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※このページでは、特定非営利活動法人として認証された団体については「NPO法人」と記載しています。

NPO法人きょうとNPOセンター(以下「KNC」という。)は、令和7年で法人設立26年目となる、老舗のNPO法人です。特定の社会課題の解決を活動の目的とする団体が多い中で、KNCが活動目的に掲げているのは、「社会課題解決のために活動するNPOの支援」。NPOの中でも「中間支援組織」と呼ばれる、少し特殊な団体です。
ユニークなのは、活動目的だけではありません。KNCが設立されたのは、NPO法(特定非営利活動促進法)が施行されてから間もないころ。京都中を見回してみても、そもそも支援すべきNPO法人がほとんどないという状況でした。そこでKNCがまず取り組んだのは、社会に必要だと思う活動や団体を生み出すこと、そして育てることでした。
既存の枠組みにとらわれず活動を展開するKNCが目指してきた「豊かな市民社会」とは何か?設立当初から活動に携わってこられた理事長の中村正さん(立命館大学 特任教授・名誉教授)に、お話をお聞きしました。

【理事長の中村正さん(向かって右)と現在のKNCの現場を担う、職員の真鍋拓司さん(サブチーフ事業コーディネーター)。真鍋さんは中村さんの大学の教え子でもあります。】
初期KNCの歴史はNPO法の歴史を体現している、といっても過言ではないかもしれません。阪神淡路大震災で、多くのボランティアが活躍したことがNPO法制定の契機となったことはよく知られていますが、KNCの誕生にもまた、震災という出来事が大きく関わっていました。
平成7(1995)年1月17日に起こった未曽有の大震災は、人々を震災ボランティアへと突き動かしました。後にこの年が日本における「ボランティア元年」と呼ばれるようになったのはこのためです。けれども、多くの団体や個人が誰かの役に立とうと活動を続ける中で、次第に単独で活動することの限界が見え始めます。ボランティア活動を円滑に進めるための組織や、活動する人をサポートし、団体、人、情報、物資等をつなぐコーディネーター、あるいは行政との連携といったことが求められるようになっていきました。
立命館大学の教員だった中村さんが、熱心に震災ボランティアに取り組む学生たちと出会ったのはその頃です。
「学生たちはすごいエネルギーを持っていて、中には自ら学生団体を組織して動いている学生もいました。別に私のゼミ生だったというわけではないのですが、社会のために何かしたいというこの情熱を、一過性のボランティア活動で終わらせてはいけないと思ったんです。」

活動する人たちを支えるサポートセンターをつくるため、また、熱い想いをもった学生たちの心の炎をつないでいきたいとの想いから、中村さんは志を同じくする個人や団体、とりわけ学生を巻き込み、「きょうとNPOセンター設立準備会」を発足しました。平成9(1997)年12月のことです。それから毎月ミーティングを実施し、約80もの団体と、組織原則、事業内容、運営形態等についての議論を重ね、平成10(1998)年7月に「分野を超えた団体の水平なネットワークの拠点」として「きょうとNPOセンター」を立ち上げました。意見を交わした団体の数の多さからも、可能な限りの声を取り込んで社会にアプローチしていこうという気概と熱気が伝わってくるようです。
ちなみに、中村さんの言葉をお借りすれば、「前途洋々たる若者たちを前途多難なる道へ引っ張り込んで」スタートしたというKNCの活動。当時学生で、現在もKNCに携わるメンバーを見てみると、赤澤清孝さん(現:大谷大学 社会学部 准教授)、深尾昌峰さん(現:龍谷大学 副学長、龍谷大学 政策学部 教授)、山口洋典さん(現:立命館大学 共通教育推進機構 教授)、桜井政成さん(現:立命館大学 政策科学部 教授)ら、NPOの実践や研究のリーダーとして活躍されている面々が顔をそろえており、まさに運命的な出会いだったといえそうです。
時期を同じくして、国会では平成10(1998)年3月にNPO法が成立、12月に施行されました。こちらも、超党派の国会議員らによって上程された法案がもとになった珍しい法律です。こうした全国的な機運の高まりの中で、翌平成11(1999)年10月には法人格を取得し、「NPO法人きょうとNPOセンター」が誕生しました。
こうしていち早くNPO法人となったKNC。ですが、冒頭にも述べたように、当時の京都にはまだほとんどNPO法人がありませんでした。法人を立ち上げ、ゼロから活動をつくっていくときに思い描いていたのは、「地域社会を市民活動で“占拠”する」というイメージだったそうです。
「あまり良くない例えですが、ゲリラが町を占拠するときには、お決まりのセオリーがあります。まずは水道や電気といった生活インフラを制圧し、それから放送局を乗っ取る(笑)。そこで、まず私たちも電波を手に入れて市民のための情報の発信基地としてのラジオ局を作ることにしました。」
「ゲリラ」というのはもちろんものの例えですが、ラジオ局の実現のためには、やはり「戦い」がありました。当時、ラジオ局を運営していたのはNHKと株式会社ばかり。歴史的にも放送の規制が厳しい日本では、電波の取得に高いハードルがあり、最初の申請は退けられてしまいました。そのため郵政省(現在の総務省)に何度も足を運んで必要性を訴え、メンバー間でも議論を重ねて意義を練り直し、2年余りをかけてNPO法人として日本初となる放送免許を勝ち取ったのです。
同時並行で、平成14(2002)年にNPO法人京都コミュニティ放送を設立、翌年には日本初のNPO放送局「FM79.7MHz京都三条ラジオカフェ」が開局されました。「京都三条ラジオカフェ」という愛称は、ヨーロッパの街で見かけるカフェのように、人々の憩いの場、情報交換の場となるラジオ局をつくりたいとの想いからのネーミングです。番組の内容にスポンサーの意向が大きく反映される大手のラジオと違い、例えば災害時等にも、経済のシステムに飲まれることなく長期間にわたって地域の人に必要な情報を届けるツールとなります。「FM79.7MHz京都三条ラジオカフェ」の主体は市民。番組のスポンサーは自分なのです。
開局から20余年を経て、社会と情報との関わり方は大きく変化しましたが、京都三条ラジオカフェは、「会員(市民)が創り、運営する放送局」として地域に根付き、学生から年配の方まで、幅広い層の人々が番組オーナーとなって、毎月約100本の番組を生み出しています。

「そのほかにも、“町”には銀行が必要だということでつくったNPOのための“銀行”が、公益財団法人京都地域創造基金です。」
「お金の流れが社会を変える」の合言葉で、平成21(2009)年に設立された公益財団法人京都地域創造基金は、NPOのための資金調達プラットフォームです。資金調達の仕組みは、近年よく知られるようになった寄附システム「クラウドファンディング」に似ていますが、公益財団法人である京都地域創造基金を通じて登録された団体に寄附を行うと、寄附者は税の控除を受けることができ、寄附の負担が減らせるという点が大きな特徴です。300人以上の個人からの共感と支援を受けて、こちらも京都発、全国初の取組みとしてスタートし、多くの活動を資金面で支えています。
さらに、平成22(2010)年には信頼性のある公益性の高い NPOの可視化に取り組む一般財団法人社会的認証開発推進機構、平成27(2015)年にはまちづくり・仕事づくりを専門とする民間・市民シンクタンクである有限責任事業組合まちとしごと総合研究所等、数々の団体を立ち上げてきました。
ここで、なぜKNCは団体を生み出してまで、「中間支援組織」というあり方にこだわるのか、という根本的な問いに立ち戻ってみたいと思います。そこには、KNCが「市民社会」に対して持ち続けている理想があります。
「世間では、ボランティアは“無償の活動”だと考えられがちですが、私は無償どころか持ち出しの手弁当で行うというのが本来のボランティアスピリッツだと考えています。自分がお金を出さなければいけなくても、それでもやる。そういうふうにボランティア観を変えていきたかった。そうした持ち出しの活動を非常時だけでなく、日常的に継続して続けていくためには、組織立って動く必要があり、資金が必要です。だから事業化して、しっかりお金を回していかないといけない。それぞれが自分の得意な領域で社会貢献の事業を行う。それが非営利事業です。」
社会の中にそのような理念を表現し、「市民活動」という概念を広げていくための組織を作りたいと考えていたメンバーたちにとって、NPO法人制度は「非常に利用価値のある」制度でした。
「市民が国に依存していては、豊かな市民社会は実現しません。自分たちで、主体的に動くということが必要です。」
市民による活動を応援し、活性化させること、それがKNCの大きなテーマなのです。
KNCは京都市の施設である京都市市民活動総合センターの運営を平成15(2003)年の開館当初から担い、現在は、年間およそ1,000件にも及ぶ市民活動やボランティア活動に関連した相談に対応しています。今回、京どねーしょんでいただく支援も、KNCが単独で実施する事業ではなく、他団体に対するコンサルテーションや伴走支援のほか、祇園祭のごみを減らすための取組である「祇園祭ごみゼロ大作戦」やDV被害者支援といった、他団体と協働して「市民発」のムーヴメントをつくっていくための事業に充てられる予定です。
【京都市市民活動総合センターでの相談風景】

【祇園祭ごみゼロ大作戦の様子】

ふるさと納税制度を活用した「京どねーしょん」について、どのようにお考えか、お聞きしてみました。
「通常、国の予算の中で賛成できない政策にお金を使ってほしくないと思っても、納税を拒否することはできません。でも、京どねーしょんでは、自分が納税するはずだったお金を応援したい活動に使ってもらうことができる。だから“選択的納税”ということができるのです。ぜひ多くの団体の資金調達に役立ててほしいです。一つの団体だけでは大きな動きをつくることはできません。京どねーしょんをきっかけに、せっかくこうしてたくさんのNPOが集まったのだから、いっしょに研修を行うなど、高め合う場になったらと期待しています。」
実は、京どねーしょんは、「ふるさと納税でNPOを応援する仕組を京都にもつくってほしい」というKNCからの京都府への提言がきっかけとなって実現しました。まだまだスタートしたばかりではありますが、この制度を活用することによって、京都府のNPOが元気になり、その活力が地域に還元されていくよう、京都府としても試行錯誤する日々です。
「一方で、物販カタログのようになってしまっている今のふるさと納税制度全体のあり方には反対です。被災地等の困難を抱える地域の地場産業を支援するためといった返礼品であれば賛成ですが、制度自体は見直されるべきだと思っています。」
補足すると、京どねーしょんには返礼品がありません。それは、ふるさと納税に託された各団体への応援の気持ちを、しっかり活動に活かしてもらうため。返礼品ではなく、「より良い地域の未来」を選ぶ、そんな選択肢もあるということを、ぜひ、京どねーしょんを通じて、より多くの方に知っていただけたらと思います。
最後に、お話の中で度々出てきた「真に豊かな市民社会」とは、いったい何なのかをお聞きしてみました。
「ひきこもり、介護、DV・虐待、不登校、少子高齢化、子どもの貧困、ヤングケアラー等、現代社会が抱える問題の多くは家族に絡んでいます。家族が持っているテーマを、社会化していく必要があると思います。」
中村さんは、「脱家族」という言葉も用いて語られましたが、目指すのは、すでに家族単位では受け止めきれなくなっている様々な課題を、市民全体の力で支えられる社会。そのためには、市民活動がより生き生きと、多くの人を巻き込んで展開していく必要があります。個々の課題を解決するために活動する団体があり、KNCがそれらの団体を支えることで、ともに社会を変えていく。
「なかなか見えにくくはありますが、素晴らしい市民活動は確かに存在していて、文脈を作って活動に光を当てると社会の希望が見えてくる。」
「今より面白くするにはどうしたらいいか、を考える。想像力が必要です。」
そんな言葉が印象に残りました。まずはそれぞれが夢を描き、動き出すところから、「豊かな市民社会」は始まっているのかもしれません。
実現したい理想を手掛かりに、目の前の現実を一度解きほぐし、編み直し、足りないものは生み出す。KNCの挑戦は続きます。
(取材:青山)
【参考文献】
『京都発NPO最前線-自立と共生の街へ-』きょうとNPOセンター、京都新聞社会福祉事業団 編著、株式会社京都新聞社、2000年
『京都発NPO最善戦-共生と包摂の社会へ-』平尾剛之、内田香奈 編著、京都新聞出版センター、2018年
NPO法人きょうとNPOセンターでは、多様な社会課題に取り組むNPOと協働し、基盤を支え、市民自らが社会課題解決に参加する仕組みづくりを行っています。ふるさと納税を通じ、「市民が支える市民社会」実現の応援をよろしくお願いします。
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