あります。

中尾)何ですか?

足利)最近のアニメは、背景が写実的になったり、緻密に書かれていたりするものが多いと思うんだけど、それ故、キャラクターと背景の風合いが異なってしまって、キャラクターが陳腐に見えたり、妙に分離して浮いて見えたりして、違和感を感じることがあります。僕が小学校の時から大好きだった某国民的アニメでも背景がきれいになって逆に・・・というところはある。もちろん、それでも全体としてすごくいいんだけど。

中尾)なるほど。

足利)これが、日本のアニメの特徴である、キャラクターの輪郭線のせいなんだろうかと思っていろいろ振り返ると、別に輪郭線のせいでもないように思う。

中尾)輪郭線ですか。

足利)原作マンガに輪郭線があるからそれに忠実にしているとか、輪郭線がないと後のペイントの工程がやりいくいとか、といったことの他に、残像を利用するという目的もあるそうです。

中尾)残像?

足利)アニメは1秒間が24コマに分かれていますが、日本では省力化等の理由で8コマにしていることが多いのですが、そうなると動きの繊細さで劣ることになります。そこで輪郭線を入れることで1コマ前の位置をしっかり把握でき、残像として印象付けられることで、動きがスムースに見えるということだそう。

中尾)なるほど。

足利)しかし、さきほどの違和感は、輪郭線の問題というよりは、要するにバランスの問題なのかなあという気がしています。近年はコマ数を増やしたり、キャラクターをより繊細に描いたりといったことで解消を図ろうとしているそう。近年衝撃を受けた新海監督の『君の名は。』は、すごく迫力のある映像だけど、背景の風合いとキャラクターの風合いが一致していて違和感を全く感じない。

中尾)京都アニメーションも、背景のち密さに、作画の実力で応えているように見えますよね。

足利)同社のブログで紹介されていますが、『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、「線1本分どころか0.2本分くらいの差でニュアンスが変わってくるので、原画作業時は息を止め、鉛筆の先にだけ意識を集中させ描いていました」とか、繊細な線を描くのに、0.1mmの芯の太さのシャーペンを使う人、1万円程する巨大ルーペを使う人なんかもいらっしゃったんだとか。

中尾)学園もの、と言っていいかわかりませんが、そうしたアニメでも、1人ひとりの動きの、ちょっとした動作のズレなんかも、本当に丁寧に描かれていますよね。

足利)まさに、「現実に忠実に(第1回:アニメの原則)」なんだろうね。ある意味、基礎を徹底的に追求されているんじゃないかなと思う。学問でも基礎を徹底的に追求する、そうした真理の徹底的な追求が、実は未来の扉をこじ開けるみたいなことかと思うし、産業でもシーズを徹底的に追求したら、逆に新しいニーズを創造する破壊的イノベーションになるということかと思う。スポーツでも芸術でも、上手な人は単純な動きほど他とは明らかに異なるレベルで精練されている。そういう基礎の徹底というハイレベルなことをなさっているんでしょうね。雨のシーンなんかはすごかったです。

中尾)なるほど。

足利)CGといったデジタルツールが発達している現在でも、キャラクターも背景も基本は手描きとしながらデジタルツールを組み合わせるケース、メインキャラクターは手描きでサブキャラクターはCGとか、いろんな組み合わせがケースバイケースで行われています。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』制作風景の動画がインターネットで紹介されていますが、主人公の手描き風景から始まり、それをスキャンしてコンピュータ上で着彩する風景などが見て取れます。

アナログ(手描き)からデジタル(着彩)への橋渡し

中尾)昔は、紙に描かれた絵をトレースマシンでセルに熱転写し、裏からセルアニメ用の絵の具でひたすら塗る作業の連続だったそうですね。

足利)そう、昔は、キャリアという板に動画をはさんで、カーボン紙を敷いて、更にセルをその上に載せてトレースマシンを通し、その熱で絵をセルに転写していたので、熱で汗だくになることもあったそうですが、今や、スキャナとパソコン(RETAS STUDIO等のアニメーション制作ソフト)でスキャン・トレースできてしまう時代になりました。先ほども言ったとおり、絵を描く工程自体をデジタルで行うこともありますが、まだまだプロの現場でも絵は手描きが多いそうです。

中尾)やはり手描きの味、テイストは重要ですしね。

足利)そう。しかし、ライデンフィルムさんやマジックバスさんでもそうだったように、集団で手分けして描かれています。そうすると、描き手の違いで作画の調子も変わることもあるので、そうした場合は先ほどのソフトウェア等で調整が行なわれます。原画と中割する動画とでも描き手が違って線の調子が違ったり、同じ描き手でも最初と最後の方とでは作画の調子が変わってしまうこともあるだろうしね。

中尾)手描きで精密に描いたり、その紙の汚れや消しカスを丁寧に除去しなり、ソフトウェアで補正したり、細々した作業が行われるわけですね。

足利)そして、そのままソフトを使って、「ペイント」あるいは「仕上げ」と呼ばれる作業が行われます。その中でも、効果線や空気のエフェクト素材をブラシで描いて作ったりする「特殊効果」という工程があるそうです。『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、「汚れの質感」にこだわったそう。汚れの成分は何か、経年劣化によるものなのかとか、泥水が跳ねたての水っぽさのある汚れ、それが少し乾いて砂っぽくなった汚れ、服に染み込んで滲んだようになっている汚れなど、時間経過による微調整がされているそう。

中尾)すごいですね。

足利)今年度のヒストリカ国際映画祭でも、山田洋二監督が、その時代の着物は誰がどこで織ったものかとかまで考えて・・・といったようなことをおっしゃってたと思うんですが、それと同様に、現実に忠実に、というディズニー以来のアニメの原則を徹底的に貫いているよね。主人公のヴァイオレットはとても清楚だから、汚れてはいるけど汚くは見えないように、というようにも配慮しているんだって。あるいは、電気照明という部屋を満遍なく照らしてくれる便利な道具の無い時代だから、同じシーン、同じ部屋の中であっても光源からの距離で色を作り分けたり。

中尾)なるほど。

足利)ドルビーシネマだから、繊細にこだわった特殊効果の表現も理想どおりに映像に反映されたし、逆に細かい部分まで見えてしまうので、下手なことできないということでもあるよう。

デジタル作画

中尾)なるほど!ところで、最近は、作画の段階からデジタルで作業を進める制作会社も増えてきていると聞きます。

足利)そうらしいですな。メリットが大きいようですね。例えば、1つは、紙、鉛筆、消しゴムなどの消耗品が不要。2つ目には、コピペなどにより動画マンの中割作業が軽減できる。3つ目には、紙の絵を撮影箇所まで物理的に運ばなくても、インターネットで送ればいい、とかですね。特に東京一極集中しているアニメ業界にとって、地方に作画スタジオを設けやすくなりますよね。

中尾)最近のアニメは、より描き込まれて線の量が多いものが増えており、作画の使い回しも減っているので、その対応策としてデジタル作画に取り組まれるケースもありますね。

足利)「DX時代」という観点で言えば、アナログ工程が残っているのがほぼ作画だけということを踏まえると、この工程をデジタル化することで、何か次の飛躍にはなる気もしますね。

中尾)スキャンすることも不要で、すぐにペイントで色合わせができたり、背景ともすぐに重ねられたりというのは利点ですよね。

足利)先ほども話していましたが、複雑な機械やそれを操作する人の体の部分はCGで、しかし、表情が作品上大事な場合には顔だけは手描きで、といった組み合わせなんかもされるようだね。

3DCG

中尾)あとは3DCGもありますね。

足利)グラフィニカさんとか、そうだね。今話してきたCG、デジタル作画は、あくまでコンピューターで絵を描くということであって、基本的には手描きと同じように描くわけですが、3DCGは全く違うアプローチですね。

中尾)そうですね、ジオラマづくりに似てるかもですね。ソフトウェアも、お絵かきというよりは、製図用のCADに近いものですし。

足利)mayaや3dsmax、あるいは、最近は無料ソフトのBlenderなどを使うケースも増えているんだとか。

中尾)モデリング(モデルの形状の作成)、マテリアル(色や反射等の材質設定)、アニメーション(3次元空間の中でモデルをどう動かすかの設定)、レイアウト(3次元空間のどの位置から見るか、つまり、カメラ位置に相当)、エフェクト(特殊効果)、ライティング(光)、そしてレンダリング(2Dの画像に変換)などの工程があります。モデリングを行う人をモデラ―、そして、作画の原画や動画を作る人をアニメーターと呼びますが、3DCGのアニメーション工程を担う人もアニメーターと呼ばれるそうですね。

足利)『君の名は。』の映像の迫力にはとても感動したんですけど、3DCGのカメラワークがすごい。カメラマップという、これはアニメに限らず、デジタル映像の分野で使われる撮影手法で、2Dの画像素材を使って、奥行きを感じるような、3次元的なダイナミックな映像表現を行いたいときに使われる手法で、1枚の写真をいくつものレイヤーに分割した上で、レイヤーをあえてズラしながら動かすことによって目を錯覚させるテクニックなんですが、これを使って、東京から飛騨高山まで大空を駆け抜けるワープのような大迫力のシーンを撮ってらっしゃるんだとか。東京から飛騨高山まで地形データを作って空間を設計した上で、20枚の背景画を空間に設置して、壮大なシーンを作り上げたそう。

中尾)すごいですね。

撮影

足利)そして、最後は「ポスプロダクション」。手描き、デジタル作画、3DCGを組み合わせて撮影ですね。これは、なんども触れてきたアナログ撮影から、今や業界全体がデジタル撮影の時代に突入しています。デジタル撮影は、コンピュータ上で原画や背景を組み立てるため、物理的なカメラを使用しない。カメラワークとエフェクトのうち、とりわけエフェクトは、近年のソフトウェアの発達によって大きく表現の幅が拡大しているそう。さきほどの『君の名は。』もそうだし、今大ヒット中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』も、撮影による色と光のハイレベルな表現も見ものです。

中尾)そうですね。

足利)実写の写真撮影のライティングの基本的な考え方として、キーライト(メインの照明)、フィルライト(キー・ライトによってできた陰影の緩和)、リムライト(対象の裏からの光)で構成する3点照明があるそうなんですが、それをアニメに採用し、3点から光をあてることにより、人間の肌の色にも繊細な陰影のグラデーションを生み出しているものも登場してきています。

中尾)『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』でも、光と影によって写実性を一層高めていますよね。

足利)そうそう、ブログにも、そこはこだわり抜いたと書いてありました。ガス灯と電灯、蝋燭と焚き火、晴天と曇天、室内の照明と窓からの光、東向きと西向き…光源の種類を区別し、向きと照射範囲を考え、キャラクターと背景の整合性もとりつつ、影を実直に追い求めることで写実性を持たせていると。

中尾)なるほど。

足利)それにリメイク作業も重要です。眉毛や瞳のブレ方などまつ毛の先まで繊細に、線一本分にも満たない違いも拾いこぼさないよう表情を修正したり、花びら一枚ずつの葉脈足し、帽子のサイズ感、キャラクターの立ち方・姿勢なども修正が重ねられたんだって。

中尾)そして、編集や音響等を経て、完成に至るというわけですね。

 

<参考文献(ウェブサイト)・引用文献(ウェブサイト)>
  • AREA JAPAN アニメーションの制作工程
  • AREA JAPAN 『君の名は。』新海監督のビジョンの表現に3DCGが必要な理由とは?!
  • 日本語あれこれ研究室 「BOOK」というアニメ用語について
  • ヤガンEX 映画とか漫画とか似顔絵とか 【邦画/アニメ】『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』ネタバレあり感想レビュー--キャラの輪郭線を強調して複数レイヤーの世界だと割り切る斬新な手法
  • 『もののけ姫』のキャラクターには輪郭線(お肌の外側の黒い線)がありますが、
『トイ・ストーリー』のキャラクターには輪郭線はありません
  • りまぷり 京アニのすごさとは?何がすごかったのか、職人と呼ばれる理由
  • 創作応援サイト CLIP STUDIO 第1回スキャン・トレースのプロのテクニック
  • 京都アニメーション クリエイターズダイアリー
  • 手描きとは何が違う? デジタル作画の特徴について
  • 京都精華大学 アニメ『弱虫ペダル』からデジタル作画の現在を学ぶ
  • カメラマップとは何?静止画を動かす技術がスゴイ!
  • 『鬼滅の刃』『君の名は。』大ヒットの要因に ufotableと新海誠から探るアニメーションの“撮影”の重要性

 

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