【インタビュー記事】宇宙・自然への夢を育む―認定NPO法人花山星空ネットワーク

※このページでは、認定特定非営利活動法人として認定された団体については「認定NPO法人」と記載しています

京都市山科区にある花山山（かざんやま）を登っていくと、澄んだ空気の中に白いドームが見えてきます。京都大学大学院理学研究科の附属施設、花山天文台です。この天文台は昭和4（1929）年に創立されてから、これまでに多くの研究者を輩出し、火星や太陽の観測では世界的な成果をあげてきました。
特に印象的なのは、ドーム内にある45㎝屈折望遠鏡。電力ではなく、重力を利用して動く仕組みの望遠鏡で、国内でも現役で使用されているのは珍しく、貴重なものです。望遠鏡の土台は天文台創立当初から使われており、もうすぐ100年。木造の白いドームに土台の水色がよく映えます。

ドームからテラスに出ると、目の前には山科、遠くに目を向けると大阪の景色が広がります。夕暮れ時には山科のまちの光が揺らめき、とても幻想的です。ここで、多くの天文家が空を見上げ、宇宙への夢を膨らませていたのでしょう。
歴史と想いが詰まったこの場所で、人々に宇宙や自然科学の魅力を届けているのが、認定NPO法人花山星空ネットワーク（以下「花山星空ネットワーク」という。）です。

今回は、花山星空ネットワークの黒河さんと西村さんに、団体としての想いや活動の詳細などをお聞きしました。

法人の設立

（花山天文台）

花山星空ネットワークが誕生したきっかけは、平成11（1999）年に実施された花山天文台創立70周年記念の観望会でした。一般公開の観望会の実施は久々となり、参加した人々からは、「もっと開催してほしい」という要望が多く寄せられました。
しかし、花山天文台は京都大学の研究施設。スタッフは限られ、教育と研究を中心として運営するため、一般向けの観望会を定期的に開くには限界がありました。
この状況を長く気にかけていたのが、当時天文台の8代目台長を務めていた黒河さん（現京都大学名誉教授）です。
花山天文台は、創立当初からアマチュアの天文家とも活発な交流があり、その育成に貢献してきたことから、「アマチュア天文学の聖地」とも呼ばれています。黒河さんは、この伝統と精神を守り、一般の方が星空を楽しむ機会を作りたいと考えていました。

「天文台のスタッフだけでは難しいなら、天文愛好家の方の力を借りながら、観望会を開催できるようにしよう」

定年を迎え、台長を引退したのを機に、NPO法人という形でアウトリーチを担うことを決意しました。
こうして、平成18（2006）年、NPO花山星空ネットワークが創立されて活動が始まり、その翌年には法人化がなされました。

5つの主な活動

花山星空ネットワークは、次の5つの活動を中心に展開しています。今回、京どねーしょんを通じていただいた寄附も、以下のような活動に活かされます。

• 花山天体観望会（年6回）
  （観望会の様子）
  ミニ講演会・シアター等で宇宙について学習したり、天体望遠鏡で星を観察したりします。テーマ・時期に沿って観望する天体や講演内容が変わり、リピーターも多いイベントです。
• 子ども飛騨天文台天体観測教室（年1回）
  （子どものスケッチ）
  子どもを対象にした2泊3日の天体観測教室です。岐阜県高山市の飛騨天文台（京都大学理学研究科附属）にて、天の川や星を見ることを目的に実施しています。
• おとな飛騨天文台自然再発見ツアー（年1回）
  大人を対象にした2泊3日のツアーです。子ども飛騨天文台天体観測教室と同様、飛騨天文台にて天の川や星を見ることを目的としています。
• 天体観測指導者養成講座
  学校教員に望遠鏡の使い方を知ってもらい、教育につなげられるようにと開催しています。望遠鏡の使い方を学ぶことができ、教員以外の方でも参加することが可能です。
• 講演会（年2回）
  宇宙の様々な分野を専門とする講師が、テーマに基づき講演を行います。

団体創立当初から活動に関わり、現理事長を務める西村さん（大学講師）は、活動の様子をこう語っています。

「星を見ると子どもたちや祖父母世代の方が、みんな同じように喜んでくれます。宇宙には、世代を超えて共感するものがあります。活動をしていて、参加者の方が楽しんでくれるのが一番嬉しいです。」

活動に込めた2つの想い

宇宙や自然に対する畏敬の念を持つこと

宇宙や自然の魅力を伝え続ける理由。そこには2つの想いがあります。
1つ目は「子どもたちに宇宙・科学を好きになってほしい、宇宙や自然に対する畏敬の念を持ってほしい」という想いです。この想いは、黒河さんのある経験から生まれています。黒河さんは、天体物理学者として太陽の研究に取り組み、約18年間を飛騨天文台で過ごしました。

（黒河さん）

「飛騨の空を見上げると、全然見え方が違うことに驚きました。刺すように怖い。たくさんの星から光が怖いくらいに降ってくる。これを子どもたちに見せないといけないと思ったんです。」

黒河さんは、こうした「本当の自然」に触れる経験が、子どもの感性が豊かな時期にこそ必要だと感じたそうです。
太陽と植物は、私たちが生きるのに必要とする炭水化物や酸素を生み出す「命の源」です。古代の人々は太陽や自然の恵みに対し、深い畏敬の念を抱いていました。しかし、現代では科学技術の発展によって暮らしは便利になった一方で、自然は失われ、都市への人口流出が続いています。その結果、自然体験の乏しい子どもが増え、自然離れとともに理科離れも進行しています。黒河さんは、これを大きな問題と捉えています。

「宇宙や自然の景色を見ると、自分はどれだけ小さい存在かを知ることができる。宇宙やきれいな自然があってはじめて、我々が存在できるということが心に芽生えるのではないかと思っています。」

黒河さんは、近年問題になっている環境汚染なども、自然に対する畏敬の念があれば、気を付けていくことができるのではないかと語ります。

自分の目で確かめ、疑問を持つこと

そして、もう1つの大切な想いは、「自分の目で確かめ、疑問を持ってもらいたい」ということ。

「フェイクニュースやAI等が発達した世の中であるがゆえに、自分の目で確かめ疑問を持つことは、人間が生きていくうえで必要なことだと思います。誰にとっても基本であるべきことです。」

これらの想いは、活動にも反映されています。
例えば、子ども飛騨天文台天体観測教室に参加する子どもたちは、3日間スマホなどの電子機器を持たず自然に触れ、星や景色をスケッチしたり、望遠鏡をのぞいて感じたことを文章にしたりして過ごします。

（参加した子どものスケッチ）

子ども飛騨天文台天体観測教室の開催が第17回を迎えた令和7（2025）年、黒河さんたちのもとに、参加した子どもの保護者から一通の手紙が届きました。

「日常では体験できない贅沢な時間を与えていただいたことに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。」

普段はなかなか自らの体験を話さないという中学生の女の子が、参加を終えて帰宅した夜は、夜空の星の多さや立体的な天体を見たときの感動、雄大な景色のすばらしさなどを、目を輝かせながら語ってくれたそうです。そのことに驚いた保護者の方の感動がつづられた手紙を、黒河さんたちは宝物にしているそうです。

「今後はより深く考察し、自ら探求する力を身につけてくれたら親としても嬉しく思います。」（保護者より）
自分の感覚を研ぎ澄まし、自然とじっくり向き合う3日間。普段見ることのできない満天の星や豊かな自然に圧倒される経験は、子どもたちの成長につながっています。

生涯学習としての宇宙

花山星空ネットワークの活動の対象は、子どもたちだけではなく大人にも及びます。
宇宙は、科学の面白さに入りやすく、どの年代からも関心の高い学習対象です。黒河さんは、そんな宇宙が、「生涯学習」の対象として良いのではないかと語ります。

黒河さん「年配になっても、一生を通じて宇宙を勉強していきたいという気持ちがあれば、生きがいにもなります。仕事がなくなっても、生きがいを保つために生涯学習は大切だと思います。」

また、現理事長の西村さんは、小学生の頃に天体図鑑を買ってもらったことをきっかけに、宇宙に魅了された一人です。小学生のころから天体観測をしたり、中学校・高校では自ら天文クラブを立ちあげたりもしたのだそう。ついには高校の教員として地学を教えることになり、現在は大学で講師をされています。まさに「生きがい」としても宇宙を追い続けている西村さんは、目をキラキラさせて、活動についてこう語ります。

（西村さん）

「いろんな星や月を見て感動を持っていただけたら、子どもたちの勉強や大人の生きがいに寄与できると思います。だから、（活動に）どんどん来てほしいです。星は何回見ても面白い。スマホの写真ではなく、望遠鏡をのぞいて網膜に光が当たり、実際に星を見ているというドキドキ感を楽しんでもらいたいです。」

イベントでは、ドームに入り望遠鏡を見るだけでも、その大きさに歓声が上がるといいます。星を見ることだけでなく、天文台の空間や設備そのものが特別な経験となっているのです。

宇宙へのロマンと夢

これまでのお話で、お二人の宇宙や自然への情熱、そして深い敬意がうかがえました。そんなお二人に、「宇宙のロマンと夢とはなにか？」をお聞きしました。

西村さん「宇宙こそがロマンですね。宙は『現在・過去・未来の時間』、宇は『空間』を表します。2000年前から、人は宇宙を考え続けてきました。不思議なものはロマンです。宇宙はロマンだらけです！」

黒河さん「太陽の研究では、知りたいことが具体的に分かるので面白いんです。でも、宇宙でいうと太陽は小さすぎます。」
ロマンというには太陽にハマりすぎたと笑う黒河さんは、ロマンを「夢」ということに置き換えて語ります。
「遠い夢としては、太陽と同じ星は沢山あり、地球と同じような惑星もあることが最近分かってきていますので、いつか宇宙人と交流できること。近い夢として、地球に降り注ぐ太陽エネルギーは、その約1時間分で全世界の年間エネルギー消費が賄えるくらいありますので、太陽光発電を中心とした自然エネルギー利用設備が世界のエネルギー供給の中心になること」

お二人にとっても、宇宙への好奇心は尽きないようです。

取材を終えて

活動の魅力がたっぷりと伝わってくる時間でした。なかでも、お二人が活動の中で生まれるワクワク感を大切にされているのが印象的でした。

西村さん「団体の活動は自己実現や生涯学習をするスタートラインです。宇宙は不思議なものですから、興味を持っている人は大勢います。初めから、知りたいという気持ちのレールが皆さんの心の中に敷かれているんです。その気持ちに私たちの活動、ボランティアの人や天文台などの要素が重なっていけば、『ワクワクドキドキ』になります。」

たくさんの人に宇宙や自然科学の楽しさを届けている花山星空ネットワーク。活動は、生きがいや物事をじっくりと見つめる力、そして宇宙への夢など、「よりよく生きるきっかけ」に続いています。

ご寄附のお願い

花山星空ネットワークでは、ふるさと納税を通じて寄附を募集しています。皆さまからのご支援は、子どもたちの成長や理科教育の推進、望遠鏡の購入等に活用されます。温かいご支援をよろしくお願いいたします。

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（取材：釋野）

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