[心の健康について]
〈社会的ひきこもり〉 「社会的ひきこもり」の経過と家族の対応
「社会的ひきこもり」には、いくつかの段階があります。それに応じて、本人の様子や、家族の気持ちが変化してきます。参考までに、「社会的ひきこもり」の経過をグラフに表してみました。
混乱期 | やや安定期 | 安定期 | ためらい期 | 試しの時期 | |
---|---|---|---|---|---|
状況 | 部屋から出ない、会話がなくなる、など | ひきこもってはいるが、混乱は少ない | 少しずつ、家族のコミュニケーションが回復 | 「何かしようかな」とほのめかすが実行には至らない | 適度な対人交流や自分なりの社会参加が可能 |
本人の気持ち | どうしたらいいか分からない、やり場のない気持ち | 気持ちはいちおう落ち着くが、あせりと不安を抱えている | 気持ちが安定し、信頼できる人となら話をしたいと思う | 何かしたいが、自信が持てず不安で一杯 | 試行錯誤で行動を起こしつつ、様子をうかがう |
家族の気持ち | 「何とかしなければ」とあせり、いらだつ | あせったりいらだったりしても、逆効果なのだと理解できる | 気持ちにゆとりができ、ほっとする時間が増える | 再びあせりが出始めるが、周囲の支えを得て、本人を見守り通せる | つい欲が出て、本人の行動に一喜一憂しがち。親自身も自分の楽しみを見出せる |
対応方法 | 現状をありのままに受け留め、無理をしない | 専門機関に相談しつつ、本人を見守る | 無理のない働きかけをしながら、機が熟すのを待つ | 目標を高く設定せず、せかさない | 親子それぞれのペースで、それぞれの活動を尊重する |
1混乱期
【状況】 部屋から出ない、会話がなくなる、など
【本人の気持ち】 どうしたらいいのか分からない、やり場のない気持ち
【家族の気持ち】 「なんとかしなければ」とあせり、いらだつ
【対応方法】 現状をありのままに受け留め、無理をしない
お子さんがひきこもり始め、家族と口をきかなくなったり、会話がなくなったりして、家庭内が混乱する時期です。エネルギーが自分の内側に向かうと抑うつ的となり、外側に向かうと家族に対する荒い言葉遣いになってあらわれたりします。本人は、自分自身どうしたらよいか分からずにいますし、家族も今までとは違う家庭の雰囲気に、不安や戸惑いを感じます。
すぐに解決しようとすると、状況は余計に混乱し、家族全員がへとへとに疲れてしまいます。このような時期が永遠に続くわけではありませんので、まずは、ありのままを受け留めることにしてみましょう。ただし、暴力などの危害が及ぶ場合は、専門家に相談しながら、一時的に避難しましょう。
2やや安定期
【状況】 ひきこもってはいるが、混乱は少ない
【本人の気持ち】 気持ちはいちおう落ち着くが、あせりと不安を抱えている
【家族の気持ち】 あせったりいらだったりしても逆効果なのだと理解できる
【対応方法】 専門機関に相談しつつ、本人を見守る
家庭内の大きな混乱が静まり、本人はひきこもった状態にありながらも、いちおうの安定は見せ始めます。家族は相談機関につながり、以前よりは落ち着いた気持ちで本人に対応できるようになっています。
本人は、社会とのつながりを一時的にシャットアウトすることで、安心感を得られるようになりますが、その半面、つねに社会から逸脱してしまったのではないかというあせりや不安を抱えているものです。そのような時期も必要だということを、本人と家族が納得できるようにしていくことが大切です。
3安定期
【状況】 少しずつ、家族のコミュニケーションが回復する
【本人の気持ち】 気持ちが安定し、信頼できる人となら話をしたいと思う
【家族の気持ち】 気持ちにゆとりができ、ホッとできる時間が増える
【対応方法】 無理のない働きかけをしながら、機が熟すのを待つ
本人は少しずつ安心感を見せ始め、家族のそばで過ごしたり、会話を交わしたりするようになります。家族は、「社会的ひきこもり」についての理解を深め、自分なりに納得しているため、ゆとりをもって対応することができます。
家族のコミュニケーションが回復し、お互いに「そんなことを考えていたのか」という新たな発見があるかもしれません。
4ためらい期
【状況】 「何かしようかな」とほのめかすが、実行には至らない
【本人の気持ち】 何かしたいが、自信がもてず不安で一杯
【家族の気持ち】 再びあせりが出始めるが、周囲の支えを得て本人を見守り通せる
【対応方法】 目標を設定せず、せかさない
本人が少しずつ、「何かしようかな」という気持ちになってきます。しかし、まだまだ自信がなく、言葉と行動が一致しないこともあるかもしれません。一度は距離を置いた社会に、再び参加するための第一歩を踏み出すことは、とても勇気のいることです。ためらうのも無理はありません。本人が「何かしたい気持ちになっていること」を大切にしましょう。
5試しの時期
【状況】 適度な対人交流や、自分なりの社会参加が可能
【本人の気持ち】 試行錯誤で行動を起こしつつ、様子をうかがう
【家族の気持ち】 つい欲が出て、本人の行動に一喜一憂しがち。親自身も自分の楽しみを見出せる
【対応方法】 親子それぞれのペースで、それぞれの活動を尊重する
ひきこもっている本人が何らかの動きを始めるということは、本人にとっても家族にとっても、大きな自信につながることです。しかしまだ試行錯誤で、成功や失敗を繰り返しながら、本人なりに様子をうかがっているような段階です。家族は本人が動き出したので、つい欲が出て、いろいろなことを提案したくなるかもしれませんが、先回りせず、また本人の行動に一喜一憂せずに、見守ることが大切です。
家族自身も自分の人生を大切にし、楽しみをもつようにしましょう。本人のことから気持ちを切り離して過ごすことは、少し淋しい気持ちがするかもしれませんが、親子それぞれが自分のペースで、それぞれの活動を尊重できるといいですね。
ワンポイントアドバイス 1
《暴力について》
暴力を黙って受け続けることは、家族ばかりか本人にとっても利益のないことです。そのようなときは、互いに離れて、冷静になったときに再び話し合うことが必要です。
家族だけで対応が難しい場合は、専門家に相談しましょう。
ワンポイントアドバイス 2
《社会資源》
本人が通うフリースペースや、家族のための家族教室、親の会などを行っているところがあります。
[参考図書]
斉藤 環:『社会的ひきこもり』PHP新書
蔵本信比古:『ひきこもりと向きあう』金剛出版