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知の京都- 金村成智さん(京都府立医科大学 歯科口腔科学)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

知の京都 京都府の産業支援情報

むし歯早期診断システムの構築

(掲載日:令和3年4月9日、ものづくり振興課 鴨井)

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(左:金村教授、右:山本講師(右)と足立助教(左))

 京都府立医科大学 歯科口腔科学の金村成智教授、山本俊郎講師、足立哲也助教にお話をお伺いしました。

全身疾患を歯科で予防

歯医者さんは身近な存在ですが、改めて歯科疾患について教えてください。

金村)歯科の2大疾患であるう蝕(むし歯)と歯周病(歯槽膿漏)による歯の喪失は、咀嚼機能・嚥下機能・発音・審美性の低下等のQOL(生活の質)の著しい低下を招き、オーラルフレイル(口腔機能の衰え)の原因となります。結果的に口腔機能の衰えは、食欲の低下、さらには全身の機能低下(サルコペニアや低栄養など)へと進み、要介護状態へとつながる可能性があります。また、むし歯菌は、感染性心内膜炎・脳出血・認知症・肝硬変・潰瘍性大腸炎等の様々な全身疾患リスク因子となります。

全身疾患のリスク因子にもなるのですね。

金村)はい。脳卒中や認知症の重要なリスク因子として、喫煙や飲酒などの生活習慣、高血圧症などが示唆されていますが、我々の研究結果(外部リンク)では、コラーゲンに結合する性質を持つミュータンス菌が脳卒中や認知症の発症リスクを高めていることが明らかになりました。この菌は、血管壁のコラーゲンと結合して血管の損傷部位に集まり、血小板の止血作用を阻害する性質を持っている「むし歯菌」です。一般住民の4人に1人が保有している可能性があることから、口腔衛生や口腔内環境を向上させることにより、脳関連疾患の発症を減少させることが期待できます。

口腔衛生や口腔内環境を向上のためにはむし歯の早期発見・早期治療が重要になってきますね。むし歯はどのようにして起こるのでしょうか?

山本)歯の構成として、表面のエナメル質と象牙質があります。エナメル質は97%を無機成分(ハイドロキシアパタイト)が占め、人体の中で最も硬い組織(モース硬度7)です。一方、象牙質はハイドロキシアパタイトの含有率が低く(70%)、柔らかいために、象牙質に達したむし歯はとても進行が速いです。歯面に付着したプラークの中ではスクロース(糖)を原料にミュータンス菌による糖代謝が起こり、代謝産物として乳酸をはじめとする酸が産生され、これがエナメル質の脱灰を引き起こします。

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歯医者さんではX線や目視確認などでむし歯を探していますよね。

山本)町の歯医者に設置されているデンタルレントゲンの最小空間分解能が500μm程度であるため、小さなむし歯を確認することは困難です。500μmというと目視で確認できるサイズで、発見時には神経を抜かざるを得ない状態にまでむし歯が進行していることもあります。この予防のためには、小さなむし歯を早期発見できる診断機器の開発が必要です。

なるほど。この早期診断のために新しい診断計測装置を開発されているのですね。

ラマン分光技術を応用した歯科医療機器診断計測装置の研究開発

新しいシステムということですが、どのような手法を用いているのですか?

金村)我々はX線装置などで避けることのできない被曝のリスクがなく、分子レベルの構造変化を検出できるラマン分光法に着目しました。ラマン散乱は90年以上前に発見された現象ですが(1930年にノーベル物理学賞を受賞)、近年ではレーザーやCCDカメラの発展により、生命科学分野でも導入されています。このため、ラマン分光法は、まだ成長途中の分野であり、古くて新しい分析技術といえます。

ラマン分光法については、以前に京都工芸繊維大学のPezzotti先生にお聞きしましたが、ラマン散乱光というシグナルで分子振動に基づき材料分析をする手法ですね。

足立)はい。これまでに、Pezzotti教授との共同研究で、ラマン分光法を用いたむし歯の早期発見に成功しています。歯のエナメル質は96%がリン酸カルシウムであるハイドロキシアパタイトから出来ています。スペクトルを解析すると960 cm-1付近に特徴的なピークが見られ、これはハイドロキシアパタイト中のリン酸イオン(PO43-)に由来するものです。ハイドロキシアパタイトは脱灰によってリンの損失が起こりこのスペクトルに変化が生じるため、むし歯の診断が可能となります。

 もう少し、学術的な表現をすると、ハイドロキシアパタイトが脱灰によってCa2+の空孔を生じると、化学両論的には電気的平衡を保つためにCaHPO4相とβ-Ca3(PO4)2相に近い局所的構造を生じます。化学式で表現すると、下記のように表すことができ、ラマン分光法ではこの反応式の途中の状態といえる非化学両論的変化を評価しています。このPO43-の分子振動に着目し、960 cm-1のラマンバンドの半値幅を観測することで脱灰の程度を定量的に評価することができます。ラマン分光法はエナメル質の脱灰において分子レベルで起こる非化学量論的な変化を検出することができる点で従来のむし歯診断とは一線を画す技術となります。

Ca5(PO4)3OH + 2yH+⇒Ca5-y(HPO4)y(PO4)3-y・(OH)1-y・(H2O)y+yCa2+

 また昨年、当科大学院生の宮本奈生先生がラマン分光法を用い、X線写真では写らない極小のむし歯の可視化に成功(外部リンク)しています。 

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・Materials .13(21) 4900 - 4900 2020.より一部改変

・Spectrochimica Acta Part A: Molecular and Biomolecular Spectroscopy. 173:19 – 33. 2017

京都のものづくり企業ともタッグを組まれており、素晴らしい取組ですね!

足立)このラマン分光技術を医療機器に応用するためには、高感度、高分解能を維持しながら、小型化する必要があります。この課題を解決するために、カメラ用の光学系の製造技術を有する株式会社ShinSeiと一緒に歯科医療診断装置を共同開発することになりました。本事業はサポイン事業(外部リンク)(経済産業省 戦略的基盤技術高度化支援事業)にも採択され、産学連携の取組として、新しいむし虫歯診断機器の開発を進めております。

実用化への課題があれば教えてください。

足立)ラマン分光法は微小部分にレーザーを当てて局所的な分析が可能な手法ですが、逆にレーザービーム径が小さいことが課題となります。口の中は3次元の構造ですので、場所や角度等、様々な情報を取得する必要があります。また、歯の数は多いので、それを一つ一つ、測定するわけにはいきません。そこで、予め怪しい歯をカメラで探してスクリーニングし、特定部分に対してラマン分光法を活用するという方法を検討しています。

画像でのスクリーニングですと、AIが活躍する分野でもありますね。

足立) 歯科は予防も含めて、ほぼ全ての人が受診します。つまり、健常者も含めて、患者全員の生きたデータを取得できる分野でもあります。AIのディープラーニングには大量の教師データが必要となり、一般的にデータが多ければ多いほど、その精度が向上していきます。歯科分野には膨大なデータの蓄積があり、このデータを有効活用していくことで、効果的なスクリーニングが可能となります。その後、怪しい特定部分に対してラマン分光法を活用することで、むし歯が早期診断できるような、一体的な診断システムの構築を目指しています。

素晴らしいですね!この材料の今後の展望について教えてください。

金村)本製品が実用化できれば、多くのむし歯の早期発見による適切な予防や治療が可能となり、痛みの少ないむし歯の治療ができるかもしれません。先程も申し上げましたが、ラマン分光法は生体組織や細胞や細菌やウイルス等の病原体をありのままの状態で分析できるため、生命科学・医学に大きなブレイクスルーになり得ることが期待されます。これについては、第21回日本抗加齢医学会総会(外部リンク)(6月:国立京都国際会館)にて、Pezzotti教授がラマン分光法の医学分野での応用について講演する予定です。生体に優しいラマン分光法が身近になり、市中の歯科医院にも普及できればと思います。

ありがとうございました!今後の御活躍が楽しみです!

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