更新日:2025年12月26日

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【インタビュー記事】人間性を育む教育-認定NPO法人京田辺シュタイナー学校

※このページでは、認定特定非営利活動法人として認定された団体については、「認定NPO法人」と記載しています。

 

未来を奏でる学び舎――認定NPO法人京田辺シュタイナー学校を訪ねて

秋がそっと幕を上げた昼下がり。やわらかな涼風が、季節の変わり目を控えめに告げていました。

空は深く澄み、陽光は地面に溶けるように静かに降り注いでいます。私は、職員の方の丁寧な手振りに導かれながら、車を校舎へとゆっくり進めました。

まもなく目に入ってきたのは、「NPO法人京田辺シュタイナー学校」と校名が刻まれたマイクロバス。そばには桜の木が、枝先に光を受けてほんのりと輝いていました。車を降りた瞬間、ふっと空気がほどけ、この場の時間が少しゆっくり流れていることを肌で感じました。

ここは、京都府京田辺市にある「認定NPO法人京田辺シュタイナー学校」。

創立から積み重ねてきた年月をやさしく抱えながら、初めて訪れる者にも不思議な懐かしさと安らぎを与えてくれるような木造の校舎には、まるで、長く読み継がれる物語の一場面に迷い込んだような温もりが漂っていました。

職員の方に案内され回廊を進むと、木の香りがふわりと鼻先をくすぐりました。ちょうど昼休みで、初等部(小学1年生から6年生)と思われる子どもたちの声が弾むように響き、校舎に生き生きとした息づかいを与えています。その声を耳にしながら、「学校に足を踏み入れるのは、いつ以来だろう」そんな思いがふと胸に浮かび、過ぎた日の記憶が静かに蘇りました。

特定非営利活動法人京田辺シュタイナー学校について(外部リンク)

数人の母親たちが灯した小さな炎が、学校へと育つまで

学校が産声を上げたのは、約30年前。数人の母親たちが、週に一度シュタイナーの教育理念に基づく「土曜日クラス」を開いたのが始まりでした。試行錯誤を重ねながら教育実践を続け、やがて木造校舎を建て、2001年の開校へとつながっていきます。

シュタイナー教育を実践する教職員の方々に、その歩みを伺いました。

学校ができるまで(外部リンク)

本質に触れる学びとは概念が“生きる知恵”に

取材を通して特に強く感じたのは、この学校では「物事の本質に触れる教育」を重んじているという点です。新しい概念を学ぶ際、抽象的な説明に頼るのではなく、まず“具体そのもの”に触れる、そんな授業づくりがされているとのことです。

例として、高等部で行われている三角関数(数学)の授業があります。概念的な説明にとどまらず、三角関数が実際に使われている測量を伴う学習を取り入れ、学んだ理論が社会のどこで、どのように役立つのかを体験的に理解できるよう工夫されていました。

同校の授業は“具体→抽象”の流れをより丹念に辿り、

「概念の成り立ち」

「社会とのつながり」

「生活の中での意味」

まで深く理解できるよう設計されていると実感しました。

窓の形が語りかける子どもの心を映す建築

本校の校舎はL字型に配置され、まるで子どもたちを包み込むような構造(翼を広げて子どもたちを抱く親鳥のイメージ)をしています。特に印象的だったのは、各学年(12教室)それぞれの窓の形です。年齢によって変化する子どもの心の姿を象徴するように、上部の窓の形がすべて異なっています。

建物は“ただの箱”ではなく、教育そのものの一部である、そんな想いが校舎の随所に宿っていました。

空気が張りつめ、ひとつの音が生まれた―“集中”

取材の合間に教室を見学させていただいた際、秋祭りの練習に臨む子どもたちの集中の深さに、思わず息をのむ場面がありました。それは、クラスのバンブーダンスで音楽を担当することになった、初等部の児童たちの楽器練習を見学したときのことです。

知らない大人が見学に訪れたため、子どもたちは一瞬驚いたものの、先生がとある児童に「バイオリンを弾いてみましょうか」と声をかけると、その子は、最初こそ少し恥ずかしそうにしていましたが、落ち着いて気持ちを整え、静かにバイオリンを構えました。

次の瞬間、表情は一転。澄んだ音色が教室に広がり、その場の空気がひとつにまとまるほどの集中を見せてくれました。

先生も驚くほど、その子どもの集中力と、堂々とした姿が印象的でした。

子どもたちの可能性と本校で培われた確かな力を垣間見た瞬間でした。

技術の時代に残された“重み”―足踏みミシンが教えるもの

校内見学中に、現役で利用されている「足踏みミシン」を見せてもらいました。電動ではなく、足でリズムよく踏んで動かす昔ながらのミシンです。実物を見るのは初めてでした。

「あえてこれを使うのは、ミシンという道具を身体全部で体験してほしいから」と教員の方。原理の学習だけでなく、自ら動かし、使いこなすまでを含めて初めて“学び”になるという考え方が背景にあります。

一方で、これらのミシンは本校開校当初には、すでに希少なものとなっており、探し回ってやっと数を揃えたものであるため、修理ができる職人の不足や部品調達の難しさなど、維持には大きな苦労があるとのこと。教育を支える設備の裏側に、外部の支援が欠かせない現実も目の当たりにしました。

シュタイナー教育の特色について(外部リンク)

学校を始めるための最短距離―NPO法人としての開校という決断の背景

私立学校としての認可には、校舎・設備・土地など厳しい基準があるため、京田辺市内で認可校として開校するには数億円規模の資金が必要です。

「目の前の子どもたちに、一日も早く環境を整えたい」

その想いから、長期準備を伴う学校法人よりも、柔軟に教育活動を開始できるNPO法人という形態を選んだといいます。

※義務教育期間中は、法的な学籍が在住地の学校にあるため、在籍校との連携が必要になります。

多数決ではなく“納得”を選ぶ学校―多数決を行わない理由

本校では、意思決定に多数決を用いません。

それは、少数意見の側に立つ人が、「納得できないまま従う」という状況をつくらないためです。

子どもたちだけでなく、教職員も保護者も、全員が同じように“納得して前へ進む”ことを大切にしており、たとえ時間がかかっても、相手と真剣に話し合う経験などが「自ら考え、行動に責任を持てる人を育てる」環境づくりに直結していると感じました。

子どもを中心に、大人が輪になる―“みんなで育てる学校”の現在地

同校の教職員及び保護者の学校運営については、“チーム一丸”で取り組む姿勢が印象的でした。

本校では子どもたちを支えるすべての人が学校づくりに参加しています。

教員はもちろん、スタッフ、保護者、そして外部から支援をくださる方々、その一人ひとりの関わりが、学びの土台を築いています。

取材を通して、子どもたち一人ひとりと真摯に向き合い、「生きる力」を育む教育を継続していることを深く感じました。

子どもたちの日々の学びを支えるには、多くの人の手と環境整備が欠かせず、皆さまの温かなご支援が、認定NPO法人京田辺シュタイナー学校にとって、大きな力となります。

→寄附ページはこちら(外部リンク)

(取材:平瓦)

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