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Holoeyes株式会社(京都企業紹介)

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医療を解放して、命の可能性を広げる

(令和4年3月1日、ものづくり振興課)

Holoeyes株式会社(外部リンク)のエバンジェリストで、亀岡市立病院 脊椎センター(外部リンク)センター長 医学博士の成田先生にお話をうかがいしました。

脊椎外科医がXRに目覚めるまで

-自己紹介をお願いします。

成田)私は背骨の手術脊椎の手術を専門にして医者をやっております。脊椎手術というのは非常に精度が要求され、間違いがあってはいけません。ですから、患者さんの骨の形の把握それは非常に重要になってきます。

私は新しい手術を実践しているのですが、患者さんの傷を最小限に留める手術を主にやっています。患者さんの傷が小さいということは、内部の把握をきっちりしないと非常に危険なことになりますので、そのためにVRという技術が非常に重要で、今後メインになってくるのではないかと思いました。

 

-成田先生の行う脊椎手術の特徴を教えてください。

成田)従来の手術は、手術の際に患者さんの体をガバッと開けていました。私は、開けずに皮膚だけを切って手術をするのがいい方法じゃないかと思い、iPadに術野を映して、ネジを入れるという手術方法を考えました。腰がねじれて曲がってしまった人に対する手術もいろいろな方法があるのですが、私は横から手術をするということを主に取り組んでいます。指で椎間板を触って神経の位置を感知して、悪いところだけをピンポイントで手術するやり方なのですが、これは私自身で開発して特許を持っています。

 

-XR技術活用に至ったきっかけを教えてください

成田)手術のために、自分でCGを使ったり、スマートフォンで角度計みたいなものを作って活用したりしました。そのような中で、いろいろなシミュレーションとかやるよりもVRを使った方がいいだろうという結論になりました。

エバンジェリストとしてHoloeyesの製品の魅力を伝える

-Holoeyes株式会社の事業概要と成田先生の役割を教えてください。

成田) Holoeyes株式会社は、医療における暗黙知を世界的に共有し、少しでも多くの人の命を救うための可能性を広げることを目指し製品の開発に努めている会社です。起業にあたり、トップランナーである杉本先生にご協力していただいて、実用化のプロセスの中で私も開発に参加させていただきました。学会の会場で、この人面白そうだと思って杉本先生に僕から相談しに行ったのです。そしたらそのときまだHoloeyesができる前で、一緒にやろうという話になり、私は「エバンジェリスト(伝道師)」という役割を担いました。私も一緒に開発しましたけれども、活用し、実践しているのでそれをみなさんにお伝えする仕事をしてほしいということでした。

手術をするにあたり、空間認識とか空間の把握解剖の把握は非常に重要ですので、MRやVRの活用が必要ですよと伝えています。

一番最初に作った2016年のソフトウェアでは、患者さんが寝ている状態で、体内を覗き込むことができます。手術のシミュレーションも可能で、ネジのデータをUnityに入れたり、CADのデータをそのまま持ってきたりしてツールを開発しました。他にも、MRで、手術中に誰がどこを見ているのか全部HoloLensでわかるようなものもあります。そしてどんな角度でネジを入れたらいいかということを、Unity上で座標を作って、プログラムをしました。これを見るとネジを何本置いたらよいのか、などといった術前計画に活用できます。

東京のとある病院から、癌を摘出するにあたって、VRで術前計画を立てたいと相談された事例もあります。

また、実際に構築したVRの座標などがどのぐらいの精度なのか、アメリカで実験もしました。プログラムしたデータの精度、ネジの角度などの精度がどれぐらいあるか、スクリューを入れる実験をしました。そこで分かったのは、精度は完璧ではなく誤差もあり、完全にXR技術だけで全部代替できるものではないということでした。HoloLens自体がブレたりするので、XR技術だけを頼りにネジを入れていくことは難しいですね。一方で、ソフトウェアは非常に進歩していて、VR上でスクリューやネジを打ってそれを再現できるという利点はあります。

また、弊社の商品医療機器として手術の道具の一つとして認可も下りましたので、健康保険で認められたということは、大きな前進だと思っています。

 

-CTスキャナー等で集積したデジタルデータも活用されていますか?

成田)Holoeyesでは、全国の施設から症例のデータ(ポリゴンデータ)が集まってきています。

ポリゴンデータは、研究目的に使用することに同意を得ており、データに個人情報は紐付かずに匿名化されておりますから、それら各種疾患をたくさん集め、「Holoeyes edu」というソリューションとして、教材にして提供しています。

医療分野におけるXRの未来

-XR技術は医療の業界でどのくらい浸透していますか?

成田)おそらくXRを恒常的に、日常的に使っている病院というのは、数十もないです。ですから、1%ももちろんいきませんし多いとは決して言えません。

ハードルとしましては、やはりデバイスがまだ未成熟であることが大きいです。重たかったり、装着感も良くないので、HMDなどのゴーグルが手術の邪魔になるということです。もう1つはXR技術・デバイスの良さがまだ周知されていないことが原因だと思います。さらに言えば、カルテ情報やCTデータなどを移行する時に、医者の手が必要になるので、完全に自動化されたカルテのシステムの中に入ってないというのも浸透しない原因の一つになっていると思います。機材の面、知識の面でハードルがあると感じています。

 

-医療分野でのXRの未来について考えや思いを聞かせてください。

成田)一番有望なのはリハビリじゃないかなと思っています。リハビリでは、通常だと理学療法士が患者さんに合わせていろいろな課題を実践するんですが、それがVR空間内であれば極めて自由にそして自動でできますので、かなり効果が出るということを考えています。

医療分野ではリハビリじゃないかなと思っています。

もう一つは、患者さんに対しての疾患説明や、遠隔診療の分野にも活用用途があると感じています。

 

-XRの市場が広がり、多くの消費者へXRが普及するためにはどうしたらよいと感じますか。

成田)広くXRという技術を考えると、やはりHMDなどのゴーグルを装着するというところから脱却できればいいなと思っています。私は、VRやMRよりはARがやはり使いやすいと思っていて、術野の手前にタブレットや半透明のグラスのようなものを設置し、あとは大きなグラスをぱっと見たらそこに情報が出てきて透過して見える、といった実際の手術のことを考えると、オーギュメントのほうが良いのではないかと考えています。ただ、医療分野では、細菌が付かないなど完全に清潔な状態のデバイスであることが要求されますから、現時点で適したデバイスがまだないのでハードルが高いです。海外のメーカーでそういう商品が出てきていますが、日本発でそういう面白いものができればいいかなと思っています。

 

-XRなどの先端技術を活用するにあたってのユーザー側の課題は何ですか?

成田)ITリテラシーは我々供給側が思っているよりも、個人差があります。

例えばCTのデータをダウンロードして、パソコンに入れてそれをソフトウェアにアップロードするという、非常に単純なことでも、ぱっとできる人と全然できない人がいます。そういったITのリテラシーの差が課題になっています。

また、医療業界や医者というのは想像以上に保守的でして、医療機器についても、機械屋さんなどが手術中に手とり足とり教えることが主流です。そういったサポート体制は弊社にはないので、浸透しにくい要因にもなっていると思います。

 

-成田先生が、先端技術に対するリテラシーが高い理由は何ですか?

成田)BASICとはずっとやっていたりとかちっちゃいときからパソコンに触ったりしていて、エンジニアになりたかったのです。ただ、工学部に落ちてしまって、手に資格だなと思って医者か弁護士かどっちかかな、理系だからじゃあ医者になろうと思って、受かった医学部が自治医大でした。そんな流れで医者になっているので、私の中で医療とか医者というものは、自分が持っている要素の中の一部分なんです。手術も多くやっておりますし、外来もしてますし、コンピュータも好きですし、ピアノもやっていますし、色々な要素が自分の中にあるのです。その中で自分が、今一番課題としている「脊椎手術」を少しでも安全にしたいということに向かって、どういうリソースを使うか考えたときに、先端技術の活用が重要だと思ったのです。

昔の知識は役に立ちませんので、もう一度勉強して、「デプロイって何やろう?」みたいに一個一個を調べて、ソフトウェアの開発をしてきました。何かバグったら、調べるとだいたい誰かがウェブ上に答えを載せてます。特にコンピュータ関係というのは、現代は自学しやすい環境にあると思っております。

京都で出来ることを考え、世界に挑戦する

-医療業界のXR技術開発や市場への浸透に関する課題はありますか?

成田)私が痛感するのは、アメリカや中国などの海外のスピードの速さですね。

なかなか日本人の脊椎外科医が、世界のイノベーションに対して何ができるかと考えると、結構難しいと思います。あまりにもアメリカと中国が早いと思うので、京都でできることを探していきたいと考えています。

まず、医療の業界に特殊なことが一点あるんですけれどもそれは何かというと規制なんですよ。いわゆる薬機法ですね。先進的な医療機器というのはどうしても前例がないものですから、認可が非常に遅いんです。逆にアメリカや中国はもの凄く速いです。

あともう1点は予算です。特にアメリカの医療の予算は莫大です。有名な話で、アメリカで盲腸になると日本の10倍100倍のお金を取られるといいますよね。要はそれだけメディカルに対する予算がかけられるってことです。保険にしかり、企業にしかり、予算があってITのエンジニアにもたくさんいます。規制も日本より緩いですし、XRを使うデバイスがそもそもアメリカ製です。そう考えると、なかなか日本の企業が付け入る隙がないんじゃないかなという気がします。

 

-日本の医者の職人的な技やノウハウが技術開発に活かされる可能性はありますか?

成田)それはholoeyesの方で手の動きを記録してそれを再生する手術の常識であったり、例えば執刀医はどこを見ているのかっていうのを記録して、それをどこでもいつでも再生できるというようなシステムを開発しています。

ただ、手術はそう単純なものじゃなくて、手の感覚であったり、指のフィードバック(ハプティクス)が非常に重要ですから、なかなか人間の人の体の感覚をVRで再現するのは難しいです。とはいえ、ダヴィンチというロボットはそのあたりを上手に再現しています。日本でも、火の鳥というロボットが先日出てきましたけれども、やはりハプティクスな部分をいかに再現してより良いものにしていくかというところが、日本の強みというかそういった集学的な要素が大事なんじゃないかなと思います。

 

-貴重なお話、ありがとうございました!

 

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