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Culture,Research,Industry "Global Hub KYOTO"

ミッションは世の中を変えることスマートシティと学研都市スマートシティエキスポ ドバイ展示会
IVS開催 BitSummit開催
京都企業紹介(業種別) 京都企業紹介(五十音順) 知の京都 みんなの京都

産業振興課文化学術研究都市推進課

「芸術は爆発だ!」と語った岡本太郎。
その唱えた「芸術の三原則」は「きれいであってはいけない、うまくあってはいけない、心地よくあってはいけない」。人間は常に岐路に立たされている、その足掻きの中に新しい自分が現れる、これまでの自分を壊し、ただ人間らしい選択をして新しい運命を爆発させるのだー

私たちも、四季折々の「豊かな自然」のもとで長い歴史をかけて「悠久の文化・伝統」を形成する中で、絶えず自らを変革させながら「先端科学・オンリーワン技術」が集積するまちを構築してまいりました。

こうした私たちの強みを活かして、日本と世界を繋ぐグローバル・エコシステムのハブとなり、世界をよりよい場所とするために貢献してまいります。

"Art is an explosion!",Taro Okamoto said.
 The ``Three Principles of Art'' he advocated were ``It shouldn't be pretty, it shouldn't be good, and it shouldn't be comfortable.'' Human beings are always at a crossroads, and in the midst of this struggle, a new self emerges, destroying the old self, making human choices, and exploding a new destiny.
We, too, have spent a long history forming an ``eternal culture and tradition'' in the midst of the ``abundant nature'' that changes from season to season, and by constantly reinventing ourselves, we are developing ``advanced science and one-of-a-kind technology.'' We have built a town that is a gathering place.
By leveraging these strengths, we will become a hub of the global ecosystem that connects Japan and the world, and contribute to making the world a better place.

京都府商工労働観光部理事

目次(日本・京都の強み)

 

トピックス Topix

目次 

  地政学的強み Geopolitical strength 

  • KYOTO,JAPAN IN DUBAI
    ドバイEXPO

    「日本の品質をリスペクトしており、日本と経済交流をしたがっている」
    東京の中小企業さんからそう相談を受けたのは2023年7月でした。「相手はドバ イ政府。しかし、中小企業さんのコネというだけでは、日本で動く役所はないのではないか。一方、京都には伝統技術、食から先端技術、コンテンツまでそろっている。ならば、京都府が前面に立って、このチャンスをものにしよう」と思い立ったのが、きっかけです。
  • 仮想通貨による寄付募集プロジェクト
    「仮想通貨の円への両替機ができた」という話を、キャッシュレスに関する企業との意見交換の中で聞いて、それで主に海外からと想定した寄付を、海外との連携事業に対して募ろうと思い付き、進めています。
  • ポータルサイト「グローバル・エコシステム」

京都ならではのグローバル・エコシステム形成に向けて

700万年前ないし500年前に誕生した人類。200万年前にはが肥大化し早産で生まれてから子育てを行う「社会」を築き、80万年前にが使えるようになってから、生の果実や動物の死骸を食するため、噛んだり長い腸で消化したりするのに、その大半の時間を割かずに済むようになりました。やがて、現在の私たちホモ・サピエンス(クロマニョン人)の脳が変化し、言葉が豊富になり(動物も言葉を使う種がある)、「事実」だけでなく「虚構」を話すことで、ダンバー数(統率できるグループの数)を大幅に拡大させ、体力に勝るネアンデルタール人など他の人類を駆逐していったと言われています。そして、3万8,000年前、陸続きの北海道ルートだけでなく、海を越えて対馬ルート、沖縄ルートからやってきたのが日本人の祖先です。こうしてユーラシア大陸から渡し、穏やかで他人に尽くす親切遺伝子YAPを持ち、1万年以上の平和な縄文時代を築いた「縄文人」、北東アジアから渡来した「弥生人」、東アジアから渡来し、現代人のDNAとほぼ一致している「古墳人」の混合により、日本人は形成され、地政学的に他民族による淘汰を受けずに独自の文化を築いてきました。

言語

まず、日本語を構成する漢字、カタカナ、ひらがな(和語)のうち、和語の形成は世界のどの語族にも属さず、独自に発展してきました。。文字は紀元前4000年頃に誕生しましたが、言語は15万年前から存在すると言われ(動物も持っているとの研究成果もあります)、常に変遷しながら現在7000言語が存在していま(日本にもアイヌ語、八丈語、奄美語、国頭語、与那国語など9言語が存在)。地域によって「大切にしているものが異なる」ことが、言語の多様化に繋がっていると言われています(「Rice」に対して「米」「ご飯」「飯」「シャリ」など)。こうした地域・民族のアイデンティティである言語は、植民地支配で最初に奪われるものとも言われています。

  • 世界的な人口密集地域:言語(発音)の違いが大きい。これは言語の機能には「意思の疎通」だけでなく「意思の疎通の阻害」があって、他民族が隣接するような地域では、民族間の情報漏洩を防ぐために、異なる言語が開発されてきたと言われています。
  • その他の地域:代表的なのは「インド=ヨーロッパ語族」です。古代インドの言語と現在のヨーロッパの言語に共通性がみられるというのは、紀元前3000年から紀元前1000年にかけて寒冷化が起こったため、ユーラシア大陸北部にいた民族が、南(インド)や西(ヨーロッパ)に移動したためと言われています(ちなみに、この寒冷化すなわち乾燥化によって、それまで湿潤だったサハラが砂漠化しました。なお、各大陸で砂漠は西側、湿潤気候は東側となっているのは、高気圧の海から低気圧の陸への風に関し、西側は寒流の海に接し上昇気流が抑制され湿気が少ないのに対し、東側は暖流の海に接し湿気の高い空気が流れ込んでくるためです)。

文明

また、3万8000年前の石器(伊豆諸島から海運でもたらされた黒曜石)が発見され、1万6500年前の世界最古の土器(世界でも特に優れた文様で、材料は国内を船による交易で調達し、その生産には火を使う)が発掘されているほか、稲作(保存できる穀物は富と貧富の差を生む)の遺構も中国よりも古いなど、世界を先導する文明が発達していたそうです。なお、世界の文明も様々な地域で興ってきました。アナトリア東部や地中海東岸にも先進文明が、メソアメリカやインカ、アフリカにも独自の先史文明が、黄河文明以前に長江文明が、存在していました。

  • 石器時代:主に石器を使う(金属を使っていない)時代
  • 青銅器時代:石器の代わりに主に青銅器を使う時代(メソポタミア、エジプト、中国など)。希少だけれど精錬しなくてもよく、加工しやすいと違って、酸化した状態で存在するのが通常であるを偶然に精錬(還元。焚火に含まれる炭素が、酸化銅から酸素を引き離したなど)したことがきっかけで、剣やのこぎりなど、石器より軽く技術次第で自由な加工ができる金属の活用の道が開けました。銅と錫を混ぜた、より強靭で錆びにくい素材が青銅で、青銅を持たない文化を圧倒しました。銅と錫の産地は異なり、それら両方を獲得できる広域ネットワークを有する文化が青銅を作ることができました。青銅は繊細な加工ができるため、日用品は後に鉄器にとって代わられますが、美術・工芸分野では使われ続けます(銅は、その熱伝導性、導電性の高さから現代でも電子機器部品等に使われています)。
  • 鉄器時代:青銅器の代わりに主に鉄器を使う時代。は強度が強く、現代使用されている金属の90%を占めると言われ、鉄鉱石は多くの地域に存在しますが、精錬が難しいため青銅よりも活用が遅れました(青銅の融点が875度なのに対し鉄は1500度)。ちなみに、鉄よりも地殻中に多く存在し、鉄に次いで利用頻度が多いアルミニウムは、鉄より軽く錆びない(酸化被膜)利点がありますが、精錬が難しいためナポレオン三世以降に利用されることとなりました。アルミニウムと銅とマグネシウムの合金がジュラルミンです。

なお、その他の文明は、次のとおりです。

  • オリエント
    --メソポタミア:農業に適した日照り(乾燥地帯)、養分・水分(大河川の下流)があり(中世欧州よりも高い農業生産性を誇った)、地中海気候によって多く自生していた1年草が税金確保の上でも都合が良く、農業、都市化、文字、法律などの揃った高度な文明が栄えたメソポタミアは、山脈が少なく侵入しやすいため、ユーラシア大陸の寒冷化に伴い南下した狩猟民族らをはじめ様々な民族の栄枯盛衰がありました。最初のシュメール人は、紀元前4000年頃にメソポタミアに移動してきて、既に農業を行い、都市城壁を築き、文字を使用するとともに、旧約聖書の「ノアの箱舟(人類の堕落を嘆く神が洪水を起こし、箱舟を作ったノア以外の生物を絶滅させた)」に似た洪水の神話(ギルガメッシュ叙事詩など)なども作っていました。次にアッカド人、そしてハンムラビ法典で有名なアムル人、鉄製武器を使ったヒッタイト人、さらにそれを滅ぼした海の民によって鉄器が広まりました。
    --エジプト:メソポタミア同様、「ナイルの賜物」であり、灌漑農業等を進めるために紀元前3000年頃にはファラオ(王)による統一国家が成立しました。ピラミッドは、農業ができない季節の「公共事業」政策であったという説もあります。馬にひかせた戦車で戦った遊牧民ヒソクスなどの侵入、クレオパトラとカエサル、アントニウスとのロマンスで有名なローマとの戦いなどがあったものの、砂漠と海に囲まれ、基本的には異民族が侵入しにくい地域であったため、ファラオの支配が続く期間が長くありましたが、海の民によって弱体化しました。
    --シリア・パレスチナ海の民によるヒッタイトエジプトといった大国の弱体化により、この地域の空白化が生まれ、陸で活躍したアラム人(アラム語は後のヘブライ文字、アラビア文字、モンゴル文字等の起源となりました)、海で活躍したフェニキア人(ローマとの戦いで有名な北アフリカのカルタゴなど多くの植民都市を建設。フェニキア文字はギリシア世界へ伝わり後のアルファベットの起源になりました)、ヘブライ人(ユダヤ人)などが栄えました。
    --オリエント統一:メソポタミアで紀元前2000年代に成立したアッシリアがやがてオリエントを統一しました。そして、アッシリアの分裂後には、アケメネス朝ペルシアが統一し、国道「王の道」の整備や、フェニキア人の交易の保護、金貨・銀貨の発行などを行いました。最後にはマケドニアに滅亡させられました。マケドニアもアレクサンドロス大王の死後、分裂し、やがてササン朝ペルシアの時代となりますが、それもやがてイスラム帝国に滅亡させられます。
  • 古代ギリシア
    紀元前2000年頃に生まれた、城壁がない平和的なクレタ文明、それを滅ぼしたミケーネ文明(トロイの木馬で有名な、トルコ半島先端のトロイアまで勢力が及びました)、それが滅んだ後の暗黒時代を経て、やがて、集落が集まり、アテネスパルタなどの都市国家「ポリス」が生まれました(ギリシアの山がちな地形故に、統一国家にはなりませんでしたが、半島故に、共通意識は持っており、異民族を区別し、オリンピックの由来となる競技大会がオリンピアで開催され、その間は戦争も中止とされました)。ポリスは交易拠点の確保を理由に、今のトルコやイタリア、フランス等に大規模植民市を建設していきました(現在のイスタンブール、ナポリ、マルセイユなど)。アテネでは人口の3分の1程度が奴隷でした。戦いにおいても貴族の騎馬隊から平民の重装歩兵化が進み(ペルシアを退けた「マラトンの戦い」では、戦勝報告のために、マラトンからアテネまで走り続けた話が有名)、ペルシア戦争終結後はアテネ中心にギリシア内同盟が進み、アテネ帝国化しました。一方で平民の重装歩兵化により、政治の貴族の独占が困難になるなどし、統治体制は王政、貴族制、僭主制、(世界初の)民主制へと変化していきました。また、スパルタは、市民の20倍の奴隷がいただめ、市民は常に体を鍛えていたと言います。商工業や貨幣が禁止、土地は平等に分配され、王政が続きました。アテネの勢力拡大に伴い、両陣営の同盟が対立し戦うようになります。ペルシアの介入により戦争が絶え間なくなり、市民が没落し、ポリスは変容、ギリシア全体が崩壊していく中、マケドニアが台頭し、アレクサンドロス大王が遠くインダス川西岸までの大帝国を築きました。各地にアレキサンドロスという街を築き、ギリシア人を入植させたため、東西文化が融合しヘレニズム文化が生まれました。
    なお、古代ギリシアの王政から民主制への変遷は、神話から哲学への変遷ともリンクしていました。ギリシア神話の始まりは、ポリスの時代、紀元前1500年頃と言われており、多神教の神様たちの物語です。ガイア(土地の神)は我が子ウラノスと12神(巨大な神ティタン)を産みます。横暴なウラノスを滅ぼした12神の一人、クロノスは、同じように子に滅ぼされるのを恐れ、生まれた我が子を飲み込むのですが、それを逃れた子がゼウス(全知全能の神)です。ゼウスはクロノスに薬を飲ませ、呑み込まれた兄姉を吐き出させます。その中の一人がポセイドンです。ゼウスは仲間とギリシアで一番高いオリンポス山に拠点を築きます(仲間はオリンポスの神々)。そしてクロノス率いるティタンにゼウス率いるオリンポスの神々は勝利します。ゼウスは人間が文明を発展させ神に近づくのを防ぐため「火」を取り上げました。しかし不憫に思ったプロメテウス神(ティタンの一人)は人間に「火」を授け、文明は発展しました。それに怒ったゼウスは人間への罰として、「女」を作り人間界に送り込むことにしました。その女がパンドラです。パンドラは封印されていた壺を開けてしまいました。壺の中から飛び出した「病」「死」が人間界に広まりました。ただ箱の中には「希望」もありました。このおかげで人間は病、死があっても希望をもって生きていけるようになりました。これが「パンドラの箱」のエピソードです。その他、怪力で有名なヘラクレス、英雄ペルセウス、白馬のペガサスイカロスなど様々な神や怪物が登場します。また、ギリシア哲学(哲学はギリシア語で「フィロソフィア」=知を愛すること)は紀元前500年頃に登場しました。当初は、世界が何で構成されているか、すなわち世界の最小単位アルケーが大きな関心事で、「アルケーは数である」と言った、三平方の定理で有名なピタゴラスをはじめ、多くの自然哲学者が登場しました。しかし民主政治が台頭すると、弁論術を教える存在へと変化します。それを正そうとして処刑されてしまったのが「無知の知」で有名なソクラテスです。その弟子プラトンは超理想主義、その弟子で現実主義者のアリストテレスは完璧に近づきたい人間の心理エロスを説きました。アリストテレスは生物学の生みの親とも言われています。
  • 古代ローマ
    ティベル川沿いに古代イタリア人の一派、ラテン人が都市国家ローマを作りました。他民族に支配された後、それを追放し、紀元前509年に共和制が始まりました。とはいえ、元老院を中心に貴族が支配していましたので、重装歩兵として輝きだした平民が力をつけ、身分闘争が始まりました。それと並行して半島統一が進みました。半島をうまく統治する手法として、ローマ人が移り住んで比較的待遇の良い「植民市」、ローマに併合されたものの自治権を認められた「自治市」、独立国ではあったものの市民権が与えられず軍事支援を負わされた「同盟市」に区分し、待遇が違うそれぞれが同盟を結んで抵抗することがないようにしました。やがて北アフリカのカルタゴとの戦争にも勝利し、地中海沿岸を制覇しました。なお、5世紀にローマ帝国が滅亡した後、中世ヨーロッパでは権力と一体化したキリスト教の戒律により、全身浴の習慣がなくなり、人々・街の衛生環境は劣悪になり、伝染病が流行りました(道に捨てられた糞を避けるように男性が長いスカートをはいた女性を先導することが「エスコート」のベルサイユ宮殿の庭に糞を捨てないようにと「立ち入り禁止」札を立てたのが「エチケット」の、それぞれ語源となりました)。

宗教

さらに、宗教も独自の進化を遂げてきました。世界は多様な宗教やそれに基づく文化・風習にあふれ、その違いを知れば知るほど、世界の豊かさを実感します。そもそも世界中で自然の偉大さを科学的に説明できない時代においては、様々なことを解釈するのに「神」という存在が発明され、各地域、各部族で土着の神々や先人が信仰されてきました。

  • 日本の神道も、それぞれの地域ごとに、それぞれの神が信じられてきたものであり、教祖も教義もありません。やがて稲作の開始とともに貧富の差が生じ、次第に各地に「王」が登場した際に、権力・権威を保持するのに自らの祖先を神とする者が現れました。王どうしの争いに勝ち残ったのが天皇です。そして自らの祖先である神こそが最強だということを「古事記」 (太陽の神・天照大神の直系子孫が神武天皇であること、天照大神の親であるイザナギとイザナミが日本列島を作ったこと、など) としてまとめ上げました。やがて仏教伝来に当たり、仏教反対派の物部氏を仏教賛成派の蘇我氏が破りました。神道には教義はなく、仏教は神ではなくシャカという人間の教えに従って生きようというものであり、互いに排除するものではありませんでした(時に仏教では神様は仏様であるといった神仏習合によって布教を拡大させましたが、明治政府は神仏分離令を施行しました)。
  • また、神ではなく人間・シャカ紀元前500年頃にインドで生まれたゴータマ)の教えに従って生きようというのが仏教です(現在の信者数:4億人)。裕福な暮らしの中でも、人生に対する悩みを持ち、修行を重ねたゴータマが行きついた答は、「人生は苦。苦の原因は人間の執着心、つまり煩悩にある。煩悩から解き放たれた『悟り』を目指そう」というものでした。煩悩をなくし悟りに到達した人を「仏」と呼び、シャカは仏の「先輩」という立ち位置です。悟るためには、苦行ではなく、出家して規則正しい平穏な生活等こそが大事だという教えは、多くの人々の心を捉え、シャカとその多くの弟子達によって世界中に広まっていきました(「釈迦」以外の「阿弥陀如来(仏の王)」などの仏は、釈迦が弟子たちに語った、地球以外の(大宇宙の)仏、すなわち空想上の仏です)。ただ、大事なことは文字にしてはいけない風習のあったインドでは、弟子たちの間で思い思いの解釈がなされていきました。その中で、出家などしなくても、どんな人でも広く救っていこうとする緩い解釈の「大乗仏教」が中国、そして日本へと広まりました。もともとの厳格な「上座部仏教」は東南アジアに広まり、現在でも厳格な寺院がたくさん目に留まります。日本には、最初、政府関係者などに広まったため、エリートのための学問という捉え方でした(奈良仏教)。それに対し、エリートだけでなく誰しも修行すれば悟りを開けるというのが真の仏教の教えのはずだと奮起し、直接、中国に渡って学んできたのが平安時代の最澄と空海です(天台宗・真言宗)。さらに庶民向けに、「南無阿弥陀仏」と唱えるだけで救われるという、日本生まれの宗派が鎌倉時代に生まれます(口にするべきとする浄土宗・思うだけでもいいとする浄土真宗)。

なお、世界を見渡してみると、次のとおりです。

  • 多神教であるのがヒンドゥー教です(現在の信者数:11億人)。紀元前1000年頃に、白人遊牧民が、ウクライナの辺りからインドに移動、原住民を駆逐し、アーリア人(高貴な者)と自称し始めました。原住民支配のために(諸説あり)、神々がこの世を支配していること、自分たちは神々と繋がっていることを謳い、厳しい身分制(カースト)を敷いたバラモン教を広めました。しかしやがて、硬直的な身分制度への不満から対立や分裂が起こり、様々な宗教や国が生まれていきました(その一つが仏教です)。これに焦ったバラモン教は、原住民が元々信じていたそれぞれの土着の神もバラモン教の神に位置付け、多くの人々の心を捉えました。これがヒンドゥー教です。追加された神々も含めて、その活躍の物語の数々が「叙事詩」としてまとめられました。現在でも叙事詩を基にしたテレビドラマが制作されたりしていますし、そもそも教えそのものも現在でも追加され続けています。ルールを守って幸せになるというキリスト教や仏教と違って、ただ輪廻(現状の身分で頑張れば来世で身分が上がる)の考えや物語のような叙事詩が親から子へと伝えられて、インドの人口増加とともに信者が増えているだけというのが実態です。現代では時代遅れの風習も多いものの、生活として根付いており(単に、司祭:バラモン、武士:クシャトリア、商人:ヴァイシャ、農民・サービス:シュードラ、不可触民:ダリトという階級だけでなく、大工、漁師、羊飼い、洗濯人などの職業と結びついています)、法律で禁止されても、なかなか変わらないケースも多くあると言います。
  • なお中国では、春秋戦国時代に、仁と礼を重視した徳による政治を説いた孔子や孟子の教え(儒教)や、逆に儒学を否定し、道(タオ)に従い無為自然の生き方を説いた老子や荘子の教え(道教)が生まれました。13世紀に科挙試験に採用された、儒教の一派である「朱子学」は、日本でも林羅山により江戸幕府の統治に利用され、また江戸幕府の終焉にも関わりました(武力による「覇道」(幕府)を否定し、特による「王道」(天皇)を肯定)。

こうした多神教等に対し、一神教(ただひとつの存在である神)であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教はどのように人々の心を捉えてきたのでしょうか。

  • 古代エジプトに戦争で負けて奴隷になっていた遊牧民族・ヘブライ人は、神の声を聴いたというモーセに従い出エジプトを試みたところ、紅海を前に追手に追い詰められ、神によって海に道ができ、逃れることができたといいます。こうして「選ばれた民」と神の10の約束事(十戒)を、シナイ半島のシナイ山で誓ったのです。これがユダヤ教の原点であり、神と誓った人たちとその子孫がユダヤ人です。ユダヤ人に語り継がれたこうした話を後の世に書き上げられたのが(旧約)聖書です。エジプトを脱したユダヤ人は、神のお告げに従い、他の民族もいた中でイスラエルの地に建国し、その後他国の植民地になりながらも1000年ほどその地に住み続けた頃に「神の無限の愛」「隣人愛」などを説くイエスが現れました。ユダヤ人に処刑されてしまいましたが、弟子たちによって、選民思想のない新しいユダヤ教、すなわちキリスト教の勢力が拡大していきました。やがて、ローマ帝国からの独立戦争に敗れイスラエルの地から追いやられたユダヤ人たちは、キリスト教が政治・行政面でも勢力を持つようになっていたヨーロッパに散っていきました。迫害を受けつつも、その試練をも「選ばれた民」故にと考え、たくましく乗り越えていきます。神の教えで土地を持てない彼らは、農業全盛期の時代にいちはやく貿易業金融業を始めました。世界中に散りぢりになり同じように迫害を受けていたからこそのネットワークと連帯感が活かされたわけです。こうして富を築くに従い嫉妬や陰謀論に苦しめられてきましたが、ユダヤ人は「選民思想」を支えに乗り越えてきました
  • 一方のキリスト教は、イエス(キリスト:救世主)の言葉を弟子たちが書き留めておいた、世界一のベストセラー「新約聖書」が全ての基本となっています。「神の無限の愛」「隣人愛」さらには「天国(神を信じれば誰でも救われる)」の考えが多くの人々の心を捉え、現在23億人と世界で最も多い信者数を誇ります。当初、イエスの弟子たちの布教により、やがてはローマ帝国の国教になりました。そしてローマ帝国の東西分裂に伴い、キリストも東の「正教会」、西のローマ教皇を頂点とする「カトリック教会」に分かれていきます。さらに、教皇の世俗化や聖職者の堕落などカトリック教会への不満がきっかけとなって、宗教改革者・ルターが登場しました。信仰と聖書を拠り所に一人ひとりが神と向き合おうという考えが、印刷技術の発展で聖書が多くの人に届くようになったことも追い風となって広まりました。こうして誕生したのが「プロテスタント(抗議する者)です(プロテスタントでありながら、英国国王がローマ教皇のような役割を果たす「主教制度」など、カトリック的制度を採り入れた「イギリス国教会」に反発したのが、米国へ渡った「ピューリタン」です。ユダヤ教と同じく「選民思想」があり、それ故に「ユダヤの友」といった考えを持つ「福音派」が、米国キリスト教徒の4割を占めると言われます)。
  • また、現在16億人の信者を抱えるイスラム教7世紀頃にアラビア半島で生まれました。メッカで生まれムハンマドは、砂漠地帯で水や食料が不足しがち故に、部族どうしの争いが絶えなかったアラビア半島の状況を憂う中で、神の言葉を受けたとされています。そのムハンマドの言葉を聞いた人々によってまとめられたのがコーランです。貿易商として各地を巡り、ユダヤ教やキリスト教の知識を持っていたムハンマドの言葉・コーランは、ユダヤ教やイスラム教と共通の神を信仰するなど共通する面が多くあります(モーセやイエスも預言者として認め、ムハンマドが最後・最大の預言者)。部族がそれぞれ土着の神を信仰し争いの絶えないアラビア半島では、一神教の神の前には皆が平等であるというイスラムの教えが人々の心を捉えました。そして、メッカを追い出されたものの、メディナの人々の心を捉えたムハンマドは、武力を持ってメッカの征服、イスラム教の布教を果たしました。さらに、周辺の地域にも次々と侵攻し(イスラム帝国)、イスラム教徒を優先する国造りを進めることで、イスラム教徒を増やしていきました(イスラム教の教えを守るための戦い:ジハード)。もちろん、キリスト教と同様に「天国」など、魅力的な教えが人々の心を捉えた故に、現在でも多くの信者がいると考えられますし、サウジアラビアのように厳格な国、トルコのように緩やかな国など、国や時代によって様々な解釈がなされています(それが内戦の元にもなっています)。ムハンマドの死後、血筋に関係なく後継者(カリフ)を話し合いで決定しようとする主流の「スンニ派」(現在は正式な後継者を選んでいない)から、ムハンマドの血筋であるアリーを後継者とする「シーア派」(イラン・イラクに多い(イラン革命(ホメイニ師によるイラン・イスラム共和国の立ち上げ)の波及を懸念したイラク(政権はスンニ派)がイランに攻め入ったことで始まったのがイラン・イラク戦争)/現在はアリーの血筋も捉えてしまっている)が分裂しました。

ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の違いをまとめてみます。

  • 神--ユダヤ教:ヤハウェ、キリスト教:ゴッド、イスラム教:アッラー
  • 預言者・救世主--ユダヤ教:モーセ、キリスト教:イエス、イスラム教:ムハンマド
  • 経典--ユダヤ教:旧約聖書、キリスト教:新約聖書、イスラム教:コーラン
  • 特徴--ユダヤ教・キリスト教:「信仰」を重視、イスラム教:「行動」を重視

エルサレムがユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地となっている理由をまとめてみます。

  • ユダヤ教:神の命によりアブラハムが嫡子イサク(ユダヤ人の祖)を生贄にしようとした岩(聖なる岩/旧約聖書)の上に、ユダヤ人が建てた神殿の壁の一部「嘆きの壁」
  • キリスト教:十字架にかけられたイエスが、埋葬・復活した「ゴルゴダの丘」(聖墳墓教会)
  • イスラム教:ムハンマドが神の言葉を受ける際に天に登ったとされるのが、メッカから遠く離れた「聖なる岩」(岩のドーム)

キリスト教のカトリック、プロテスタント、正教会の違いをまとめてみます。

  • 信者数-- カトリック:12億人、プロテスタント:5億人、正教会:3億人
  • 特徴--カトリック:善業を積めば救われる、プロテスタント:どんな罪人も信仰によって救われる、正教会:カトリックよりも伝統を重んじつつ、プロテスタントのように自由
  • 教会--カトリック:(「ローマ教皇」を通じて)神を感じるために豪華できらびやか(大きな建物内をステンドグラス・聖像・宗教画で装飾)、プロテスタント:「自分」で聖書を読み考えるためにシンプルで装飾なし、正教会:(ローマ教皇を認めない)
  • 聖職者--カトリック:神父・司祭(男性・独身のみ/「最後の晩餐」を再現し神に感謝する「ミサ」を実施)、プロテスタント:牧師(女性・結婚も可/信者代表であり「礼拝」を実施)、正教会:神父・司祭(男性・離婚可/

この多神教と一神教の相違は気候風土とも大きく関連していることがうかがえます。

  • 多神教(ヒンドゥー教など):肥沃な土壌の気候で誕生
  • 一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教):水や食糧の少ない砂漠気候で誕生(イスラム教は乾燥地帯に分布)

水や食糧の少ない厳しい砂漠気候においては、他者の自由が自分の生命にも影響を脅かすため、厳しい唯一絶対のルールが必要となり、唯一絶対のルールを語って許される「一神教」が求められたと考えられます。そのため、どうしても多神教と相容れず、結果として他宗教を制圧(布教)する方向性となってしまいます(選民思想のユダヤ教は例外)。そうして戦闘が多くなりがちであるため、特にイスラム教では、未亡人が多く発生するため、その救済措置として「一夫多妻制」が導入されているとも考えられます。また、シャリーア(天国へのルール)では、人間と食糧がかぶってしまう「豚」を禁止したり、食糧不足のため子どもの数を制限すべく「禁酒」「女性の肌の露出の制限(ブルカ:顔全てを隠す、ニカーブ:目以外を隠す、チャドル:顔を出す、ヒジャブ:ヘッドスカーフのみ)」を行ったりと、水と食糧が少ない砂漠地帯に適応するためのルールとなっていると考えられます(キリスト教が十字軍に失敗したり、レコンキスタに800年を要したりしたのは、気候風土への適応性が関係していたとも言えます)。

このように人類は、世界の第一原理を追求してきました。ギリシア哲学(ピタゴラス、ソクラテス、プラトン、アリストテレス)、近代哲学(デカルト(16世紀、スランス、我思う故に我あり)、ヒューム(18世紀、英国、全ての知識や概念は人間の創造物であって人間が神を作ったのだ)、カント(18世紀、ドイツ、人間は空間的・時間的に物事を経験する)、ヘーゲル(18世紀、ドイツ、弁証法による真理への到達))、ルソー(18世紀、スイス、民主主義)、アダム・スミス(18世紀、英国、資本主義)、マルクス(19世紀、ドイツ、社会主義)、ニーチェ(19世紀、ドイツ、(キリストの)神は死んだ)、キルケゴール(19世紀、デンマーク、今を生きろ)、サルトル(19世紀、フランス、実存は本質に先立つ、君たちはどう生きるか)など、多くの哲学者が登場してきました。

商業発達から欧米によるルールづくりへ

やがて、欧米が世界のビジネスモデル、特にビジネスルールづくりを始めますが、その背景には、その歴史にも一端があるようです。
鉱物の製錬技術の発達により貨幣流通量が増大すると、農耕社会から飛び出し商業社会の形成を目指す人々が生まれ、やがて前者代表のカトリックと後者代表のプロテスタントの衝突、すなわち宗教改革、三十年戦争が起こりました。1648年、その終結の際に、ヨーロッパのほとんどの国を巻き込んで結ばれたウェストファリア条約は、オランダやスイスといった商業国家や商業的創意工夫をする考え方を認めました。それ以降、プロテスタントを中心に、社会の仕組みを変えるツールとしてルールを多用することになりました。

  • 「出資」は、地中海貿易や北海貿易の造船のために、中世から行われてきましたが、大航海時代に、ポルトガルとスペインに出遅れた、オランダとイギリスが、民間に出資を勧め、その見返りとしてアジア貿易独占権という勝手なルールを持ち出して生まれたのが東インド会社です。勝手な理屈には違いないのですが、国の「お墨付き」で安心感を与える巧妙な国家戦略とも言えます。その後、19世紀の鉄道の実用化時代に、欧米では株価の操作等を抑制するため、株式会社に関する開示制度等が整えられていきました。
  • 「金貸し」という職業は、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」での描かれ方でも分かるように、嫌われることが多かったのか、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教では禁止されていました。17世紀にカトリックが厳しく利息を禁止し始めると、ユダヤ人からは借りてもいいというルールを、ユダヤ教も他の宗徒には貸してもいいというルールを定め、ロスチャイルドなどのユダヤ金融が発達しました。なお、サブプライムローンは、様々な債権を組み合わせて「高い格付け」を確保していた故に人気でしたが、実際には非常にリスクの高い債権であり、やがて綻び、リーマンショックが生じたのは周知のとおりです。
  • 「特許」は、ヴェネチアで職人を呼び寄せる特権(10年間のヴェネチアでの独占権)として生まれましたが、開花させたのはイギリスです。エリザベス女王は王室の収入源にしようと特許料を求め、議会がその濫発による国内産業の混乱を守るために特許内容の公開を求めたことが、「発明を世に広めたい」発明者達の心を揺さぶり、特許制度が形づくられていきました。こうして「権利化」と「公開」の制度が整うと、国レベルで盛り上げるために発明を活用しようと考え、1861年に世界初の万国博覧会がロンドンで開催されました。
  • 「著作権」は、ドイツで発明された活版印刷の普及後、出版物による政府批判を抑えたいイギリス政府がギルドの独占権をロンドンに集中させ、検閲権限を与えてきた名残です。登録事業者が許されたコピー権が、やがてギルドの独占権の廃止に伴って、海賊版防止のために、1709年に著作権法によって著作権となったのです。特に音楽の著作権制度が発達したのは、ウェストファリア条約以降も王室が栄え、多くの芸術家が仕えていたフランスです。

東洋の蹴鞠は、協働で回数を続ける方式で発展しましたが、そこから派生したサッカーやラグビーは、対戦方式で発展するなど、ルールの発展のさせ方は、その国民性が大いに反映されているとも言われています。

  • 英国:農業に適さぬ土地故に、コストパフォーマンス感覚に秀で、牧羊、やがて繊維産業を発展させました。
  • フランス:ルネッサンスの華やかな文化と芸術を継承し、ナポレオン3世の時代、パリ大改造による舗装道路の整備、世界初のファッションショーなど高級ブランドの育成、関税の引き下げによる百貨店の育成のほか、自動車の普及に当たり、1894年に世界初の自動車レースを開催するとともに、レースの委員会をフランス自動車クラブに発展させ、1898年には業界初の自動車産業協会を設立し、モーターショーや自動車ジャーナリズムも発展しました。
  • ドイツ:技能、品質を重んじ、ギルドによる徒弟制度、品質保証を育んできました。
  • 米国:広大な国土で人手不足に悩まされた結果、機能分化と役割分化により高い成果を出すべく、大量生産方式を生み出しました。また、石油メジャー・ロックフェラーや製鉄王・カーネギーなどが生まれましたが、自由競争を阻害するとして、セルドア・ルーズベルトは寡占企業を解体していきました。

日本においては、室町時代には幕府の領地が少ない故に交易でその基盤を作り、江戸時代は鎖国により国内各地の産業が華開きました。

近代化

そして、ユーラシア大陸を見渡した際に、両端に位置する西欧と日本が近代化をいち早く達成しました。

  • 西欧と日本を除く中央部の文明は、中国、ロシア、イスラム、インドなどをはじめ、多様な民族をまとめ上げるために、強大な権力、すなわち専制君主制により土地や人民を君主が所有する体制がとられてきました。しかし、常に乾燥地帯の遊牧民(フン人や元など)の破壊行為により、国家自体が崩壊を繰り返し、文明が成熟することが難しい状況でした。そして、「半島」が少ない東アジアは、国が少なく(特に中国は河川が縦横に走り、統一がしやすく大きな国が誕生。)、競争原理が弱くなり海洋進出技術を放棄する面がありました(明王朝が宦官の没落とともに海洋派遣技術を放棄)。それが近代の植民地化に繋がっていきます。
  • 一方、西欧と日本は、温暖湿潤な気候、生産性の高い土壌に恵まれ、遊牧民の侵略にさらされる機会が少なかったため、国家体制が交代しても国家自体が崩壊することはなく(日本の場合、邪馬台国の卑弥呼の側近が、実在したと言われる第10代崇神天皇であるといった説など、邪馬台国が300年ごろに奈良で起こった大和王権の前身だという説もある)、封建制度(君主が諸侯に土地の支配権を認める代わりに君主に奉仕する)により君主以外も私有財産を持てることから資本家が生まれ、近代資本主義を生む原動力が育まれてきました(日本は明治維新時点で、資本家が育っていたため、西欧化が可能であったと言えます)。
  • 中でも西欧は、5世紀以降、インド=ヨーロッパ語族に属するうち、今のヨーロッパに多く住んでいたゲルマン民族が、東方の遊牧民・フン人に駆逐され、イベリア半島に逃れた西ゴート人、グレートブリテン島に逃れたアングロ・サクソン人、イタリア半島に逃れた東ゴート人、フランス北部に逃れたフランク人などが元となっていますが、やがて生産、流通、金融の分野で圧倒的な力を持つ「覇権国」と呼ばれる国が誕生してきました。「半島」が多く、河川間の接続も乏しい西欧は、固有の文化・民族が形成され、競うようにアメリカ大陸発見など海洋帝国を築きました。なお、、スペインがアステカ帝国やインカ帝国を滅ぼしたのは、天然痘を持ち込んだからです。それは、中東を中心にユーラシア大陸が先駆けて紀元前10世紀頃から家畜を飼って農耕を行ってきており、家畜と過ごした時間が長い分だけ多くの疫病を経験してきた結果です。面積が大きく様々な気候を有するユーラシア大陸には飼育に適した動物と、地中海性気候によって農耕に適した1年草も多かったのです(ユーラシア大陸は横に長く同じような緯度・気候の地域に農業が伝播しやすかった)。
  • 一方、西欧列強の脅威に対し日本は、鎖国による安定した江戸時代に財閥が形成され、その資本を元手に、明治維新以降、中国・朝鮮と異なり旧体制を脱して西洋化することで、アジアでいち早く先進国の仲間入りを果たします。

覇権国

しかし、日本は覇権国ではありません。近代の覇権国はスペイン・ポルトガル、オランダ、英国、米国です。

  • 15世紀以降の地中海貿易時代から大航海時代への転換により、海をまたいで世界へと繰り出しやすい、スペイン、ポルトガルが世界規模の貿易網を構築しました。
  • そのスペイン(カトリック)の領土の一部であったオランダ(プロテスタント/鎖国していた日本が唯一交易をしていた国)が独立戦争に勝利しました。オランダは、バルト海周辺の森林資源や森林から作られた船舶を西ヨーロッパに売り込む海運業で成功するとともに、世界初となる株式会社方式を導入(東インド会社)により、リスクの高い長距離航海のための資金を安定的に確保し、世界的な貿易網を築き上げました。さらには、ユダヤ人やプロテスタントが多く逃げ込んできたアムステルダムは、金・ダイヤモンドなどの取引が盛んとなり金融都市としても栄えました。
  • こうした英国等への中継貿易で利益を上げていたオランダを、英国船での輸入しか認めないなどを定めた「航海法」を制定して退けたのが英国です。英国で大量生産された綿織物などをアフリカに運び、アフリカから奴隷を米国またはインドに運び、米国・インドで大量生産された砂糖・たばこなどを英国に持ち帰るという、効率の良い「三角貿易」を編み出します。3回にわたる英蘭の戦争にも英国は勝利し、18世紀には「第1次産業革命」軽工業の革命/(毛織物と違って気候の温かい植民地でも着用できる)綿織物の生産性を向上させる杼、蒸気機関、製鉄の発明)が起こりました。生産性と交通網が飛躍的に向上し、大量生産製品の植民地への輸出が促進されました。(英国の歴史:紀元前6世紀頃、ケルト人が先住民を征服して定住します。その後ローマ帝国を退ける形でアングロ・サクソン人が進出(ゲルマン大移動)し、ケルト人のウェールズ、スコットランド、アイルランドアングロ・サクソンのイングランドの原形ができました(アングル人AngelからEnglishに派生)。王室は日本の皇室と異なり、ヨーロッパ本土の国と血縁関係を結び、他国の王室が担うこともあり、ウェールズ王は次期イングランド王が兼ね、スコットランド王がイングランド王(及びアイルランド王)を兼ねることとなります。「権利の章典」で王であっても議会に従うこととされるとともに、やがて4か国合邦(議会統一)がなされる。こうして議会が主導権を握り富裕層が安定したことが、産業の発展、「覇権国」へと繋がりました。英国王室は大英帝国全体、すなわち英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの王でもあります。)
  • この英国の植民地であった米国は、独立戦争に勝利し、その広大な国土、物資の運搬に適した川、豊富な天然資源と労働力などのポテンシャルを活かして、英国の産業革命を手本に、19世紀「第2次産業革命」重化学工業の革命/鉄鋼等の重工業、石油等の化学工業の発展)を成功させます(なお、ドイツにおいても、英国の綿工業をベースに着色料分野を発展させる化学工業を振興)。南北戦争で工業主導の北部が勝利したこと、二度の世界大戦で英国と違って自国が戦場にならずに軍需産業が盛り上がったことにより、生産力・経済力が著しく伸び、覇権は英国から米国に移りました。従来の覇権国と異なり、直接支配という形ではなく、民主主義、米軍基地、通貨、同盟・経済協定、技術・文化、国際組織といった間接的手法で、地球規模での最初で唯一の覇権国になっています。

他方、植民地被害を受けた側は、現在でも傷跡が残っています。例えば、南米は、未だに北米よりも発展が遅れています。南米では、多くの場合遊牧民で、内部統制の制度がないため、支配が難しかったため、スペインは、内部統制が効き、戦闘力が弱い、農耕部族を支配することで、支配地域を広げていきました。金銀の資源が豊富で、装飾品も延べ棒に変えるなどして、文化ごと破壊するとともに、鉱山では原住民を強制労働させました。北米では農耕民族がいなかったため、英国は自ら開墾したため、早くから一般国民が政治に参加し民主主義や資本主義が築かれていったのに対し、南米では、植民地支配が長く続いた後、独立後も支配階級による搾取や汚職が蔓延し、近代化が遅れました。また、アフリカでは、西欧が圧倒的な武器とマラリアの特効薬を有していたこと、アフリカが多様な部族が結集できなかったことで、西欧による植民地化や奴隷貿易を許してしまいました。第2次世界大戦で戦場となった西欧への製品や資源供給で発展したこと、それによる自信の回復、さらには冷戦で米国が英仏を牽制したことなどにより独立を果たしますが。いずれの地域においても、現在でも多くの国が貧しいのは、プランテーションにより外国が必要な食物を作り、自国が必要な食物は輸入に頼っていること、海外の資本支援に甘え、自国産業を育成する戦略が乏しいこと(「資源の呪い」)などと言われています。

さて覇権に関しては、覇権国だけでなく、国家を超えグローバルレベルで活躍する「財閥」も生まれました。

  • 神聖ローマ帝国フランクフルト自由都市の宮廷ユダヤ人であったマイアー・アムシェル・ロートシルトが1760年代に銀行業を確立し、やがて隆盛を極めたロスチャイルド。ロンドン、パリ、フランクフルト、ウィーン、ナポリに事業を設立した5人の息子を通じて国際的な銀行家を確立しました。日露戦争のころ日本政府へ巨額を貸し付けた歴史をもつロンドン家とパリ家は現在まで残っており、現在はN・M・ロスチャイルド&サンズが、M&Aのアドバイスを中心とした投資銀行業務と富裕層の資産運用を受託するプライベート・バンキングを行っています。
  • 原油は古代から存在していたものの、精製することで様々な用途があることが見出されたのは19世紀になってからです。1859、米国ペンシルべニア州で石油の機械掘りが成功し、争うように石油の「掘削・生産」が始まったのを見て、「精製・輸送」を行う事業の立ち上げを思いついたジョン・D・ロックフェラー。そこからロックフェラー石油帝国建設が始まります。1870年に、「スタンダート・オイル社」を立ち上げ、やがて原油生産・製油・小売りなど石油関連企業41社を支配し、市場の90%を占拠し故に1890年に「シャーマン・反トラスト法」が成立し、スタンダート・オイル社は34社に分割されました。現在の「シェブロン」「エクソンモービル」なども、このときスタンダート・オイルから分割された会社です。
  • マイルス・モルガンが1636年にアメリカへ移住後、3世代にわたり農業や保険業・不動産業などで資産を蓄え、徐々に金融業へと進出していったモルガン。5世代目に当たるJ.P.モルガンは、1860に起こった南北戦争において北部への軍需品調達により大きな利益を獲得。南北戦争後は鉄道事業、石炭、機械、鉱業などの国家プロジェクトに関わる企業への融資を加速させました。J.P.モルガンが設立した会社に「ゼネラル・エレクトリック」「U・Sスチール」があります。近年の世界的な金融機関の再編が進む中、2000年にJ.P.モルガンはチェース・マンハッタン(ロックフェラー財閥のグループ銀行)に吸収合併されました。
  • スコットランドから両親とともにペンシルバニア州に移住してきたアンドリュー・カーネギーは、1853、ペンシルバニア鉄道に引き抜かれます。発明家から持ち掛けられた寝台車のアイデアに投資し成功を収め、鉄鋼業、橋梁建設業、レール製造業など鉄道関連に再投資し、成功の基盤を築きました。

こうして収斂、すなわちグローバル化が進みました。1次世界大戦後米国は、生産を拡大させ疲弊した欧州へ輸出を拡大させたことにより、世界中の投資が米国に集まりました。しかし、欧州の復興に伴い米国の製品が売れなくなったにも拘わらず、大量生産は止められず、世界中の投資家の投資も止まらない(成長が止まっているにも拘わらず、株価だけ上昇)という事態から、1929年10月24日、ニューヨーク株式市場の大暴落、「世界恐慌」が起こりました。

  • しかし、この影響を受けなかったのが計画経済を敷くソ連でした。5年間で全工業生産高250%、重工業330%という「五か年計画」を達成したと言われています(実際には強制労働の活用によるところが大きいとも言われています)。
  • 米国は「ニューディール政策」(国家主導で公共事業を行う)、日本・ドイツは「植民地政策」(日本は「満州国」での産業・雇用創出)で、計画経済の手法を取り入れながら活路を見出そうとしました。

時を経て20世紀に史上初の地球規模での覇権国となった米国。そして、21世紀である今、様々な国が覇権を巡り活発な動きを展開しています。

  • シンガポール:英国の植民地(第2次大戦中は日本の植民地)であった同国は、水をはじめ資源がないため、1967年にマレーシアと一つの国として独立を果たすも、マレー人中心の政策を展開するマレーシアに対し、シンガポールは華人、インド人も多く、それらを平等に扱おうとするシンガポールは、マレーシア政府に追放される形で、1969年に独立しました。首相リー・クアンユーは、まず、貧困のために麻薬や暴力が横行する国の秩序を正すことから手を付けました。犯罪に厳罰を処すよう法律を改正するとともに、対立勢力を弾圧して(言論の自由も減退)権力を自分に集中させ安定政権を築きました。次に、スラム街が広がる同国の住宅問題に着手しました。年金制度を拡大し、国民に強制的に貯金させて住宅を買わせました。そして、資源のない国で「仕事」を作るために、中継港の利点を活かして加工貿易を行う外国企業等の誘致を進める(世界有数の石油ハブになっています)とともに、資源がないため「人材」を資源として、国家予算の5分の1を教育に注ぎました。ストライキの禁止など企業に有利な法律を定める一方、休暇日数なども定めて労働者の権利も守りながら、優秀な人材を育て、企業もその獲得のために魅力的な職場づくりを進める好循環を生み出しました。さらに、同国の経済発展に最も寄与したのが、世界的な証券取引所の開設です。米国(ニューヨーク・ロサンゼルス)の取引所が閉まってから英国(ロンドン)の取引所が開かれるまでの空白時間を埋めるのに最適な立地で、世界中の投資マネーを呼び込んで、裕福な国になったのです。
  • 中国:アヘン戦争以降の恥辱を忘れず、かつての超大国を目指す「一帯(陸路)一路(海路)」。リーマンショック後にはインフラ整備を急ぎ世界経済の回復にも繋がりましたが、国内のインフラ整備用に生産した資材を、今後国外に展開することが「一帯一路」の目的です。ただし、途上国にとって、インフラ整備の資金返還は容易ではなく、結果として中国がそれらの国々のインフラを支配する状況が生まれています。
  • ドバイ(UAEを構成する一首長国):ペルシャ湾に面し、漁業や真珠の輸出を産業の主とする小さな漁村だったこの地に、アブダビの首長ナヒヤーン家と同じバニー=ヤース部族のマクトゥーム家が、1830年代にアブダビから移住したのに伴ってドバイ首長国が建国されました。1966にドバイ沖の海底油田が発見されたものの、現首長シェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下の父であるシェイク・ラーシド・ビン・サイード・アール・マクトゥーム殿下は、埋蔵量の少なさを考慮し、非石油産業の経済・産業路線を敷き、エミレーツ航空の設立(2021時点でドバイ国際空港の旅客数は世界1位)、貿易の要となる大規模人工港の開港(2014年のコンテナ取扱量は世界9位)、自由貿易地域(フリーゾーン)の開業(100%外資の参入を認め、50年間税金免除)などを次々と進めました。さらに、2006に首長に即位したシェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム殿下は、世界最大の人工島パーム・ジュメイラ、世界最大の額縁ドバイフレーム、世界最大の噴水サ・パーム・ファウンテン、世界最高の建築物ブルジュ・ハリファなど、様々な「世界一」の観光資源を作ることで「世界一が集う観光都市」として、ヒト・モノ・カネが集積する都市を形成しています。さらに近年は、3Dプリンター建築、ドローンタクシー、火星シミュレーション都市など「世界の研究室」を目指しています(なお、ドバイのライバルとも言えるサウジアラビアも、新しい街(外部リンク)建設を進めています)
  • インド2次大戦後、アジアにおいて、日本同様、一党独裁や軍事政権を経験したことのない稀有な国で、大英帝国が去った「南アジアの超大国」ですが、カースト制度、劣悪なインフラ環境、州ごとに異なる複雑な法制度、旧態依然の官僚制度など、その実態は複雑で、様々な機関による調査でも、自由民主主義指数、法の支配の強さ、市民的自由度、報道自由指数、経済自由度指数など決して高いものではなく、モディ政権下でも投資と金融の自由度は依然低い状況です。(1)外交面は、冷戦時代には「非同盟」路線を取り、途上国世界を意味する「グローバルサウス」のリーダーとして振る舞い、1970年代以降は対中国との関係でソ連への傾斜を強め、2014年以降のモディ政権では「戦略的自律性」「多同盟」を掲げ「世界大国」を目指しています。特に、中国を筆頭に周辺国とは四面楚歌状態にあり、中でも、中国との関係は複雑で、「警戒」と「協調」の両面を有しています。米国では1989年の天安門事件、1995年の第3次台湾海峡危機、2017年発足のトランプ政権が、日本では2005年に中国各地で起きた反日暴動、が中国脅威論の端緒になったと言われていますが、インドでは、中国によるアクサイチンへの道路建設への抗議(1958年)、ダライ・ラマのインドへの亡命(1959年)を経て、1962年の中国によるインドへの軍事作戦からインド・中国関係は悪化しました。そのため、軍事面ではロシアに近づき(兵器購入)、核開発も進めてきたところです。経済面でも、中国の「一帯一路」にブータンを除く周辺国が参加している一方、中国のスマートフォン・シャオミがインド国内で生産され、インド市場でトップシェアを誇り、中国の半導体やリチウム電池が欠かせないため、電化製品のインド国内での製造も進んでいます。グローバルサウスの面では協調する場面も見られます。(2)政治面は、「世界最大の民主主義国」と謡い、民主主義をインド古代からの精神・エートスであると捉える一方で、混在する諸宗教を対等に扱うなど国内の様々な声を集約する「会議派システム」が機能する国であったにもかかわらず、ヒンドゥー・ナショナリズムとしての顔を持つインド人民党(BJP)が台頭し、現在のモディ政権に繋がっています。(3)風習面は、非暴力を実践した平和主義者「ガンディーの国」でありながら、道義よりも、「アルタ」と称される実利主義、プラグマティックに行動する戦略文化が根付いています(国際会議の司会者は「いかにインド人を黙らせ、日本人に喋らせるか」が成功のカギだという有名なジョークがあります)。(4)経済面は、米国主導のリベラルな経済秩序に拘束されず、国内産業を育成する保護主義が支配的(社会主義的混合経済)です。白亜の「タージ・マハル」をはじめ多くの世界遺産を誇り(観光キャンペーン「インクレディブル・インディア(信じがたいほどのインド)」)、歌って踊るインド映画が世界を席巻しているとおり世界一の映画大国(ムンバイは「ハリウッド」にちなみ「ボリウッド」と称される)でもあり、スパイスの効いたインド料理(ナンで食べる北インドカレー、米で食べる南インドカレー、魚介の出汁が特徴のベンガルカレー)も世界に広まっています。国土面積は日本の8倍、14億人以上の世界一の人口(18歳未満が4億人以上)、1991年以降、本格的な経済自由化(段階的に規制緩和、民営化、外資導入)が進み、5~10%の経済成長が続いています。現在台頭しているのが、「世界の薬局」と胸を張る後発医薬品のほか、IT・金融です。モディ政権では、「メイク・イン・インディア」のスローガンを掲げ、「世界の工場」を目指して製造業を誘致しています(バイクの生産量世界一で、バイクのシェアはホンダが3割、自動車はスズキが5割を占めています)。識字率は74%(2011年)で、大学進学率も先進国に比べれば低いものの、インド工科大学の入試競争は激しく(ITのような新しい高度専門職は、伝統的なカーストに存在しなかったものであるため)、米国への国別留学者もトップ(2022年)に躍り出ています。しかし、首都デリーの衛星都市グルグラムには多くの日系企業が進出しているものの、2018年頃から頭打ちです。カーストの存在、価値観のギャップ、電力・水道・道路・港湾等のインフラの未整備(2017年から日本も、印度が対中対策で懸念しているインド北東部の道路網整備を支援)、州ごとにインフラ・教育水準・間接税等が大きく異なる(ジャグラード州は停電がない州だが禁酒州で、西ベンガル州は公共交通が未整備だがオンラインでも酒が購入できる/2017年にようやく統一の「物品・サービス税」が導入)ことなどが要因と考えられます。それでも、2030年代には米国などの民主主義国と中国などの権威主義国のGDPが拮抗すると見込まれる中で、インドは第3の経済大国となっているとことでしょう。
  • モロッコ(外資誘致)、エジプト(スエズ運河、観光、工業)、ナイジェリア(原油、映画産業ノリウッド)、エチオピア(平和外交)、ケニア(製造業)、タンザニア(キリマンジャロコーヒー、原油集積地)、アンゴラ(原油、ダイヤモンド)、南アフリカ(鉱業、農業、工業)など、アフリカ諸国にも大国の芽が出てきています。

なお現在も、流通、特に海運に大きな影響を与える「チョークポイント」(ジプチなど)は各国が軍事基地を設けて保全が行われています。また、産業革命は、その後「第3次産業革命」コンピュータの登場)、「第4次産業革命」AI・IoTの進展)へと続いていきます。そして、こうした経済政策を支える理論も変遷がありました。

  • 古典派経済学重商主義(国家による経済対策)
  • 新古典派経済学小さな政府/需要曲線・供給曲線(限界効用によって価格は決まる)/アダムスミス「国富論」(1770年。経済活動への政府不介入(価格は「見えざる手」により自動調整))
  • マルクス経済学マルクス「資本論」(1867年。産業革命による資本家と労働者の対立を踏まえ社会主義を体系化)
  • ケインズ経済学大きな政府/総需要直線・総供給直線(消費・投資・政府支出で需要は均衡する)/ケインズ「雇用・利子および貨幣の一般低理論」(1936年。不況時は政府が財政政策を行って総需要を増やすべき(財政政策))
  • 新自由主義小さな政府/信用創造(「期待」が重要)/フリードマン(経済の安定を図るには通貨の供給量を操作すべき(量的緩和政策))

そして今、世界は多様化と収斂が交錯しているのではないでしょうか。

  • 統治体制絶対王政・専制君主制:王権神授説に基づく王が法律に縛られず統治、立憲君主制:君主の権力が憲法で規制される、共和制:君主が存在しない、帝国主義:植民地獲得を通じて市場独占・拡大を図る)(なお、フランス革命時のフランス議会において、議長席からみて、従来の王侯を残そうという「保守層」が「右翼席」に、王侯を廃そうとする「革新層」が「左翼席」にいたことが「右翼」「左翼」の語源になりました。)
  • 政治体制民主主義:行政府が立法府と裁判所に制約される政治面での自由主義権威主義:国民に最高責任者を選ぶ権利がない)
  • 経済体制資本主義:個人が資産を保有できる経済面の自由主義社会主義:国が資産を管理する経済、共産主義:さらに資産を皆で共有する経済)で測れない新しい動きが数多く生まれています(その中にはナショナリズム、ポピュリズム、権威主義化といった民主主義の退行現象も見られます)。

「都」から世界のエコシステム形成

そして京都は、覇権国とは違う独自の形で、自然・文化・社会・産業面で新しいグローバル・エコシステムを形成したいと考えています。「都」すなわち「首都」は、その国の象徴であり、その国の行動原理を束縛し一定の行動へ誘導する「地政学的な呪縛」が存在すると言われています。

  • 中国:中国の中央部に位置する長安・洛陽を首都とした場合には、中国を「中華思想の国」へと誘導してきました。すなわち、中心部に最高の文明があり(東アジアで古くから文字を有していたのは漢民族のみという自負など)、周辺部は野蛮化しているという発想であったため、周辺部を侵略する必要性が少ないのです。しかし、北方の騎馬集団が中国に侵攻し支配した時代には、北京は北方から南方までの中心に位置するだけでなく、その後の時代の皇帝にとっても共産党にとっても、騎馬集団を元祖とする強力な軍閥がいる「軍事力」を独占するために、首都の座にあり続けてきました。だから攻撃的である呪縛に縛られているのかもしれません。
  • インド:インドの北西端にある首都デリーは、隣国で宗教の異なるパキスタンへの強い敵視と監視を誘導します。もともとムガル(モンゴル)帝国など北西からの侵入者によって発達してきた街ですが、19世紀に初めて統一国家となって以降も、分権意識の強い地方をまとめていくため、共通の敵に対する緊張を必要としているのです。
  • ロシアモスクワは、ロシアの奥深い、果てしなく続く平原の中央に位置します。モンゴルの支配を受けてきたものの、シルクロードなどの民族の通り道から外れていたため外敵の比較的侵攻から免れてきましたが、自然国境がないため侵攻を受けやすい地形に位置するため、「国境線を1ミリでもモスクワから遠ざけること」がモスクワの呪縛です。進取の精神に基づく西洋化を図るため、西欧に航路で開かれたサンクトペテルブルクを首都とする時代もありました。ロシア革命後、首都をモスクワに戻して以降、異文化への敵視など「内」に向かう地政学的な誘導は、周辺国の反発を強くするという矛盾をはらんでいるのです。
  • トルコイスタンブールは、コンスタンティノーブルとして15世紀まで続いた東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の首都であり、それを継いだイスラムのオスマン帝国の首都でありました。黒海と地中海、アジアとヨーロッパの境にあり、歴代君主に帝国化の夢を与えてきた一方、近代化に遅れをとってきたため、新生トルコはその呪縛と決別しアンカラを首都としました。アナトリア半島の中心近くに位置し、「アナトリア・ナショナリズム」とも呼ばれる民族主義を誘導し、その東側に位置するトルコ語圏の国々に対する大トルコ民族圏という野心を見ているのかもしれません。
  • ドイツ:ドイツの東端にあるにもかかわらず、ベルリンを首都としたのは、東方世界にドイツ圏を広げる「偉大なるドイツ」への夢によるものと言われます。かつて1871年にドイツ帝国が始動した時には、ベルリンは地理的に統一ドイツの中心にありました。そして現在は、EU、NATOの東方拡大によってドイツ圏の拡大を見ていると言えます。
  • 英国:英国の南端に位置し、温暖で住みやすくテムズ川の水運に恵まれる首都ロンドン。地理的に偏った位置の呪縛により、大陸各国を肥大化させぬよう、フランスに領地を持ったり、スペインと対決したり、二度の対戦に無用に参戦したり、既に離脱しましたがEUに加盟したり、大陸関与の誘導が働いてきました。
  • 米国:独立後に首都としたのは北部に位置したフィラデルフィアでしたが、南部諸州の不満を聞き入れ、北部・南部の中間にワシントンD.C.が築かれました。しかし、米英戦争で英国軍によってワシントンは焼き討ちに遭っており、こうした海の向こうからの攻撃への警戒心が、ヨーロッパに対する安全保障と言える「モンロー主義(ヨーロッパと米国の相互不干渉)」、米国の領土は天から与えられた使命としていう西部開拓を正当化させる「マニフェスト・ディスティニー(明白な天命・膨張の天命)」、さらには現代の「海の向こうまでのアメリカ化」、すなわち、保護国化・友好国化、民主化といった米国帝国化を誘導してきたと言えます。
  • 日本京都など畿内を首都とした場合、瀬戸内海を通して朝鮮半島や中国大陸などの「西への関心」を誘ってきました。放置されてきたとも言える東国の武士を束ねる矜持から源頼朝は鎌倉に幕府を開いたのに対し、足利尊氏は後醍醐天皇への牽制と、朝鮮や中国との交易のために京都に幕府を開き、大きな領地を持っていない代わりに交易の富で幕府を機能させようとしました。一方、江戸・東京は、フロンティア誘導、すなわち、日本一広い関東平野、さらには、外洋である太平洋を隔てた世界、欧米を意識させるものです。

このように、京都は内海の瀬戸内海の果てに位置し、山に囲まれ、ある意味閉鎖的で、他民族の侵攻を受けず、その豊かな自然環境を土台に安定して独自の文化・社会・産業を築いてきた街であり、地政学的に見て世界の東の果ての行き着く先でありました。今、その永く続いてきた独自の歴史を軸に、世界との新しい関係、独自のグローバル・エコシステムの形成を目指しています。

Global Hub

そして「グローバル・ハブ」の拠点となるのは、産業創造リーディングゾーン(外部リンク)けいはんな学研都市です。それらは、「ブランド」として確立しつつ、企業とプロジェクトの「集積」を図らねばならないと考えています。

  • 「脱炭素テクノロジーなら京都」(ZET-valley)といったように、各分野のトップ(ニッチトップ)であるよう努めていかねばなりません。
  • 加えて、「石油から空気へ」(ZET-valley)といったように、壮大なストーリーを描いていく必要があります。

さらに、「グローバル・ハブの海外拠点」の形成として「KYOTO,JAPAN IN DUBAI」等を一層拡大していかねばならないと考えています。国内マーケットの縮小、近年の海外における日本ブーム、新興国を中心に世界のマーケットの拡大など、海外展開は大きな潮流です。しかし、現地の市場や競合に関する情報不足の問題、ビジネスコミュニ―ケーションに不可欠な言語の問題、販売経路や現地企業とのネットワークの問題など乗り越えるべき課題があります。そうした課題を乗り越えるために、公的機関(外部リンク)民間機関(外部リンク)の様々な支援策も増えてきています。

施策

Global Hub
インバウンド
(その他参考:2025年度京都府当初予算)
  • 大阪・関西万博機運醸成促進事業(けいはんな万博含む)
アウトバウンド
  • 海外市場開拓・展開支援補助金等(2023年度2月補正)
    --拡大する「京もの」に対する海外からの希求に対し、原材料価格高騰等により経営体力が枯渇している中小企業が応えられるよう、海外展示会への出展等に対する支援(4,500万円)
    --ドバイ展示会開催費(5,000万円)他
  • (参考) 京都府農林水産物・加工品輸出促進協議会

施策実施状況

けいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)
インバウンド

京都インターナショナルスタートアップセンター(外部リンク)相談は、2023年度44件(1月末)、長期滞在型プログラムは、2023年度6名参加(ゲーム、IT、ライフサイエンスなどで、フランス1、フィリピン3、ロシア1、ドイツ1)でした。

アウトバウンド

KYOTO,JAPAN IN DUBAI」は、2023年度は、出展95社、来場12,000人でした。

  • 集積する投資家:「日本市場にとどまらず、どうして早く世界に持ってこないのだ」などの投資家の熱いエールが多く、数百億円の大型資金調達に成功した例も生まれました。
  • 日本の品質を希求:日本の品質を希求されており、伝統産業等にも大きな市場があることがわかりました。大きな商談が進んでいます。
  • アフリカ・インドへの道:これまで日本があまりアプローチしてこなかったアフリカ、中東、インドとの繋がりができ、次なるビジネス基盤構築のきっかけになりました。

 

自然・文化 Nature/Culture 

  • ゼロカーボンバイオ産業創出拠点

    スタートアップ支援をものづくり振興課で引き受けることとなり、優れた研究シーズを探していた2020年7月。訪問した京大の若手教授の研究内容に驚き、ダメ元で「起業する気はありませんか」と尋ねたところ、まさかの前向き回答を得ました。そこから、京都産業21や大学ファンドとも連携し、経営人材探し、起業時の出資、研究開発補助金などを重ねた結果、JST「共創の場」プロジェクトに採択され、現在「本格型(最大10年20億円)」に取り組んでいるところです。

世界随一の豊かな自然と文化を資源に新産業を

日本は、四季折々の自然に恵まれ、そこには未解明の機能が無限に宿るとともに、四方は広大な海に囲まれ、国の命運を握る海運に有利なだけでなく、海産資源と海底に眠る天然資源に恵まれ、大きなポテンシャルを有しています。そして、京都は、現存する世界の王室の中で最長の皇室を支えてきた「千年の都」であって、明治維新や戦後復興においても独自の改革を行ってきた歴史と文化が織りなし、世界中の人々を惹きつけています。

自然と文化を土台にした輸出経済、内需経済、コミュニティ経済の相互作用

先端産業をはじめ芸術・伝統・食など世界を魅了する「輸出経済」、京都に集積する企業や観光を軸とした「内需経済(小売・飲食、教育などの社会基盤)」だけでなく、その豊かな自然環境や文化的な魅力を土台に人々の幸福・健康・交流などを促進する「コミュニティ経済(社会貢献・ポンサリング)」を構築し、相互に作用しあう強靭な社会形成を目指さなければなりません。その際参考になるのはドイツかもしれません。

  • 歴史的に領邦国家の集まりであり、小さな中心が分散している「地方主権」の意識が強いドイツ連邦は、地方の自律性が強く、人口数万の小さな地方都市であっても、外部からの集客に価値を置くのではなく、市民の自発的な活動をエンジンとするエコシステムが形成されており、中心市街地は賑わい、生活の質が保たれています
  • ソフト面では、スポーツ、教育、文化、社交などのフェライン(クラブ)と呼ばれるNPOが全国に約60万(日本は約5万)存在し、多くの市民が参加しています。カントの哲学に象徴されるように、自我の在り方が確立されてきた国故に、皆が自主的に参加するボランティア・プラットフォームとなっています。「家庭」「会社・学校」とは異なる「社会」であり、多様な人間関係を育む場、仲間づくりの場、すなわち「同質な者の結束の場」「異質な者を繋げる場」となっています。例えば、サッカークラブも様々なレベルのものがあるのでレベルが合わねば合うところに移って誰もが楽しめますし、子供の大会時には親向けにブール祭りを組み合せて家族全員が楽しめるような工夫もされています。夜の街を楽しむナイトマラソンや、医療機関や大学が主催するがん撲滅チャリティマラソンなどユニークなイベントもたくさんあり、パッケージ化、メッセ化なども進んでいます。
  • インフラ面では、ドイツは、森などの「自然」を楽しむ風習(ワンダーフォーゲルなど)、家族やまちの人々との交流を深める「散歩」を楽しむ風習(ビールハイキングなどは公共交通の利用促進や高齢者の孤独解消にも寄与)、「自転車」を楽しむ風習(交通の民主化)があり、道やスポーツ施設などが整備されています。また、「パブリックスペース」には、社交、文化の享受、リラックスを求める市民が集い、日常の場としてまちの求心力を高めています。
  • ステークホルダー、例えば移民にとっても、文化的背景はまちの魅力ですし、その受け入れ促進に寄与しています。あるいが企業にとっても、自然環境や文化、スポーツ(健康)分野への支援は、企業イメージや社会的責任の面で重要視されています(なお、サッカー・ブンデスリーガのチームはフェラインのほか、企業や投資家などに支えられています(外部からの出資は49%以下というルール))。こうした背景から、アディダスやプーマなどグローバル企業であっても、そのストーリー性から、本社を地方都市から移さないのです。

自分のものの見方、自分なりの答、すなわち「創造性」を!

では、文化の土台となる創造性について考察していきます。

ルネッサンス画家と20世紀アーティストの違いは何でしょうか?
前者は、教会や王侯貴族らに雇われ、依頼され、キリスト教をテーマにした宗教画や、権力者の肖像画などを、臨場感ある表現、生き写しのような正確な表現こそ正解だとしていました。
しかし、20世紀に入ると、目に映るとおりに世界を描くという従前のゴールが根本から崩れてしまいました。そう、カメラの登場によって。
そして、芸術家たちはアートにしかできない新しいゴールを目指し始めます。例えば20世紀の最も著名な画家の一人、パブロ・ピカソ。1907年に描いた当初、世界から酷評された『アビニヨンの娘たち』。しかしこれは、遠近法や人間の視覚だけの物差しによる「従来のリアル」と決別し、様々な視点から認識した「新しいリアル」を1つの画面に再構成した彼なりの答だったのです。
また、アートは創った本人がその見方を決めるだけではありません。典型的な例が音楽鑑賞です。「作曲家の意図」「作品の背景」とは別に、聴き手一人ひとりが自由に、自分の思い、自分の体験をベースに「作品そのもの」とやりとりします。つまり、アートは、芸術家だけではなく、鑑賞する側の解釈にも支えられ、成り立つものなのです(誰であっても同じように解釈する「デザイン」との違いでもあります)。
そして21世紀の今、DX等のテクノロジーの進歩によって、日本・京都の強みであった「職人技による精緻さ」が危機を迎えています。アートの世界でも「AIアート」の登場は相当なインパクトがあります。今こそ、あらゆる常識、既成概念、枠組みを取っ払い、自分の内なる興味、好奇心、疑問をもとに自分のものの見方で世界を捉え、自分なりの答を探求し続ける「アート思考」、すなわち、「創造性」が求められています。なぜなら、「必要性」よりも「自分の欲求」、これこそが究極の付加価値、究極の需要だからです。

創造性のビジネス戦略

2019年の世界の美術品市場は7兆円(米国4割、英国2割、中国2割弱)と言われます。創造性という究極の付加価値をビジネスとして成り立たせた歴史はどうだったのでしょうか。

  • 労働者(働く人)の大半が文字を読めなかった中世ヨーロッパにおいて、絵画彫刻は、聖職者(祈る人)が人々の平安を保証し、貴族(戦う人)が人々の安全を保証していることをプレゼンテーションする最適なビジュアル表現として重宝されてきました。そして、教会や貴族というスポンサーの中でもひときわ有名なのはメディチ家です。フィレンツェの君主になったばかりか、ローマ法王に多額の献金や行い一族から法王を出すに至るなど、スポンサーのスポンサーでもありました。メディチ銀行は1396年に創業しましたが、キリスト教では(ユダヤ教、イスラム教でも)、聖書で利息を禁じており、その贖罪のために芸術支援を行ったのです。11世紀末の十字軍の遠征を機に、活発化した東方貿易を先導したイタリア商人が、為替や複式簿記の技術を発達させてきましたが、この為替レートを巧みに使って事実上の金利を得ていたのです。
  • 「絵画市場」が成立するために必要であったのが、ルネサンス中期に登場した画材「キャンパス」です。従前は壁画や天井画といった、いわば不動産絵画でしたが、これによって描く場所も飾る場所も選ばず、画期的な流動性がもたらされ、絵画の動産化が進んだのです。レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』(1498年)は不動産絵画です(フレスコ画では漆喰が乾ききる前に絵の具を乗せ、漆喰と一緒に絵の具を乾かします)が、『モナ・リザ』は動産絵画です。
  • 20世紀のアーティストが「新しい手法」によって新しいリアルという独自性を生み出したのに対し、「新しい題材」で独自性を生んだのは、17世紀のオランダです。宗教改革で祭壇画や礼拝像の排除が進む中で、教会等のスポンサーではなく、市民の購買による市場を見出し、さらには、聖書等のお仕着せの題材ではなく、画家が自分で決めた題材で絵を描き始め、レンブラントやフェルメールなどの巨匠が登場しました。注文品ではなく既製品として、食器や花、風車などこれまで「脇役」に過ぎなかった題材を主役にした静物画や風景画を描くことで、「美」とは、同じくこれまで「脇役」であった市民の日々の生活の中にこそあることを説き、市民を新たな主役として顧客にしたのです。その結果、パン屋より多くなった画家はブランド化戦略を図り始めました。レンブラントは、その荘重な画風の席捲に伴い工房で組織的に生産するようになりましたが、やがて、供給過多になるとともに、模倣品も出回り、市場との乖離も経験したのです。
  • 一方、同じ17世紀頃、カトリック国フランスでは、教会の権威に代わって王室の圧倒的な権力を人々に知らしめるものとして、豪華絢爛の王室美術が栄華を極めました。宗教改革で神の代理人としての法王や法王を守護する皇帝の権威が失墜する中で、各地の王たちは自分の王権を神から直接授かったものだと考え始め(王権神授説)、あたかも神の代理人として乗り出し始めたのです。フランスの王室美術に権威を与えたのが「アカデミー」です。それ以前の同業者組合ギルドで継承される「技術(工芸)」としての美術に対抗するため、アカデミーは解剖学的知見を踏まえた人体デッサンを導入することで「科学的」なものへと昇華させることを目論みました。さらに、ヨーロッパ美術の指導的な立場にあったイタリアを凌駕し、巨匠の傑作群で壮麗に飾られた古都ローマやカトリック総本山ローマ法王庁の威光を凌駕することを目論み造営されたのがヴェルサイユ宮殿でした。
  • パリを古代ローマをも凌駕する美術の都とすることを夢見たのは、フランス革命後の混乱を収拾し19世紀初頭に活躍したナポレオンです。凱旋門やオベリスクといった古代ローマ風記念建築を市内の随所に配し、威光をフランス内外に訴求するとともに、王ではなく一将軍の地位で画家を従軍させた彼の戴冠式の様子を描いた絵画では、古代ローマ帝国皇帝の再来を思わせる姿が見て取れ、ローマ帝室のファッション美学を近代パリに復権させています。古代メソポタミアの「ハムラビ法典」、東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスが編纂させたローマ法大全「ユスティニアヌス法典」に並ぶ世界三大法典となる「ナポレオン法典」において、私有財産の所有を認めることで愛国心の土台を築き、財源を浮かすために傭兵制から徴兵制への転換を図るなど、巧みな戦略を展開しました。
  • ナポレオンの「古代帝国ルネサンス」はアメリカ合衆国にも継承されています。大統領官邸ホワイトハウスは古代神殿風で、ワシントン市街には記念塔としてオベリスクが屹立しています。
    19世紀後半にフランスに端を発したモネ、ルノワールなどの印象派絵画は、アカデミーにも評価されず、時にガラクタと見なされるほどでしたが、パリの画商ポール・デュラン=リュエルは、印象派絵画の並外れた新規性を緩和するために、クラシックな金ピカ額縁で飾ることで、作品の価値を顧客に担保する手法を採りました。18世紀のルイ王朝様式の金ピカ額縁に入った作品と猫足家具で埋め尽くした「サロン」を開設し、まるで自宅にいるような感覚で、かつての高位聖職者や王侯貴族が味わった体験を与える巧みな接客戦略を展開しました。これよって、粗雑にも映る印象派の新規性こそが「新時代の貴族」のステータス・シンボルであるような演出を施し、「ガラクタ」を超高額品へと変容させたのです。平等な社会を願って出現したフランスの市民社会でさえ貴族文化に憧れを抱いていたように、伝統や格式には人々を畏敬や畏怖を喚起するものが備わっていることが明らかになりました。
    この空間演出がとりわけ効果を発揮したのが、貴族のいない新興国家アメリカでした。南北戦争の軍需景気と戦後復興による鉄鋼や鉄道産業の急成長で次々と新興財閥が生まれ、大富豪たちが富を注ぎ込んだのがパリのファッションと美術の市場だったのです。今で言う「爆買い」が行われていました。
  • なお、美術市場類例のない19世紀の印象派絵画という超高額商品を生み出したもう一つの背景は、ジャーナリズム、批評家の存在が挙げられます。注文制作ではなく既製品を売るためには、ブランド化によって「名」を認知させることが不可欠であるとともに、王侯貴族のように美術品に対する世代的蓄積がない市民顧客に対し、その欠けている商品知識を補充することが必要であり、今で言う「インフルエンサー」が登場したのです。
  • 第二次世界大戦以降、それまでヨーロッパで活躍していた芸術家たちの多くが戦中から戦後まで好景気だったアメリカのニューヨークに亡命し、芸術の中心地もパリからニューヨークへ移行します。ニューヨークで活躍する芸術家を中心に抽象表現主義が生まれ、ヨーロッパ芸術の美術文脈の継承者とされました。その一人が、20世紀最大の画家」ピカソと同時代を生き、共に自らの芸術を追求した「現代アートの父」マルセル・デュシャンです。互いに親交がある二人は、前者はフランスを、後者はアメリカを拠点に活躍しました。その代表作『泉』は、男性用の小便器を横に倒し「R.Mutt」とサインしただけ。鑑賞者の思考の中で創造的行為が行われることで作品が最終的に完成するという、それまでのアートの常識を破壊しました。あるいは、何かアフリカを感じさせるカラフルな色使いで頭蓋骨のようなモノが白色を睨んでいるように見える絵が有名なジャン・ミシェル・バスキアは、対立関係を描く「挑戦的二分法」の感性を多用しました。あるいは、ホルマリン漬けの動物の作品である「自然史」シリーズで有名なダミアン・ハーストは、「死」に対する観念をテーマとしています。あるいは、西洋の美術史のルールに乗っ取り、欧米の美術市場でキャリアを確立しつつ、日本人の感性が持つかわいいキャラクター産業を美術の領域に横断させた村上隆。アートは何のしがらみもない真っ白な自由から生まれるものではなく、あくまで資産家、アドバイザー、キュレーターや美術館が望むものであるからこそ価値があるのだと語っているのは注目です。

改めて西洋美術史を振り返ると次のとおりです。

  • 古代ギリシア(エーゲ文明):西洋文明の原点であり、紀元前2,000年頃のクレタ文明の「竪琴弾きの男」や、ポリスを形成して以降のギリシア神話の神々を人間に見立てた精巧な彫刻が生まれました。
  • 暗黒時代:ローマ帝国でキリスト教が国教化されて以降の1,000年以上の間、神を人間ではなく、後光・聖書など神々しい姿で描くようになりました。細部まで丁寧に描き込むことが「祈り」であったのです。なお、当時の人がイメージした天国は果樹園であり、天使の羽は鳥のような色が付けられていました。
  • ルネッサンス:14世紀中頃のペスト流行から再興意識の高まりと、オリエントとの交流によって、活き活きとした古代ギリシアのような時代の復活を目指し、イタリアでは、「ギリシア神話を描いた「ヴィーナスの誕生」(ボッティチェリ)や、「モナリザ」(ダ・ヴィンチ/普遍的な美(雲の無い空=いつでもない、見知らぬ背景=どこでもない、輪郭線を描かぬスフマートで如何様にも取れる表情=誰でもない))、「ダビテ」(ミケランジェロ/旧約聖書に登場する戦いのワンシーン)、「ヒワの聖母」(ラファエロ)等が、オランダでも北方ルネッサンスとして「バベルの塔」(ブリューゲル)、「アダムとイヴ」(ヂューラー)等が登場しました。
  • マニエリズム:16世紀末頃には、戦争多発の不安感から、ルネッサンスで頂点まで上り詰めた美術を破壊するように、「聖衣剥奪」(エルグレコ)、「首の長い聖母」(パルミジャニーノ)等の不安感や緊張感を表したものが登場しました。
  • バロック:17世紀の宗教改革により危機感を強めたカトリックにより、光と影でドラマティックに表現された「聖マタイの召命」(カラヴァッジョ)、「キリストの昇架」(ルーベンス)等の大掛かり・大袈裟な表現が生まれました。一方、プロテスタントの画家によりお仕着せではない作品、すなわち「牛乳を注ぐ女」(フェルメール/プロテスタントの勤勉さ・質素さを表現)、「テュルム博士の解剖学講義」(レンブラント)等も生れました。
  • ロココ:18世紀には、フランスの貴族たちが自分の邸宅用に、恋物語などの享楽的な絵画を求め、「シテール島への巡礼」(ヴァトー)、「ホンハテゥール夫人の肖像」(ブーシェ)等が生まれました。
  • 新古典主義フランス革命後の19世紀、それまで貴族が愛でたロココへの反発から、再び古代ギリシアのような理知的・倫理的なもの、すなわち「ホラティウス兄弟の誓い」「さん・ベナール峠を越えるナポレオン」(ダビット)等が登場しました。
  • ロマン派:同時に新古典主義にも反発が生まれ、「民衆を率いる自由の女神」(ドラクロワ)、「メデューズ号の筏」(ジェリコー)等の強烈な色彩や激しい構図で自分の中のロマンを描くものが登場しました。
  • 写実主義産業革命による貧富の差など目の前の社会の現実を写し取る「落ち穂拾い」(ミレー/貧しい未亡人達が小麦の落穂を拾っている(旧約聖書で認められている行動)。農業の神々しさを表現する作品が多い)等のような作品が生まれました。
  • 印象派:目の前の社会より目の前の風景を写し取る「印象・日の出」(モネ。五感で感じたままに描く)、「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」(ルノワール。大戦の暗い影の差す欧州においても甘ったるい温かい世界観を表現)等が登場しました。カメラの登場により見たままではなく、またチューブ入り絵具の登場によりアトリエではなく戸外制作が可能となり、変化する「自然光」を素早く描くために、細部にこだわらずキャンパス全体に絵の具(混ぜずに原色)を置く「分割筆至」により、見たものを自分たちの感覚で描くようになったのです。
  • 後期印象派:こうした物を見た印象ではなく、「ひまわり」(ゴッホ。浮世絵の影響もあってか暗い主題でも明るく温かく描き、最も人気のある画家と言えます。慎ましい生活の中でも絵具だけは最高のものを用いており今でも変色していません)、「説教後の幻影」(ゴーギャン)、「リンゴのある静物」(セザンヌ)等のような、物を見た後の自分の印象を描く絵画が登場しました。
  • 分離派:20世紀になり、さらに頭の中を描く「叫び」(ムンク)、「接吻」(クリムト)等が生まれました。
  • フォービズム:さらに「緑の筋のあるマティス夫人」(マティス)等の色彩の革命が起こりました。
  • キュビズム:立方体に分解して再構成する、「アヴィニョンの娘たち」(ピカソ)等の形態の革命が起こりました。
  • 現代(コンテンポラリー)アート:美術の中心がパリからニューヨークへ移った第二次世界大戦以降から現在までの芸術で、理論が重要となっていますが、見る側にとって重要なのは自由なイマジネーションです。例えば、マルセル・ディシャンは「芸術とは何か」と問いかけたかったのかもしれません。白一色に塗ったロバート・ライマンは「形や色を表現することだけが芸術か」と問うたのかもしれません。リキテンスタインの作品は、キリストの偉大さを神々しく表したように影の無いコミック調を用いたとも受け取れます。アンディ・ウォーホルは山河もスーパーマーケットも同じ風景だと気づかせようとしたのかもしれません。ガラクタを並べてアートにしたトニー・クラッグのインスタレーションは、芸術の材料はどこにもでもあると言いたかったのかもしれません。アクション・ボロックはアクションペインティングで大地との交信に悦びを見出したのかもしれません。ジャコメディのスレンダーな彫刻はその周囲の深々とした空間を感じさせるためのものかもしれません。
    --抽象表現主義:「アクション・ペインティング」(ジャクソン・ポロック)、「抽象表現の人物画」(ウィレム・デ・クーニング)、「オートマティック・ドローイング」(ロバート・マザーウェル)等
    --POP ART:型を破ろうとした抽象表現主義もやがて堅苦しくなり、アンディ・ウォーホルのような、大量生産、メディア、広告などのイメージを多用する軽妙な芸術が生まれてきました。
    --日本の現代芸術家:岡本太郎、オノ・ヨーコ、草間彌生、村上隆等

現代アートは様々手法も発達しています。

  • コンセプチュアル・アート:現代アートの全てかもしれませんが、1960年代から70年代にかけて世界的に広まった、作品のアイデア、コンセプトの良さを問う芸術で、ジョセフ・コスースの「1つの、そして3つの椅子」などが有名
  • パフォーマンスアート:1960年代以降に隆盛した、身体を媒介にした芸術表現で、その場限りのパフォーマンス
  • インスタレーション:1970年代に始まった、屋内や屋外に作品を設置して空間全体を作品化する手法
  • サイト・スペシフィック・アート:その土地の環境や生活空間、歴史的、政治的、文化的な場の成り立ちなど、場所と作品の関係を構築し、特定の場所と結びついて存在する作品。雷が落ちやすいアメリカのニューメキシコ州の平原に400本のステンレス鋼を設置したウォルター・デ・マリアの「ライトニング・フィールド」や、フロリダの島々をピンクの布で囲んだり、パリ最古の橋のポン・ヌフを梱包したアーティストのクリスト&ジャンヌ=クロードなどが有名
  • リレーショナル・アート:1998年に提唱された、共同作業や出会いを通じて交わされる人間同士のつながりなど観客との関係性の要素が含まれているアートを指します。ギャラリーで食べ物を振る舞うパフォーマンスなどが行われました。
  • メディア・アート:1990年代以降の、コンピューターやセンサーなどを用いて鑑賞者の動きや熱を感知して作品に反映させる鑑賞者参加型のインタラクティブ・アート、WebサイトやSNSなどのインターネットを媒体としたインターネットアート、音や映像、光を空間全体に使うインスタレーションアートなど

現在の美術経済のプレイヤーは次のとおりです。

  • 生産者:美術家(教員など副業をされている例も多い)
  • 発表機会:公募展(美術団体や美術館等、美大展など)、芸術祭(ベネチア・ビエンナーレなど)
  • 卸小売:美術商・百貨店(古美術商、画商など「古物商」の許可を得ている。画廊は入場料を取らない)、オークション(18世紀に誕生したサザビーズ(外部リンク)クリスティーズ(外部リンク)等。売り手買い手双方から落札額の1~2割の手数料)
  • 購入者:コレクター、美術館
    コレクター:日本の場合は、住宅事情から家に飾れず、京都でも襖絵や屏風を買っていくのは外国人ばかりだと言われます。海外の場合、特に誰よりも先頭を走る「フォワード・ルッキング」「フォワード・シンキング」が重視されるニューヨークの場合は、現代美術をコレクションすることが知的に見られ尊敬を受けます。
    美術館:全国美術館会議に所属するのは国公私立含めて約400あり、これに属していない小美術館も含めれば2000館とも言われます(特に私立美術館は、コレクターがシェアする人間の本質的動きがベースになっていると言えます)。パーマネントコレクション(収蔵品を手放さない)を原則としており、収蔵されることがステータスとなります(それ故、一般価格より安く収蔵される傾向があるとも言われます)。建物の維持費も高額であり、バブル崩壊以降、収蔵力が低迷していると言われています(京都市京セラ美術館は、改修費100億円の半額を50年のネーミングライツで獲得)。一方、海外ではロンドンのテートモダン、パリのルーブル、オルセー、ニューヨークのメトロポリタン(年間来場者500万人。ルーブルの10倍の300万点もの作品がある)、MoMA(モダニズム美術館でありながら、アトリウムにはモダニズムの終焉を表す作品を構え、自由な考え方を尊重する姿勢を示す)などが著名ですが、海外においては、巨匠の作品であっても収蔵品を入れ替え、存続を図る動きが出てきています。一流の美術館では展示方法に細心の工夫を凝らし、来場者も自由に作者とのイマジネーションをめぐるコミュニケーションを図っています。
  • その他:鑑定士(鑑定料は数万円からと言われています)、評論家

オークションで100億円ほどの落札額も生まれる美術品ですが、これまでの歴史を踏まえれば、美術の経済の本質が見えてきます。

  • 後世に残るような先鋭的で斬新なものは、同時代に生きる保守的な価値観を持つ多くの人に理解や共感を得にくく、学術誌等の説得力ある評論や、展覧会、美術館等での取扱いなどの「箔」が必要です。
    それを理解する画商で弟のテオが売り急がなかった故に、ゴッホの生前売れたのは1枚だけでした。現代アートを先導する村上隆も、ルイ・ヴィトンとコラボレーションをするなど、様々な試みをされてきました(なお、レンブランドと同様、工房形式で制作し、それが後継者育成の場ともなっています)。
  • 無名作家の作品を売るなら「たくさん」集め、額装や表装を整えることが重要です。
    北斎は素晴らしい肉筆画を残すなど「芸術家」の側面も持ち合わせていましたが、有名なのは浮世絵です。富士山信仰ブームを背景にした葛飾北斎の冨嶽三十六景、旅行・観光ブームを背景にした歌川広重の東海道五拾三次は、版元の指示で作られた「職人」「デザイン」的な仕事です。明治維新で幕府という後ろ盾がなくなる中にあって、版画故に多くの作品が作られ、輸出された陶磁器の詰め物として欧州で多く目にされたことがきっかけで、浮世絵は欧州で注目されることとなりました。

従って、ビジネスとしての成功の大きなポイントは次の2点です。

  • そのアートに込められた「哲学」が明確であること
  • コレクター(権威的にはフランスが先導)が数あるアートの中で当該アートに投資をすること

美術工芸のまち

では、京都はどうか。

京都の絵画は、空海が持ち帰った「真言五祖図」や手本となる曼荼羅図などの「密教絵画」で開花しました。
やがて、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像の後壁に描かれた日本の自然の姿など、「唐絵」に対し日本生まれの絵を意味する「大和絵」が成立し、神護寺に残る「伝源頼朝像」などの「似絵(肖像画)」、同じく同寺に残る、猿や蛙などを人間に見立てた日本最初のマンガとも言われる「鳥獣人物戯画」といった「絵巻物」、さらに南北朝時代には大和絵の伝統を受け継ぐ、朝廷お抱えの絵師らによる「土佐派」も成立しました。
室町時代には、将軍家に収集された中国の水墨画を学びに、晩年「天橋立図」を描いた雪舟や、幕府お抱えの絵師となり「狩野派」を開いた狩野正信などの絵師が京都に集まり、桃山時代には「洛中洛外図屏風」を描いた狩野永徳、江戸時代には二条城二の丸御殿障壁画を描いた狩野探幽らが活躍しました。同じく桃山時代から江戸時代に亘り、「風神雷神図」屏風を描き、本阿弥光悦とともに「琳派」を開いた俵屋宗達、琳派を発展させた尾形光琳らが活躍しました。
江戸中期以降は与謝蕪村、伊藤若冲、円山応挙なども輩出し、文人画・写生画の諸流派が形成され、今日の日本画の基盤が築かれました。明治になると「美術」という言葉が作られ、明治13年には日本初の美術学校「京都府画学校(現京都市立芸術大学)」が設立されました。

京都の彫刻も、絵画同様、仏教文化の伝来とともに始まります。
仏像には、悟りを開いた姿を表す「如来」(仏教の開祖、釈迦の像である「釈迦如来」、無限の光を放ち時間を越えたという意味の「阿弥陀如来」、さまざまな病気を治すとされる「薬師如来」など、薄い衣をまとい、ほとんど何も持たない姿として表されることが多い。)、悟りを求めて修行する姿を表す「菩薩」(釈迦入滅後56億7000万年後に如来となってこの世に現れる(現在修行中)とされる「弥勒菩薩」、その弥勒菩薩が現世に現れるまで民衆を救済するという「地蔵菩薩」など)、怒りの表情が特徴の「明王」(不動明王など)、仏教に帰依したとされるインド神話の神「」(毘沙門天など)など様々なものがあります。
渡来系の秦氏が創建した蜂岡寺(広隆寺)の弥勒菩薩像(国宝第1号)、空海による大日如来を中心にした曼荼羅の立体的表現、そして、仏師・定朝による、平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像などが生まれ、定朝以降生まれた京仏師から分かれた奈良では運慶・快慶を輩出し、随心院の金剛薩田坐像は快慶作と知られています。
なお、京都の仏教については、603年に建立された広隆寺が京都最古の寺院です。そして、奈良の仏教勢力の影響力を弱める目的もあり遷都した桓武天皇が最澄、空海を中国に送り出し、それぞれ天台宗(延暦寺)、真言宗(東寺)を開かせました。やがて末法思想によってひたすら来世の幸せを願う浄土教(阿弥陀仏の極楽浄土に往生することを説く教え)が流行し、鎌倉時代になると、「鎮護国家」から次第に民衆の救済を目指すものとなり念仏思想が広がりました。中でも浄土教に基づき、「南無(おじぎ等を意味する)阿弥陀仏」と念仏を唱え続けることで救われるとする法然の浄土宗、その弟子・親鸞の浄土真宗(真宗、一向宗)が生まれるとともに、「南無妙法蓮華経」と唱えることで救われるとする日蓮宗(法華宗)も生まれました。一方、この時代には中国からもたらされた臨済宗、曹洞宗の2つの禅宗が、武士に好まれました。室町時代には臨済宗は幕府に保護され、京都五山(南禅寺を筆頭に、天竜寺、相国寺、建仁寺、東福寺、万寿寺)が定められる一方、曹洞宗は民衆に日蓮宗は商工業者に普及したと言われています。また、当時最大勢力であった浄土真宗は、戦国時代から江戸時代にかけて、大谷、山科、石山、やがていわゆる東・西本願寺へと本山が変遷しました。

大宮付近は平安時代に織部司があったところ(やがて朝廷の仕事だけでは成り立たず独自の座(大舎人座)を結成)で、先染めである織物は、鎌倉時代から室町時代にかけて「大宮絹」の名で知られていましたが、応仁の乱での疎開後、西軍の陣地であった地域に織手が集まり「西陣織」の名が生まれました。後染めのものでは、宮崎友禅斎の「友禅染」など織物とは異なる自由な文様が生まれました。

桃山時代以降、茶の湯の場は、絵画や工芸品の展覧会場でもあり金工の茶釜(三条釜座の西村道仁、辻與次郎など)、陶芸の茶碗・花入、竹工芸の茶筌などが発達しました。そして、俵屋宗達とともに「琳派」を開いた本阿弥光悦は、徳川家康から受領した鷹峯に職人を集めた「光悦村」を開きました。京焼は、野々村仁清が江戸時代初期に御室に釜を築いて色絵陶器によって新風を吹き込み、やがて粟田口、さらには五条坂を中心とする清水焼に受け継がれていきました。

なお、日本全体に視線を広げると、日本と欧州の交流の中で、西洋諸国に認められた最初の日本美術工芸は、磁器でした。磁器はもともと中国で開発されたものであり、ヨーロッパ各地の王族や貴族がこれを購入していましたが、中国の明朝が滅んで磁器の輸出が停止してしまい、その代わりに磁器を輸出し始めたのが17世紀半ばの日本でした。

また、漆器は「ジャパン」と呼ばれ、17世紀後半には日本の代名詞となった時期もあったそう。欧州への輸出は東インド会社を通して行なわれ、キリスト教の宣教師たちの影響を受けて南蛮漆器を生み出し、教会の祭具から日常の生活品にいたるまで広く重用されました。

他方、浮世絵については、木版の精巧な多色刷りの錦絵が開発されたのが1765と言われ、最初に浮世絵を輸出したのは長崎のオランダ商館長で、その後はオランダ商館医師として来日したシーボルトが北斎をヨーロッパに持ち帰ったとされます。これによりフランス、特に印象がの画家たちに高い評価を受け、エドワール・マネの『エミール・ゾラの肖像』の背景には日本の屏風が描かれていますし、ネの家には相当数の浮世絵が飾られており、ドガやゴーギャン、ロートレックなども日本の美術に影響を受けたと言われます。ゴッホも、浮世絵の雰囲気から、「日本は南国」だと勘違いし、パリから南フランスのアルル引っ越したと言われています。

このようにフランス人が日本の美術工芸品に高い評価を与えるようになったのは19世紀半ばと言われ、第二帝政期に入った頃には、すでに日本ブームがインテリの間で広まっていたそうです。

着物のまち

では、京都の着物はどうでしょうか。

聖徳太子の時代に冠の色によって宮廷内の階級を表そうとした「冠位十二階」以降、衣服のルールは細分化や変更を繰り返し(例えば、相手から見て右の衽を上にする「右前」は唐の影響です(死装束は逆に「左前」になりました))、やがて「着物」が登場しました。

  • 平安時代、遣唐使が廃止され、それまで中国式の宮殿・朝堂院にて立礼で行われてきた儀式が、天皇の住まい・内裏にて座礼で行われるように変化するに伴い、幅広のゆったりとした形状、内裏に仕える女性の感性による美しい色彩が求められ、宮殿に昇殿する際の正装は、男性は「衣冠束帯(いかんそくたい)」、女性は「唐衣装(十二単。唐衣(からぎぬ)は上着、装(も)はロングスカート)」になりました(「衣装」の語源は「唐衣装」)。
  • 鎌倉時代、武家の台頭に伴い経済基盤が弱くなった公家の衣装は簡素化され、公家の女性は唐衣や装を略し、唐衣の中に着ていた「袿(うちぎ)」を小さくした「小袿(こうちぎ)」を着るようになり、その後江戸時代まで宮中の女性の正装は、袿と袴になりました。また、安土桃山時代の上級武家の女性の正装は「小袿」から変化した「打掛(うちかけ)」となりました。
  • 一方、鎌倉時代、地方の武家の女性は動きやすさを求めて、「小袿」の下着として着ていた「小袖(こそで)」に色や柄を付けて表着として着るようになり、紐状の「細帯」をしていました。既に鎌倉時代のうちに庶民に浸透し、江戸時代に「着物」と呼ぶようになりました。江戸前期は、歌舞伎や遊女を中心に豪華なデザインの着物が流行し、帯もそれを邪魔しない「細帯」や、現在の「帯締め」のような組紐状の「名護屋帯(佐賀県唐津市の地名で朝鮮出兵時に集まった遊女たちから流行った)」が流行しましたが、江戸後期には、贅沢が禁止され、着物の模様は「総柄」から、上半身は無地で裾に柄を施した「裾模様」へと変化するとともに、地味な上半身を補う意味で帯の幅が広がり、それが解けないように「帯締め」を使うようになりました。明治時代には、着物腰のあたりで着物をたくし上げて丈の長さを調節する「御端折り(おはしょり)、「お太鼓結び」、お太鼓結びに必要な「帯揚げ」も普及し、現代と同じ着方が定着しました。大正時代には、化学染料で着色した糸を機械織りで安価で生産できるようになり、若い女性の着物がカラフルな総柄になりました。
  • また、明治時代には洋装化が進められ、現在でも旭日章(顕著な功績)・瑞宝章(公共的業務への勤務)といった勲章、藍綬(団体)・黄綬(企業)といった褒賞のドレスコードは燕尾服やドレスの決まりがあります。しかし、明治時代、そのコスト高への苦肉の対応として、江戸時代までの裃、宮中の女性の袿・袴から、白衿紋付(白衿:表着の着物の下に重ね着した白無地の着物が見える。紋付:背中、両胸、両袖に5つの家紋を入れる)、すなわち男性の場合は、黒紋付羽織袴、女性の場合は裾模様付きの黒無地の着物が認められ、最上級の礼装と定められました。
  • 一方、明治20年、鹿鳴館をリードしてきた井上馨の外務大臣辞任を機に、明治の洋装化の勢いが下火になり、一時期洋服着用が定めた華族学校においても女袴着用を定め、瞬く間に他の女学校にも「ハイカラさん」スタイルが広がりました。

女性の人生儀礼との関係で様々な着物があります。

  • 成人式での「振袖」は、昭和の高度成長期に呉服業界が、江戸時代以前の「元服」をヒントに仕掛けたものです。江戸時代以前は成人年齢に統一されたものはありませんでしたが、15歳前後において行われた成人になった儀礼としての「元服」において、髪型と衣服を子どもから大人に変更する儀式が行われていたのです。なお、成人式の振袖姿の写真がお見合い写真として多用されました。
  • 白無垢」は、室町時代から武家の娘の婚礼衣装として用いられるようになりました。白は古代から神聖な色として敬われてきた色で、無垢は汚れないことを表す仏教の言葉です。また、かつて花婿の自宅で結婚式や披露宴が行われていた時代には、三三九度の盃の儀式の後、披露宴の前にお色直しを行い、赤地の着物に着替え、花婿も裃から黒紋付に着替えました。なお、皇太子時代の大正天皇の結婚の儀式が宮中賢所(皇居の神殿)で行われ、国民の間でも料理旅館などの大会場で披露宴が行われるようになりました。
  • 明治時代に義務教育が始まった小学校を経済的に支援する組織として、家長である父親 やその代理をする兄が参加する「父兄会」が生まれ、入学式や卒業式には父親か兄が出席するのが普通でした。第2次世界大戦後、米国の制度を見倣ったPTAが組織され、母親が参加するようになりました。仰々しい黒留袖の代わりとして、黒地の絵羽織(黒羽織)が流行りました。

着物はSDGsの観点でも特徴を有していると言えます。

  • ボタンを使わず帯だけで着用し、幅は前合わせの重なりで、丈は御端折りで、それぞれ調整する「フリーサイズ」
  • 立体裁縫された洋服と異なり、一枚の布(反物)を直線的に活用するため、仕立て直しがしやすい「何度でも新品」

日本の繊維の代表格は、麻、絹、木綿です。

  • :本来は植物の茎から採取される繊維の総称で、日本に自生していた「麻」「藤」「葛」「科」「楮」などの繊維です。
  • :弥生時代末期に養蚕が日本に導入され、平安末期からは中国・呉(蘇州付近の地名)から絹織物や糸の大量輸入も始まりました(「呉服」とは呉で織られた布の意)。明治時代以降は日本の輸出品で最も多いのが絹の生糸でした。
    蚕の繭から引き出した「繭糸」を数本繰ったものが「生糸」で、膠成分セリシンに覆われクリーム色をしています。精練してセリシンを取り除くと美しい光沢と柔らかさを持つ「練糸」ができます。京都・西陣では、江戸時代に中国からの輸入が多過ぎて輸入禁止された練糸づくりの技術を向上させた故、全国の養蚕地から生糸が運び込まれ、西陣織友禅染の着物になりました。一方、生糸にならない繭糸が「紬糸」で、織ったものがです。現在は紬糸も精練してセリシンを取り除き、光沢や柔らかさを持つものが多くなりました。
    高級帯は「織り」、高級着物は「染め」と言われますが、「織り」は先染めのため、練糸が持ち込まれた西陣織(西陣で生産される多品種少量生産の先染紋織物。「錦」「唐織」など12種類の織り方が「伝統工芸品」に指定)や、養蚕の産地である大島紬・結城紬など生産地で発達しました。
    染め」は後染めのため、京友禅・加賀友禅・江戸小紋など消費地・都市部で発達しました。染めの生地には、経糸と緯糸を上下に交差させ凹凸がない「平織」、経糸を細い2本で織ることで柔らかい生地となる「羽二重(はぶたえ)」、経糸は無撚の生糸、緯糸は撚糸2本で織ることでシボ(凹凸)を立たせる「縮緬(ちりめん)」などがあります(生地にしてから精練するが、「お召(縮緬)」は糸の段階で精練し「織り」に分類されます)。染めの手法について、手描友禅では、模様の輪郭に(色の定着のためではなく)防染のための糊を置いて、輪郭の外に染料が流れてしまわないようして染め(それ故、輪郭は白いまま残り、その線を「糸目」と言います)、色の定着や光沢を増すために生地を蒸し、水で糊等を洗い流します(水元)。型友禅では、色を定着させるために染料に糊を混ぜた色糊を用いて、型置(糊置)をします。絞り染めでは、糸で小さく括って布面に凹凸を残した「京鹿の子絞」があります。
  • 木綿:鎌倉時代末期から渡来し、その肌触りの良さのため、麻に代わって下着の繊維として人気を呼びました。「更紗」は、インドやインドネシア等から運ばれてきた木版で染められた布又は模様です。
  • 羊毛:明治時代になると採り入れられ、昭和30年代にはウールの着物地が製造されるようになりました。
  • 化繊:現代は、洗濯が簡単で買いやすい価格ということで、ポリエステル、レーヨン、アステート等の化繊の着物もあります。

着物の小物の中でも、江戸時代に目立つ存在になった「帯」にも格式や形態の違いがあります。

  • 丸帯:江戸時代中期から使われるようになったとされ、最も格が高い帯です。帯の幅が広いため、幅を半分に折って仕立てます(仕立て前:幅約60~64cm×長さ約400~450cm、仕立て後:幅約30~32cm×長さ約400~450cm)。表地と裏地の両面とも柄が見える仕立て方なので、どのような結び方をしてもきちんと柄が出るのが特徴です。金糸や銀糸が用いられているものも多く、豪華な印象を与えます。白無垢(婚礼衣装)・留袖(婚礼親族)、舞妓さんの衣装で使われる程度。
  • 袋帯次いで格の高い帯です。安土桃山時代に流行った紐状の「名護屋帯」とは違い、大正時代に名古屋市の女学校の先生考案したもので、袋帯で言うところの、幅方向に2つ折りして腰に巻く部分を、最初から半分の幅で作られたもので、表地と裏地の生地を袋状(筒状)に縫い合わせて仕立てます(幅約30cm×長さ約400~450cm)。仕立て後のサイズは丸帯と変わりませんが、重量のある丸帯と比べ、裏地に無地の生地を使用している袋帯は軽いのが特徴です。お太鼓の部分は帯の幅そのまま使いますが、腰に巻く部分は幅方向に2つ折りにして巻きます。訪問着振袖(成人式)等向け。
  • 名古屋帯次いで格が高い帯で、カジュアルシーンで用いられることが多いです。大正時代に名古屋で考案された帯です(幅約30cm×長さ約330~360cm)。小紋(留袖や訪問着と異なり、模様に上下(天地)の向きや柄合わせがない普段着の着物)等向け。
  • 半幅帯最もカジュアルな帯(幅約15cm×長さ約330~360cm)で、「小袋帯(こぶくろおび)」と「単衣帯(ひとえおび)」に分けられます。小袋帯は、2枚の生地の端が縫い合わさり、袋状になっている半幅帯です。一方の単衣帯は、1枚の生地から仕立てられている半幅帯で、通常、浴衣には単衣帯を締めます。薄手で幅が狭く、帯を結びやすいため、結び方をアレンジして楽しめるのが特徴です。浴衣等向け。

なお、「広幅」とは、布地の幅の広い織物の総称。和服地では並幅 (約 36cm) より広いものを広幅または大幅と言い、とりわけその2倍の幅 (約 72cm) の織物をさすことが多いです。

その他、小袖の下に着る襦袢帯締め帯留め、帯の腹側に張りを出すための帯板、お太鼓の形に立体感を出すための帯枕など様々あります。

建築のまち

建築については、屋根の形には切妻造寄棟造、そして天守閣の頂上部分でよく見かける入母屋造などがありますが、神社建築では吉田神社本宮などで見られる「春日造」(切妻造、妻入)、上賀茂神社本殿・下鴨神社本殿などで見られる「流造」(切妻造、平入)など様々です。宮殿邸宅では、御所紫宸殿に残る「寝殿造」、金閣・銀閣の初層や二条城二の丸御殿に残る、床の間などのしつらえを供えた「書院造」、わび茶の精神同様、無駄をそぎ落とすなど質素ながら洗練されたデザインで、桂離宮や修学院離宮に残る「数寄屋造」なども発達してきました。

さらに近現代の建築においても京都は檜舞台となってきました。1979年制定の「建築界のノーベル賞」プリツカー賞でもアメリカと並ぶ最多8名(丹下健三、安藤忠雄ら)受賞者を生み出してきた日本において、京都は、伝統と対峙する場として建築家たちに選ばれてきたのです。
片山東熊設計1895年完成の、国の重要文化財に指定されている京都国立博物館明治古都館。1872年創設の東京国立博物館に続き、奈良と京都に西洋的な博物館が置かれたのは、かつて東洋文化を大規模に導入し国家の基盤を整えるプロジェクトであった平城京や平安京が置かれた日本の文化の中心地で、西洋文化の導入を急ぎ実利に左右される東京から距離をとることで、最先端の調査研究を行うためでした。建物の中央は、ペディメント(破風)や柱形アーチは古代ローマの凱旋門を参照した形式で、そのペディメントの内側には、古代ギリシアやローマの神々ではなく、工芸の神・毘首羯磨、技芸の神・伎芸天といった仏教の神々が彫られています。幅約85メートルの朱雀大路を平安京の中心に通したように、左右均整のとれた正門や建物の権威的な外観は、過去、現在、未来への普遍性を表現し、歴々と連なる日本を、近代的・西洋的な研究手法で再編する現場であることを象徴しているようです。
一方、辰野金吾設計、1906年竣工の旧日本銀行京都支店(現京都文化博物館別館)は、独特の軽やかさが印象的な建物です。江戸時代には東海道の起点として栄え、京都で最も往来が盛んであった三条通が、明治維新後の衰退を乗り越え、銀行や郵便局等の諸施設が洋風建築で建てられはじめたため、道路拡張せぬまま歩行を中心としたストリートとして残り、その独特のデフォルメやアレンジが施された浮遊感ある外観が際立っています。
また、1909年完成の京都府立図書館。桓武天皇を祀る平安神宮の権威に寄り添うように、書籍を収容する権威性よりも、それを使う人間の佇まいを感じさせる建物となっています。煉瓦の下段には花崗岩が貼り巡らされ、しっかりとした基礎の上にある安心感を与えつつ、屋根という実用的な部位で住まいらしさが強調されているとともに、柱や梁、アーチといった各部位の重みではなく、壁面のデザインが要となっています。1925年に立てられた旧京都大学本館(現百周年時計台記念館)も同じ武田五一の設計です。
1926年完成の東華菜館も親しみやすい味わいがあり、大丸ヴィラ(大丸百貨店の社主を務めた下村氏の自邸)とともに、ウイリアム・メレル・ヴォーリス建築事務所の設計です。
コンペにより選ばれた前川國男設計、1960年竣工の京都会館(ロームシアター京都)。打放しコンクリートの大庇と伽藍のような統合が特徴です。現在は、50年間総額52億5,000万円の命名権、蔦屋書店等の民間活力によりスマートな賑わいを見せています。
京都中央郵便局の跡地に産業・文化・観光の一大センターを確立しようという京都財界の機運の高まりの中で、1959年に株式会社京都産業観光センター(現京都タワー株式会社)が設立され、様々な批判や反対運動もありながらも、1964年に完成した京都タワー。山田守による抽象化されたデザインにより、都市で遠望した際にすぐにそれと認知できる独創的なシンボルとなっています。
1966年開館の国立京都国際会館。質の高い公開コンペにより最優秀に選ばれた大谷幸夫が設計者となって、台形や逆台形により合掌造りの集落や神社を連想させる外観や、インフォーマルなコミュニケーションを促進する溜まりとなる場が巧みに配された空間などが見事です。
1997年完成の京都駅ビル。東京の新国立劇場では日本初の国際コンペが行われ、関西国際空港旅客ターミナルビルでは初めて審査員に外国人が加わるなど、国際化の流れに従って国際指名コンペが行われました。建築家や哲学者の梅原猛も加わった審査委員会により、「歴史への門」という設計思想を掲げた原広司の案が採用されました。

文化芸能のまち

平安時代、国家運営の基本は唐を手本とした法体系「律令」で、全て漢文で書かれていました。その律令制度を支える官僚の中に、平安朝始まって以来の秀才と謳われ、40歳頃には官僚養成機関の長を務めた菅原道真がいました。海賊対策に伴う財政危機に対し、遣唐使を廃止するとともに、地方有力者の土地所有を認め課税するなどの改革を断行しました。その姿勢が律令制度の転換を図るように見られ、結果として都を追われることとなりました。一方、実質的に道真と同様の改革を進めたのが、藤原氏御曹司で(故に官僚登用試験を免除され)和歌の腕前抜群の藤原時平でした。唐を絶対視する官僚の意識を変えるため、考案されて間もない、日本独自の文字「ひらがな」でした。そこで紀貫之ら歌人を集め、ひらがなを用いた「古今和歌集」を編纂させたのです。それにより例えば「枕草子」(清少納言)、「源氏物語」(紫式部)も生まれました。源氏物語は男女の愛憎、権力への執着と衰退などの普遍的なテーマを、直接描写ではなく800首弱の和歌で婉曲に表現しています。日本古来の音を表すひらがな故に、心情を素直に表現できる、掛け言葉など独自の工夫ができるなど、ひらがなの多くの効用を見出しただけでなく、官僚の意識改革、財政の立て直しにも成功しました。言葉の改革が、寝殿造りや十二単など、建築や着物、その他国風文化の開花につながっていきました。

  • 京都の歌道は、905年に紀貫之らが醍醐天皇に奏上した日本最初の勅撰和歌集「古今和歌集」に始まります。同時代には小野小町がいます。鎌倉時代には、晩年に「小倉百人一首」を手掛けた藤原定家から、二条家、京極家、そして冷泉家に分かれ中世の歌壇を導いていきました。明治以降では短歌の与謝野鉄幹・晶子が著名です。
  • 華道は、仏前に花を供える「供華」に始まり、平安時代には貴族の遊びの一つとして、栽培した花の優劣を競う花合せ、室町時代には武家や貴族の床や書院においた瓶花の観賞が普及しました。そして、法会などの催しに花を立てることが盛んになり、「立花」の名手として六角堂頂法寺の池坊専慶住職が名を挙げました。
  • 茶道については、臨済禅とともに茶種と喫茶法が伝わって以来、喫茶の本格的な普及と京都の栂尾と宇治など各地での茶栽培が始まりました。やがて、村田珠光が禅の精神を採り入れて創始した「草庵の茶」を受け継ぐ千利休により茶の湯が大成されました。やがて利休の孫・千宗旦は三男、四男、二男に表千家、裏千家、武者小路千家をそれぞれ興させて、三千家を確立しました。なお、抹茶を用いる茶の湯に対し、茶葉を湯で煎じて飲む煎茶道も江戸時代後期に成立しました。
  • は、奈良時代に唐からもたらされた散楽(平安時代以降は猿楽)から発達したもので、奈良の興福寺に奉仕していた観阿弥・世阿弥父子が室町幕府将軍の愛護で京都に進出。世阿弥が幽玄優美な能を完成させました。また狂言は、能の合間に演じる芸能として発達しました。
  • 歌舞伎は、異様な振る舞いや風俗を指す「傾く」が語源で、江戸初期、出雲の阿国が京都で始めた「かぶき踊り」がその始めとされます。やがて風俗取締りを理由に幕府から禁止され、成年男子の役者による野郎歌舞伎が生まれ、後に幕府の許可を得て京都・大坂・江戸には常設芝居小屋(南座など)が設置されました。
  • 京舞井上流は、江戸後期に始まる京都の座敷舞の流派で、明治5年の京都博覧会において、祇園町の芸妓・舞妓による「都をどり」の振付を行い成功させました。(五花街:祇園甲部、祇園東、宮川町、先斗町、上七軒)

文化財

文化財にも様々な種類(外部リンク)があります。

  • 有形文化財:国宝、重要文化財など
  • 無形文化財:重要無形文化財など
  • 民俗文化財:重要有形民俗文化財、重要無形民俗文化財など
  • 記念物:特別史跡・史跡、特別名勝・名勝、特別天然記念物・天然記念物など
  • 文化的景観:重要文化的景観
  • 伝統的建造物群:重要伝統的建造物群保存地区、伝統的建造物群保存地区
  • 埋蔵文化財

なお、無形文化財のうち芸能、工芸技術等登録制度の概要は次のとおりです。

  • 趣旨:社会の変化に対応した文化財保護の制度整備の一環として、幅広く文化財の裾野帆を広げて保存・活用を図るため、無形文化財の登録制度を新設(文化財保護法の一部を改正する法律(R3.4.23公布、R3.6.14施行))
  • 登録対象:無形文化財(演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの)のうち、重要無形文化財に指定されないもので、文化財としての価値に鑑み保存及び活用のための措置が特に必要とされるもの(先行事例:書道、伝統的酒づくり)
  • 登録内容:無形文化財(保持者(登録される生活文化を体得し、かつ、これに精通している者)又は保持団体(保持者が主たる構成員となっている団体)を認定)
  • 登録効果:保持者の指名変更等の届出義務、保存・公開に要する経費の補助・助言指導、保存活用計画(具体的措置内容・期間等/保持者・保持団体・地方公共団体等が作成)を作成し認定申請が可能
  • 登録方法:(1)地方公共団体が文化的価値を調査、(2)次のいずれかの方法で国による「登録」について文化庁に提案・相談(地方公共団体での「登録」を経る、市町村による保存活用地域計画の策定を経る、これらの過程を経ない、(3)文化庁において登録候補を選定

施策

人材育成・ビジネス化

(その他参考:2025年度京都府当初予算)

  • 「文化庁連携プラットフォーム(文化庁・府・市・商工会議所等)」運営
  • 「全国高校生伝統文化フェスティバル」開催
  • 「日本料理コンペティション」開催
  • 「Music Fusion Kyoto国際音楽祭(仮称)」プレコンサート開催
文化財
観光

(その他参考:2025年度京都府当初予算)

  • 文化観光の推進、「川の京都」「食の京都(食の京都TABLE)」の推進

 

伝統産業の集積 Traditional industries 

  • 古民家バトンタッチ応援事業

    コロナが席巻をはじめた2020年。リモートワークやワーケーションが流行り出したため、「これはローカルのチャンス!」と思い、趣のある古民家を扱う不動産業者様を訪ねました。話をうかがうと、「いち不動産屋では、信用力が乏しく、なかなか古民家物件が集まらない」という課題があることが判明。ならばと、京都府も一緒に取り組むことしたところ、年間50件を超える物件が集まり、さらに海外からの引き合いも多数に及ぶまでに至っています。

 

伝統産業こそ牽引産業

ラグジュアリー・ブランドの創設

伝統産業は、京都のブランド価値の基礎であり、京都の「牽引産業」と言えます。文化をはじめ「芸」と「遊」の蓄積、、アニメ・ゲームなどのメディア・コンテンツが京都の強みと言われます。

  • 「芸」とは、伝統工芸品や伝統衣装の制作技術と伝統芸能であり、歌って踊れる人です。
  • 「遊」とは、季節ごとの祭や行事の切り替わりがあることであり、遊びを作る文化です。

例えば、世界的ブランドであるルイ・ヴィトンも日本の伝統産業に大きく影響を受けています。創業者ルイは、若くしてフランスの田舎からパリに単身移り住み、荷造り用の木箱職人の下で働き始めました。やがて、鉄道時代において、その高い技術が貴婦人のドレスをしまう木箱として人気を博しました。1854年に世界初の旅行用トランクの店を開き、軽くて運びやすいとセレブに大好評となりましたが、コピー商品への対応に苦慮しました。当時、フランス等では浮世絵などのジャポニズムが流行しており、ゴッホなどと同様に大きな影響を受け、市松模様(ダミエ)や家紋(モノグラム)をモチーフにしたデザインを巧みに配置し、コピー商品への対策とするとともに、1889年のパリ万博で金賞を受賞し、「性能」(防水機能が高くタイタニック沈没の際にお浮き輪替わりとなりました)と「デザイン性」に加えて「ブランド価値」への評価をさらに高めていきました。1954年の創業100周年を機に、移動手段の高速化に伴い、持ち運びやすいソフトバックをも手掛けるようになりました。1987年にはモエ・ヘネシー傘下に入り現在も成長を続けているのです。

  • 日本と欧州の交流の中で、西洋諸国に認められた最初の日本美術は、磁器でした。もともと中国で開発されたものであり、ヨーロッパ各地の王族や貴族がこれを購入していましたが、明朝が滅んで輸出が停止してしまい、代わりに輸出し始めたのが、17世紀の半ばの日本でした。
  • また漆器は「ジャパン」と呼ばれ、17世紀後半には日本の代名詞となった時期もありました。キリスト教の宣教師たちの影響を受けて南蛮漆器を生み出し、教会の祭具から日常の生活品にいたるまで広く重用されたのです。
  • 一方、「冨獄三十六景(葛飾北斎)」「東海道五十三次(安藤広重)」などの浮世絵がフランスで注目されるようになったきっかけは、日本から送られた陶器の包みの詰め物に使われた『北斎漫画』でありました。

しかし、日本にはラグジュアリー・ブランドがありません。

  • プレミアム:現実、説明のつく価格、比較可能、品質
  • ラグジュアリー:夢、プライスレス、比較不能、意味

実は、現代のラグジュアリー・ブランドは、「古い歴史」の上に成り立っているということではなく、経営のパラダイムシフトに基づいた「新しい産業」なのです。例えば、アウディは1994年に最高級セダン「A8」を発売し、メルセデス・ベンツ、BMWに独占されていたドイツの高級車市場に参入を果たしました。その背景には、革新的な製品、高級所得者という新しいターゲット、特別な販売網による顧客サービスの採用だけでなく、世界最大級の自動車メーカーであるフォルクス・ワーゲン・グループへの統合がありました。ラグジュアリー・ブランドに必要なことは、次のとおりです。

  • 創造性・専門性:製品開発において顧客の要望を考慮しないこと。生産から販売までの垂直統合のほか、ファッション・ショーをアート・ショーに転換するなど創造的で芸術的な活動に変革したり、スター・デザイナーと連携したりすることも重要です。
  • 地域性:生産拠点を海外に移さないこと。「歴史(伝統的ノウハウ)」も重要ですが、より重要なのは「地域性」です。かつて世界の覇権国として、経済的・社会的・文化的に先進地域という価値観を伝播っせてきたヨーロッパが支配的地位を占めています。グローバル・ブランドとされるラグジュアリー企業のうち、ティファニー以外の、ルイ・ヴィトン、シャネル、エルメス、グッチ、ロレアル、カルティエ、ディオール、ヘネシー、ティファニー、バーバリー、プラダは全てヨーロッパの企業です。
  • ヘリテージ性(神話性)広報活動において売るためではなくメッセージを伝えること。華やかなストーリーで消費者を魅了しなければならないのに、日本企業は歴史や技術を語るばかりで、神話を創造していないと言われています。進出市場のセレブリティとの連携も重要です。
  • 収益性:生産活動において生産コストを考慮しないこと、価格を引き上げること。日本の伝統的な高級品が、技術革新や製品の物質的特異性にこだわるあまり、「民族的」なものと捉えられているのに対し、現代のラグジュアリー・ブランドの最大の特徴は、1987年のLVMHの誕生に象徴されるように、1980年代から1990年代にかけて、大資本と結びつきグローバル・ブランドに転換し、並外れた成長を遂げていることです(日本はその成長の重要な市場となりました)。原材料の共同確保やブランド間のシナジー・コラボレーションを実現できますし、資本力を活かした高級モールへの進出等によりブランド・イメージをコントロールしつつ、収益性と評判を高めるために「ラグジュアリーの民主化(中間層への販売拡大)」など進出市場の特異性に応じた特別な商品開発も重要です。

ちなみに各ブランドは様々な工夫を凝らしてその歴史を重ねています。

  • 現在のルイ・ヴィトンのターゲットは「中間所得層」であり、商品は「性能」「デザイン性」ではなく「優越感」なのです。
    --製造コストが高い:最高の製品づくりのため、人件費の高いフランス・東欧を中心とした自社工房・自社職人によるハンドメイド
    --ブランドイメージをコントロール:有料広告ではなくパブリシティ(ニュース)を活用
    --流通量を意図的に制限:希少価値を保つため、販売は直営店限定とし、目標数以上には流通させない。
    --セールをしない:価値が下がらない「資産」とするため、一度も安売りやアウトレットに流通させたことがありません。
  • グッチは、馬具や鞄製造から始まり、世界で初めてデザイナーの名入り商品を作り出しました。
  • エルメスは、鞍が1878年のパリ万博で金賞受賞、時代の変化に応じた鞍から鞄に鞍替えといった歴史を歩み、シリアルナンバーで作った職人と調整できる仕組みを提供しています。
  • シャネルは、当時の女性の重厚なファッションを改革し、シンプルな帽子やパンツスタイルの考案、「仕立て師」としてデザインから製造までワンストップでの対応、200種類の原料からなる香水をはじめとするコスメへの拡充など「女性のスタイル」づくりの道を歩んできました。

国内の事例を探ってみると、次のとおりです。

  • 今治タオル:年間生産量1万1,000トン、国産タオルのシェア5割(ちなみに欧州は、生産は国外に外注しており、市場はデザインとオーガニックが必須)
    --風合いを引き出す先染に転換:1894年から連綿と続く中、1910年代にジャガード織機を導入して後染めから先染めに転換することで、自在に生地の質感を追求(ふんわり柔らかく)
    --OEM依存から自社製品開発への挑戦:1990年代以降の安い中国製品の参入に対し、OEM依存から自社製品開発に挑戦し企画力を磨く。
    -- JAPANブランドで世界の舞台を意識:経産省から市役所に出向してきた職員の助言でJAPANブランドに挑戦。世界の見本市の中で競合の少ない小さなものから参画し、逆に欧州の優れた綿糸の入手に繋がる。有名デザイナーとのコラボによるタオル・パジャマの開発、ブランド力のあるエリアへの出店などを経て、ラグジュアリーホテルで採用)
  • 星野リゾート:軽井沢の旅館から、全国で様々な旅館やブランドを展開(ちなみに旅館業においても、建物所有を投資家にゆだね、運営に特化するという潮流が起こっています)
    --ライバルの動向こそ重要:「コスト競争力」「差別化」「領域集中」という競争戦略の定石を踏まえ、ある旅館では、団体客向け(広い宴会場などが必要)と個人客向け(一人ひとりにきめ細かい対応が必要)の二兎を追うのではなく、個人向け高級化に絞り込み(分業化・共通化を進める外資系ホテルは、部屋数の少ない日本の旅館には参入しない)
    --フォロワー戦略からニッチャー戦略へ:「リーダー(トップシェア)」「チャレンジャー(リーダーを攻撃)」「フォロワー(リーダーに追従)」「ニッチャー(ニッチトップ)」という競争地位別戦略の定石を踏まえ、トマムをファミリー層(25%の現役スキーヤーではなく60%の昔のスキーヤー)向けに絞ってサービスを展開
    --成熟市場でのコモディティ化対策としてのアクセス向上:グループ全体で予約コールセンターの設置や予約ホームページの利便性向上
    --製品だけでなくサービスにも保証導入:カレーがおいしくなければ返金する制度や、スキー・スノボスクールで上達しなければ返金する制度を導入
    --知覚品質は人材育成とITで対応:生産と消費が同時に行われるサービス業において、「認知(知られているか)」「知覚品質(顧客がどう感じるか)」「連想(ブランドを思い浮かべるか)」「ロイヤルティ(リピーターになるか)」の中で難しい「知覚品質」の向上のために、スタッフの対応力(リッツ・カールトンはスタッフ1人1日2000ドルまで使うことができる)と顧客一人ひとりの情報データ化(CRM)で対応

 

西陣織【1繊維】

「高級帯」で有名な「西陣織」は、先に染めた糸を織る先染めです。帰化人の豪族・秦氏の織技術によって、平安時代から絹織物業が盛んであり、応仁の乱(1467年~1477年)の西軍大将・山名宗全が陣を張ったことが西陣の地名と西陣織の名称の由来となりました。織物ができるまでの工程は様々なものがあり、絹織物一反約680gを作るのに、蚕約2,700匹、生繭約4.9kg、生糸約900gが必要です。

 

(1)養蚕(カイコ)は、約25日間エサを食べ、途中脱皮を繰り返しながら成長して体内に液状のシルクを蓄えた後、成虫(ガ)になる前のサナギの期間を安全に過ごすため自分の身体を包むように糸を吐いて生繭を作ります。

 

(2)製糸・精錬

  • 乾燥生繭からサナギにならないように殺すとともに、腐敗しないように乾燥させます。
  • 選別・合併:不良繭を選除とともに、品質の均一化を図ります。
  • 煮繭:煮ることで、(煮た繭)から(繭糸。けんし)を取り出しやすくします。
  • 索諸・抄緒:繭の表面をこすって糸口を引き出します。
  • 繰糸(そうし):から取り出した繭糸複数本をまとめた生糸(きいと)にします。
  • 精錬繭糸は、フェブロイン(2本セットの光沢のある繊維)と、その周囲のセリシン(糊のようなもの)からなり、セリシンを除去します。

 

(3)撚糸。様々なタイプの撚糸機で行われますが、多品種・少量生産で付加価値の高い西陣織で最も多く用いられているのは、リング式撚糸機です。金銀紙も、撚糸工程で糸に撚られます。なお、糸には、その構成繊維の長短での分類があります。

  • スパン糸:短い繊維を紡いで束ねたもの。ふわっとした風合い。綿、麻、毛、絹紡糸(けんぼうし。長い絹を短くして撚り合せたもの)
  • フィラメント糸:長い繊維を束ねたもの。光が分散しないため美しい光沢がある。

また、構成繊維の束ね方の違いでの分類もあります。

  • 単糸:「美しさ」を求めた無撚(束ねただけ)
  • 諸糸:「丈夫さ」を求めて2本(双糸)、3本などの繊維を撚り合わせたもの
  • インターレース糸:「美しさ」と「丈夫さ」の両立を求めてフィラメント糸を無撚のまま、ときどき絡ませて束ねたもの

そして、撚り方にも分類があり、その方向性の違いによる分類としては、次のとおりです。

  • S撚り:「S」の形に撚ったもの
  • Z撚り:「Z」の形に撚ったもの(多くのDNAやボルト)

また、複数の束どうしを撚る際の分類としては、次のとおりです。

  • 片撚り:もともと無撚の束どうしを撚ったもの
  • 諸撚り:もともと撚ってある束(下撚り)どうしを、さらに撚ったもの(上撚り)

 

(4)糸染め

  • 綛上げ:撚糸が終ってボビンに巻かれた糸を、綛(直径40cmほどのドーナツ状)に巻き取ります。
  • 染色手染めでは、染料を溶かした湯の中に、数束の糸を竹に通して浸します。機械染めの場合でも、見本に合わせた染料の調合は職人の勘頼りです。正確に同じ色を再現することや、色落ちしないようにするための技術が求められます。
  • 糸繰り:染色の終わった糸を、綛からボビンに巻いた状態に戻します。

 

(5)機織です。織物を作る際の糸の分類があります。なお、経糸・緯糸の密度について、生産性を考えれば、杼を通して通す回数を少なくできる「経糸が密、緯糸が疎」というパターンが適していると言えます。

  • 経糸(経度の経):予め織機にセットしておく糸(織り終わりまで力が掛かるため、丈夫な「諸糸」が適している)で「構造」を担う。
  • 緯糸(緯度の緯):予めセットしてある経糸に杼を用いて通す糸(力が掛かるのはその一瞬であるため、丈夫さより美しさのある「単糸」が使われることが多い)で「見た目」を担う。

機織の工程の1つ目は、企画・製紋工程です。最近では、紋意匠図、紋彫、紋編のコンピュータ・グラフィックスで対応されることが増えています。

  • 図案図案家がイメージに基づいて、図柄、配色など、織り上がり結果を想定して描きます。
  • 紋意匠図:図案から意匠紙と呼ばれる一種の方眼紙に写し取り、経糸で表すところと緯糸で表すところの枡目を丹念に絵の具で塗り分けていきます。
  • 紋彫(もんほり):紋紙に、中央部に経糸を上げ下げする情報、左端に緯糸の走らせ方・交換を指示する情報、右端・中央・左端の3カ所に織物組織を指示する情報を彫り込んでいきます(ワンパンチ・マシーンという機械を用いることもあります)。紋紙は、杼を1回走らせるごとに1枚使われ、緯糸1本ごとの色を指定し、経糸の情報を織り込んでいくため、簡単な図柄の織物でも1,000枚、複雑な図柄や意匠の織物では数万枚もの紋紙が必要とされています。
  • 紋編(もんあみ):紋紙を鎧状に連結させます。連結された紋紙は、織機のジャカードにセットされます。

2つ目は、糸の準備工程です。

  • 整経経糸の本数分のボビンから、「おまき」に巻き取ります。そうして、経糸を織機に入れる状態に揃えます(つまり緯糸を入れる前の状態にします)。
  • 撚り付け:織機にセットされたおまきを、新しいものに交換する際、新旧すべての糸同士を結び付けます。昔は手で一本ずつ繋いでいましたが、いまは機械式のタイイングマシンを使います。
  • 緯巻(ぬきまき):一方、緯糸を使って織られていきますが、杼に管を巻いてはめ込むものです。
  • (かすり):表現する文様に応じて糸に部分的防染処理を施すことがあります(絣糸)。

3つ目は、機械の準備工程です。

  • ジャカード:織機の一番上にある部分で、紋紙に開けられた穴の指示を読み取る装置で、この主要部は竪針と横針で成り立っており、横針で読んだ紋紙の指示を竪針に伝え、この竪針によって経糸を上下させます(製紋工程でコンピュータ・グラフィックスで対応された場合は、フロッピーディスクやSDカードでの対応です)。
  • 綜絖(そうこう):緯糸が通る杼道をあけるため、ジャカードの指令に基づいて、経糸を引き上げる装置の準備をします。
  • 筬通し:筬(おさ)と呼ばれる櫛状の細い羽が最後に経糸を通すところで、経糸を織る手前で整理分割してその並び方を一定にする役割と、緯糸を手前へ打ち込む役割をは担っています。筬は経糸の数に合わせて選ばれ、この羽の間隔がそのまま織物の経糸の間隔になります。
  • 緯糸を通していく機構です。

4つ目は、製織(はたおり)工程です。なお、図案データと糸等を受け取って織り上げる協力機場のことを「出機」と言います。

  • 手機(てばた):ジャカードを用いながら人力で織るものです。緯糸が微妙に曲線を描くなど素朴で味わいある帯を作ることができます。
  • 力織機(りきしょっき):ジャカードを用いながら機械動力式で織るものです。数千本の経糸と多種類の色の緯糸を組み合わせた艶やかな帯を作ることができます。
  • 綴機(つづればた):ジャカードの作用によらず、独特の爪掻きで文様を表現していく織り方です。

5つ目は、整理加工工程です。織り上がった生地を織機から下ろした状態「生機(きばた)」に、洗浄、シワ伸ばし、幅の調整などの仕上げをします。

そして出来上がったには、国指定12品種(外部リンク)があります。

  • (つづれ):綴機により、経糸に比べ3倍から5倍も密度の大きい緯糸で紋様を織り出すため、織物の表面には経糸は見えません。
  • 経錦(たてにしき):経糸によって文様が織り出されている(種々の彩糸を駆使して紋様を織り出した織物の総称で、例えば3色の配色による織物であれば3色3本の経糸を1組として、これが互に表裏浮沈交替して地や文様を織り出しています)です。
  • 緯錦(ぬきにしき):緯糸によって文様が織り出されているです。
  • 緞子(どんす):経糸と緯糸との組織点(交差点)をなるべく少なくして、しかもその組織点を連続しないように分散させ、織物の表面に経糸、あるいは緯糸を浮かせた(地上げ紋)織物です。
  • 朱珍(しゅちん):緞子との違いは、地上げ紋がないことです。
  • 紹巴(しょうは):経緯ともに強撚糸を用い、細かい横の杉綾状又は山形状の地紋をもっています。
  • 風通(ふうつう):経糸を二重、三重にして、二枚・三枚の織物にします。二重、三重の経糸を色の違いの大きなものにすることで、強いコントラストを表現できます。
  • 綟り織(もじりおり):織物の経糸は互いに平行し、緯糸はこれと直角に交差して布を形成するのが普通ですが、綟り織物は綟り経糸が緯糸1本または数本ごとに地経糸の左右にその位置を変えて組織し、緯糸と緯糸との間に隙間を作ります。
  • 本しぼ織(ほんしぼおり):経糸は甘撚り緯糸は下撚りをかけ糊を施し乾かないうちに強撚りをかけたもの。
  • ビロード横に針金を織り込み、後で針金の通った一部の経糸を切って起毛したり、引き抜いて輪奈を作るものです。
  • 絣織(かすりおり):経糸と緯糸を部分的に防染して平組織に織り上げて何らかの紋様を表したものです。
  • (つむぎ):生糸ではなく手で紡いだ絹糸(綿の生産が始まるまでは「真綿」と言われた)で織ったものです。

京の神祇装束調度品【1繊維】

古来より、神具は祭具や祭器具とも呼ばれ、神殿や三方などの木具類、鏡類、御簾、几帳、旗、幕、雅楽器などがあり、装束として、衣冠、狩衣、あるいは、その付属品として、冠、烏帽子などがあります。そのほとんどが西陣の錦綾や金襴などが使われています。

装束については、神職(神主)は狩衣、浄衣を通常着用しますが、祭祀や祭礼では束帯、衣冠を着けるのがならわしです。これらは、室町時代以前より西陣で織り続けられてきましたが、このうち、山科家は宮中の装束を、そして高倉家は将軍家や諸大名の装束を、それぞれ西陣の御寮織物司に命じて作らせていました。

京友禅・京小紋【1繊維】

「高級着物」で有名な「京友禅」は、白生地を後から染める後染めです。江戸時代に京都で宮崎友禅斎が確立しました。「手描友禅」の工程は次のとおりです。

  • 企画考案
  • ゆのし(蒸気で白生地を伸ばす)、検尺・墨打(白生地の長さを図り墨で印をつける)、下絵羽 (白生地を着物の形に縫い上げる)
  • 下絵(白生地にを描く)、糊置き(仮絵羽をほどき、下絵の線に沿って糊を置く)、伏糊(以外の模様の箇所が、次の引染で染まらないように、糊を置いてその上に挽粉をふりかける)、引染(染料を刷毛でムラの出ないように染める)、蒸し(色を定着させるために約100度の蒸気で20~50分間蒸す)、水元(水洗いして糊や挽粉を落とす)、挿友禅(色々な筆と刷毛を駆使して模様のところに色を挿す。薄い色から濃い色へ進めていく。その後は蒸し、水元を繰り返す)、金彩(金・銀の箔や粉を使い、豪華な雰囲気を作る。多様な技法(外部リンク)あり)、刺繍
  • 上絵羽(染まった生地を着物の形に縫い上げる)

明治時代には手描友禅の名匠であった広瀬治助によって、型紙を用いて版画のように色を乗せていく「型友禅」(型紙又は写真型(シルクスクリーン)を用いる)も生れました。また、平安時代から鎧の胴の皮を染めたり、武士の裃を染めたりしてきた、型友禅と同じ技法の「京小紋」がありました。そのため、現在では「京小紋」を「型友禅」の一つに分類する場合もあります

なお、着色剤の種類は次のとおりです。

  • 染料溶剤に溶け、複数の色を混ぜ合わせることで比較的容易に新たな色を作ることができます。反面、光に長い時間当たると褪せてしまう色が多くあります。インクのほか繊維を染めるために用いられます。
  • 顔料溶剤に溶けず、溶剤の中で均一に混ざった状態です。染料に比べて耐光性や耐水性に優れています。塗料や化粧品等で用いられます。

ちなみに、溶剤の種類は次のとおりです。

  • 油性:主に揮発性有機溶剤。水性に比べて、乾きが早く、固着性が強いですが、対象物を溶かす場合があります
  • 水性:主に。油性に比べて固着性は弱いですが、にじみや裏うつりが少なく、対象物を溶かしにくく、臭いが少ない性質があります。

京黒紋付染め【1繊維】

婚礼のときに着る黒留袖や、葬儀のときに着る喪服などを黒色に染める伝統技術をいいます。黒染技法には、引染・浸染の2種類があり、黒留袖など模様のある場合は引染で染色し、喪服など無地の場合は浸染で染めます。

京鹿の子絞【1繊維】

絞り染めは、糸をもって布地を強く括ることによって、染色されない部分をつくり出す、また強く括ることによって布地の絞り独特の「粒」や「しわ」をつくり立体感がつくられるもので、染色方法は浸染によります。世界各地でみられ、その発祥は、インドとされています。7世紀頃には、絞り染めの技術が日本に伝わっており、日本書紀の記載が絞り染めの最古の記録です。その制作工程(外部リンク)は次のとりです。

  • 構図・デザイン:製造問屋と絵師によって、構図・デザインが決められます。絵師は構図通りに着丈・身ごろにデザインがのるように下絵を描きます。
  • 下絵型彫(したえかたほり):型紙に小さい円または細い線を彫り、型をあけていきます。
  • 下絵刷込(したえすりこみ):型紙を使って、布地に刷毛で下絵を刷込みします。この下絵は型紙の穴や線でどのような技法を用いて括るかが判る仕組みになっており、加工技術の指図をするものです(型紙を使わず手描きする場合もあります)。
  • 絞括(しぼりくくり):指先と絹糸だけを使って括る技法で、絞り目を一粒ずつ絹糸で3~7回括り、小さな絞り模様の集合として一反の模様を構成します。絞り技法は約50種類以上にのぼり、それぞれの技法毎に専門の技術職人がおり、絞括加工に携わります。
  • 漂白:布地に刷込んだ下絵の汚れを漂白します。
  • 染め分け:染色方法が浸染のため、染める色の数だけ“染め分け”を行います。防染方法には、大別して「桶絞」と「帽子絞り」があります。桶絞(おけしぼり)専用の木桶の内側に防染部分を入れ木桶を密封し、染色する部分だけを桶の縁に出し、そのままの状態で染液の中に浸ける技法です。帽子絞(うししぼり)防染部分を竹の皮(年はビニール)で覆い、更に糸を強く巻きつけて防染力を高め、染色する技法です。
  • 染色:1回の染色で1色しか染められないため、複数の色で染める場合は、色数分だけ繰り返し行います。
  • ゆのし仕上げ染色:蒸気を当て、手作業によって不要なしわを取りのぞき、幅出し(はばだし)を行います。絞りの風合いを生かした仕上げをします。

丹後ちりめん【1繊維】

こうした染めの生地の1つに縮緬があります。1720、丹後峰山町に住む絹屋佐平治(後に森田治郎兵衛と改名)が京都西陣の機屋に奉公人として入り、織物技法・糸口の仕掛け・シボの出し方などを研究し、この秘法を丹後に持ち帰り、ちりめんの製織を始め、礎を築きました。

  • 平織:経糸と緯糸を上下に交差させ凹凸がない。
  • 羽二重(はぶたえ):経糸を細い2本で織ることで柔らかい生地となる。
  • 縮緬(ちりめん):経糸は無撚糸、緯糸は撚糸2本で織ることでシボ(凹凸)を立たせる。

丹後ちりめんが国内の主要絹織物産地生産量に占める割合は6割を超えますが、その生産量や生産基盤は大きく落ち込んでいます。そのため、機料品の調達困難(機料品メーカー等の廃業)、従事者の高齢化(令和4年時点で60歳以上が82%)などの問題が発生しています。

  • 生産量:ピーク時の1.6%(昭和48年9,196,894反、令和5年147,194反)
  • 事業所数:ピーク時の5.27%(昭和60年10,054軒、令和4年530軒)
  • 織機台数:ピーク時の4.08%(昭和61年46,624台、令和4年1,900台)
  • 従事者数:ピーク時の5.31%(昭和48年23,374人、令和4年1,240人)

こうした中、洋装や建材・インテリア市場参入に向けた新商品開発・販路開拓に取り組む企業が増加しています。

  • CIR(Creator In Residence)事業:イタリアファブリックブランド「C&C Milano」やミラノ工科大学と連携し、丹後への訪問による意見交換、「撚糸技術」を可視化した縮緬の試作を実施中
  • 海外デザイン関係者とのオンラインワークショップの開催、

織物・機械金属振興センターにおいても、織機の代替部品開発や風合い自動計測システムの導入のほか、新技術・応用技術開発を支援しています。

丹後藤布【1繊維】

山に自生する藤蔓の皮をはいで糸を作り織り上げた布で、万葉集の中にも「大君の塩焼く海人の藤衣」と藤布が使われたことが詠まれています。その制作工程(外部リンク)は次のとりです。

  • フジキリ(藤伐り):ワタフジ(ノダフジ)とシナフジ(ヤマフジ)の2種類があり、最適な時期は、4月から5月頃ですが、9月頃まで伐ることができます。
  • フジヘギ(藤剥ぎ):乾かないうちにツチ(木槌)でたたき、皮から芯をはぎとります。皮からオニガワ(鬼皮・表皮)を取り去った、アラソ(中皮)を藤織りの繊維材料として使います。
  • アクダキ(灰汁炊き):アラソを木灰のアクで炊いて、アラソに含まれる不純物を溶かします。
  • フジコキ(藤扱き):炊きあがったアラソを川の流れのなかで、灰の汚れや不純物をコウバシを使って洗い流します。
  • ノシイレ(のし入れ):平鍋にコメヌカ(米糠)を溶かした湯に浸し、絞って干します。
  • フジウミ(藤績み):指で撚り合わせながら繊維の端をつないでいき、糸にします。
  • ヨリカケ(撚り掛け):イトグルマ(糸車)で全体に撚りを掛けて糸を強くします。
  • ワクドリ(枠取り):糸をイトワク(糸枠)に巻き取っていきます。
  • ヘバタ(整経):指で撚り合わせながら繊維の端をつないでいき、糸にします。
  • タニオワセル(機上げ):経糸を織機にとりつけます。
  • ハタオリ(機織り):織って布にします。

京繍【1繊維】

一本の針と多色の糸(絹糸、金銀糸)を使って布地などに模様を縫い表す装飾技法で、染めたきものや織物に刺繍が加わって、一層華やかさが増すのです。飛鳥時代からと推定され、平安建都に伴い、繍技の職人をかかえる縫部司が京都に置かれました。約30種類の技法のうち、伝統的工芸品として指定されているのは繍切り、駒使い繍、まつい繍など15種類あります。制作工程(外部リンク)も多様です。

京くみひも京房ひも・撚ひも【1繊維】

くみひもは、平安時代より神具・仏具、武士の鎧兜(よろいかぶと)、刀の下げ緒など装身具や調度品に広く使われてきました。現代では、社寺・服飾・帯締・鎧兜・刀の下緒などさまざまな箇所に使われ、用途に応じた組み方は3500種類にも及び、アクセサリーなどの新しいものもあります。その制作工程(外部リンク)は次のとりです。

  • 糸割り:必要となる絹糸を必要な分だけ仕訳ける作業です。糸を秤にかけ、作ろうとする紐の本数分を目方で分けていきます。ここで使用される糸は、生糸、玉糸、もしくはこれらと同等の材質を持つ絹糸、綿糸、金糸、銀糸とされています。
  • 染色:作ろうとするくみひものデザインにそって、色見本に忠実にムラなく染め上げていきます。専門の染め屋に外注に出されます。
  • 糸繰り:糸割り、染色したかせ糸を座繰(ざく)り、糸繰り機で小枠(こわく)に巻き取ります。
  • 経尺(へいじゃく):糸繰りされた糸をさらに経尺枠に巻きとっていきます。
  • 撚かけ:経尺で糸の長さと重さを合わせた糸は、八丁撚糸機というよりかけ車を使って撚りをかけます。
  • 組みあげ:各組台と製組機によって美しい組紐を組み上げていきます。組紐は、大きく分類すると、丸組紐、角組紐、平組紐の三種に分けられます。組台には、丸台、角台、綾竹台、高台の四種類が今日では一般的で、組台はそれぞれ特徴を持っているので、組紐の種類に応じて使い分けます。
  • 仕上げ:組み上げられた紐は、一本一本手作業で糸を解し、房目をしっかりと糸で結び、房は蒸気で湯のしされ、整えられていきます。最後に、転がし台で組目を整えます。

京房ひも・撚ひもは、平安時代に貴族たちが室内調度品や身の回りの小物などに華麗な房飾りを施し、雅やかな装身具として、鎌倉時代には、武士たちの武具甲冑(ぶぐかっちゅう)や刀の下げ緒に用いられました。また、茶道具の飾りとして茶道にも取り入れられるようになりました。江戸時代には、各宗本山が集まる京都で、仏具のくみひもや飾り房の専門店が数多く誕生しました。

 

京焼・清水焼【2石・土】

奈良時代に、僧行基が清閑寺に窯を築いて土器を製造しており、その遺跡が茶碗坂といわれています。やがて、丹波の陶工だった野々村仁清が、江戸時代初期御室に釜を築いて茶器を作り、錦手の秘法を会得します。そこから、粟田口、清水坂(「清水焼」)など京都市内各地に広がった「京焼」が生まれました。

  • 成形:手工法、ロクロ法、石膏型による型押し法、流し込み法など、製品によってそれぞれの技法があります。
  • 削ぎ:成形した生地は、数日間陰干しにした後、金属のへらで削り、より精密にかたちを整えていきます。
  • 素焼:乾燥後、素焼きをします。
  • 下絵付け:素焼に「呉須」と呼ばれる藍色の顔料などで絵付けを施します。
  • 釉がけ(施釉):素焼もしくは下絵付けを施したものにひとつずつ釉薬をかけます。釉薬には透明なものから、焼き上げ後にさまざまな色や質感が現れるものまで多くの種類があります。
  • 窯入れ(焼成):使用される釉薬や求める風合いによって温度と時間を細かく調整します。 また、金彩や銀彩を施す場合、絵付けと窯入れを何度も繰り返します。
    --焼き方の種類酸化焼成は、窯の中に酸素が十分にあり、完全燃焼させながら焼き上げる方法で、焼き上げた作品は黄色、または淡い茶色になります。還元焼成は、不完全燃焼の状態で焼き上げる方法で、淡い青色の作品へと仕上がります。
    --窯の種類薪窯は、プロの陶芸家が主に使用し、薪を燃やして火を起こします。 数日から数週間、窯と格闘することになりますが、自然釉の独特な味わいが作品に現れます。なお、「登窯」は、傾斜を利用する点では「穴窯」「大窯」と同じですが、連なった各部屋の熱を効率よく使えます。電気窯は、初心者でも安心して使用でき、家庭用の100Vコンセントでの使用も可能です。 音や臭いもなく、設置場所を選びませんが、コストが高めです。灯油窯は、最近は黒煙を抑える機能が付いており一般家庭でも導入でき、還元焼成が得意な窯で、炎の回りに均一性がないですが、趣のある作品に仕上がります。ガス窯には、プロパンガスと都市ガスの2タイプがあり、黒煙などが出にくいことから一般家庭でも導入でき、酸化焼成と還元焼成どちらの焼き方も可能であり、比較的に焼き上がりが均一になります。
  • 上絵付け:焼成して艶の出た表面に、さらに色釉で絵付けを施します。

なお、陶磁器の区分は次のとおりです。

  • 陶器:陶土とよばれる粘土(二酸化ケイ素など)を原材料として珪石や長石を混ぜこんで作ります。土の質感を残した素朴な風合いが特徴で叩くと鈍い音がします。低温(800~1300度)で焼き上げ、密度が小さく割れやすいため厚く仕上げます。
  • 磁器:原材料は珪石や長石で、細かく砕いて粘土に混ぜて使用します。陶器に比べると硬くて光を通し、表面が艶ややかで叩くと高い音がするのが特徴です。高温(1200~1400度)で焼き上げ、強く引き締まるので薄く仕上げられます。

出来上がった商品には、様々なもの(外部リンク)があります。

  • 染付:磁器の素地に青藍色の顔料を施した陶磁器。幾何学文様を表した「祥瑞」、自然の風景を描く「山水」など素朴さが魅力です。
  • 描詰:精細な文様が素地を埋め尽くすように描かれた陶磁器。鮮麗さが魅力です。
  • 色絵:白い釉薬を塗って焼成した後、さらに彩釉を用いて絵付けを施したもの。色彩に富み、四季の草花を描いたものなど、華やかさが魅力です。
  • 金彩色絵の中で金の絵付けが施されたもの。優美さが魅力です。
  • 赤絵色絵の中で赤色を主調とした彩色を施したもの。伝統的な絵柄が多く用いられています。
  • 金襴手:赤絵の上に、さらに金彩を施して焼き上げたもの。通常よりさらに窯を多く通ることとなり大変な手間を要しますが、豪華絢爛さが魅力です。
  • 交趾粘土を絞り出して文様を描いた素地の上に、鮮やかな色釉を盛るように厚くかけたもの。立体的で重厚さ、独特な手触りが魅力です。
  • 三島:細かい花などの文様を型押し、上から白色の土を象嵌した陶器。素朴ながらも、指先で感じる文様の凹凸が温かみを感じさせます。
  • 楽焼手とへらだけで作られた歪みと厚みのある素地に、釉薬を厚くかけて焼いた陶器。主に茶の湯の席に用いられ、無骨さが魅力です。
  • 鉄釉鉄分を含んだ釉薬で焼かれたもの。鉄分の含有量や不純物の量に応じて、黒、褐色、茶、黄、青など多彩な色を呈します。
  • 天目鉄分を多く含む釉薬がかかったもの。窯の中で釉薬が変質することで、油の雫のような斑点や、稲穂の毛のような細い筋など、多彩な表情が現れます。
  • 焼締め高温で長時間かけて焼き上げたもの。土のような素朴な表情を持ち、深い風合いが生まれます。

京陶人形【2石・土】

粘土で形をこしらえ、乾燥させ、850度くらいの低火度で焼成し、顔料で彩色して仕上げたものです。その制作工程(外部リンク)は次のとりです。

  • 原型
  • 型取り:石膏で原型のを作ります。
  • 生地:型に土を入れ、取り出して、ヘラ等で整えます。
  • 乾燥・焼成:乾燥させた後、電気窯・ガス窯で850度くらいの温度で焼成します。
  • 彩色:胡粉と顔料で彩色します。
  • 面相:顔を描きます。

京石工芸品【2石・土】

平安建都の際、大内裏の造営のため石の造作が大きく求められ、礎石などの一部に、比叡山麓、白川の里からは良質の花崗岩が使用されました。その後、仏教興隆に伴って、石仏、石塔、石燈籠など、京石工の手による優れた石工芸品が製作されました。また、茶道文化も京の工技術の向上に大きな影響を与え、「わび」「静寂」をくみとり、茶庭の燈籠、水鉢、層塔など厳しい「美」への要求に応えるとともに技法の特殊な発達を見たのです。一例として石燈篭を取り上げますと、宝珠、笠、火袋(ひぶくろ)、中台、柱、下台の6部分からできており、制作工程(外部リンク)は次のとりです。

  • 石まわし:荒石(原石)に完成時の形、大きさをあらかじめ墨で線引きします。
  • 荒取り:まず石に矢穴をいくつか掘り、矢穴に入れた矢をたたいて四隅を大きく落とし、そのあと「はいから」で墨出しした線の外側を角落としし、「のみ」ではつって(削って)整えます。

 

京仏壇・京仏具【3木・金属】

仏壇・仏具は、現在、京都において約70%が寺院用、約30%が家庭用として製作され、全国の寺院用仏具の多くが京都で作られています。

仏具とは、仏像、宮殿、厨子、香炉、梵鐘、燭台と何百にも及ぶ、仏教に用いるあらゆるものを意味します。京都における仏具の製造は、平安仏教を特色づけた最澄、空海の時代からであろうと推定されますが、11世紀はじめごろ仏師定朝の「七条仏所」創設によって、本格的な仏具製造の基礎を固めたものと考えられます。 当時七条は鋳物師、鍛冶、金銀細工師などの集住地でもありました。

また、江戸時代の初めになると、宗門改め制度に伴い、各家庭に仏壇を安置するようになり、生産が本格化しました。

生産工程は次のとおり、分業体制で行われます。

  • 木地:原木を仏壇仏具に形作り、主な材料は桧、松、欅などを使用します。
  • 屋根:仏様をお祀りする宮殿(屋根)部分です。細かい部品を手仕事で作り、各々組立式に屋根を作ります。
  • 木彫刻:ノミ、小刀を用い細かな図柄を彫る工程です。天女や人物、小鳥、龍、獅子などの生き物や蓮や牡丹、菊、藤などの草木に至るまで様々な図柄の彫刻を施します。
  • 漆塗:黒色や朱色などの色に表面を塗り上げる工程です。反りや割れを防ぐため刻苧や布張、和紙張などで下地処理を調えた後、下地塗を始ます。下地には砥の粉と膠で調合した半田地と、砥の粉と生漆で調合したか堅地があります。下地錆を何回も付けて、砥石で砥ぎ下地を仕上げます。漆塗りは、良質の天然うるしを 漉紙数枚で漉し、下塗り中塗りを経て乾燥後、炭で研ぎ表面を整えてから上塗りをします。
  • 蝋色:漆塗の表面を平らに木炭で研ぎ、磨いて光沢を出すなど仕上げ加工します。蝋色漆または油分を含まない漆を塗り、更に研磨を行い滑らかで豊かな漆黒の光沢を醸し出すもので、この光沢を発揮させるには炭砥ぎ、胴擦り、摺り漆 、角粉磨きの施工が必要です。炭研ぎは駿河墨・蝋色炭使用し、平滑緻密に研ぎあげます。胴擦り後 、摺り漆と磨きを三回繰り返す。特に三回目の摺り漆は薄くかつ十分に乾燥した後 磨くことにより、一段と艶が深まります。
  • 純金箔押:漆が塗られてきた品物に、漆を接着剤として金箔を貼っていくのが金箔押です。1万分の1~2ミリというのはおそらく世界各地で使われている金箔の中では一番薄いのではないでしょうか。金箔を押す部分に箔押漆を塗り、拭き綿等で全体を均一になるように拭いていきます。下地漆の乾き具合や、その日の温度、湿度を感じ取って漆の種類や漆の拭き具合、残し具合を決めます。「重押」と言われる京都独特の艶をおさえた、むっくりとした重厚な輝きに仕上がるのです。「ぬぐい粉」という技法があり、一度箔を押して乾かした後、もう一度その上に漆を塗り、拭き上げて消粉を蒔く京都独特のものです。この消粉は製箔の最終工程で箔を正方形に切った残りを膠と練って金粉にしたものです。
  • 錺金具:錺金具には、構造上の必要性や本体を保護するためにつけられたものが装飾化したものと、純然たる装飾金物があります。宝相華唐草が主でしたが、近代になって、牡丹、菊、蓮など様々な植物を文様化したものや、亀甲、七宝、綸子などの幾何紋様までが精細に加飾されており、日本独特の工芸技術として発達しました。錺金具には大別して、紋様を銅版に線刻した「平金物」(毛彫)と透かし紋様を切り抜いた「透かし彫」、そして立体的に薄肉彫に仕上げた「地彫」の3種類があります。
  • 蒔絵:塗料や接着剤として使われてきた漆で文様を描き、その上に金箔や銀箔を蒔いて図柄を表現してきたものを蒔絵といいます。漆は金箔や銀箔を固着させるのに最適です。また、適度な温度や湿度によって乾燥するので、時間をかけて文様を描くことができます。この漆の特性を生かして蒔絵の技法が生まれたのです。使用する粉によって、消し粉蒔絵、磨き粉蒔絵、研ぎ出し粉蒔絵、さらに高度な肉合(ししあい)蒔絵などの技法の種類があります。紋一つの蒔絵にもまさに無限ともいえる表現ができ、この無限の表現技術を持つのが京蒔絵の特徴のひとつです。
  • 彩色:絵具の調合が大変重要な要素の一つでもあります。それによって京都で出来た仏像 であり木彫であるということが判明します。彩色には塗る工程と描く工程とがありますが、大きく3種類あり、(1)極彩色は木彫に胡粉の下地をして何度も色を塗り重ねる重厚な味の出しやすい一般的な彩色法です。(2)木地彩色は木の素材を充分に生かした彩色法で、極彩色と異なる点は、淡い絵具を使用し、木の上に直接彩色する効果を出す彩色法です。(3)箔彩色は金粉押をしたその上に木地彩色と同じ様に淡い色使いで、金箔と絵具の融合で透明感の 出しやすい彩色法です。技術的には膠を接着剤にして、岩絵具・水干絵具を素材である彫刻等に定着させます。
  • 総合組立:各工程の完了したものを一ヵ所に集め、総合的に最終組立てをします。
  • 仏像彫刻:彫刻の材料は檜・松・ 樟・框・白壇などが用いられ、一木造りと寄木造りの二種類があります。一木造りは一本の木から仏像の全身を表現する技法です。寄木造りは、大きな仏像を造るときに適した方法です、藤原時代の大仏師・定朝によって完成された合理的な彫像法です。大きな仏像を造る場合、仏頭・ 胴体・両肩・膝の各部をそれぞれ別材によって用意します。また、像に内刳りを施すことにより干割を防ぐことができます。
  • 蝋型:完全に分業化され、鋳造、仕上げ、彫金、ロクロ、磨き、メッキ、色付けなど細かく分かれています。丸いものはロクロにかけ、バイトというもので滑らかに挽かれます。ロクロにかけられない角ばった物や細工物は、鈩、キサゲなどで一つひとつ手作業で表面を仕上げていきます。その後、彫の必要なものは彫を施して、一応生地ができあがります。その後、古来よりある鍍金や現代の電気メッキにかけるもの、表面を光らすバフ磨きや、煮色、青銅色、オハグロ色、漆焼付など色付けをして製品になります。その他にも、扉の金具や装飾品を鉄で作ったり、真鍮板や銅板を使って様々な仏具製品を作っております。なお、鋳造方法は5種類です。(1)蝋型鋳造は、蜜蜂の蝋と松脂とを混ぜ合わせたものを用い、自由に細工ができ、精密な鋳造ができるので、現代でも細工物に使われています。(2)惣型鋳造法は、わが国最古の鋳造法で、梵鐘や鍮のような鳴り物に使われています。(3)込型鋳造法は惣型鋳造法に属し、梵鐘や鍮のような簡単な型に対し、複雑な細工物を作るときに用いられ、一般に押物鋳と言われています。(4)生型鋳造法は、土と川砂に粘土を交えて鋳型をつくり、先の3つの方法は型を焼くのに対し、焼かずにそのまま鋳造するので生型と言われ、おそらく、2~300年前に西洋より伝来された方法で、現代寺院用、在家用仏具に多く用いられています。(5)最も現代に生まれたCO2鋳造法は、昭和20年代にわが国に伝来し、特に大型鋳物に適した方法で、大型仏像や外置香炉などに多く用いられています。
  • 鎚起:一枚の地金を終始、人力によって根気よく打ち伸ばして「けいす」などを造る技法を言います。「けいす」が打ちあがるまでには、厚い黄銅板を打ち伸ばしては焼き戻し、焼き戻し手は打ち伸ばすという工程(焼鈍・なまし)を30回以上、繰り返します。 打ち伸ばし作業は、板の伸び具合を見極め、どの部分をどのぐらいの力で打てばよいのか、瞬時に判断し、丁寧に伸ばしていきます荒打ちの伸ばしを習得するのに10年から15年の歳月を要し、その音色を感得するにはさらに長い年月を要します。

京漆器【3木・金属】

もともと中国で始まったと伝えられる漆器は、縄文時代には日本でも使われていたようです。漆地に金粉を散りばめたように見える末金楼(まっきんろ)(蒔絵)が生まれたのは奈良時代のことで、この技法は平安時代へと受け継がれ、室町時代以降、京都は全国漆器産業の中心となり栄えます。その種類も生活用具だけでなく、仏具、武器、文房具など多岐に及んでいました。その制作工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • 木地挽き:原木を縦木取り(たてきどり)して寸法を決め、余分な部分を切り落とします。ろくろ挽きで大まかな仕上がりの形状を作ったのち、木地に歪みが出ないように約3カ月間かけて乾燥させます。
  • 木地固め:乾燥した木地の木目にを染み込ませて木地繊維を固め、変形を防ぎます。
  • 塗り:薄く下塗りし研いだ後、精製を刷毛で全面に薄く塗布し、表面を平らにします。硬化させた後、上塗り漆の密着をよくするために駿河炭などを用いて研ぎます。
  • 蒔絵:紙に書いた下絵を焼漆、石黄でなぞり漆器の表面に写し取ります。で文様や文字などを描き、固まらないうちに金や銀などの金属粉や色粉を蒔いて、表面に定着させます。その後、で塗り固めて丁寧に磨き上げます。
    --平蒔絵:下地(漆を塗った木地)に漆で絵を描いてから、そこに金銀粉を蒔き、硬化させたあと蒔絵だけに透明な漆を塗って固定させます。
    --研ぎ出し蒔絵:粉を蒔いたあと全体に色漆を塗り、木炭や砥石などで蒔絵が現れるまで研磨します。

北山丸太京名竹【3木・金属】

北山丸太は、枝うちにより均一な太さに仕上げられ、伐採した後すぐに皮をはぎ、真夏の太陽に一週間ほど晒し、その後水につけ、砂で丁寧に磨くことで、白い木肌を作ります。一般に製材工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • 原木伐採
  • 丸太の皮むき
  • 木取り:裁断手順や採材の位置などを決定することで、台車と呼ばれる送材車付帯のこ盤で行われます。
  • 製材:大割り、挽き割り、板割りを行います。
  • 乾燥:自然乾燥で、風雨にさらしあく抜きを行います。

また、京都はの生産地としての風土条件に大変恵まれています。山に囲まれた盆地は寒暖の差が激しく、土壌も肥沃です。一般に加工工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • 原木伐採
  • 油抜き:苛性ソーダを入れた熱湯で15分程度煮沸して、表面に染み出た油分を拭き取ります。
  • 天日乾燥:竹の色が象牙色に変わります。光沢が出て、材質も堅硬となります。
  • 切断加工:竹を必要な長さに切断し、その竹を半分に割ります。

京たたみ【3木・金属】

畳の製造は日本固有の伝統文化で、奈良時代の古事記にしばしば登場しており、1300年の歴史を有しています。平安時代には貴族等が権力を象徴するものとして使用し、京都御所内の紫宸殿や清涼殿、御常御殿ではその面影が今に伝えられています。やがて茶道の発展に伴い、幾多の変遷を経て、今日の「京たたみ」が作られ、一般の民衆にも広まっていきました。その種類は、家庭用と茶室用の「一般畳」と神社仏閣で使用される「有職畳」の2種類に大別され、高度な技術を必要とする「厚畳」、「拝敷」といった有職畳のほとんどは京都で生産されています。その制作は、全国的に機械による製造が進む中で、京都では、今も伝統的な技術が受け継がれ、手縫いによる高級畳が多く作られており、その制作工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • 一般畳:板入れ・かがり・平刺し・返し縫い・隅作り・框縫い
  • 有職畳:板入れ・隅柱・中柱立て・かがり・平刺し・返し縫い・紋合わせ

京指物【3木・金属】

古代、日本は豊かな森林資源に恵まれ、縄文・弥生時代の遺跡からは、加工された木製品が多く出土しています。また、中国や朝鮮から、石や金属の文化とともに渡来した御物や仏像の多くを、木を素材として模倣し、独自の木工芸として昇華させてきました。

  • 指物:板を組み合わせて作る家具・器具で、原材料の木取り、はぎ合わせ、削り、仕口・組手(釘や木ねじを使使わず、板をノミなどで加工するか、別の板片を差し込んだり、ウツギの木から作った木釘を打ったりして製作する)、彫り・くり、組み立て、仕上げ削り、研磨、塗り(拭漆等で塗装)、仕上げ
  • 彫物
  • 挽物(轆轤(ろくろ)細工)
  • 曲物
  • 箍物(たがもの)
  • 刳物(くりもの)

京扇子・京うちわ【3木・金属】

扇子は、平安時代の初めに木簡から派生、京都において創作されたものと考えられます。平安中期には、冬扇、夏扇(桧扇(ひおうぎ)・蝙蝠(かわほり))があり、室町時代以降、香道、茶道、舞踊などの発展に伴い、それぞれに用いられる扇子も作られるようになりました。その種類(外部リンク)は様々あり、その制作工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • 扇骨加工:(1)胴切、(2)割竹、(3)せん引(割竹を必要な厚さまで薄く削ぐ(へぐ))、(4)目もみ(要を通す穴をあける)、(5)あてつけ(扇骨成型。竹材に要穴をあけそれに串を通し数十枚を板のようにして、独特の包丁で削り成型します。)(6)白干し(ほぼ完成された扇骨(せんこつ)を屋外で日光にさらし、乾燥させる。)、(7)磨き、(8)要打ち、(9)末削(紙の間に入る扇骨を薄く一枚一枚を鉋(かんな)で細く削る
  • 地紙加工:(1)合わせ(芯紙といわれる極めて薄い和紙を中心にして両側に皮紙と呼ばれる和紙を貼り合わせます。後の工程で芯紙が二つに分かれその隙間に扇骨が入ります。また、扇子に用いる紙は地紙と呼びます。)、(2)乾燥、(3)裁断
  • 加飾:(1)箔押し(糊を引いた上に一枚ずつ金箔を置いていきます。)、(2)上絵(一枚一枚絵師によって手描きされるほか、「切型摺り込み(きりがたすりこみ)」、「版木つき」「木版画摺り」により彩られます。(3)木版画摺り
  • 折加工:(1) 折り(折型(おりがた)(型紙(かたがみ))に挟み込まれ、しっかりと把み(つかみ)進められた平らな地紙に折り目が付けられます。)、(2)中差し、(3)万切
  • 附け加工(仕上げ):(1) 中附け(芯紙が2つに分かれてできる隙間へ糊を引いた中骨が手早く差し込まれます。この後、正しく位置が決められ拍子木で強く叩きこなされます。(2)万力掛け、(3)親あて

また、日本のうちわには中国月扇、朝鮮団扇、南方系葉扇の3系統がある中で、京うちわは、地紙の内部に多数の竹骨を持つ朝鮮団扇の流れをくんでいると考えられます。その種類(外部リンク)は様々あり、その制作工程(外部リンク)も多様です。

京竹工芸【3木・金属】

正倉院には、竹を用いた楽器をはじめ、箱や華龍その他多数の遺品が保存されていますが、平安時代になると、建材としても随所に使われるようになります。また同時に、矢や鞭などの武器、農耕・漁猟の道具など、日常生活の細かな部分まで広がりました。鎌倉時代の終わり頃から室町時代にかけて、茶道具を製作するために欠かせぬ素材ともなりました。

京表具【3木・金属】

表装とも呼ばれる表具は、仏教の伝来とともに伝わり、経巻に施されたのがその始まりでした。掛軸などは、仏教の広まりとともに仏画像の礼拝用として始められたものが原型とされています。その種類は、襖、壁装など日常生活に密着した実用的な分野と、掛軸、額装、屏風、画帖、巻物など美術工芸的なもの、さらには高度な技術と豊かな経験が要求される古美術の修復まで含まれます。制作は、裂地や和紙を材料として、加湿と乾燥の繰り返しのうちに、複雑な何段階もの工程を経て完成されます。

  • 掛け軸の制作(外部リンク)作品(書が掛かれた和紙)に応じたの取り合わせを行い、3回の裏打ち(和紙の厚みを増していく)を施した後、仮張りと呼ぶ乾燥専用の道具に張り込んで乾燥させた上で、布に糊で貼り付けます。そして、軸棒(上部の軸棒:八双(はっそう)、下部の軸棒:軸木(じくぎ))や風袋等を取り付けます。
  • 掛け軸の修正(外部リンク):裏打ちや糊止め、軸付けなどの補修を行います。

京の色紙短冊和本帖【3木・金属】

色紙とは、もともと染紙のことを指します。
短冊は、短籍、短策、短尺とも書き表され、懐紙や色紙よりは小さく、略式化されたものが短冊とされていました。
和本帖は、俳句や和歌、語録や大切な記録、または絵画や旅日記等を留めるために生まれたもので、その形状は糸綴り本、平紐綴り本、芳名録、折りたたみ式画帖や集印帖、折手本、巻物等に分かれています。

京版画【3木・金属】

木版印刷は仏教と一緒に伝来した経文印刷用の文字木版に端を発します。出版物の中では、高名な本阿弥光悦の「嵯峨本」等があり、デザイン本としても京版画は素晴らしい作品を残してきました。後世、欧米人を仰天させ、「世界芸術の殿堂」入りを果たした浮世絵木版画へと発展していきました。種類は、宗教・実用・美術など様々あり、制作は、伝統木版画では、絵師・彫師・摺師の共同作業(外部リンク)によって行われています。

  • 絵師:(1)図案を考え、輪郭線を描いた「版下(デザイン) 」を描きます。(2) 一旦彫師に渡り、輪郭線を彫った版木「主版(しゅはん・おもはん)」を摺り、使用される色数と同じ数の単色墨摺絵「校合(きょうごう)」を作ります。(3)校合に同色の部分に手描きで彩色を行い、彫師へ色摺りの版木「色版(いろはん)」作りの指示を書き込みます。
  • 彫師:(1)上記のとおり、「主版」「校合」を作ります。(2) 絵師が指示を書き込んだ校合を貼付けて「色版」を彫ります。(3)基準位置となる「見当」を入れます(「見当外れ」の語源)。
  • 摺師:(1)和紙と顔料を用意します。(2) 版木にを乗せ、見当を軸に和紙を押し当てるようにバレンを細かく動かしながら、和紙の繊維の間に色を含ませていきます。「ぼかし」と言われるグラデーションや、輪郭線を作る「骨(こつ)」、単色で均一な配色の「ベタ」など、表現によって様々な技法で摺りあげていきます

黒谷和紙【3木・金属】

紙は仏教とともに日本に伝わり、都が奈良から京都へ移るとともに、京都には官制の紙漉き場が設けられました。黒谷は、平家の落武者が子孫へ残す仕事として細々と始めたものと伝えられています。和紙の各産地では手漉きから機械漉きへの転換が進みましたが、黒谷では伝統的な手漉きの技法を守り続けています。その制作工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • (こうぞ)の刈り取りを1年かけて育て、冬に刈り取ります。
  • かご蒸し:刈り取った楮を専用の蒸し釜に入れます。
  • かごへぎ:蒸した楮のを剥ぎます。
  • かごそろえ:皮を乾燥させた後、で戻し、皮の黒い部分を包丁で切り取り、白い部分だけにしていきます。
  • 精錬:再び煮て洗い、チリを取り除いて「紙素」ができます。
  • 紙漉き:紙素を水に混ぜて、さらに沈殿しないようにネリ(トロロアオイから抽出した粘液)を入れて、攪拌します。そして、専用の簀桁(紙漉きに使うすだれや木の枠)を使って、一枚ずつ丁寧に漉いていきます。水分を除いて、乾燥前の和紙が出来上がります。

金属工芸品京象嵌京七宝【3木・金属】

金属工芸は弥生時代から始まり、奈良時代には寺院や仏像が相次いで造られ、平安時代には金工師たちが奈良から京都に移り住み、室町時代にはそれまでの鋳銅とは異質の色合いをもつ花瓶、香炉や燭台などが中国から伝わり、桃山時代には京都の釜座には鋳物師数十家が軒を連ね、宮中の用度品をはじめ鍋や釜などの日常用品、武器や甲冑、刀剣などの装飾がめざましく発達し、江戸時代へと伝承されていきました。このように、用途は、花器、食器、装身具、家具、装飾品、建築金具、茶道具、文房具などと幅広く、素材も、金、銀、銅、鉄、赤銅、錫などと多岐にわたっています。種類は次のとおりです。

  • 鋳金:「いもの」とも呼ばれ、溶解した金属を鋳型に流し込んで造形する技法で、主として仏像や梵鐘、茶道具、美術工芸品などに用いられます。
  • 鍛金:「うちもの」とも呼ばれ、金属を自在に延ばし、しぼり、立体的に造形します。鋳金に比べて軽く仕上がり、主として器などを製作します。
  • 彫金:「ほりもの」といわれ、金属板に模様を彫ったり、浮彫りしたりする技法です。
  • 布目象嵌:鉄等の堅い金属に金や銀、赤銅などを打ち込んで模様を表現する技法です(象嵌多種多様な材料を用いるのに対し、螺鈿貝殻の自然な輝きと色彩を生かした模様が特徴です)。奈良時代に大陸から伝わり、西陣に住む埋忠(うめただ)と正阿弥(しょうあみ)の二家の仕事ぶりが目立ち、両家の弟子たちが各地の大名に仕えるようになり、それにつれて京都の技術は全国に広まっていくようになりました。現在、京都で製作される象嵌製品には、ペンダント、ネクタイピンなどの装身具、額などを中心とする室内装飾品があります。その制作工程(外部リンク)は次のとおりです。
    --布目切り:鉄地金の表面全体に「布目切りタガネ」を使って縦横に細かい(1mmの中に8~7本の)溝を掘ります。肉眼では見えず、この凹凸(針山)で、金銀が剝がれないようにするためです。
    --入嵌:直径0.15mmから1.0mmくらいの純金、純銀の線や平金を模様に抜いたものを布目にあてがい、小さな金槌で打ち込んで模様を描いていきます。
    --入嵌仕上げ:金銀がきちんと布目に嵌まる様、ハンマーで丁寧に打ち込みます。まず、鹿の角で自ら作ったハンマーで金銀が伸ばさずに光沢が出します。さらに、鉄のハンマーで打ちつけると布目の針が曲がり金・銀の模様が抜けなくなります。
    --腐食・錆出し・錆止め:入嵌した作品を酸化鉄で腐蝕させます、それから表面にアンモニア水を塗り2日間位ムロの中で錆を出し布目を消してからタンニン(上茶)で錆を止めます。
    --色つけ(漆焼き):ガス・電気コンロの網の上に作品をのせ、はけで漆を塗り3~4回繰り返して焼きます。
    --研出し:漆で真黒くなった表面にヘラを当てて金銀の模様の所を研き出します。すべりが良いように時々ヘラを水で濡らし傷をつけないよう丁寧に研ぎます。
    --仕上げ毛彫り:金銀の模様の上を作品のイメージに合わせ、ボリューム感を出す為にタガネを用いて線を入れたり細かい溝を作ったりします。ツヤを消すため細かい砂を上から落とし、変化をつけることもします。
  • 七宝:金属の素地にガラス質の釉薬を焼きつけて装飾する技法で、釉薬の種類によりさまざまな発色をするのが特徴です。その制作工程(外部リンク)は次のとおりです。
    --素地作り:銅板へ下書きし、金バサミで手切りします。型は、焼成するたびに反り、ゆがみが起きないよう木槌などで形を整えます。
    --下地作り:表面の油膜や汚れを酸で洗浄し、下地色を全体に施し焼成し、ベースとします。
    --銀線立て:帯状になった銀の線を使い線立てを行います。形作った線を糊で仮固定し、焼き付けて固定します。この時、銀箔を貼り付ける作業も同様にします。
    --釉がけ:釉薬を差し、乾燥させます。
    --焼成:700〜800度前後に熱してある窯へ入れ、数分で乾燥して粉状になっていた釉薬は全て溶け、ツルリとしたガラス状に変化します。焼成前と後で色の発色が全く異なるのも醍醐味です。

京刃物【3木・金属】

4世紀に日本に刀剣が伝わり、時代の推移とともに、刀鍛冶、農鍛冶、刃物鍛冶と大きく三分され、細かく専門化されていきます。京都はもともと都であったという地の利と、出雲地方の砂鉄や玉鋼(日本刀の原料となる鋼)、伏見稲荷周辺の、鳴滝の砥石、丹波地方の松炭、さらには良質のなどが容易に入手できるという刃物造りに適した条件を備えていたため、室町時代中期頃より鍛冶の町として栄え、以後明治の初期まで刃物の一大産地として全国に知られました。今日の全国の刃物産地の技術は、その大半が京都より伝わったと言われています。一例として包丁制作工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • 鍛冶:(1)硬い「炭素鋼(刃になる)」を赤くなるまで熱しベルトハンマーで叩き延ばし、適切な長さに切り出します。(2)「極軟鉄(土台となる)」を真っ赤になるまで熱し、不純物を取り除くためホウ砂と鉄粉をまぶし、「炭素鋼の刃」を合わせます。(3) 1000℃の炉で熱し鍛接していきます(加熱と叩き延ばしを繰り返します。中子部分も叩いて作ります)。(4) 先の地を自然冷却し、表面にできた酸化鉄の被膜を叩き落とします。(5)余計な部分の切り落としや凹凸の削ぎ落しと、ハンマーでの叩き延ばしを繰り返します。(6)脱炭(表面の炭素が酸素と結びつき失われ硬化不足となること)しないよう刃に泥を塗り乾燥させた上で、松炭を用いて750~800℃の炉で熱した後、で急冷し鋼を硬くします。150~200℃程度で再加熱した後、「焼き戻し」とよばれる自然冷却を行い、粘りを出します。この硬さと粘りのバランスが和包丁にとっての生命線となります。(7) 包丁の極軟鉄部分が硬い炭素鋼部分の方へ引っ張られるため、金槌で叩いて調整します。 その後、サンドペーパーで表面をきれいに整えます。
  • 刃付砥石を使って研ぎます。あわせて、ハンマーやタガネで整えます。
  • 柄付:(1)出来上がった刃に、刻印打ちや銘切をほどこし、銘を入れます。(2)中子を熱した上で、柄に付け、歪みを整えます。

 

京人形【4複合製品】

平安時代、貴族の子らの間で、「ひいな人形」を使ってのままごと遊びのようなものが流行しました。江戸時代末期になると、御所人形が生まれますが、これは当時の宮廷から諸大名への贈答用としても重宝されました。現在の種類は、雛人形、五月人形、浮世人形、風俗人形、御所人形、市松人形などがあります。その制作は、頭、髪付、手足、着付け、小道具など細かく分業化されており、それぞれが熟練した職人たちの手仕事によって行われています。一例として、雛人形制作工程(外部リンク)は次のとおりです。

  • (かしら):(1)木彫りで頭の原形をこしらえます。(2) 松脂または樹脂で原形の型(雌型)をとります。(3)木のひき粉・生麩糊・軸を混ぜ、型に入れます。(4)培炉で乾燥させ、彫塑で形の修正をします。(5)義眼(ガラス)をはめます。(6)胡粉・にかわで下地を塗ります。(7)胡粉で肉付けし、塗り重ね (5~8回)、さらし木綿で表面の凸凹を修正します。(8)小刀で目・口を彫り起こし、木賊で表面を滑らかにします。(9)液状の胡粉を上塗りします。(10)マユ・口紅・生え際を日本画用の粉絵の具で筆入れし、さらし木綿で更に磨きます。
  • 髪つけ:(1)生糸(残糸)黒染・油気抜きします。(2)コテを当て伸ばし、ツヤを出します。(3)頭に、小刀で髪を植え付けるためのを彫ります。(4)糊で髪を植え付けます。(5)の大垂髪(おすべらかし。前髪を左右にふくらませ、背後にすべらせて長く下げる婦人の髪型)の型和紙を重ね、糊で貼りあわせます。(6)はりぬきをニカワで接着し、くし、かんざし、さいし等髪飾りを差します。
  • 手足:(1)桐板を鋸・カンナで裁断し、長さ・太さを揃えます。(2) 桐板に、キリでをあけます。(3)指となる紙巻き針金を所定の長さに切り揃え、桐板の孔に差し込みます。(4指の形に応じ針金を曲げ、手首の部分を削ります。(5) 胡粉・ニカワで、地塗りします。(6)五指の区切りを小刀で刻み込み、ペーパー磨き・トクサがけします。(7) 胡粉・ニカワで、上塗りします。(8)指先に爪の色を差します。
  • 胴体・着付け:(1)稲ワラを束ね、糸・和紙を巻き、胴体を作成します。(2)人形に応じた大きさのベニヤ板をボンドで付けます。(3)男物は手足(針金)を付け、女物は手のみ付けます。(4)和紙を金襴や友禅などの裂地に張りあわせ、裁断・仕立て・糊付・糸縫いし、ポーズ付けします。(5)頭部をつけます。

京印章【4複合製品】

中国で発達した印章がわが国に入ってきたのは聖徳太子の時代といわれています。国の制度となったのは大宝元年(701)の大宝律令制定からで、平安京が開かれて都となった京都では天皇御璽(ぎょじ)や当時の役所の官印などが作られていました。京都の印章の特色は、中国の漢時代の印章最盛期の漢印といわれる銅印の作風を受け継いでいますが、現在、柘植(つげ)、水牛、象牙などを素材に伝統的な京印章を制作しています。

 

100年企業

京都には100年以上生き抜く老舗(外部リンク)がたくさんあります。「変えない」を良しとする企業も、「新たな挑戦」も良しとする企業、様々ですが、いずれも「秘訣」はなく、素朴に納得いくまで「試行錯誤」を重ねてこられたからこそ今に続いていると言えます。

 

伝統産業から先端産業へ

そして、京都は伝統産業から様々な先端産業を生み出してきた地でありますが、今も次々と伝統産業から様々な研究開発が進められています。

 

施策

(その他参考:2025年度京都府当初予算)

  • 伝統産業事業継続支援事業(設備導入補助)
  • 伝統産業産地振興拠点創出事業「シルクテキスタイル産業リーディングゾーン」(国内外のクリエイターとの連携による商品づくり、海外常設店舗設置など)

施策実施状況

  • 古民家バトンタッチ事業
    コロナを機に京都北部での人材確保を促進するため、遊休古民家の活用促進も狙う「古民家バトンタッチ事業」を進めています。2022年4月から2023年5月までで、売却希望・購入希望はそれぞれ約60件、成約は約10件に及びます。

 

先端産業の集積【プレイヤー別】 Advanced industry player 

大学・人材 University & Human resources 

  • 知の京都
    知の京都
    企業をインタビューしているならば、研究者もと始めました。
  • みんなの京都
    みんなの京都
    企業や研究者をインタビューしているならば、外国人もと始めました。
  • 海外大学生インターン 

    2023年4月。「この夏に、関西で海外大学生インターンを受け入れてくれる企業様探しに困っているんです。大手さんからは『今聞いて、今年の夏なんて準備できない』とお叱りを受ける始末で・・・」という悩みを聞きました。「そんなの京都のスタートアップ企業なら、全然いけるんちゃうの」と、受入企業を約10社集めました。「優秀な理系学生たちで、開発を丸ごと任せたら、完成してくれた」など高評価をいただきました。2024年はゲーム関連学生も大挙してやってきます。
  • ある産学公連携プロジェクト

宇宙の原理を活かす

「無(「ゆらぎ」のある状態)」から1cm角スケールへの「インフレーション」。その膨張エネルギーによって「ビッグバン」が発生。そのエネルギーで「物質(電子、クオークなどの素粒子)」「反物質(異なる電荷を持つ陽電子などの素粒子)」、さらにはそれらの衝突で光子が生まれるとともに、膨張の拡大に伴う冷却による「素粒子結合」で陽子、中性子が誕生・・・。
現在半径470億光年の広がりをもつ宇宙が138億年前に誕生した「1秒間」に起こった出来事です(時間目線で「すり鉢型」に宇宙が膨張しているからこそ、常に誕生時の光が「しずく型」で観測できます。なお宇宙の形状はドーナツ型だと言われています)。3分後に「陽子・中性子結合」によって水素やヘリウムの原子核が、38万年後に水素とヘリウムの原子が生まれました。宇宙の質量の75%が水素、25%がヘリウムで、恒星は核融合による水素からヘリウムの生成をメインとしていますが、やがて水素を使い果たして、その寿命の終わりに赤色巨星になる過程で核融合でヘリウムより大きな軽元素が鉄までできて、さらに押し潰された鉄の電子と原子核が中性子に変わって、限界に達して超新星爆発、あるいはその残骸の中性子星の合体によって鉄より大きな重元素が生まれました(ちなみに、鉄は安定しているため、鉄より軽い元素も、重い元素も(放射線崩壊で)鉄になろうとします)。

  • アインシュタインの「特殊相対性理論(1905年)」は、「速度=距離÷時間」であり、「光速度は不変(動いている人からみても動いていない人からみても同じ)」であるため、「時空(時間と空間)は相対的な存在」であって、質量を持つ粒子の層度には「光速度」が上限であり、「E(エネルギー)=m(質量)・c2乗」というエネルギーと質量の等価性が成り立つというもので、GPSでも用いられています。
  • 「一般相対性理論(1915年)」は、物体どおしは、物体どうしが直接引っ張り合っているのではなく、「時空のくぼみ」によって間接的に影響を及ぼしているという、「重力」を「時空の歪み」と捉えるものです。

こうした「素粒子(物質を構成する「クォーク」「レプトン(電子、ニュートリノ等)」、力を媒介する粒子「ゲージ粒子(光子(アインシュタインがノーベル賞を受賞したのは、これ以上分割できない光の最小単位を示した「光量子仮説」)等)」、重さを与える粒子「ヒッグス粒子」)」「陽子(電荷は電子と対ですが、質量は電子の2000倍)」「中性子」「原子(0.1nm)」などの「量子」が発見され、「原子は永遠にそれ以上分割できない」という古代ギリシャの哲学者デモクリトスの言葉は間違いだったと分かりました。量子は「粒でもあり波でもある」ため、有名な「2重スリットの実験」のとおり2つの隙間を同時に通り抜けます。2択ではなく「重ね合わせ」(しかも「確認」すれば1つに集約)という、一見、古典物理では説明がつかない量子のふるまいが、私たちの世界を支配しています。最近では10兆個の原子からなる長さ0.04mmの金属板でもこの現象が確認されています。

また、化学反応の前後で質量が変化しないという「質量保存の法則」も厳密には間違いで、E=m・c2のとおり、質量とエネルギーは変換され、例えば、水を電子レンジで温めれば、熱エネルギーが加わった分、わずかに質量が増えるのです。そして、原子を構成する電子自体や、原子核を構成する中性子(アップクォーク1個とダウンクォーク2個)・陽子(アップクォーク2個とダウンクォーク1個)を構成するクォーク自体の質量は、原子の1%程度ほどに過ぎません。残りの99%はクォークを繋ぎとめている強い力(エネルギー)なのです。従って、私たちの体重のうち、本来の素粒子の質量は1%だけで、強い力により100倍になっているということです。宇宙に存在する力は次の4つです。

  • 強い核力(近距離でしか働かない):アップクォークとダウンクォークが、中性子や陽子の中で引き合って離れない力で、中性子、陽子の中では自由に動き回るが、離れるほど強くなる力。これ故、プラスの電荷をもつ陽子どうしは本来反発し合うのに、陽子(及び中性子)どうしも原子核として離れません。
  • 弱い核力(近距離でしか働かない):素粒子の種類を変える力で、例えばダウンクォークとアップクォークへ、つまり中性子が陽子へ(これにより太陽はエネルギーを放出し続けています)変える力です。
  • 電磁気力(宇宙では打ち消し合う):電気をもつ粒子の間に働く力で、私たちがモノを押す際にも、手の表面の原子の表面の電子(マイナス)と、モノの表面の原子の表面の電子(マイナス)が反発することで、モノが動くのです。あるいは、熱湯に手を入れて熱く感じるのも、熱湯の原子の振動が、手の原子を振動させるからです。
  • 重力(宇宙でも働く):質量をもつ粒子の間に働く力です。地球の重力があっても、磁石で金属を引っ張れるように、重力は非情に弱い力です。

そして、質量とは「動きにくさ」(慣性質量)です(慣性質量と重力質量は区別できない同じものであり、重いものほど動きにくい(慣性質量)ため、重いものも軽いものも、地球に引っ張られる(重力質量)速度は同じです)。光は30万km/sで、水素分子は1800m/sで、酸素分子は500m/sで飛び回っています。誕生してすぐの超高温の宇宙では、全ての素粒子は光速で飛び回り、そこに質量はありませんでした。やがて宇宙の温度低下に伴い、ヒッグス場が生まれ、そこを埋め尽くすヒッグス粒子が、高速で動く素粒子の動きを妨げることによって、速度が低下しわずかな質量が生まれました。さらに宇宙の温度が低下するにつれ、真空中にクォークと反クォークのペア (「E=m・c2」のとおり、エネルギーから質量が生まれる際に、粒子反粒子が同時に生まれ、宇宙空間には多くのクォーク・半クォークのペアが存在します。なお、スピンが逆の場合は、このペアは消滅するのですが、アップまたはダウンのスピンを有する単独のクォークは、ペアにぶつかることで高速から減速し、クォーク自身も質量を持ちます)が存在し始め、それが中性子・陽子の動きを妨げることによって、より大きな質量を持つようになりました。こうしてできあがった宇宙の構成は、次のとおりです。

  • 私たちが知っている物質:5%
  • ダークマター(質量はあります(重力は働く)が、電磁気力はないため、見ることも触れることもできません。宇宙に散在するダークマターが、銀河の集まりを保持しており、銀河どうしがぶつかっても、ダークマターはすり抜けます):27%
  • ダークエネルギー(宇宙を膨張させているエネルギー):68%

「古典力学」では、電子の軌道は原子核に近い方からK核(基底状態)、L核、M核の順となっており、上の段(エネルギー状態が大きい)から下の段へと逆励起する際に、光としてエネルギーを放出するわけですが、「量子力学」でも、電子は原子核の周りにモヤモヤと存在しているということとなるものの、エネルギーは連続的には変化できず、まとまった単位でやりとりされるということは、粒子の状態に関して「物理量」「確率分布」を対応付ける「波動関数(主量子数、軌道量子数、磁気量子数、スピン)」でも立証されています。

量子力学でカギとなるのが「スピン(スピン角運動量)」です。例えば、N極・S極からなる棒磁石を、半分に分割したら、割ったところに新たにS極・N極ができますし、分割をどんどん進めて、最後は原子一個分にまで分割しても、S極・N極ができるのです。このように、量子は全て「アップ」「ダウン」の2種類の状態(スピン)があり(炭素や酸素などアップ、ダウンが対になっている場合は、打ち消し合って磁石の性質が出てきませんが、鉄などそうでないものは磁石の性質を有するのです)、スピン量子数が整数倍(0、1、2等)のものをボース粒子、半整数倍(1月2日、3月2日等)のものをフェルミ粒子と言います。

  • エレクトロニクス(電子工学):電荷量(電子の量)と電流(電荷の流れ)の制御に関する研究。なお、電気双極子が作る「電場」は「マイナス」から「プラス」へ直線的に、そして「プラス」から「マイナス」に弧を描くように形成されます。
  • マグネティクス(磁気学):電子のスピンに関する研究。なお、磁気双極子が作る「磁場」は「S極」から「N極」へ直線的に、そして「N極」から「S極」に弧を描くように形成されます。
  • スピントロニクス:電荷とスピンの両方を協奏的に利用しようとする研究

こうした量子力学、スピントロニクスは既に様々な分野で応用されています。

  • 蓄光塗料:電子に光(見えない紫外線)が当たると光エネルギーを吸収して励起(電子を引きつける陽子からより遠くて高いエネルギーが必要な外側の周回核に移動)し、元に戻る際には熱と光 (熱エネルギーの分、より周波数の低いより小さいエネルギーの可視光) を放出します(「蛍光」。ちなみに「物が見える」のも同じ原理)。一方、励起の際にスピンの向きが変化した場合、元に戻るのに時間がかかる(「燐光」)性質を利用したものです。
  • ハードディスク:わずかな磁気の変化としてスピンの違いを活用して、小型化を実現
  • 量子コンピュータ:量子の「性質」を採り入れたコンピュータという意味で、「量子ビット」「量子論理演算」によって構成されるものです。入力(情報保持)に関わる「量子ビット」とは、イオン方式、半導体(電子)方式、光子方式など様々な方式が研究されていますが、1ビットについて、電気や磁気によってONかOFFかの2択で表すのではなく(スーパーコンピュータを含む「古典コンピュータ」では、例えば「A」は「01000001」と表現し、1と0は電圧のオンオフをトランジスタで切り替えています)、量子の「重ね合わせ」というどちらをも表せる性質を採り入れ、nビットの場合に2のn乗通りのパターンをいちいち全て判別する必要なく、1回(重ね合わせでnビットが全て含まれる)で済むというもので、大量の計算を並列処理できます。そして、出力(演算)に関わる「量子論理演算」は、量子は観測すれば必ずいずれかの状態になっているという性質を採り入れ、確率処理で数学的に正しい答を導くものです。そういう意味では万能ではありません。2014年にGoogleが大学の研究グループを取り込み、自社開発を宣言したことがきっかけでブームが到来したものの、本格的なものはまだ見通しは立っていませんが、素因数分解を高速に解く(現在の暗号化技術をあっさりと打ち破るものでもあります)、新素材を発見するなど、大きな期待がもたれています(日本においても日立、トヨタなどが量子技術による新産業創出協議会の設立を目指しています)。なお、2022年度は、政府は初の国産量子コンピュータを整備する目標を有し、また、疑似量子技術を用いて自然災害向けの再保険のリスク計算に活用する動きも始まります。
  • MRI:人間の身体の60%~70%を構成する水に含まれる水素の原子核・陽子(水素の原子核は陽子のみで構成されています)の分布を調べることで、各器官の様子を知ることができるものです。陽子が磁場中に置かれることによって、エネルギーが少しだけ変化するもので、CTなどと違って被ばくすることがありません。
  • 宇宙望遠鏡:水素は宇宙に最も多く存在する元素でもあり、1つの陽子と1つの電子が対になっているため、スピンが、アップ・ダウンで反対向き(安定でエネルギー状態がわずかに低い)と、同じ向き(不安定でエネルギー状態がわずかに高い)の2通りがあり、後者が前者に移る際に放出する電磁波(水素21cm線)を観測することで、可視光ではみえないような宇宙の姿を見ることができます。
  • 超伝導(超電導):ある温度以下で電気抵抗がゼロになる現象ですが、「高温」超伝導を実現する戦略にスピンが関わっています。超伝導状態を実現するためには、電子が対になる必要がありますが、マイナスの電荷をもった電子同士は互いに反発し合い通常はペアを作りません。そこで、電子を結び付けるためにスピンが効果的であることがわかってきています(非従来型超伝導体)。
  • 量子もつれ:アップスピン、ダウンスピンのペアを、遠くに引き離しても、その状態が維持され、片方を観測すれば、残る片方の状態も分かるというもの
  • 量子エンジン:熱をエネルギーとする外燃機関(熱源やエネルギーを外部装置から取り込むもの)・内燃機関(装置内で生成した熱エネルギーを利用するもの)ではなく、内燃機関と同様に圧力を発生させて動力を得ますが、熱を使わずにガス中の粒子の「量子的性質の変化」を利用するエンジン(外部リンク)の製作が行われています。

こうした量子力学が「第5次産業革命」に繋がるとも言われています。

また、の性質をダイヤモンドを例におさらいしてみます。ダイヤモンドでは、約100年前にベルギーの数学者兼宝石職人マルヤル・トルフスキーが導入したラウンド部リリアンカットが多用されており、3種類の光の反射があります。

  • ダイヤモンドの表面を反射する光
  • ダイヤモンドの内部で反射する光
    --光の全反射を利用して内部から反射しています。物質内部で一定の斜め(臨界角。水の場合は49度、ダイヤモンドの場合は25度)の光は全て再び内側に反射してしまう(光ファイバーが典型例)性質を利用し、基底部分の角度(90度に近い)の工夫により、内部に入った光を入ってきた方向(外)に反射させています。
    --屈折率を利用して多くの光を集めています。ダイヤモンドは光の屈折率が非常に高く、多くの光 を基底方向に取り込める。真空中では秒速約30万kmの光の速度は、物質中を通過すると速度が落ちます(空気中:99.97%、水中75%、ガラス中67%、ダイヤモンド中40%)。光は波でもあり「幅」がありますが、斜めに差し込む光の幅のうち、先に物質に突入した側の速度が先に落ちるため屈折が起こるのです。
  • 分散により生まれる虹色の光
    --光は電磁波の一種で本来、七色に分かれていますが、それぞれ色の違いによって屈折率が異なる(波長が短い紫色は速度の低下が大きいためよく屈折し、赤色はあまり屈折しません)ため、屈折することで光は色ごとに分かれます(虹の起因は空気中の水滴による屈折です。1つの水滴ではよく屈折する紫色が上に、屈折しにっくい赤色が下に反射しますが、人間の目に飛び込んでくるのは、低空の素敵が上に反射する紫色が下から、上空の水滴が下に反射する赤色が上から見えるため、虹は内側(下側)が青紫、外側(上側)が赤色に見えます)。なお、海の色が青く見えるのは、赤い光が吸収されるからです。

なお、2023年ノーベル賞(外部リンク)について、「物理学賞」アト秒パルスレーザー(外部リンク)の実現(アト:フェムとの1000分の1)、「化学賞」には液晶ディスプレーのバックライトに採用された量子ドット「生理学・医学賞」は新型コロナウイルス感染症ワクチン開発から約3年での受賞となったmRNAワクチン開発の基盤技術でありました。

そして宇宙へ、ユニバーサル時代

市場・サプライチェーンが国境を越えた「グローバル時代」の次は、大気圏を越える「ユニバーサル時代」。

人が大砲に乗って月を周回し地球に戻るという「宇宙の旅」を本気で妄想し小説化した『地球から月へ』(ジュール・ヴェルヌ(仏)1865年)を皮切りに、人類の宇宙開発はスタートしました。

  • 1897年、ロシアの科学者ツィオルコフスキー「ロケットの公式」発表
  • 1926年、米国の発明家ゴダードが液体燃料ロケットを打ち上げ(2.5秒、12m)
  • 第二次世界大戦中、ドイツのV2ロケット(弾道ミサイル)
  • 1957年、ソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」
  • 1961年、ソ連「ボストーク1号」とガガーリンによる人類初の有人宇宙飛行(108分)
  • 1969年、米国「アポロ11号」とアームストロングらによる人類初の月面着陸

米ソの疲弊に伴って、1984年にレーガン大統領が発表した「人が滞在できる宇宙基地建設」には、欧州や日本だけでなくロシアも加わり、「国際宇宙ステーションISS」(1998年~)を国際協力により運営する時代になり、近年は、米中が競い合っています。

  • 米国を中心とした諸国の「アルテミス計画」は、2024年の月面着陸、月周回宇宙ステーションや月面基地の建設を目指すもので、月の砂からコンクリートを生成する、月の氷から水や水素を取り出して月生活や火星までの燃料に活用するなどの狙いもあります。
  • 中国も既に月や火星に無人探査機を到達させています。

そして、軍事目的で開発されたインターネットが民間開放されたように、宇宙産業も民間主導へと時代が変化しつつあります。2024年2月22日、米宇宙企業インテュイティブ・マシンズの無人月着陸船が、1972年のアポロ17号以来の月面着陸に、民間企業として世界で初めて成功しました。これまでの軍需企業、旅客機メーカー、電機メーカなどに加え、既に2,000機以上の人工衛星を打ち上げているスペースX、ブルー・オリジンをはじめ、国内にも多くのスタートアップ企業が生まれています。

まず、「宇宙交通管理」分野です。

  • 宇宙輸送ビジネス:「ファルコン9ロケット」の第1段目を再利用するスペースXは、打ち上げ費用を従来の約半分の60億円までに提言することに成功し、ロケット打ち上げのプライスリーダーとして君臨しています(ファルコン9ロケットと同等の輸送能力を有する日本のH2A、H2Bは100~150億円)。低軌道衛星の打ち上げでは、ロケットラボが5~6億円での開発を目指しています。なお、ウクライナ戦争に伴いソユーズの利用が見込めない中、インド宇宙研究機関も台頭しています。
  • 宇宙旅行ビジネス:サブオービタル飛行(弾丸飛行)、地球周回旅行(90分で地球1周)、ISS滞在旅行などのためのロケット、スペースプレーン、エンジン、宇宙港などの製造・運営システム開発(PDエアロスペース(外部リンク)インターステラテクノロジズ(外部リンク)スペースウォーカー(外部リンク))
  • 人工衛星ビジネス:通信・放送衛星(海底・地上ケーブルの敷設など不要な「宇宙インターネット」など)、地球観測衛星(光学観測、レーダー観測)、測位衛星(GPS(電波))などの衛星製造(アクセルスペース(外部リンク))、衛星ビッグデータビジネス(Ridge-i(外部リンク))などがあります。
  • 宇宙デプリ除去ビジネス:2023年時点で低軌道には10cm以上のスペースデブリが2万6,000個以上浮遊しており、衛星でデプリを捕獲する(アストロスケール(外部リンク))、レーザービームを照射する(スカパーJSAT(外部リンク))などして、デプリを2,000km以上の高度に移動させる、デプリを大気圏に突入させ燃やす、レーザーで融解させるなどの方法が進められています。

次に「地球周回軌道」分野です。

  • 地球観測データの高度活用:高度3万6,000kmの静止衛星のほか、高度2,000km以下の低軌道衛星通信サービス(遅延が少ない)の活用が盛んになっています。KDDIやソフトバンクは、2027年までに1万2,000基の小型衛星を打ち上げようとしているスペースXと組んで、衛生インターネット網を構築しようとしています。また、NECとともにスマートアグリ事業を展開するカゴメは、衛星写真等を使ってトマトの生育状況や土壌の状態などを可視化。JAXAの認定ベンチャー企業・天地人も、水道管路情報などを把握。
  • ISS商業利用:2024年以降、映画撮影、宇宙ホテルなど民間による商業利用で運用・維持される方向です。タンパク質の結晶化に邪魔となりがちな重力がないため新薬開発にも効果的で、宇宙作業用ロボット(GITAI(外部リンク))の開発等も進められています。

そして、「宇宙探査(アルテミス計画)」分野です。

  • テラフォーミング:UAEやスペースX社等が火星のロボットによる都市建設、その後の移住のほか、月資源開発(ispace(外部リンク))などに関する開発が進められています。また、京都大学と鹿島建設が手を取り合い、自転による遠心力で人工重力を生み出す居住施設「ルナグラス」と「マーズグラス」の構想を発表しています。
  • その他:宇宙食、宇宙ファッション、人工流れ星(ALE(外部リンク))など

現在、日本においても、「宇宙基本計画(2023年6月閣議決定」(外部リンク)が定められ、Beyond5Gをはじめ様々な取組が進められようとしています。

日本発の新技術

これまでも、炭素繊維、自己収束型光ファイバー、3Dプリンター、カーナビ、エアバッグ、CPUの原型(ビジコン・インテルの4004共同開発)、八木・宇田アンテナのほか、日本発の技術はたくさん生まれています。

  • セルロース(植物に含まれる地球上で最も多い炭水化物)を原料にした「セルロースナノファイバー」は、木材チップ、さらにはパルプを細かくしてほぐしたゲル状の物質です。まず、髪の毛よりも細い繊維故に、その接点の多さから結合力が強く、鉄の5分の1の重さで5倍の強度を有し、プラスチックに練り込み自動車に利用されています。あるいは、発砲材料としてスニーカーのクッションにも利用されています。食物繊維と同じで体内に入れても害がないため、ソフトクリームに入れると長時間形が崩れません。金属イオンを付着させることから銀イオンを保有させた抗菌消臭おむつとしても利用されています。
  • 自然界に存在する酸素の「同位体(同じ元素で重さが異なるもの)」比率は、軽いO16(99.8%)、重いO18(0.2%)ですが、地球上で最も長生きする樹木(年輪)の主成分セルロースに残る、樹木が過去に取り込んだ水(酸素が含まれる)の同位体比率を調べることで、過去数千年の気象変化(干ばつ時は乾燥し軽いO16の水の蒸発が進む)が分かります。
  • 同位体の中には不安定なために放射線を出しながら壊れるもの「放射性同位体」があり、C14の放射線エネルギーを電気エネルギーに変える装置「原子力電池」。放射性同位体が壊れて半減する時間「半減期」は、NASA火星探査車バーシビアランス搭載の原子力電池に使われているプルトニウム238で88年という長期。現在、半減期5730年の核廃棄物、C14を用いたダイヤモンド電池(半導体に人工ダイヤモンドを使用)の研究も進められています。ちなみに、C14は宇宙線を通じて生存中の生体内に採り入れられるので、その減少量から化石の年代特定で調べられるものでもあります。
  • 導電性、加工性、防錆性に優れる(光の三原色・赤緑青のうち青を吸収する故に金色に反射)は既に約19万tが採掘され、残る埋蔵量(自然界にある総量のうち現代の技術・資本で採掘できる量)は約5万tと言われ、注目されているのが都市鉱山。金鉱石1tで約3gなのに対し、スマホ1tで約280gが採掘可能で、それを容易にしているのが「有機王水」です。
  • シリコン太陽電池より安く、塗布するだけなので薄くて軽く、室内照明でも発電できる「ペロブスカイト(灰チタン石)太陽電池」の耐久性、大面積化等の研究が進められています。
  • 静止衛星から地球、宇宙の双方向に伸びる100tに及ぶケーブル(宇宙エレベーター)にかかる万有引力と遠心力に耐える素材として注目されている「カーボンナノチューブ(炭素でできた細い筒)」。炭素原子だけのシンプル=強固な結合故に髪の毛の50,000分の1の細さで鉄鋼の10倍以上の強さ、パイ結合故に電気や熱を良く通し電流耐性は銅の1000倍、2800度までの耐熱性を有しています。
  • 振り子、水晶の振れなど1秒間の振動数を図ることで時を正確に刻む時計。セシウムの振動数(92億回弱/秒)を基にする原子時計(3000万年に1秒しか狂わない)より高精度で、ストロンチウムの振動数429兆弱/秒を基にする「光格子時計(300億年に1秒しか狂わない)」と、相対性理論(動いている方が、あるいは重力が強い方が時間の流れがゆっくり)により、GPSの時刻情報の補正だけでなく、時間の差でわずかな地表の高低差の把握や、地下の比重の大きい鉱脈の発見が可能になります。
  • X線回析法が結晶(大量)でないと解析できないため、「結晶スポンジ」に対象分子を流し込むことで同じ方向を向いた状態を少量で作り出す方法で、苦味成分の物質変化を解析し、より美味しいビールが開発されています。
  • 通常2個ワンセットの「対」で安定する電子を、1個の「不対」で不安定な状態で有する原子・分子・イオン、すなわち「ラジカル」は、周囲の物質から電子を入手しようとします。その代表例が「活性酸素」であり、細菌やウイルス(過剰になれば正常細胞まで)を攻撃します。「」は空気中にある水と反応し、水をラジカルに変えるため、抗菌性を有するのです(新型コロナウイルスの生存期間は、プラスチックやステンレスの表面では2~3日であるのに対し、銅の表面では4時間程度と言われます)。
  • 光で作用する触媒「光触媒」には「葉緑素」のほか「酸化チタン」があり、UVが当たると空気中の酸素と水が「活性酸素」に変化します。なお、自動車の有害排ガス「窒素酸化物(NOx)」も触媒で無害化しています。
  • 細胞と細胞の間のタンパク質が糊の働きをして器官は形を保っていますが、心臓や角膜の再生のために貼り付ける細胞シートを作る際にも、タンパク質が細胞培養シャーレの底に貼り付く問題があり、「温度によって性質が変わる高分子(低温にすると水と吸収しはがれる)」をシャーレ表面にナノレベルで敷き詰める方法が考えられました。
  • ラップやヤモリで有名な「ファンデルワース力」(電気的中性であっても周囲の粒子によりプラスマイナスの偏りを生じることで引力が働く)で、皮膚に電極を貼り付ける「スキンセンサー」「スキンディスプレイ」の研究も進んでいます。
  • 手術(切除)化学療法放射線治療(照射でがんDNAの1本を切断)、免疫療法(オプジーボ、CART-T、iPS細胞由来T細胞など)に続く第5のがん治療として期待される「ホウ素中性子捕捉療法」。がん細胞が採り入れるフェニルアラニン(アミノ酸)にホウ素を結合させ、放射線を照射すれば、ホウ素が分裂しがん細胞を破壊(DNAを2本とも切断でき修復の恐れがない上、ホウ素2粒子は当該がん細胞を破壊するエネルギーしか持たない!)。照射までの時間、ホウ素をがん細胞に留めておく課題の克服に「液体のり(プリビニルアルコール)」が有効とのこと。

産学公連携イノベーション・移民イノベーションの国、米国

そして、宇宙から地球環境、産業競争力、社会、家庭や個人の心に至るまで、世界の課題解決のために、基礎研究(科学・シーズ・創造性)から応用研究・開発・生産・販売(技術・ニーズ・新結合)のリニアモデルを構築すること重要です。しかし、京都と同様、最先端の研究機関と外国人の集積という点で、20世紀以降、先頭を走ってきた米国とは大きな水を開けられています。米国の秘訣は何でしょうか。

  • 大学による科学人材・工学人材の育成2次大戦までの米国では、新製品を生み出すプロセスの複雑化、さらには反トラスト法によってM&Aではなく研究所の垂直統合に伴って、大学で科学を学んだ人材の登用が進みました。一方、大学は、ハーバードなどプロテスタント教会が設立した私立大学から始まった米国においては、大学の役割はあくまでも「真理(科学)の追究」であったため、当初の工学教育の担い手は、フランス等と同様に軍の士官学校でありましたが、やがて、欧州では化学の知識が農業生産に貢献しているとの認識から、大学でのエンジニア育成などの実学を重視する動きも芽生えました。
  • 移民労働者による大領生産・大量消費社会の創出:天然資源は豊富でしたが労働力が不足していた米国は、労働節約型の生産システムを生み出しました。それは、エンジニアが設計した生産計画を、移民という非熟練労働者で対応できるよう、汎用工作機ではなく専用工作機で作る互換性部品を軸とした大量生産システムです。テイラーシステムにより工場の機械装置はそのままで労働者の動作や作業過程を修正して効率性を追求し、フォードシステムにより作業工程を機械化し労働者の介入減少を追求することで加速しました。これにより、労働者は機械のオペレートを同一のスピード、リズムで繰り返すだけでよくなっただけでなく、短い労働時間で高い賃金を得られるようになり、同時に所得格差の小さい購買者層として大量消費市場(マスマーケット)の創出に寄与しました。
  • 移民科学者の活躍を契機とした技術移転・水平連携・政府購入制度の創設:米国では憲法で連邦政府の責務と規定された「国防」「鋳造」「特許」以外のもの、例えば「教育」は連邦政府の責務でないため、国立大学が存在しないなど、当初は国による科学技術振興に消極的でした。しかし、移民科学者等が活躍したマンハッタン計画等が成功した2次大戦以降国防総省等は半導体、コンピュータ、航空機など国防上の重要性が高い分野について、大学や企業の研究開発を支援しただけでなく、自らがユーザーとなり大量購入するようになりました(1982年には省庁予算の0.2%を委託費に充てるSBIR制度が開始)。これにより電子レンジをはじめ、民生品へのスピンオフも進みました。やがて連邦政府としても国際競争力の強化が重要となり、国立研究所の企業への技術移転の義務付け(1988年には中小企業への技術移転支援MEP制度が開始)とともに、反トラスト政策の緩和により企業のM&A(水平連携)( 1988年には)が容易になり、内製化(垂直統合)・暗黙知の日本より、迅速に新事業に進出できるようになりました。
  • 移民フロンティア精神に基づく競争法・知財・標準化が生み出したプラットフォームビジネス:米国では、移民・フロンティア開拓社会という建国・発展の経緯から競争を重要視し、カナダに次いで2番目に競争法「反トラスト法(シャーマン法、連邦取引委員会法、クレイトン法)」を整備しました。また、知識を公共財としつつ、ただ乗りを防ぐための「特許制度」(原理)を整備するとともに、反トラスト法の厳しい目が向けられる中で、標準(インターフェース)の中でもデファクトスタンダード(事実上の標準)が重視されてきました。例えば、最初のメインフレーム(汎用コンピュータ)を生み出したIBMは反トラスト法で提訴されたことがきっかけで、IBM・PC(ビジコンと共同開発されたインテル性CPU搭載)、アップルのPC(マイクロソフトのOS搭載)が生まれ、マイクロソフトのMS-DOS、後のウィンドウズは、やがて付随のウェブブラウザInternet Explorerを無料提供することでインターネット時代のプラットフォームとなりました。反トラスト法がGAFAMなどのプラットフォームビジネスを生み、また提訴しているわけですが、企業による情報提供・垂直統合などの自主規制(キュレーション)も行われているところです。

現在の米国では、移民の方が米国市民より学歴が高い上に、ビザ発行数と米国の特許出願数に正の相関があり、外国人高度人材が増えるほど米国の技術革新が進むと言われています。こうして米国では、素材産業(合成繊維のヂュポン、光ファイバーのコーニング、テープ・不織布などの3M、アルミのアルコアなど)、自動車産業(フォード、GM、クライスラー、テスラ)、航空機産業(民間航空機のボーイング、軍用のロッキード・マーチンとノースロップ・グラマン、エンジンのGM)半導体産業(ロジック半導体のインテル・アップル、メモリのマイクロン・テクノロジー、アナログ半導体のテキサス・インスツルメンツとアナログ・デバイセズ)、医薬品産業(メルク、プリストル・マイヤーズスクリブ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ファイザーなど)、IT産業(通信のAT&T、IBM、インテル、GAFAMなど)が発達させてきたのです。

特区推進と産学公連携

金融戦略財政戦略に続く成長戦略の基盤として規制緩和と産学公連携が重要です。

  • 障壁となる規制の緩和、制度の見直しのために「国家戦略特区」を活用しています。
  • グローバル競争の加速、社会課題の複雑化といった現代の課題に対応するためにも、産学公連携を推進しています。

産学連携の重要性は次のとおりです。

  • グローバル競争の加速に対し、「産」が研究開発を一貫して行うよりも、「学」の研究と「産」の開発の共創により、より速く・より高度な事業化が実現できる。
  • 社会課題の複雑化に対し、「学」の洞察力、見通力の活用がその解決に不可欠となっている。

しかし、「学」は本来研究を志す学者の集まりであり、「学」の知見を還元するには、2つの体制整備が重要です。

  • オール京都、そして各大学において、産学公連携の方針を明確に示すこと【上から】
  • 各学者が、実際に産学公連携の重要性を認識できる交流の場を持つこと【下から】

今後は、全国・世界ステージの動きを捉えながら、より高いレベルでの推進を目指していく必要があると考えています。例えばJST(外部リンク)では、素晴らしいシーズ開発の支援が行われています。

またNEDO(外部リンク)では、素晴らしいイノベーション創出の支援が行われています。

さらに産総研(外部リンク)では、素晴らしい実用化の支援が行われています。

また、中小企業庁(外部リンク)では、中小企業と研究機関との研究開発から販路開拓までの支援が行われてます。

  • 柑橘由来セルロースナノファイバーの革新的製造
  • 独自紡糸法による高容量・長寿命の電気自動車向けリチウムイオン電池用シリコン負極材料
  • 痛みが少なく、投与管理もできる電動インスリン投与装置
  • 強度・難燃性の高いMg合金溶加材の開発と AI制御による溶接技術

海外人材の活用

人口減少社会に突入し、供給面・需要面両方で縮小が見込まれる日本においては、AI・ロボット等の導入による人材不足対策のほか、海外人材の活用等によって、人材不足対策、国内消費の拡大、グローバル・オープンイノベーション(国外市場開拓)の促進を図ることが重要だと考えます(外国人就労者は健康保険や年金にも加入し社会保険を支える仲間ともなります)。

  • 就労制限のない「永住者」「永住者の配偶者等」「日本人の配偶者等」「定住者」
  • 就労制限のある上級の専門技術分野その1:(1)外交、(2)経営・管理、(3)企業内転勤、(4)高度専門職(1号・2号+H14)、(5)研究、(6)技術・人文知識・国際業務、(7)報道、(8)医療、(9)介護、(10)教授、(11)教育、(12)法律・会計業務、(13)芸術、(14)興業、(15)技能、(16)宗教、(17)公用
  • 就労制限のある上級の専門技術分野その2:「特定技能2号(熟練)」。2023年6月に特定技能1号と同様の対象分野となりました。すなわち、農業、漁業、建設、飲食料品製造業、素形材産業、産業機械製造業、造船・舶用工業、電気・電子情報関連産業、航空、外食業、宿泊、介護、ビルクリーニング、自動車整備
  • 就労制限のある下級の専門技術分野:特定技能1号(相当程度)
  • 就労制限のある非専門的・非技術的分野:技能実習
  • 指定範囲内での活動が認められる「特定活動(ワーキングホリデー等)
  • 就労が不可である「留学」「家族滞在」「短期滞在」「文化・研修」

施策

特区・産学連携
人材関係

施策実施状況

特区推進

2013年に大阪府・兵庫県とともに10地区の1つに定められ、2024年1月末時点で、全国では、特区措置64メニュー、全国措置80メニュー(ちなみに、一時期特区でも議題になった電動キックボードは「特定小型原動機付自転車」として新設され、「一般原動機付自転車(一般の原付バイク)」と同様、ナンバープレートや自賠責保険が必要ですが、免許不要(ただし16歳以下は運転負荷)、車道は時速20km以下、歩道は6km以下となっています)や税の特例があり、そのうち京都府では、税の特例(減価償却費の100%(当時)を繰り越して税額控除できる研究開発税制)を含め15メニューを実施してきました。例えば、

  • PETと診断機器との複合化促進
    PETは、がん細胞が好むブドウ糖類似物質から放出される陽電子と、電子との結合で発生するガンマ線を検出し画像化する装置で、がんの早期発見が可能であり、一方、MRIは、強い静磁場の環境で頭や体にパルス状の電磁波を当て、返ってきた信号を計算・画像化する装置で、正確な位置把握が可能です。特区制度で可搬型PET装置による撮影をMRI室で行うことができ、それにより、すかさずMRIによる詳細把握に繋げるもので、延べ50件を実施【京都府提案案件】
  • 血液由来特定研究用具製造
    2020年9月に血液法が改正され全国措置になりましたが、特区制度で「血液由来特定研究用具」も「血液製剤」と読み替えて、血液を採取することが認められ、府内2社が、採取した血液由来iPS細胞の研究ツールとしての販売、試験研究への活用が進展。【京都府提案案件】
  • 特定試験局制度
    無線通信における「実験試験局(科学技術振興用)」免許について、特区制度により、予備審査を行っておくことで申請時即日免許発給ができるもので、電動車両、センサー、トンネル点検車への無線給電を実施
  • 高度外国人材受入促進
    研究、教育、自然科学、人文科学の高度な専門能力を有する外国人で、学歴・職歴・年収等から算定されるポイントが一定(70点)以上の場合、在留活動の優遇(複数の在留活動が可能、在留期間5年、点数によっては永住申請が可能、など)が受けられるが、本府の特定の補助金(エコノミック、産学公の森、等)で支援を受けている製造業等は、ポイント算定時に予め10点を加算(4社認定)。
  • スタートアップビザ(特区)
    事業所の確保、2名以上の常勤雇用又は500万円以上の出資金等の確保という在留資格を、上陸申請時ではなく上陸6ヶ月後に満たす見込みがあれば入国を認めるとともに、当該6ヶ月後に在留更新許可を受ける際、その時点から1年間に限り京都府が認定するコワーキングスペース・シェアオフィスも「事業所」として取り扱うもの(2024年1月末時点で知事証明7件、ビザ取得2件
    対象となるコワーキングスペース等:イノベーション創出コミュニティー(STC3)、Impact Hub Kyoto(外部リンク)engawa KYOTO(外部リンク)Garden Lab コワーキング棟(外部リンク)Serviced Office OFFISTERIA(外部リンク)
  • スタートアップビザ(経済産業省)
    上陸後最長1年後に上記在留資格を満たす見込みがあれば入国を認めるもの(2024年1月末時点で知事証明24件・ビザ取得19件
産学連携
  • 産学公連携機構10周年を機として、京都大学、京都府、京都市等で、2012年に「国際科学イノベーション拠点整備事業(COI)」の採択、2013年に「COI STREAM(最大10億円×9年間)」の採択をそれぞれ受けるとともに、2015年には府・市もオフィスを構え、京大オリジナル株式会社(京大の技術シーズの事業化支援)、京都大学イノベーションキャピタル「iCAP」(京大発ベンチャー等への出資)、関西TLO株式会社(技術移転の支援)等とも連携し、COI棟「KUViC」入居企業(20社弱)や京大の研究室中心に訪問・支援を行っています(年間、研究機関訪問約10件、企業訪問約160件)。
    COI STREAMにおいては、「離れてくらす家族・仲間と日常を共有」する「しなやかほっこり社会」の実現のための通信・センシング・先端医療・予防先制医療に関して、2013年から32テーマ、2016年から15テーマ、2019年から13テーマ、合計60テーマが実施され、特許出願は142件(企業109件、京大7件、共同6件)に及びます。無線給電、フィルム型太陽電池、ミリ波レーダーを用いたバイタルセンシング、iPS細胞培養装置、歩行支援ロボット、育児サポートコミュニケーションロボットなどの開発が進み、既に発売されているものもあります。そしてCOI-NEXT(JST共創の場)としてゼロカーボンバイオ産業創出による資源循環共創拠点について、2021年~育成型、2023年~本格型を進めているところです。
  • 2018年設立の(一社)京都知恵産業創造の森。その「産学公連携推進部(外部リンク)」は、府内中小企業等と、京都の34の大学(京都産学公連携プラットフォームには30大学が参画)とを繋ぐハブとなって、企業の狙う企画に沿う大学研究室を探してマッチングするところからサポートを行っており、年間約20件の橋渡しを実現しています(菓子、化粧品関連の製品化など個別プロジェクトの実現、ワコール・明治国際医療大学との包括協定締結・新ブランド展開の支援など)。その他、大学の研究成果発表会、企業からのリバースピッチ会(約25件)の開催、社会課題解決(年間5件程度)、地域課題解決(年間10件程度)への補助も実施しています。

(その他参考:2025年度京都府当初予算)

  • 学生・教員・研究者と府の協働プロジェクト(補助金)

 

 

大企業 Large companies 

京都は、今やグローバルで活躍する多くのスタートアップ企業を輩出してきました。

  • スマホに搭載される、電圧を安定させる1000個の積層セラミックコンデンサーは村田製作所、電子回路の電流を制御する抵抗器はローム、カメラを保護するセラミック部品は京セラ、振動モーターはニデックといったように、スマホ部品は京都企業の独壇場です。
  • コロナ禍、たった半年でPCR検査装置を開発した島津製作所、海外勢が強いPCR試薬を国内製造する宝ホールディングス(タカラバイオ)、血圧計で有名なオムロンなど、医療分野でも活躍が目立ちます。
  • EV用モーターで世界派遣を目指すニデック、EVにも必要なバッテリーで世界シェア(二輪用1位、自動車用2位)を誇るGSユアサ、全樹脂電子の量産化を進める三洋化成など、コロナ後の世界が目指す「脱炭素社会」の実現にも大きく関わっています。
  • オムロン創業者・立石一真氏による、民間初の企業投資会社「京都エンタープライズ・ディベロップメント」の創設、ニデック創業者・永守氏による京都先端科学大学の改革など、スタートアップ支援・人材育成にも熱心です。

明治維新

1869年(明治2年)、明治維新による東京遷都に危機感を覚えた京都の人々は教育と科学技術による産業振興を行いました。町衆が私財を投じることで小学校を創設、京都府においても、1870年の舎密局(せいみきょく:舎密はオランダ語で「化学」)のほか、博物館、女紅場、画学校、外国語学校、貧民授産所などを次々と設立するとともに、灌漑、上下水道、精米水車、水運、防火、世界で二番目の水力発電による工業振興を目的とする琵琶湖疏水建設(この電力によって、京都・伏見間で日本初の電気鉄道開業)や、京都商工会議所創設、第4回内国勧業博覧会開催などを進めました。舎密局では、陶磁器、ガラス製造などの理化学、印刷技術等を学生に教え、その中には、1875年(明治8年)に島津製作所を創業した初代島津源蔵氏もいました。

  • 株式会社島津製作所
    1875年、教育用理化学器械製造で創業。現在は、分析・計測機器(光吸収分析装置、環境測定機器など)、医用機器(デジタルX線システム、医用画像機器PET・CTスキャナシステム、超音波診断システム)、産業機器(半導体製造装置等の油圧機器、携帯電話等に使用する成膜装置)など。(2023年3月期は、主力の計測機器事業が伸び、売上約4,800億円、純利益520億円(いずれも3期連続増加))
  • 株式会社ジーエス・ユアサ コーポレーション
    X線写真撮影に成功した島津製作所の2代目島津源蔵氏が、1895年に日本初の鉛蓄電池を製造したのが起源(GSは「Genzo Shimazu」のイニシャル)。現在、産業用電池、自動車電池、電力貯蔵用電池、燃料電池、特殊電池など。特に自動車・二輪車用の鉛蓄電池のシェアは国内トップ、世界でも第2位(2023年3月期売上約5,200億円(2割増))。
  • 株式会社任天堂
    1889年に花札の製造・販売からスタート。戦後、トランプ、玩具、ゲームメーカーへと変遷。(2023年3月期は、巣ごもり需要やスイッチ販売が落ち着き、売上約1.6億円(5%減))
  • オムロン株式会社
    1933年創業で、レントゲン写真撮影用のタイマー、家庭用電子血圧計などを開発していました。戦後の高度経済成長下、鉄道の混雑が大きな社会問題になる中で、世界に先駆けて自動改札機などを開発。現在、制御機器・ファクトリーオートメーションシステム事業、電子部品事業、車載電装部品事業、健康医療機器事業、社会システム事業等を展開(2023年3月期売上約8,800億円(1.5割増))。

戦後復興

戦後、京都でも食料増産などの国土復興に向けた取組が進められましたが、国家レベルでは、戦災復興でインフラが整備され始めたこと、1950年勃発の朝鮮戦争による特需で得た外貨を元手にした設備投資による生産増大、労働組合をバックにした賃金上昇による購買力増大がかみ合って、1956年度から1973年度まで実質GDP増減率が平均9%を超える「高度成長期」が始まりました(【高度経済成長モデル】)。この間、1964年開通の東海道新幹線1965年全線開通の名神高速道路などのインフラ整備、1964年開催の東京オリンピック1970年開催の大阪万博などの特需もあって、神武景気(神武天皇即位以来の好景気という意/31ケ月)、岩戸景気(神武天皇よりさらに遡って、天照大神が天の岩戸に隠れて以来の好景気という意、42ケ月)、いざなぎ景気(いざなぎとは、日本神話で、天つ神の命をうけ日本列島をつくったとされる男神/57ケ月)といった好景気が続き、1960年から10年間で所得を2倍にするという所得倍増計画が7年間という短期間で達成されました。資源や食料を輸入に頼る中、主な輸出品目は繊維・織物関係であったものの、インフラ整備、特需、所得増大等を背景に、鉄鋼・造船・化学などの重化学工業や、三種の神器(白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫)、3C(カラーテレビ、クーラー、自動車)などの耐久消費財市場を担う電機産業自動車産業が大きく伸び、1968年には、西ドイツを抜きGDPベースで世界第2位となりました。そして「全国総合開発計画」が1962年閣議決定されました。一方で、公害や環境破壊、東京一極集中による地方の過疎化、大企業と中小企業の二重構造が進み、1956年下請代金支払遅延等防止法1963年中小企業基本法1970年下請企業振興法が制定されました。

  • 株式会社村田製作所
    1944年創業。当時の数少ない娯楽だったラジオの温度補償用に使われた円筒形の磁気コンデンサを製造(清水焼の上絵付の技術が電極の焼き付けに応用されたと言われる)。現在は、セラミックが持つ優れた高周波特性を持ち、小型で大容量を実現できる積層セラミックコンデンサーで世界一。その他、表面波フィルタ、MEMS センサ(加速度センサ)など(2023年3月期は、先進国、中国のPC・スマホ市場の低迷により売上約1.7兆円(7%減))。
  • 株式会社堀場製作所
    創業者の堀場雅夫氏は学生時代に原子核物理を研究していたものの、GHQによって原子核の研究を禁止されてしまったため、1945年、コンデンサー事業で創業。現在、自動車計測システム機器、環境・プロセスシステム機器、医用システム機器、半導体システム機器、科学システム機器等の事業を展開し、特に、エンジン排ガス測定・分析装置(分子の赤外線吸収を利用した計測方法で成分検出する仕組みなど)分野で世界トップシェア
  • ローム株式会社
    創業者の佐藤研一郎が、大学在学時に考案した「炭素皮膜抵抗」の特許を元に1958年創業。現在は様々な機能を顧客の要望に応じてカスタマイズする「カスタムLSI」(アナログ半導体)が主力で、国内の集積回路のトップシェアを誇る。また、高速動作、低抵抗、高温動作によってエネルギーロスの大幅削減をもたらすSiCパワーデバイスにも注力。(2023年3月期は、EV向けLSI需要増などで2期連続過去最高売上約5,000億円)
  • 京セラ株式会社
    1959年、清水焼窯元が創業した会社で得た経験を生かしファインセラミックス製造業として設立。現在の事業領域は、さらに情報機器、半導体部品(半導体を保護するセラミック・パッケージの世界シェア7割)、電子デバイス、太陽光発電、医療、ヘルスケア関連に及ぶ。(2023年3月期は、半導体向け需要増で売上約2兆円(1割増))

オイルショック対応

1973年の固定相場制から変動相場制への移行に伴う為替差損による輸出産業の大打撃、同年10月の第4次中東戦争を発端とする中東産油国の原油輸出制限に伴うオイルショック(原油価格の大幅上昇)による総需要抑制政策などの結果、1974年には実質GDPが戦後初のマイナスとなり、1974年度から1990年度まで実質GDP増減率約4%の「安定成長期」へと移行しました。税収不足により1975年度から赤字国債が発行され恒常的な財政赤字が始まりましたが、産業界は、そうした危機を乗り越えるため、工場の海外移転、経営の合理化・省エネ、素材産業や重厚長大産業からエレクトロニクスなどのハイテク産業への構造転換を進めました。また、自動車産業等においても、フォードの少品種大量生産の「フォーディズム」ではなく少量多品種生産を可能とする「ジャスト・イン・タイム方式」、それを支える系列(「部品は下請け、メーカーは組立」「資金は系列銀行」)からなるモデルが確立されました(【企業集団モデル】)。京都においては、1978年の提言を皮切りに関西文化学術研究都市、1981年に京都縦貫自動車道の建設がスタートしています。
しかし、1985年のプラザ合意に伴う急激な円高で、工場の一層の海外移転が進み、産業の空洞化が生じる一方、政府・日銀は、金融緩和(低金利政策)を採り、円安促進(円高対策として金利の安い円から他の通貨への変換による円安を促す)と、内需拡大(低金利で資金を借りて設備投資を促す)を目指した結果、資金が設備投資だけでなく、株式や土地投機にも使われバブル経済が発生しました。またこの頃、行政改革の一環で、1989年の消費税導入、国鉄や電電公社の民営化が行われました。

  • 株式会社ニデック
    1973年設立。スマートフォン、PC、車などの様々な用途に使われる精密小型モータで世界を席巻HDD向け精密小型モーターの世界シェア8割)。
    「まずは理想」と、設立初日に3名の社員を前に「1兆円企業を目指す」と明確なビジョンを1時間45分にもわたって語ったという永守氏。小さい会社は給料その他資力では勝てないからこそ、人心を掴むことを重視してきた。
    「経営は原理原則どおりにすれば簡単だ」との考えがあらゆる場面で生きる。価格設定では、「売値は市場で、原価は自社で」と、コストダウンや価格に関する感性を常に磨き、顧客離れや競合登場を許さない売値設定も追求。M&Aでは、「経営」立て直しをしやすい大幅に経営状況が悪い企業の中で、「技術」「人材」を抱える大手企業の関連会社に絞る。資金繰りでは、創業間もない頃に、取引先の不渡りで何度も倒産の危機に見舞われた経験から、不動産や設備も半分はキャッシュで払っても残りは分割払でキャッシュを残すなど、キャッシュフローを重視。
    当時は新興ベンチャーというだけで相手にしてくれない日本から、飛び込んだ米国で品質を見極めて大手が取引に応じてくれた経験もあって、世界中に事業を残し社会に貢献する夢とロマンのため、「企業価値の向上」を最大の目標にした「企業成長」が真骨頂。経営環境が安定している時には踊り場と捉え、危機の時にこそ常に各業界のトップメーカーを取引先に見据えてチャレンジをするというのも理に適う(そういう時には金融機関、取引先も融資先・新規取引先が少ない)。半分は自力で、もう半分はM&Aで、時間をかけてジグソーパズルのように事業ポートフォリオを埋めていく。さらには現地法人で稼いだ分は現地で再投資して現地に貢献しながら、為替差損対策としても常にグループ全体で債権債務のバランスをとる。
    16歳から株式投資を行い、自らも同社最大の個人株主である永守氏は、株主にも長期的視点を説く。2021年3月期の連結売上は京セラを上回り、2020年代のEV、さらには2050年のロボット社会を見据えている。2023年には社名をNidecにする予定。(2023年3月期は、過去最高売上約2.3兆円、EV化の流れを掴むトラクションモータシステム等で攻勢をかけておられます)

バブル崩壊対応

1989年に日銀が行った金融引締(金利の段階的な引き上げ)、1990年に政府が行った総量規制(土地関連融資の抑制)というバブル経済抑制策をきっかけに、バブルが崩壊。途中、米国中心に起こったインターネット・バブル(2001年の世界同時多発テロもあって崩壊)、いざなみ景気(いざなぎの妻、いざなみから命名/戦後最長の73ケ月)、アベノミクスによる好景気(71ケ月)もあったものの、現在に至るまで実質GDPは漸増で推移しています。この間、世界ではPC産業を中心に新しい動きが起こりました。すなわち、デルが汎用部品の内製化したことがきっかけで、垂直統合から水平統合への動き、インテグラル型(すり合わせ)からモジュラー型(デジタル技術のモジュール化)への動きが加速するとともに(【ダイレクトモデル】)、マイクロソフトとインテルによって、性能を握るのはOSとCPUだとハード主導からソフト主導への転換がはかられました(【ウィンテルモデル】)。そんな中、「失われた30年」と言われる日本は「集団浅慮」に陥ってしまったのかもしれませんが、国においては、(1)「全国総合開発計画(1962年閣議決定)」は何度かの変遷を経て現在の「新たな国土形成計画(2015年閣議決定)」となる中で、地域間格差の是正、地域の自立化へと目的が変化してきました。(2)「新産業都市建設促進法(1962年)」も何度かの変遷を経て現在の「まち・ひと・しごと創生法(2014年)」となる中で、国主導の重工業支援かた、ハイテク産業集積、地域の自立化のためのイノベーション創出支援へと目的が変化してきました。(3)「中小企業基本法(1963年)」も、1999年に経営革新や経営基盤の強化等の基本方針を盛り込む中小企業基本法改正が行われました。京都府においては2013年制定の小規模企業活性化法2014年制定の小規模企業振興基本法に先んじて、2007年に中小企業・小規模企業を総合的に応援する中小企業応援条例を制定し、2008年のリーマン・ショック2011年の東日本大震災2020年以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大などが起こる中で、各種施策を展開してまいりました。

 

施策

 

 

中小企業 Small and medium-sized enterprises 

  • 京都企業紹介京都起業支援コミュニティ
    京都企業紹介(業種別) 京都企業紹介(五十音順)
    「企業を訪問したことがない」
    2015年、部下の驚くべき声を踏まえ、訪問する理由として「インタビュー」を思いつきました。訪問して何もツールがなくても、これなら訪問理由が成り立つし、初めての訪問でも根掘り葉掘り尋ねることができます。おかげで、数百社のインタビューを実施してまいりました。
  • シェアリング補助金、産学公の森補助金
    「引き合いが多くて、注文を受けきれず、府外に仕事が流出している。だから、中堅企業が零細企業に、機器を貸し出して、京都全体で仕事を逃さないようにしたい」という徳のある中小企業様の声をヒントに「機器やノウハウをシェアリングする」ための補助金や、社会課題を解決するために産学公が連携するための補助金を創設してきました。
  • 中小企業融資
    2009年.リーマンショックが起こる半年ほど前から、世界は原油高の影響を受けていました。そこで、運転資金の融資期間は5年という「常識」を破り、2倍の10年とすることで、月々の元本返済額を2分の1として、中小企業の資金繰りを安定させる制度を創設しました。今では、多くの運転資金の融資期間が10年になっています。
  • 事業継続・創生支援センター
    経営者の平均年齢が60歳に近づいてきているという話を聞いた2013年。事業承継の課題を聞いて回ったら、最も大変なのが後継者不在の企業。そこで、後継者不在企業に、起業家マインドある人を入社させ、後継者として育てながら、やがて事業承継するという「京都方式」を推進するため「事業継続・創生支援センター」を創設しました。

 

コロナ・紛争等に伴う「緊急対策」

「コロナ禍の行動変容」と「戦争」がもたらした「供給網構造問題」と「インフレ」【状況】

脱炭素対応の影響、国際情勢の影響などもありますが、政府が強制ロックダウンしたデンマークと、国民の自主性に任せたスウェーデンで経済被害に大きな差が出なかったことが示すように、日々流れてくるパンデミックの感染被害情報が人々の「警戒心(恐怖心)」を喚起し、消費者や労働者の「行動変容」を世界的に「同期」して起こしました

その結果、まず、供給網を中心に構造的な問題が明らかになりました。

  • 感染拡大による港湾関係者の出勤減に端を発するコンテナ不足その他の物流の混乱
  • グローバル化によって分散されてきたサプライチェーンの脆弱性
  • 日本の場合は、デジタル化の遅れの露呈
  • 国内の立地面では構造的な変化が見受けられました。2022年1月の全国の公示価格(土地取引:公示価格(国交省、1月1日時点、約2万6,000カ所)、基準地価(都道府県、7月1日時点、約2万カ所)、相続・贈与税算定:路線価(国税庁、1月1日時点、約33万カ所))は、平均で2年ぶりに前年比増に転じました。工業地は巣ごもり需要増による物流施設用地などの上昇が目立ちました。商業地も上昇するもコロナ禍での通勤者減によるオフィス街の低迷が目立っています(大阪がマイナスである一方、京都はインバウンドが減少するも国内観光客の需要が高いこともあって増加に転じました)。住宅地はテレワークの拡がりによる郊外の住宅地需要増を反映しました(それ故、コードレススティック型は伸びていますが、ロボット掃除機は全体として減少)。

次に、こうして経済全体で需要と供給が釣り合わず(供給不足が生じ)、世界的なインフレが起こっているのです。リーマンショック以降、IT関連など一部を除いて技術革新が頭打ちする中で、企業は少しでも安く生産できるよう生産拠点の「グローバル化」を進め、世界的には低インフレの時代でありました。しかしパンデミックによって、世界はインフレの時代に突入しているのです。

  • リーマンショックは「人災」であり、経営破綻したリーマン・ブラザーズの債権を抱える金融機関からの連鎖が国境を越えて「需要(消費と投資)」に影響を与えました。
  • 東日本大震災は「天災」であり、機械や設備を壊し「生産」に影響を与えました。
  • パンデミックの初期(2020年)は、「消費者」の警戒心が「対面型サービス(その場で消費されるもので国境を超えず為替相場に影響を与えない)」の「需要」を減少させ、一方で「モノ」の「需要」は増えました。「サービス」は、人件費が多くを占めており価格硬直性が高く価格が下がりにくいものですが、原油や農産物などの「モノ」については価格硬直性が低く、価格が上昇しています。
    パンデミックの中盤以降(2021年以降)は、特に海外では「労働者」の警戒心が「生産能力(供給)」の低下を招きました(初期に需要が低迷したサービスに関わる離職者も戻らず、サービス供給能力の低下を招いています)。

ここにロシアのウクライナ侵攻に端を発する世界の情勢不安が重なり、1990年代後半の金融危機以降、賃金と価格が動きを止めたままの慢性デフレであった日本においても、様々な影響が生じています。

  • 部材の不足
    部品調達に関しては、企業人において心労にも繋がっており心配されるところです。初期の主な原因は次のとおりです。
    プリント基板用コネクタ等の樹脂成形品の不足:原料であるナイロン6,6(電子部品や自動車等で用いられる、耐熱性・強度の優れたナイロン)の不足、正確には、ナイロン6,6の原料である化学材料アジポニトリルの不足(その合成が技術的に高度でメーカーが限られていること、その中で中国の工場の爆発事故さらには2020年の米国の寒波等で数ヶ月生産が停止したこと、EVやゲームなど需要が増加していること)
    半導体デバイス(及びそれを搭載する製品全般):5Gの実用化、コロナニーズなどの需要急増、コンテナ不足などコロナによる供給体制の逼迫、旭化成・ルネサスなど工場火災などの不足の事態などが重なった。そもそも半導体、特に最も需要が多いICチップは、代替品に変更することが困難であることも要因(それを組み込む装置を動かすソフトウェアの変更が必要となるため)(ただし、供給不足で好調であった半導体市場ですが、中国経済の減速懸念やインフレを受け、2022年春を境にDRAMの在庫がだぶつき価格が3割ダウンするなど、別局面の新たな懸念も生じています)
  • 原材料価格の高騰
    原油や鉄等は、基本的に需要が高いものである一方、脱炭素の流れを受けて投資(産出)が抑制され、投機筋も絡むなどして高騰基調が続いています。原油に関しては、OPECの原油産出の抑制に対し、米国等でシェールオイル・ガス(地下深くのシェール層に閉じ込められたままの石油・天然ガス)の開発が進められていますが、レアメタル(経済産業省指定31元素)、レアアース(バッテリーに使われるコバルト、永久磁石に使われるネオジム、レーザーに使われるYAGなど世界標準17元素。一般にマグマで生成され、N核軌道(原子の内側からK,L,Mの順)に電子の「空席」がありつつ外側のO核に電子があるもので、超電導・強磁性のほか触媒・光学・蛍光などで優れた特性を有する。キャノンはレアアースではなく鉛を用いて有機ELを開発することに成功)はもちろんのこと、鉄は過去数十年において経験したことのない価格上昇をしています。
    --鋼材(鉄筋、鉄骨、H型鋼、薄板、厚板等:建築用の鉄筋・鉄骨については、2010年から2020年までは、鉄筋が50,000~75,000円/t、鉄骨が62,000~89,000円/tで推移してきましたが、2022年8月では、それぞれ124,000円/t、126,000円/tまで上昇しています。また、工業用のH型鋼・薄板、厚板も2倍程度に跳ね上がっている様相です。その原因は、「原料価格の上昇」(鉄筋は、電気炉で生産され主要原材料は鉄スクラップ、鉄骨は、高炉で生産され原材料は鉄鉱石と石炭で、いずれの原材料も2倍以上に高騰)もありますが、コストに占める割合は大きくなく、自動車・造船など「コロナ禍からの需要回復」、CO2排出削減のための「鉄鋼メーカーの供給制約」(高炉から電気炉への転換の大きな流れはあるものの、高付加価値化・大量生産の実現にはまだ遠い)による影響が大きいと考えれらます。
    --アルミカット材:「ボーキサイト」「地金(輸入)」「合金(大手製鋼所)」「アルミカット材(地域商社)」というサプライチェーンの中で、地金の輸入価格は2倍以上(2021年初旬約280円/kg、2022年春約480円/kg)になっているものの、コストに占める割合は大きくないはずですが、従前の1.5倍程度で高止まりしていると言われています。
  • エネルギー価格の高騰
    電気料金も値上がりしています。日本卸電力取引所(JEPX)の価格に連動して電気料金単価が変わる「市場連動型プラン」もありますが、「従量電灯プラン」など一般的な電気料金は次の要素で構成されています。
    --基本料金(大手電力会社は発電・送電・小売を内製化しているものの設備費がかかる。新電力は設備費はからないものの、仕入れが必要。新電力は、FIT(FIP)の交付金を見込んで営業人件費を押さえたり、さらには検針票を発行しない、支払方法を限定するなどコスト削減に取り組むことで、中には基本料金無しのところもあります。)
    --電力量料金(燃料費調整額除く)=1kWh単価(省エネ促進で使用電力量累進(東京電力従量電灯B19.88円~30.57円)。統計から見込む「基準燃料価格」が含まれる。)×月使用電力量(kWh)
    --燃料費調整額=1kWh単価(過去3カ月の「平均燃料価格」「基準燃料価格」差額を2カ月後に反映。東京電力EP従量制2021年6月-3.29円→2022年1月-0.53円→2022年6月2.97円(外部リンク))×月使用電力量(kWh)
    --再エネ賦課金(再エネ発電から電力会社(小売)が電気を買い取る費用の補填原資)=1kWh単価(2012年度0.22円→2021年度3.36円)×月使用電力量
    このように、新電力の場合、仕入れを主とし、薄利で供給するビジネスで、利益を確保するために多売先行で動いた結果、価格急騰に耐えきれず破産、撤退するケースが生じてきています。設備費がかからない分、原価における材料費が大きく、今回値上げ幅が大きいです。仮に倒産した場合、新しい電力会社に切り替えるまでの間は、旧来の大手電力会社が電気を届けます(最低保障料金となるため、一般に民生であれば標準的な電気料金の2割増、入札で個別に契約している大規模施設等の場合はさらに大きな増加となります)。
    現在問題となっているのが、先の見えないコスト値上がりのため、大手電力会社すら契約更新(入札)に応じられず、最低保障額への変更となり、結果として電気代が数割増となることです。
    また、銅線の高騰等によりキューピクルの価格が2倍以上、LPガスも数倍で高止まりしていると言われています。
  • 輸出恩恵が少なく輸入コストが高まる円安の進行(国内回帰へのチャンスでもある)
    世界で広がる金融引締の流れの中での金融緩和(低金利)の維持、資源が少ない国故に物価上昇率が低い中で輸入コスト増加の拡大などによって円安が進んでいます(低金利の日本円で資金を借りて、金利が高いドル等に転換して(円安へ)運用し、利ザヤを稼ぐ「円キャリートレード」の拡大が、円安をより後押しします)。日本での生産を想定すると、円安により輸入部品価格が上昇し、国内販売分は価格転嫁しない限り利益が縮小、輸出販売分は円安により売上価格が上昇(あるいは価格を下げて売上拡大)ということになるわけですが、企業の海外生産が進み、輸出恩恵効果が乏しい一方で、エネルギー・原材料価格の高騰が一段と輸入コストを引き上げています。ただしこれは、全体としては輸出企業を中心にGDPを引き上げる効果があるとともに、生産拠点の国内回帰へのチャンスでもあります。(経常収支=貿易収支(輸出(価格(為替変動)×量(景気変動))ー輸入(価格(為替変動、実態変動)×量(実態変動)))+サービス収支(輸送、旅行等)+所得収支(外債の利子)+経常移転収支。2021年度の経常黒字は12.6兆円と原油高等の影響で14年ぶりの低水準)
  • 賃金停滞からの賃上への転換
    これまでの日本は、宿泊・飲食や医療・福祉分野を中心とした非正規雇用の増加です。これによって、女性の年齢階層別労働人口比率の「M字カーブ」が消滅するなど、女性の社会進出が進んだ面もありますが、1997年を100とした場合、2016年でスウェーデンが138.4、フランスが126.4、米国が115.3なのに対し、日本は89.7と大きく下回っており、2020年も平均給与は433万円と前年より下回っています。しかし、2023年の最低賃金引上げなど賃金停滞からの脱却を図る動きが出てきています。なお、パート・アルバイトには様々な壁があります(100万円の壁:住民税がかかる、103万円の壁:所得税がかかる、家族手当に制限をかける企業も多い、106万円の壁:一部の企業で厚生年金保険・健康保険への加入が必要、130万円の壁:国民年金・国民健康保険への加入が必要、150万円の壁:配偶者特別控除が減り始める、201万円の壁:配偶者特別控除がゼロ)。配偶者に扶養される人がパートなどで働き、年収が130万円以上となると、従業員100人以下の企業でも、扶養から外れて国民年金(月額1万6520円)と国民健康保険(自治体・収入によって異なる)の保険料を払う必要が出て、結果として手取りが減ってしまう「130万円の壁」について、政府は、2023年10月から「事業主の証明による被扶養者認定の円滑化」という暫定措置により、 パート・アルバイトで働く人が、繁忙期に労働時間を延ばすなどして一時的に130万円以上となっても事業主がその旨を証明することで、2年間は引き続き扶養に入り続けられるようにしており、これにより、パート・アルバイトで働く人は国民年金・国民健康保険の保険料支払の負担を回避できます。
  • 生産性停滞
    OECD加盟国の時間当たりの生産性(2019年)は、1位のアイルランドが108.2ドルであるのに対し、21位の日本は74.9ドルと大きく水を開けられており、生産性向上のための設備投資や働き方改革で出遅れてきた影響が反映しています。
  • 付加価値停滞
    一人当たりGDPが米国で127.6千ドルなのに対し、日本はG7諸国中最低の77.8千ドル(2019年)で、1995年頃から横ばいです。何より深刻なのは、これまで世界的シェアを誇る電子部品を生み出すグローバル企業、そのマザーマシンの部品づくりを支える中小企業の存在が象徴する「精緻さ」が京都の強みでしたが、AI、IoTなどのDXによってナノレベルの加工も機械が実現し、職人技に取って代わるようになっています。

では、業況はどうでありましょうか。

  • GDP:2020年度の国内総生産GDPの対前年比(実質/速報値)マイナス4.6%となり、リーマンショック(アメリカ経済は、世界経済に対しGDP約2割、決済通貨6割超、上場企業時価総額5割超、債権時価総額約4割と、大きな影響力を有している)が起きた08年度のマイナス3.6%を上回り、比較可能な1995年度以降で最大の下落となったものの(雇用調整助成金の利用ではリーマンショック時の4倍)、そこから回復を辿り、2021年度の工作機械受注は、半導体製造装置向けなどの受注が伸びて、対前年度比7割増、過去3番目の高水準の1兆6,677億円に達し、2022年度の国の税収は約68兆円となり、3年連続で過去最高を更新しました(5Gや脱炭素関連技術の実用化の加速、コロナによる巣ごもり需要の増加を背景に法人税収が増えた2020年度に対し、2021年度はコロナ禍からの経済回復や円安による輸出企業の好業績を反映して法人税が約14兆円(+2兆円)、大企業から株主への配当が増えたことなどで所得税が約21兆円(+2兆円)、個人消費の回復、年度後半の物価上昇の影響もあり消費税も約22兆円(+1兆円))(ただし、そもそも利益計上法人は法人数全体の約3割にとどまり、残る7割が欠損法人である(外部リンク)日本の実情に留意する必要があります)。2023年7-1月期においては食料品消費減等で3期ぶりにマイナス(年換算-2.9%)となりました。
    --GDP(生産面):国内経済において生産されたすべての財・サービスの付加価値額の総額
    --GDP(所得面):(雇用者報酬) 【家計・政府(社会保険等)】+(営業余剰・混合所得+固定資産税減耗)【企業】+(間接税-補助金)【政府(消費税等)】
    --GDP(支出面):消費【家計・企業】+(投資+輸出-輸入)【企業】+政府支出【政府】
  • 景況内閣府「月例経済報告」(2023年12月)、京都府「京都府経済の動向」(2023年12月)では、「景気」は緩やかに持ち直し、「先行き」は海外動向を注視とされていますが、日銀京都支店「管内金融経済概況」(2023年12月)では、「物価」上昇、「公共投資」高水準、「生産」弱め、「設備投資」増加(半導体、新規出店、省人化)、とのことです。京都産業21「ものづくり中小企業景況調査」(2023年10月~12月)では、「採算状況」「資金繰り」「受注見通し」が悪化とのことである一方、京都商工会議所「経営経済動向調査」(2023年10月~12月)では、「消費」「物流」は年末需要で、「人流」は観光客で、それぞれ増加したことにより、小売・運輸・サービス業は「売上」上昇とのことです。
  • 雇用府内有効求人倍率(有効求人数/有効求職者数)1.29倍(2024年1月、前年同期は1231倍)、府内完全失業率(完全失業者/労働力人口)(外部リンク)2.4%(2023年10月~12月、前年同期より0.2ポイント上昇)です。

つまり、実態は次のとおりではないでしょうか。

1つ目として「部品不足」については、

  • 依然続いているものがある。
  • 一方で、在部品不足に備えて仕入れすぎて在庫がだぶついている企業も出てきている。

2つ目の「価格転嫁」については、

  • そもそも、工事業や製造業においても、競合が多い分野は合見積りなので、価格転嫁しにくいという問題がある。
  • 総括的には、材料費は比較的価格転嫁が進んでいるが、エネルギーコストや人件費は発注先に納入品ごとのコストを定量的に提示することが難しくなかなか進んでいない。
  • 個別の声としては「材料費であっても、新規案件は価格転嫁できているが、リピート品は交渉が難しい」「切削液などの原材料本体でないものは価格転嫁が難しい」「顧客の価格転嫁対応が数ヶ月かかるため、協力企業にもそれまで待ってももらわざるを得ない」といったものがあります。

 

金融財政政策【対策】
スタグフレーション対策

以上のとおりグローバル経済による問題が深まっている一方で日本の賃金・生産性・付加価値は構造的停滞に陥ったままであり、世界銀行は1970年代のように物価高と景気後退が併存するスタグフレーションが生じるリスクを懸念しています。X軸をGDP、Y軸を物価とする需給バランスモデルによれば、需要曲線と供給曲線の交わる点で、GDPと物価が均衡します。

  • 需要曲線:物価が下がるほど需要意欲(GDP)が増えるため、右肩下がり
  • 供給曲線:物価が上がるほど供給意欲(GDP)が増えるため、右肩上がり

物価高騰の場合、供給曲線が上方にシフトするため、需要曲線と供給曲線の交わる点は、左上にシフトし、すなわち、物価が上がりGDPが減少するスタグフレーションが起こるわけです。これの克服は、需要曲線のシフト(例えば減税:下方シフト、増税:上方シフト)では解決できず、供給曲線を元の位置まで下方シフト(例えば、物価高騰の元となっている品物の制限をなくすため、代替品の確保など)させるしかありません。

 
賃上げへの対策

また、失業率を最低に抑えるまで金融緩和を行い、人手確保と経済成長の状況を作り出すことで、物価上昇分+経済成長分の賃上げに自然と向かうことになると言われています。人手確保のためにも実質賃金の引上げは必須でしょうし、それが経済の好循環にも不可欠でありましょう。

 
金融政策と連動した財政政策

そんな中、2024年3月19日、日銀はマイナス金利政策を廃止して「異次元の金融緩和」から「通常の金融緩和」へと転換しました。

  • 金融緩和(金利抑制・マネー増で経済を活発にする)
    公定歩合引下げ、量的緩和(公開市場操作の買いオペレーション、法定準備率引下げ)
  • 金融引締(金利引上・マネー減で経済を抑制する)
    公定歩合引上げ、量的抑制(公開市場操作の売りオペレーション、法定準備率引上げ)

人々がインフレを予想すれば、慌てて買い物をする行動を取り、実際に物価上昇が起こってしまいます。そこで、多くの国の中央銀行は、インフレ目標値「インフレターゲティング」を定めることで、人々のインフレ予想を安定させてきました。それが人々の社会的規範「ソーシャル・ノルム」に影響を与えています。

  • インフレターゲティングが2%程度に設定されている多くの国では、(1) それを超えるインフレ予想による生活コスト上昇予想による「賃上げ」、(2)それ故、ライバルも同調すると確信した上での「価格転嫁」が起こりやすいです(日本でも海外輸入品価格の上昇から徐々にこの兆候が出てきていると言われています)。
  • 物価が変化していない国の場合は、(1)なんらかの事情による労働j需給ひっ迫による「賃上げ」から(2)「価格転嫁」に繋げていけるかどうかが鍵と考えられます。

X軸をGDP、Y軸を金利とするマンデルフレミングモデルによれば、次の3つの曲線が交わる点で経済が落ち着くことになります。

  • IS(投資・貯蓄の財市場)曲線は、金利が低いほどGDPが伸びるため、右肩下がり
  • MP(マネタリーポリシー)曲線は、実物経済(GDP)が伸びるとインフレになるため、中央銀行は金利を上げるので、右肩上がり
  • BP(バランスオブペイメント)曲線は、世界の金利が一定のレベルで収束するというもので、平行線

この際注意すべきは、金融政策と財政政策を連動させる必要があるということです。

  • 財政政策(出動)だけを行った場合、IS曲線が右にシフトし、GDPも金利も上昇し、金利上昇により円高になるから輸出(輸入企業より輸出企業の方が優良企業であるケースが多い)が減少し、結局IS曲線は左にシフトし、元のGDPと金利に戻ります。
  • しかし、金融政策(緩和)MP曲線を右にシフトさせると、金利が下がって円安になって輸出が増加し、IS曲線も右にシフトし、金利が同じままGDPが伸びます。
  • そして、財政政策(出動)でIS曲線を右にシフトさせるとともに(金利上昇)、金融政策(緩和)でMP曲線も右にシフトさせると(金利低減)、金利(為替相場)が変化せず、GDPを伸ばすことができます。

なお、こうした金融・財政政策を支える国家財政や民間投資については、次のようになっています。

  • 国債(政府借金):1000兆円の半分を占める政府から日銀への国債発行については、日銀は紙幣を刷って政府に資金を貸すわけですが、返済については、元金は国債の再発行(借換え)を繰り返し、利子は払いますが後に日銀から政府に納付(日銀は政府の子会社であり、収益は政府に納付するという規定があります)するため、実質利子の支払いが不要と同等です。残る500兆円は利払いがある借金である一方で、政府は600兆円の利息収入がある金融資産を有しています
  • 物価:インフレ・デフレは、モノの量と通貨の量(マネタリーベース=日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金。なお、マネーストック=一般の法人・個人等が保有する現金・預金の残高)のバランスで決まります。モノの量より極端に通貨の量が多くなるとインフレに、逆の場合はデフレになります。生産性が向上している今の日本では、国債発行が増えてもインフレにはなりにくいのではないでしょうか。また、景気の良し悪しとも関係し、需要が減ると物価は下がり、需要が高まると物価は上がります。
  • 為替:通貨の交換比率である為替は、基本的には互いの通貨の総量で決まります。例えば2023年10月のマネタリーベースが、日本670.6兆円、米国のそれは5兆5671億ドルであるため、120円/ドル。為替は動かない方がベターなので、多くの国でインフレ目標が似ているのですが、日本は金融緩和を続ける(マネタリーベースが増えているまま)方針であるため、実際にはより円安の148円/ドルでした。
  • 金利短期金利(1年後)は日銀がインフレ率等を予想しながら決める金利です。長期金利は10年後(将来)の短期金利の予想金利であり10年国債等で用いられます。
  • 株価:日本の時価総額は700兆円以上ありますが、株価とは企業の予想収益を長期金利で割ったものです。
  • 名目GDP一人当たりの賃金×人数です。実際にはマネタリーベースの伸び率と相関があり、ここ数十年の日本のマネタリーベースの伸び率は世界で最下位クラスであり、名目GDPも一定を保ったままいなっており、結果として賃金も伸びてきませんでした。
  • 年金:働き盛りの間に「保険料」を支払い、長生きした人だけが「保険」がもらえる(早く死んだ人は保険料を支払うだけ)という本来安定した制度です。

 

テクノロジー導入促進

以上を踏まえ、日本・京都が当面とるべき戦略は、次のように考えます。

  • 現在、たしかに資材等の物価高騰は大きな課題ではあります。しかし、円安は、資材等高騰を加速させる一方、輸出促進(さらには生産拠点の国内回帰促進)効果があります。
  • また、人手不足による人件費高騰や最低賃金引上げは大きな課題ではあります。しかし、物価高騰、さらには人件費高騰により、慢性デフレからの脱却が図られつつあります(緩いインフレ時代に突入)。
  • そこで、生産性と付加価値の停滞が続き、さらには人口減少構造に突入した日本・京都がとるべき戦略は、AIやロボット等のテクノロジーを活用し、人の役割もシフトしながら、日本・京都の自然的価値・文化的価値を活かして生産性と付加価値向上を同時実現していくことだと考えています。

 

コロナ後の社会の変化に伴う「中長期対策」

2024年2月22日、日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新し、終値は3万9098円とバブル期の最高値3万8915円87銭を超えました(さらに3月4日には史上初の4万円台に突入しました)。近年、企業に株価を上げる努力が浸透していること、円安で輸出企業の業績が好調であること、海外投資資金が中国等から日本(生成AIの台頭などAIチップをはじめ半導体需要の拡大潮流の中でも半導体投資等が活況)・インドに向いてきていること、2024年1月から新NISAが始まり貯蓄が投資に回り始めたことなどが要因と言われています。

そして2024年3月19日、日銀はマイナス金利政策を廃止し、約17年ぶりの利上げへと踏み切りました。

社会の構造的変化【状況】

社会や人々の置かれている環境が大きく変化する中で、「見えないものを見る」すなわち「本当のニーズを捉える」必要があります。子どものように想像力を膨らませて潜在意識から仮説を立て、「真の不」を見つけ「理想」を示し、その間に起こる「感動」を施策、すなわち商品やソリューションにすることが求められているのです。そのためには、「心理状態」や「行動」から探り、ターゲットを絞り込むことが重要です。

  • 心理・行動を探る:例えば「花が好き」だから花屋に行くのではなく「夫婦仲を継続したい」から行くのです。「ビールを買うついでにおむつを買う」のは「子育てで居酒屋に行けない」からです。「募金をする」のも「小銭が邪魔」だからです。
  • ターゲットを絞る:例えば「観賞用」「ギフト用」ではなく「夫婦仲維持用」まで絞り込むのです。あるいは「売上UP方法」「店舗SNS活用方法」ではなく「美容院SNS活用法」まで、「クレカ作りたい方」「クレカ特典が欲しい方」ではなく「クレカ審査が通らない方」まで絞り込むのです。

なお、BtoCに関しては、最近は6つのニーズがあると言われています。

  • 家族:子供の塾、家族の健康など
  • 不安:保険商材、スポーツジムなど
  • 自己満足:癒し、フィギュア、オーダーメイドなど
  • 対人関係:ダイエット、美容院、化粧品など
  • 緊急性:水漏れ、パソコンデータ修復など
  • リターン:コスト削減、集客媒体など

 

ロボット・AI・メタバース時代の到来

たしかに、一部の分野や工程に関しては、ロボットAIの進化はすさまじいものがあります。人の手でナノレベルの表面補正を行ってきた光学分野においても、既に海外のロボットがピコ台の精密さを実現しており「精密さだけ」に特化して見れば、人間はロボットに敵わなくなってきました。

  • 既にロボット、AIを効果的に使うことで、生産性向上と付加価値向上を同時実現する動きも出てきています。量産用工作機に自律ロボットを取り付けることで単品用工作機よりも安く、同等の仕事を成し遂げる工夫がなされたり、生成系AIをむしろ使いこなすクリエイターを育成するワークショップが開始されたりしているのです。

こうしてロボット、AIも使いこなしながら、総合力で問題解決を高めることにより、海外生産から国内回帰への先鞭をつけている中堅企業も登場してきています。こうして「次代を切り開くようなコア機構やサービスを開発できるのは日本、京都だ」と呼ばれる時代を生むことが、日本、京都のものづくり、中小企業の目指すところではないでしょうか。

 

また、買い物はメタバース、という時代もあり得るかもしれません。なぜなら、「検索サイト」「SNS」そして「メタバース」。情報の同期速度の速いプラットフォームが勝利するからです。しかも、メタバースは、現実をより深く知ることもでき、みんなで意思決定することも可能となります。

  • パソコンのウェブカメラ越しに店員さんが商品説明をし、顧客は気に入ればインターネットサイトで購入するという取組が始まっているように、これまでリアル店舗で行われてきた「コト消費」はメタバースに移行し、リアル店舗は商品展示場として、消費者からではなく出品企業からお金を取る形に姿を変えるかもしれません。
  • 商品並べはAI(外部リンク)ロボット(外部リンク)が自動で行い、3D計測機で身体のサイズを採寸し、AIが自動で商品を提案するといった取組(外部リンク)も始まっており、京都の街もショウルームと化し、京都観光に新たな要素が加わるかもしれません。
  • 限界コストが限りなくゼロに近い「サブスク」を活用することで、京都の得意とするニッチな商品群でロングテールを容易に実現できる時代を迎えるとともに、リアル店舗や街の電気工事業等は、貸出品のメンテナンス・リカバリーセンターとしての機能を発揮するかもしれません。

既に自動車や家電、アパレルや薬などの分野でマスカスタマイゼーションの足音が聞こえてきており、モノの流れと逆に情報の流れは川下から川上へのデマンドチェーンを構成し、サプライチェーンは素材、パーツ、色などの「組み合わせ」、さらには3Dプリンタによる「単品」で対応するために、物流のシェアリングの本格化が必要かもしれません。

こうした時代になれば、ものづくり企業は、作り手としての本業に集中できる、すなわち、サブスクなどの新しい活用形態の中でユーザーに求められているユニークな企画・設計、高度な研究開発、優れたUXデザインなど真価を発揮する時代になるのではないでしょうか。

 

プロセスエコノミー時代の到来

事業者が店舗規模を維持できる自治体の人口規模のボーダーラインは、郵便局は600人、コンビニは2,200人~3,800人、喫茶店は1,400人~6,500人、介護老人保健施設は9,500人~2万2,500人、一般病院は1万7,500人~2万2,500人と言われています(国土交通省「市町村人口規模別の施設の立地確率」2020年)。

  • もちろん、現在の買い物は、ヘルスケアや贈り物など分野を特定した「パーティカルコマース」を対象とするような、発見を楽しむ「発見系」よりも、日用品に強いAmazon、ギフトに強い楽天などのように「目的系」が大半です。買う物が決まっている客(ZMOT=Zero Moment Of Truth)はリアルでもオンラインでも一直線に売り場に向かうだけであり、広告宣伝は意味をなしません(なお、2019年、日本ではインターネット広告費(約2兆1,000億円)がテレビメディア広告費(約1兆9,000億円)を超えました)。2010年には、世界中で1年間に流れる情報量は、2010年は1ゼタバイト(世界中の砂浜の砂の数)、2020年には59ゼタバイトに拡大し、昇華しきれない情報があふれる中でCM(最低6回見ないと商品が記憶されないと言われています)はせいぜい「認知」までで、「間違えたくない」という心理を突いた「デジタルシェルフ」や「レビュー」が「判断材料」となるのです。2021年1月時点で世界全体では、Facebook25億人、Youtube20億人、Instagram10億人、TikTok8億人、Twitter4億人のアクティブユーザーがいます。そして、レビューは、買う前だけでなく、買った後のものも重要であり、パッケージの工夫による「開封の儀」など、買ってから始まる顧客体験を演出することも必要となってきます。アメリカではソーシャル映画鑑賞等が興こっていますが、今後は、趣味のつながりなどへの働きかけ(将来はVRで集まるなど)が鍵となってきそうです。
  • 一方、こうしたEコマースに勝てるのは小商圏ビジネスかもしれません。コロナ禍でAmazonよりも、ウォルマート(大量仕入で安い)の方が、店舗に取りに行けば早いということで、より伸びたとも言われています。自宅を倉庫代わりにするフランチャイジーを集め、より早く商品を提供するサービスを始めた大学生のスタートアップ企業が登場したり、Eコマースが伸びる中国でもデジタルと融合した出店ブームが起こったりといったことを耳にします。生活者は「モノ」ではなく「目的」を買っているのであって、こうした1次情報を得る機会は重要です。

「何が当たるか分からないからトライアンドエラー。自分なりの仮説に基づいて作成した動画を発信しまくりウケたものを掘り下げていく」「最初は「自分本位」ではなく「求められる情報の提供」が大事で、まずは、ターゲットを定め、有益な情報を日々発信しまくり、ウケてきてから自分の色を出していく」「単独では難しく、バズっているものとコラボする。だから何がバズってるか絶えず探している」いずれもインフルエンサーの言葉です。なお、YouTubeの通常投稿では、「登録者数」「総再生時間」「18歳以上」「YouTubeの審査合格」など、YPP(YouTube パートナー プログラム)の条件を満たすことで、チャンネルを収益化して報酬を得ることができます。最近流行りのYouTubeショート動画はこの収益化の対象外で、YouTuberの苦戦が聞かれる昨今ですが、YouTubeショートファンドで報奨金を受け取る仕組みも生れてきています(外部リンク)

今後、マスマーケティングの上層にD2C(メーカーが直接個人に販売)、更に最上層にはP2C(個人発D2C)が君臨してくる時代、CS(マスマーケティング)からCRM(1対1)さらにはCX(1対個)へ変化する時代、あるいはマスメディアからマンメディアへ変化する時代となる中、ファーストペンギン、アーリーアダプターを捉え、インフルエンサーと一緒にものを作る、あるいは企業自身の哲学・ストーリーを磨くことが成功の近道かもしれません。

  • Z世代:デジタル生活時代の川上にいるのが「Z世代」(1990年代中盤以降2010年頃までの出生)。不景気、ガラケー第一世代であった「ゆとり世代」が、消費減や同調圧力によるスモールライフ指向であったと言われている一方、アベノミクスなどの好景気と少子化による人手不足、スマホ・SNS第一世代として、チル(まったり)やミー(自意識)の風潮が特徴ともいわれます。チルに関しては、睡眠やリラックスに関する商品が狙い目かもしれません。ミーに関しては、テイクアウトして映えるためにワンハンドで持てることが大事かもしれません。時限フードや時限コンテンツ、過剰ネーミングやギャップのある商品、自撮り「せざるを得ない」ゲームフィルターも流行りました。
  • 流行:嗜好はループする-2023年春時点では、食品は昭和ブーム、ファッションはY2K(Year200)だとも言われます。ファッションでは、10年単位で、細いものが流行れば、次は太いものが、地味なものが流行れば、次は派手なものが、「反動」があります。アーリーアダプターが差別化を図ろうとして取り入れる、服と着こなしの「トレンド」と、自分らしさの「スタイル」の両立が重要なのかもしれません。

 

地下消費時代の到来

現代人は、縦のつながり(時間・歴史・物語性)と横のつながり(人間関係)を求めています。しかし、それにより近年加速する脱消費的消費、趣味的消費は、大きな市場であるにも拘わらず、不要不急の消費であるため前面に出ない「地下消費」です。

  • 脱消費的消費この20年余りの間に、私たちは所得が上がらなくても楽しく有意義に暮す方法を学んできました。安いものを買うこと、フリマ等で古着をはじめ中古品を買うこと、リノベーションなどモノを直して使うこと、自分でモノを売ること、自分でモノを作ることであり、単にモノを消費するのではなく、新しい関わり方を通じて、愛や喜びを感じつつ利益を得ることも知ったのです。
  • 趣味的消費最近増加しているのは、次のとおりです。
    --自分が誰かを「推す(応援する)」とともに、相手からの愛を求める、あるいは癒しを求める「推し活(自分を必要とする無名の人を推す傾向が強く、グッズ販売が伸びている)」、2つの震災やスポーツの報道が増えたことによる、クラウドファンディングなど繋がりを求める「応援消費」、日本の豊かさ感じている人に多い「昭和レトロ(中古消費や修理消費も多い)」です。いずれも背景には、核家族化、未婚化、さらにはコロナ(デジタル化・リモート化)で加速した「孤独」があります。いわば、孤独が消費を増やす側面があるということです。
    --また、コスパだけでなく、大量生産品であっても色のかすれ方など多様で一点物の価値と個性を表現でき、掘り出す時間を楽しめ、昔の人とつながるストーリー性や店主とのコミュニケーションを楽しめる「古着」、外国人も多く買い漁りに来る「中古レコード」も消費拡大しています。これらは、いわば中古品とも言える「地方」やひなびた「商店街」の再生にも有効で、実際にレトロ商店街を古着屋が再生している事例も生れています。これらの背景には「癒し」を求める心理があります。

このように、これまで許容されなかったものが主張を始めたときに、社会と市場は変わっていくのでしょう。

  • 従前:物質志向、拡大志向、私有主義、欧米志向
  • 近年:心の豊かさ志向、素朴志向、人間関係志向、シェア志向、日本志向
  • コロナ以降:スロー、スモール、ソーシャブル、ソフト、サスティナブル

なお、「引き継ぐ」という言葉は、コロナ以降の価値観をよく表していると言えます。中小企業の事業承継にも変化が生まれています。

 

見えないものを見るために-- 文芸理の融合【対策】

これからのロボット・AI・メタバース時代、プロセスエコノミー時代、地下消費時代をどう乗り越えていくべきでしょうか。

  • あるワークショップで、工学部チームと芸術学部チームがそれぞれある介護施設の問題解決に取り組まれたことがあります。前者は仮説を立てて一つずつ検証するといったアプローチを行いました。後者はただただその介護施設のあらゆるところを観察してから対策を考えました。結果、介護施設により喜ばれたのは、後者による対策でした。

このように「見えないものを見る」ためには、「文芸理の融合」が必要ではないでしょうか。

  • 「芸」とは、自社の中の強みを徹底的に掘り起こすことであり、いわば「自分軸・主観的視点(創造性・クリエイション・逆説性、近づいてみる鳥の眼、子どもの無邪気さ、無形資産と時価総額を作る)」です。
  • 「文」とは、ヒューマンインサイト・満足・集合的無意識を捉えるために、知財戦略やビジネスモデル、プラットフォームなど、他社との接続に関する戦略を徹底的に考えることで、いわば「顧客軸・客観的視点(新結合・イノベーション・社会性、流れを見る魚の眼、大人の目線、無形資産と時価総額を拡大する)」です。なお、「オープンイノベーション」は、(1)開発期間が短い(開発コストが低い)、(2)早期市場参入(参入障壁獲得)、(3)早期の新商品導入により大きな初期マージンを獲得し続けられる(GAFAMであっても大きな収益を得られるのは最初の1年程度という時代)といったメリットがあります。
  • 「理」とは、イノベーションの阻害要因である先入観に囚われず、データ解析から問題を的確に捉えるとともに、デジタル化によりローコストで自分軸から顧客軸を繋ぐ、いわば「神や仏の視点(俯瞰する鳥の眼、経済合理性)」です。

なお、一つの例として、ロボットやAIは、人材不足時代において、就労困難者の就労に有効だと考えています。20年後の労働人口数が1500万人減少すると見込まれる一方、障がい者・難病患者・ニート・LGBTQなどの就労困難者数が1500万人(日本の8人に1人)もいらっしゃるのです。

  • 障がい者の雇用率は、年々増加しているものの、障がい者手帳保有者の6%(18歳以上の世帯に区切れば9%)に過ぎず、法定雇用率2.3%(障がい者/常用労働者)を達成している企業は半分以下です。1.5万箇所の就労継続支援事業所(A型、B型、移行型)を卒業し、企業へと移行される方も、全体の6%に過ぎません。職業能力証明の機能を担うジョブ・カードを活かしつつ、就労継続支援事業所で挑戦的な良質な受注案件を増やして実務経験と自信を生み出していくことが重要です。
  • 難病者の場合は、職場で病状を隠し一人で悩んで孤立する傾向が強いです。「医学モデ(個人を治療するアプローチ)」だけでなく「社会モデル(社会の側を改善するアプローチ)」が重要です。

バリアフリー(障害を取り除く)、ユニバーサルデザイン(誰もが)、ダイバーシティ(多様性)、ノーマライゼーション(常態化)、インクルージョン(包括)の視点が重要で、使いこなしやすく進化するロボット・AIの活用、さらにはそれらを使いこなす能力開発こそが、就労継続支援事業所のケイパビリティ、就業困難者自身にとっての解決策ではないでしょうか。こうしたDX(デジタル)、SX(サスティナブル)、IX(インクルーシブ)の一環として、「社会拡張ロボットフィールド」により社会拡張・人間拡張のためのプロジェクトを推進し、将来手金はESG投資、インパクト投資を呼び込みたいと考えています。

 

芸 --知財戦略

「特許(技術の占有)」「標準化(技術の開放)」「競争法(独占禁止法等)」のバランスを保ちながら、オープンイノベーションにおける知財戦略は、「方法」は「秘匿(ブラックボックス化)」して守り、「原理(効能)」は「特許化(オープン化)」して信頼性を高め、「インターフェース」は「標準化(普及)」して市場拡大を図ることが重要です。

まず「特許化」に関しては、新型コロナウイルス感染症が地球規模で蔓延し、経済に大きな打撃を受けた2020年においても、国際特許出願件数は対前年比4%増と過去最高を更新するなど、世界中で留まるところを知りません(近年の特許出願:世界300万件超、日本約30万件(国際出願約5万件)、京都約1万件)。

  • 特許権
    【対象】発明=自然法則を利用した技術的思想(アイデア)の創作(発見ではない)のうち、高度もの(物、方法) (産業利用可能、新規性、進歩性、先願等)
    【手続】出願(発明者(自然人)又は発明承継人(自然人たる従業員を使用する法人など)。方式審査)、出願公開(1年半後)、審査請求(実態審査。3年以内)、登録・公報掲載
    【効力】(1)保護:自ら特許発明実施権(生産・使用・譲渡等)を専有。(2)利用:他者に特許権(全部)移転、他者に実施権(通常実施権(契約で定めた範囲)、専用実施権(譲渡者も含めて排他的))移転。なお、職務発明の場合、従業員が特許を受ければ企業は無償の通常実施権を得るし、企業が特許権、専用実施権等の移転を受けると従業員に相当の対価を払う。
    【期間】出願から20年
  • 実用新案権
    【対象】考案=自然法則を利用した技術的思想の創作で、物品の形状、構造又は組み合わせ(産業利用可能、新規性、進歩性、先願等)
    【手続】出願(方式審査)、登録・公報掲載
    【効力】特許権とほぼ同様
    【期間】出願から10年
  • 意匠権
    【対象】意匠=物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるもの(工業上利用可能、新規性、創作性、先願等)
    【手続】出願(方式審査・実態審査)、登録・公報掲載
    【効力】特許権とほぼ同様
    【期間】登録から20年
  • 商標権
    【対象】商標=文字、図形、記号、立体的形状、色彩の結合したマーク(標章)で、事業者が商品・サービスに利用するもの
    【手続】出願(方式審査・出願公開・実態審査)、登録・公報掲載
    【効力】(1)保護:使用権(専用権)、禁止権(類似物に対する禁止)。なお「団体商標登録制度」の場合は、使用するのはその団体の構成員。(2)利用:商標権・実施権移転など。なお「地域団体標登録制度(全国的知名度がなくとも一定の周知性があればよい)」の場合は、使用するのがその団体の構成員であることに加え、商標権・専用実施権の移転は不可
    【期間】登録から10年
  • 著作権
    【対象】著作物(思想又は感情を(単なるデータは不可)、創作的に(単なる事実は不可)、表現したものであって(アイデアは不可)、文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属するもの(芸術的建物、コンピュータプログラムは含む。農産物、工業製品、出版は不可)。創作性の高い二次的著作物を含む)、著作隣接物(実演、レコード、放送・有線放送)(出版は不可)
    【手続】無(著作者(自然人又は法人(職務上の創作の場合は、自然人たる従業員ではなく、使用者たる法人)による創作)
    【効力】(1)保護著作権は、譲渡・相続できない著作人格権(公表権、氏名表示権など)、譲渡・相続できる著作財産権(複製権、上演・演奏・上映・公衆送信・譲渡・貸与等の権利、二次的著作物創作権・利用権)。著作隣接権は、実演家には実演家人格権財産権(利用許諾、利用報酬請求)、その他には財産権(2)利用:財産権、使用権(実施権)の移転
    【期間】人格権は生存中、財産権は生存中及び死後(無名、団体、映画の場合は公表後)70年

次に「標準化」は、産業革命を起こした蒸気機関、紡績機等においても既に採り入れられてきました。技術の普及には、従来技術との比較優位性、既存行動との適合性、分かりやすさ、試用可能性、可視性の5つが重要だと言われるように(E・ロジャーズ)、単純化・統一化により互換性を確保する必要があります。

  • 市場競争の結果として生まれた事実上の標準「デファクトスタンダード」
    自社のみの努力で実現でき、技術は非公開であるため、利益に直結します。
  • 通常の「標準」
    その取扱いは諸刃の剣でもあり戦略が重要となってきます。
    供給者側には「参入が容易(「すり合わせ」から共通規格の既存部品の組み合わせで済む「モジュラー化」が進むため)」「開発・製造コストダウン」「市場拡大(ネットワーク外部性、スイッチングコストによるロックイン(顧客囲い込み))」と、かつての日本、現在の新興国のように、安く作れる者にとってはメリットがありますが、「技術漏洩(参入障壁減少。モジュラー化で共通規格の部品さえ作れれば参入可))「差別化困難・非標準品市場開発困難」「販売価格低下」といったデメリットがあります。
    一方、需要者側にとっても「調達互換性拡大」「調達コストダウン」「調達量・品質の安定」というメリットと、「製品選択肢の減少」「購入品へのロックイン」というデメリットが並立しています。
    従って、供給側の戦略としては、シェアを落としてでも市場全体を拡大する戦略、あわせてユニット化する標準化していない部品で差別化を図る戦略(標準化の周辺に特許を配置する戦略)、自社規格を公的標準化することでライバルの参入を抑止する戦略(コンデンサーメーカーでは、これによってセットメーカーへの提案型ビジネスを展開し、回路モジュールまで設計)、他社と調整して技術を統合するのではなく、互いの技術それぞれを標準規格とするマルチスタンダード戦略などが必要です。
    一方の需要側の戦略としては、競合他社より調達コストを下げるなら一定の範囲のみ(例えば日本のみ)で標準化を行う戦略などが考えられます。
    なお、標準化の手法は、製品標準化の場合は、様々な製品の平均をとるなどなされますが、特に検査標準化の場合は、その方法で測ると、性能差があることは一目瞭然だが、なぜその性能差が実現できているのか、どこをキャッチアップできるのかは分からない試験方法であるべきと言えます。
  • 一般に認められている団体によって認証される「デジュール標準」
    世界三大標準化機関(IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)、ISO(国際標準化機構。ISO9000シリーズ(品質マネジメントシステム)、ISO14000シリーズ(環境マネジメントシステム)等))によるもののほか、製品安全4(電気用品安全法、ガス事業法、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律、消費生活製品安全法)、CEマーキング法(EU地域に販売される指定の製品の適合性評価。自主宣言と第三者認証がある)、CCC(中国における製品第三者認証制度)、JISマーク表示制度(本来強制力はないが法律で引用されるケースも多い。2005年改正以降、民間認証機関による製品認証制度)、地域団体商標(加入自由な組合が組合員に使わせるもので、産地・販売地、原材料など一般的な用語で登録可能)など様々なものがありますが、主に供給側と需要側の間に立って「信頼性を高める」ものです(地域団体商標と合わせて独自の地域ブランドで差別化を図る取組も行われることがあります(今治タオルなど))。
    一方、SIAAマーク(抗菌加工製品。持続性試験後の抗菌活性値が無加工品と比べて増殖割合1%以下の場合に「抗菌加工品」と呼ぶ。JIS化、ISO22196でも「KOHKIN」の記載あり)など「差別化を図る」ための認証もあります。
  • 標準化しようとする技術の中に特許が存在する「標準必須特許(SEP)
    標準規格に必要な特許を指しますが、特許保有者自ら判断・宣言するもので、例えば5Gに関するSEPは約4万1,000件と言われるものの、実際に活用されているのはその3分の1程度という調査結果もあります。パテントポリシーが標準化団体で決められていたり(特許の排除、無償提供等)、パテントプールが特許の一括管理したりといった仕組みがあります(クアルコムのように対象技術の製造部門は売却して、特許ライセンス料だけで収益を上げる例も)。欧州は認証ビジネスが盛んで、ジュネーブに本社を置き、従業員8万人、世界140カ国に展開しているSGSなどの認証機関が数多く存在します。

 

文 --ビジネスモデル・プラットフォームによりQCDからVPS

QCDだけでなく、V(顧客にとっての価値)P(プラットフォーム活用)S(シナジー)の時代です。GAFAM、BATをはじめとするプラットフォーマーが席巻している現代において、それらといかに組んでいくかを考えることが重要だからです。プラットフォームも多階層化していることに加え、プラットフォームの発展に伴い周辺のエコシステムの構築にローカルのツールが必要となっていること、さらに、巨大プラットフォーマーになるほど汎用化し独自性のあるビジネス主体との連携を求めており、地域の中小企業には自社ビジネスの発展の大きなチャンスとも言えます(例えば百貨店なら新宿伊勢丹、梅田阪急、名古屋高島屋、ファッションならミラノ、パリ、NYの各コレクション(そのための登竜門として東京コレクション)、ゲームならBitSummitなど、プラットフォームをうまく活用すること)。

ただし、同じ製品でもリブランディングするだけで、倍の価格で売れるケースもあるように(缶切りを複数色にしてパッケージをオシャレにした例など)、独自化は新製品開発だけではなく、コロナ禍以降は、「In House Product」「契り(信頼できる人との繋がり)」「推し活(信頼できる人の押しをフォロー)」等がキーワードですし、コロナ禍で増加したネット販売では、「購入メリット」「論拠」「競合優位性」「特徴」を明記することが重要です。

Prodact・Priceに関する事例

  • 高付加価値化と低コスト化の両立
    品数増やして魅力を高める一方、開店時間を短くしてコスト削減
    個室は就寝・身支度スペースに限定する一方で、共通スペースを広く快適なリビング・コワーキングスペースとするホテル
    一流フレンチシェフに好きな食材によるメニュー提供を許す代わりに、その高い原価率を立ち食い方式による高い回転率でカバー
    理系出身者の研究開発により人気飲食メニューに絞ることで、食材ロスを減らし効率性向上
    飲食の注文が入った時だけキッチンを借り、メニューの充実に注力
    「無料・制限有・広告有」と「有料・無制限・広告無」の組み合わせによる音楽配信(スウェーデンでは著作権問題が25%減少)、「無料POSレジ」と「データに基づく有料情報提供」の組み合わせによる飲食店支援
    高額料金だが2ヶ月で目標達成できねば全額返金されるフィットネス(完全予約制でスタッフの稼働も無駄をなくす)
  • パーソナライズ
    1対1の試着コンサルティング
    数百のマーカー付きボディスーツを試着しスマホ360度カメラで採寸することで、在宅オーダー衣料提供、メガネを自宅で試着でき、SNSに投稿するとアドバイスを得られ(広告塔)、最後は視力検査アプリで検査し注文
    オーダーメード飲食メニュー
    VRで様々な世界を巡る高付加価値型のフィットネス
  • 社会課題意識
    リサイクル促進のための衣類・プラスチック回収プラットフォーム(集めた服から作ったバイオ燃料でデロリアンを走らせる)
    違法銃から金属リサイクルして得た資金を途上国の社会課題解決に活用
    保険の余剰金を共感する社会課題の解決に関係する団体に寄付する仕組みで、保険を使わないようにさせる
    ポイ捨てゴミを回収し写真をネットで提供(自治体の施策に活用するオープンデータ)
    真っ暗闇の中での体験エンターテインメント(視覚障害者が健常者をサポート)
  • シンプル化・シェアリング
    農家どうし、自動車部品メーカーどうしが、仕入れ価格の相場を知ることができる情報プラットフォーム
    ジーンズリース
    AIでインターネット上の情報を見つけ、報道機関に提供
    職業的スキルや趣味の共有
    複雑で各国で異なる国際貨物輸送を支援するデータプラットフォーム
    海外への送金において、大量の双方向の送金者を抱えることで実送金量を抑え送金手数料を激安にする、各国に支店を有することで各国内での取引に変換し手数料をとらなくする
    語学学習者に任すことで企業向けに翻訳を激安にする
    手料理をシェアリング

Promotionに関する事例

  • チャネル増加とデータ収集の両立
    ベータ版専門小売店で、天井カメラによるアイトラッキングで来店者の視線や手の動きを計測した結果を、出品者に提供
    オンラインブランドに一時的な実店舗を提供するため、空き物件をシェアリング
    返品商品と各種再販サイトをつなぐプラットフォーム(情報、倉庫、決済)、宿泊予約を販売できるサイト
    ネット配信で「ギフト」を送るほど、視聴者は目立つポジションに位置取れる
    インターネットに埋もれる情報の中から見出した(評価した)人に金銭的インセンティブを与える
    不揃いな野菜や有機農法野菜専用宅配システムで、消費者の評価も合わせて集める
    田んぼアートをアプリで読みとった人は、その田の米が買える
    購入者が共同購入のノルマを達成すると割引される
    患者が医療データを提供すると報酬が発生
    UberやLyftなどのライドシェアサービスの車内でコンビニBox提供
    施術後の「リカバリー」にこそ不安が最大になっていることを見い出した「整形日記」により、価格も実力も分かりにくかった美容整形業界において、患者とマッチングするサービスが生まれている
  • キャッチフレーズ
    生魚を敬遠するアメリカで、明太子を「タラの卵」ではなく「ハカタ スパイシーキャビア」と言い方を変えて成功

Placeに関する事例

  • 人材育成
    フルカラー化、ストーリー転換のスピード化(テーマを女性に絞りドラマチック性を追求)や、若者がスマホを使う夜9時配信など、徹底した「スマホ最適化」、視聴履歴から監督、俳優、ストーリーの組み合わせを最適化してコンテンツ制作を行う「レコメンド制作」を行う(漫画アプリ「快看漫画」)
    若手漫画家が投稿する無料漫画アプリの最後に広告を表示させ、最後まで読まれたら漫画家に広告収入が入る(国内マンガ市場6,600億円(2021年)のうち、既にLINEマンガやピッコマ、少年ジャンプ+、マガポケなどの電子市場が4,000億円を超えています)
    美容スタッフ個人の指名アプリ
  • 資源活用
    有名人が10秒単位で時間を「発行」し、プライベートで繋がれる時間として売買、流通される
    空きスペースと荷物保管場所を探す人をつなぐプラットフォーム(倉庫版Airbnb)
    要るのか判別の付かない荷物の保管と、要らないと判断した際のヤフオク出品支援
    開店時間前レストランをコワーキング提供
    ゴルフセットの保管、ゴルフ場への配送サービス
    キャッチボールやキャンプ、ビアガーデンなど市民開放プロ野球場

 

理-- サービス(データ収集)・ものづくり(データ活用)両輪経営

リアルかオンラインかの選択ではなく、オンライン絶えず接点があるOMO(Online Merge Offline)時代を迎えた今、具体的には、仮にものづくり企業であっても、「サービス事業(データ収集)」と「ものづくり事業(データ活用)」の両輪経営が必要ではないでしょうか。

  • 生産性向上系DX(社内データ活用、コスト削減に直結)は、画像処理AIによる検査など生産性向上に資するDX推進セミナーを数多く実施し、府内のAIスタートアップ企業の増加とともに、徐々に取り組む企業が増えています(見積AI、生産管理AI、検査AIなど)。
  • 付加価値向上系DX(社内外データ活用、効果保証なし)は、データ活用ハッカソンやデザインセミナーなどを実施しているものの、顧客のデータの収集等に課題があり、まだ進展途上です。
    韓国で学校にカメラをつけ地域住民にオープン化することでいじめが減ったように、データによる信用スコアが人間の善行にもつながって中国が「おもてなし社会化」しているように、社内データをオープン化することで品質を向上させることができます。
    既に京都でも社内のノウハウを用いてサービス事業に取り組むものづくり企業も生まれてきています。今後は、サービス事業を通じて顧客との接点を増やすことで、顧客や市場のデータから、ものづくりに活かし、ユーザーエクスペリエンス(UX)をいかに高速で改善していくかが、変化の激しい時代での生き残り戦略だと考えられます。
    有名な話で、「ミルクシェイク」を朝の通勤用に求められるのは、「味」よりも通勤時間を費やす「ボリューム」が必要で、休日の夕方に求められるのは、子ども用の「味」と少ない「ボリューム」が必要だったと、データで初めて分かったという逸話があります。こうして、データ活用が高まれば効果の不確実性という課題も克服できると考えられます。

こうしてDXで生産性を上げることで、人間的な個別対応も含めた付加価値向上につなげる、あるいは、顧客情報(ID)を、独自の世界観(IP)につなげて付加価値を高めるなどすることで、好循環経営を実現できるのではないでしょうか。

 

事業承継

資金繰りが厳しい企業様向けには「金融・経営一体化支援」を実施中です。倒産よりも廃業の増加が課題となっており、有名ショップ等でも導入が進む事業承継型M&Aや、サーチファンド(資金支援)と組んで事業承継を希望するサーチャーへのマッチング、承継後の出島戦略(承継事業と新事業の二人三脚)を一層推進していくことが重要です。

事業継続・創生支援センター等による京都式第三者承継マッチング

既に日本の経営者の平均年齢は60歳を超え(京都府は60.1歳)(外部リンク)60歳代の経営者の約5割、70歳代の約4割が後継者不在(外部リンク)という状況です(帝国データバンク調)。

業歴100年以上の老舗企業が2,000社を超える(外部リンク)京都府では、2013(平成25)年度から、金融機関等を含めたオール京都体制(現在、ネットワーク会議)の下、M&A支援をそのスタートする事業承継・引継ぎ支援センター(外部リンク)(京都商工会議所)と、独自に全国に先駆け後継者マッチングをメインに支援する中小企業事業継続・創生支援センター(外部リンク)」を創設し、「事業承継」の支援、その中でも最も困難な問題と言える後継者不在企業への「第三者承継マッチング」に取り組んでまいりました

  • 「事業承継」は、単に企業の経営上の問題だけでなく、経営者とその家族、親族との相続税その他の財産問題、人間関係上の問題など課題は幅広く、業務改善や社内統制などの経営支援から税務、財務、法務等の専門知識まで幅広いサポートが必要であり、これまで金融機関、商工会・商工会議所等とも協力してまいりました。
  • 「第三者承継マッチング」については、そもそも後継者不在情報が取引や資金獲得上の信用失墜の恐れから表面化しにくいため、後継者不在企業を探すことも、後継者候補を探すこともいずれも容易ではありませんが、当日まで企業名を伏せて行うマッチングイベント「ミライミーティング」の開催や、インターネットによる後継者募集企業情報の発信(外部リンク)などによって、マッチングを実現してまいりました。しかも、経営者を突如交代するものでなく、後継候補者を入社させ、育成してから交代する「京都式」第三者承継として、幹部候補人材も含めた幅広い人材マッチングを行っています。

課題は、後継候補者側の準備不足です。企業に候補者の紹介を行っても候補者の心構え・資質の不足で、企業の求める水準に達せずマッチングが不成立になるケースが多いです。そこで新たな取組として、「後継者バンク」を整備し、起業家マインドの高い後継候補者の確保と「心構えセミナー」の開催等を進めてきました。

また、2021年度から副業・兼業人材のマッチング(手数料は人材紹介会数万円数万円)にも着手しています。製造業・サービス業を中心に多岐に渡る業種の企業から依頼があり、東京等のWebデザイナーやコンサルタント等を使って、通販サイト制作や教育のAI化、旅館の経営改善や介護施設のブランディングを進める例をはじめ、ECサイト構築や業務のデジタル化のほか、マーケティングや薬事の専門相談など多岐に亘る業務で利用されています。

事業引継ぎ支援補助金による事業承継型M&A支援

一方、府内事業所数は、2016年経済センサスでは113,774、2021年経済センサスでは103,368です。

  • エリア別内訳(2021年経済センサス)は、京都市内67,866山城20,960南丹4,990中丹8,490丹後6,062となっています。
  • 業種別内訳(2016年経済センサス)は、建設業約8,500製造業約13,500(繊維工業約4,400、機械金属・樹脂約4,000、食料飲料等製造約1,300)、情報通信業約1,000運輸業約2,000卸小売約29,000(小売約21,000)、金融・不動産約9,000宿泊・飲食約15,200医療福祉約8,700サービス約26,000となっています。

こうした中、2021年の京都の廃業は1,003件と3年ぶりに増加(外部リンク)しました(人手不足や人件費・資材高騰等が重なった建設業をはじめ全業種で増加/東京商工リサーチ調)。廃業時の従業員数の平均は約3名弱、往時で6名弱の小規模企業が大半であり、9割以上の経営者が後継者を探さない、5割以上の経営者が継いで欲しいと思っていないという状況(外部リンク)です(日本政策金融公庫調)。こうした実態から、廃業による周囲への影響が少ないケースが多いとも言われる一方、従業員の雇用の場の確保や、地域経済やサプライチェーンにとって貴重な財産である培われてきた技術・サービスの引継ぎは重要な課題です。

そこで本府では、2021年度から、「中小企業事業引継ぎ支援補助金(外部リンク)」を創設し、本来、景気後退期など買い手企業の買収意欲が弱い時期はM&Aは進みにくいものですが、コロナの影響を受ける厳しい状況の中にあっても、事業譲渡や廃業・縮小等の意向を持つ府内中小企業を引き継ぐ中小企業を応援するための補助制度を開始しました(2021年度6件採択、2022年度12件採択。食品、金属加工、不動産、卸小売、飲食店、介護サービスなど多岐に亘り、同業者どうし、旧知の異業種で実施)

課題は、企業側の準備不足です。中小企業の場合、公開情報が限られ、経営と所有の区分が少ないなどのため、簿外債務をはじめ内部統制が不十分であることが多く、買い手企業にとって大きなリスクとなっていてM&Aが進みにくいのです。そこで新たな取組として、築いてきた大切な資産等を継承するために、廃業時に事業承継型M&Aがスムースに行われるよう、「業界団体との連携」により、将来の売り手企業(廃業企業)向けに、内部統制の整備など、計画的な廃業準備と業界での受け皿探しの支援を行ってまいります。

  • M&Aで実際に取引が成立するのは、相談案件、売買プラットフォームの登録案件のうち、せいぜい数%~1、2割と言われています。成長市場・高利益率の業種は当然ですが、継続的に売上がたつストック型ビジネス、規模のメリットが働きやすくて寡占化が進んでいない業種、あるいは人手不足の業種など、比較的サービス業やIT関連が向いているのに対し、設備投資が大きく、ニッチ部品を扱うケースも多い製造業は特に難しいとも言われます。そこで、規模のメリット(同業種)範囲のメリット(異業種)を活かせる「買い手企業」などに繋いでいくことが重要です。
  • また、特に中小企業のM&Aは、敵対的買収や乗っ取りといったものではなく友好的なものである一方、会計書類が公開で会計監査もなく、内部統制も十分ではない、あるいは属人的な要素が強い故に買収後に社員が辞めるケースがあるなど、容易ではありません。そこで、「売り手企業」は、逆に以上の内部統制をしっかりしておくことが重要です(2020年に、国内でも「表明保証保険」が登場)。
「親族承継」と「第三者承継・M&A」の企業評価の違い

事業承継は「経営(代表者)の承継」(親族承継や第三者承継)、「所有(株式)の承継」(MBO(経営陣による買収)やM&A)のほか、中小企業の場合は「代表者個人資産(会社に提供しているもの)の承継」が絡まり合いながら、売り手(企業)、買い手(後継者・企業)間で取引を行っていくこととなりますが、その価格の非公表性や算定ノウハウ不足などが第三者承継・M&Aの難しさの要因の1つです。(京都フィナンシャルグループが100億円の事業承継ファンドを構築)

  • 親族間における非上場株式の評価」については、その例外として租税公平主義の見地から、租税負担を回避する取引は認められておらず、同族株主の有無や個人・法人の別などによる細かな計算方法が税務基準で定められています。
  • 「純然たる第三者」の場合は「契約自由の原則」どおり、当事者間での合意による価格となります。M&Aの場合は、時価純資産額(コストアプローチ)、類似事例額(マーケットアプローチ)、将来収益額(インカムアプローチ)など様々な理論がありますが、中小企業の場合は、「時価純資産額+営業権(営業または経常利益×数年分(業種による))」が目安とされるケースが多いです(最近は、事業引継ぎにもAIの活用による効率的な手法(外部リンク)も登場)。
  • なお、MBOの場合には、資力を補填するためファンドを活用されるケースもあります。GP(無限責任組合員=運営者)は、LP(有限責任組合員=投資家)の協力を得てファンド(投資事業有限責任組合等)を組成し、キャピタルコールと言って、投資案件ごとにSPC(特別目的会社)を設立して、ファンド出資とLBOローン(金融機関借入)を行い実行します。

なお、非上場会社の株式等取得に係る贈与税・相続税の納税猶予を行う「事業承継税制」について、多くの活用があり、中長期的に事業承継の準備を進める契機になっています。

 

企業紹介

施策

全体
起業
認定等
 専門家派遣等
融資
販路開拓施策
(2023年度)
(2020年度)
エンジェル税制
不動産取得税軽減
固定資産税軽減
補助金
(2024年度)
  • 京都チャレンジ・バイ福祉・医療関連商品・サービス導入促進補助金
  • スマートけいはんな実証促進事業補助金
    ICT 等のスマート技術やデータの活用の実証促進(補助率:2分の1、上限100万円(グループ200万円)
  • 5G対応型研究開発・実証推進補助金
  • スマート社会実装化促進事業補助金
(2023年度2月補正)
(2023年度(募集終了))
(2022年度(募集終了))
(2021年度(2022年度も実施のもの除く))
(2020年度(2021年度も実施のもの除く)
商業振興
事業承継施策
支援機関等
(南部)
(京都市・中部)
(北部)
(団体)
  • 関西文化学術研究機構
  • けいはんな
  • 知恵森:運営費約240,000千円(府スタートアップ16,600千円、産学公2,700千円、スマート14,400千円)
  • 産業21:基金210,000千円(府出えん金65,000千円)、運営費約2,500,000千円(府補助1,600,000千円)<約130名(常勤50名、嘱託等40名、コーディネータ等40名)、登録専門家約175名>
(施設)
  • けいはんなプラザ
  • KICK(府普通財産を産業21に無償貸与):運営費約140,000千円(収入:インキュベーション等95,000千円・府補助45,000千円、支出:管理)
  • けいはんなベンチャーセンター(府普通財産を(株)けいはんなに無償貸与):運営費約36,000千円(収入:共益費18,000千円・府補助18,000千円、支出:管理)
  • 経済センター(府区分所有分)(府普通財産を産業21に無償貸与):整備費約4,446,000千円、運営費約280,000千円(収入:会議室・テナント、支出:管理)
  • 京大オフィス(京大から府が賃借し、産業21に運営委託):運営費約6,000千円(収入:府費、支出:賃料・委託費等)
  • 北部産業創造センター(府区分所有分)(一部、行政財産の目的外使用で工繊大に貸与):整備費862,000千円、運営約35,000千円+アルファ(収入:府費約35,000千円・賃料、支出:保守費等)
  • 丹後知恵のものづくりパーク(日本電産から産業21が賃借し、織金センター等が転借):運営費約2,400千円+アルファ(収入:府費2,400千円+府費機器・セミナー関連、支出:転借2,400千円+機器・セミナー関連)
その他参考:2025年度京都府当初予算
  • 住宅・建築物耐震化総合支援事業(補助対象150万円以上、補助率3分の1)
  • 誰もが働きやすい職場づくり事業(ジョブパーク、生涯現役クリエイティブセンター、テレワーク推進センターの機能統合)
  • 地域商業活性化事業(商店街のプレミアム付き商品券発行)

 

施策実施状況

中小企業支援

2022年4月、中小企業応援条例について、「経営者の一層の高齢化に伴う廃業の増加など、産業の分業体制を支える担い手企業の不足」「脱炭素対応、人口減少による構造的な担い手人材不足など、社会の諸課題への対応の必要性の増大」「POSTコロナ時代に大きく変貌を遂げる社会経済情勢への対応必要性の増大」といった情勢を踏まえ、次のような改正を行いました。

  • 中小企業の果たす役割として、「経済の維持形成」に加えて「産業基盤・地域社会の維持形成」「社会の諸課題の解決」を追加
  • それを踏まえ、次の3点を強化
    --企業等の連携の推進(新規):「企業間・産学間の連携の支援」「連携のための人材育成」を追加
    --創業等の促進(拡充):「技術実証の施設の提供」「教育機関と連携した起業教育の推進」を追加
    --成長発展の促進等(拡充):「研究開発等事業計画」の認定・支援、「知恵の経営」の支援の有効期限を5年延長(3回目)

産業振興、賃上げ、消費拡大の好循環を生み出すために、未整備の市町村での応援条例整備も重要かもしれません。

中小企業応援隊では訪問・窓口相談をそれぞれ毎年約5万件行っているほか、2020年度・2021年度・2022年度・2023年度において、(公財)京都産業21(S41.9~。中小企業支援法で規定する指定法人。常勤約50名、嘱託約30名、コーディネータ約40名、外部専門家約170名)では、相談対応13,000件・13,000件・14,000件・11,000件(1月末)、よろづ支援拠点相談5,000件・4,000件・5,000件・2,000件、受発注のあっせん400件・550件・700件・300件(造船関係から電力等のプラントメンテナンス受注への転換など含む)を行っています。また、新たな事業に挑戦する企業を応援する「知恵の経営」が累計260件(2008年度~、2020年度9、2021年度9、2022年度10、2023年度3)、「元気印」認定が460件(2007年度~、2020年度39、2021年度23、2022年度16、2023年度42)、不動産取得税軽減措置63件(2020年度16、2021年度5、2022年度13)、チャレンジ・バイ認定が205件(2007年度~、2022年度18、2023年度18)に及ぶとともに、チャレンジ・バイによる販路開拓(2015年度~)も累計110件超の商品、総購入額1億円1,000万円超を達成しています。

また、知財相談は、2020年度361件、2021年度560件、2022年度701件、2023年度369件(1月末)となっています。

  • 京都ビジネス交流フェア
    2019年度:出展189団体、来場5,650人、商談1,000件弱
    2020年度:出展139団体、来場3,100人、商談約500件
    (バーチャル:出展152団体、アクセス7,000件弱、商談475件弱)
    2021年度:出展148団体、来場者4,000人、商談400件
    (バーチャル:出展145団体、アクセス2,700件、商談250件)
    2022年度:出展170団体、来場者5,000人
    2023年度:出展187社・20団体、来場者5,6000人
  • 京都商談ナビ
    シーズ554社、ニーズ51件(2023年1月末)
  • バーチャルパーク京都
    食(2022年)、医療介護(常設:出展28社、商談51件(2022年11月末))
  • KYOTO町工場バーチャルツアー(2022年2月~)
    出展8社、アクセス6,500件(2023年度10社追加予定)

ものづくり振興課関連の補助金では、コロナ禍の2020年度は887件・3,811社・約26億5,000万円、2021年度は1,078件・3834社・約25億円、2022年度は178件・234社・約16億円の支援を行なってまいりました。その中には、感染症対策の新商品・サービスといったコロナ産業への参入のほか、従来の競合他社どうしや接点のなかった異業種との助け合いの輪、のほか、和装から和菓子その他幅広い商品卸・プロデュースに拡大された例店舗販売から輸出等に軸足を移された例製造業でありながら工作機プログラミングAIのサブスクサービスを始められる例などの「広義の事業転換」工場でのリモートワークを図ろうとする例などの「工程変革」に関するものも多く含まれています。

  • 新型コロナウイルス感染症対策技術結集補助金(2020年5月補正)
    超高速PCR装置の開発、密アラートと購買行動促進リテールメディアの同時実現、など
  • 助け合いの輪補助金等
    助け合いの輪補助金(2020年5月補正、613グループ、3,365企業)、観光・伝統・食関連補助金(2021年2月補正、474グループ、2,290企業)、危機克服緊急連携支援補助(2021年6月補正、269グループ、1,041企業)、計1,356グループ、6,696企業
  • ものづくり中小企業等経営変革緊急補助金(2020年9月補正)
    金属加工業が眼鏡フレームのオーダーメイド・オンライン販売の開始、生地整理加工業が制菌加工の開始、アルミ表面処理技術を活かした体反射皮膜開発による航空機向けから光学機器向けへの市場転換、三次元測定器導入による一貫受注体制の構築

そして、WITH・POSTコロナ時代を見据えた2022年度は、177件・231社・26億円の支援を行い、「企業文化の変革」を目指しています。(これらの補助金は、先端産業、ものづくり産業が多い京都の特徴を踏まえ、「自社の人件費」も補助対象にすることで、社内での研究開発も支援できるものとしています。)

まず、人口減少、グローバル競争激化等への対応として

  • 京都エコノミック・ガーデニング支援強化補助金(単独)
    生産性向上と付加価値向上の同時実現に取り組む企業文化の醸成を促進しています(国内人口の減少に伴う人材不足や国内市場の縮小、サプライチェーンのグローバル化に伴う原材料価格の高騰など社会経済の構造的変化に対応するために必要となっている、プロセスの見直しなどによって生産性向上を図りながらより付加価値の高い製品・サービスの開発等を図る取組を支援)。
    部品の自動検査装置導入により生産性と信頼性の同時向上、最新型溶接ロボット導入による生産性と品質の同時向上、量産用・低価格工作機に独自治具を取り付けて単品用・高価格工作機並の性能を発揮、製品に取扱動画が確認できるQRコードを付けることで販売員の手間が省けるとのことで小売店からの引き合いが増え売上増加、動物病院におけるCT導入による効率化・サービス向上、病院と病院と介護サービスのデータベース連携により退院後の施設を電話調整するケアマネージャーの省力化と在宅医療へのホスピタリティの高いシフト、九条ネギの廃棄外葉の素材化(紙)、などを実現
    (実施企業(有効約300社)の6割が売上増加、3割が売上20%以上増加、4割が経常利益増加、5割が雇用増加(2,000人以上))
    --従前の取組
    痛んで廃棄する野菜の外葉を利用した新素材の開発(SDGs対応)、Siより安く、SiCより高性能で、電力ロスが少ない酸化ガリウムを用いた半導体材料の応用開発(5G時代への対応)、工場用ロボットのコントローラーのリモート操作化(人手不足対応)、など
    飲食店でのセントラルキッチンの設置(コロナで減る飲食店部門の省力化と、増える通販への対応時間の確保)、和菓子屋での可食プリンタの導入(個人顧客の掘り起こし)、紙器製造業での重量物電動台車の導入(高齢職人の負担軽減と時間短縮)、金属加工業でのNC旋盤とマシニングセンタからその複合機への転換(作業時間4割カット、人材育成時間の確保)、金属加工業での高倍率・高精細な光学顕微鏡の導入(顧客の要求精度の高度化への対応)、など
  • 共創型ものづくり等支援補助金(連携)
    企業どうしの連携に取り組む文化の醸成を促進しています(消費者ニーズの多様化、商品ライフサイクルの短縮化等が一層進む中で、生産設備や情報、ノウハウなどの経営資源を複数社で相互に活用するなどして、劇的な生産性向上、競争力の高い製品・サービスの開発等を迅速に進めようとする企業連携グループを支援)。
    残りの生コンの廃棄処理装置のシェアリング、NFTを用いたテストマーケティング、装置設計業と精密加工業が注文データや生産稼働状況をシェアリングして一体となって医療用パイプの受注を拡大
    --従前の取組
    「AI開発企業×薬局」による小規模調剤薬局のDX(スマホによる処方箋伝送から薬の配送まで)、「eスポーツ主催企業×映画館」による映画館の新たな活用法の模索、など
    農家どうしでの農作物1次処理機材のシェアリング、板金加工企業どうしでの自動ブランク機のシェアリング、機械加工企業5軸加工機のシェアリング、など

また、社会課題対応の必要性が増大している情勢への対応として

  • 「産学公の森」推進補助金(連携)
    社会課題を有する社会セクション等との連携に取り組む企業文化の醸成を促進しています(地球温暖化、食糧問題など様々な社会課題の解決は、持続可能な社会の構築だけでなく、成長産業として経済の活性化にも寄与するものですが、企業単独でのその解決を図ることは困難です。そこで、オープンイノベーションにより社会課題解決型ビジネスの創出を図る取組を支援)。
    --2023年度31件
    --2022年度47件の事例:スマートアグリ(ドローンによる高速森林管理、機能性腸内細菌による養殖効率化)、脱炭素(再生PET繊維の商品化、マイクロ波を用いたバイオマス熱分解によるCO2固定化)、がん・難病対策(がん免疫療法、L-グルコースを用いた選択的細胞治療薬)など
    (実施企業(有効約200社)の6割が売上増加、5割が経常利益増加、7割が雇用増加)
    --2021年度30件の内訳:フードテック・スマートアグリ6件(サプライチェーン全体でのタンパク質使用量を軽減する世界初のゲノム編集動物(魚)の開発、大量発生する牡蠣を地ビールの水質硬度調整剤に活用など)、脱炭素・バイオプラスチック問題5件(CO2から素材を作るバイオファウンドリー、CO2とグリーン水素からバイオ燃料の開発、自然分解可能な研磨剤用粒子開発)、コロナ対策5件(抗ウイルス加工など)、少子高齢化3件(悪徳商法対策AIなど)、医療健康3件(がん免疫療法開発など)、POSTコロナものづくり3件(汎用ロボットピッキングなど)、ICT教育(リモート・オープンキャンパスなど)、スマートシティ2件(世界の物流スピードアップと道路インフラ維持コスト軽減のための走行車重量測定システムの量産化など)
  • 次世代地域産業推進補助金
    次世代の社会課題解決に向けてスタートアップ企業等と最先端研究機関等との連携文化の醸成を促進しています。具体例は、AI企業と医療関係者らでCT画像の超高速ノイズ除去システムの開発、AI企業と漁業関係者らで良好漁場情報提供システムの開発、など

なお、起業、事業承継または第二創業の支援として、

  • 起業支援費補助金
    2021年度16件、2022年度18件、2023年度14件(京都市6、山城乙訓4、南丹2、中丹2)
ウクライナ危機等による資材不足・物価高騰対応
  • 中小企業等緊急相談窓口(2022年3月22日~。原油原材料電気代高騰・ウクライナ情勢の影響に関する相談:185件)
  • ものづくり相互融通プラットフォーム:部品相互融通
    既に世界にはMouser(外部リンク)Digikey(外部リンク)などの部品調達サイトが多く存在しますが、身近な京都の中で、わずかでも互いに在庫を融通し合うための「ものづくり相互融通プラットフォーム」を立ち上げました。大企業だけでなく、中小企業においても、日頃から様々な調達ルートを確保している企業に、活躍頂いているところです。2022年11月末時点で参画約30社、リスト約300品目、相互融通実績約3,000点(コネクタ、ICチップ等)に及びます。
  • 中小企業緊急対応支援事業:省エネ設備導入・部品共同開発(2021年11月補正(予算2億円)61件採択、2022年2月補正予算(1億円)56件採択、2022年5月補正(予算1億円)26件1採択)
    --食品加熱処理槽の改良や食品製造時の高効率蒸気ボイラ導入、染色機のポンプ流量のインバータ制御化による「省エネ化」、衣類製造における全自動折り畳み機と自動袋詰機の導入、非対面型冷凍食品自動販売機の導入による店舗運営の「効率化」などの【省エネ】
    --調達困難な産業用カメラに変わりオンライン会議用Webカメラを用いた画像検査装置、海外から調達困難となった切断に強い特殊生地の国内製織、新商品開発時の食品表示・原価計算自動作成システム、など連携による【代替品製造】
  • 省エネ経営支援体制強化事業(省エネ診断):導入設備省エネ運用(6月29日~11月15日、相談約40件、診断約10件(9月21日時点))省エネ診断を求められるのは、化学、食品など連続プロセスがあって設備稼働時間の長くエネルギー使用量の大きい製造業が多く、原油価格高騰に加え、大企業との取引によってカーボンニュートラルを求められる場面が増え、省エネ診断ニーズが増加中。LEDや最新型空調・ボイラー等の最新型の省エネ設備を導入した場合も、運用や管理の工夫次第でエネルギー使用料を5~10%削減できます(清掃するだけでも効果あり)。
    --熱源機器の保温、工場内配管の保温、デマンド監視装置の導入、コンプレッサー吐出圧力の低減、キュービクル(高圧受電設備)力率調整装置の導入、ドレンの熱利用

    このエネルギー価格高騰については、省エネ対策が重要です。鉄鋼や化学等を含む全産業においては、消費エネルギーは、熱8割、電気2割と言われています。
    --ボイラー(火炉式・ガス式・電気式):食品や染色などの分野で、洗浄、乾燥、殺菌、反応・溶解、濃縮・蒸留などの主要工程で、ボイラー(水などの液体を加熱した熱で、湯や水蒸気を作り出す)による蒸気が用いられています。
    過剰な加熱の改善、燃焼空気比の改善、蒸気から発生したドレン(結露)回収による効率化、ボイラーの廃熱再利用、蒸気タービンによる発電利用
    --コンプレッサー(電気式):多くの工作機等を動かすためにコンプレッサーによる圧縮空気が用いられています。
    過剰な吐出圧力(使用電力に反映)の改善、吸気口を低温にして空気密度の向上(効率化による使用電力抑制)、吸気口とコンプレッサ-の間に空気タンクを設置し過剰な圧力変動の抑制、空気圧縮機構(ピストンまたはスクリュー)へのインバータ導入、複数のコンプレッサーを導入している場合における、工作機の稼働状態に応じたコンプレッサー稼働台数の自動制御、通常の工場全体にくまなくエアを送る集中管理方式から必要な箇所だけの分散方式への切替え、コンプレッサーの廃熱再利用
    --省エネ冷蔵庫、省エネ工作機
    --空調・断熱:フィルター・フィン(熱交換器)の清掃、室外機の遮光
    --照明:LED照明の導入
  • 共同生産・管理事業エネルギー価格高騰緊急対策事業:組合員企業のための共同加工施設を運営する組合へのエネルギー上昇分の支援(2022年9月補正)
    鋳物、熱処理、銘酒、養鶏、福祉関連の7件
  • 中小企業経営改革支援補助金(2023年9月補正)
    原材料高騰や賃上げのための環境整備のため、生産性向上と高付加価値化を同時実現する工夫ある取組を支援。応募196件(14億円)、採択64件(予算5億円)((1)自社対応例--食品企業:出汁を摂った後の昆布・削り節をスチームコンベクション(加熱器)でフリーズドライ化することで、食品ロスをなくし商品化する取組。機械金属業:自動レーザー加工機の導入による人手不足対応と歩留まり向上を図る取組。医療機器メーカー:人の手によって全数検査していた検査工程をロボットに置き換えることで、省人化対応と人の菌(コンタミ)混入のゼロ化を図る取組。(2)他社のための開発例--熱源開発:エアコン内の熱交換機に使う銅が高騰しているためアルミに変更するに当たり、銅で扱うガスバーナーで加工すると微細孔が発生するため電気ヒーターによって解決を図る取組。ロボット開発:人手不足解消と業務効率化によるサービス向上を図るための自律ロボットの開発)
  • 生産性向上モデル創出支援補助金(2023年度2月補正)
    人手不足、原材料価格の高騰、何より賃上げなどに対応するためのAI・IoT・ロボット等のテクノロジー導入経費を支援(15%補助)

 

 

  スタートアップ企業 Startup companies 

  • IVS
    優勝全体

    スタートアップ支援チーム中心に誘致を進めたIVS。2023年の京都開催で、課全体で京都のエコシステムを紹介し、スタートアップ界隈での京都の存在感を高めました。あわせて「今後どこで開催されても『京都』の存在を知ってもらうように」と、スタートアップピッチ会優勝者には、今後継続的に「スタートアップ京都国際賞(1,000万円)を授与することとしています。
  • ポータルサイト「京都スタートアップ・エコシステム」

 

世界のエコシステム

果樹園が広がり学生の就職先が乏しい地域であったため、起業を推奨しつつ、スタンフォード大学の敷地の一部を工業団地としたターマン教授の教え子が1932年にヒューレット・パッカードを設立、さらにはトランジスタの発明でノーベル賞を受賞した1人ウィリアム・ショックリーが1956年に半導体研究所を設立したのがその起源と言われ、19世紀のゴールドラッシュ以来の「一発屋DNA」を軸に、Yコンビネーター500スターアップなどの、いわば起業の「受験塾」と言える「アクセラレーター」という新たな機関をも生み出したシリコンバレー。1999年の巨大なインキュベーションCICの設立を皮切りに、たった20年足らずでバイオやロボットの世界的な集積地となったボストン。香港の加工貿易を支える製造拠点から、北京オリンピックの頃を境に人件費高騰による空洞化に対応するようにIT、金融、バイオ、エネルギーなどの新産業拠点に様変わりしたシンセン。

言わずと知れた世界的なスタートアップの街ですが、今や、どこかの中心地が世界をリードする時代は過ぎ、世界中で異なる文化や技術の融合を原動力にイノベーションが生まれています。

教育機関としても技術の導入先としても軍隊の果たす役割が大きなイスラエル。USBメモリーの発明や、自動運転の肝となる画像認識チップを手掛けてインテルに買収されたモービルアイが有名です。ライドシェアサービスの普及に当たり、職を失いかねないタクシードライバーに自社株を配ることで、彼らが積極的に顧客を呼び込む仕組みを生み出すといった大胆な発想と行動力のあるスタートアップ企業も存在感を発揮しています。

「2000年問題」でITのアウトソーシング先として一躍有名になったインド。今やグーグルやマイクロソフトのCEOも輩出し、特に2014年発足のモディ政権がスタートアップ政策を打ち出すとともに、旧高額紙幣の廃止に伴う混乱を契機にキャッシュレスを推し進めるなど、先進国が一歩ずつ歩んできた進歩の段階を一気に飛び越える「リープフロッグ」を起こしやすい環境にあります。BtoCが多い中国と比べ企業向けのBtoBのスタートアップ企業が多い一方、ハイエンドでかつ安価な医療ビジネスも生まれているそうです。

アルベルト・アインシュタインが生まれ、欧州最大のフラインホーファー研究所が本部を構えるドイツ。世界三大発明の一つ「活版印刷」だけでなく「コンピュータ」も生み出した発明の国であり、芸術家が集まる街の強みを発揮し、製品のUXデザインに定評があります。日本と同様ハードウェアに強みを有する国ですが、ベルリンは年間500社のスタートアップが生まれているそう。マイクロアントレプレナー、ライドシェアやゼロエミッションなど循環型経済に関するもの、ブロックチェーンなどのITビジネスに関するものが多いのが特徴。「アートの街」「テクノ」「クラブ」のイメージが強く、世界最大のハッカー集団「カオス・コンピュータ・クラブ」に象徴されるような、近代資本主義の歪みやGAFAMの「情報の中央集権主義」への反発心など、アンダーグラウンドな雰囲気が若者を魅了しており、25%が外国籍、6割が宗教登録をしていないといったように多様な集積がその原動力となっています。

「社会の強さは、もっとも豊かな人たちが持つ富の多さではなく、最も脆弱な立場の人たちの幸福によって計られます」と、34歳で女性首相となったサンナ・マリンが語る福祉国家フィンランド。第2次世界大戦では敗戦国として多額の賠償金返済のため、さらに1960年代以降は1次産業から2次、3次産業への構造変化と都市化による住宅価格の高騰に伴い、多くの人の就業、共働きが不可避となり、現在、男女とも7割が就業(大半がフルタイム)。天然資源も人口も少ないからこそ、一人ひとりの能力開発を重視し、大学院まで無料、2021年からは義務教育が18歳まで引き上げられました。小学生では英語教育に加え、結婚離婚や住まい、納税も学べば、教育分野でのゲーム、アプリ開発も盛んとのこと。リカレント教育も盛んで、大学生と社会人は特に区別なく、就労と学びを行き来しているそう。スタートアップは全土で毎年4,000社生まれており、スマホ戦略に失敗したノキアが携帯電話事業をマイクロソフトに売却し、社員のリストラと合わせて起業支援を開始したのが大きなきっかけです。シリコンバレーではコネクションを使ってコミュニティに入り込めないと成功できないと言われますが、人口の少ないフィンランドでは競争よりも協調が好まれているそう。社会課題を国民みんなで解決する風土があり、充実する社会保障で失敗をフォローできるフィンランド・ドリームは、アメリカン・ドリーム以上かもしれません。

1880年代に日本の工芸品や美術品を研究し、それらの制作過程における忍耐、精神性にまで着目し、北欧独自の表現を加えて新しいデザインの体系を作り出したデンマーク。今ではレゴブロックで有名なレゴ社、造船所の自動化に関わった技術者達が牽引する協働ロボットのユニバーサルロボット社、風力発電のべスタス社、インシュリン製剤のノボルティクス社など、世界市場でシェアの高い企業を輩出しています。敗戦国でありながら、「Hygge(ヒュッゲ。暗く厳しい冬に暖炉を囲み幸福感、連帯感を得る知恵)」に代表されるように道徳を鍛え、厳しい自然環境にありながら、建築家と家具職人が連携して建築空間と家具を一体としてデザインするなどの異業種連携を進展させ、資源貧国でありながら、ソフトウェアや量子コンピュータの開発、風力発電など自然エネルギーの活用に活路を見出してきました。そのため「森の学校」に代表されるように課題解決の直観力を鍛える教育を進め、さらに1960年代の経済成長による労働力不足に伴い専業主婦や障がい者の社会進出を進め、フォルケホイスコーレ(全寮制教育機関)や保育ママ(保育士の自宅で近所の子どもを預かる制度)などを整備してきました。近年は医療現場の労働力不足の深刻化に伴って、CRナンバー(マイナンバー)を普及させ、患者へのエンパワーメント(権限付与。医療従事者との情報格差の打開)に繋げています。さらに、全ての家庭でスマートメーターの設置が義務付け、いかに低価格でエネルギーにアクセスするかを重視してきましたが、近年は、冷暖房システム、廃棄物管理、交通システムなどスマートシティ化を、やはり「人間中心」のコンセプトを大切にしながら推進しています。最近ではフィンテックも普及しており、子どもがおこづかいをもらう際にも紙幣では拒否されるという笑い話も聞こえてきます。中央銀行は2015年から紙幣硬貨の製造を他国にアウトソースするなど完全キャッシュレス国家を目指しています。

地球・社会・経済の構造的課題の解決のために

そして現在、パンデミックを契機に、地球・社会・経済の各分野における積年の構造的課題が大きく顕在化しています。

  • 気候変動問題。世界の自然災害損失額は、東日本大震災のあった2011年の4500億ドル、アメリカを2つの巨大なハリケーンが襲った2017年の3500億ドルなど近年増加の一途を辿っています。
  • プラスチック問題。プラスチック自体は、有害化学物質ではなく(生物に化学的な害はない)、分解による副生物を発生させるリスクも小さいが、それ故に、長期に亘って残ることが問題となっており、マクロプラスチックがそれを飲み込む生物を死に至らせる問題、食物連鎖を通じて人間の体内にまで入り込んでくる問題等が指摘されています。特に日本では、試算によると、再生プラスチック素材に生まれ変わるのは24%、そのうち国内でリサイクルされたものは9%と大変低く、生分解性の素材に変えていかねばなりません。
  • 水不足問題。地球の14億キロ立法メートルの水のうち、人類が水資源として利用できる淡水は2.5%にあたる3,500万キロ立法メートルで、さらに南極の氷や地下水等を除くと、わずか0.01%、10万キロ立法メートルしかなく、こうした真水の利用率において、日本等は砂漠地帯の次に高いと言われています。しかも、ものづくりの原材料、人々の食料などを多く輸入していることから、現地での真水の利用を考慮した「バーチャルウォーター」の輸入は、世界最大の年間804億tに及んでいます。海水の淡水化技術として、エネルギー資源が豊富なアラブ等では蒸留方式がとられていますが、エネルギーを使わない逆浸透方式に注目が集まっています。また、データセンター用に大量に水を必要とするIT大手等は、人工衛星データやAIを使った水資源常時把握システムや空気から水を作るウォーターサーバーを開発しています。(なお、産業革命による都市への人口集中が、砂でろ過する衛生的な近代水道の構築に繋がりました。最近では、前・後工程の塩素注入のうち前塩素をオゾンに変えたことで、水道水がおいしくなっています。)
  • 食料不足問題。日本は、2005年に先進国の中で最も早く人口減少が始まりましたが、1950年には30億人弱であった地球の人口は、現在78億人に達し、国連の2019年発表データによれば、2050年に97億人、2100年に109億人に推移するとされています(ただし、2022年からは中国が人口減少に転じるなど、世界の人口増加率は1%割れで推移します。なお、2022年末でインドが14億1700万人、中国が14億1200万人と逆転しました)。こうした人口増加を支えてきたのが「食料増産」です。1961年と2017年を比較すると、世界の生産量は、食糧(主食の穀物)で3.4倍に、野菜で5.5倍、果物で4.3倍に伸びています。食料増産を図る手法の1つは、成長のために根から窒素を吸収する植物のためにアンモニア(窒素化合物)を大量生産する「ハーバー・ボッシュ法」による「化学肥料」、「農薬」、「品種改良」などの「収量増加技術の発達」ですが、エネルギーの大量消費等の弊害が指摘されており、スマートアグリなどのテクノロジーや、生産者の所得に配慮したフェアトレード等が注目されています。もう1つは、「生産面積の増加」です。アメリカやヨーロッパ諸国に比べアラブ諸国や日本等は食料自給率が低く、日本はカロリーベースで1960年の79%から最近は37%(生産額ベースでは66%)になっているのは、米からパン、野菜から肉食・乳製品へと消費の拡大の影響も大きく、今後、発展途上国でも、穀物・野菜中心から肉食・乳製品へのシフトが考えられます。しかし、家畜の飼料としての大豆栽培のためにブラジルの熱帯雨林が、食用油、スナック菓子、洗剤等の原料としてパーム油栽培のために東南アジアの熱帯雨林が、多く伐採されるなど森林破壊の問題が生じており、肉食をやめる「ビーガン」や、人工肉の開発等の動きが起こってきています。
  • 魚介類乱獲問題。2017年時点で21,000tに及ぶ世界全体の魚介類生産量の内、漁船漁業による生産量は1990年頃から9,000万t程度で横ばいであるものの、繁殖数や成魚になる年数等を加味した漁獲してもよい限界量「最大持続生産量」を上回る乱獲状態の種は、1975年の10%から最近は33%に上昇し、同量を下回り余裕のある種は40%から10%以下に減少しています。一方、中国を中心に養殖が漁船漁業を上回るまでに大きく伸びているものの、その飼料としては結局大量の魚粉を用いています。
  • 感染症問題。北里柴三郎は1894年にペストの病原菌を発見し、狂犬病やインフルエンザではワクチン開発の源となる血清開発で大きな功績を残し、野口英世は1910年代に梅毒や黄熱の病原体研究で国際的な成果を残しましたが、ペスト、マラリア、AIDS、コロナウイルスなど未だワクチンが開発されていないものも多くあります。近年では、2000年代初頭のSARSコロナウイルスの「重症急性呼吸器症候群(SARS)」、2009年の「新型インフルエンザウイルス」、2012年の「中東呼吸器症候群(MERS)」などが相次いで発生し、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」も世界に甚大な影響をもたらしました。
  • 介護現場の問題。必要とされる介護従事者245万人に対し、現実は183万人(施設職員153万人、訪問ヘルパー30万人/2015年度)。グループホームでは3人の利用者に対し職員1人、24時間対応なら3人必要であるものの、実際はそうはいきません。同居家族だけの世話には限界があり(韓国では家族介護者にヘルパー資格を与え、ヘルパー間の交流・支援を実施)、外国人材には日本語の壁が課題です。
    問題の背景の1つには、厳しい業務であるにもかかわらず給料が低いということがあります。例えば、介護従事者の74%が利用者やその家族からのパワハラ、セクハラ被害にあっているという調査結果があり(日本介護クラフトユニオン)、認識の低い利用者はもちろんのこと、自身の力量不足かと悩む介護従事者(ヘルパーは直行直帰も多く相談機会が少ない)、利用者から契約を打ち切られる恐れで消極的になる介護経営者、人手不足、給料が安い、仕事がきついなどの介護現場へのマイナスイメージを有する世間の目など悪循環が起こっているのかもしれません。韓国では「産業安全保健法」に感情労働(相手の気持ちを優先して自分の感情をコントロールしなければならない働き方)者への保護条項が盛り込まれましたが、日本でもテクノロジーを駆使した「見守り」などが必要なのかもしれません。
    2つ目として、様々な人と関わりやりがいのある仕事ですが、制度上の不都合も指摘されます。介護保険制度(1~3割の自己負担)で認められなかった、掃除やペットの世話、電球の取り替え、外出先への送迎、散歩同行や墓参り、同居家族分の調理や洗濯などが、混合介護により全額自己負担の保険外サービスでは対応可能となりましたが、同居家族分の調理や洗濯は、利用者本人と家族分を分けねばなりません。また、ヘルパーが行う「身体介護」と「生活援助」のうち、後者は60分から45分に時間短縮されたり、病院への付き添いにおいても病院内は介護保険対象外となっているなどの弊害もあるそうです。こうした制度の隙間を埋めるものが、2025年を目途に自治体に移行される「地域包括ケアシステム」で、地域内のボランティアやNPO、商店等の新しいサービスが期待されています。
  • トラック物流問題。1990年施行「物流2法」の規制緩和に伴う競争激化(過積載・長時間労働(現在は働き方改革により4時間走行30分休憩など))、荷主第一主義(ドライバーの荷役作業負担)、2003年のリミッター装着規制に伴う90km速度規制、EC普及に伴う需要の増大、これらに伴って「過酷で給料が安い」というイメージが定着したことによる人手不足(50歳以上が4割以上という高齢化、ドライバーは就労ビザ対象外)という様々な問題を抱えています。さらに2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正改善基準告示の適用による労働時間短縮が、輸送能力不足に拍車をかける恐れがあります。

ESGについては、2004年に国連環境計画・金融イニシアティブが最初に提唱し、2006年に国連責任投資原則(PRI)に盛り込まれ、将来を見据えて運用されるべき世界の年金基金の中でも最大である、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GOIF)も2016年にPRIに署名したように、2020年時点で全世界35兆ドルにまで成長していますが、特に、リーマンショックを起爆剤としてヨーロッパがリードする形で進み、

  • 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年国連サミット採択)で、SDGs(持続可能な開発目標)17ゴール・169ターゲットが定められ(16平和、17連携、10人・国平等、5ジェンダー平等、1貧困、2飢餓、3健康福祉、13気候変動、12作る・使う責任、7エネルギー、14海、15陸、8働き・経済成長、9産業・技術革新、11まちづくり、6水・トイレ、4教育)、
  • 日本においても、「第5次環境基本計画」(2018年閣議決定)にて環境・社会・経済の総合向上、地域資源活用ビジネス、生活の質を高める新たな成長が謳われているところであり、京都においても、京都府環境を守り育てる条例(1995年)、京都府環境基本計画(第1次1995年、第2次2010年、第3次2020年)など推進してきたところです。

古来、食文化、織物産業をはじめ自然と共生した豊かな文化・産業を育んできたものの、石油資源を中心とした近代産業の波の地球規模での拡大に飲まれ、また、政治の中心地であるだけでなく町衆による高度な自治が培われてきたものの、少子高齢・人口減少社会に突入した現代においては地域コミュニティの弱体化、社会の担い手の不足が課題となっている中で、こうした地球・社会・経済のリスクの克服、その全体最適化、持続的発展に寄与する技術や産業の創出を図るためには、柔軟な発想を有するスタートアップ企業の集積が必要です。

世界観を描き、「絶対ほしい」を生みだそう

日本の開業率は1980年頃は約20%でしたが、2016年センサスでの開業率は5.0%(京都4.3%、全国35位)、廃業率は7.6%(京都7.4%)、2021年センサスでの開業率は4.7%(京都4.5%、全国14位)となっています(センサスから便宜上算出した数字であり、支店等の開設廃止も含むため、起業・廃業の実態とはややかけ離れています。)。しかし、パンデミックによる社会の構造的課題の顕在化に呼応するかのように、世界のユニコーン企業(創業10年以内、未上場、評価額10億ドル以上、テクノロジー企業。ちなみに、評価額100億ドル以上は「デカコーン」、1000億ドル以上は「ヘクトコーン」、持続的成長と社会貢献を目指すのが「ゼブラ」)もVC投資額も急増しています。

  • 2015年には176社で、かつその大半がシリコンバレー発のものであったユニコーン企業は、2020年には568社、さらに2021年には959社に至り、うち494社はアメリカですが、アジア295社など分布は世界中に広がっています(ユニコーンになるまでにかかる時間は、1998年創業のGoogleは8年、2004年創業のFacbook(現メタ)は5年、Uberはわずか2年と年々スピード化。なお、世界最大のユニコーンはTikTokを運営するバイトダンス、国内第1号はメルカリ)。
  • 世界時価総額ランキングの平成元年のトップはNTT22.5兆円でしたが、令和元年のトップアップルは106兆円、2位マイクロソフト103兆円、3位アマゾン101兆円、4位アルファベット88兆円など、上位10社のうち7社はVCが投資した企業です(ナスダックの時価総額の中央値が500億円だとすると、東証マザーズは50億円)。
  • 世界の年間投資額ランキングでは、1位アメリカ3,474億ドル、2位中国1,079億ドル、3位イギリス376億ドル、4位インド368億ドル、そして日本は16位45億ドルとなっています。

「発明家」すなわち、スタートアップ企業に必要なものは何か?

  • 人々を魅了する「世界観(ピクチャー・ビジョン=問題意識と解決アイデア)」
  • ベンチャーキャピタル(VC)等の投資獲得の面で重要な「市場規模」
  • 「独自の洞察」、すなわち、具体的なユースシーン、局地戦で勝てる市場獲得戦略(ランチェスター戦略)、他者との協業のために求められる強み(比較優位の原則)
  • 「ビジネスモデル(マネタイズ)」や「チーム((1)ハスラー:マーケット、ビジョン、(2)ホットショット:博士号などの専門知識、(3)ヒップスター:デザイン、(4)ハッカー:コーディング)」

スタートアップ企業は、世界を一変させるような「創造的破壊」ほど「既知(気づいている)の未知(理解できていない)」「未知の未知(気づきも理解もしてない)」など未踏の領域へのアプローチを試みるものであるため、一般の金融機関ではなく「支援者」と「資本家」のサポートが必要です。

  • インキュベーター(オフィス)、アクセラレーター(プログラム)
  • メンター(シリコンバレーでは、自分を脅かすかもしれない起業家に対しても、情報を提供することが、コミュニティのメンバー資格となっている)
  • エンジェル:シード期(起業前)、小型資金、意思決定速い、人脈活用など多様な支援があり得ます(シリコンバレーには30万人)。
  • VC(外部リンク):アーリー期(マネタイズ前)以降、中型大型資金、リターン最優先、財務以外の支援が乏しいです。
  • CVC(外部リンク):ミドル期(単月黒字化)以降、大企業とのシナジー((1)大企業からの直接投資、(2)大企業が設立した子会社からの投資、(3)大企業が委託する外部ファンドからの投資)

中でも、VCは大きなウエイトを占めていますが、彼ら自身、熾烈な競争にさらされています。セコイア・キャピタル、ベンチマーク、アクセル(フェイスブックに初期投資)らシリコンバレーでも有名な世界のトップVCらにおいては、徹底的に世界の最先端の技術をリサーチし投資案件を見極めるとともに、有望スタートアップ企業に選ばれるよう、資金だけではなく様々なサポート、付加価値を提供しています。

  • 米国の約8700社のVCにおいて、投資案件の65%が失敗・損失をし、利益(ヒット)が出るのはわずか35%、特に投資額の10倍を超えるホームラン案件は1%に過ぎません。
  • 投資の仕組みとして、年金基金や保険会社などの機関投資家(有限責任組合員LP)から、VC(無限責任組合員GP)は資金を集め、一般に10年のファンドを組成して、スタートアップに投資しています。LPにおいては、他への投資と比較し10年間で2倍~3倍になることを求めますし、GP(VC)においては、エグジットの際に投資金額を上回った場合にはその20%の成功報酬があるほかは、年2%の管理報酬しかありません(よって、シリコンバレーのVCとて数名程度の小さなものがほとんどです)。

そのため、重要となる1つは、将来エグジットする際の企業価値(バリエーション)です。

  • エグジット
    種類:経営権を持ったまま株式公開するIPO(Initial Public Offering/新規株式公開)、経営権を他に譲るM&A(Mergers and Acquisitious/合併と買収) ※近年はICO(Initial Coin Offering)が登場
    実態:スタートアップ投資先のIPO:M&A=日本86件:47件、米国59件:750件
    IPO基準:株主数・流通株式時価総額=東証プライム800人以上・100億円以上、スタンダード400人以上・10億円以上、グロース150人以上・5億円以上など
  • バリエーションの算定方法
    DCF(割引キャッシュフロー)によるもの、PER(株価収益率)によるもの、売上額に一定倍率(5倍など)を掛けるものなど国や業界によって様々です。例えば医療機器では、薬事対応、販売対応などが必要なため、スタートアップ企業では難しい黒字化も、体制の整った大企業に買収されればすぐに実現できる事情などから、海外ではPERで無理に黒字化を目指すよりも売上倍率での算定が通例となっています。
  • 必要資金:将来のバリュエーションを見極めた上で逆算します。
    研究(魔の川)のためのシードマネーや起業のためのアーリー資金
    開発(死の谷)・事業化(ダーウィンの海)のためのシリーズA
    競争(顧客拡大)のためのシリーズB
    安定経営のためのシリーズC

そして、もう1つは、市場規模、マーケティングです。

  • そもそも努力して売るのでなく、黙っていても売れる「セクシーな商品」を目指さなければなりません。なぜなら、先の資金調達の実情のとおり、市場の分析が不十分な「販売リスク」のある案件は論外だからです。
  • VCがリスクを負えるのは、「開発リスク」だけで、それとても、例えば医療機器でクラス4の開発リスクの高い製品の場合には、大きなリターンが見込めないと資金調達が難しいのです。たしかに、ニーズドリブン(マーケットイン)で顕在需要に対応する医療機器等と違って、創薬その他多くのスタートアップ企業が目指す、アンメットニーズ(ウォンツ)、潜在需要を具現化するテクノロジープッシュの分野では、「創造的破壊=発明(潜在需要×解決策(アイデア×テクノロジー))×社会普及」の公式からも分かるように、「偶然性」が付きまといますので、ネットワーキングパーティーのような出会いの場を増やすことがエコシステムとして重要です。しかし、何よりも、早い段階で市場規模を見定めねばなりません。ライフサイエンス分野であれば、「命までの距離」が遠いテーマを解決する商品ほど、価格が低くマーケティングや販売戦略の重要性も増すものの、技術、薬事、保険償還、ビジネスモデル、特許などの「解決策(アイデア×テクノロジー)」の検討の前に、病態の深掘(発生機序の解明)、市場分析(セグメント別ユーザー数)、ステークホルダー分析(ユーザーの満足度)という市場の吟味・評価を徹底的に行わねばなりません。

民間調査(外部リンク)によると2023年の状況については次のとおりです。

  • 企業別国内調達額トップ10のうち6社(電池・核融合、ロボット×2、宇宙、養殖)がディープテック系でした。
  • IPOを果たした企業では、アミューズメント系や宇宙関係が目立ちました。
  • M&Aでは、マーケットプレイスやカードなどのシステム系が目立ちました。

世界に伍するスタートアップ・エコシステム

リーマン・ショック後、米国東海岸では大企業を辞めて起業するケースが増えたように、今回のコロナ禍は、大企業より事業転換の点で小回りが利くこと、シリコンバレーや東京等ともリモートで繋がれると分かったこと、さらには金余りであることから、スタートアップにチャンスが到来しています。既に大企業への売却(子会社化)によるエグジット案件や、海外大型プロジェクトへの参画案件も数件生まれてきています。府外から京都に拠点を移すスタートアップ企業、支援者も散見されるようになり、新たな支援団体も立ち上がるなど徐々に「集積が集積を呼ぶ」状況が生まれつつあります。しかし、シリコンバレーで約40,000社、パリ、ベルリン、ボストンで各約4,000社というスタートアップ企業数には依然遠く及びません(全国では約16,000社、東京約1万社、大阪約1,000社(外部リンク)他の調査もほぼ同傾向(外部リンク))。便宜上、大学発ベンチャーの数(外部リンク)をテック系とすると、スタートアップ企業に占めるテック系企業の割合は、東京約1割、大阪約2割、京都約4~5割。また年間設立数を比較しますと、京都約50社、全国250社、米国1000社)。「最先端研究(0→1)、起業家(1→10)、事業会社(10→)」という一連の事業化・産業化フローの幅を更に広げることが重要です。

施策

 

施策実施状況

「(1)アイデアや技術を持つ起業家」「(2)リスクを見越した適切な指導を行える先輩起業家、リスクのある中で投資する投資家」「(3)スタートアップ企業のプロダクトを使い、買収し、または人材を供給する地域企業・公共部門」のトライアングル(エコシステム)を充実させること、さらに「(4)グローバル人材の集積とグローバル市場との連結」が必要であると考え、まず最初にオール京都・京阪神体勢の整備に取り掛かりました。

  • 2018年に、起業家等の産業人材の育成や産学公連携、重要な社会課題であるスマート社会の形成のためのオール京都のハブ機能として「一般社団法人京都知恵産業創造の森(外部リンク)」を設立
  • 2019年に、(1)交流機能オープンイノベーションカフェKOIN(Kyoto Open Innovation Network) 」(外部リンク)利用61,000人超:2019年度25,000人、2020年度・2021年度5,000人、2022年度12,000人、2023年度14,000人(12月末)。学生交流「KOIN BAR」、アイデア実践支援「ビジネス実践ラボ」(50万円支援、28件支援し10件起業)、事業化セミナー「LEAN LAUNCH PAD」(2023年度:28名参加し3名起業)、チャレンジショップ「KOINマルシェ」、VC・先輩起業家・女性コンシェルジュ等による壁打ち相談各種(2023年度約110名利用(12月末))、(2)連携支援機能40以上の多様な経済団体が集積)、(3)人材育成・ビジネス創出機能20以上の会議室等:年間6,000件(時間利用率3割程度から4割以上に増加)、累計40万人来場(2019年度165,000人、2020年度・2021年度は各75,000人、2022年度は106,000人、2023年度は90,000人(10月末)))を有するオール京都の産業支援拠点として「京都経済センター(外部リンク)」を開設
  • 2020年に、オール京都体制をさらに拡充するため府内各地の37の支援機関で「京都スタートアップ・エコシステム推進協議会」、オール京阪神体制として「大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム」をそれぞれ立ち上げ、国の「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」におけるグローバル拠点都市の選定を受け(2024年までのKPI:スタートアップ企業166社(大学発96、VISA15)、ユニコーン1社)、施策の相互乗り入れや情報発信の強化

 

その上で「(1)アイデアや技術を持つ起業家」の輩出・育成を図るため、2020年度から「起業するなら京都」プロジェクトをスタートしました。(兵庫:ポートアイランド再開発等と連動し誘致を強化(2021年度に11億円ファンド創設))

  • ピッチ会・プログラム等の年間開催回数(京都全体)2020年度:151件(知恵森36、京大32、KRP26など)、参加者延3,700名、2021年度:221件(知恵森85、KRP38、京都府16など)、参加者延4,100名、2022年度:259件(知恵森144、KRP36、ASTEM25など)、参加者延5,000名
    --研究者向けには関西イノベーションイニシアティブKSII(外部リンク)がシーズの掘り起こしを進めるとともに、KSAC(京阪神の26大学等のプラットフォーム)によるJSTプログラム(研究者に最大1,000万円など)は、2021年度「SCORE」14大学26件(うち京大4件)、2022年度「START」(外部リンク)15大学27件(うち京大(人工肛門患者向け排便検知システムなどのバイオ等)・立命館大(ロボット潜水等)、2023年度11件
    --大企業向けアクセラレーションを通じた大企業若手有望人材のサロン化・コミュニティ形成(参加大企業:2021年度3社、2022年度4社)
    --女性経営者コミュニティ「サロン・ド・こまち」KSAC事業)
    --小学生ものづくり体験プログラムKSAC事業)
  • コワーキング(京都全体):98カ所、インキュベーション(京都全体):23カ所(530区画以上)
    --コワーキング連携交流会の開催
  • ものづくり振興課関連補助金(スタートアップ企業採択):2020年度35件(2021年度50件)
  • その他、例年、京都商工会議所の創業相談1,000件、各商工会等の創業セミナー100回、起業支援事業費補助金(2023年度応募43件(京都市外25件))

その結果、

  • 開業率:2016年センサスでは全国5.0%・京都4.3%(35位)、2021年センサスでは全国4.3%、京都4.5%'(14位)
  • スタートアップ企業数544社(大学発216(学生55・その他161)・その他302/独自調査・2024年1月末)
    新設数は2010年頃は年間10社程度(2010年度8社、2011年度10社)でありましたが、2020年度54社「歯生え薬」を開発する企業空気から材料を作り出す企業など)、2021年度44社(レジ袋などではなく硬い素材でも水中で自然分解可能な微粒子開発を通じて海洋プラスチック問題の解決を図ろうとする企業など)、2022年度29社(ライフサイエンス、スマートモビリティ、VRゲームなど)、2023年度22社となっています。
    企業の業種別では製造業が4割、情報通信業が3割、分野別ではAI・IoT、ライフサイエンス、ロボット・ものづくりがいずれも約140~120社程度と、ものづくりに強い「京都らしさ」が反映されています(今後、海外の優秀な人材の確保のために、住環境・教育環境(外部リンク)の整備も重要だと考えています)。
    学生スタートアップ企業も、知恵森の支援の中から、人に代わってアプリで支援するフィットネスジム(外部リンク)株式投資を学べるボードゲームメーカー(外部リンク)などが生まれています。
    なお、株式会社の設立手順は概ね次のとおりです。定款(案)作成、発起人会開催、発起人・取締役の印鑑証明取得、会社代表印作成、定款その他必要書類作成(発起人・取締役押印)、公証人役場での定款認証手続(押印済定款3通、発起人の実印・印鑑証明書、収入証紙4万円分、手数料5.2万円、実質支配者申告書)、発起人の通帳への資本金払込み、発起人決議、法務局への登記申請【会社設立日】(申請書、定款、払込証明書・通帳コピー、取締役印鑑証明書、印鑑届出書)(登録免許税最低15万円)、登記完了(登記事項証明書(600円))、印鑑証明書(450円)取得、税務署での法人設立届出・青色申告承認申請書届出、自治体での事業開始申告、銀行口座開設
  • Jスタートアップ(外部リンク):京都14社
    バイオーム、FLOSFIA、メガカリオン、iHeart Japan、糖鎖工学研究所、Space Power Technologies、 メトロウェザー、アロマジョイン、京都フュージョニアリング、ながすな繭、リージョナルフィッシュ、リジェネフロ、Stroly、エネコートテクノロジーズ
  • Forbes Japan ランキングで京都のスタートアップ企業が1位、7位にランクイン(外部リンク)
  • 産業競争力強化法の市町村「創業支援等事業計画」に基づき、セミナーや個別支援等の継続支援を受けて創業した者(証明書発行数のうち創業):2019年度397件、2020年度327件、2021年度606件、2022年度585件

 

続いて「(2)リスクを見越した適切な指導を行える先輩起業家、リスクのある中で投資する投資家」の集積を図るため、2021年度から「世界に伍するスタートアップ支援事業」をスタートしました。(大阪・兵庫のピッチ会にも相互乗り入れ。大阪:ユニコーン企業輩出のためのミドル・レイター向けアクセラレーションプログラム実施)

  • エンジェル
    京都産業21「エンジェルコミュニティ」(8回開催41社参加、投融資45件・協業25件)、民間の「SEVEN」「EO KYOTO」(アクセラレーションプログラム。2021年度14名、2022年度22名、2023年度18名)
    なお、創業10年以内のスタートアップ企業に投資を行った個人投資家に対し、一定の要件を満たせば、投資した年(総所得額又は株式譲渡益から投資額等を控除)、株式を売却した年以降3年間(他の株式譲渡益と相殺)に優遇を受けれる「エンジェル税制」は、近年は年約10件程度の利用があります。
  • VC等
    京都産業21「京都発スター創生」(約10回開催、80社超参加、50件110億円超調達)、京都府「STARTUP CONNECT KYOTO」(2021年度。60社参加、著名メンター6名とのコミュニティ形成)、JETRO(国)アクセラレーションプログラム「SCAP」(テックスターズやCIC等の海外大型アクセラレーター提供。京都から2022年は5社参加)(外部リンク)、JETRO(京阪神)アクセラレーションプログラム「ライフサイエンス」(2021年度7社、2022年度6社)、JETRO(京都)「アフリカ最大手VC招聘ピッチ」(2022年度予定)

その結果

 

次なる「(3)スタートアップ企業のプロダクトを使い、買収し、または人材を供給する地域企業・公共部門」との連携促進については、社会課題のシーズ・ニーズマッチング等に取り組んでいます。(大阪:万博、うめきた再開発等への導入に向けたプログラム)

 

そして(4)グローバル人材の集積とグローバル市場との連結については、新たな取組を始めています(なお、京阪神の各JETROでは現地渡航プログラム等を実施。2023年度は9000万円の予算配分があり、海外VC招へいプログラム、訪印・訪バルセロナプログラムを実施。また、国において大阪・関西万博に合わせて「Global Startup EXPO 2025」を開催)。

  • まず、スタートアップ界隈における京都のブランド価値の拡大や異文化の出会いの場として、国内最大級のスタートアップイベント「IVS」の京都開催、京都府賞「京都スタートアップ国際賞」の創設を行っています(1万500人参加。うち海外2,200人、投資家推定1,000人)。今後は、東京都の「Sushi Teck.Tokyo」や国の「Global Startup EXPO 2025」との連携も図ってまいりたいと考えております。
  • そして、スタートアップ・インバウンドの推進として、海外起業家らに京都のエコシステムを実感してもらう「長期滞在型外国人起業家等誘致プログラム」(2024年1月~3月)や「海外大学生インターン」を核に、定着促進のためのビジネス・生活面両面のアドバイザーによるサポートを行います(京都インターナショナルスタートアップセンター(Kyo-sta、2023年7月31日開設)に6名のコンシェルジュ設置。相談18件(2023年10月末))。また、外国人起業家向け創業期課題解決セミナーも実施予定。
    --外国人にとってのハードル:ア)金融機関からの融資を得にくい(在留期間が短いため)、イ)銀行口座の開設が難しい(ゆうちょ銀が比較的ハードル低い)、ウ)補助金等の支援情報や外国人経営者のコミュニティの情報が得にくい(情報源がない)、エ)母国語を話せる社労士や税理士が少ない、オ)賃貸物件が借りにくい
  • 一方、スタートアップ・アウトバウンドの推進として、ドバイ史上初となる日本・京都展「KYOTO,JAPAN IN DUBAI」など、世界の投資家や事業会社が集まるエリアに京都企業を連れていく活動を核に、海外現地情報の収集や海外展開戦略の支援を行います。

以上により、5年間のKPIの達成状況は次のとおりです(2024年1月時点)。

  • スタートアップ企業数:目標166社、状況166社
  • 大学発ベンチャー企業数:目標96社、状況76社
  • ユニコーン企業数:目標1社、状況1社
  • VISA取得数:目標15件、状況19件

なお、京都知恵産業創造の森やATRなど様々な支援機関でも、海外展示会で合同ブース出展、海外機関を招聘したセミナーなど多数開催しています。また、国内投資額を現行の10倍超となる10兆円に引き上げることを目指す国の「スタートアップ育成5か年計画」(2022年11月)に対しては、次のとおり対応します。

  • 海外人材-- 国:アジア中心、府:全世界(長期滞在プログラム、海外大学生インターン)
  • Web3.0推進-- 国:人材発掘・育成制度、府:大型イベント(IVS CRYPTO)
  • 海外展開-- 国:発信、府:海外人材招聘
  • グローバル・スタートアップキャンパス-- 国:某所、府:府内産業創造リーディングゾーン、KYOTO,JAPAN IN DUBAI
  • その他、「みやこ京大イノベーション3号投資事業有限責任組合」(目標総額200億円)へ50億円出資

また、海外展開の支援は、個々のスタートアップ企業の飛躍のために必要であるだけでなく、飛躍した企業が将来、送り出して飛躍を後押しした母国(日本、京都)に大きな還元をもたらすであろうこと、現地情報の発信など後に続く企業への足掛かりとなり、グローバル規模でのエコシステムを形成するためにも重要であると考えています。

 

 

先端産業の集積【分野別】 Advanced industry 

  食産業の集積 Food industry 

  • 「Food Voice Kyoto」「助け合いの輪」
    新型コロナウイルスが席巻をはじめた2020年春。外出を控える動きが広まり、食品関連企業や飲食店は在庫が増えて困っておられました。その話をある地域ラジオ局で話してもらうと「だったらウチで使うよ」と企業さんの助け舟が!それにヒントを得て、困ってる企業さんと、助けてくれる企業やお客さんを繋ぐため、府内各地のラジオ局で宣伝してもらうための情報掲示板「Food Voice Kyoto」を立ち上げました。さらにこれにヒントを得て、業種を超えた助け合い、あるいは同業(競合)どうしの助け合いを促進するため、企業グループへの「助け合いの輪」補助金を創設しました。
  • 京都「食の世界便」
    食の世界便

    コロナ禍が明けはじめて食品業界にもようやく希望が見え始めた2022年。一方で、国内人口(消費者)の減少という構造的課題が立ちはだかっていました。しかし「これは円安を契機に海外市場を開拓するチャンス」と思い、これまで輸出の経験がない企業でも取り組めるよう、既に輸出ルートをお持ちの企業との相乗りを推進する「食の世界便」プロジェクトを開始。あわせて、「各国の事情に応じた商品開発」を進めるため、京都在住外国人に意見を聞く「隣の外国人ワークショップ」も開催。
  • MIRYO FOOD PROJECT
    「規格外など未利用の地域食材を有効活用できないか」
    そのために必要な、物流、一次加工施設、そしてユーザーをつなぐサプライチェーンの構築を進め、食品ロス・SDGs対応で付加価値の高い料理に生まれ変わらせるプロジェクト。
  • ポータルサイト「京の食」

クリエイティブ産業

そもそも、私たちが日々当たり前のようにいただいている食品・料理は、その全てが最初は、人類の歴史のある時、どこかで、誰かが生み出した「新商品」でありました。
例えば、移民の国・アメリカで、ドイツ・ハンブルク出身者が生み出したのが、ありあわせの肉を刻んで丸めて焼いた「ハンバーグ」です。イタリアの食材・マカロニと、フランスの調理法・グラタンを合わせたのが「マカロニ・グラタン」です。やがて豊かな時代になり、より健康的な朝食の提案として生まれたのが「グラノーラ」や「コーン・フレーク」です。
遡って、ヨーロッパを慢性的な飢饉状態から解放したのは、大航海時代に南米からもたらされたジャガイモです。見てくれの悪さで、永らく栽培されませんでしたが、18世紀、フランスの農学者パルマンティエという人物が、ジャガイモ畑を作って昼間は兵隊に警護させました。貴重なものだと思わせ、思惑通りジャガイモ泥棒が現れ、各地に広がったと言われています。そのおかげで「フライドポテト」、「フィッシュ・アンド・チップス」など様々なメニューが誕生しました。トウモロコシも、小麦のようにグルテンがないため、ふんわりとしたパンに仕上がらず普及しませんでしたが、粉を練って平たく焼いた「トルティーヤ」や、具を入れ、ちまきのように蒸した「タマ―レス」などが生まれました。また、永らく飲料原料であったカカオからチョコレートが生まれたのは19世紀です。オーストラリア原産のマカダミア・ナッツを、ハワイ土産の定番としたのが「マカダミア・ナッツ・チョコ」です。そして「カレー」は、インドなどでは本来、香辛料たっぷりの汁物・煮込みの総称ですが、日本で馴染み深い、いわゆる「カレー風味」のカレー粉は、イギリスで最初に開発されました。
さらに遡れば「漢」の時代の中国では、シルクロードで小麦粉料理が伝わるものの、「焼パン」ではなく、古来から中国で用いられてきた蒸気で蒸す技術を用いた「蒸しパン」が発達しました。
ついでに申せば、「レストラン」というビジネス形態を世界で最初に開業したのは、18世紀末、フランスの貴族に仕えてきた元料理人ボーヴィリエという人物です。フランス革命の前夜の時代で、貴族たちに仕えていた料理人の失業、厳しい同業者組合が崩壊し自由に料理を提供できるようになったことが背景です。ちなみに、ナポレオン三世の時代に軍の携行用バターの代用品として懸賞募集され、化学者によって開発されたのがマーガリンです。

そして、京都が誇る「和菓子」も創造性豊かな歴史に彩られています。その魅力は世界をも席巻し、アメリカではお菓子のサブスクサービス(外部リンク)も拡大しています。

  • 古代
    くだもの(果子、菓子):自然界の木の実・草の実(最初の菓子は11代垂仁天皇に持ち帰った「橘」の実)
  • 奈良時代
    唐菓子(からくだもの、唐から穀物を主原料とする加工法が伝来。米に飴・油を加える):大豆餅、小豆餅、麦形、煎餅等。やがて今日の団子、饅頭、煎餅
  • 鎌倉時代
    点心(定時の食事の前後の軽食、禅宗の影響):饅頭類、羹類、麺類等
  • 室町時代
    茶席用:麩焼、栗、シイタケ、昆布、餅と味噌、等
  • 室町末期
    南蛮菓子:カステラ、ボーロ、金平糖、カルメラ、等
  • 江戸時代
    饅頭、羊羹、落雁、豆菓子、最中(日本発祥)など完成(明治:饅頭に小豆餡)
    注1)幸福を呼ぶ5色の豆:青(木曜日)、赤(火曜日)、黄(土曜日)、白(金曜日)、黒(水曜日)
    注2)打物:「寒梅子(またはみじん粉)+砂糖」を木型(均一に固い桜が適する)で形成する干菓子で落雁等

このように、今日、私たちがいただく食品や料理は、世界の食品業界の皆さんが、数々の時代の転換点を乗り越えてこられた「証」そのものであり、地球上の「おいしい」は土地や風土、歴史等によって多様で無数に存在します。

  • ブランド京野菜(京のブランド産品):京みず菜、賀茂なす、伏見とうがらし、万願寺甘とう、えびいも、九条ねぎ、京たけのこ、花菜、鹿ヶ谷かぼちゃ、堀川ごぼう、聖護院だいこん、京壬生菜、金時にんじん、くわい、やまのいも、紫ずきん、京山科なす、京こかぶ、聖護院かぶ、京夏ずきん
  • 京ブランド食品(京都吟味百せん認定商品)(外部リンク):京つけもの、京菓子、京のパン、京とうふ、京のめん、京納豆、京ゆば、京の缶詰、京そうざい、京おかき・京あられ、京の酒、京の珈琲、京かまぼこ

サイエンスの粋

また、食品・料理は科学の粋を集めたものとも言えます。
そもそも、食品の原料として大きなウエイトを占め、食物連鎖のはじまりである植物自体がすごい仕組みを有しています。まず、舌の味蕾で感じる「旨み」「甘み」「苦み」「酸み」「塩み」の味覚のほか、舌が「痛い」と感じる「辛み」がありますが、植物にはそれらの元となる栄養素(五大栄養素:カラダをつくる「タンパク質(アミノ酸)」、エネルギー源「糖質」「脂質」、体の調子を整える「ビタミン」「ミネラル」)を自ら生産する能力があります。例えば、酢豚に入っているパイナップルのように、タンパク質を分解する成分を有し、肉をやわらかくしてその消化を助けるものもあれば、紫外線によって人や植物の内部で生じるスーパーオキシド、過酸化水素などの「活性酸素」(老化や成人病、がんの引き金になるとも、病気全体の原因の9割を占めるとも言われます。)を消去する成分(抗酸化成分)として、「苦み」の成分でもあるポリフェノール(及びそれを作用させるためのポリフェノール酸化酵素)やその一種であるアントシアニン(花びらの色の成分で、紫外線が強い高山の植物の方が色鮮やかになる)、「酸み」の成分でもあるビタミンC、ビタミンE、ビタミンAに変換されるカロテン等、香り成分である「フィトンチッド」等があります。
食の嗜好の構成要素は、「生理的欲求」「食文化への合致」「情報がリードする美味しさ」「やみつきになる特定の食材による脳の情報系への刺激」と言われています。味の「記録」は脳の扁桃体で行われますが、私たちが「感知」するのは、飲み込んだ後に鼻で感じる「香り」で、それを「記憶」するには香りを「言語化」するしかありません。味蕾で一番多いのは、苦みを感じるもので、おいしいものに少し苦みを加えるとより美味しさが増すのだそう。
最近では、欧州のシェフの中には、調理や味の表現を分子レベルで解析している方、日本の食材をくまなく調べ上げ、新しい料理を創造する方も多数いらっしゃいます。シンガポールのCRUSTは、売れ残りのパンを使ったビール製造を始めています。そして、米国では、米国初・世界一の料理大学カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカとMITとの提携、ハーバード大学デザイン学部での食研究チームの発足など、研究が一層本格化しています。

京都では「清酒」づくりがまさに発酵技術の粋を集めたものと言えます。税金も含めて「前払」が求められる酒造業界。組合を作って生産工程を「シェアリング」する取組も他業界に先駆けて行ってこられました。

  • 蒸米:清酒造りでは、酒米の内側の麹菌の菌糸が伸びやすい心白(デンプン)が必要であり、外側のタンパク質は精米して削り(削られたタンパク質は肥料として再利用)、洗米・浸漬し、「炊く」よりも水分が少なくなる「蒸す」ことで、硬さを残して削られる量を少なくして、表面積の大きい、すなわち、麹菌が繁殖しやすい蒸米を作ります。それ故、酒米も、低タンパク質で大きく丸いものがふさわしいのです。
  • 米麹:温度30-35度、湿度60-65度という密閉環境の中で、デンプンを糖分に発酵させるための酵素として、種麹屋(もやし)から仕入れる黄麹菌(日本酒・味噌・醤油:黄麹菌、焼酎:白麹菌、泡盛:黒麹菌)を供して蒸米を床もみし、12時間後に切り返し、撹拌・積替えして米麹を作ります。納豆菌や鉄分は厳禁で、菌の数を増やしすぎず、菌糸を米の中までしっかり繁殖させることが重要です。
  • 酒母:その米麹蒸米を加えたものに対し、雑菌対策としてph4以下の酸性環境にするための、糖分から乳酸に発酵させる酵素としての乳酸菌(細菌。これ自体アルコールで減少する)と、酒の香りとして重要で、糖分からエタノール等に発酵させる酵素としての清酒酵母(真菌。酒造免許保有蔵元のみが入手可能な、きょうかい酵母(スタンダード:7号)。酵母自体は自然界のあらゆるところに存在)を投入します。明治末以来の手法である速醸酛は完成まで12日程であるのに対し、江戸時代以来の生酛では酒造用具等に潜む乳酸菌を用いるため、25日かかりますがアミノ酸が多く含まれます。
  • 醪:この酒母に対し、3回に分けて、蒸米、米麹、水を仕込みます(3段仕込み)。使用する米は、酒母が全体の7%、残り93%を6で割って、初添が1、仲添が2、留添が3という割合で仕込むことで、雑菌対策のための乳酸(酸性度)の濃度を一定維持するのです。
  • 水:伏見の地下水は、「御香水」とも言われ、灘のそれとは違って硬度が40程度と低いため、すなわち、酵母の栄養源となるミネラル(カリウム、マグネシウム等)が少ないため、糖の分解が遅く「甘口」になります。月桂冠は、米国でも近い水質のサクラメントで生産をされています。
  • 搾り・濾過・火入れ:圧搾した粕が「酒粕」となり、圧搾、濾過した後、通常は2回加熱殺菌を行いますが、行わないものが「生ビール」ならぬ「生貯蔵酒」です。こうして酒米1kgから、1440mlの清酒ができます。

なお、種類は次のようになっています。

  • 純米酒:醸造アルコールを加えず米(蒸米)・米麹のみを原料にするもの
  • 吟醸酒:精米歩合が60%以下(大吟醸は50%以下)

 

緑茶」も京都がリードしてきました。まず、世界の「茶」を大別すると次のとおりです。

  • 発酵茶:紅茶、烏龍茶、プーアル茶など
  • 不発酵茶(熱(火曜日)を入れて発酵を止める):緑茶など

そして、「緑茶」を区別すると次のとおりです。

  • 煎茶:茶葉のエキス。収穫、加熱(青殺)後に、揉捻(日本特有で水分に浸して揉む)によりエキスを抽出しやすくする。
  • 抹茶:茶葉そのもの。収穫、加熱(青殺)後に、揉捻せず加熱乾燥処理を行い(揉捻しない茶葉を「碾茶」)、石臼で挽いて粉末にしたもの。
    栽培方法においては、新芽が2~3枚開き始めた頃、収穫を迎える約3~4週間前にお茶の樹に被覆し、お茶の旨味成分・甘味成分「テアニン(アミノ酸(ポリフェノール))」が、日光で健康成分・苦み成分「茶カテキン」に変化するのを抑制している。
  • 玉露茶:煎茶に抹茶栽培方法を導入したもの

製茶で重要な要素の一つが茶問屋(製茶メーカー)における合組(ブレンド)です。原料となる茶葉は、同じ農家のものでも、自然が相手であるため、毎年微妙に異なります。それでも茶の製品として、常に一定の品質、味に保つため、ブレンドのバランスも常に調整が必要になるのです。

 

なお、世界の飲料も紐解いていきましょう。まず、ワイン。ジョージアで紀元前4,000から5,000年のブドウ畑が、メソポタミアで紀元前3,500年前後の文学作品ギルガメッシュ叙事詩にワイン(ノアの箱舟に乗った人々に飲ませた)が、それぞれ登場します。そしてローマ帝国の支配が及び、食生活の変化(大麦粥から小麦を使ったパンへの変化、チーズ・オリーブオイルの流通など)に伴い、ワインも一般に広がりました。そしてイエス・キリストは「最後の晩餐」で「パンが私の体。ワインが私の血」と述べたことにより、ワインを飲むこととキリスト教への入信が結びつくようになり、同時に修道院は上質なブドウが獲れるブドウ畑 (地理的なコンディションと生産者の技術に左右される) を求め、特定の畑の地位も向上しました。

  • ワインの旧世界:産地による個性を引き出す醸造が行われています(欧州)。
    --イタリア:ローマ帝国の中心であり、ワイン生産量世界一です。
    --フランスボルドー地方の高級ワイン名産地・メドック地区内のワイナリー(シャトー。栽培・醸造・熟成・瓶詰めを行う製造者)の「メドック格付け」(ナポレオン3世が1855年パリ万博で始めました。1級:シャトー・ラフィット・ロスチャイルド、シャトー・マルゴー、シャトー・ラトゥール、シャトー・オー・ブリオン、シャトー・ムートン・ロスチャイルドのボルドー5大シャトー)や、AOC法(使用可能なぶどう品種、最低アルコール度数、栽培・選定・醸造・熟成方法など産地(ボルドー、ブルゴーニュ(ロマネコンティ、ボジョレーなど)、シャンパーニュ(ドンペリニヨンなど)、ロワールなど)ごとのルールを定めた原産地統制呼称法)など品質管理に関する法律の存在などにより、世界に名だたるワイン大国です。
  • ワインの新世界:時代にあったスタイルが追求されています(米国、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、南アフリカ等)
    --米国:金を採掘できなかった西部開拓者が、代わってワイン製造を始めたのがきっかけです。1976年にパリのワイン商人が始めたフランスワインとカリフォルニアワインのブランドテイスティング大会で勝利してきました。

ワインの価格を左右するのは評点、希少性、製造方法(例えば樹になるブドウの房を減らして(摘房)一部のブドウに甘味などを集約させることで生産量も減る、量は少ないが最新鋭の機械で醸造・熟成し品質を保つ、など)ですが、そのうち評価基準は次のとおりと言われています。

  • 甘味:ブドウが発酵しきれず残った糖分が多いと甘口
  • アルコール度数:ブドウが発酵してできるアルコールが多いと辛口
  • 酸味:ブドウのリンゴ酸・酒石酸
  • タンニン(渋み):ブドウの皮・タネ(赤ワインのみ)のポリフェノール
  • ボディ(感触):ライト、ミディアム、フル

そのテイスティング(S-step)は次のとおりです。

  • 見る(see):色合い・濁りの無さ、粘着度(アルコール度数。グラスを回す(switch))
  • 香る(sniff and smell):アロマ(ブドウ自体と発酵段階の香り)、ブーケ(樽と熟成段階の香り)
  • 味わう(sip and swish)甘味・酸味(舌)、タンニン(歯茎)、アルコール(喉奥)、ボディ(後味・余韻が長いほど手間がかかっている(上等なワインは10秒以上)。アタック(第一印象)は人工的に作り出せる)

ワインの評論誌も、最も権威のあるWINE ADOBOCATEなど様々あります。

 

次にビール。大麦麦芽を水につけて酵母(真菌)により発酵(アルコール)させ、ホップを加えて作りますが、1万年以上前からメソポタミアでは麦が栽培され、やがてビールが発見されたと考えられます。ワイン(ブドウ)が作れないドイツ・英国などの地域では、蜂蜜酒が作られていましたが、森林が穀物畑へと変化するに従い、ビールが作られ始め、修道院ではワインの代わりにビール作りを推進しました。なお、冷蔵技術が生まれるまで、長らくビールは常温で作られてきました。種類は次のとおりです。

  • ラガー(ピルスナーなど):低温(5~10度)で発酵する酵母を用いて、発酵が進むと酵母が沈殿する下面発酵で、冷やして飲みます。
  • エール常温(15~25度)で発酵する酵母を用いて、発酵が進むと酵母が浮遊する上面発酵で、常温で飲みます。

ヘルシー・表現豊か・繊細さ

残念ながら、日本の調理師学校の専攻割合は西洋料理8割以上、中華料理・日本料理が2割未満と言われますが、日本料理(「会席料理」。なお、「懐石料理」は、僧侶が空腹や寒さをしのぐため懐に温めた石で暖を取っていたことになぞらえ、茶事の際の空腹をしのぐために軽い料理、お茶を楽しむ前に客人に出す料理)は世界に誇る特徴を有しています。

  • ヘルシー:油をほとんど使わない
  • 表現豊か:四季の旬の素材を色濃く表現できる
  • 繊細な味:素材とだし(フランス料理はソース、中華料理は調味料、スペイン料理・イタリア料理は素材)

調理は、素材を活かすことに注力されています。

  • 切る:割烹(割主烹従)という言葉どおり日本料理の基本で、肉や野菜では繊維に沿って切るか繊維を断ちきるように切るかで食感も味のしみこみ方も変わり、魚では繊維を壊さないように包丁を引くことが重要です。西洋包丁がステンレス製・両刃が多いのに対し、和包丁は鋼製・片刃が多く、武士の刀の精神性に通じるところもあります。
  • 焼く:フライパンではなく炭火での直火がメインで、後付けの香りではなく、炭に落ちた食材の脂による自身の香りを食材はまとうことができます。また、水分が抜けてしぼむのではなく、遠赤外線により外側は揚げるように、中側は蒸して膨らむように焼けると言われます。炭は高温・長時間焼ける硬くて長い紀州備長炭等が人気です。また、かつてうなぎ屋さんで「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言われたように「串打ち」も重要で、肉は繊維に垂直に、魚の姿焼きでは頭を左側にして持ち上がるように、尻尾も立つように「踊り串」で串を打ちます。
  • 揚げる:天ぷら、とんかつ、唐揚げなど、衣を付けて揚げるのが特徴です。かき揚げののように最初は温度の低い油で形を整えながら中まで火を通し、最後に高温で周りをカラッと揚げるケースや、その逆のケースもあり、一つの鍋の中で火からの近さで異なる温度差をうまく利用されます。衣に使う粉や卵を冷たく保存しておいて油との温度差を大きくしておく工夫もされています。
  • 煮る、蒸す、和える(和え衣)、盛り付けるなど(煮る液体に入れて加熱し煮汁と一緒に食す(穀物の場合は「炊く」ともいう)。茹でる液体に入れて加熱し食材だけを食す。蒸す水蒸気で加熱する。蒸し焼き:焼いた後に水分をくわえて蓋をして蒸す。焼くだけより柔らかくなる。蒸し煮:水分を加えて蓋をして蒸しながら煮る。茹でるより短時間で済む。)

素材についても、日本料理は独特です。

  • :魚は生きている間はATP(糖(クエン酸)から呼吸で分解(代謝・異化))というエネルギー源により筋肉が「ぷりぷり」していますが、死後は徐々にATPが分解されイノシン酸という「うまみ」成分に変化(熟成)し、更に時間が経つと劣化します。そのため、日本では、刺身で使う魚は、浜の水槽で釣り上げ時にストレスの掛かった筋肉を休ませ、市場では生きたまま競りにかけられ、競り落とした仲卸は水槽に入れ、顧客への配送時間に合わせて活け締め(血抜き)、神経締め(死後も脳神経がATPを消費するため神経を抜く)が行われます。塩焼きとして食べる場合は、数日おきます。こうした処理は海外ではほとんど行われていません。
    なお、うなぎは、現在は川や湖の汚染により天然物は減ってしまいましたが、マリアナ沖で生まれた稚魚が日本の川をのぼり湖に辿り着き、成熟するとマリアナ沖まで泳ぎ産卵をして一生を終えることが分かってきました。夏場のうなぎは食欲減退で脂ののりが悪く、夏場は売れなかったため、平賀源内が「土用の丑」の「う」にひっかけて、夏の名物にしたと伝えられています。関西では「腹開き」、砂糖入りのタレで焼きますが、関東では武士の切腹とイメージさせるとして「背開き」で、白焼きにして蒸してから、タレで焼きます。
  • :牛は競走馬と同じく血統が重要視され、宮崎、鹿児島、沖縄には、エース牛の冷凍精子から種付けを行う繁殖農家が多く、子牛は8ヶ月、成牛は26~36ヶ月で出荷されます。牛の生体から内臓、骨、皮などを取り除いた枝肉から得られる部分肉の割合を、A、B、Cの3段階で評価する「歩留等級」と、脂肪交雑(サシ/霜降り。最高級は「トビ(とびきり)」)、肉の色沢、肉の締まり及びきめ、脂肪の色沢と質の4項目を5段階で評価する「肉質等級」で格付けされ、最高ランクの「A5」は、年間約90万頭のうち20%弱(豚では、極上、上、中、並、等外の5段階のうち最高ランクの「極上」は、年間約1200万頭のうちわずか0.2%)です。なお、運動量、すなわち筋肉が少なくやわらかい背肉の部分「サーロイン」やその内側の脂肪が少ない部分「ヒレ」はステーキなどに、それより頭側の「ロース」はすき焼きなどに、お腹のあばら骨周辺の部位「バラ」はカルビとして焼き肉などに、筋肉の詰まった「肩」「モモ」はカレーなどの煮込み料理などに、用いられます。菌をつけて熟成させるドライエッジングも行われることがあります。2014年にはEUへの和牛輸出が解禁になりました。
  • 松茸:95%程度が輸入で、うち中国産が70%、トルコ・米国・カナダ産が15%ほどとなっています。
  • :気候変動による新種の登場、食生活の変化による嗜好の変化などにより、コシヒカリ1強時代から変化が生じてきています。
  • 水と野菜:日本の、ミネラルやマグネシウムが少ない「軟水」を吸って育った野菜は、繊維が柔らかいです。
  • だし:昆布は植物性のうま味成分であるグルタミン酸を豊富に含み、魚・肉などオールマイティに合いますし、鰹節は動物性のイノシン酸を豊富に含み、野菜料理によく合います。お椀に用いられる繊細な一番だし、その他の全ての料理に使う二番だしなど料理人の工夫がなされます。輸出について、昆布は規制がありませんが、カビのついている鰹節は発癌性物質であるPAHが基準値より高いという理由でEU向け輸出製造施設認定工場で作られたものに限られています。

世界の料理を通じて世界の生活を知る

一方、世界の食はどうなっているのでしょうか。「食品」が使われる「料理」を知ることはその土地の生活を知ることであり、調理法は民族固有の技術、知恵です。

  • 世界では主食、副食の区別がないことが多く、多くの場合パンパスタは主食ではないし、コメは日本では主食ですが中国では主食とは言いません(日本では、麺の種類こそ少ないですが、ラーメンを主食と捉えて専門店ができたことで、世界で一番おいしくなったと言えます)
  • は宗教上タブーの国がありますが、羊肉は世界で最も多くの民族に食されています。馬肉を食べる文化は、日本の馬刺し・桜鍋、モンゴル風タルタルステーキくらい(タルタルとは、タタール人(モンゴル系民族)のこと)
  • は、大西洋側のヨーロッパはタラ、太平洋側のカナダ、アメリカはサケに大別されます。
  • スパイスは、料理の風味付けや食品の保存だけでなく、宗教儀式や租税・賠償金代わりとしても使われてきたものです。ペッパー(胡椒)、ガーリック、クミン、チリペッパー(唐辛子。中南米産で、日本には唐ではなくポルトガルから伝わった)、フェンネルなど。
  • 白人の好きな寿司は、ハマチトロアナゴ(いずれも甘だれ。ただし、最近は辛いわさびをそのまま口に入れ刺激を味わう「スシトリップ」も人気だとか)やアボカドを巻いたカリフォルニアロール、サケの皮を巻いたサーモンスキンロールなどだそう。ちなみに、日本の寿司ネタは、納豆こそ日本ですが、サケはノルウェー、マグロはボストン、カニはアラスカ、ミル貝はシアトル、サバアワビシャリはカリフォルニア、シソ葉はニュージャージー、エビはメキシコ、アナゴは韓国、ガリは台湾が多いそうで、ほとんどが冷凍ものなのです。
  • 料理とが分離している国も多く、北欧、一部の米国、豪州などでは酒は自分で持ち込む必要があります。

まず、ヨーロッパの食文化はどういったものでありましょう。古代ローマ時代からイノシシを食用に家畜化した豚肉を好んできました。

  • 英国
    日本の大手メーカーの醤油生椎茸は店頭にあるそう。
    --牛肉(肉屋では数ポンド単位の塊肉で販売)の塊をオーブンで焼いて、表面はウェルダムで焦げ目をつけ、中は肉汁したたるレアにして、薄くスライスした「ローストビーフ」は、日曜礼拝の後のサンデーブランチの定番料理。残り物の冷たいローストビーフは月曜日以降の平日の食事となる。グレイビーソース(残った肉汁を使用)をかけ、ヨークシャープディング(小麦粉、卵、牛乳と混ぜ、肉汁とともに型に入れてオーブンで焼いたおの)や、ホースラディッシュ(西洋ワサビ)、クレソン(オランダからし)などの香菜を添えます。
    --揚げたタラまたはカレイと挙げたジャガイモヴィネガー(西洋酢)をかけた「フィッシュ&チップス」は、温かく安く栄養価もあり、寒い英国のどこの街にも店があります。
    --キドニー(牛の腎臓)、サイコロステーキジャガイモ玉ねぎなどをグレイビーソース塩コショウで煮込んだものを、パイ生地(小麦粉、バターを混ぜたもの)で挟んだ「キドニーパイ」や、ジャガイモバター牛乳玉ねぎひき肉や余ったローストビーフを、コンソメ塩コショウで炒め、マッシュポテト(茹でたジャガイモをつぶして牛乳、バターで仕上げたもの)、チーズをふりかけオーブンで焼き上げる「コテージパイ」は、典型的なランチ料理です。
  • イタリア
    パスタは前菜であり、ピザはお好み焼きに近い感覚でディナーでは食べません。
    --北イタリアは、寒さに耐えるため、乳製品の煮込み料理、きのこジビエなどしっかりした味付けが好まれ、リゾットに使うもポピュラーです。牛肉を薄く叩いてソースをかけたカルパッチョは、ヴェニスが有名です。
    --南イタリアは、太陽に溢れ、オリーブトマト野菜が豊富。地中海に面し魚介類も多彩。アサリハマグリなどの貝類を白ワインで蒸した「ボンゴレ・ビアンゴ」、白身魚トマトオリーブオイルで煮込んだ「アクアパッツァ」、タコの溺れ煮「ポルポ・アッフォガード」などが人気。ナポリのスパゲティは、生トマト、トマトソースだけを合わせたスパゲティにバジリコの葉が乗っているだけの家庭料理です。
  • ドイツ
    ビールのつまみでもあるソーセージの種類は500以上あると言われ、子牛肉等にパセリなどの香草を入れた白いソーセージは、内容量を規定する法律があるほど。ジャガイモ(フライドポテトが好まれ、ジャーマンポテト(茹で)はありません)やパンの種類も大変豊富です。乳製品ジビエ(マス)も多く食されています。
  • ポルトガル
    料理が盛んで、魚介類の揚げ物(てんぷら)を日本に持ち込みました。メイン料理にパンライスが付いたり、生のタコイカシーフードサラダに使われたり、日本に近い食文化があります。
    --魚介では、日干しタラを水でもどして塩を抜き、ジャガイモ玉ねぎのフライを一緒に炒め、でつないでオリーブを添えた「バカリャウ・ア・ブラース」という家庭料理、海鮮雑炊「アロース・デュ・マリスコ」が盛んです。
    --肉料理では、豚肉ジャガイモニンジンのごった煮「コジード・ア・ポルトゲーザ」、モツ煮込み「トリパス・ア・モダ・ド・ポルト」などの郷土料理があります。
    --カステラの元祖というべきスポンジケーキポン・デ・ロー」は食後のデザートです。
    --スペインの「シェリー」と並び、ポルトガルの「マデイラ」「ポートワイン」は世界三大酒精強化ワインです。発酵しきっていない段階のワインにアルコールを加え(酒精すなわちアルコール度数を高め)、糖分の分解を止め(糖分を残しやすくし)ています。通常のワインのアルコール度数が14%程度に対し18%程度です。
    --ちなみに、スペイン領カナリア諸島では日本人のためにマグロを海洋養殖しています。
  • ハンガリー
    フォアグラ生産量世界一のこの国は、人名は苗字が先、名前が後、温泉も人気。人口200万人、東欧一のブタベストは、ヨーロッパで地下鉄が最初に走った街です。
    --コース料理では、前菜でテーリサラミ(香辛料で風味をつけた肉を冷燻し、白カビが覆うまで熟成)、ハムソーセージレバーパテベーコン牛タンなど肉類が丸パンとともに出されます。
    --次に、鉄鍋でジャガイモ玉ねぎなどを煮込んだ「グヤーシュ」という遊牧民の野外料理か、肉の代わりにナマズ(フナ)などの淡水魚を煮込んだ「ハラースレー」が出されます。いずれも、パプリカ胡椒バジリコなどの香辛料が味の決め手です。
    --有望なメインディッシュは豚料理。「食べられる国宝」と認定されているマンガリッツァ豚は、どんぐり、カボチャ、トウモロコシなどを食べて森や平原で育てられています。

次に、北米・オセアニアの食文化を見てみましょう。

  • アメリカ
    ボストン郊外に上陸した清教徒が、先住民からもらったトウモロコシの種を蒔き開拓を進めてきたアメリカでは、七面鳥の丸焼きステーキパイハンバーガーなど、手早く料理ができ滋養に飛んだ労働食が多いです。また、スシブームが続くアメリカでは、どの地方都市にもスシバーがあるそうですが、多くが韓国人、中国人の経営で、機械にぎり寿司、回転寿司が多いとのことです。
    --ボストンなど東部については、(1)まず、ボストン発祥の料理が多く、ウズラ豆豚肉玉ねぎを長時間煮込んだ「ボストン・ベイクドビーンズ」、ハマグリをミルクで溶いたホワイトソースで煮込んだ「ボストン・クラムチャウダー」、トウモロコシ粉に小麦粉を加えて蒸し上げたパン「ボストン・ブラウンブレッド」などがあります。(2)また、ボストンでは、大きく脂肪のノリの良い大西洋のクロマグロが水揚げされ、生のまま氷詰めされて24時間以内に築地市場に着くそうです。銀座などの高級店に卸された残りは、冷凍され再びボストンに戻ってくるとのことです。(3)そして、東部のホワイトカラーの食文化は特別なディナーやパーティ以外は質素で、朝食はコーンマフィンドーナツオレンジジュースコーヒー、昼食はホットドックピザなどのファストフードとクリームソーダか、サンドイッチビール、夕食はチーズバーガーラムカツレツワインといったところです。
    --ルイジアナ州など南部については、(1)まず、フランスやスペインなど複数の文化が混合された上で、古典的なヨーロッパ料理の風情漂う「クレオール料理」と田舎風の「ケイジャン料理」が発達しました。魚介野菜の炊き込みご飯「ジャンバラヤ」、魚介野菜オクラなどを加えてとろみをつけたシチュー「ガンボ」のほか、土地で取れるを使い、玉ねぎセロリピーマンなどの野菜を刻んで炒めたものをベースに、魚介をメインに、タバスコチリペッパーなど香辛料を利かせたものが多いです。バナナバニラアイスバターリキュールで作られる「バナナフォスター」も有名です。(2)また、綿花の大規模プランテーションで栄華を極めたルイジアナ州では、富裕層が午前中から談笑を楽しむために、のスープ、ボイルされたザリガニ、湯の中に卵の中身を落として作るポーチドエッグなどが生まれました。ワニナマズなど野性味あふれる食材に事欠きません。
  • カナダ
    マイナス8度で収穫した(凍結して糖分が凝縮された)ブドウを使うアイスワインが有名な国です。
    --バンクーバーなど西部は、サケカニロブスタームール貝オイスターなどシーフードが、フレンチ、イタリアン、中国料理店、日本料理店などで味わえます。
  • ニュージーランド
    肉の値段は、手間暇に比例し、高い方から鶏肉豚肉牛肉(放牧)の順番です。鮮魚は牛肉より安く、タイアワビは高く売れる日本に輸出しています。
    --スコットランドの郷土料理「ハギス」は、詩の朗読、楽隊付きでもはや幻と言われますが、ニュージーランドに残っているようで、の肝臓や心臓などの臓器を刻み、オートミールや塩コショウとともに胃袋に詰めて茹でるもの
    --先住民のマオリ族では、焚火で温めた石に食材を並べ、石に水をかけて出る蒸気で蒸かす「ハンギ」によって、魚介や肉を食べます。

さらに、アジアの食文化を見てみましょう。

  • 中国
    コメが主食ではないので「餃子をおかずに御飯を食べる」ということはありません。なお、かつての唐の都・長安では胡椒、胡麻、胡瓜など「胡食」が人気でした。「胡」とはエビス(ペルシアなど聖域に住む外国人)のことです。
    --北京の「北京ダック」は、アヒルの内臓を抜き、皮に水あめを塗って味を沁み込ませ、炉に入れ、その皮を味噌をつけて、キュウリ、ネギとともに薄餅で巻いてたべるもの。
    --西安のあちこちにある「火鍋」は、白濁したスープに、自由に羊肉野菜豆腐などの具材を選んで楽しむもの
    --シルクロード。河西回廊入口の蘭州では、牛骨と牛肉からとった澄んだスープに、もっちりとした(太さの種類は豊富)、香辛料で煮込んだ味付き牛肉、薄切り大根、たっぷりのラー油香菜または葉ニンニクが入った「牛肉麺」が有名です。新疆地区では、うどんに、羊肉、トマト、セロリ、ピーマン、玉ネギ、ナスなどの茹野菜をトッピングする「ラグ麺」もあります。
  • モンゴル
    野菜は食べない。羊肉を食べるが、脂肪を栄養源にするため、焼かず(脂肪が落ちるから)、煮るか蒸して食べる。
  • 韓国
    焼肉、魚介鉄板焼き、プルコギ(肉と野菜のすき焼き風)、サムゲタン(鶏肉の煮込み)、チゲ(鍋)、クッパ(スープ鍋ごはん)、冷麺、温麺、チヂミ(お好み焼き)、ビビンバ(混ぜ御飯)、キムパブ(巻寿司)、おでんなど。刺身は済州島。
  • 日本
    高度成長期に、それまでの丼ごはんそばうどんに代わり、舶来のハンバーグスパゲティラーメンが急増したと言われています。スパゲティナポリタン(GHQ将校の滞在ホテルであった横浜のホテルニューグランド二代目シェフ入江氏が作ったというのが定説)、冷やし中華、アイスコーヒー魚肉カルパッチョは日本オリジナルのものです。
  • インド
    ナンが主食の北インド料理、米が主食の南インド料理、魚介をふんだんに使う東部のベンガル料理、豚肉の消費が盛んな西部のゴア料理など様々ですが、インド中で食べられる定番料理は、各種スパイス野菜で炊いた「ビリヤーニ」(おかわり自由の店もあるそう)です。ジャガイモ玉ねぎ羊のひき肉などを各種スパイスで味付けしたものを皮で包んで油で揚げる「サモサ」は街中の屋台で食べられます。また、ヨーグルト各種スパイスで漬け込んだ鶏肉をドガまで焼き上げた「タンドリーチキン」はインド発祥です。ヨーグルトのような「ラッシー」やインド式ミルクティー「チャイ」も有名です。
  • イラン
    600種類以上あろ「天国の果物」と呼ばれるザクロの産地

最後に、アフリカの食文化を見てみましょう。

  • モロッコ
    オマールエビ、アンコウ、ヒラメ、スズキなどの魚介類や、ワイン(イスラム教の国ですが)が有名です。土鍋を使い、トマト、キャベツ、豆、ハーブをベースに、を入れて蒸し焼きにした「タジン」、小麦粉に水を含ませ、細く丸めて乾燥させた「クスクス」もある。王様は和食好きで日本人シェフを王宮に入れているとのこと。
  • ケニア
    ぶらさげた山羊の半身から肉を切り落としているアラブ風の焼肉屋(スモークで野性味を消している)、緑黄野菜玉ネギトマトの煮込みスープ「スクマウィキ」、白トウモロコシ粉に熱湯を注ぎ、こねた団子「ウガリ」や、インド人が持ち込んだ「カレー」(スープ状)、スパイスを利かせた中国料理などがあります。珊瑚礁の海で育った天然カキは輸出をしており、のスープ、湖沼魚ティラピア(スズキ)の刺身もあるとのこと。甘いコーヒーリキュール「ティアマリア」も人気。

なお、世界の4人に1人はムスリムです。

  • ハラル(イスラム教の教えにおいて「許されている」という意味):食べ物においては、野菜や果物、穀物(米・小麦など)・豆類・魚介類・海草類・牛乳・卵など。牛肉や鶏肉は食べてもOKとされていますが、それにはイスラム法に則った食肉処理が施されている必要あり。
  • ハラム(禁じられたもの):嘘を付くことや物を盗むこと、女性の肌の露出など。食べ物においては豚肉やアルコール飲料など
  • シュブハ(判別できないもの):処理方法が分からない牛肉や鶏肉や成分由来の分からない調味料など

原材料だけであれば容易に判断ができますが、加工品には多くの成分が含まれているため、ハラルかハラムかどうかの見分けがつきづらいため、宗教と食品衛生の専門家(ハラル認証機関)がハラルかどうかの検査をしてハラル性を保証する「ハラル認証」制度があります(実際には統一基準はなく、各認証機関によって費用も異なる。国内には約30の認証機関あり)。

また、ヴィーガン・ベジタリアンも増えています。2018年時点で、世界で6億3000万人、うちアジアが8割を占めています(アジアで4億9500万人人、アフリカ4700万人、アメリカ4500万人、欧州2700万人。ちなみに、英国では人口の14%、日本ではヴィーガンが2.2%、ベジタリアン3.8%となっています)。

  • 紀元前7世紀のインドでは、宗教上の戒律から肉食を忌避することが行われました。仏教思想が伝わった日本でも、精進料理の形で菜食が現存しています。
  • 西洋では紀元前5世紀の古代ギリシア時代にベジタリアリズムが流布していました。ピタゴラスは西洋史上最初のベジタリアンと言われています。
  • 1847年に英国ベジタリアン協会が、1944年には英国ヴィーガン協会が、1960年には米国ヴィーガン協会が設立されました。

ヴィーガンには、宗教・スピリチュアルアニマルウエルフェア(畜産・飼育環境などの動物福祉。欧州では鶏1羽当たりのゲージ面積の引き上げがなされたり、民間企業でもゲージフリーの卵使用を宣言するなど動きが活発化)、動物の権利(動物が人間の財産・資源として扱われない権利)、健康(アレルギー・病気対策など。ただし、ヴィーガンでは鉄分、ビタミンD、ビタミンB12、n-13系脂肪酸は不足)、気候変動(動物飼育による膨大な温暖化ガス排出量への懸念)など多様な要素が含まれます(エシカルヴィーガン:食事、化粧品、衣服など生活全般で植物由来のものしか用いな)が、食品に関しても様々あります。

  • フルータリアン:植物性食品しか食べない(果物・ナッツ類だけを食べ、根菜、葉野菜は食べない)
  • オリエンタルヴィーガン:植物性食品しか食べない(ネギ類、ニラ類、ニンニク、ラッキョウなど匂いの強い野菜は食べない)(台湾に多い)
  • ダイエタリーヴィーガン:植物性食品しか食べない
  • ラクト・ベジタリアン:植物性食品、乳製品は食べる
  • ラクト・オボ・ベジタリアン:植物性食品、乳製品、卵は食べる
  • ペスコ・ベジタリアン:植物性食品、乳製品、卵、魚は食べる
  • ポーヨー・ベジタリアン:植物性食品、乳製品、卵、魚、鶏肉は食べる

ヴィーガンレシピ投稿サイト(ブイクック(外部リンク)など)、ヴィーガンの民間認証制度(べジプロ(外部リンク)など)などもあります。

SDGs・SNS・グローバル時代への対応

日本の食品産業の国内生産額は、比較的大きな国内消費者に支えられ約80兆円(加工業34兆円、流通業24兆円、飲食店20兆円/2010年度、農林水産省調)(外部リンク)で推移してきました。穀物自給率が3割以下と言われるように、安さを求めて「原料の輸入」は多いものの、海に囲まれた立地や歴史・文化的な背景も重なって、独自かつ世界有数の多彩な進化を遂げてきたため、「製品の輸入・輸出」のウエイトや大企業のシェアが小さく、地域に根ざした中小企業・小規模企業が担ってきた分野であり(しかし、売上目標を立て、新たな販路開拓(付加価値の高い百科店、海外シミュラン店等)、そのためのアイテム開発(食品ロス対策として捨ててきたものの活用等)で飛躍する事例(外部リンク)なども生まれています)、参入しやすい分野で、府内の事業所は、製造業が約1,300、卸・小売業が約11,000、飲食店が約17,000(2009年、事業所統計)に上ります。

  • 食品消費税:酒類、外食、ケータリング(有料老人ホーム等で行う飲食料品除く)を除く食品表示法の食品の消費税は8%(軽減税率)
  • インボイス:消費税の納税では、重複を避けるため、売上に掛かる消費税総額から仕入れに掛かる消費税総額を控除します(仕入控除)。その際、仕入先が免税事業者(売上1,000万円以下など)の場合も、仕入額の10/110を仕入控除額にすることができます。しかし、2023年に始まるインボイス制度(適格請求書等保存方式、または仕入控除の対象となる請求書のこと)では、課税事業者からの仕入しか仕入控除の対象になりませんから、免税事業者からの仕入が避けられる恐れがあり、免税事業者は課税事業者になる選択をするケースが増えると見込まれます。
  • 圧縮記帳:固定資産取得のための補助金を国や地方自治体から直接受けた場合には、課税標準から当該補助金額を差し引くことで、受け取った補助金が当該年度の税金で差し引かれないようにするとともに、翌年以降は減価償却費も補助金分が小さくなって(収益計上が増えて)税金が増えるというもの

これまで、まず、食品特有の衛生管理対応と京都の伝統技術の伝承の支援を行ってきました。

  • 食品表示法対応は、2022年3月末には原産地表示の経過措置が完了しますが、これまでから担当課から多くのセミナーで周知を図ってまいり、例えば京都府食品産業協会では560アイテム以上の全ての「京都吟味百選」認定商品の検査も完了しています(逆に府内への生産回帰の動きなど、チャンスも巡ってきています)。
    食品表示法(2015年4月1日施行(経過措置期間も終了し現在は完全施行))は、JAS法、食品衛生法、健康増進法の3法の食品表示部分を一元化したもので「名称」「原材料名」「添加物」「内容量」「消費期限又は賞味期限」「保存方法」「販売者・製造所」等及び「栄養成分表示」の表示について定められています。
    --表示項目として、アレルゲン(原材料名、添加物)、消費期限(傷みやすい食品の「安全に食べられる期限」)又は賞味期限(傷みにくい食品の「おいしく食べられる期限」)、保存方法、表示責任者(販売者・製造所)が省略不可となりました。
    --「原材料名」において、重量割合1位の品目と、別表15の1で個別に掲げられる品目については、原産地表示(例:「小麦全粒粉(米国産)」など)が義務化されました。
    --「原材料名」において、特定加工食品のアレルギー表示が省略不可(例:「クリーム(乳成分を含む)」)となりました。
    --「添加物」を「原材料名」と分けて表示することとなりました。
    --「販売者」の名称・所在に加えて、「製造所」の名称・所在の表示が必要で、製造所固有記号は、同一製品を複数工場で製造する場合に限り利用可となりました。
    --加工食品の「栄養成分表示」が義務化(加えて「ナトリウム」は「食塩相当量」に表記変更)
    --遺伝子組換え表示制度(2023年4月1日施行)(外部リンク)
  • 食品衛生法に基づくHACCP対応のうち「HACCPに基づく衛生管理」は、従業員50名以上の食品製造業(府内約130施設)が対象で、国や府等の「7原則12手順」を記した手引書に基づき、(1)製造工程の異物混入・微生物汚染等のリスク要因の分析、重点管理点の選定、(2)重点管理点の継続管理を行うものです。また、「HACCPの考えを取り入れた衛生管理」は食品製造業・運送業・小売業、飲食店(府内56,000施設)が対象で、府の手引書を参考にするならば、(1)原材料受入、保管温度管理、汚染防止、健康管理の4分野に関する衛生管理計画策定と、(2)カレンダー形式による日々の取組確認を行うもので、引き続き保健所を中心に周知徹底を図られているところです。
  • 技術伝承・人材育成の基盤として「京もの伝統食品」指定も行ってまいりまして、2007年に京つけもの(千枚漬、すぐき、しば漬)、2019年に京上菓子(あんを用いた多彩な生菓子、落雁・有平糖などの干菓子)が、それぞれ指定を受けました。

ちなみに、消費期限・賞味期限のガイドライン等は次のようなものがあります。

  • 消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドライン」(外部リンク)
    食品の消費期限・賞味期限については、客観的な項目(指標)に基づき設定する必要がある。(特性が類似している食品の試験・検査結果等を参考にすることも可能)
    --理化学試験:粘度、濁度、比重、過酸化物価、酸価、pH、酸度、栄養成分、糖度等の指標について、製造日からの品質劣化を評価
    --微生物試験:一般生菌数、大腸菌群数、大腸菌数、低温細菌残存の有無、芽胞菌の残存の有無等の指標について、製造日からの品質劣化を評価
    --官能試験:人間の視覚・味覚・嗅覚などの感覚を通して、適切にコントロールされた条件下で、適切な被験者による的確な手法と統計学的手法を用いた解析により評価
  • 一般社団法人日本冷凍食品協会「冷凍食品の期限表示の実施要領」(外部リンク)
    包装形態の製品の保存試験を行う。
    --包装形態の製品
    --保存流通に適した任意の温度設定(米国農務省実験データでは-18度~-23度、国際冷凍協会データでは-18度、-25度、-30度)
    --製品ごとに複数期間を設置し検査(官能試験の場合は、訓練された3名で、色沢、香味、食感各5点)
  • 加速試験(短期間で長期の賞味期限を推測):株式会社環境科学研究所(外部リンク)

また、2020年から拡大したコロナで食品産業は大きな打撃を受けました。まず、「実店舗」について、製造から見て「直営店」の場合については、「常使い」されてきた商品以外は大きな打撃を受けました。「他店」に卸す場合は、スーパー・コンビニは好調でも、人流抑制による旅行者・インバウンドの激減によって百貨店・土産物店・飲食店は大きな打撃を受けました。一方、「オンライン販売(宅配)」は伸びました。

  • 「Food’s Voice Kyoto」の開設、「助け合いの輪」補助金の開始、代行商談会(京都企業が東京に行かずに、試食品を送って、代行業者が商談)で20社に144件の商談成立支援

2024年度からは、未利用食材の付加価値を高める「MIRYO FOOD PROJECT」も立ち上げてまいります。

食品輸出

海外の日本食レストランは2005年2.5万軒から2020年15万軒へと大幅に増加しているそうです。一方、国内においては、いずれインバウンドが戻ってくることを見越して事前PRを目的とするパターン、本格的な輸出を目的とするパターンが考えられます。

食品輸出に関して外形的な注意事項は、次の4つを挙げることができましょう(ECを通じて海外顧客が国内産品を直接購入する「越境EC」は規制対象外のケースがあります)。

まず1つ目として、輸出の「対象食品」については、陸上動物の肉類やその加工品が原則禁止の国が多く、輸出相手国が要求する証明書類(外部リンク)が様々あります(検疫:伝染病を予防するため、その有無につき診断、検査し、伝染病の場合には消毒・隔離などを行い、個人の自由を制限する行政処分)。

  • 植物検疫証明書・輸入許可証(外部リンク)(植物防疫所(神戸)。加工食品については「製茶」が関係)
    輸出国(日本)における植物の病害虫の発生状況等に鑑み、輸出相手国の要求によって、「輸出国(日本)における栽培地検査」の実施、「輸出国(日本)による植物検疫証明書」の発給、事前の「輸出相手国による輸入許可証」の発給などが求められるものです。
    具体的には「品目」「輸出相手国」「手段(貨物、携帯、郵便)」によって、「書類なしで輸出できるもの」「植物検疫証明書が必要なもの、輸入証明書が必要なもの、両方が必要なもの」「二国間で取り決められているもの」「輸出できないもの」など様々です。
    例えば米国の場合、生果実・野菜は原則輸入禁止(細かな規定あり)、イネは種子・籾付のものは輸入禁止ですが、食用玄米・精米は書類なしで輸入可能です。
  • 輸出検疫証明書(外部リンク)(動物検疫所(各空港・港)。加工食品については「牛肉・鶏肉」等が関係)
    輸出国(日本)における家畜伝染病の発生状況等に鑑み、輸出相手国の要求によって、「輸出国(日本)における輸出検疫証明書」の発給が求められるものです(輸出相手国において、日本の畜産物・水産物の輸入が認められていない場合もあります)。
    検査が必要な「指定検疫物(外部リンク)」は、(1)輸出相手国が家畜の伝染性疾病の病原体を拡散するおそれの有無についての証明書を必要としている動物その他の物(二国間で衛生条件を締結している牛肉・鶏肉等、台湾向けシカの角、米国・カナダ・台湾・EU等向け養魚用飼料等、ベトナム向け装飾用貝類など)、(2)大臣が国際動物検疫上必要と認めて指定するもの((1)の定検疫物のうち、生きた動物、種卵、精液、受精卵、未受精卵、野生動物由来の畜産物)、(3)その他((1)(2)の家畜伝染病予防法に基づくもの以外に、狂犬病予防法に基づく犬、猫、あらいぐま、きつね及びスカンクなど)
  • 施設認定、衛生証明書(外部リンク)
    畜産物・水産物の輸出については、輸出相手国の要求によって、相手国が認定・登録した施設において処理を行い、衛生証明書の添付が求められる場合があります。
    例えば、京都においては京都市と畜場、京都食肉市場株式会社が認定施設となっているケースが多いです。
  • 自由販売証明書(外部リンク)(地方農政局)
    日本で製造され国内で問題なく流通している食品を輸出する際に、輸出相手国の通関関係機関等から国内で問題なく流通していることを証明するものとして提出を求められることがあります。

次に2つ目として、「食品・添加物の国際規格、各国規定」に沿う必要があります。

  • 規格(外部リンク)
    食品に関する国際的な基準には、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)によって合同で設立されたコーデックス委員会が策定している次の規格などがあり、「成分」「量」「製造方法」「表示」等に関し規定されています。
    --CODEX:安全基準(農畜産物の生産段階から消費者の食卓に並ぶまで)と品質規格(成分とその量などの規格と、製造方法・内容表示に関する検査や輸出証明の方法・手続などの定め)
    --FDA:食品、医薬品や医療機器、化粧品などの販売・流通において、許可や違反品の取締りを行っています。
    --FSSC22000:ISO22000をベースにしたもので、FDA監査にも対応できるものです。
    --ISO22000:HACCPと異なり11項目が決められています。
    --HACCP:国や府等の「7原則12手順」を記した手引書に基づき、(1)製造工程の異物混入・微生物汚染等のリスク要因の分析、重点管理点の選定、(2)重点管理点の継続管理を行うものです。
  • 食品・添加物規制(外部リンク)
    食品を輸出するにあたっては、輸出先国の食品・添加物規制に対応する必要があります。

そして3点目として、「輸出の手続・リスク分担」の概況は、次のとおりであり、これらを自社自ら行うことを「直接貿易」(手数料不要である一方、為替リスク、資金回収リスクなどを負います)、代行してもらうことを「間接貿易」と言います。

  • モノの流れ
    国内輸送、輸出通関、船積み、荷卸し、輸入通関、海外輸送
  • カネの流れ(消費税免除)
    モノとは逆方向の流れ
  • 書類の流れ

輸出企業側の具体的な手続の順序としては、次のとおりです。

  • 輸入企業との売買
    輸出企業は、相手国の輸入企業と、売買契約を締結
  • 通関業者への船積依頼、商品の保税地域への移送
    輸出企業は、通関業者に、船積依頼(通関と船積の依頼)し、商品を保税地域へ移送
  • 税関手続
    通関業者は、税関に、輸出申告(オンライン)し、税関は、審査・現物検査、輸出許可
  • 船積み
    船会社は、船積みを行い、通関業者に、船荷証券(B/L)を渡し、通関業者は、輸出企業に、輸出許可書・船積書類(インボイス(荷物送状+代金請求書)、パッキングリスト(梱包明細書)、原産地証明(輸入申告時の関税率決定に用いられる)、保険証券、船荷証券)を渡す。
  • 決済
    輸出企業は、銀行に、荷為替手形(為替手形+船積書類)を提示し、決済

売買契約におけるリスク分担は、ICC(国際商業会議所/International Chamber of Commerce)が策定した世界で最も利用されている国際貿易取引条件インコタームズ(INCOTERMS/International Commercial Terms)が目安になりましょう。

  • 輸出企業・輸入企業の費用負担
    輸出入時の通関費用、船積み・荷下ろし費用、運送費、保険費用の分担
  • 引渡時期の分岐点
    危険負担(船の座礁による損失、輸送途中の事故、荷下ろし作業の不手際等)の分岐点
  • 引渡に関わる輸出企業と輸入企業の役割分担
    輸入許可、輸出許可などの取得や貿易書類を用意するのかなどの役割分担

具体的には、次の2グループ11規則があります。

  • 全ての輸送手段に適用する規則
    EXW(工場渡=輸入企業の負担が最も大きい)、FCA(運送人渡)、CPT(輸送費込)、CIP(輸送費保険料込)、DAP(仕向地持込渡)、DPU(荷卸込持込渡)、DDP(関税込持込渡=輸出企業の負担が最も大きい)
  • 海上輸送と内陸水路輸送に適用する規則
    FAS(船側渡)、FOB(本船渡)、CFR(運賃込)、CIF(運賃保険料込)

また、島国である日本の貿易の多くは海上輸送で行われ、そのほとんどの貨物がコンテナ船に詰められた状態で運ばれています。

  • FCL(Full Container Load/一荷主がコンテナを占有している貨物)
    外注するかどうかはともかく荷主の手配でコンテナに詰めます。船からの荷卸しの後も、そのままのコンテナでトラック輸送できます。
  • LCL(Less than Container Load/複数荷主の貨物を混載してコンテナ内の空間をシェア)
    混載のため、船積み前に貨物をコンテナフレートステーション(CFS/保税蔵置場)に集めてコンテナに詰め、輸入であれば荷下ろし後にコンテナを開けて積載貨物を仕分けする作業が必要です。通関、貨物の受け渡しもCFSで行われ、その後、仕向地に運ぶためトラック等に積み替えられます

さらに4点目として、食品輸出の「戦略」の概況は次のとおりです。

  • 輸出国を決定するための調査
    どんな商品がどれくらいの価格帯で売れるのかなどの地域特性、動植物検疫、衛生証明、関税などの輸出条件を、展示会への出展その他様々なルートで調べましょう。
  • 輸出計画の策定
    輸出先の国やターゲットとなる顧客層と商品の強みを明確にし、輸出時期、検疫手続、輸送方法、価格・数量などを決定します。また、他社から商標出願されていないかあらかじめ確認し、輸出先に対して商標等を出願、登録しておきましょう。
  • 輸出に取り組むための体制の整備
    貿易実務の担当者を決め、輸出に対応できる生産体制も整えましょう。
  • 事業パートナーの選定
    国内の輸出業者、輸出先の輸入業者・卸売業者など必要に応じて事業パートナーを選びましょう。
  • 輸出国での販売継続方法の検討
    試験輸出も必ず行うほか、法令などが変わる場合もあるため、輸出の手順・管理などは定期的に見直し・改善を行いましょう。

以上の外形的な注意事項を踏まえ、実質的な注意事項について、まず、実質的な訴求要素は次のとおりです。分かりやすい付加価値のあるものが好ましく(輸送費や通関、中間業者のマージンなどによって消費者価格が日本の「1.8倍」になる)、日本酒や抹茶のほか、和菓子や味噌等の調味料、佃煮などの総菜等が候補でありましょうか。

  • 日本らしさ・地域性(欧米:伝統・ストーリー・和と洋の中間、アジア:北海道・京都などの地域ブランド)
  • 健康・手軽さ(欧米:発酵・オーガニック・グルテンフリー、アジア:手軽さ・機能性・冷凍食品・半調理品)

次に実質的な課題は次の3を挙げることができましょう。

まず1つ目は生産面です。

  • 賞味期限延伸への要請、包材規制への対応:
    (1)成分・製法変更、(2)添加物利用、(3)冷凍または乾燥対応(冷凍・急速冷凍技術(家庭用冷凍庫などのエアーブラスト方式、リキッド方式、液化ガス方式、接触方式など)のほか、真空凍結乾燥(フリーズドライ。パナソニックが常圧凍結乾燥も開発中)・熱風乾燥・缶詰瓶詰め(加熱殺菌)・レトルト(加熱加圧殺菌)などの乾燥殺菌技術などを駆使しながら、おいしい食品を開発される例が、コロナを契機に国内外において増えています。しかし、課題も多いです)、(4)包材対応(真空包装、ガス置換包装、無菌包装、加圧加熱殺菌包装/いずれも印刷層、バリア層、シール層など複数のフィルムを組み合せて様々な機能を持たせています。最近では透明で中身が見えながら機能を持たせたものも開発されています。なお、「乾燥剤(脱水させたシリカゲル)」、「脱酸素剤(鉄の錆により酸素を吸収)」の封入などにより期限を延ばすことも可能です。)
    --品質面の課題(腐敗等の生物的変質、酸化・変色等の化学的変質、乾燥・固化などの物質的変質):冷凍後の乾燥、冷凍焼けによる劣化、真空フィルムの場合の紫外線・透過酸度による劣化、成分調整による賞味期限延伸の場合の味とのバランス
    --コスト面の課題:賞味期限延伸のための機器・包装対応コスト、国内向けより量が少ない中でのレシピ・包装コスト、冷凍品輸送時のコールドチェーンコスト、ラベル貼人件費コスト
    --期間面の課題:賞味期限設定のための試験・検査への対応に時間を要しタイミングを逃す、添加物・包装の規制の調査対応に時間を要する。
  • 各国の衛生管理への対応、それに必用な施設整備(HACCPの施設整備等)
  • 添加物に関する規制・国際標準対応、放射線規制
  • GMO(遺伝子組換作物)の表示・検査対応(欧米向け)
  • ハラール・コーシャ等の認証取得に向けた原材料等の調達・製造管理対応

次に2つ目は流通面です。

  • 海上輸送時のコンテナ確保の難しさ、海上輸送コストの高騰
  • インポーターの発掘・関係性構築:各社で輸出担当者を置くなど社内の方針を定めることが絶対不可欠ですが、慣れている企業様であれば、JETROのJAPAN MALL(外部リンク)を活用して商社や現地インポーターを探す挑戦をされてもいいですし、不慣れであればJETROのハンズオン支援(外部リンク)を活用し、現地情報を把握するところから始めるのもいいです。
  • 冷凍・冷蔵輸送する場合の国内、海外までのコールドチェーン整備
  • 現地での模倣品発生に対する対応(ブランド保護)
  • 輸出用商品ラベル作成、貼り付けに関する分担・負担
  • 産地単位での輸出ロットの取りまとめ・共同輸送(システム構築・保管庫)

そして3つ目は販売・消費面です。

  • 大ロットでの販路開拓可能な現地系商流の特定・アプローチ
  • コロナの影響の大きい外食から小売・ECチャネルへのシフト
  • SNS/動画等を活用した生産ストーリー(原材料のこだわり、産地ブランド等)、日本食の文化、食べ方等の消費者プロモーション
  • 各国の現地料理、和食フュージョン料理での活用レシピの提案
  • 健康効果の訴求・ブランディング

イートテック

地球・社会・経済の観点で俯瞰すると、世界の食料システムの市場規模10兆ドルに対し、肥満や糖尿病治療など健康損失6兆6000億ドル(安価な加工食品の多用によるフードデザート、調理の効率化の余剰時間によるおやつ採取の増加など)、異常気象の被害や生物多様性の破壊など環境損失3兆1000億ドル、フードロス(世界で全食品の3分の1が廃棄)などの経済損失2兆1000億ドルで、総じて1兆9000億ドルの損失と言われています。そして、2050年の世界の人口は約97億人と、現在より20億人も増加するのに、既に世界の7~8億人もの人々が飢餓や栄養不足で苦しんでおり、日本においても食品ロス(食品ロスの削減の推進に関する法律、2019年)は600t以上で、国連などが世界各地で行っている食料支援の1.5倍に匹敵します。
一方、日本国内に目を向ければ、少子高齢化・人口減少時代に突入(世界的に、経済成長に伴う食糧生産力・公衆衛生の向上が進んだ19世紀以降人口が急拡大し、経済成長の成熟に伴う個人の嗜好多角化によって人口増加が抑制する傾向があります)し、特に家庭や個人の目線に立ち返れば、60歳以上の高齢単身者の67%が朝昼晩全て孤食となっているなど様々な課題が山積しており、大量生産・大量販売や効率化を主眼としたバリューチェーンでは対応できなかった新たなニーズ、すなわち、価値観に合った食材、食材発見の喜び、調理の楽しみ、コミュニケーション、食のパーソナライズ化などの、ニッチでロングテールのニーズへの対応も必要となっています。
こうした中、マイクロソフト、アマゾンの本社やスターバックス1号店もあるシアトルなど、フードテックが盛んな都市を抱えるアメリカにはフードテック分野を扱うVCが200を超えるなど、欧米を中心に多くの食にまつわる技術革新やビジネスモデルが登場しており、食品開発設備を提供するオープン型研究開発コミュニティ「MISTA」(スイス香料メーカー・ジボタン)や食品製造ラボのあるフードテック専門シェアオフィス(米キッチンタウン、日本の新大久保フードラボ等)も生まれています。
また、コロナ禍を契機に「三間(時間、空間、仲間)」のあり方の変化や、立ち返るべき原点(オリジン)の重要性が高まる中、外食ビジネスにおいては、アンバンドル(分解)、すなわち、「場所」機能を切り離すデリバリーサービス、「調理」機能を切り離すゴーストキッチンなどの動きが進むとともに、コミュニケーションや体験の場としての「場所」機能の新たな価値の創造や、郷土料理やシェフの人生観など「コンテンツ」機能の強化など、新しい形が求められています。

まず1つめは「食材の進化」です。

  • 医食同源・パーソナル栄養(イギリスではスーパーのレジ横に菓子を置くことを規制):炭水化物や塩分を抑えながら29種類の栄養素が過不足無く含まれる完全栄養の麺・パン(日本ベースフード)、医療従事者向けお手軽ビタミン提供(ベルギー・アルバーツ)
  • 代替プロテイン
    植物肉等:単に肉の代用品にとどまらず、低カロリーその他肉を上回る機能の付与まで研究されています。例えば、人間が肉を認識する視覚効果・嗅覚効果等の実現に重要な化合物「ヘム」を遺伝子改変酵母から産出(米インポッシブルフーズ)、ハンバーガー(米ビヨンドミート)、3Dフードプリンタによる生産(イスラエルRedefine Me)、リバースエンジニアリングによる代替肉ハンバーグ(大塚食品)、数十万種の植物性プロテインのデータからキー素材を自動抽出する技術を核にした植物性卵焼き(ジャスト)、大豆で作ったカルビ・チキン(ネクストミーツ。あらゆる植物性タンパク質の栄養素・成分分析データ、熱の加え方、水分量、油分比率などの物性(弾性などの力学的性質、電気的工学的性質)を変えながら)データを収集した上で、原料の選定・配合を決め、圧力成形を行うなどして商品化)
    動物細胞培養肉:培養肉ステーキ(日清。牛の筋肉細胞をコラーゲンと混合して細胞ゲルを作り、37度で1時間程度置くと細胞シートとなり、それを重ねて培養液に浸して培養すると、1センチ角のサイコロ肉ができる。途中で電気刺激を与えると筋繊維構造が増えて肉が固くなる)
    マイコプロテイン(土壌の糸状菌)など微生物活用:微生物牛乳(米パーフェクトデー)
    昆虫食:京都においても飼料が少なくて済む「昆虫」食の開発等を推進しています。
    発酵:肉や魚を包むことで発酵させる発酵シート
  • バイオスティミュラント
    植物の生育に効果的な成分を、植物・食品残渣から抽出し、注入する手法(外部リンク)(農薬、肥料に続く第三の手法)
  • 植物工場等
    高成分野菜工場(村上農園)のほか、京都でもセンサーを用いて風・雨・照度・温湿度・CO2などハウスの環境調整を自動で行うシステムの開発分散してる圃場の温湿度、CO2などを捕捉しリモート制御するための5G通信実証ブドウの房の形を整えるために行う実(粒)を間引きをAI画像認識等でサポートするシステムの開発農薬散布ドローンの運営などを推進しています。
  • 完全養殖
    卵から成魚までの「完全養殖」が実現できている魚種はまだ限られています。

次に「買い物・レシピの進化」です。

  • デリバリーサービス(飲食店の「フロント」)
    届いた菓子の好き嫌いをアプリでフィードバックすればより好みに合ったものが届くネットフリックス的な健康菓子サブスクサービス(日本スナックミー)、急速冷凍ノウハウを活かして農家の余剰フルーツ等の冷凍販売(日本ディスブレイク)、飲食店の余剰食材と一般購入者を結びつけるプラットフォーム(日本コークッキング/TABETE)、置配サービス(クックパッドマート)
  • 食材・人・調理を連動させるパーソナライゼーション
    血糖値やグルコースの低侵襲測定サービスと連動した購入食材や調理法の提案サービス(米Abbott)、検査した自身のDNAにマッチした食材を色で提示する小売店サービス(英DNANudge)、最適食材を処方箋に記す病院と小売との連携(英Kroger)、食意識・気分・環境からのレシピ提案(ニチレイ/conomeal)
  • フードロス関連
    京都においても、規格外京野菜の活用促進のための1次処理設備のシェアリング食品ロス解消を目指す「食のSDGsステーション」開設等を推進しています。

そして3つ目は「調理・食事体験の進化(家の外の食)」です。

最後に「調理・食事体験の進化(家の中の食)」です。

  • 買い物、レシピ、調理のプラットフォームとなる「キッチンOS:音声によるキッチンのコントロール(Amazon)、料理を選択したら購入食材、選択すべき調理器具や加熱時間を提案するプラットフォーム(米イニット)、タブレットのレシピとBluetoothで連動し自動で温度調節を行うIoTフライパン(米Hestan Smart Cooking)、レシピ連動調味料サーバー(クックパッド)、お茶を煎れる人の体温・心拍、周囲の温湿度をセンサで読み取り茶葉に応じて抽出時間を自動調節するIoTティーポット(日本Load&Road)、味噌の発酵を見える化し温度調節をサポートするデリバリーキット

京都においては、「和食×サイエンス×デジタル」によるイートOSづくりなどが期待されるところです。

Foodtech-hill

世界の人口増加に伴う食の量と質の確保に向けた課題解決を図ります。

施策

(その他参考:2025年度京都府当初予算)

  • 農作物高温対策事業
  • 有害鳥獣総合対策事業
  • 京都フードテック推進事業(南部オープンイノベーションラボの整備、研究開発促進)

施策実施状況

近年の社会の変化を踏まえた商品開発、広報展開、販路拡大の推進に取り組んでいます。

  • SDGsの視点による商品開発の推進(2018年度~):
    規格外で廃棄されるものを有効活用しつつ、ブランド力のある「京野菜」を加工食品に活用するための加工体勢の整備(野菜1次加工施設のシェアリング)の推進、粉体・乾燥・ペースト・冷凍に関する知見の整理(「京野菜加工のトリセツ」)などを行ってきました。
  • SNS等を活用したダイレクトマーケティングの潮流の変化を踏まえた広報展開の推進(2020年度~):
    近年は、顧客層ごとに発信方法・タイミングを検討するなど緻密で丁寧な対応が不可欠となってきており、自社で研究し「生菓子の全国配送」を実現している例も登場してきており、自社にそのノウハウがないならば、「まるごと京都直売所」など先行している事例に合流、連携する手法が考えられます。インスタ、インフルエンサー活用術などのセミナーなどを実施してきました(2021年度、キャンペーン参画企業6社)。
  • コロナの影響から活路を見出すための輸出の推進(2021年度~):
    国内の人口減少、コロナ禍、原材料の高騰など日本の食品業界を取り巻く環境が厳しさを増す一方、海外での日本の食品への関心拡大、冷凍技術の進展、円安の進行など、海外市場に展開する大きなチャンスを迎えているため、2021年度は、海外インフルエンサーも活用し、シンガポールの人気レストランと連携した「シンガポール・京ものフェスティバル」に京都企業11社の商材を提供しました。通常の海外物産展等は、委託販売方式(収入は売れた分だけで売れ残りはロス)、商談会参加後の取引対応が必要(企業にとっての障壁)、ノンローカライズ(現地に合わない商品もそのまま)といったことが障壁となっているため、全量事前買取、代行商談によるサポート有、レストランでローカライズという方式でトライしたところ、現地の方の苦手な商材を加工調理によって克服したり、日本酒もまだ輸出の余地が多くあることが発見できたり多くの収穫が得られたところです。2022年度は台湾SOGO展へ7社出展しました。さらに、これまでの普及啓発、海外商談会やアンテナショップへの出展、テストイベントの開催などの取組に加え、既に輸出ルートをお持ちの企業と連携して「国内取引で輸出ができる」恒常的な仕組み「食の世界便」プロジェクトを開始しています。食品メーカ18社、留学生等25名(米国、英国、ギリシア、中国、マレーシア等)を集めた「隣の外国人」では、「日本酒は冷や氷を入れないと飲みにくい」「フルーツ大福は美味しい」など貴重な意見を収集しました。

 

  ライフサイエンス Life science 

  • チャレンジ・バイ
    中小企業、スタートアップ企業が開発した新製品の販売拡大のために、最初の購入先を見つけることが大変重要。ならば、特に医療や介護の現場での課題解決に繋がるようなことなら良しではないか。そういう発想で、医療・福祉関連の現場で購入いただく際に、購入費を提言させるための補助金を2015年から開始しています。
  • CLEAN VOICE KYOTO
    cleanvoicekyoto
    新型コロナウイルスが席巻をはじめた2020年春。医療現場では医療用ガウンやマスクなどが不足していました。そこで、府内の企業に呼び掛けて、開発していただいたり、独自のルートで輸入していただくための、不足品マッチングサイトを立ち上げました。中には大量に輸入され、京都以外の自治体や国にも提供されたケースも。
  • ポータルサイト「ライフサイエンス」

 

生命の誕生と寿命

138億年前に宇宙が、50億年前に太陽が、そして46億年前に地球が誕生しました。原始の地球は溶岩や硫酸ガスが噴き出し、宇宙から強い放射線や紫外線が降り注ぐ、化学反応が起こりやすい環境で、有機化合物、すなわち、「」や「塩基」等が生まれました。そして、偶然「RNA」や「タンパク質」が生まれ、さらにそれらが偶然にも密着した液滴状態において生産効率の良い自己複製マシーンになりました。やがて、含まれる糖の種類が異なり、二重らせん構造を取りやすく、安定して分解されにくい「DNA」が偶然生まれました。さらに偶然、RNA又はDNAとそれを取り囲むタンパク質(太陽系の小惑星からアミノ酸が発見されており、宇宙から飛来した説もあります)、偶然生まれた油性の袋からなる数十nmの「ウイルス」、DNAやリボソームを有して自らタンパク質を作ることができる生物、数μmの「細菌(バクテリア)」が38億年前に誕生しました(地球最初の生物・細菌(中でも最も最初のものは「最終普遍共通祖先LUCA」と呼ばれています)は、個別の環境に適応しており、実験室での培養は容易ではなく、未解明のものが多く、PETを分解できるものなども発見されています。また、光エネルギーを利用するもの、化学エネルギーを利用するもののほか、深海で電気エネルギーを利用するものも発見されています。RNAやDNAは放射線等ですぐに切れ、細菌の中では炭水化物からエネルギーを得る際に生まれる活性酸素によって酸化してしまうため、2本鎖で復元しやすいDNAが生物の遺伝物質として残ったのです。つまり、度重なる「偶然(ミラクル)」から多様な分子が生まれ、その中で効率よく複製するものが勢力を増して残る「正のスパイラル」(ただし、最大勢力でなくとも生き残るものもある)、これらを促進するように新しいものと入れ替わる「ターンオーバー」によって、生物は生まれたのです。

さらに、細菌(原核生物)どうしが偶然融合し、例えば、酸素呼吸を行う細菌との融合で20億年前に生まれたミトコンドリア(菌類や動物への進化に繋がる)や、光合成を行う細菌との融合で10億年前に生まれた葉緑体(藻類や植物への進化に繋がる)等を含む、大きな「真核細胞」が生まれました(「酵母」など)。そして、分裂で増えた細胞がそのまま塊となり、やがて集団の中で役割を持ち始めた「多細胞生物」が10億年前に誕生しました。そして、約6,650万年前の白亜紀に起きた隕石の衝突で、恐竜等の大型動物が絶滅したおかげで、樹上生活をしていた哺乳類に時代が開かれました。夜行性であったネズミの中から、偶然、昼行性のものが現れ、行動範囲も広がり果実を豊富に獲ることができ勢力を拡大しました。南アメリカの霊長類グループはそのまま樹上生活を続けましたが、アフリカでは砂漠化の進行により肉食獣のいる地上に降りざるを得ず、その多様な種類の中でたまたま生き延びた集団が人類の祖先です。ウナギが深海で産卵するのも、サケが川の最上流で産卵するのも、捕食者が少なく安全で、そういう行動をとる種がたまたま生き延びているということです。

  • 無機:金属+セラミック(炭素、ダイヤモンド、陶磁器、ガラス、無機半導体材料等
  • 有機:物質の8割を占める炭素を含んだ化合物(有機半導体材料など)

日本人の寿命は、旧石器時代の13~15歳から、弥生時代20歳、平安時代31歳と伸びたものの、戦が続いた室町時代は16歳に下がり、世の中が安定した江戸時代は38歳、明治・大正時代には43~44歳となりました。戦後は栄養状態と公衆衛生の改善で乳幼児の死亡率が低下し、2019年の平均寿命は女性87歳、男性81歳と過去最高を更新しました。死因は、がん、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎の順です。人間の約37兆個の細胞は、ミトコンドリアで酸素呼吸を行い糖からエネルギーを作り出す代わりに、活性酸素が生じてDNAを含む細胞の構成要素を酸化する副作用も生み、がん化のリスクを有しています。そこで、1つは「免役」によってがん細胞やウイルス等を攻撃します(免疫を阻害するがん細胞を、さらに阻害する薬がオプジーボなど)。もう1つは「細胞老化」です。「体細胞」は幹細胞から分裂し、腸管内部の上皮細胞は数日で、皮膚は4週間で、血液は4ケ月で、骨は4年で全てが入れ替わります(心臓と、脳・神経細胞は生涯変わりません)。DNAの末端部分のテロメアが分裂のたびに短くなり、50回ほど分裂して半分くらいの長さになると信号が発せられ、細胞の老化が始まります。老化細胞が、細胞死(アポトーシス)で内部から分解するか、免疫細胞に食べられるかして除去されるのですが、免疫細胞を呼び起こすサイトカインを巻き散らかし、免疫による炎症、臓器の機能低下やがんなどの原因にもなることもあります。一方、「幹細胞」と「生殖細胞」が生涯生き続けるのは、テロメア合成酵素が発現されて、テロメアが短くならないからで、50回を超えても分裂ができますが、やがては機能が衰えます。こうした結果、55歳くらいがターニングポイントです。

最近では寿命に関する遺伝子も見つかっています。1つは、栄養分である糖の代謝に関わる遺伝子GPR1が壊れることで、栄養が利用できない代わりに(活性酸素も少なくなるため)寿命が延びます。他は、複製が不安定なリボソームRNA(これ自体は、mRNAやtRNAと連携してタンパク質を合成する働き)に関する2種類の遺伝子です。

さらに近年は人口冬眠の研究も進められています。動物は食物をエネルギーに換えて体内の活動を維持していますが、哺乳類の一部には体を省エネ状態にして食物を摂らない機能を持つものがあり、基礎代謝、酸素消費量、体温が低下することが分かっています。人間に応用できれば、救命医療が間に合わない際の時間稼ぎのほか、年単位の宇宙旅行の移動中の冬眠や、自分が望む未来までの冬眠も可能になるのかもしれません。

細胞--遺伝子、光合成・呼吸、HLA

ヒトの大人の体には37兆個、250種類以上の細胞(直径20µm)があり(なお、男性の体重の60%、女性の体重の55%が水分で、特に筋肉組織は72%に及びます)、細胞核の中には23の染色体 (23対目は男女を決めるX・Y染色体) 、31億対の塩基(ゲノム)があります。マウスだと27億対、小麦170億対、イモリ310億対のゲノムがあります。

  • 染色体=ヒストン(タンパク質)+DNA(デオキシリボ核酸)
  • DNA=糖+リン酸+塩基(アデニン(A)・チミン(T)、グアニン(G)・シトシン(C))
  • 塩基(ゲノム)遺伝子配列(ヒトの場合1.5%)+その他配列

その他配列中のハイエンサーと呼ばれる配列への転写因子(タンパク質)結合がきっかけとなり、同じくその他配列中のプロモーターと呼ばれる配列に転写因子とRNAポリメラーゼが結合することで、遺伝子配列の転写が開始されます。

  • 進化(自然淘汰のゲノム変異)
    放射線や紫外線でゲノムは欠損し、復元しやすい二重らせんのDNAで修復されますが、時に違う並びになることがあります。例えば、天然マダイではDNA個体差は750万箇所存在し、天然トラフグではDNAが4個欠失している箇所が1万箇所以上あると言われています。
  • 育種(人為的淘汰のゲノム変異)
    この変異を集めて、人為的に新品種を作製するのが育種です。人類は、どう猛なオーロックスから黒毛和牛、イノシシから大ヨークシャー(豚)、甘さが少なく食用ではないエゾヘビイチゴからあまおうが、臭みが強いノラニンジンからニンジンを、時に数千年掛けて育種(ゲノムの変異を集めて新品種を作製)してきました。
    それを効率的に行うのが「ゲノム編集」などの「遺伝子改変」です。「遺伝子改変」には、従来の放射線利用、微生物の酵素による化学変異などの「人工突然変異法」のほか、近年は人工制限酵素やクリスパー・キャス9等のツールを用いた「ゲノム編集」が飛躍しつつあります。ゲノム編集は2層構造になっており、1層目はゲノムの認識です。複数の人種のデータをつなぎ合わせる形でのヒトゲノムの解読は2003年に完了し、最近では次世代シーケンサーで31億対を数日で解読(個体差を判別)できるようなりました。また、旧世代のゲノム編集ツールでは標的とする塩基配列を特定するためのタンパク質をオーダーメイドしなければなりませんでしたが、クリスパー(gRNA)では遙かに簡便なRNA(時間の経過で分解される。細胞壁がある植物の場合はDNAを用いて、後にDNAを取り出さねばならない。)を用いています(ヒトの塩基配列が31億に対し、18対の塩基配列、すなわち、600億分の1の確率でターゲットなる塩基配列を同定)。2層目はキャス9などの酵素で遺伝子を切断(一部除去)する遺伝子ノックアウト(自然突然変異と同等の影響)、除去された部分を修復(手本に合わせて復元)することで生じる遺伝子ノックイン(従来の遺伝子組換と同等の影響)があります。

ゲノム編集によって、遺伝性疾患の研究などライフサイエンスへの応用のほか、病気に感染しにくい家畜や花粉を撒き散らさない杉の開発など様々な農林水産の品種改良が進められています。また、昆虫の擬態にはどのような遺伝子が関係しているか、クマムシはなぜ放射線を浴びても生きることができるのか、イモリの脚はなぜ完全に再現できるのかなど、地球上の生物について多くが未解明であり、その解明が資源問題をはじめとする幅広い社会課題の解決にもつながるものとも期待されます。

 

細胞の中で行われている活動として、「酸化(電子が奪われる)・還元(電子を得る)」と「ADP(アデノシン二リン酸)からATP(アデノシン三リン酸:エネルギーを貯める)への転換」の組み合わせが、光合成と呼吸です。

  • 光合成(葉緑体):(1)光エネルギーが水を酸素(放出)・水素イオン(+)・電子(-)等に分解し、(2)その(水素イオンの)エネルギーでADPからATP(エネルギー源)を合成し、(3)ATPをエネルギーに有機物を合成する。
  • 呼吸(ミトコンドリア):(1)肺から採り入れ血液に乗って全身の細胞に行きわたる酸素(と水素)が、腸から採り入れ血液(ヘモグロビン。なお、一酸化炭素は酸素の200倍ヘモグロビンと結合する力があります)に乗って全身の細胞に行きわたる有機物を分解し、(2)そのエネルギーでADPからATP(エネルギー源)を合成し、(3)エネルギーを得る(酵素に依らない「燃焼」の場合は急激な変化で、ATPは合成されない)(ミトコンドリアにもDNAが存在しますが、緊急的に必要な物質などを作り出すためのもので細胞分裂など恒常的な活動に使われるものではありません)。

呼吸の際、消費される酸素の1~2%が「活性酸素」に変化します(副産物)。

  • 善玉活性酸素:スーパーオキシド、過酸化水素、一重項酸素
  • 悪玉活性酸素:ヒドロキシラジカル

なお、ビタミンCなどは活性酸素全体を消去しますが、水素は悪玉活性酸素だけを消去します。

 

細胞には、表面のHLA(白血球抗原)による免疫拒絶反応(自己・自己以外を判別)があります。そのため、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、京都大学iPS細胞研究財団(CiRAF)におかれてはiPS細胞の作製は3つの柱で進められています。2022年1月時点で7名の方から作製した27株のiPS細胞を提供し、現在、パーキンソン病をはじめ多くの臨床研究・知験が実施中です。

  • 「他家細胞」による「iPS細胞ストック」:日本人の40%に共通する主要4種類のHLA型を用いたもの
  • 「他家細胞」による「HLAゲノム編集iPS細胞ストック」:ゲノム編集によって、残り60%(世界の大半)にも対応するもの
  • 「自家培養」による「my iPSプロジェクト」:自家細胞は安全性が高い反面、1ドナーにつき4,000万円(3作業員で年3製造)というコストがかかりますが、自動化することで1ドナー100万円の実現を目指しておられます。

なお、株式会社iPSポータルは、CiRA、CiRAFや、iPSアカデミアジャパン(知財管理等)と連携しながら、創薬・医療機器メーカー等向けに、セルテクノノロジーをコア技術として、iPS細胞の樹立やアッセイ(評価)、スクリーニング(選定)のサポート等をされています。

 

細胞培養」とは、生体組織から分離した細胞を培養液中で増殖することで、(1)細胞バンクから入手する場合と、(2)ドナーから採取した組織から細胞を単離する場合があります。

  • 解凍
    まず、(1)細胞バンクから入手した細胞から培養を開始する場合、マイナス何十度や百何十度という超低温の「超低温フリーザー」から、液体窒素容器などの保冷容器に入れて運ばれてきたものを、37℃温水槽等で融解し、素早く「培地」を加えて凍結液を薄め、遠心分離により沈殿させ、凍結液を含む上澄みを除去します。
  • 細胞単離
    次に、(2)ドナーから採取した組織から細胞を単離する場合、不要な組織の付着を切除した上で、組織をタンパク分解酵素液に浸漬し細胞を単離します。そして、酵素反応阻害剤により酵素反応を停止させます。
  • 培養 -培地と足場-
    そして、37℃に加温した新しい「培地」を添加します。「培地」とは、生体外で細胞を培養するために用いられる組織間液を模した液体です。また、上澄みの除去や、こうした培地の添加などの作業は、よくピペット等を用いて手作業で行われますが、この際必要なのが、コンタミネーション(埃や雑菌の混入)を防ぎ無菌状態で作業するために、内部を陽圧にして空気を外に押し出している「クリーンベンチ」です。その後、顕微鏡や細胞数計測器等を用い、「セルカウンター」で細胞数、細胞濃度を計測します。計測した細胞数/細胞濃度をもとに、適切な量の「培地」を加えて希釈し、細胞懸濁液を調整し、新しい培養容器に所定量の細胞懸濁液を移動させることを「細胞播種」と言います。
    生物の体内にいたときに血液中を流れていたものは、培地内で浮遊した状態で増殖する浮遊培養系細胞、組織にくっついていたものは、培養容器に付着し増殖する接着培養系細胞として培養されます。接着培養系で、単層(2次元・平面)培養の場合は、ペトリディッシュ(シャーレ)、培養フラスコ、マルチウェルプレートなどが用いられます。マイクロウェルプレートは、平板上の多数のくぼみ(ウェル)に、目的の細胞を播種して細胞培養を行うデバイスで、1 枚あたりのウェル数が 48 個や 96 個の製品が一般的です。また、3次元(高さ方向・厚み)で細胞を増殖させる立体的な培養方法は、生体内に近い環境であるため重要となっていますが、細胞の接着及び増殖を支え、立体的構造を維持するための担体「足場」が必要です。例えば多孔性軟質ゲルなど様々な材質、構造の足場の開発が進められています。
    こうした培養等を行うための装置が「CO2 インキュベーター」で、解凍後はこの中で細胞が増えていきます。細胞代謝により培地が酸性化してしまうのを防ぎ、培地のpHを一定に保ちながら細胞を培養するために、一定のCO2濃度を保つものです。
  • 培地交換と継代
    細胞は、培地から必要な栄養素を使いそれらの栄養素を代謝します。そのため、栄養分が低下し、代謝産物が多くなった培地を捨てて、新しい培地に交換します。培地交換の前に、まず細胞観察を行い、培養が正常に進んでいるかどうかを確認します。新しい培地は、事前に37℃に温めて、細胞に急激な温度変化を与えないようにします。
    細胞が増えてきたら、培養容器いっぱい(コンフルエント)になる前に、新しい培養容器に植え替え「継代」を行います。細胞がどのくらい増えたか、細胞観察して、モニタリングをしておく必要があります。細胞を容器から剥がすために、トリプシン処理によって細胞を洗浄。そして洗浄液を取り除くために遠心分離し、それを新しい容器に移して、培地を注ぐ、という手間がかかります。

免疫

抗原から身を守る仕組み「免疫」。

  • 自然免疫(1次免役:がんを増殖させる作用あり)
    白血球(マクロファージ)や皮膚・肺等の樹状細胞が細菌やウイルスを取り込む(そしてT細胞等の他の免疫細胞に情報伝達を行うサイトカイン(低分子タンパク質)を分泌する)ことから始まります。ウイルスを取り込むこうした貪食細胞をiPS細胞から作り研究用に提供する取組iPS細胞由来の他家マクロファージで固形がんの創薬を目指す取組(外部リンク)が、京都のスタートアップ企業で進められています。
  • 獲得免疫(2次免役)
    胸の真ん中にある小さな臓器、胸腺(Thymus)で作られる免疫細胞、T細胞(白血球(リンパ球))が主役です。
    --がん治療用攻撃(免疫)細胞(キラーT細胞)をiPS細胞から作るなど「細胞性免疫」の研究開発が京都でも進められています。キラーT細胞は、「PD-1」という分子が発現していない状態(活性化)と、発現している状態(抑制性=ブレーキ)が頻繁に入れ替わるようになっています。しかし、疲弊してくるとPD-1をひっこめる力がなくなり(疲弊抑制性)、さらには、がん細胞が「PD-L1」というたんぱく質でPD-1を無効化(ぴったりくっつく)します(悪玉)。この悪玉T細胞をがん細胞から解放する薬がオプジーボですが、効果はあるものの、疲弊したT細胞は役に立たないケースも多いです。
    --コロナ関連で注目されたのは、「体液性免疫」すなわち、ヘルパーT細胞を経てB細胞(白血球(リンパ球))により抗体を自ら作り出すための「ワクチン」です(実際には細胞性免疫にも関係します)。2021年2月に国内で接種が始まったファイザー(米国)・ビオンテック(ドイツ・スタートアップ企業)や、モデルナ(米国)の世界初となるmRNAワクチン(開発に時間がかかる不活化ワクチンではなく、ウイルスのスパイクタンパク質を体内で作らせるもの)、アストラゼネカ(英国)のウイルスベクターワクチンのほか、国内でも塩野義製薬の遺伝子組み換えワクチン、田辺三菱製薬のウイルス遺伝子を組み込んだ植物から抽出するワクチン、VLPセラピューティクスらの投与後に体内で自己増殖するため投与量が少なくて済むmRNAワクチンなど、様々な開発が進められています。京都のスタートアップ企業においては、ウイルスのスパイクタンパク質をmRNAから生成するのではなくダイレクトに生成するスパイクタンパク質の成分そのものを生成する攻撃(免疫)細胞(B細胞)を活性化するヘルパーT細胞を制御する細胞(Treg)を抑制しB細胞の活性化環境を作るといった研究開発が行われています。

がん

人間の体内では、1日に5,000個のがん細胞が生まれています。細胞は分裂を繰り返し、新陳代謝を図っていますが、細胞分裂の際に、ほんのわずかな刺激(食品やストレス、呼吸で発生する悪玉活性酸素など)で遺伝子のコピーミスが起こることがあり、変異細胞が発生するのです。嫌気状態(酸素が欠乏している状態)でも解糖だけでブドウ糖をプルビン酸に分解してATPを産生して生きていくことができる、さらに細胞の内側をアルカリ性に保つ(外側を酸性に保つ)ことで活動活性が高い細胞が、がん細胞なのです。

がんのステージは、大きさ、リンパ節への転移、遠隔転移の有無の3要素から診断れ、臓器によっても細かく違います。がんには、肺がんや大腸がんなど塊を形成する「固形がん」と、白血病や悪性リンパ腫など塊を形成しない「血液がん」があります。固形がんの場合、臓器の基底膜、さらには血管壁を突き破って、血流(血小板が免役細胞からがん細胞を守る)に乗って別の臓器の上皮細胞に着床することで「転移」し、あるいは隣接する周辺の臓器に直接広がって「浸潤」するという自在な稼働能力はがん細胞特有のものです。ただし、がん細胞そのものがヒトを死に至らしめる毒素を作り出しているわけではなく、臓器不全などが問題になります。治療法については次のとおりです。

  • 外科手術
  • 薬物療法:抗がん剤など。ただし抗がん剤にはがん細胞だけを狙い撃ちする機能はなく、免疫細胞など正常細胞も傷つけてしまいます。また、がん細胞が新たな抗がん剤耐性を獲得するたびにリバウンドする傾向があります。副作用を抑えるために、不活性な抗がん剤の原料を投与し、がん細胞上で活性な抗がん剤に変換する「生体内合成化学治療」や、がん細胞で触媒によって抗がん剤を大量に合成する技術の研究も進められています。
  • 放射線治療
  • 免疫療法光免疫療法のほか、京都でも免疫細胞療法の研究開発(外部リンク)が進められています。
  • 第5のがん治療」:ホウ素中性子補足療法のほか、京都でもL-グルコースによるDDSといった細胞が必要とする栄養素に着目した新方式の開発が進められています。

なお、がん細胞がブドウ糖をエネルギーにしていること、周辺環境を酸性に保っていることなどから、乳製品は極力避けて、炭水化物は玄米など、体内環境のアルカリ化には野菜、タンパク質なら青魚、豆類など食事にも工夫が必要なようです。

新型コロナウイルス

世界3大感染症(エイズ、結核、マラリア)は現在も多くの人命を奪っていますが、2020年代初頭に世界を席巻したのは新型コロナウイルスです。

コロナ以降の生命・健康を守る--

風邪ウイルス、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルス(SARS-CoV)、MERS(中東呼吸器症候群)ウイルス、そして新型コロナウイルス(感染症名はCOVID-19ですが、RNA配列がSARSと近くウイルス名はSARS-CoV-2。ただし、SARSの致死率が15%程度と高い(故に濃厚接触者の特定が重要)のに比べると格段に低いですが、高齢者や基礎疾患保有者の重症化リスクがある)は、ウイルスの外周に突起(スパイクタンパク質)が出た形が王冠に似ているため「コロナ」ウイルスと呼ばれます。哺乳類の中でリスやネズミなどについで種類の多いコウモリ等からの「動物-人感染」だけならば、当該動物と接する人のみが感染するため、人間社会に広く感染することはありませんが、「人-人感染」によって地球規模で蔓延しました(日本の場合、インフルエンザがシーズン1,000万人規模で感染するのに比べると数百万人規模に留まる)。

一つひとつが生きている細菌と異なり、ウイルスは全ての粒子が感染性を有しているわけでないこと、細胞が感染するためには一定量以上のウイルス粒子の侵入が必要であることから(ウイルスのRNAを検出するPCR検査ではウイルス粒子量が少なくても陽性となる)、人の感染門戸である目・鼻・口に付着するウイルス粒子量を「手洗い・マスク・うがい」で減らすことが感染抑止に効果的です(エイズウイルスの場合にも感染門戸に対応した対処法が推奨されているのと同様)。

ウイルスの遺伝子を見つける「遺伝子検査」は、京都においても中小企業はOEMで、大手は自ら、それぞれ高速PCR検査装置や全自動PCR検査装置の製造を行い、大学病院でもPCR検査ロボットシステムの実証が行われています。
ウイルスのタンパク質、すなわち、抗原あるいは抗体に接合させる「抗体検査」「抗原検査」は、遺伝子検査に比べて精度が低いとされていますが、京都のスタートアップ企業において、タンパク質をダイレクトに製造する方法により高精度な検出法の確立を目指す動き等が起こっています。

免疫」については先述のとおりです。

ウイルスの増殖を抑制する「治療薬」については、スーパーコンピュータ富岳や府内スタートアップ企業による既存薬の中からAI等で候補を絞り込む取組が進められながら、RNAポリメラーゼ(転写因子と結合し遺伝子複製を作動させる酵素)を阻害するタイプの重傷患者用注射薬「レムデシビル」、RNAの複製を抑制する世界初の飲み薬「モルヌピラビル(メルク)」、軽症者向けに中和抗体を増やして注射する抗体カクテル療法「ロナプリーブ(米リジェネロン、中外製薬)」(濃厚接触者への予防投与についても承認申請)、肺炎治療薬では「バリシチニブ」が承認済)等が生まれています。ウイルスの遺伝子(mRNA)に直接作用する核酸医薬」の開発を目指す京都の大手創薬メーカーなどの意欲的な取組も進められています。

なお、実験室における病原微生物の取扱い、すなわち、バイオセーフティレベル(BSL)については次のような指針があります。

  • BSL1:ヒトあるいは動物に病気を起こす可能性の低い微生物
  • BSL2:実験室職員、地域社会、家畜、環境にとって重大な災害となる可能性のない病原体(サルモネラ菌、赤痢菌、コレラ菌など約300種)
  • BSL3:通常の条件下では感染は個体から他の個体への拡散は起こらない病原体(強毒性インフルエンザウイルスなど約70種類)
  • BSL4:通常、ヒトや動物に重篤な疾患を起し、感染した個体から他の個体に、直接または間接的に容易に伝播され得る病原体。通常、有効な治療法や予防法が利用できない(エボラウイルス、狂犬病、天然痘ウイルスなど約10種類)
コロナ以降の医療崩壊を防ぐ--

以前より「Apple Watch」「Amazon Halo(ヘイロー)」などのウェアラブルデバイスが有名ですが、米国では、2020年、遠隔医療がコロナ前の30倍に当たる10億回利用されました。患者がスマホに個人情報を入力すれば希望時間帯に希望する医師を選んで画像や通信で診療を受信できる遠隔医療プラットフォーム「テラドック・ヘルス」や、AIを利用した医療ケア「ニュアンス・コミュニケーションズ」、ウェアラブル遠隔健康診断「アイリズム・テクノロジーズ」、遺伝子データによる治療最低化「インビテコーポレーション」などのスタートアップ企業が登場しているほか、ドローンによる市販医薬品の宅配もスタート。従来型の医療システムがあまり整備されていなかった中国でも、「平安グッドドクター」やテンセントに買収された「We Doctor」などの遠隔医療プラットフォーム・スタートアップ企業が生まれています。

一方、日本。血中酸素濃度など患者や施設入居者の状態をリアルタイムでリモート監視するシステムや、排尿計測記録システムなどは、府内企業が既に上市しており、現場での使いやすさ、UIが重要なポイントとなっています。さらに、コロナの影響で拡大する産後うつ問題に対して、相談体制を構築する健康管理を行うといったスタートアップ企業も生まれてきています。声で感情認識を行う(外部リンク)とか、家電のリモコン操作から認知症の兆候を掴もうとする研究等も国内で進められています。

また、クリニック等の院内感染リスクを下げるとともに、患者を繋ぎ留めるためにも有効なAI問診(外部リンク)オンライン診療システム(外部リンク)医療従事者間コミュニケーションアプリ(外部リンク)などは府外スタートアップ企業が先行しています。初診の場合、本人確認や基礎疾患の事前把握など困難さはあるものの、重症度に応じた優先順位の見極め等にも有効です。一方、AIとオンラインを駆使して薬局の新しい姿を模索する動きは、京都のスタートアップ企業から生まれてきています。

病院と薬局の相関において、対面・訪問診療と対面・訪問服務指導、対面・オンライン診療とオンライン服務指導という区分に加え、オンライン診療とオンライン服務指導という組み合わせも進められており、さらに今後、病院が発出し薬局に繋ぐ処方箋の電子化も進められる予定です。

コロナ以降の感染拡大を防ぐ--

高性能CPU・GPUを駆使してSLAM、物体認識、AI顔認証などをエッジ完結で行い、エレベータ・システムとも連動して各階のフロアマップを参照しながら自律的に動くロボットが、介護施設の巡回、深紫外線を用いた消毒等を自動で(外部リンク)、あるいは遠隔操作で(外部リンク)行うなどRaaS(Robot as a Service)の取組も始まっており、多くの京都企業も追随しているところです。

また、スマホの活用に関しては、アンドロイド(グーグル)、iPhone(アップル)がOSどうしで連携し実現した「COCOA(外部リンク)」をはじめ、大手通信会社の取組、海外では体温計の値の全国分布、京都でも人流分析、混雑やコロナ感染者発生アラート発信など、様々な取組が生まれています。

コロナ以降の感染症に強い社会を築く--

感染の恐れを最小限にするために人を介さず3Dプリンターでの食品製造(外部リンク)、動物を用いない植物由来の人工肉開発、店舗に出掛けずスマートミラーでの試着、ラフな手描きのイメージ図をスマホカメラで撮影すれば自動で3D図面ができあがるリモート設計相談(外部リンク)企業の枠を超えた共同デジタル試作(外部リンク)ARによる共同現場管理(外部リンク)リモートでの重機操縦(外部リンク)など、新しい取組が登場し、大手自動車会社では「都市OS」構想等も生まれてきていますが、京都企業もデジタルツインに着手しているところです。

また、コロナによる物理的・心理的距離が生じていることがきっかけで企業の福利厚生にも取り込まれたAI恋愛ナビゲーションアプリ(外部リンク)オンラインパーティシステム(外部リンク)リモート応援システム(外部リンク)のほか、ARと連動したリモート音楽ライブ、VRと連動したエクササイズ(外部リンク)エクササイズの動きで進めていくゲーム(外部リンク)など、新しいビジネスが登場してきています。

超高齢社会のコストとバリュー

65歳以上人口割合が7%以上の「高齢化社会」、14%以上を「高齢社会」、21%以上を「超高齢社会」と呼びますが、世界平均が9.6%に対し、日本は28.7%となっています(「世界人口白書2021」。ちなみに生産年齢人口は約7500万人)。

「健康」「医療」「福祉」に関するライフサイエンス、ライフイノベーションには、(1)健康増進による医療・福祉費に関する国民負担コストの抑制と、(2)付加価値の高い、あるいは安く手頃な健康・医療・福祉関連製品・サービスの創出促進による国民へのバリュー提供の2つの意義があるとともに、医薬品市場、医療機器市場、再生医療市場とも世界的に年数%の伸びが見込まれる成長産業であることから、京都が世界に誇る「iPS細胞」をはじめとする研究開発や府内中小企業の本分野への参入を支援してきました。

一方で、一部の国では安楽死等が社会福祉の一環としても議論されているところです。

  • 尊厳死:一般的には終末期の人に、それをやらなければ死に至ることが予想される治療や措置を、そうと知ったうえで差し控える(開始しない)、あるいは中止することによって患者を死なせること
  • 安楽死:医師が薬物を注射して患者を死なせること
  • 医師幇助自殺:医師が薬剤を入れた点滴を施し、そのストッパーを患者自身が外すといった方法(例えばスイスは自殺幇助による安楽死が合法化されている国の一つ)

創薬・再生医療

世界の創薬市場は年5%程度で成長(ただし日本は今後マイナス成長)し、2021年時点で1兆4000億ドルを超えています。また再生医療市場も2019年時点では17億米ドルですが、今後大幅な伸びが見込まれ、いずれも世界のメガファーマがリードしているところです。その中で、日本メーカーの動向は次のとおりです。

  • 1990年代:生活習慣病向けの「低分子医薬」開発が多かったです。
  • 2000年代:ジェネリックの台頭に促される形で出遅れ感が否めない中で、がん・神経系等向けのアンメッド・メディカル・ニーズ向けの「バイオ医薬品(抗体薬等の高分子医薬)の開発に進んできました。
  • 現在:低分子と高分子(細胞内に入れない、抗体薬は胃で消化される故に経口投与ができない)の中間の分子量の「ペプチド」、従来の低分子医薬品や抗体医薬品では狙えないmRNAやmiRNA等の分子を創薬ターゲットにできる「核酸医薬」「マイクロバイオーム」による創薬など次世代医薬の開発も行われてきています。また、医療機関から患者の細胞や血液を預かり再生医療などに使うために培養する「細胞・組織のセントラルキッチン」事業を行うスタートアップ企業・セルソースが注目を集めています。

一般に創薬開発は、病原である標的タンパク質の探索(ターゲット探索)、それと結合する化合物の探索(リード探索)、人間が飲める形にする薬剤変換(リード最適化)、動物評価(前臨床試験)、ヒト評価(臨床試験。第1相:少人数の健康な人を対象に安全性を確認。第2相:少人数の患者を対象に有効性・投与方法等を確認。第3相:多数の患者を対象に安全性・有効性を確認)という長い工程を経て、成功確率は2.5万分の1程度と言われています。原子や素粒子の学問「物理」、分子と分子の化合物の学問「化学」に比べ、細胞の中のバリエーション豊かな「生物」は、まだ未知なることが多く成功確率の低い極めて厳しい分野であるため、大学から技術移転されたシーズや民間企業で培われてきたシーズ等を基とするテクノロジープッシュの様々な研究開発を行うスタートアップ企業に対し、資金調達ピッチ会への登壇や海外アクセラレーターへの繋ぎ、個別開発案件への補助金支援等での支援を行っています。

世界では、合成ゲノムから作られ、細胞分裂で生き続ける「人工細胞」の研究(外部リンク)も進んできています。

医療・介護機器、医療・介護サポート機器

世界の医療機器市場は年4%程度で成長し、2019年時点で4,000億ドルを超えています。近年は、ロボットやメタバースなど分野融合の取組も盛んで、医療のために、体内で消化可能な「食べられる電池」(陽極にアーモンド等に含まれているリボフラビン、陰極にサプリメントとして販売されているケルセチン、セパレータには海苔)等も研究が進められています。日本のメーカーも内視鏡、超音波診断装置、CTやMRIなど診断機器分野では高いシェアを有しています。また、例えば世界のリハビリテーション機器市場は2016年時点で100億米ドルに迫るなど、介護機器等の市場も伸びています。超音波で排尿のタイミングを予測するもの、マットレスのセンサーとAIで転落転倒を予測するもの、音声解析で誤嚥リスクを分析するものなど、介護テックも盛んになってきています。

なお、日本の医療法人の7割が赤字経営と言われています。人口減少(さらにコロナ禍では外来患者数減少)といった外部環境の変化もありますが、経営手法に精通していないという内部問題が本質的な要因だと考えられ、さらに2024年問題(働き方改革)対応も必要です。

デジタルヘルス

最近名付けられた病気「天気痛」の患者は日本に約1,000万人いると言われています。低気圧が内耳を通じて脳に伝わり頭痛になるほか、内耳の受ける影響と目で見える影響の無さのアンバランスから自律神経が乱れ、肩こりその他の症状が出ることもあると言います。台風や雨の日や、その数日前から体調を崩す人がおり、それに疑問を感じてきたお医者さんが、天気予報の民間企業と連携し、気象情報データを基に解明したものです。現在は気象データと連動したアラートアプリも登場しています。京都でもビッグデータやAIを活用した抗がん剤開発アルツハイマー病予測等の動きが始まっています。

フェムテック

フェムテック分野は、前年比10%弱で拡大している成長市場ですが、一般のライフサイエンス関連と同様の「安全性・信頼性の確保」に加え、センシティブな問題としてタブー視される傾向があり、妊娠・不妊、更年期など女性の抱える問題への知識が不足しているといった「社会受容性の向上」といった特有の課題があり(つわりの原因も最近になってようやく判明(外部リンク))、いかにニーズに即したきめ細かな製品開発ができるかがポイントと言えます。既に、参入祖目指す企業向けセミナーの開催(京MED)、補助金支援(産後ケア関係)、資金調達ピッチ会の開催(妊娠関係)、販路開拓支援(チャレンジ・バイ4件:乳がん関係、子宮頸がん関係、子育て関係)などを実施しています。

ペットテック

ペットの健康管理や行動を記録する首輪型機器などを開発するスタートアップ企業も登場してきています。なお、全国に約3万人いる民間資格の動物看護師は獣医療行為を一切できませんでしたが、2023年4月にペット専門国家資格「愛玩動物看護師」が誕生し、犬猫のほか、インコやカナリアなどの鳥に対し、獣医師の指示の下、採血や投薬、カテーテルによる採尿、犬猫を個体識別するためのマイクロチップ挿入など、危険が比較的少ない獣医療を行うことができるようになります。

生物多様性

地球上の生物は長い歴史の中で様々な環境に適応して進化し、3,000万種ともいわれる多様性を有しています。これらの生命は一つひとつに個性があり直接・間接に支えあって生きています。生物多様性条約では、生態系の多様性・種の多様性・遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとしています。

  • 生態系の多様性:森林、里地里山、河川、湿原、干潟、サンゴ礁などいろいろなタイプの自然があります。
  • 種の多様性:動植物から細菌などの微生物にいたるまで、いろいろな生きものがいます。
  • 遺伝子の多様性:同じ種でも異なる遺伝子を持つことにより、形や模様、生態などに多様な個性があります。

こうした生物多様性を図る手法にも、IoN(インターネット・オブ・ネイチャー)が取り入れられています。

  • eDNA(環境DNA):採取した水や土壌等に含まれる生物の排泄物や分泌物などからDNAを解析し、種を特定する技術
  • 音響解析技術:森林などに設置したレコーダーに収録された音響データを、AIで解析することにより、特定の種類の生物の生息を推定
  • 画像解析:ドローンによる空撮データのAI解析など

しかし、人間による開発、逆に人間による働きかけの減少、人間による持ち込み、地球環境の変化などによる危機に瀕しています。そんな中、京都では、生態学・ゲノム科学・ネットワーク科学の総合アプローチを進める企業(外部リンク)生物情報のビッグデータを構築している企業(外部リンク)微細藻類のライブラリーを運営する企業など、多くの企業がその危機克服を目指し活動しています。

施策

(その他参考:2025年度京都府当初予算)
  • 物価高騰対策緊急生活支援事業(生活困窮者への食料品・生活必需品の配布)
  • 重度心身障害者への医療助成制度充実
  • 障がい者活躍応援事業(就職・職場実習促進、文化・スポーツ活動推進)
  • 「ドナルド・マクドナルド・ハウス」整備(府立医大・京大病院に入院する家族のためのベッドルーム)
  • 女性活躍総合支援事業(男女共同参画センター、マザーズジョブカフェ、京都ウィメンズベースの連携支援)
  • 子育ての楽しさ広げる事業(商店街等で子どもが主役で運営する「京都版ミニ・ミュンヘン」、「子育て楽しテック」に触れる見本市開催)
  • 親子通園支援事業(親の就労状況に拘わらず親子で通園)

施策実施状況

世界的な成長市場への参入をビジネスチャンスにするためには、医療現場・介護現場との「言葉」の違いを乗り越えてニーズをしっかり把握した上で、薬機法等への対応ノウハウを身に付けることが重要であるため、医療現場等とのマッチング、補助金等でのビジネスプランの支援、薬事相談などを通じて、様々な手術器具、細胞培養器具、介護機器等の開発を後押ししています。

  • コーディネータによるマッチング支援:517件(2014年度~、共同開発先・OEM先のマッチング等、2023年度126件(1月末))
  • 窓口専門相談(外部リンク)199件(2014年度~、容:薬事手続50%、販路・参入各15%(参入は大半が医療機器関連))
  • 薬事支援センターとの連携による薬機法相談:277件(2020年度~、2022年度79件、2023年度67件(2月末))
  • iPS細胞による再生医療等の技術開発応援プロジェクト
    iPS細胞ストックの拡大や、がん免疫細胞開発、輸血に必要な血小板前駆細胞開発等を図るスタートアップ企業への支援等に役立てられています。(2020年度463者4,500万円、2021年度300者5,300万円、2022年度205者2,600万円、2023年度276者3,650万円)
  • iPSポータルへの出資(100万円)

その結果、様々な2例が生まれてきています。

また、コロナ禍で新しいニーズとして見えてきたのが、医療・介護サポート分野です。医者や看護婦、病院や介護の現場での多岐に亘る困りごとへの対応は、医療機器開発のような、薬機法や医療点数などの業界特有のしきたりや多額の開発費を必要とせず、業界とのつながりを作ることができ、医療機器開発へのステップアップのための機会として有望です。

  • チャレンジ・バイ補助金:嚥下食用電気圧力鍋、病理検査用組織二分割デバイスなど約120件、延約150の病院・施設等に購入総額約1億1,000万円超(2015年度~)

 

  機械金属 Machine & Metal 

  • 北部産業創造センター
    北部産業創造センター

    中小企業技術センター中丹技術支援室の建て替えに当たり、悩んだコンセプト。思い切って、当時は中小企業でほとんど使われていなかったデジタルシミュレーション「CAE」を提供する「高速開発支援センター」機能を旗艦とし、下請中小企業様が、設計開発に低コストで参入できる支援体制を構築しました。しかし、丹後の企業様に「綾部まで遠い!」と言われてしまい、中丹だけでなく、丹後、京都市内、けいはんなの府内4カ所で、遠隔利用できるようにもしました。おかげさまで今では、中小企業を中心に年間数十件の利用があり、“作らないものづくり”への転換が進んでいます。
  • 部品相互融通プラットフォーム

    コロナ禍での行動変容が世界的に同期して起こったことで、2021年後半から世界的な半導体、回路部品等の不足が発生しました。自動車産業や家電産業などには優先的に供給される一方、優先順位が低い装置産業が多い京都の製造業は大きな打撃を受けていました。そこで、大手企業や商社と連携し、企業間での在庫部品の相互融通を促進する仕組みを構築しました。
  • ポータルサイト「サポートインダストリー京都」

 

日本のGDPの約2割を占める製造業。中でも「自動車」と、自動車やスマホをはじめとする様々なIoT機器に搭載されている「半導体」が、現在の日本のものづくりの代表格でありましょう。

次世代自動車を見据えた水平分業

出荷額約60兆円で、GDPの1割強、主要製品出荷額約300兆円の約2割を占める自動車産業。特に次世代自動車は、ダイムラーが2016年に発表した「CASE」に表されるように、製造業だけでなく異分野の参入が拡大するとともに、巨大市場を背景に技術革新著しい中国など国家も巻き込んだ群雄割拠状態で競争が進められており、求められる技術も、従来の自動車関係にとどまらずIT、電機・電子など裾野が広がっているため、府内ものづくり中小企業にとって、自動車産業との関わりのウエイトがこれまで以上に大きくなっていると実感されるところです。

「CASE」を概観すれば、

  • まず「Electric(電動化)」(2021年の世界のEV販売台数は460万台と、初めてHVを上回りました)については、充電スポットや電池コストの問題がありますが、環境問題先進地である北欧ノルウェーでは既に新車販売の過半をEVが占め、ディーゼル車の排ガス不正問題を契機とするドイツ(EU市場において2035年以降発売する新車は、EV・燃料電池車といったゼロエミッション車(CO2排出がゼロの車)に限るとされていたところ、ドイツの猛烈な働きかけで、再生エネルギー由来の水素を用いた合成燃料であり、燃焼時にCO2を排出するが燃料の製造時にはCO2を利用しゼロカーボンになる「e-fuel」で走行する内燃機関車(ICE)も認められることとなりました)、ガソリン車で後発故にEV車購入補助やその開発品質の向上の両輪で進めている中国などの国策が目立つとともに、「人類を救済する」というミッションと、エネルギーを太陽光発電で創り、蓄電池で蓄え、EV車で使うというグランドデザインを描く米国テスラが先導してきました(創業者イーロン・マスク氏のスペースX、アマゾン創業者ジェフ・ベソス氏のブルーオリジン、ヴァージン・ギャラクティックなど宇宙船開発競争も進んでいます)。開発ではコンピュータ・シミュレーションで極力、実試作を減らし、生産では主要部品以外は極力外注し設備投資を抑え、販売ではインターネット販売に一本化し、自動車産業の巨額の固定費という参入障壁を回避しました。データを蓄積しつつ、そのノウハウはオープン化しており、中国でBYD(2022年度のEV世界販売台数はテスラを抜いて1位)をはじめとする数十社のEVメーカーが誕生することにつながったのかもしれません(圧倒的な安さで中国国内ではテスラを上回る売上を達成する企業も。日本の自動車メーカー、トラックメーカーが出遅れる中で、京都企業は世界のEVメーカーに部品提供を行っています)。そして、EV車で高まる電力消費に対しエネルギー業界では「3つのD」、すなわち、より限界費用が小さいクリーンエネルギーによる脱炭素化(Deccarbonization)、分散化(Decentralization)、デジタル化(Digitalization)を進めており、石油メジャーもEV充電ステーションを抱える企業の買収を図ったり、ソフトバンクグループは「ビッツ(情報革命、IoT)、ワッツ(エネルギー革命)、モビリティ(移動最適化)」と評し、CASEの様々なレイヤーの企業に投資をしています。タイヤメーカーにおいても、EVは大量の電池を積み重量が重くなるため、ゴムの使用量の削減によるタイヤ軽量化、溝の形成の工夫による耐摩耗性向上を図ろうとしています。なお、国内EV販売台数(2022年度)は、日産サクラが3万3,000台、日産リーフが1万2,000台に対し、テスラは6,000台にとどまっています。コスト削減のためにディーラーではなくインターネット販売を進めていること(中国では浸透)、ギガダイキャスト(溶融したアルミニウム合金で自動車の車体部品などを一体成形する技術)で製造しているため修理費が高くなることなどが理由のようです。なお、F1も2026年からEV化・脱炭素合成燃料の使用へとレギュレーションが変更されます。
  • 次に「Autonomous(自動運転)」については、運転手の人件費を不要にできる業務用分野で先行する傾向がありますが、アルファベット傘下のWaymoや、自動運転技術のオープンソース化によって多様なパートナーと協業する「アポロ計画」を進める中国のバイドゥ(国策AI事業である自動運転、都市計画、医療映像等をバイドゥ、アリババ、テンセント等が分担)、さらには、2020年の米中両国での自動運転試験走行距離で、この2社を抑えて首位に立ったGMなどがひしめいています。また、自動運転の核となるLiDER等によるセンシング、AIによる判断、制御等をスムースに行うためのGPU等の半導体においてはエヌビディアが存在感を発揮しています。しかし、ここでも際立つのはテスラ。高コストなLiDERを使わず視覚情報をベースに、実運用面で圧倒的なシェアを誇り、もはや「車輪のついたソフトウェア」として日々収集されるデータから、ディープラーニングでアップデートされています。また、アップルが、自動運転のソフト分野尾ほか、シートやサスペンションと言ったノリ心地に直結するハード分野でも存在感を発揮しようとしています。なお、日本でも2022年度にもドイツ(自動車メーカーと所有者による事前認可、限定ルート)に続きレベル4の法制化が見込まれています(米国自動車技術者協会や日本の国交省の区分/レベル1:アクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の一部支援、レベル2:同両操作の一部支援、レベル3:運転者対応待機状態付きでの一定条件下全操作支援、レベル4:一定条件下全操作支援、レベル5:完全自動運転)。
  • そして「Shared & Service(シェアリングとサービス)」MaaSの1つ、ライドシェアではウーバー(選択肢を広げるため有人ドローンを開発中)、リフト(自動運転部門をトヨタが買収)や滴滴出行などが有名ですが、P2Pを成立させるための与信情報、相乗りを実現する経路・到着時間予測などAI、ビッグデータが重要な技術です。また、カーシェアにおいては、ダイムラーでは逆に購入(所有)を刺激し押し上げたり、長距離利用が多い北米からは撤退するなど試行錯誤が続いていますが、同社のIT企業並のAIアシスタント「MBUX」はドライバーのスケジュール管理や好みの音楽やレストランの紹介など、そのホスピタリティが好評を博しています。
  • 最後に「Connected(つながる化)」。既にインドでも、配車アプリで、目的地入力と二輪車・三輪車・四輪車の選択をすれば、評価の高い運転手が割り当てられ、クレジットカードでキャッシュレス決済ができると言います。今後、自動運転によって「どう運転するか」から「どう過ごすか」がポイントとなる中、音声認識技術アレクサアマゾンエコー(AIスピーカー)やアマゾンゴー(無人店舗)等の無人システムを進めるアマゾンが、2020年に自律走行車開発企業を買収した動きは注目です。「エンジンをかけて」と話しかければ走り出す車など、既に中国では地元アイフライテックや米セレンスなどが車内音声AIでシェア争いを繰り広げています。

「壊れない自動車」として人気の日本車を支えてきた日本のものづくり技術。今後、いずれかの分野の企業から総合プレイヤーが登場し、OEM(生産受託)、ODM(設計・生産受託)、EMS(電子機器生産受託)等が加速するとしたら、それらが追求する「規模の経済(生産規模拡大)」に対応する低コスト化、「範囲の経済(種類拡大)」に対応するデザイン指向による幅広いアイテムの提供、「速度の経済」に対応するデジタル試作などが、中小企業にとっての鍵となるかもしれません。仮にその総合プレイヤーがITなどの異分野からの参入企業であった場合は、ものづくり中小企業の強みである要素技術、生産技術、量産技術を活かしてIT企業の弱みを補完するチャンスだと考えられます。

何より、こうした次世代自動車によって狭義の自動車産業は縮小し、大手自動車メーカーには収益性を含めて厳しくなる反面、広義の自動車産業は拡大し、中小企業にとってはユニット開発という新たなチャンスが広がっています。FA分野で日本が世界をリードするきっかけとなったのは、ファナックが、PCへの搭載よりも早い1975年にインテルMPUをCNCに搭載し、それを多様なマシンに組込補完材として搭載していったことがきっかけだと言われているように。

例えばトヨタのように、ダイキャスト製法のうち6500トン以上の高圧でプレスする「ギガキャスト」(外部リンク)で、従来は鉄で作られた数多くのプレス部品で構成されていた車体を一体成型することで、車体構造のモジュール化を進める動きもあります。ガソリン車からEVへの変化としては、搭載部品点数が3万点から2万点に縮小するとともに、

  1. 「ガソリンタンク(給油)」が「バッテリー(充電)」へ:スマホなどと同様のリチウムイオン電池が主流(EVの原価に占める割合は3割)。しかし、アップルのEV開発プロジェクトでは、リン酸鉄系の正極材料が用いられているとされ、エネルギー密度は高くないが耐久性が抜群と言われています。京都のスタートアップ企業では「交流」のリチウムイオン電池を開発しています。(急速充電規格:日本発CHAdeMO規格、中国のGB/T規格、欧米のCCS(コンバインド・チャージング・システム)規格、テスラ規格)
  2. 「燃料ポンプ」が「コントローラー」へ:バッテリーの直流電気をモーター用に交流に変換する「インバータ」や電圧をコントロールする「コンバータ」などを組み合わせたユニット開発のチャンスがあります。
  3. 「エンジン」が「モーター」へ:モーターには、磁界に挟まれたコイルに直流電流を流すことで、フレミングの法則によりコイルが回転する「直流モーター」、コイルに電流を流すブラシをなくし、外側に配置したコイルにインバーターで制御した電流を流すことで、内側の電極を回転させる「ブラシレスモーター」などがありますが、EVで多く用いられているのは、向かい合うコイルに交流電流を流すとフレミングの法則によってN極、S極が生まれ切り替わることで、同法則によってコイルの間にある軸が回転する「交流モーター」です。なお、日本電産はモーターとインバータと減速機が一体となったユニットを開発しています。

このように、ガソリン車のような系列サプライヤーによる垂直統合モデルのバリューチェーンではなく、例えばモーターとバッテリー連携をはじめ、ユニット開発のための水平分業(水平連携・水平統合)モデルへの移行が鍵を握っていると考えられます。

バーチャルエンジニアリング

日本では、詳細部位までの製品形状表現ができない2D図面を用いて、加工技術者が、設計者の意図を汲み取り、あるいは意図以上の具現化を図ることで「日本品質」の製品を製造してきており、現在も3DCADだけでの設計は2割以下と言われています(『2020年版ものづくり白書』)。しかし、世界の自動車メーカーでは、1980年代から3Dデータを活かした開発・生産の模索が始まり、1990年代後半には3DCADの活用へと大きく変革し、今はほぼ完了しています。例えば溶接工程も、3DCADなら、溶接打点に流れる電流値と流れる時間を属性情報として入力できますから、極論すれば、3D図面なら、機械が同じならば同じ品質を実現できます。しかも、図面を送付することで、輸送コストと輸送時間を掛けずに、現地で同じモノを生産できるということです。
工場の「制御盤」も同様です。その中のPLCやインバータ、ブレーカー等の配置は、各装置から発生する熱や磁力線の影響を配慮して設計が行われます。日本では依然として、2D図面と熟練技術者に委ねられ、仮組立の上で組み立てるという調整作業が行われていますが、海外では2000年を過ぎて、各装置の3Dモデルがカタログ化され、3D設計で一発対応できるようになり、現地での組立時にはMRデバイスで指示を送ることもできます。

製品開発費に対するソフトウェアの割合は7割を超え、特に3万点を超える自動車の各モジュール、電子系部品に組み込まれているソースコード行数は1億行以上(マイクロソフトOfficeのOSが4400行)と言われます。以前はハードウェアのモジュールを検証していたところですが、2010年頃にはCAE解析が始まり、ECUの計算時間の検証、さらには自動車1台丸ごとの挙動検証可能なシミュレーションも登場しています。
これまで日本は、設計者のラフ図、解析技術者の機能検討、製造技術者の量産仕様検討の「すり合わせ」から最終量産図面を作成することを得意としてきました。これにより海外よりも少ない工数であったと言われています。しかし、欧米の自動車メーカーはシミュレーションを用いて「バーチャルスリアワセ」が可能な、開発・解析プラットフォームを整えたのです。2008年にCADが専用のUNIXワークステーションでなくともWindows上で稼働し、メールで送受信できるようになったことも大きな要因ですが、特に欧州は、戦後の米国の経済拡大、日本の高度成長に対抗すべく数十年掛けて産業育成のシナリオを作って、自動車メーカーの自社CADから汎用CADへの転換、CADメーカーの育成(その三大メーカーのうちシーメンス、ダッソーの2社は欧州)、ギアの表面精度はミクロンオーダー、ボディはミリ単位などの違いへの対応などの規格の構築、型式認証に変わるバーチャルテスト認証制度の構築などを図ってきた賜物です。既に検査工程においても、日本ではレーザー計測や非接触3D計測がようやく広がり始めたところですが、欧州では複雑形状で見えないところも測れるCT計測検査が始まっているとも言われています。
日本では量産受注を前提に設計提案をサービス的に行う向きもあったところですが、これによって、サプライヤーから自動車メーカーへの効果的な設計提案が可能になって、モノではなくバーチャルモジュールそのものが「価値」となる上に、自動車メーカーとの対等な協業も行われることとなり、サプライチェーンの変革をももたらすものです。

もちろん、発注企業の設計(CAD)技量によっては、受注企業の加工(CAM)の手間や、検査の手間が増えるため、サプライチェーン全体での統一意識、技能向上を合わせて行うことが必須ですが、水平分業でのユニット開発を推進するためには「意を汲む力」と「すり合わせ力」の強みを活かすためにも、こうしたプラットフォームを「輸入」し、この「バーチャルスリアワセ」を取り込むことで、シミュレーション、バーチャルモジュールの流通を進めていくことが効果的です。

エンジニアリングチェーンのDX、そして「ものを特定顧客に」から「ノウハウを不特定多数に」へ

ただし、京都の課題は2つです。

1つ目は、技術・製品(精緻さ)の差別化が困難になる中で、AI・IoTなどのDXを用いて、技術・製品を支える哲学やストーリー、設計力や生産技術・現場カイゼン力などのオリジナルのノウハウを、新しい強みとして見い出し、それを活かすプロセスエコノミーの構築です。

そこで、まず、前提として、市場や顧客の変化に対応して、製品を作り替えることができる設計人材の不足を解消することが不可欠です。機械設計においては、3D CADで自由な形状にモデリング(造形)できますが、「品質の90%以上、コストの80%以上が設計段階で決まる」と言われるように、実現できて、低コストな加工法を想定した設計を行う必要があります。そして、家電や事務機器などの電子機器における機械系部品の加工コストの構成は、板金3割、樹脂成形5割、切削1割となっていますが、量産を前提にすれば低コストな板金(生産性は樹脂の10倍、型の温度制御は樹脂ほど困難ではない)、樹脂成形、切削の順、少量・精度を前提にすれば逆の順で検討すべきです(板金なのに厳しい「公差(設定としての基準値との差。量産では正規分布)を求めると、切削で補正しなければなりません)。

  • 板金:打ち抜き・曲げ、絞り、溶接(スポット、アークなど)など2次元から3次元への変身で、せん断、引張り、圧縮に注意した設計が必要です。例えば、薄板からサイコロを作る際に正確な曲げを実現するための順序や組み合わせを工夫する、曲げ回数が多いほど引張力の関係で「バラツキ(結果としての基準値との差)が大きくなることを見越す、薄くて大型の板金を曲げるなら三角リブを組み込む、強度試験ができない溶接では念のため多点で溶接する、電極が容易に接触できるように配慮する、異種金属どうしを溶接しない、溶接する2つの部材のそれぞれに突起と穴を設けることで治具を用いず経験に関係なく、誰でもが位置決めを手早くできるように設計する(セルフロケータ)などです。
  • 樹脂成形:雄型(コア)と雌型(キャピティ)の間にできる注入空間(キャピティ(同名))への射出(側のソリッド、中空にするために不活化ガスを注入するガスアシスト)、熱成形(真空成形)、フロー成形などペレット粒から3次元への変身で、熱、流動、型開閉に注意した設計が必要です。例えば、割れる強度上のトラブルで多いウェルドライン(2方向からの解けた樹脂の接合部)への配慮、同じ材料でも細長いと冷却時間がかかり生産性が落ちることへの配慮などです。
  • 切削:板金樹脂成形の型を作るための研削、旋盤、フライス加工(エンドミル)旋盤・フライス加工等を自動で行うマシニングセンタ(技ではなくプログラミング)など3次元から3次元への加工で、熱変形、加工変形、応力集中に注意した設計が必要です。割れが生じにくいよう逃げ溝を設けRをつけておく、加工困難な2段テーパは避けるかテーパ角度を同じにする、エンドミルの垂直応力によるワークのたわみによる変形を考慮して補強リブをつける、径の違うエンドミルへの交換回数を少なくするなどです。

その他、「公差(設定としての基準値との差)」の量産時の正規分布を理解した設定、RoHS指令(電気・電子機器における特定有害物質の使用制限に関する欧州連合による指令)対応として、6物質(鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、ポリ臭化ビフェニル、ポリ臭化ジフェニルエーテル)含有量を一定範囲内にするなどが、必要です。

これらのためには、物質の基本原理(3大素材:金属、セラミックス、プラスチック等の高分子、肥料3大要素:窒素(ハーバー・ボッシュ法から作られるアンモニアから作られます)、リン酸、カリウム、燃焼3条件:可燃性物質、酸素、一定温度(発火温度・引火温度))を理解していることは、言に及びません(なお、花火は、金属元素化合物の炎色反応を利用しています)。

  • 金属:金属光沢、電気・熱の良伝導性、展性・延性
    --卑金属(大量算出、酸化しやすい):鉄、アルミニウム、亜鉛など
    --貴金属(少量算出、酸化しにくい):金、銀、白金など
  • セラミックス(陶磁器、タイル、レンガ、瓦、セメント、ガラスなど):抗錆、耐熱、耐薬、硬い、変形可能など
    --ファインセラミックス(構造材料、エレクトロニクス、生体材料など):工具、機械部品、エンジン部品、電気部品、半導体部品(コンデンサー・ICチップ・基盤のパッケージ)、人工関節など
    --コンクリート:セメント、水、砂、砂利を固めたもの
    --ガラス:ケイ砂(二酸化ケイ素)、炭酸ナトリウム(ソーダ灰)、炭酸カルシウム(石灰石)を加熱し、冷却して製造します。
  • 原油分留:液化石油ガスLPG、ガソリン、灯油、軽油、重油
  • 繊維(高分子)
    --天然繊維:セルロース(ブドウ糖)など
    --半合成繊維:セルロースの一部を改変
    --合成繊維:モノマー(単量体)の重合体(ポリマー)
  • プラスチック(高分子)
    --熱可塑性樹脂(直線モノマー)、熱硬化樹脂(三次元モノマー)
    --4大汎用プラスチック(熱可塑性):(1)ポリエチレン(PET:ペットボトル、高密度ポリエチレン:ビニル袋(塩ビではないが「ビニル」と呼ばれている)・ポリバケツ等、低密度ポリエチレン: 食品容器等、(2)ポリ塩化ビニル:ビニルハウス・雨どい等、(3)ポリプロピレン:荷造ひも・自動車部品等、(4)ポリスチレン:プラモデル・PC筐体・発泡スチロール
    --5大エンジニア・プラスチック:ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリプチレンテレフタラート
    --強化プラスチック(プラスチック+ガラス繊維・カーボン繊維(FRP)等):ヘルメット・ラケット等
    --生分解性プラスチック

 

次に、技術・製品の品質向上・担保のための分析(分離、測定)が重要で、中小企業技術センターなどにおける貸付、すなわち、加工精度の診断を行う工作機械精度診断測定システムや高性能高さ測定機、ものの表面の解析を行う電子顕微鏡、内部の解析を行うX線透視装置などのほか、電子部品の有害物質に関する欧州の規制強化への対応の関係では、有機物の分析を行うガスクロマトグラフ、金属の分析を行う放電発光分析装置などの検査装置や生産装置の貸付などを行っています。

  • 酸化・還元
    原子から電子を奪われること(酸素(電子8個で安定する外側の電子軌道に電子が6個)がくっつくこと、水素が離れること)が「酸化」、電子を得ること(酸素が離れること、水素がくっつくこと)が「還元」です。
    例えば「光触媒」は、光のエネルギーによって化学反応を促進する物質全体を指しますが、その中で実用化されているのが酸化チタンを用いたものです。酸化チタン(TiO2)に光を照射すると、電子が飛び出します。飛び出した「電子」が空気中の「酸素02」に作用することで不対電子を持つ「スーパーオキシド02・-(活性酸素)」が生じます。一方「正孔」が空気中の「水H2O」から電子を奪うことで不対電子を持つ「水酸ラジカル・OH(活性酸素)」が生じます。これらスーパーオキシドと水酸ラジカルが、アルコール、植物の葉、ゴキブリさらにはCO2までをも分解(酸化)する、これによって汚れなどを太陽光で分解するというものです。
  • 共有結合・水素結合・金属結合・イオン結合
    例えば純水の「水分子」では、「共有結合」と呼ばれる水素2個と酸素1個の強い結び付きが起こっています。原子には外側の軌道に8個の電子があると安定する性質があり、外側の軌道に6個の電子を有する酸素原子に対し、水素原子2個は、それぞれなけなしの電子1個を酸素の電子軌道に供与するかわりに、酸素原子からも自分の電子軌道に電子1個を供与してもらうことで、互いにしっかりと結び付いています(例えば呼吸の際のように、共有結合の強弱によって、弱い結合(強いエネルギーが必要)から強い結合(さほどエネルギーがいらない)へ変化する際に、エネルギーが放出されます)。また、酸素分子(O2)は4個の電子を共有することで、それぞれ外側の軌道に8個の電子を有することとなり安定しているが、オゾン(03、O+(電荷5)・O(電荷6)・O-(電荷7))はそのバランスが崩れ、強力な酸化力(電子を奪う力)を有します(なお、酸素やオゾンは紫外線を吸収します。高度20kmより上空では、強い紫外線により酸素分子が分解して酸素原子となり、それがまわりの 別の酸素分子と結合してオゾンが生成されます。さらい、オゾンは酸素原子と反応して2つの酸素分子に変化します)。
    さらに、酸素原子と水素原子が一直線に並んでいないため電子の分布に偏りが生じる「極性」を有しているため、そのわずかなプラスとマイナスによって「水分子どうし」の引き付け合う力(「水素結合」)を有し、水は表面張力が強いのです(なお、ほとんどの物質では液体より個体の方が小さくなるのですが、水では逆になるのは氷の水素結合で隙間が大きくなるからです)。しかし、油の分子には極性がなく互いに引き合う力は弱いため、互いに引き付け合う水と、油が混じり合うことがないのです。そこで、石けんや洗剤などの界面活性剤は、同じ分子内に極性部分と無極性部分を持つことで水と油それぞれに親和し洗浄効果を発揮するのです。
  • 一方、「金属」は「金属結合」によって、導電性、展性、延性を生んでいます。金属原子は外側の軌道の余っている電子を放出しプラスイオンになりつつ、放出されたマイナスの電子に引きつけられます(クーロン力)。こうして動き回る多くの電子と多くの金属プラスイオンが引きつけ合っているのです。
    また、電子ではなく、陽イオン、陰イオンの電気的引力(クーロン力)による強い結合は「イオン結合」です。
  • 酸性・塩基性
    溶媒(水など)」に「溶質(食塩(塩化ナトリウム)、砂糖(ショ糖)など)」を混合した結果、「透明」なものを「溶液」と言います(うち「溶質」分子が分かれるもの(塩化物イオン(-)とナトリウムイオン(+))を「電解質」と言います)。具体的には「溶質」分子またはイオンに「溶媒」分子が結合する「溶解和」(ナトリウムイオン1つと水分子4つが結合)が起こった状態です。溶媒が水の場合はそれぞれ「水溶液」「水和」と言います。
    液体は、そのごくわずかな割合が解離してイオンになっており、水の場合は、2つのH20からH3O+(水素イオン)とOH-(水酸化物イオン)に分かれます。純水や水溶液では、水素イオンと水酸化物イオンの量の積は10のマイナス14乗mol/L(25度)と一定で、「中和」(水素イオン、水酸化物イオンが同量)より水素イオンが多い状態を「酸性(pH0~7)」(酢など)、水酸化物イオンが多い状態を「塩基性(pH7~14)」(石けん水など)と言います。
    例えば、次亜塩素酸水(pH6.5以下の酸性の電解水)は、電解によって生じる次亜塩素酸(HCLO:酸化数(電子の基準に対する数)+1)濃度が高く、酸化力(電子を奪う力)が強いため除菌力が強いです。次亜塩素酸ナトリウム溶液(アルカリ性)は、次亜塩素酸イオン(CLO-)濃度が高く、除菌力は弱いです。
    なお、1mol=原子6×10の23乗で、大きな単位は、キロ(10の3乗)、メガ、ギガ、テラ、ペタ、エクサ、ゼタ、ヨタ(10の24乗)、小さな単位は、ミリ(10のマイナス3乗)、マイクロ、ナノ、ピコ、フェムト、アト、ゼプト、ヨクト(10のマイナス24乗)です。

こうした基本原理を応用した様々な分析方法があります。

  • 分子分光分析
    光(電磁波)は、電場と磁場による質量を持たない「波」でもあり、ガラス等をすり抜けますが、エネルギーの最小単位・光子を有する「粒子」としての性質をもっており、遮る物質によっては吸収されたり反射したりします。1秒間に30万km進む中で、振動数が大きい(波長が短い)ほど大きなエネルギーを持ち(光量が多い)、γ線(波長1~10ピコ)、X線(~10ナノ)、紫外光(~400ナノ)、可視光(~800ナノ)、赤外光(~1ミリ)、それ以上の電波領域などの種類があります。
    こうした光の性質を利用して、大気中の窒素酸化物濃度を測定する「スペクトル分析」「吸光光度測定」、果物の糖分等を非破壊で測定する「近赤外分光」、折れ曲がった分子や左右非対称の動きの分子の振動エネルギーとして吸収される赤外線(CO2のうち左右非対称に動くものが赤外線を吸収して温室効果ガスとなる)を分析することで化合物の官能基を推定する「赤外分光」、以上のような光の吸収を図るのではなく、物質が光を受けより波長の長い光を放出する蛍光現象を測定して感度が高い分析を行う「蛍光分析」、さらに散乱光を測定して異物解析や微少物分析を行う「ラマン分光」などがあり、様々な周波数の波が合成されたパターンから各周波数成分がどの程度含まれているかを描く数学的な処理方法であるフーリエ変換も広がってきています。
  • 原子分光分析
    分子をそのまま分析するのではなく、炎や大電流でバラバラの原子状にして分析する方法で、原子が吸光(電子が外側の軌道に移動する励起状態)するのを測定する「原子吸光法」、電子が内側の軌道に移動して安定な状態に戻る際に同じ波長で発光するのを測定する「発光分析法」などがあり、金属、化学、食品、環境など様々な分野で用いられます。
  • X線・電子線分析
    原子番号の大きな元素ほどX線を透過しにくいことから、結核やがんの検診、歯科治療、手荷物検査、工業製品の品質管理に使われる「X線」、元素に固有の蛍光X線を分析する「蛍光X線分析」、X線を照射した際、X線が原子の周りにある電子によって散乱、干渉した結果起こる回折を解析することで、無機・有機物質の粉末、高分子材料、タンパク質、金属部品、有機・無機薄膜半導体などを測定する「X線回析」、光学顕微鏡(可視光)で見られない小さなものを見るために電子線(波長2ピコ)を用いた「電子顕微鏡」などがあります。
  • 質量分析
    分子や原子一つずつの質量を測定するもので、電子線や、高速原子、レーザー等を当ててイオン化・断片化したものを飛ばして分離する(軽いほど遠くに飛ぶ、磁場でよく曲がるなど)ことで、同位体を識別できます。
  • NMR(核磁気共鳴分光)
    原子核は正電荷を持って自転(スピン)し、磁場を発生させている磁石です。そのスピンを測定することで、分子構造や有機合成、医療用MRI診断装置等に応用されています。
  • クロマトグラフィー
    固定相(カラム)を流れる移動相(気体、液体)を測定する方法を「クロマトグラフィー」、装置を「クロマトグラフ(GC、LC)」、得られる図を「クロマトグラム」と言います。
  • プラズモン共鳴
    本来相互作用しない金属中の電子と光が、金属ナノ粒子中の電子と光は特定の条件下で相互作用することがあり、それをプラズモン共鳴と言います。
    --昔からステンドグラスなどで利用されてきました。金は、全ての光を反射し「金色」に輝いていますが、金を可視光よりも小さな粒子にした場合、あるいは形を変えた場合には、一部の光を吸収し、違う色になります。
    --光を吸収する、すなわちエネルギーを吸収することを活かし、脱炭素対応にも応用が期待されます。アンモニアを分解し水素を取り出すためには、触媒を利用しても熱(CO2排出)が必要となります。しかし、鉄(安価)のプラズモン共鳴を利用すれば、光から従来の触媒以上のエネルギーを得られます。
    --応用範囲は広く、半導体と融合させれば光を曲げてスイッチにするとか、半透明の金属を作ったりするとか、様々な研究が進められています。

垂直統合から水平分業へ移行してきたサプライチェーンのDX化、そして「競合との開発競争」から「未来への開発協創」へ

京都の課題のもう1つは、文化芸術や最先端研究、伝統産業からハイテク産業に至る多彩な企業等どうしの強みを結合させ、そのイノベーション(新結合)によって高付加価値を生み出すユニット化です。府内工業製品出荷額は約5兆9,000万円(京都市内2兆6,700万円、山城2兆1,000万円、南丹3,700万円、中丹6,500万円、丹後1,100万円)であります(2019年工業統計調査、従業員4人以上)と、これらの様々な付加価値を融合させることが重要です。

  • 京都試作ネット
  • 京都航空宇宙産業ネットワーク(なお、2022年3月期決算では、川崎重工もIHIも航空機エンジン事業が回復(IHIは過去最高益))

半導体、自動車業界の概観のとおり、サプライチェーン垂直統合から水平分業への移行傾向にあります。自動車、半導体、機械などの産業は、樹脂材料や金属材料などの「素材工場」、最終製品などの「製品組立工場」、そして、その間には多くの中小企業や多くの京都の大企業が担う「部品製造工場」などから成り立っています。

  • その部品製造工場の加工機に着目すると、複数の加工機が並ぶ中を加工部品が順番に流れる「ライン生産型工場」(中堅企業等。一人等でまとめて管理する場合は「セル生産」)、同種の加工機が集まるエリアから別のエリアへと加工された部品が渡り歩く「ジョブショップ生産型工場」(多くの中小企業)、1つの加工機だけの「単一工程型工場」(一人親方企業等)に区分でき、
  • フローに着目すると、自社オリジナルの「汎用部品」を製造している場合は、販売計画を基にした「計画生産」、親会社からの依頼の「専用部品」を製造している場合は、「生産指示方式(内示、確定受注)」や「在庫補充方式ジャスト・イン・タイム、かんばん方式)」を基にした「受注生産」という区分ができます。

多くの中小企業が担っているジョブショップ生産型工場、生産指示方式受注生産(製造指示書(現品票)で管理)はスケジュール管理が難しいわけですが、近年の多品種化、人手不足に加え、パンデミックにより、納期遅れの増加が露呈しました。

  • 自動化されているケースも多い食品産業、化学産業の「加工製品工場」と違って、半導体工場を除けば、完全自動化はほとんどありません。各工程の加工機(自動機)が稼働している正味製造時間と、その前後の余裕時間(セットアップ時間や待ち時間)を、機械増強、現場改善、品質向上などでいかに短くするかが引き続き重要です。
  • また、ジャスト・イン・タイムはパンデミックや災害に弱いことも分かりました。需要変動(計画生産)生産変動(受注生産)に備えた一定の安全在庫は必要です(逆に安全在庫を求める動きは、世界的な資材不足の原因の一端になっているかもしれませんが)。

そこで今後、共創のためのDXプラットフォームづくりが重要だと考えています。

  • 企業間での生産履歴や不良の原因把握など品質管理のためのIoT(制御盤(PLC、インバータ、サーボ等を収めた箱)や加工機からデータ収集))の推進
  • 個別大量生産時代を踏まえ、様々なパーツを独自に提供、組み合わせることができるプラットフォームの形成(バーチャルプロダクションで先行)

施策

施策実施状況

ダイハツ関連

ミライ―スの短期開発(通常4年かかるところを2年で開発)の成功体験、人員減少の中でのトヨタからのOEM増加などの背景もあり、大量生産前に必要となる、社内で行う「型式指定」試験で不正をしていたとのことです(取り消されると最低でも再認定までに2か月かかると言われています)。それに対し、相談窓口の設置などの対応を実施。

下請け関係

下請取引適正化通知:例年約110社、下請かけこみ寺(2012年~):1,500件(2022年度180件、2023年度72件。近年は建設業・運送業・個人IT企業における代金未払相談が増加。価格転嫁相談は数件)(下請取引の適正化のための行政指導等を定めた「下請代金支払遅延防止法」(参考:価格構想ハンドブック(外部リンク))、取引あっせん等の支援措置を定めた「下請企業振興法」)、よろづ支援拠点「価格転嫁サポート窓口」(外部リンク)
--抵触する恐れのあること
合理的説明のない価格低減要請
原材料・エネルギー・労務費上昇にもかかわらず不当に従来価格で納入させること
量産品と同等単価で補給品を発注すること、大量発注単価で少量を発注すること
長期間使用しない「型」を保管させること、発注者が負担すべきコストの受注者負担を求めること、仕様変更等の費用の受注者負担を求めること
発注者都合の受領拒否
--価格交渉ノウハウ(準備)
自社の価格根拠、従来の販売量・価格推移、価格変更の理由
競合の価格・品質
値上げのメリット、据え置きのデメリット
--改善方法
原価:設計・材料・加工方法の変更、省エネ化、廃棄物の有価物化
人件費:メンテナンスフリー化、サービス省力化
その他:梱包方法・検査基準見直し、材料支給へのシフト

なお、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針(外部リンク)」では、生産性向上などで吸収すべきという考えが根強く、価格転嫁が難しい「人件費の価格転嫁交渉」については、最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いることが重要とされています。

北部ものづくり関係

北部産業創造センターの「高速開発支援センター」(中小企業技術センター本所のほか、丹後、けいはんなも含めた4か所でオンライン利用可)によるエンジニアリングチェーンのDX、すなわち、3Dスキャナ、CAD/CAE、3Dプリンタ等を駆使したデザイン、設計、検証プロセスのデジタル化支援を行っています。さらには、補助金・伴走支援による、ノウハウなどの強みとDX等の掛け合わせの推進(残留応力まで配慮した加工プロセスの工夫とSNSによるパターのオーダーメイドや加工プログラムノウハウのAI化によるサブスクサービスなど)を行っています。

2018年開設の「北部産業創造センター」においては、2020年度はコロナの影響で来場者数は4割減の9,000名程度でしたが、機器貸付は約1,200件と横ばいで推移し、2021年度は10,000名、1,000件、2022年度は14,300名、820件、2023年度は12,000名、700件(1月末)で推移しています。特に「高速開発支援センター」は、中小企業で従来ほとんど導入されていなかったCAE等を推進を図り、現在デジタルマニュファクチュアリング関連で年間数十件の利用(3Dスキャナ:部品のリバースエンジニアリングなど、3Dプリンタ:顧客への試作提案など、CAE:部品の形状や強度、疲労の解析、工作マシンの振動解析など)がなされるなど、中小企業の開発力向上に寄与しています。「丹後ものづくりパーク」においても、2020年度は研修受講者が1,300名程度に半減したものの、機器貸付は約2,000時間、交流スペース利用は1,300名と、それぞれ横ばいで推移し、2021年度は1,700名、1,700時間、1,200名(食品製造装置、新型織機などの開発プロジェクト等も実施)でした。2022年度は1900名、1800時間、1600名、2023年度は2,000名、2,000時間、2,150名(1月末)で推移しています。さらに、CAEとAIやデジタルツインとの融合なども挑戦してまいりたいと考えています。

  • CAE1.0(1980年代以降):作らずに試せるフロントローディング
  • CAE2.0(1990年代以降):設計最適化
  • CAE3.0(2010年代以降):フロントローディング+設計最適化=試作
  • CAE4.0(2020年代以降):CAE×AI(プリント基板にIC等の部品を実装するリフローにおける温度管理等)や、CAE×デジタルツイン(商品ビジネスモデル・全般)

これらの推進により、ものづくりのエンジニアリングチェーンのDX化は進んできています

  • 設計工程のバーチャル化:CAEなど
  • 生産工程のロボット化:マシンプログラミングのAI化学、工場ロボット化
  • 検査工程のAI化:AI企業の増加によってAIを用いて中小ものづくり企業でも自社での検査が増加

 

  半導体 Semiconductor 

半導体によって時代は再びソフトからハードへ【状況】

照明器具や電気製品、PC、スマホに自動車、発電や送電、インターネットなどあらゆるものに組み込まれ、半導体なしでは世の中が成り立たなくなっています。デバイス産業だけを捉えるとGDPの1%に過ぎませんが、サプライチェーン全体を捉えれば、1割弱にも及びます。

しかし日本は、この間だ凋落を続けてきました。半導体を活用する市場が、1970年代頃の家電や電卓、1990年代頃のPC、2010年代のスマホ、そしてこれからは自動車、ロボットと変遷を続ける中で日本の凋落はどうであったのでしょうか。1970年代の初頭までは、米国は軍需・コンピュータ志向、日本は民生分野志向という棲み分けでしたが、日本のオイルショック以降のハイテク産業への移行と、コンピュータ業界の磁気メモリから半導体メモリへの移行が重なり、国内市場の盛り上がりに牽引される形で日本製のDRAMが席捲するなど、1980年代末には、日本のデバイス産業は世界最大のシェアを誇り、半導体は「産業の米」と言われました。しかし、それが国内の海外製品のシェア目標を定めた日米半導体協定の締結等にも繋がりました。さらに、90年代以降のインターネット・ブームやスマホ市場に乗り遅れ、川下産業では日本は世界の1割に過ぎません。キオクシア、ルネサスエレクトロニクス、ソニー、東芝、ロームなど国内メーカーの世界シェアは10%を切っていると言われています。

  • 1990年代のメインフレーム(高性能DRAM)からPC(安価DRAMやCPU)への、半導体の世界の潮流を捉え切れず
  • ソフトウェアへの認識の遅れなどから、垂直統合から水平分業への産業構造の転換にも失敗しました。

一方世界も、その地図は大きく変遷しているところです。集積回路あたりの部品点数が毎年2倍になるという「ムーアの法則」は、「微細化による付加価値の増大」「それによる市場価値の拡大」「それによる利潤がもたらす研究開発・設備投資の拡大」という好循環の上に成り立ってきました。しかし、コロナ禍、さらにはEV・自動運転等の進展、国際情勢をきっかけに起きた半導体不足により国家レベルでの半導体製造工場の誘致とともに、規制合戦をもたらし、その法則が崩れつつあります。

  • 産業構造を概観しますと、ダイオード(整流)やトランジスタ(スイッチ)のほか、トランジスタを組み合わせたCPU/MPUやメモリなどの集積回路(IC(LSI等))、イメージセンサやLEDなどのオプトデバイス、センサなどの「半導体デバイス産業」(国内市場規模約5兆円、世界市場規模約70兆円(ロジック半導体等50兆円、パワー半導体5兆円(EV(通信機器、1台当たりガソリン車の2.5倍)、ロボット等で今後大きく伸びる見込み)、アナログ半導体15兆円)、その川上の「半導体材料産業」(同約0.7兆円、約6兆円)、「半導体製造装置産業」(同約1.8兆円、約8兆円)、川下の「電子機器産業」(同約23兆円、約250兆円)で構成されています。
  • 業界地図を概観しますと、「半導体デバイス産業」は、CPUが強い米国、DRAM、フラッシュメモリが強い韓国のシェアが高く、インテルやサムソンは設計・製造とも一貫して行う垂直統合型(IDM)ですが、微細化に伴い、シリコンウエハ上での薄膜形成、回路焼き付けなど(日本企業が開発した静電チャック(外部リンク)なども用いられています)の前工程を中心に、水平分業への転換が起こり、設計・開発を行うファブレス企業(クアルコムやエヌビディアなど)や、前工程の製造だけを行うファウンドリ企業(台湾のTSMCなど)、後工程の組立だけを行うOSATなどが生まれてきました。そのため、おおまかには「英国が設計、米国(巨大IT企業)が開発、台湾が製造、スマートフォンは中国で製造」といった世界的サプライチェーンが構築されています。一方、シリコンウエハ(信越化学工業、SUMCOで世界シェア約5割)、レジスト(JSR、東京応化工業、信越化学工業で約9割)、フッ化水素(森田化学、ステラケミファで約8割)などの「半導体材料産業」や、上位10社に東京エレクトロン、アドバンテスト、スクリーン(洗浄装置で約5割。数百という工程の中で随時洗浄が行われ、弱酸、弱アルカリ、アルコールなどを使用しパーティクル(ゴミ)を取り除く。)、日立ハイテクの日本企業4社が食い込む「半導体製造装置産業」では存在感を発揮していますが、製造装置トップのアプライドマテリアル(米国)は前工程のほとんどをカバーし、2位のASLM(オランダ)は露光装置で世界シェア約8割を占め、波長13.5nmの短い極端紫外線露光(EUV)を用いて微細化(7nm以下)対応可能な装置は同社のみとなっています。
  • 国別市場規模では、中国が1953億ドル、米国が1255億ドル、欧州が481億ドル、日本が445億ドル(いずれも2021年)となっています。中国が2015年に「中国製造2025」を掲げ2025年の半導体自給率70%に定め、中国SMICがEUVを使わずに7nmの開発に成功したという報告等がある一方、リーマンショック以降、技術者と研究開発費を減らしてきたインテルが微細化に失敗している状況の中、米国による規制が影響している中国を除き、世界的に増大しています(製造工場着工数:2018年~2020年64工場、2021年~2023年85工場)。米国は、Chips法により、Intelなど設計力は強いが弱点である後工程を中心とした企業誘致に500億ドル以上の補助金と、中国への輸出規制(設計ツール・半導体・製造装置・米国人(メンテナンス)・部品・材料の禁止、成膜装置(ウエハへの薄膜)の許可)を行い、日本(東京エレクトロン、レジスト塗布)とオランダ(ASLM、露光)にも足並みを揃えるように協力を要請しています。その結果、TSMCは米国や日本など中国以外に工場建設を進めているのです。そのTSMCは、大手IBMができなかったトランジスタの下請けをTIで成功させ「下請けでも技術を極めれば大手と対等になれる」と、モリス・チャンが1987年に創業し、設計、前工程、後工程を徹底的に水平分業し、それぞれ世界標準を推進した結果、ファウンドリーの60%のシェアを占めるに至っています。EUVを使いこなし微細化面でも最先端を走っています。また、日本が半導体3材料(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の輸出規制を行ったことも一因となり、韓国は「K半導体ベルト構想」を推進しています。

半導体で求められているのは「微細化」です。微細化により「高速化」「低消費電力化」「コスト削減」が図られるからです。まず、電気を通す「金属」と、通さない「絶縁体」の両方の性質を有す「半導体(材料)」について概観します。

  • 元素半導体(セラミック(無機)):シリコン、ゲルマニウムなど。ソニーがゲルマニウムを用いたトランジスタをいち早くラジオに用いたことが、日本に半導体産業が興るきっかけとなりました。
  • 化合物半導体(セラミック(無機)):ガリウム・ヒ素、ガリウム・リンなど。化合物の特長を生かして高性能パワーデバイス、マイクロ波パワーデバイス、発光ダイオード、半導体レーザーなど様々な半導体デバイスに応用されています。
  • 有機半導体(有機):発光ポリマーシート。有機ELディスプレイや有機太陽電池シートに応用されています。(液晶は、液体と結晶の両方の性質を持った化合物のことで、電圧をかけることによって分子の並び方を変えることができ、液晶ディスプレイでは、発光体であるバックライトの前に液晶分子を並べ、電圧をかけたり、かけなかったりすることで分子の並べ方を変え、光を通したり、遮断したりすることで、液晶の前に配置されているカラーフィルターの赤色(R)・緑色(G)・青色(B)が表現されます。それに対し、ELは、発光を伴う物理現象の名称で、有機ELは、発光素子に有機材料を用いたものです。有機ELディスプレイでは、色を持った素子そのものが発光することで色を表現しており、バックライトが不要でディスプレイユニットを薄くできます。なお、3D表示用ダイオードの研究(外部リンク)等も進められています。)

いずれも不純物の添加によってP型(正電荷の正孔が電気を運ぶ)、N型(負電荷の電子が電気を運ぶ)になり、その組み合わせにより様々な働きを生む「半導体デバイス」が生まれました。

  • ダイオード:2個の電極しかなく、P型とN型を接合させた構造で、電気をP型からN型へ(電子をN型からP型へ)一方向にしか流さないため、交流を直流に変える整流器に用いられます。(外部磁場や特殊な結晶対称性等が必要で困難とされる、超伝導ダイオードをゼロ磁場下で制御する研究(外部リンク)等も進められています。)
  • トランジスタ:3個の電極を持ち、様々な型があり、電気の増幅やスイッチングが可能。熱を使い経年劣化し、小型化に限界がある真空管に代わり、コンピュータのスイッチング機能を担っています(現在では7nm以下のものも開発されています)。
  • IC(CPU、MPU、メモリなどのLSI等):トランジスタ、ダイオード、抵抗、容量等の電子部品を1つの半導体(シリコン等)基板(シリコンウエハ)に搭載し、特定の回路機能を持たせています。(なお、直径300ミリウエハなら1000個程度のチップができ、最先端ロジック半導体ならば1チップにナノサイズのトランジスタが数百億個形成されます。また、IC、コンデンサ、リレー、コネクタなどを搭載しているのがプリント基板。かつてはプリント基板の上に、三軸トランジスタなどが並べられていたが、微細化の過程で半導体基板に変遷)
  • フォトダイオード:半導体に光を当てると電気が流れる性質を利用したもので、太陽電池、CCDセンサ(光をRGBに分光してフォトダイオードでキャッチ)、CMOS(各フォトダイオードで電気信号化)に用いられています。
  • 発光ダイオード(LED)・半導体レーザ:化合物半導体によって、電気から光を有むものです。
  • MEMS:以上の半導体製造技術やレーザー加工技術などの微細加工技術を用いて、電気要素と機械要素を一つの基板上に組み込んだ微小デバイスのことで、半導体デバイス(LSIなど)とMEMSの違いは、外見・大きさは似ていますが、半導体の出入力が電気信号に限定され、高速計算や記憶に向いているのに対し、MEMSの出入力は電気信号、エネルギー、機械変位、物理量など多岐に亘り、センサやアクチュエータなどの様々な働きをします。具体的には、加速度センサや角速度センサ、手ぶれ防止やディスプレイ・デバイスにも用いられ、自動車やロボットに必須デバイスとなっています。

半導体デバイスの用途別には、次のとおりです。

  • 演算を行うロジック半導体:「先端ロジック半導体(スマホ、高性能PC用))」は輸入に依存しており、今後、国内供給能力の確保(微細化)、AIチップの開発加速を図る必要があります。「マイコン(産業機器、自動車用の汎用(ミドルレンジ)半導体)」は、現在もシェア世界一ですが、需給ひっ迫に対応するためにサプライチェーンの多元化が必要です。(インテル、アップル)
  • データを保管するメモリ半導体(DRAM、NAND):シェア低下中であり、一層の量産体制、研究開発が必要です。(サムスン、SKハイニクス、マイクロン・テクノロジー)
  • 電気・光・音などを処理するアナログ半導体(うち電気を処理するパワー半導体):ロジック半導体とは異なる様々なノウハウが求められ、少量多品種、オンリーワン整品が多く、グローバルニッチの強化が引き続き重要です。例えば、近年のスマホカメラの画質へのこだわりの高まりによるイメージセンサ(分割された画素ごとに捉えた光を、フォトダイオードで電気に変換し、トランジスタで増幅するもの)のニーズが高まっています。あるいは、自動車産業向けには、12インチではなく従来の8インチのシリコンウエハ、従来のプレーナー型2次元基板が求められていますが、微細化志向が進む半導体業界のシーズに合わず、EV化・自動運転化(5G通信半導体、AI半導体)のニーズが高まっています。(テキサス・インスツルメンツ、アナログ・デバイセズ、ソニー、シャープ、インフォニオン・テクノロジー)

なお、ウクライナ侵攻により一時的に半導体市況が低迷しましたが、大きなトレンドとしては潮目が変わって、ムーアの法則を超える成長が見込めるのではという見方もあります。

  • ロジック半導体関係
    --ゲームのストレージ等の要求スペックが上昇する中、スマホの進化・買い替えはまだまだ継続し、レイテンシー克服のためにはエッジサーバーが一層必要
    --メタバースやIoT/AI(生成AI)の様々なサービスが増加(AIペット、家畜センサ(脱炭素)など)
  • メモリ半導体関係
    --HDDからSSDへの置き換えでメモリ市場が活況
    --AI時代を迎えてHBM(High Bandwidth Memory。高い帯域幅(データ転送速度。メモリとプロセッサを結んで信号を交換する入出力回路・バスを1秒間に通過するデータ信号の数)を持ったDRAM)や、DRAMの3D化など技術革新が進展
    --PIM(Processing in Memory。メモリ内部でデータの記憶のみならず演算処理まで行うことでデータの移動に伴う電力消費を削減することを可能とする)の導入で電力効率が上昇
  • アナログ半島隊関係
    --スマホに一眼レフ超えセンサが搭載
  • パワー半導体関係
    --サーバー向けパワー半導体の必要量が増加(GaN)

また製造工程別には、次のとおりです。

  • 設計:設計自動化ソフト(EDA)の強化、スピントロ二クスの活用、ファブレス企業の育成が必要です。
  • 製造(前工程):スパッタリングでウエハに銅箔成膜、レジスト塗布、フォトマスクで露光・現像(レジスト廃棄)、エッチング(銅廃棄)、レジスト除去(レジスト廃棄)。現在、理論回路幅7nm以下の最先端ロジック半導体を製造できるのは、オランダASLMの極端紫外線(EUV)露光装置を大量に使いこなすTSMCくらい。
  • 組立(後工程):3次元化等の挑戦が重要です。従来の回路形成方法は、線幅(メモリ等の場合)またはゲート長(ICチップ等の場合)10nm程度までしか対応できないため、2次元基板「プレーナー型」から、2.5次元基板「フィン型」、さらに微細構造を縦に積み上げる3次元基板「ナノシート(GAA型:ゲートでくるんだチャネルを積み重ねるもの。波長の短い極端紫外線露光(EUV)が必要)」の確立が目指されています(10nm程度以下は、電子の干渉や電子の量が少なく貯められないなどの問題が起こり、3次元化その他の工夫で、2nmを想定した理論値を実現できているという意味)。それによって2nm級の量産を、サムスン、TSMC、ベルギーの研究機関imecらが目指しています。また、Intelもゲート計上の4D化、チップの底面への電源層設置により2nm半導体を目指しています(外部リンク)。なお、京都では1nm半導体の作製に成功した研究例(外部リンク)もあります。

その他様々なイノベーションが生まれています。

  • 型をウエハに押しつけて、回路線幅15nmほどの回路パターンを形成するナノインプリントリソグラフィ(NIL)は、EUVと比べ消費電力を10分の1に抑制できると言い、キオクシア・キャノン・大日本印刷などが実用化に向けて進めています。
  • 不純物添加や保護膜形成が難しいが、高電圧に耐えられる故に熱によるエネルギーロスが少なく、高速かつ高い周波数で動作できBeyond5Gをはじめ宇宙など放射線量が高い場所でも使えるダイヤモンド半導体の開発(外部リンク)も進められています。
  • 鉄よりも強固で、熱や化学物質にも強い耐性を持つ導電体グラフェンを用いた半導体(外部リンク)の開発も進められています。グラフェン半導体は、微細化に伴う発熱耐性の問題などを解決できる可能性を有します。

そうした微細化ニーズは、スーパーコンピュータ、クラウドサーバー、AIチップなどに不可欠となっています。

  • スーパーコンピュータ、クラウドサーバー
    今やハイテク産業の覇権はGAFAMに移り、それら巨大IT企業がクラウドサーバーやスーパーコンピュータの半導体チップ(CPU、画像処理やAI用等に用いられるGPUなどのプロセッサ)開発に注力しています。
    2020年6月、世界スパコン・ランキングで、5部門のうち4部門を理化学研究所・富士通の「富岳」がトップを独占しましたが、残る1部門のトップを獲得した日本のAI企業Preferred Networksもチップの自社開発に取り組んでいます。ディープラーニング(学習と推論)やビッグデータ処理に対応するため、ライバルに差を付けるため、ハードの制約を受けるソフト開発の効果を高めるため、チップ開発に進出しているのです。ムーアの法則によれば、1チップのトランジスタ数が18ケ月で倍化しますが、トランジスタが微細化するに従い電流漏れや過剰な熱の発生が起こるため、近年のパソコンは、クロック周波数を保ったまま性能を上げようと、演算ユニットを多数内蔵(マルチ・コア)した汎用CPUを並列(マルチプロセッサ)で繋いでいますが、先の両者のスパコンは、命令を同時に複数のデータに並列に適用するかつてのベクトル方式も組み合わせ、富岳にあっては毎秒41.6京回の浮動小数点(仮数、基数、指数の要素で表現する数字)計算を実現しました(2022年は、米国フロンティアが110京2000兆回とトップとなり、富岳は44京2010兆回と2位でした)。
    このため、スーパーコンピュータは、「理論」「実験」と並ぶ現代科学の第3の柱「シミュレーション」の高度化を実現し、天気予報のほか、宇宙シミュレーション、材料研究、量子化学や量子コンピュータ開発、空力設計、がんゲノム医療研究などに用いられています。例えば、新型コロナウイルス感染症の治療薬。一般に創薬開発は、病原である標的タンパク質の探索(ターゲット探索)、それと結合する化合物の探索(リード探索)、人間が飲める形にする薬剤変換(リード最適化)、動物評価(前臨床試験)、ヒト評価(臨床試験)という長い工程を経て、成功確率は2.5万分の1程度と言われています。そこで、リード探索のシミュレーションが行われてきましたが、通常は標的タンパク質を「固定」した形で探すので精度が低いのに対し、富岳を用いて「動かす」ことで高い精度で検索が進められています。三次元座標に、標的タンパク質を構成する数万個の原子を配して質量や電荷を基に加速度を計算し、フェムト秒単位で移動後の座標を求めるという膨大なデータ量をこなしているそうです。
    スーパーコンピュータは、自国の産業基盤の強化などを目的に「汎用機」開発において国家間でしのぎを削っているところですが、富岳は、最高レベルのマシンをコンシューマー製品にも幅広く応用できる点も高く評価されています。一方、計算量が数ヶ月ごとに2倍に伸びているAIの学習のため、巨大IT企業は自社開発のAI計算用チップやエヌビディアの最新GPUなどを数千個搭載したAIスパコンの自社開発を進めており、計算速度毎秒100京回に達しています。
  • AIチップ
    増え続けるデータ量・電力、自動運転などに必要なリアルタイム性、プライバシーの問題に対応するため、AIにおいても、「サーバー側で学習し、エッジ側で推論する」方式から「エッジ側で学習も推論もする」方式への転換が必要となっています。「CPUはインテル」「GPUはエヌヴィディア」に続き「AIチップはわが社」(外部リンク)を目指す動きが加速しています。

現在、国が進める政策は次のとおりです。

  • TSMCの誘致:ミドルレンジロジック半導体(汎用品)の量産(高性能・少量多品種の専用品狙い)。国内誘致を主導したソニーの熊本(水資源豊富)にあるセンサー工場横
  • Rapidus株式会社の設立:最先端ロジック半導体(ニッチトップ)の量産。再生エネルギーのポテンシャルが高いと言われる北海道に立地
    IBMの2nm技術の2027年実用化を目指し、「設計・開発」を進める米国に呼応し、スマホなどの「市場」と周辺技術の「エコシステム」の創造が進むことを見越し、「生産技術」で食い込もうとしています(そのための3次元化技術を京都の半導体製造装置関連企業(外部リンク)ウエハ常温三次元接合技術企業(外部リンク)が支えています)。エヌビディアに対抗し、ワームホール(AI向けプロセッサ)を開発しているテンストレントが最初の顧客となりました。
  • LSTCの設立:最先端ロジック半導体の設計開発

こうした動きに呼応していくことが重要です。

  • 最先端ロジック半導体の再興には、京都の製造装置メーカーがサポートインダストリーとして食いこんでいけるように、下請中小企業のレベルアップ
  • DX、GX時代にあって、半導体製品の多様化が求められるため、京都の大手電子部品メーカーらと半導体メーカーによる連携

 

日本・京都の強みを活かせ-- 「高機能材料」と「微細加工・生産材」【対策】

こうした国家レベルのハイレベルなグローバル競争に打ち克つには、日本・京都の強い領域で勝負するしかありません。京都は関西で最も半導体関連企業が多いだけでなく、次の分野の企業が集積しています。

  • ロジック半導体・メモリ半導体のデバイスそのものはありませんが、それらの製造を支える「製造装置」メーカーと、微細加工・少量多品種を得意とする中小企業のサポートインダストリーがあります。
  • パワー半導体などのアナログ半導体デバイスメーカーや、「材料」開発を行うスタートアップ企業の集積があります。
  • 装置製造や材料開発を支える研究機関があります。

AIの進展等により2030年には市場規模が2倍になると言われる中で、微細化(小型化、高機能化、高速化、省電力化)のための新技術開発(集積回路を断片化することで歩留まりを上げるチップレットなど)が求められており、必要となる次世代技術の発掘や開発を産学連携により進めていくことが重要です。海外でもコンソーシアムによる支援が活発化しています。

特に「高機能材料」、「微細加工・生産財(工作機等)」の技術は、元来、日本・京都の得意分野です。例えば半導体に関しては、韓国はメモリ大国、台湾は製造大国(TSMC)、中国は組立工場であるのに対し、日本は、材料と製造装置を供給しています。材料と製造装置の中でも特に日本企業のシェアが高いものは、材料ならシリコンウエハ、各種レジスト、各種CMPスラリ、各種高純度薬液などで、製造装置なら前工程のコータ・デベロッパ、熱処理装置、洗浄装置、測長SEMであり、シェアが低い露光装置、ドライエッチング装置、成膜装置、各種検査装置でも石英部品やセラミックス部品など日本製の部品が圧倒的に多いです。このように、熱をかけて固めた材料や部品、流体関連装置や材料のシェアが高い、すなわち、多くのすりあわせが必要な「化学」分野が日本の強みと言えます(他方、欧米は、マーケティングとサイエンス、ソフトウェア、シミュレーションを駆使した全体設計(モジュール化)による「物理」装置の開発が得意のようです)。

  • 高機能材料:半導体分野では、SiC(炭化ケイ素。新幹線やEV等向け。松波弘之京都大学名誉教授が、高品質エピタキシャル(単結晶成長)技術を世界で初めて確立(それが契機となり、1987年にクリー社(SiCウエハで世界トップシェア)誕生)するとともに、2002年~2012年の「JSTスーパークラスタープログラム」による「産(ローム=デバイス)・産(各応用分野)・学」連携を通じて、ロームによるSiCショットキーダイオードの市販などに繋がる))をはじめ、優れた電気性能のGaN(窒化ガリウム。高周波等が得意)やコランダム型Ga2O3(酸化ガリウム。低圧DC/AC変換装置向け。バリガ性能指数で比較するとSiCの約20倍)二酸化ゲルマニウム(バンドギャップが大きく、PN両型伝導が可能と見込まれる)などの新たな材料開発パワーデバイスの開発が、京都の企業においても進められています。また、材料開発のシミュレータや受託を行う企業(外部リンク)も存在しています。
  • 微細加工:成膜やエッチングなど2次元加工の半導体製造、光学系のレンズ表面加工などの「ナノ加工」に次ぐ、1μm~30μm程度の「微細加工」です(肉眼で見えるのは300μm程度まで)。「生産財部品」では医療ロボットを支える微細機構などがそうですし、「製品部品」では痛くない注射針、カプセル内視鏡、スマホの微細部品の検査プロープ、カメラ内蔵あるいはAR用ディスプレイ内蔵スマートコンタクトレンズなどがそうです。
  • マシン(生産財):直径0.01mmのエンドミルや微細加工用マシニングセンタ(自動工具交換・数値制御機能付きフライス盤)等がそうです。小径ゆえに回転数を上げながら冷却液等で収縮を抑える主軸の構成、数値制御の補正をも超えるナノレベルの位置決めを実現する組立時キサゲ作業など匠の技が盛り込まれています。さらには加工ヘッドに超音波振動を加えることでセラミックスやガラスへの微細加工もできるようになっています。また、非接触で高アスペクト(深穴)を実現できる放電加工機においては、セラミックスの放電加工が可能になったり、レーザー加工機においては、CO2レーザーから、ファイバーレーザー、さらにはフェムト秒レーザーなどが登場したりと、飛躍的に発展していますし、量産向けのプレス加工や医療分野のディスポーザブル等で利用が進む樹脂成形でも、微細加工は深化しており、精度を測る非接触3次元測定器やX線CTスキャン等も発達しています。京都においても、光学ミラー金型などナノレベルの超微細加工(外部リンク)ミクロン単位の補正技術と研究者の知見を組み合わせて開発型企業へ飛躍する取組フェムト秒レーザーのシェアリングなどを後押ししています。また、「京都大学ナノテクノロジーハブ拠点(外部リンク)」では最新鋭微細加工装置群を提供されています。

そこで、こうした「材料」「製造装置」という2つの日本・京都の強みを生かし、ものづくり中小企業・スタートアップ企業の新規参入、人材の確保・育成、国内外の関連企業の誘致を進めるべく半導体産業の推進を図ってまいります。

ちなみに、レーザー光は、指向性と収束性に優れた人工的な光で、普通の光と比べて次の違いがあります。

  • 強い指向性:一方向に向かってまっすぐ、故に、強く、遠くまで届きます。
  • コヒーレンス:光の位相(周期的に繰り返される光の波の、山と谷が揃っている状態)が揃っており、打ち消しあわず、強い光となります。
  • 単色性(単一波長):太陽光のような自然光は複数の色が混ざりあったものですが、それに対してレーザー光は、単一波長の光の集まりとなっています。
  • 優れた収束性:光の束を一点に集める性質のことを指し、エネルギー密度を高めることができ、金属を切断することもできます。

そして、レーザー光が発振する(作られる)原理は、次のとおりです。

  • 励起:レーザー発振器に励起光を入射することで、レーザー発振器内にある原子中の電子は光を吸収します。すると、原子(媒質)は基底状態(原子の持つエネルギーが低い状態)から励起状態(原子の持つエネルギーが高い状態)になります(電子が、より外側の軌道に移ります)。
  • 自然放出:エネルギー準位が高い原子は不安定な状態のため、安定するために自らエネルギーを放出し、基底状態に戻ります(電子が、元の内側の軌道に遷移)。このとき、エネルギー準位が高い状態とエネルギー電位が低い状態の差のエネルギーの光が自然放出されます。
  • 誘導放出:自然放出により放出された光は、他の原子に衝突し、励起・自然放出を誘発します。こうして倍、倍になります。
  • 振幅(共振):さらに2枚のミラーが設置された共振器を反射し続けることによって増幅されます。

その励起、光の自然放出をする原子・電子、すなわち媒質も様々あります。

  • 固体
    --YAGレーザー:イットリウム(Yttrium)とアルミニウム(Aluminum)の複合酸化物から構成されるガーネット(Garnet)構造の結晶に、微量のNd(ネオジム)を添加して得られる固体レーザー。主に溶接に用いられています。
    --ファイバーレーザー:光ファイバの中心に希土類元素Yb(イッテルビウム)が添加されたレーザー。主に溶接、微細加工、医療(レーザー治療)、光通信等に用いられています。
    --半導体レーザー:電流を光に変換するものです。
  • 液体
    --有機色素レーザー:色素(dye) 分子を有機溶媒(アルコール:エチレングリコール、エチル、メチル) に溶かした有機色素。
  • 気体
    --CO2レーザー:ヘリウムや窒素を混合した炭酸ガスで、産業用レーザーの中で最も多く使われています。主に微細加工、医療(レーザー治療)、美容整形、距離測定(LiDER)に用いられています。
    --エキシマレーザー:希ガスやハロゲンなどの混合ガスを用いて、強い紫外領域の光を発生させるレーザーで、熱が少ないため、CO2レーザーよりも鋭利で微細な加工が可能です。主に微細加工、半導体・液晶製造(リソグラフィ)、医療等に用いられています。

また、波長やパルス幅による分類もあります。

  • 波長による分類:赤外線レーザー、可視光線レーザー、紫外線レーザー、X線レーザー
  • パルス幅による分類(レーザーの発振動作は、連続波発振動作とパルス発振動作に分かれ、パルス発振動作をするレーザーはパルスレーザーと呼ばれており、極めて短い時間だけの出力をします):ミリ秒レーザー、マイクロ秒レーザー、ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザー、フェムト秒レーザー

  脱炭素 Decarbonization --ZET-valley-- 

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    「ラボがないため京都からスタートアップが流出している」
    スタートアップ支援をものづくり振興課で引き受けることとなった2020年に聞いた声。なんとかラボを増やせないかと思案していた矢先に、JR向日町駅の建て替えと駅前ビルの新築の話を聞き、「このエリアに産業ビルやラボの整備を進められないか」と思い立ったのがきっかけです。「このエリア周辺には、EVやバッテリー関連の大手企業が集積している。さらには京大桂には、バイオものづくりの研究者もいる。ならば『脱炭素』をテーマにしたゾーンを形成してはどうか」とコンセプトを固め、ちょうど同時期に知事が掲げていた産業創造リーディングゾーンにエントリーしたものです。現在、民間企業等によるラボやインキュベーションの誘致が進んでいます。

 

コロナの次に世界が直面する課題は、脱炭素

世界が直面する二つの危機、感染症気候変動
パンデミックにより、2020年度の世界の経済成長率はマイナス3.5%となり、1日1ドル90セント未満で暮らす極度の貧困層の割合は、2019年の8.2%から8.8%へと、過去20年で初めて上昇しました。一方、産業革命前に比べ平均気温の上昇を1.5℃以下(2℃では極端に気候が変化すると言われています)に抑えるために、温室効果ガスの排出量から、森林による吸収量等を差し引いた実質的な排出量をゼロにする「カーボンニュートラル」の今世紀後半の実現を目指すパリ協定(2015年)に対し、既にEUコペルニクスプログラムの観測によれば、2020年の世界の平均気温は産業革命前から1.25℃上昇しており、1.5℃まで残り0.25℃だけとなっています。
コロナで甚大な影響を受けた人々を救済し経済を蘇らせるのに従来の経済手法を採れば、新型コロナウイルスの出現以前に世界が直面していた気候危機をさらに悪化させてしまうため、各国が打ち出しているのが「グリーンリカバリー」です。

  • 2021年に誕生したアメリカ・バイデン政権の「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」
    インフラ投資:電力網、再エネ発電(太陽光、風力)、5G網、EV充電ステーション、小型モビリティ、クリーン資材による老朽住宅建て替えなど
    テクノロジー投資:蓄電池、炭素回収技術、クリーン材料、グリーン水素、次世代工業プロセス、精密農業
  • 2019年の「欧州グリーンディール(グリーン・デジタル・レジリエント)」
    自動車の制限:CO2を排出するガソリン車などの新車販売を2035年から全面禁止
    投融資の制限:グリーン・タクソノミー(分類) に合致したものしか投融資しない
    国境炭素税等の制限
    公正な移行への再教育:英国ではその恩恵を受けた若い世代が脱炭素ビジネスに続々と参入
    その他英国では、2016年以降の新築住宅は全てゼロカーボンにすることを義務付け、看護師の制服を軽くしてCO2を削減するよう誘導
  • 中国「両新一重」
    インフラ投資:電力網、5G、充電ステーション
    5G×AI×EV:街中カメラで道路交通制御、レベル4自動運転車を5Gクラウドによるリモート支援で保証
    再エネ導入促進

そして、「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」(1997年)が開催され、温室効果ガス削減に関する初めての法的拘束力をもった国際的枠組み「京都議定書」が採択された地である京都においても、「京都府総合計画(京都夢実現プラン)」(2019年)において、「脱炭素社会へのチャレンジ」を掲げるとともに、2020年に、日本を含む他の国々同様、「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」を目指すことを宣言したところです。

動脈産業と静脈産をつなぐ循環経済

日本は、廃棄物処理政策の延長線上で3Rを中心とする「循環型社会」を推進してきました。

廃棄物処理法(1970年制定)による「廃棄物」(お金を出してもほしいと思えば「資源」になります)の分類は、次のとおりです(産業廃棄物は民間で費用に見合う料金が徴収され、一般廃棄物は有料化されている場合でも地方自治体の予算が投入されています。また、産業廃棄物税が27都道府県と1政令市で導入されています)。

  • 産業廃棄物(生産過程):上下水道施設・製紙工場・建設現場等からの汚泥(再利用により最終処分されるのは2%にとどまる)、畜産業からの糞尿(同じく0.1%)、建設現場からのがれき(同じく3%)など
  • 家庭系一般廃棄物(消費過程):生ゴミ、紙(4割はリサイクルへ)、プラスチック類
  • 事業系一般廃棄物(消費過程):生ゴミ、紙(3割はリサイクルへ)、プラスチック類

循環型社会形成推進基本法(2005年制定)も制定され、採取処分率(最終処分場に埋め立てられる廃棄物の割合)は大きく減少し、産業廃棄物では1990年度の22.5%から2021年度の2.3%へと減少、一般廃棄物では1990年度の20.3%から2021年度の0.9%へと減少しています(しかし、世界全体ではサハラ以南のアフリカ、南アジアなどを中心に、廃棄物は増える見込みです)。

  • リデュース(発生抑制):産業廃棄物は1996年度の4億2,600万トンをピークに2021年度は3億7,057万トンまで減少、一般廃棄物は2000年度の5,500万トンをピークに2021年度は4,100万トンまで減少
  • リユース(再利用):市場規模は2021年度で3兆1047億円と拡大(約3分の1は中古自動車市場)。ビール瓶や一升瓶等のリユース瓶の保証金制度のように、製品本来の価格に預かり金を上乗せし、返却があった際に返金するデポジット制度もあります。
  • リサイクル(再資源化):産業廃棄物は約50%程度で推移、一般廃棄物は約20%前後で推移。一般にリサイクルの収支は(リサイクル処理費用)+(残さ処理費用)=(リサイクル料金)+(再生品売却益)となります。
    --排出された廃棄物の全量資源化を図るためには「CAN to CAN」や「ボトルtoボトル」のような水平リサイクルが望ましですが、再生物の質の劣化に応じて、再資源化を変化させていくカスケードリサイクルという手法もあります。最近ではリサイクル品であること、リサイクルに際し再生可能エネルギーを使用していることなどが消費者に高付加価値と受け止められるアップサイクルも起こっています。
    --リサイクルは労働集約型産業であり、家庭系ゴミのPETボトルの国内のリサイクル率は8割を超えますが、事業系ゴミは汚れや異物混入などがあるため中国、東南アジアなどに輸出されてきました。しかし、有害廃棄物の輸出入はバーゼル条約で規制されているほか、環境汚染等を考慮し中国は廃棄物の輸入を制限し始めています。(服・ペットボトルのリサイクル(外部リンク)リチウム電池リサイクル(外部リンク)

なお、プラスチックは、世界全体で、生産量は2億3400万トン(2000年)から4億6000万トン(2019年)に拡大していますが、廃プラスチックとして排出された量は、1億5600万トンから3億5300万トンへの、生産の伸び率以上に増加しています。国内の廃プラスチックのうち87%は有効活用されていますが、マテリアルサイクルの比率は21%にとどmり、残りは熱利用や発電などのサーマルサイクルです。プラスチックには、例えば、脱炭素のために軽量化を図るため、自動車部品をプラスチック化し、プラスチック使用量が増えるという「トレードオフ」の関係があることにも注意が必要です。

  • マテリアルリサイクル:素材を活かす/より高コスト
  • ケミカルリサイクル:分子レベルまで分解して再結合/より低コスト
  • サーマルリサイクル:焼却して熱エネルギーを回収。欧米ではリサイクルに含まれない。

日本のリサイクルについて、分野別にみていきます。

  • 容器包装リサイクル法(1995年)の下、PETボトルは85%前後のリサイクル率を維持しています。
  • プラスチック資源循環法(2022年)の下、容器包装以外のプラスチック製品に関して3Rを推進します。
  • 家電リサイクル法(2001年/消費者は家電を廃棄する際、リサイクル料金を支払う)の下、2020年度・重量比で、エアコン92%、液晶・プラズマテレビ85%、冷蔵庫・冷凍庫81%となっています。
  • 食品リサイクル法(2000年/発生抑制、再利用、熱回収、減量)の下、2021年度の実績は、食品産業全体で87%(製造業96%、食品卸売業70%、小売業55%、外食産業35%)となっています。食品ロス削減推進法(2019年)の下、食品ロス(まだ食べられるのに捨てられる食品)は、家庭系では食べ残し(44%)、直接廃棄(40%)、過剰除去(16%)、産業系では、食品製造業(39%/各工程でのロス)、外食産業(36%/食べ残し)、食品小売業(20%/販売期限切れ、売れ残り)、食品卸売業(5%/納品期限切れ、返品)となっています。「3分の1ルール(賞味期限の3分の1が過ぎるまでに小売業に納品し、小売業は残り3分の1を切れば返品)」の見直し、フードバンク(フードドライブ)活動やフードシェアリングの推進が必要です。

廃棄物処理コストには「変動費」だけでなく「固定費」があるため、固定費の削減を図るためには、効率性と公平性の両立が不可欠です。

  • 効率性:例えば複数の自治体で広域化するなどのスケールメリットを図る。
  • 公平性:NIMBY施設(近隣迷惑施設)から、例えば廃棄物の焼却熱を用いた温水プールを併設するなど、近隣住民サービスへの転換を図る。

ちなみに、原子力発電の放射性物質の管理・処分は「廃棄物処理法」の廃棄物ではなく、「原子炉等規制法」「最終処分法」にて規制されています。

  • 原子力発電では、ウランを核分裂反応させる過程で生じる熱を取り出して電気にする過程で発生する使用済燃料(2021年9月末時点で1万6270トン・ウラン)を保管しています。
  • 青森県六カ所村の再処理工場では、使用済燃料からウランやプルトニウムを化学的に抽出(再処理)しており、重量にして95%が再利用可能となります。(ただし、世界中のウラン鉱石の残余年数は135年以上あると言われており、日本、フランス、ロシア、中国以外の国は再処理せず、地下深くに埋めています。)
  • 六カ所村の工場では、残りの5%は再利用できない廃液(これをガラス原料と融かし合わせ、ステンレス製の容器に流し込んで冷やして固めたものが「ガラス固化体」、すなわち高レベル放射性廃棄物)を生成しています。
  • 高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決定していません

一方、EUは、製品のサプライチェーンや消費スタイルも見直す成長戦略としての「循環経済(リニアエコノミーの対義語としてのサーキュラーエコノミー)」を推進してきており、エシカル消費(倫理的消費)をはじめ、脱炭素にも寄与するものです(2030年までにEU域内で販売される繊維製品に関して、「耐久性が高い」「寿命が長い」「リサイクル可能」などの目標を掲げています)。

  • RoHS指令(2006年):電気・電子機器における特定有害物質の使用制限

そして、廃棄物の回収・処理からなる「静脈産業」と、モノの生産・流通からなる「動脈産業」の連携を進めることが重要です。

  • 拡大生産者責任(ERP):製品に対する生産者の責任を製品の使用後にまで拡大すること。OECDでは「資源投入量の削減」「廃棄物の発生抑制」「より環境適合的な製品の設計」「持続可能な開発のための資源の循環利用促進」の4つを最終目標として掲げられています。

京都産業にとって不可欠な「脱炭素テクノロジー」

そもそも、世界の脱炭素の動きは、経済への大きな危機感から生まれたものです。1つは、災害や自然環境の変化による物理的リスク。もう1つは、世界のビジネスが「脱炭素前提」へと変化していることによる経済システム移行リスクです。

  • 投資家等
    これらのリスクは世界共通であり、最初に敏感に反応したのは投資家です。例えば自然災害が頻発すれば保険が成り立ちません。世界で運用されている資産約3京円のうち、個人資産を除くと約4割を機関投資家が占め、その中でも最大勢力が年金基金です。彼らと、関連する保険会社、運用会社が結集し、株主として大企業・金融機関(金融機関から企業)、更には政府に対し温室効果ガス削減の要求を開始したのです。国連では既に「責任投資原則(PRI)」「持続可能な保険原則(PSI)」「責任銀行原則(PRB)」の三原則が定められ、石炭からの撤退が続く資金の向かう先が、2020年度全世界で35兆ドル(4,000兆円)にのぼるESG投資です。社会の持続的な成長に貢献する企業は長期的にパフォーマンスが優位になるはずだと考えられ、現に世界最大級の年金基金である日本のGPIFが選定したESG銘柄は、2017年4月から2020年3月までの年率リターンでTOPIXを上回る成績を上げ、また、投資リスクを量る意味でも気候変動に関する対応やビジネス獲得に関する情報(座礁リスク)開示を求める動きが当たり前になりつつあります。また融資においても、エールフランスKLMへの支援融資の条件として、2024年までの国内線CO2排出量50%削減などを条件に課すケースや、削減目標を達成できれば金利が低くなる商品等も登場しています。
  • 事業会社
    「2030年カーボンニュートラル」宣言を表明したアップル。サプライチェーン全体を見ると、CO2排出量の大半を占めるのは、京都の電子部品関連を含むサプライヤー企業です。ダイムラーは2039年に乗用車からのCO2排出ゼロを宣言し、フォルクスワーゲンはカーボンニュートラル、マイクロソフトはカーボンネガティブを打ち出しています。
  • 政府機関
    設定された「CO2排出枠」を超えた企業がその超過分まで、下回った企業から余剰分を買い取る「排出量取引」(排出量1t当たり7,500円など)は、既に世界の温暖化ガス排出の2割分に価格設定がなされています(日本では、政府による認証制度(Jクレジット(外部リンク))でもあり参加が少ないが、海外では民間制度が主流(外部リンク)で参画数が多いです)。また、日本も既に導入(地球温暖化対策税)している、CO2排出量に税を課す「炭素税」は、北欧やカナダ等が高い税率(日本のは排出量1t当たり289円だが、EUでは数千円以上)で企業の取組を促進しています。なお、日本では森林譲与税制度(外部リンク)が始まっています。こうした「カーボンプライシング」で先行する欧州は、対策が不十分な国からの輸入品に価格を上乗せする国境炭素税を導入する方針であり、脱炭素の取組の遅れは、企業・産業の国際競争力に影響を及ぼす恐れがあります。

このように、世界に部品を供給している京都産業にとっては、再エネへの転換、製品(部品)の100%リサイクル品又は再生可能な素材での製造等が不可欠となってきます。しかしながら、日本は「脱炭素インフラ」が未発達なのです。

  • 世界平均では、過去10年で太陽光、風力の各発電原価が、石炭、ガスなどのそれを下回り最も安い電気となっています。世界最大の洋上風力発電を有する英国は、CO2を1990年比で42%削減しながら、73%プラスの経済成長を実現しています。
  • しかし、日本では、再エネが火力発電より4割程度高く、依然として石炭火力が主流です。石炭は化石燃料の中でも炭素集約度が最も高い燃料で、同じエネルギー量を消費した場合、石油や天然ガスより多くCO2を排出してしまいます。

ある調査によれば、世界の時価総額の20%を占める大企業338社は売上を伸ばしながら、2015年から2019年までの5年間で排出量の絶対量を25%削減させることに成功しています。また、スウェーデン、ドイツ、英国などの先進国においては、既にGDPを伸ばしながら、温室効果ガス排出量をマイナスにしています。新興国ではいずれも増加していますが、人口増加によるものと言われています。日本のインフラ面の不利の中にあって、京都産業が世界の中で発展していくためには、日本・京都がオイルショック以来世界をリードしてきた優れた省エネ・環境技術と、スタートアップ企業等の柔軟な発想による複合によって、環境制約、社会生活の質向上、経済成長の3つを両立させる新しい「脱炭素テクノロジー」を創出することが不可欠です。

温室効果ガスの発生源

太陽光のうち、雲等による「日傘効果」を除く約7割が大気中または地表に届き、地表からの跳ね返る赤外線を、雲等と同じく、吸収し再び地表側に跳ね返すのがCO2、メタン、フロンガスなどの「温室効果ガス」で、これがなければ氷点下19度とも見積もられる地表付近の温度は温められているのです。

温室効果ガスの中でも最もウエイトが大きいCO2に含まれるカーボン。これまで発見され、作り出された物質の8割は炭素を含んだ化合物(有機化合物。ただし、元々は生物が作り出す化合物を指す言葉故にCO2やダイヤモンド等は含みません。)です。他のあらゆる元素と異なり、炭素はお互いに長くつながり合って安定な分子を作ることができるからです。DNAやタンパク質、脂肪など我々の体も、木材、紙、プラスチック、アスファルトなどの材料も炭素が基軸となっていますし、石油や石炭などの化石資源も炭素と水素、炭素と炭素が結びついてできているのです。

  • 炭素の酸化還元: (炭素(有機化合物、エネルギー内蔵))+(酸素)=(エネルギー)+(CO2)
  • 水素の酸化還元: (水素)+(酸素)=(エネルギー)+(H2O)

このようにカーボン等を含んだ物質からなる「原材料」や「エネルギー」の生成・使用等の際に、温室効果ガスが排出されます。

  • 原材料
    例えば「紙・パルプ」や「木材」はCO2を吸収する森林が原料であり、「セメント」の原料はCO2を排出して製造され、「化学肥料」は分解されれば一酸化二窒素を放出し、「鉄鋼」は錆を取るためにCO2を排出して製造されます。
  • 1次エネルギー
    自然から得られたままの物質を源としたエネルギーのことで、石炭、石油のような「有限資源(化石資源)」、植物などの「バイオマス」を燃やすものはCO2を排出しますが、太陽光、風力、水力など、自然の力を活用して何度でも使える「再生可能エネルギー」、原子の核分裂や核融合の際に発生する熱を利用するものはCO2を排出しません。ウクライナ危機が契機となり、「再生エネルギー」が石炭を抜いて世界で最大の電源となる見込みです。
  • 2次エネルギー
    1次エネルギーを転換・加工して得られ、工場、オフィス、一般家庭等に送られる「重油・ガソリン」、「都市ガス」、「電力」、「水素」等です。

現在の温室効果ガス年間排出量は世界全体で約50Gt(50,000,000千t(2016年)。うち京都府全体で16Mt(16,426千t、うち製造業3,426千t、農林水産業155千t) 削減目標は、「京都府総合計画」では46%(2030年)としている)です。

  • 産業(1次産業)
    農業」では、トラクターの燃料燃焼、ビニールハウスの電気照明のほか、土壌で分解(発酵・腐敗)されると一酸化二窒素になる化学肥料、同じく放置しておくと一酸化二窒素やメタンガスになる動物の排せつ物、大量のメタンガスが含まれる牛やヤギなどの反芻動物のげっぷなど、温室効果ガスを排出しています。「林業」では、森林伐採の際に、燃やせばCO2が排出され、放置しておけば分解されメタンガスが発生します。「漁業」では、漁船の燃料燃焼、冷凍冷蔵の冷媒の代替フロンなどにより温室効果ガスを排出しています。
  • 産業(2次産業)
    エネルギーの使用、原材料の創出を行う「工場」が約3割。そのうち、「セメント工場」は全体の約3%。石灰石と酸素に熱を加え、酸化カルシウムとCO2に分解することで、原材料となるクリンカを生成しているのです。「化学工場」は全体の5%強。原油由来のナフサを高温で分解する工程で大量のCO2を排出しています。「製鉄工場」は全体の7%強。高炉では、鉄鉱石から錆び(酸)をとるためにコークス(炭)を投入してCO2が排出され、転炉では、そうしてできた銑鉄(炭が結びついて脆い)から炭素をとるため、また酸素と結びつけてCO2が排出されています(もちろんこれらの工程で大量のエネルギーも用いられています)。
  • 運輸
    電気エネルギーを作り出す過程で二酸化炭素を生み出す「鉄道」は0.4%ですが、ガソリンやディーゼル燃料を燃やす(炭素に酸素を結合させる)「自動車交通」が約1割、「航空機」「船舶」がそれぞれ2%弱
  • 民生
    それを作り出す過程でCO2を生み出す電力・ガスエネルギーを大量に使用する「住宅」が約1割、「商業不動産」が6%超

そして脱炭素テクノロジーが求められているのは、温室効果ガスの「回収・固定」と「排出抑制」です。

温室効果ガスの回収・固定

温室効果ガスの回収・固定の方法は、「CCS(回収・貯蔵)」「CCU(回収・利用)」「CCUS(回収・利用・貯蔵)」などと言われます(「還元」して酸素を切り離せばいいのですが、例えば金属を結びつけてCO2を還元する場合、その金属を精製するのに結局エネルギーを使い、CO2を排出してしまいます)。

  • 植林・森林管理
    世界の植林ポテンシャルは9億ha(日本の面積の24倍)と言われ、実現すれば地球の森林面積は25%増え、大気中のCO2の25%に相当する200Gtを吸収できます。サハラ砂漠南部で国連、アフリカ連合、EUらによって2030年までに1億haを植林する「グレート・グリーン・ウォール」プロジェクトが進んでいます。
  • ブルーカーボン
    海藻(ワカメ、昆布等)、海草(アマモ等)、植物プランクトンなど海洋植物によるCO2吸収(「ブルーカーボン」)は、地球上の生物による吸収の55%を占めます。マングローブ林の育成や藻場の増床等が重要です。
  • バイオ炭
    農林漁業や食品の廃棄物などのバイオマスを無酸素・低酸素環境下で350℃以上の熱で分解して得られるバイオ炭(分解されにくい)を田畑に撒くことで、土壌にCO2を固定化するとともに、土壌の養分を豊富にして作物の生育を促進するものです。
  • バイオエコノミー
    CO2を吸収した植物を工業製品等の素材として活用するものです。
  • バイオミネラリゼーション
    バクテリアによって鉱物をつくるバイオミネラリゼーションによって、炭酸カルシウム(最も多い炭素の化学形態)としてCO2を固定する手法(外部リンク)などが研究されています。
  • 直接空気回収(DAC)
    大型換気扇で大気中のCO2を化学吸着するもので、現在、世界で15ケ所以上あると言われますが、動力エネルギーを再生可能エネルギー化等が必要です(海外事例(外部リンク))。
  • 工場等の排ガス等から選択的に透過する膜技術(キャリア活用ナノセラミック透過膜)や吸着固定材料の開発が進んでいます。

温室効果ガスの排出抑制(1次エネルギー・原材料)

幕末に神戸を訪れた外国人が「神戸の山には木がなくて丸裸だ」と驚いたと言われています。あるいは歌川広重「東海道五十三次」に出てくる山にも木がポツンポツンとしか描かれていないものがあります。徳川幕府が江戸にあるのも、奈良から京都に遷都されたのも、あるいはメソポタミアや黄河文明の跡が砂漠化しているのも、「木材」の伐採・枯渇が、原因の一つと言われているのです。19世紀にエネルギー源として「木材」が「石炭」にとって代わられ産業革命が起き、第1次世界大戦を契機に「石油」の時代となりました。日本でもペリー来航により木材から石炭へ、そして石油の時代を迎え、窮地に陥っていきました。

石油・石炭あるいは食料などの化学エネルギーのほか、光エネルギー(波長が短い方がエネルギー高い)、電気エネルギー熱エネルギーなど様々な形があり、同じ大きさで変換が繰り返されています(エネルギーの原則:3E+S(環境適合、エネルギー安定供給、経済効率性+安全性))。

世界の1次エネルギー消費量(2020年)は、石油31%、石炭27%、天然ガス25%、水力7%、再生可能エネルギー6%、原子力4%などとなっています。日本全体の電源構成(2018年)は、天然ガス火力38%、石炭火力32%、石油火力2%、その他火力5%、水力8%、再生可能エネルギー9%、原子力6%となっています。

世界の温室効果ガス排出量の3割を占める中国は、2015年時点で排出量100億tを超え、その6割を石炭が占める一方、世界の太陽光発電メーカーの上位10社のうち8社も中国で、風力発電量も世界一という、再生エネルギーの国でもあります。英国では2200基、ドイツでは1500基の洋上風力発電が稼働しています。こうした世界的な動きを受けて、2020年、一時的にエクソン・モービルを時価総額で上回った風力・太陽光発電の米ネクステラ・エナジー、再生エネルギーへシフトしている世界最大の売上高を誇る電力会社・伊エネルなど「グリーン・ジャイアント(再エネの巨人)」や小型原発のスタートアップ企業等が登場しています。一方、日本は、オイルショックを機に原発、太陽光に傾斜したものの、世界に先駆けてFIT(固定価格買取制度)を実施したドイツなどEUのメーカーに追い越されました。日本でも遅れること2012年にFITを導入したものの、買取価格が高額となり、イノベーションの芽が育ちませんでした(2022年4月からは、市場価格の変化に関係なく予め定めた固定価格となるよう、その隙間の額を発電事業者に補助していたFITから、補助額を一定とする(すなわち市場価格に連動して価格が変動する)FIP(フィード・イン・プレミアム)への移行が大規模電力から順次始まりました)。そして福島原発事故以降、LNGの輸入や高効率な石炭火力発電所の新設に目が向き、その間、太陽光発電の適地が徐々に少なくなり、風力発電の洋上建設は日本にもレノバというスタートアップ企業が登場していますが、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海洋の利用の促進に関する法律」が2019年に施行されたばかりで、浮体式なら日本の水深の深い海でも、風の強い沖合でも設置でき、大きな発電量が期待できるものの時間を要すると考えられます。そして今、原発に改めて脚光が当たっています。京都議定書が発効した2005年頃は世界の原発への期待が高まっていましたが、日本では福島事故時点で54基あった原発は、2020年度時点で36基まで減り、そのうち9基が再稼働しています。

  • 化石燃料は、燃焼させれば、つまり、酸素を結びつけて「酸化」させれば、エネルギーが取り出せますが、炭素の酸化物CO2が生じてしまいます。
  • そこで、再生(永続利用)可能エネルギーへの転換が必要です。

    (1)燃料
    二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から光触媒と種油を用いて作りだす「人工石油」(外部リンク)(石油:C8H18)や、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原材料として製造する石油代替燃料e-fuel」(外部リンク)や、北欧に次ぐ森林大国・日本の森林を資源に変える「常温木材溶解」(外部リンク)のほか、バイオマス燃料として、天然ガス、石炭、バイオマスなどを原料にし得るメタノール(アルコール)燃料、さとうきびやとうもろこしから作られるエタノール(アルコール)燃料、使用済み天ぷら油から作られるバイオディーゼル燃料、藻類から作られるバイオジェット燃料などがあります。
    --e-fuelは、CO2とH2を原材料とする、石油と同じ炭化水素化合物の集合体です。その製造工程は、(1)原材料製造:CO2は産業用の排気ガスや大気などから回収し、H2は太陽光や風力で発電した電力で水を電気分解して製造します。(2)合成ガス製造:CO2とH2を反応させ、合成ガスを製造します。(3)FT合成:合成ガスからFT(フィッシャー・トロプシュ)合成で合成粗油(ガソリンや灯油などを自由に製造できる液体)を製造します。(4)製品化:化石燃料でいう「精製」の工程にあたる作業で、FT合成で製造した合成粗油からガソリン、灯油、ジェット燃料、軽油、重油などの石油製品を製造できます。そして、e-fuelのメリットは、(1)環境負荷が化石燃料より低いこと、(2)資源国以外でも製造できること、(3)従来設備が利用できること、(4)エネルギー密度が水素や電動化より高いことです。
    --再生エネルギー由来のメタノールやエタノールから水素を取り出すことができるので、安全性やインフラコストが懸念されるような水素を高圧ガスの形で輸送・貯蔵するのではなく、エタノールなどの液体で輸送・貯蔵しオンサイトでその都度水素に変換する(その水素からe-fuelを製造する)という考えもあります。その際に必要となる水素(その他の気体・液体)を高効率で分離するナノセラミック膜を製造する企業が京都にあります。
    --光合成しながら移動し植物と動物の両方の性質を有す微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)を用いて、世界の課題解決に取り組んでいる尊敬すべき先行事例が出てきています。培養に関するプロセス改善、品種改良(突然変異、ゲノム編集)などの研究を着実に進められ、ユーグレナの栄養素豊富で細胞壁がなく吸収しやすい利点を活かして「食用」に【食糧問題】、あるいは、酸欠になるとエネルギーとして油脂を蓄積する仕組みを活かしてバスやフェリー、航空機等の「燃料」に【脱炭素】、あるいは、有機酸を含まない優れた有機肥料成分、医薬品としての価値すら見込める繊維成分、さらには宇宙での物質循環をも支えるものとして【素材(繊維、飼料、肥料など)】など、大きな可能性を示しています。
    --バイオスタートアップちとせは、藻類の光合成を活用した代替燃料の生産プロジェクト「MATSURI」を始動しています。

    (2)電力
    日本の年間発電量は約1兆kWhです。
    水力は低コストで発電量を大きく伸ばす余地があります。日本には高い山、大量の雨、そして多くのダム(鉄筋がないコンクリート(砂、石、セメント(石灰石))が岩盤に固定されており、壊れない)があり、年間の降水の位置エネルギーを全て水力発電に変換できたとすると、7,200億kWhになるという試算があり、電力需要の70%を賄える計算ですが、実際には900億kWhにとどまっています。河川法第1条の目的は、明治期は「治水」、昭和には「治水」と「利水」、そして平成には「治水」「利水」に「環境保全」が加わりましたが、貯水が多い方が望ましい「利水」と、貯水が少ない方が望ましい「治水」の矛盾する目的を目指す故に、「多目的ダム」は貯水量が半分になっており(特定多目的ダム法)、砂防ダムをじめ発電に使われていないダムが数多く存在しているからです。従って、小水力発電を、水源地のために興していくことが重要です。
    風力では、風車のサイズを大きくできる洋上風力を中心に欧州等でイノベーションが著しく、将来的には「着床式洋上風力も期だけでなく、「浮体式洋上風力」が主力になると見込まれています(風向きに左右されない風力発電装置開発スタートアップ企業(外部リンク)風力発電の効率化をサポートするスタートアップ企業(京都)もあります)。
    太陽光太陽光発電所の評価・買取サービス例(外部リンク))では、現在量産されている「シリコン系太陽電池」、「化合物系太陽電池」に匹敵する高い変換効率(特に低照度において高効率)で、軽くて曲がるためそれらの太陽電池とは違う箇所に設置でき、で、溶液の塗布、印刷といった製造プロセスにより大幅な低コスト化が可能な「ペロブスカイト太陽電池」(トヨタ自動車が充電不要のEV開発を目指す)や、製造コストはシリコン型の半分、重さは100分の1で材料も数十万種あると言われる「有機薄膜型太陽電池」、未利用エネルギー遡源である赤外光活用するための新規材料の開発(外部リンク)、「量子ドット太陽電池」、「宇宙太陽光発電」なども期待されています。
    地熱発電には開発リスク、減衰リスク、経済コストリスク等が伴いますが、アイスランドが先行する「超臨界地熱発電」(沈み込み帯の延性域(マグマに近い領域)では、プレートテクトニクスによって地下に引き込まれた海水に起因する水分が、マグマの周辺に高温・高圧(超臨界状態)で賦存していると考えられている)などの次世代地熱発電が模索されています。
    エネルギーハーベスト(環境発電。太陽光や照明光、機械の発する振動、廃熱などのエネルギーを採取し電力を得る技術)では電磁波利用、力学的エネルギー利用、熱エネルギー利用など注目されています。

    (3)
    地中熱(浅い地盤中に存在する低温の熱エネルギー)は、地中の温度は地下10~15mの深さになると、年間を通して温度の変化がなく、夏場は外気温度よりも地中温度が低く、冬場は外気温度よりも地中温度が高いことから、この温度差を利用して効率的な冷暖房等を行います。

    (4)原子力
    アインシュタインンの公式「E=MC2(質量とエネルギーの等価性)」に基づく原子力。
    --原理:原子番号(原子核を構成する陽子の数)が鉄より小さい原子の原子核(陽子・中性子)の質量は、原子番号が大きくなるにつれ小さくなるため、2つの原子核の「核融合」により質量が小さくなる分、エネルギーが生まれます。一方、原子番号が鉄より大きい原子の原子核の質量は、原子番号が大きくなるにつれ大きくなるため、「核分裂」により質量が小さくなる分、エネルギーが生まれます。
    --核分裂の仕組み:中性子を天然ウランの同位体(中性子の数が異なる)ウラン235にぶつけると核分裂が起こり、中性子数個とエネルギー(中性子の運動エネルギー)が生じ、その中性子がさらにウラン235にぶつかり、連鎖的にエネルギーが生じます(そのエネルギーを熱に転換)。そのため、それを制御することが重要ですが、時々事故が発生します(事故のリスクを小さく抑えられる「小型モジュール炉」の研究も進められています)。また、生じる使用済燃料のうち、再利用できない廃液の数万年という長期保管の問題もあります。なお、ウラン235やプルトニウム239の核分裂を起こすことで大きなエネルギーを取り出すのが原子爆弾です。
    --核融合の仕組み:水素(陽子1個)の同位体である重水素(陽子1個、中性子1個)と三重水素(陽子1個、中性子2個)を融合させ、ヘリウム(陽子2個、中性子2個)と中性子1個とエネルギー(中性子の運動エネルギー)が生じます(そのエネルギーを熱に転換)。しかし、核分裂のように反応が連鎖的に生じるものではなく、原子核を融合するために、「電磁気力」で原子核と結びついている電子を除去するためプラズマ化した上で、「強い核力」を有するものの、近距離でしかそれが及ばない原子核どうしを秒速1000km以上の高速でぶつけるために、数億度の超高温状態にする必要があり、反応は一度きりです。また、放射性物質・三重水素の半減期は12年であり100年単位で大きく減少します。なお、原子爆弾のエネルギーで、重水素と三重水素の核融合(ヘリウム4の原子核生成)を起こすのが水素爆弾です。ちなみに、水素爆弾と基本的には同じ仕組みで、弾頭の内殻をクロムやニッケルなどにして、核反応によって発生した中性子線が、周囲に放射されるようにしているのが中性子爆弾です。
    --核融合の種類(1)磁場核融合方式(外部リンク):数億度の超高温では、容器自体が蒸発するため、磁場の力で、水素の原子核を空中にとどめる方式で、「トカマク型(磁石でプラズマを閉じ込め、プラズマ自身をねじれさす。ITERはこの方式)」「ヘリカル型(磁石でプラズマを閉じ込め、最初からコイルをねじっておく)」があります。(2)レーザー方式(外部リンク):レーザー照射で加熱して核融合を起こす方式です(容器がその都度高温で焼失、レーザー照射回数などの課題があります)。(3)常温核融合方式(外部リンク):以上のような水素と水素が融合してヘリウムになる反応ではなく、3つ以上の複数の水素原子が同時に関与する多体反応(生成物は核種変換を経て複数の元素になる)によるもので、ナノサイズの構造を持つニッケルベースの複合金属材料に少量の水素を吸蔵させて数百℃程度の加熱をすると、投入した以上の熱(水素燃焼による化学反応に比べれば1万倍)を生み出せる技術(凝縮系核反応、低エネルギー核反応、金属水素間新規熱反応)
    --核融合のメリット:CO2を排出せず、身近な海水を利用でき、水素1gの核融合で得られる熱エネルギーは石油8t分という「夢のエネルギー」です。

温室効果ガスの排出抑制(2次エネルギー)

日本、関西・京都はバッテリー開発に強い地域であり、現在もEVに関連する多くの企業が集積しています。

  • 電力網・VPP
    増加する太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電は、天候や気温など、自然の影響を大きく受けるため、発電量が大きく左右されることが避けられないという面があり(発電)、電気を直接貯めることができる蓄電池、電気自動車などの普及(蓄電)、家庭や企業のIoT化の発達(消費電力)も見込まれるため、大規模な発電所の代わりに工場・ビル・家庭など点在する複数の小規模な発電設備や蓄電設備をIoTでまとめて集約し、遠隔制御することで、1つの発電所のように機能させる「VPP(Virtual Power Plant・仮想発電所)」の構築が重要となっています。既に京都においても、電力監視システム電力予測システムに取り組んでいる企業があります。
    そして再生可能エネルギーの電力需給のバランスはもちろん、交流電力網から直流製品への転換に必要なコンバータ直流電気(太陽電池等)から交流電力網・交流EV用モーターへの転換に必要なインバータなども含め、より全体効率化を図るスマートグリッド(電力・情報統合ネットワーク)の構築も大きなテーマとなっています。
  • 2次電池
    発電量が変化する再生エネルギーから転換された電気の蓄電に、2次電池の需要がますます高まっています。
    電池とは、「電気(電子)が詰まってる」のはなく「発電する」ものです。負極の材料は、電解液に溶けやすい金属にして、溶けてイオンになる分、電子が導線を伝って正極に移動します。正極の材料は電解液に溶けにくい材料で、導線を伝わってきた電子は電解液(イオン)と結びつきます。こうして正極の電子がすぐに消費されるので、また負極から電子が移動してくるのです(「電池」では、イオンになりやすい方の金属が「負極」に電子を残して溶けだし、電子は負極から導線を通って「正極」へ移動し陽イオンと結びつき、「電気分解」では、電池の「負極」から導線を通ってくる電子が「陰極」で陽イオンと結合し、陰イオンは「陽極」に電子を渡します)。そして、イオンになりやすさ(イオン化傾向)が「電圧」を決めるものです。また「2次電池」の充電は、外部エネルギー(コンセントにつなぐなど)によって、こうした放電とは逆の動きをさせるものです。
    塩をよく溶かし、溶解したイオンが速く動くので、電解液に水を用いる「水系電解液」(液体のままでなく、紙にしみこませたものは「乾電池」)は、水が1.5Vより大きな電圧では水素と酸素に電気分解するため、「小型(電気を蓄えるための必要な体積(体積エネルギー密度)が小さい)」「軽量化(重量エネルギー密度が小さい)」、すなわち高電圧化に不向きです。そこで、「非水系有機電解液」として、「1次電池」では金属リチウム電池が、「2次電池」ではリチウムイオン電池が開発されました。リチウムは、金属で最大のイオン化傾向を持ち(高電圧)、軽い元素である(軽量化)ため、特にリチウムイオン電池は、携帯電話に、これからはEV(ガソリン車が給油1回で600km以上に対し、現行では充電1回で2~400km)に用いられます。
    リチウムイオン電池は、負極にカーボン、正極にコバルト酸リチウム(セラミックの一種)が用いられています。スーパーのレジ袋などに使われるポリエチレンは、「単結合」(隣り合う分子が互いに電子を1つずつ出し合っている。)のみの安定的な「シグマ結合」で電気は流れませんが、カーボン、中でも一般的なグラファイトは、「二重結合」(2つずつ)と「単結合」が交互となっているような不安定な「パイ結合」で、電気が流れやすいのです。「化学電池」に位置づけられますが、化学反応は使っておらずサイクル寿命が長いです。
    こうしたリチウムイオン電池を世界に先駆けて商品化した日本は、電池メーカーのほか、負極材(グラファイト。最近はシリコンを混ぜる研究が進む)、正極材(コバルト酸リチウムやニッケル・コバルト・マンガン酸リチウムなど)、セパレーター、電解液などのメーカーが多数存在し、京都にも、エンジンスターター鉛電池に加えEV用リチウムイオン電池の生産を始めている企業(外部リンク)負極材の開発や鉛蓄電池とのハイブリッドなど斬新な電池の開発を進める企業もあります。しかし、2000年頃は小型タイプのシェアの大半が日本であったものの、今や中国が世界の7割を占め、特に車載用では中国・韓国勢が主流となっています。そんな中、京都には、EV向けバッテリー検査装置で世界で高いシェアを誇る企業や、交流モーターが主流となっているそうしたEV向けに世界初の交流(高電圧、大容量(電力(電圧×電流)×時間))リチウムイオン電池を開発するスタートアップ企業も生まれています。リチウムイオン電池の改良は様々続けられており、負極材料に従来のリチウムイオン電池で使われてきたグラファイト(トラブルの際に発火の可能性あり)ではなくチタン酸リチウムを用いた電池(安全性が高いため急速充電スピードが速いなどの特性あり)(外部リンク)なども開発されています。こうした開発の先の本命は全固体電池と言われています。電解液が固体(故にセパレータも不要)で、安全性が高く(リチウムイオン電池の電解液は可燃性有機化合物を使用)、温度変化に強い(安全性に懸念がある有機化合物を含まない)という特性があり、電解質の材料は主に硫化物系(イオン伝導度が高く、EVなど大容量向けだが、硫化水素の発生可能性など安全性が課題。マクセルが京都で量産を進めるほか、国内自動車作業会では2027年、28年頃に本格導入と言われており、トヨタ自動車も本格参入)と酸化物系(イオン伝導度が低く、スマホなど小型デバイス向けだが、高温焼成で電解質と活物質を接合する必要がある。村田製作所が野洲で量産を進めると言われている)があります。また、全樹脂電池(京都の関連企業(外部リンク)が開発を進めています)も有望で、正極、負極に樹脂を用いているだけでなく、電解液もゲル状樹脂のため発火の可能性がなく安全である上、電流が電極の厚み方向と垂直な方向に流れるハイボーラ構造を構築できるため、余分な配線不要で、電池セルをそのまま重ねことができ、コンパクトな構造を実現できます。さらに、埋蔵量が豊富なナトリウムイオン電池カリウムイオン電池の研究(水素、リチウムと同様、元素周期表の最左列(アルカリ金属)であり、課題は軽量化)や、リチウムイオン電池の充電回数や時間等の面の制約を補い代替するものとして、物理現象によって瞬時に充放電が可能で、それによる劣化が少ない物理電池であるキャパシタも、EV業界からは引き続き注目がなされているところです。さらには、EVの消費電力の多くを占めるエアコンの省エネ冷媒の開発など周辺技術の向上も進められています。
  • 水素燃料電池(固体高分子型燃料電池(PEFC))
    燃焼してもCO2を生み出さない水素の酸化を活用してエネルギー(ここでは電気)を生み出すものとして、水素燃料電池(発電)があります。水素と酸素の混合ガスに火を付けると、水素から電子が飛び出すことにより水素イオンになります。そして電子は酸素と衝突し酸素イオンができます。すなわち、負極で水素が電子と水素イオンに分かれ、正極で導線を通った電子と電解液を通った水素イオンと酸素が結合(水が生成)するものです(石油化学や鉄鋼業等での副生水素を「グレー水素」、それに回収固定装置を付けた「ブルー水素」、再生可能エネルギーを用いて生成する「グリーン水素」など様々な呼称があります)。
    水素自動車(燃料電池車/FCV)は、タンク内の水素と空気(酸素)で、H2Oを排出しながら電気を生み、それでモーターを回すものです。まだ、通常のガソリンスタンドが数千万円なのに対し、水素ステーションは何億円かかるため、現在はルートが決まった路線バス等への導入が現実的ですが、将来期待されるものです。ただし、EVもそのものからCO2が出なくとも、動力となる電気を化石燃料でまかなっているとすれば、効果が乏しいということになります。また、水を水素と酸素に分解する光触媒シートを太陽光に当てて水素を取り出し(グリーン水素)、FCVに活用するする研究も進められています。
    水素船では、航行しながら洋上風から水素を作るもの(外部リンク)が登場してきています。
    エネファームは、既に普及が進む、都市ガス・LPガスから水素を取り出し、空気中の酸素と水素が化学反応を起こすことで発電を行い、それと同時に排熱を利用してお湯をつくり出す家庭用燃料電池です。
  • 固体酸化物型燃料電池(SOFC)(外部リンク)
    燃料タンクに補給されたバイオエタノールから改質器で水素を生成し、SOFCスタックで水素と空気中の酸素を反応させて発電させるので、高圧の水素燃料タンクが不要であり、高温で作動するので、希少金属などの高活性な触媒を必要としません。
  • 水素エンジン
    燃焼してもCO2を生み出さない水素の燃焼反応により生じるエネルギーを利用する内燃機関です。ガソリン車と異なり、ガソリンの代わりに水素を燃料に、生成物は水とCO2ではなく水だけとなります。ガソリン車のノウハウをある程度使うことができるメリットもあります。
  • 水素サプライチェーン
    水素の「利用」は、このような民生用のFCV、エネファームのほか、産業用の半導体・ガラス・食品製造等での活用、さらには発電用の水素タービンによる発電用などがあります。
    輸送・貯蔵」は産業ガスメーカーによる液化や、水素ステーション(水素製造付きオンサイト、無しオフサイト)などがあります。
    製造」は、石油化学メーカーにおける製造鉄鋼メーカーにおける副生、あるい運輸船(常温、液化)などがあります。(1)蒸気改質法(化石燃料水蒸気改質法):石炭や天然ガスなどの化石燃料を水蒸気と反応させて水素を製造(大量生産可能だが、化石燃料を使用)、(2)電気分解法(水電解法):水に電気を流して水素と酸素に分解(電気代がかかる)、(3)生物由来水素製造法(バイオマス水素製造法):廃棄物やバイオマスから水素を製造(環境負荷が小さいが、原料の確保が課題)、(4)パルスレーザー海水分解法【未実用化】(外部リンク):海水にパルスレーザーを照射して水素と酸素に分解(海水のため環境負荷が少なく、大量生産可能で、製造コストも小さい)、(5)その他水素吸蔵合金水素化マグネシウム(外部リンク)水素吸収化合物・触媒(化学反応エネルギー低減)(外部リンク)など、様々な新技術が研究開発されています。
    原料」は、原油(ナフサ)天然ガス(LNG)、あるいは海外の褐炭などです。
  • アンモニア(外部リンク)
    分子に炭素を含まず(燃焼時にCO2を発生しない)、エネルギー密度が高くて(肥料、燃料などのエネルギー媒体として有効)、液化が容易(輸送・保管コストが低い)
  • メタネーション
    (水素)+(酸素)ではなく、(水素)+(二酸化炭素)から都市ガス(メタン)を生成するメタネーションへの期待も高まっています。ガス田から採取した天然ガスではなく、再生可能エネルギーで作る水素と、工場等から回収した二酸化炭素で作ることで、カーボンニュートラルを目指すものです。
  • エレクトロヒート(電気加熱)
    ヒートポンプのほか、抵抗加熱、アーク・プラズマ加熱、誘導加熱、誘電加熱、赤外・遠赤外加熱、電子ビーム加熱、レーザ加熱などで、加熱に際して酸素を必要とせず、作業環境の改善だけでなく二酸化炭素の排出量を少なくするとともに、高効率(加熱材の被加熱部分を直接、加熱し、不必要なエネルギー消費が軽減できるため加 熱効率が高い)、局所加熱(高周波焼き入れのように、処理に必要な表層部分だけを加熱できるなど、必要個所を必要温度で加熱することができる)、急速加熱(被加熱部分を短時間で加熱でき、製品の生産性を高めることができる)、雰囲気加熱(不活性ガスや真空中での加熱が可能で、加熱材の酸化防止と、品質や歩留まりの向上が図れる)、高温加熱(金属の溶解・焼結、炭素の黒鉛化など高温加熱に優れている)など、産業イノベーションにも貢献するものです。

温室効果ガスの排出抑制(エネルギー・原材料消費)

リニアエコノミー(直線型経済)から、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への転換が重要です。食品ロス(食品ロスの削減の推進に関する法律、2019年)や脱プラスチック(京都府プラスチックごみ削減実行計画、2020年)などの制度が始まっています。まず、産業部門です。

  • 農林水産分野
    「化学肥料」は土壌で分解(発酵・腐敗)されると一酸化二窒素になってしまうため、化学肥料や農薬を用いないリレジェラティブ農業を指向する動き(化学肥料ではなく生物から肥料を作る動き)、「もみ殻」も土壌中で分解されればCO2になってしまうため、予め炭化した「バイオ炭」を用いてCO2になる量を減らす(土壌に貯留する量を増やす)研究、稲わらなどの穀物の「藁」や家畜の「排せつ物」も分解されるとメタンガスが発生するため、昆虫を使って素早く分解する研究が進められています。畜産においても、牛やヤギなどの反芻動物のげっぷにも大量のメタンガスが含まれるため、げっぷが出にくい成分を飼料に混ぜる研究等が進められています(農家の気候変動対策支援スタートアップ企業(外部リンク)など様々なアグリテック企業(外部リンク)が生まれています)。
  • 建設分野
    セメント生成に使用する石灰石を最小限に抑え、コンクリート焼成時に水に替わりCO2を使用・固定化する技術を米国スタートアップ企業ソリディア・テクノロジーが確立しました。また、CO2とカルシウムを合成した炭酸カルシウムでコンクリートを作る技術(外部リンク)を大成建設は確立しています。
  • 食品分野
    米インポッシブル、ビヨンドなど「代替肉」「培養肉」に関するスタートアップ企業も登場してきています。京都でも、サプライチェーン全体でのタンパク質使用量軽減を目指し、ゲノム編集魚の開発(外部リンク)コオロギなどの昆虫食の開発が進んでいます。
  • 繊維分野
    服一着作るのに排出される平均的なCO2=25kgは、500mlのペットボトル250本を作るのと同じであり、水消費量2,300lは浴槽11杯分と同じです。しかも製品の3分の2が焼却処分によってCO2を排出しているのです。洋服がライフサイクル全体の中でどれだけのCO2を排出しているのかを表示する「フットプリント」や、CO2排出や水消費、大気汚染など数千項目に及ぶ「EP&L(環境損益計算書)」などの取組が始まっています。あるいは、川上から川下まで異業種30社が集まる「アライアンス・フォー・ザ・ブルー」でも廃棄魚網からリサイクルした生地で製品開発する例など、企業どうしの共創も生まれてきています。
  • 化学分野
    自家発電ボイラーの燃料を石炭から天然ガスへの転換、マテリアルレベル(数回リサイクルすると廃棄せざるを得ない)ではなくケミカルレベル(ポリマー(分子の鎖)をばらして再構成)、原子レベル(酵素の力で再構成)のリサイクル技術の開発に加え、「第5次産業革命」ともいわれるバイオファウンドリー(遺伝子改変生物×AI/IoTが注目されています。
    特に植物は注目されています。35億年前、植物による光合成が始まって以来、地球上の酸素が光合成で作られているということのほかに、葉に当たる僅かな太陽光をエネルギー源にし、大気中にわずか0.04%しか存在しないCO2を還元し糖分に変換しているということが重要です。具体的には、太陽エネルギーと、葉緑体に含まれるタンパク質複合体「PSII」の触媒機能により、水が酸素(放出)・水素イオン・電子に分解されます(「明反応」)。蓄積された水素イオンの濃度差がエネルギーとなって生じる物質ATPと、電子を蓄える物質NADPHにより、CO2から糖質を作ります(「暗反応」)。化学プラントに見られるような、高温も高圧も必要とせず、幹や根、花や実を作り出しています。この仕組みに倣う「人工光合成」の研究では、植物のように葉緑素を利用するもの、人工的に改変したタンパク質を活用するもの、半導体と分子触媒を用いた完全に人工的な系など、アプローチは多岐にわたっており、植物が主に作る化合物は、ブドウ糖を連結させたセルロースやデンプンなどですが、植物が作れない化合物を作ることも可能となります。
    京都にも海洋性光合成細菌由来・CO2固定バイオプラスチック工業用トウモロコシ由来生分解性ポリ乳酸鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を持つセルロースナノファイバーの機能向上(外部リンク)などの開発を行うスタートアップ企業が登場しています。地球上には数百万種とも言われる生物種が存在していると言われますが、まだまだ自然には未解明の機能が底知れず眠っており、その有効活用を図るネイチャーテックによって、四季折々の豊かな自然を抱える日本は、まさに世界一の資源大国と言えるかもしれません。
  • 金属分野
    2021年には、鉄鋼連盟も、業界トップの日本製鉄も2050年のカーボンニュートラルを宣言しました。高炉の排気口にCO2を回収・固定化するためのCCUS装置を取り付ける方式や、コークスの代わりに水素を用いる研究や電子をぶつける研究が進められています。あるいは、鉄スクラップを原料として不純物を取り除く方式である「電炉」への転換にも着手されています。国内では電炉メーカーも少ないこと、鉄スクラップの調達コストがかかること、再エネが未普及であること、自動車向けの高級鋼の品質確保の観点などから、コークスを用いる「高炉」が主流です。
  • 機械加工・製造分野
    高効率・高輝度な次世代レーザーの開発による省エネ、空調と高性能生産設備の稼働のために多くの燃料と電気を要する半導体製造工程の省エネなどが必要です。
  • 電子電気分野
    かつて日本がトップランナーであった多くの技術が、徐々に地位を失いつつある中で、セラミックコンデンサでは、材料を原子レベルで制御して小型化しエネルギー使用量を減らそうという試みも始まっています。
    また、冷媒においては、オゾン層破壊効果があると指摘されたCFCやHCFCに代わる代替フロンHFC、PFC、SF6には温室効果が指摘されたものの、ダイキン工業は再生HFCを提案し欧州で認められています。一方で、ノンフロンと言われるCO2、アンモニア、HFCを活用する研究が進められています。
  • 情報産業分野
    データセンターへのAI導入で電力消費量を大幅削減する事例が生まれているほか、超電導状態で動作し電気抵抗がゼロで廃熱を出さない量子コンピュータの導入を目指す動きもあります。

次に運輸部門です。

  • 交通・運輸分野
    海外(オフロードEV開発企業(外部リンク)充電ステーション開発企業(外部リンク)電気航空機開発企業(外部リンク))に負けじと、京都でもEVトラックの開発を進めるスタートアップ企業(外部リンク)も生まれてきています。

    (1)燃料
    陸上では、EVスクーターは既に世界中で普及していますし、EV大型バスは中国BYDなどがアメリカ大陸や欧州で販売し、EVトラックはテスラやボルボ、ダイムラーなどが開発を進めています。Uberでは、シェアによる排出量削減を謳っていたものの、電車や徒歩からUber利用へのシフトで排出量が増加してことが判明しいたため、2030年までには北米・欧州の車両を全てEVに切り替える計画です。
    海上では、バイオエタノールで運行する長距離航路を運航する計画もあります。
    では、ボーイングがバイオ燃料による航空機の開発を、エアバスが水素燃料による航空機の開発を、それぞれ進めています。

    (2)軽量化
    材料開発(素材の高強度化、部材の軽量化)、接合・接着技術(構造解析、信頼性評価)、設計(最適構造設計・信頼性設計)による軽量化の追求が重要です。

そして、民生部門です。

  • 商業不動産分野
    2018年に日本の小売業で初めて「脱炭素ビジョン2050」を公表したイオンは、再生可能エネルギー100%での事業運営を目指す国際イニシアティブ「RE100」に参加し、グループ全体で日本の総電力の1%分に相当する国内最大の需要家が再エネ100%を目指すという大きなインパクトを与えました。固定価格買取制度の期間満了で売り先がなくなった個人宅の発電を買い取りWAONポイントで還元する仕組み、EVに貯めた電気買い物中に店舗で放電しいてもらいポイント還元する仕組みなどで再エネをかき集め、一部店舗で再エネ100%を実現しています。
    世界シェア5割を誇るソニーのデジカメやスマホに欠かせない、「CMOSイメージセンサー」の製造には、クリーンルームでの24時間操業に膨大な電気が必要で、工場の屋根の上の太陽発電だけではまかなえないため、電力会社が開発した予測技術(転機に発電量が左右される再エネを、発電量と消費量が一致しなければならない既設の送電網につなぐのに必要)を利用することで、他工場から電力を融通する仕組みが実現できました。
  • 建築分野
    ゼロカーボンの住宅「ZEH」やビル「ZEB」の推進のほか、鉄材、セメント、コンクリート生産時のCO2排出が大きい鉄筋コンクリート造に代わって木造が見直されています。

温暖化と冷凍技術

温暖化の元となる太陽の熱は、真空の宇宙空間で伝導や対流などにより直接伝わるわけではありません。

  • 伝導:物体どうしが接触して熱が伝わる方法
  • 対流:物質自体が移動することで熱が伝わる方法
  • 放射(輻射):光・電波などの電磁波を介して熱が伝わる方法

そもそも、温度は「分子の動きの激しさ」の平均であり、例えば水の蒸発では、液体の水のうち、動きが速い(高エネルギー=高温)分子が飛び出し、気体になります。一方、空気中の気体の水のうち、動きが遅い(低エネルギー=低温)分子が、液体になります。例えば洗濯物を干す間も常にこの両方が起こっています。そして、この両方が同じ量で起こるのが沸騰(水の場合100度)であり、凝固(水の場合0度)であるわけです(塩水の場合、液体の水側に塩分子がある分、液体の水分子が固体になる邪魔になるため、凝固点が下がります)。

そして、固体が液体になる時は「融解熱」を吸収(液体が固体になる時は「凝固熱」を放出)し、液体が気体になる時は「蒸発熱(気化熱)」を吸収(気体が液体になる時は「凝縮熱」を放出)するため、分子の総数は変わらずとも運動の激しさが増して体積が大きくなるのです(なお、固体のをいくら熱しても、融解中の液体の水が熱を吸収するため0度以上になりません(もちろんは0度以上になります)し、液体のをいくら熱しても、蒸発中の気体の水が熱を吸収するため100度以上になりません(もちろん水蒸気は100度以上になります))。エアコンの場合、室内機と室外機を結ぶパイプの中を「冷媒(熱を運ぶ媒体。エアコンならジフロオロメタン)」が行き来し、冷房の場合、エアコンプレッサーによる膨張と圧縮による「ヒートポンプ」サイクルを生み出しています(以前は、冷媒として安定的な物質であるフロンが使われてきましたが、太陽の紫外線を守るオゾン層を破壊することがわかり、使用が控えられてきました)。

  • 冷媒が室内機を通る時に、液体から気体となって蒸発熱を奪うことで、冷房となる。
  • 冷媒が室外機を通る時に、気体から液体となって凝縮熱を放出し、熱い空気が排出される。

計算上、マイナス273度の時に体積はゼロになります(摂氏温度は1気圧で水が氷る温度を0度、沸騰する温度を100度と定めたものですが、絶対零度マイナス273.15度が0K(ゼロケルビン)です)。中でもヘリウムは、マイナス268.9度(4.2K)が沸点(凝縮点)で、液化が最も難しい冷媒です(分子の中で電子の位置に偏りが生じた場合に、電気の偏り(極性)が生まれ、それが他の分子との結びつき「分子間力」となりますが、それがヘリウムは極めて小さく、分子間力を絶つのが困難)。こうした超低温の世界では、電気抵抗がゼロになる「超電導」により、非常に強い電流を流すことができ、結果として強力な磁石となります(リニアモーターカー、MRIなど)。

脱炭素経営

中小企業の脱炭素経営は、CO2排出削減(地球)、資源対策(社会)、経営革新(産業)の推進です。固定費(自社加工、人材、設備)を有効活用し、変動費(材料費、外注費)を減らし、付加価値(売上―変動費)を高めることが重要です。よって、固定費・変動費の内訳の把握から、資源・エネルギー使用量、CO2使用量の換算を行うことで、事業の選択と集中(付加価値/資源・エネルギー消費の大小)を図る必要があります。

これまでから京都府では、環境部局や京都市とも連携し、(一社)京都知恵産業創造の森・スマート社会推進部を核として、スマート製品等の開発支援を行ってまいりました。

ゼロカーボンものづくりによるゼロカーボンまちづくり「ZET-velley」

さらに現在、「石油から空気へ、地方が最先端へ、制約から拡張へ」をコンセプトに、「ゼロカーボンものづくりによるゼロカーボンまちづくり(地産地消型社会への転換)」を目指したZET-valley構想を推進しています。

カーボンニュートラル実現のため、エネルギー調達だけでなく原材料調達から消費行動に至るサプライチェーン全体を変革し、地産地消型社会への転換を進めていく必要があるため、EV・バッテリー・バイオものづくりなど京都産業が世界的競争力を有する分野を中心に、国内外のスタートアップ企業・事業会社にも参画いただき、革新的な「ゼロカーボンものづくり」技術を創出するとともに、地方自治体や公共交通機関等と共に「ゼロカーボンまちづくり」の実装に繋げていく取組です。

そこでは、脱炭素時代において不可欠となる「カーボンプライシング」を想定してテーマを設定しています。
カーボンプライシングの目的は2つです。まず1つは、事業者にCO2排出を減らす工夫・努力を促す「インセンティブ・デザイン(ゼロカーボンものづくり(企業のイノベーション))」です。すなわち、LCA(製品ライフサイクルの環境負荷評価・測定)、カーボンフットプリント(CO2排出量の表示)に関わる部分です。

  • スコープ3(燃料採掘、原材料製造、製品運搬・使用・廃棄):リサイクル等の対策が必要
  • スコープ2(消費電力):再エネ活用等の対策が必要
  • スコープ1(事業者の排出源からの直接排出):カーボンオフセット(相殺)、カーボンリサイクル(CO2回収・固定・利用)等の対策が必要
    なお、カーボンフットプリントの大きいのは次のものなどです。
    --軽量化材料:マグネシウム、アルミニウム合金、炭素繊維強化プラスチック
    --EVモーター磁石材料:ネオジム、ジスプロシウム
    --EVバッテリー:リチウムイオン電池材料

もう1つは、事業者や消費者が炭素の価格を見て、CO2を削減する行動を選択するということを促す「価値の外部性(ゼロカーボンまちづくり(社会の変革))」です。

そして、カーボンプライシングの手法は、様々あります。

  • 炭素税:化石燃料の炭素含有量に応じた課税
  • 排出量取引:CO2排出量に応じた価格付け
  • 国境炭素税:グリーン関税
  • その他:民間セクターによるクレジット等

京都の産業集積、スタートアップ企業の集積に加え、こうしたカーボンプライシングを鑑み、まず「ゼロカーボンものづくり」については、LCAのスコープ3、2、1を想定してテーマを選定しています。

  • EV
    輸出対象国のEVニーズの増加(日本の自動車生産台数(2020年807万台)のうち約半分(374万台)が輸出、その半分が欧米中というEV化が急速に進む地域への輸出である)、地方のSSの廃業増加(老朽化したタンクの入れ替えよりも急速充電器導入の方が低コストである)などを背景として、CASE追求(「カーOS」等)による鉄道化」等が新しい形としてあり得ます。
  • バッテリー
    欧州の動き(スコットランドが、北海の原油採掘よりも洋上風力発電の方が雇用創出・経済貢献が大きいこと、地元住民のエネルギー消費を風力発電で賄えることがわかり、脱炭素政策に舵を切りましたし、「欧州電池指令」では、電池の製造ライフサイクルの各段階でのCO2総排出量や、第三者検証機関の証明書を含むカーボンフットプリントの申告を2024年7月から義務化されます)などを背景として、「電池のサーキュラーエコノミー(充電状態SOC、劣化状態SOH)」「車から住宅へ(V2H)、車からインフラへ(V2I)、車からグリッドへ(V2G)等が新しい形としてあり得ます。
  • バイオものづくり
    LCA・カーボンフットプリントを低減させるためにも、ガソリン車(部品点数3万点)からEV(2万点)へのシフトに伴う雇用吸収力の減少を補填するためにも、「脱石油のものづくり」等が新しい形としてあり得ます。

なお、バイオものづくりの代表的プロジェクトとして「ゼロカーボンバイオ産業拠点事業」に取り組んでいます。そのメインは、海洋性紅色光合成細菌(海水のミネラルと太陽光によりCO2と窒素を固定)は、CCS(貯留)、CCU(利用)に比べて、CO2の分離が必須でなく、高分子の生産も可能である反面、効率の定量化、大規模化の技術確立、産業化事例の創出が課題であり、それらの課題を克服するための農業、水産業、伝統産業におけるゼロカーボンものづくり技術開発です。さらに林業におけるゼロカーボンものづくり技術開発も進めます。「獲る漁業から育てる漁業に傾斜していく水産業では増加する飼料の脱炭素化は重要性が増す」「海外に人気の高い茶の製造において脱炭素化は不可欠である」「プロセスエコノミーへの関心が高まる伝統工芸などでは脱炭素化は付加価値に直結する」など、ゼロカーボンバイオ技術の導入による付加価値への期待が大きい一方、量産技術の確立による低コスト化が今後不可欠な課題です。

  • 光合成細菌の培養等京都舞鶴の海水からの紅色光合成細菌の単離(新株含む)、紅色光合成細菌の効率的な培養技術の確立(4000Lスケール、人工光照射と海水条件での培養に成功)、全有機体炭素計(TOC、島津製作所)による正確・高速なCO2固定定量化の確立と知財化
  • 魚粉代替飼料の作成(「光合成細菌、プランクトン、小魚、飼料用魚」から「光合成細菌、飼料」へと飼料製造サプライチェーンの劇的短縮):紅色光合成細菌由来の飼料作成(集菌、淡水化、破砕、乾燥、造粒・整粒、加工)、メダカ給餌試験の成功(14日間)、紅色光合成細菌への経口ワクチン(抗原タンパク質)の発現
  • 窒素肥料の作成:紅色光合成細菌由来の肥料の作成(集菌、洗浄、破砕、凍結乾燥、粉末加工)、小松菜生育試験の成功(35日間)
  • 世界初の水系繊維の作成:クモ糸シルクタンパク質の生成(ジョロウグモのシルク成分MaSpタンパク質をコードする遺伝子を最適化し、発現用遺伝子ベクターに挿入した後、紅色光合成細菌内に導入することで、細菌内でクモ糸シルクタンパク質を発現。10L量の連続培養による安定生産の上、集菌、破砕、抽出生成により高純度のクモ糸シルクタンパク質を生成)、人工タンパク質と混合し紡糸に成功
  • さとやまコンビナートの実装:森林はCO2を固定化するが、一定の樹齢を超えると吸収力が減退するため、生産・伐採のサイクルを繰り返すことが重要であり、そのためには市場を維持・拡大する必要があるため、遺伝子技術を用いて高付加価値木材の開発をめざす。

そして「ゼロカーボンまちづくり」については、交通、エネルギーマネジメント、衣食住・働き方等について革新的なまちにしていくことです。

  • 交通革命:電動スマートモビリティ、バッテリー交換・リサイクル、等
  • エネルギーマネジメント革命:未利用光(赤外光)活用発電、核融合型原子力、等
  • 衣食住・働き方革命:ZEB/ZEH、リモート・アバターロボット、SDGs、等
  • カーボンプライシング:CO2回収・固定・活用技術開発(ゼロカーボンものづくり)の先導、等

引き続き、ゼロカーボンものづくりの研究会(産学)、ゼロカーボンまちづくりの勉強会(公)、国内外のスタートアップ等との交流を図るサミットを進め、シーズ・ニーズ双方のスタートアップ企業や事業会社を同時多発的にマッチングすることで、新産業創出を加速していきたいと考えています。そのためには、インキュベーションや交流拠点を整備して、多くの脱炭素関連企業等の集積を図ってまいります。

施策

(その他参考:2025年度京都府当初予算)
  • 脱炭素行動促進事業(事業者向け:条例義務量を超えた太陽光発電設備設置への補助、家庭向け:ZEH住宅建築補助、エアコン・冷蔵庫購入ポイント還元)

 

施策実施状況

ZET-valley

府内の脱炭素関連スタートアップ企業数:58社(2024年2月末)

  • 協定締結(産業振興、企業マッチング、インフラ整備に関連する団体):オープンイノベーション、共創プロジェクトの創出・事業化、企業・拠点誘致、情報発信
  • オープンイノベーション「Summit」2022年度は、トークセッション20、スタートアップ企業ピッチ41名、スタートアップ企業展示15社、事業会社ピッチ7社、交流会100名の規模で開催し、10か国3,574人(リアル500人)が参加、619件のビジネスマッチングを実施(バッテリー開発企業×EV車体開発企業、分離膜開発企業×分離技術市場展開企業、インクジェットプリント基板開発企業×電子機器メーカー等、ブロックチェーン活用CO2取引プラットフォーム開発企業×森林計測技術企業)。2023年度は、トークセッション20(スタンフォード大学のリチャード・ダッシャー教授、TDK会長、ニチコン会長など)、スタートアップ企業ピッチ31名(「アワード」創設(技術優位性、成長性、投資対象としての有望性)。大賞:米国--多くのCO2を排出して生成されてきたアンモニア(燃料・飼料等)を、グリーン水素と窒素から生成、ATR賞:日本--電力の海上輸送を実現するために、電力を変換して貯めておくキャリアとなる液体材料を開発、Global Deeptech賞--日本:多くのCO2を排出して製造されてきたプリント基板を、金属インクジェット印刷で製造することでCO2排出量を・製造コストとも大幅削減、Global Innovation賞--英国:排出量取引の精度を高めるための、機械学習による評価システムの開発)、スタートアップ企業展示22社、交流会100名の規模で開催し、12か国3,000人が参加(日本、米国、メキシコ、英国、フランス、スペイン、ドイツ、スイス、イスラエル、エジプト、ナイジェリア、エチオピア)。
  • プロジェクト創出「研究会・college」
    --研究会:15件、補助金プロジェクト19件。EV:局面形状太陽電池開発企業が大手自動車メーカーと共同開発、ドローン向け風向完成システム開発企業がNASAの規格策定に参画。バッテリー:バッテリー開発企業が高圧電線からの幹線工事不要のEV急速充電ポート(中古バッテリーを取り付けることで一般家庭向け電線から少しずつ電気を貯めておく)を開発し向日市で実装化。バイオものづくり:光合成細菌のCO2・窒素固定機能を用いて人工シルクや肥料等を生成する「空気の資源化」(JST「共創の場・本格型」採択)
    --College:日本の自治体事例、世界の都市事例、世界の脱炭素テック事例(2022年度:3回・305名、2023年度:2回予定)
京都知恵産業創造の森
  • ICTビジネス相談窓口:2019年度~累計78件(受発注支援システム、など)
  • 中小ものづくりDX推進アドバイザー派遣事業:2022年度3件、2023年度6件(工場の設備・人材の最適配置、工場の導線改善・省人化、食品工場における廃棄数管理、など)
  • エコ、エネルギー、ICTなどの先端テクノロジーを支援する「スマート社会実装化促進事業(補助率2分の1、上限500万円)」では、HEMSや省エネのための高機能膜分離技術、リユースバッテリーのリモートメンテナンス、物体検知ソリューション、急速充電可能な電動自転車の給電スポット開発等の事例が生まれています(2020年度、2021年度、2022年度とも4件(エシカルファッション、水素・窒素混合ガス製造、バイオマスからの低炭素燃料製造など)、2023年度6件(薄板伝熱フィン、自転車用ワイヤレス充電、IoT向けワイヤレス電力伝送、モビリティ向け二次電池など))。
  • 画像検査等へのAI導入、省人化のためのロボット導入などのスマート技術の進展は、同時に電力等の消費増加の恐れを伴うものであり、エネルギー消費の見える化(定額補助、上限150万円)、生産性向上(補助率3分の1、上限350万円)を支援する「スマートファクトリー促進支援事業」によって、生産管理システムの導入や簡易見積もりシステムの導入などを進めています(2020年度は10件、2021年度は9件、2022年度は4件(コンプレッサー電力の見える化、樹脂充填工程のログ記録・分析など))。(2022年度終了)
  • 開発されたスマートプロダクトを認定する「京都スマートプロダクト認定」においては、大気からガスを発生する装置やお手軽CO2センサーなどユニークな製品が2008年度から累計144件(2023年度13件)生まれています。
  • その他、温室効果ガス削減のために施設改修の支援を行う「京-VER創出促進事業(補助率3分の1、上限800万円)」(2022年度15件)、再生可能エネルギー設備や蓄電設備の新設等の支援を行う「自立的地域活用型再生可能エネルギー設備等導入補助事業」(2022年度10件)、「省エネ診断(例年25件程度無料診断)」などを行っています。

 

ロボット・AI/IoT  Robot&AI/IoT

  • けいはんなロボット技術センター
    けいはんなロボット技術センター

    「多種多様なロボットが活躍する世界を生むには、ロボットを高機能にするより、インフラを高機能にした方が早いのではないか。しかし、中小企業やスタートアップ企業には、ロボットやロボットインフラを開発実証する場がない」という課題意識から、2019年に「けいはんなロボット技術センター」を開設しました。メーカーごとに違う規格ではなく、企業が共同開発することも可能で、社会で活躍するロボットづくりで先行を許す世界へのキャッチアップを目指してきました。現在、ようやく海外勢ひしめく生活ロボット市場に京都のスタートアップ企業が割って入らんとしているところです。また、企業だけでなく、京都発の学生チームも生まれ、企業の人材確保にも繋がっています。
  • 社会拡張ロボットフィールド
    宇治市長
    上記のとおり、京都のスタートアップ企業が社会実装段階に近づいてきたことを踏まえ、障がい者や高齢者、ひきこもりの方、子どもや子育て中の親などが抱える様々な「障壁」をなくし、その世界(社会)の拡張に寄与すべく、府内各地をフィールドに、ロボットやドローン、アバターなどの実証・実証を進めているところです。
  • ポータルサイト「IoT/IoE」

 

課題先進国・日本こそリープフロッグを

時価総額世界トップ30社のうち、日本企業は1989年には21社であったのが今は1社のみ。自動運転、AI、5G、フィンテックなどが、アメリカや中国ではもはや「先端技術」ではなくなり、新たなビジネスが次々と興ってきています。

  • 例えばフィンテック(あるいは保険領域のインステック)は、長く続いたデフレの影響等で50歳以下の金融資産シェアが約2割しかなく、家計の金融資産構成の約半分もが現金・預金である日本では発展が難しいですが(スウェーデンでは金融機関の支店の大半が現金を持たなくなり、銀行強盗が数千件から数十件に激減)、中央銀行デジタル通過CBDCは世界が注目していますし、アメリカではリーマン・ショック(金融機関への不信感の増大、金融機関をリストラされた人々の存在)がきっかけの1つとなりました。日本でも資産運用、税金を考慮した投資、目標貯蓄の達成のための日々の支出のアドバスなど、ロボアドバイザーは登場していますし、徐々に各金融機関が金融デジタルプラットフォーム等も徐々に構築されつつありますが、何より重要なポイントは、ミレニアム世代(スマホ世代)、ビッグデータ、クラウドです。これらによって、ATMを持たなくていい、ライフログ(SNS上に残っている行動記録、自動車運転の急ブレーキの回数など)から審査を自動で行うなどにより、低コスト化と高い与信力を発揮できるため、書面不要でより高い預金金利や低い貸出金利の設定、これまで金融が届かなかった幅広い消費者へのサービス展開が実現できるのです。さらには、オープンAPIによって、オンラインショッピングを支える基盤にもなるなどカスタマーリレーションシップの強化を目的としたBtoBサービスも発展しています。
  • あるいはコロナ対応。オンライン会議の利用は急速に進みましたが、テレワーク導入は反動が来ています。オンライン診療も時限措置でしたし、保健所業務や給付金の支給も人海戦術のままでした。(決して誤解があってはいけないのですが、ITの活用という点では、ウクライナ戦争では、ドローンの活用はもとより、ロシア市民への情報提供を行うIT軍を創設したり、民間サイバー人材を募ったり、SNS(Telegram)でウクライナ市民が戦況を通報したり、亡くなったロシア兵を顔認証技術で特定して家族に連絡したりといったことが行われています。また、非営利団体ベルングキャットなどのファクトチェック機関も存在感を示しており、ネット上の公開情報を用いているためOSINT(Open Source Intelligence)と呼ばれます。さらには、NFTアートで復興支援をする動きも生まれています)

日本は世界に先駆けて光ファイバー網を整備した国ですが、それを活かした効率的なあるいは高付加価値化を実現する社会経済システムの構築の面では、顕著な成果を挙げられていません。現在、世界に先駆けて高齢化が進行し、人材不足という社会課題(新たな市場)が満載の日本は、まさにこうしたテクノロジーの遅れを逆手にとって、リープフロッグを実現するチャンスではないでしょうか。

 

スマートシティでシームレス社会の実現

具体的には、スマートシティによるシームレス社会(課題解決型社会、全体最適化社会)の実現です。

  • スマートシティ(リアル世界と関わるデジタルツイン)
    --サイバー(デジタル化・データ化)・フィジカル(センシング、ロボット)
    --サイバー(デジタル化・データ化)<社会拡張メタバース>
  • オンラインゲーム等(リアル世界とは別)<別世界メタバース>

重要な点は2つ。その1つは、リアルなまちのシームレス化、すなわち「サイバー・フィジカル」です。

  • スマートシティを最初に打ち出したバルセロナ、官民連携組織を立ち上げたコペンハーゲンのほか、シカゴ、ラスベガス、サンディエゴ、ジャイプールなど欧米・アジアの都市を中心に、センサープラットフォームが整備されていますが、それらの国々に共通するのは、古い都市が過密になりインフラのカイゼンが必要であったことであり、日本は出遅れました。

しかし今後の更なる技術の進展により、新たなチャンスは生まれてきます。例え触らなくても開くドアや、店頭や体調不良を察知するセンサーなど、より障がい者や高齢者にとって住みよい街づくりが進められるかもしれません。

  • 5Gや量子コンピュータ(クラウド)、エッジAI(エッジ)、RFIDタグ(センサ)やNFT(人の認証)の発達により、ドアノブや靴、道路などのインフラが、人やロボットを「所有(管理)」する、より簡便な次世代スマートシティとなりましょう。
  • Beyond 5G(6G)のようなネットワークから端末まで光のまま伝送する技術や、チップ内に光通信技術を導入する「オールフォトニクス技術」も生まれてきましょう。

なお、国交省作成の日本の主要都市の3Dマップ「プロジェクトPLATEAU」(外部リンク)では、公開されている3DモデルをゲームエンジンのUnity、Unreal EngineにインポートできるSDKが公開されています。

もう1つは、リアルのまち、それがオンライン化されたまち、いずれもの基盤となる「デジタル化(主にコスト削減)・データ化(主に付加価値向上)」です。

  • エストニア
    古くは1550年代、デンマーク、スウェーデン、ロシア、ポーランドによる領土争いの場となり、長く旧ソ連の支配下に置かれました。一時はナチスの支配下に置かれたこともあるエストニアが独立したのは1991年。エストニアが電子国家になったのは、(1)独立直後の国家の課題として誰が市民であるかを確認するところから始める必要があったこと、(2)過疎地であっても広く平等な行政サービスを提供することは財政的に難しかったこと、(3)90年代のインターネット大躍進の時代と重なったことが挙げられます。
    --政府のデジタルプラットフォーム上で行政・民間双方がサービス展開:政府が、2000年代初頭にIDカードを全て義務化するとともに、各種サービスの分散型データベースを安全につなぐデータ交換プラットフォーム「X-Roadを構築。これにより、国民はIDカードを使って行政(「離婚」以外の行政手続は全て電子化)や医療、教育、多様な民間サービスを利用することができます(各サービスはIDで紐づいていますが、各サービス担当者が他のサービスの情報を見ることはできません)。なお、内閣もデジタル化されており、データベースに挙げられた情報に反対がなければそのまま通ります。
    --国家のITレジリエンス強化:国家間の争いの新しい形とも言えるサイバー攻撃や、思わぬ形での侵略に対するレジリエンスを高めるため、同盟国であるルクセンブルク国内に「データ大使館」と呼ばれるデータセンターを設けています。
    --IT人材・スタートアップの育成:政府は、1990年代から全国の学校にPCを配りインターネットでつなぐとともに、社会人向けの教育プログラムを実施するなど、人への投資も行ってきました。さらに、パスポートとクレジットカードがあれば、1万円程度の手数料を支払うことで、国籍や居住地に関係なく誰でもエストニアの「電子住民」になれるe-Residency」により、スタートアップ企業の誘致も行っています。エストニアでは会社設立も税務手続きも全て電子化されているので、どこにいてもエストニア国内に会社を設立できます。8万人を超える電子住民がいると言われ、Skype、BoltなどのITスタートアップ企業が数多く生まれています。

しかし、既に「行かなくても同じ体験ができる」時代が訪れようとしています。日本の在宅勤務率は諸外国に比べて依然低いと言われるものの、経団連企業への調査では、2020年の新卒採用活動において、9割の企業がウェブ面接を実施し、最終面接までウェブで行ったのは6割強にのぼります。つまり、移動技術からリモート技術(リアルタイム、双方向、動画)へ、時代が変わりつつあるのです。

  • 新しい交流のチャンス:場所や世代等を超えた、多くの(世界中の人々との)交流、新しい(これまでつながりの乏しかった分野の人々どうしの)交流の創出
  • 地方のチャンス:移住の促進(地方からの越境ワーカー、遠隔移民(テレマイグランツ))と都会のオフィスのあり方の変更(ミーティングスポット化、JRによる駅ナカオフィスなど))
  • ロングテールビジネスのチャンス:見積もりや商談のオンライン化のほか、大会場で行うには知名度の低い公演のオンライン上演や行きたくても行けないアフリカの奥地などへのオンライン旅行などのロングテール需要に対応する新ビジネス、オンライン旅行に過去の風景も重ね「時空」を超える新ビジネス、障害をお持ちの方が自宅からロボットをリモート操作して接客・配膳をする(外部リンク)、脊椎損傷の入院生活者がPC用マウスを手先で動かしてメルマガ執筆や情報サイトのキュレーション等で収入を得るなどの新たな就業機会の創出

 

ロボット(アニマロイド・ヒューマロイド・プラントイド)・ドローン

まず1つ目のサイバー・フィジカルに関してです。

本府でも、福祉や働き方改革、過疎地支援などの関係で遠隔操作ロボット、自律移動ロボット、自律協調ロボットの開発、実証を後押ししています。

これまでからバイオミメティックス(生命模倣)は、様々なものがありました。エッフェル塔の骨組みは人間の大腿骨における骨小柱の配置を、新幹線の先端はカワセミのくちばしを、人工吸盤はタコの凹凸があってざらざらした足と軟体性を、這い上る粘着テープはファンデルワース力を発揮する繊毛の生えたヤモリの指を、それぞれ模倣しています。また、パラシュートはキバナムギナデシコの種子の羽毛を、面ファスナーはゴボウの実を、撥水加工はハスの葉の超撥水性を、それぞれ模倣しています。

私たちは、ロボットの基本構成を「知覚(触覚)、判断(脳/メインコントローラ/AI化、自律化、処理量増加に伴うクラウド化、クラウド化に伴う通信)、制御(神経/サブコントローラ/カム制御、リレー制御、PLC制御、PC制御)、動作(アクチュエーター/モーター)」といったように、人間や動物をベースに考えていますので、「動物」を模倣した「アニマロイド」は多く生まれています。

  • 1秒間に体長の15倍を超える距離を移動できる、重さ300グラムの完全自律型昆虫ロボット「iSprawl」
  • 壁をすばやく登る、ヤモリ型ロボット「SticyBot」
  • 柔らかな素材の体とひれを有し、本物の魚と紛れて泳ぐことができる魚ロボット「SoFi(Soft Robotic Fish)」
  • カメのひれと同じ硬さの4枚のポリウレタン製のひれを使ってカメのように泳ぐウミガメ型ロボット「マドレーヌ」
  • 水中を身をくねらせて泳ぐウナギ型ロボット「サラマンドラ・ロボティカ」
  • 腕を本物のタコのように2倍以上に伸ばすことができるタコ型ロボット「OCTOPUS」
  • 昆虫などの群れ行動を模した「群れロボット」
  • ドローンとロボットの融合「Leonardo」(外部リンク)

京都で進むのは、こうしたアニマロイドのほか、「人間」に模した「ヒューマノイド」です。

  • ATRで進められている、感情移入できるアンドロイドや脳を知るためのプラットフォームとしてのヒューマノイド

一方、世界では「植物」を模して、脳による中央制御ではなく、エッジ自律制御でエネルギー消費の少ない「プラントイド」の開発も進められています。

  • 植物の根の先端部が新しい細胞を増やして成長するように、先端部に組み込まれたセンサー情報に基づき自動で身体を設計し、同じく組み込まれた小型3Dプリンタで自動で身体を構築していく、自律で身体が成長するロボット
  • 植物の細胞壁の機能を模した、塩のチャージだけで燃料補給が不要な浸透圧アクチュエータ

維管束を持つ高等植物の葉のクチクラ層が、接触によりコンデンサとして150V以上もの電気を生み出す機能を有していることが発見され、植物が街頭になることが分かりました。京都でも「自然」の未知の機能を活かしたものづくりが始まっており、これらの融合によりより高度なスマートテクノロジーが生み出されるものと考えています。

 

なお、ドローンに関しては、2022年12月から、第一種機体認証、一等無人航空機操縦者技能証明書、飛行の許可・承認手続き、各運航ルールの遵守を前提に、ドローンレベル4飛行(外部リンク)が可能となりました(レベル1:目視内(操縦飛行)、レベル2:目視内(自律飛行)、レベル3:目視外飛行(無人地帯)、レベル4:目視外飛行(有人地帯))。こうした動きを踏まえ「ドローン実証フィールド」を計画しています。なお、レベル4の飛行に必要な条件は次のとおりです。

  • 型式認証(メーカー)・機体認証(ユーザー) ・無人航空機操縦者技能証明(操縦者):「特定飛行(目視外飛行、夜間飛行、人等との距離を確保できない飛行、催し場所での飛行、危険物輸送、物の落下)」の場合であって、
    --「カテゴリー3」(立ち入り禁止措置を講じない)の場合は、第1種型式認証・第1種機体認証(国交省)、一等無人航空機操縦士
    --「カテゴリー2」のうち、総重量25g未満で、空港周辺等ではない人口集中地域での飛行等の場合は、第2種型式認証・第2種機体認証(登録検査機関)・二等無人航空機操縦士
  • 運航ルールの遵守:飛行計画の通報、飛行日誌の記載、事故・重大インシデントの報告、負傷者発生時の救護義務

地権者の了解の取り方に定めはない中で、物権としてではなく債権的に了解を得るフレームワークを提供しているユニークなスタートアップ企業(外部リンク)も生まれています。今後、ドローンが、点検や警備、物資輸送など「1機何役」をこなすようになれば、ドローンの実用化が見えてくるのではないでしょうか。

 

DX- 社会全体の業態変革のためのオープンイノベーション

次に、2つ目のデジタル化とデータ化、すなわちDXに関してです。

人口減少時代のPOSTコロナ社会において、効率化と付加価値向上を両立させていくためには、従来のやり方を根本的に変える「業態変革」、言い換えれば「構造改革&意識改革」を「社会全体」で行うことが必要です。そして、その有効なツールであるDX、大型コンピュータやPCの導入では世界にキャッチアップできていたのに日本が出遅れてしまったDX、にも同様のことが言えます。
例えばテレワークを例に挙げれば、紙ではなく業務を行えるなどの「企業のDX」のほか、家庭の通信インフラの整備などの「家庭のDX」、取引先等もオンライン対応してくれること、すなわち「業界のDX」や、必要な手続に関わる「行政のDX」、必要な時だけ必要な場所に移動するMssS(Mobility as a Service)等の「都市のDX」など、一企業だけでは不可能だということです(列車やバスなどの公共交通機関やレンタカー、タクシーなど、さまざまな移動手段の統合(1アプリ)だけでなく、ユーザーの過去の訪問履歴、検索履歴、行動履歴などから、AIのレコメンド機能を活かし、最適な観光地の提案、観光地への最適なルート選択を行う「観光型MaaS」もその1つだと言えます)。
そのためには、「オープン(イノベーション)」が不可欠です。

 

オープンソース(デジタル化)

まず、1980年代には既に「オープンソース」の動きが始まっていました。プログラムには、人間が分かる(人間が書いた)「高級言語(ソースプログラム。Python、Java、Cなど)」と、機械が分かる「機械語(オブジェクトプログラム:コンピュータ(ハード)の構造を反映していて、そのまま計算回路への動きの指示になる)」があり、高級言語を機械語に翻訳(一括翻訳のコンパイラ方式、1行ずつ翻訳するインタープリタ方式)して実行されるわけですが、人間が理解できるソースプログラムをオープンにするのがオープンソースです。
その1つである、人間を相手にする「情報処理系コンピュータ」関係のGNU(グニュー)プロジェクト(1983年~)から、情報処理系のOSであるUNIXに繋がっていきます。現在、PC用のWindows、スマホ用のiOSやAndroidがありますが、クラウドサーバーのOSである Linuxは、UNIXから生まれました。1980年代の、IBM互換の「メインフレーム」と呼ばれる一部屋を丸ごと使う大型コンピュータでは各メーカー純正OSが使われていましたが、家具サイズに小さくなった「ワークステーション」で、大学や企業の研究室を中心に、オープンソースのUNIXが使われ始め、1990年代になりLinuxとしてPCに移植され(一般のビジネスでは、マイクロソフトのOS、MS・DOSとインテルのプロセッサを搭載したIBMのPC等が活用されました。)、現在、クラウドサーバーのOSとして、オープンの代名詞である「インターネット」のサービスを支えています。
もう1つの、機械を相手にする「組込系コンピュータ」関係のTRON(トロン)プロジェクト(1984年~)によるOSは、トヨタの自動車のエンジン制御や、ヤマハの楽器、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」シリーズなど様々な機械に用いられています。(なお、組込系OSは情報処理系OSの10倍近い利用台数に及び、TRON系OSは世界一の数が出ているのですが、情報処理系OSが実行中のプロセスにプロセッサ処理時間を一定で割り振り切り替える(ラウンドロビン)のに対し、組込系OSはプロセスの優先度に応じて振り分ける(プライオリティ・スケジューリング)ので、より職人技的なプログラミングが必要で、日本には人材が不足していると言われています。)
この間も、IBM互換機に対する問題(IBMが製品に付けていた回路図等を基に、完全コピー製品をより安く作る互換機メーカーが席捲し、やがて産業スパイ事件に発展)、パッケージソフトのコピー禁止問題(メインフレーム時代は、機能が限定されていた上、ハードの仕様をよく知る技術者でないと開発できないなどの事情によって自前OSであったものの、PC時代になってソフトウェアの価値上昇に伴い、ソースコードは隠され、オブジェクトコードは渡すがコピー禁止とされた。)など、「クローズ化」の傾向もありましたが、再度「オープン」にしたのはインターネットです。コンピュータの高機能化に伴い、プログラム開発に多大な時間を要するようになり、オープンな資産を用いたアジャイル(素早い)開発の動きが生まれてきたのです。
現在、GitHub(外部リンク)Kaggle(外部リンク)などの公開サイトがあります。

なお、国内でもフィンテックサービスが芽生えてきた背景に、2018年施行の改正銀行法でオープンAPI公開努力義務が課せられたことが大きいです。半日だけの保険にスマホだけで入れる決済アプリなど、金融機関のデータとつなぐことで実現されています。

 

オープンデータ(データ化)

また、2009年に米国大統領に就任したオバマ氏が「オープンデータ」政策を唱え、ワシントンでは、行政に問題を知らせるAPIが公開され様々なアプリが開発されているとともに、集まった問題指摘内容が公開されビジネスの種として利用され、データを公開するだけで連鎖反応的に新サービスが生まれているそうです。オープンデータの乗数効果は高く、例えばダイナミックマップや信号状態から、自動運転だけでなく視覚障害の方に音声で信号状態を知らせるサービスなど様々なものが生まれてくると考えられます。既にグーグル・マップでは、道路の傾斜等をAIが自動計算してよりCO2排出量が少ないルート提示を行うなど、ESGの視点も重要となってきています。また、カルテ情報の創薬への活用、DNA分析による美容ケアサービスなど、ビッグデータで健康増進を図る取組も進みつつあります。

  • 在宅医療介護とデータ連携(「電子@連絡帳」(外部リンク)の導入)
  • 高齢化地域社会とデータ活用(三重県東員町において、冷蔵庫センサーと電気使用量スマートメーターによる高齢者の見守り)
  • 交通システムとデータ解析(タクシーアプリGOとあいおいニッセイ同和損保の連携による安全運転の促進、ホンダと埼玉県の連携で急ブレーキ箇所のデータ収集による急ブレーキ数7割減少、村田製作所によるトラフィックセンサーと環境センサーによるデータの自治体への販売
  • モノのインテリジェント化とデータ利用(IIJデータセンターによる顔認証、TenTenによる自動販売機のインテリジェント化)

今後、こうしたデータアセット(資産)の証券化など、ビジネスモデルの構築も重要となってきます。京都でも新たな取組が生まれています。

知財と異なり企業資産に計上されない無形資産であるデータの重要性は加速しています。

  • ケーラビリティ(限界費用ゼロ)
  • ネットワーク効果
  • サービス中心主義(モノの価値が時間経過に伴い低下する分を、データ活用サービスで補う)

そして、データ流通層は、ネットワーク層(サーバー、ルーター、光ファイバーなど)の上に構築されるものですが、データ流通を加速させるためには

  • データの量の増加:既存プラットフォーマーにデータを寡占されない動き(欧州ではデータ法案、データガバナンス法案、GAIA-Xなど先行)
  • データの質の向上:トラストサービス、すなわち、データ保有者の真正性を証明する「電子署名」、データ保有者組織の正当性を証明する「eシール」、データが改ざんされていないことを証明する「タイムスタンプ」、データが確かに送信された送達証明「eデリバリー」など(欧州ではeIDAS規則に基づきトラストサービス制度化)
  • データの流通速度の向上:国境を越えた協定締結

 

オープンローミング

オープンローミング(OpenRoaming)とは、公衆Wi-Fiサービス関連事業者の業界団体であるWireless Broadband Alliance(WBA)による国際的なWi-Fi相互接続基盤のことを指す。高い安全性と利便性が特徴であり、1度設定するだけで世界中のオープンローミング対応のWi-Fiスポットに、セキュリティを確保した上で自動接続することができます。

オープンローミングの仕組みは2019年にCisco OpenRoamingとしてシスコシステムズが開発したものがベースになっている。誰もがオープンローミングを利用できる環境の構築を目指して、2020年3月に中立的組織であるWBAに開発・運用体制を移管し、現在多くの事業者の連携のもと、欧米を中心に導入が進んでいます。

オープンローミングの登録は一度だけで、その後は端末にインストールされたプロファイルによって認証、自動接続されるため、都度SSIDや接続方法を探す必要がありません。このため訪日外国人は、海外で登録したIDで簡単に接続できる。また、オープンローミングでは無線通信区間を暗号化するとともに、Wi-Fi相互接続基盤のアクセスポイントに自動接続する仕組みとなっているため、盗聴やなりすましのアクセスポイントに誘導されるなどを防げます。

京都でもオープンローミングの実証(外部リンク)が進められています。

 

プログラマブル・アイデンティティ

GAFAMのようなプラットフォーマーの仕組みに頼らずに、異なる事業者の複数のサービスを切り替えたり組み合わせたりする場合において、個々のサービスに対するユーザー登録し、ID、PWを入力する手間を省く仕組みが「自己主張型アイデンティティ(SSI:Self-Sovereign Identify)」です。具体的には、ブロックチェーン技術を用いて、(1)第三者に「DID(Decentralized Identifiers:分散型識別子)」の発行を依頼し、ユーザー自身が「VC(Verified Credentials:検証可能な資格証明)」を「アイデンティティ・ウォレット」に保管します。

  • カナダ大手7金融機関が、「Verified Me」というサービスを共同で開始。金融機関とのAPIを個別に開発する必要がなく、ブロックチェーンにアクセスするだけでよいものです。
  • ドイツの物流企業DB Schenkerは、自社、業者のドライバー間の荷物管理を実施
  • Open Wallet Foundationが2023年2月に設立

あるいは、(2) NFTを活用し、1人しか所持できないようにすることでアイデンティティの証明を行います。

こうして検証可能なアイデンティティを共有することにより、人手ではなくプログラムを介して自動で行われる「プログラマブル・アイデンティティ」が実現されていきましょう。

 

クラウドとエッジ

さらに、こうしたサービスやデータの提供方法も自己完結ではなくなってきています。現在は、集中型のクラウドサービスと分散型のエッジコンピューティングの組み合わせの最適解をユースケースに応じて模索している段階でしょう。

既に世界人口78億人のうち半数超がインターネットにアクセスしていると推計されています(2018年時点)。デジタル経済の特徴は、サーバー、ゲートウェイ、通信回線、冷却音頭管理などGAFAMの巨大インフラ投資を基盤に、複製・流通など「限界費用の安さ」、利用者増が利便性を拡大し更なる増加を招く「ネットワーク外部性」、プラットフォームの乗換コストがかかることによる「ロックイン効果」によって、GAFAMのような勝者がますます勝者となる点にあります。それ故、「物理層」のアマゾンAWSなどのIaaS(インストラクチャー・アズ・ア・サービス)をはじめ、「ミドルウェア層」にもマイクロソフトAZUREなどのPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)が存在しますが、中小企業やスタートアップ企業は「アプリケーション層」のSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)を中心に展開することになりましょう。プラットフォーム企業は、APIを公開し、オープン・クローズ戦略を展開していますが、売り手と買い手の間の信頼リスクを引き下げる基盤でもあるため(例えば、発注時に資金を預かり、完了時に支払うなど)、中小企業・スタートアップ企業は、その信用の上で、個別の課題解決サービスを創出することになりましょう。既に2024年に建設業界の時間外労働の上限規制が向けられる中で、現場写真の保存や工程管理をスマホで行い、現場で報告書作成ができるアプリ(外部リンク)スマホで手軽に3次元画像の作成、編集ができるアプリ(外部リンク)、ユーチューブでの音楽・映像コンテンツのIP(知的財産)の不正利用を探すサービスなどが次々と生まれています。

通信環境の向上(1G(1979年頃)で9.6キロバイト(1秒間に1万ビット弱を伝送)、4Gで1ギガバイト、5Gで20ギガバイトと40年で200万倍の性能向上)なども背景にありますが、グーグルのクラウドサービスは、全世界数十か所、数千万台あると言われるサーバーのうち、AIを駆使して冷房効率が高く電気代が安い夜側の半球での処理を高め電気代を4割も削減したと言われています。マイクロソフトのOfficeもクラウド化によるサブスクリプションモデルに移行しました。

クラウドも次世代型へと進化しています。

  • 自律分散型の企業間データ連携の仕組みとして、欧州では2020年6月に「GAIA-X」が発足し、その中で自動車産業を対象とした「Catena-X」プロジェクトが始まっています。
  • クラウドを利用する際のCPU、メモリーといったサーバーの構成を、コードを用いて自動的に行う「IaC(インフラストラクチャ・アズ・コード)」も登場しており、Pelumi AIは、ChatGP 大規模言語モデル(LLM)を使用して、Python、TypeScriptなどの言語でITインフラを自動生成します。

一方で、エッジAIの拡大により、クラウドを経由せずに、現場で協力し合って作業を行うロボットも登場してきています。

 

程度のバランスとAI

そしてAI
社会全体の最適化を目指す際には、様々な事象を「程度の問題」「確率の問題」として俯瞰し、バランスを考えながら進める必要があります(ベイズ哲学)。新型コロナウイルス感染症対策においても、日々変わる事態の中で、正しさを「程度」で判断するしかないハードな状況が続いてきました。そして、「正しさは確率」「すべては程度の問題」というベイズ主義の申し子と言えるのがAIです。
AIは1960年代のコンピュータ黎明期から謳われてきたものですが、現在の第3次AIのブームのきっかけは、当時カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授の論文で謳われた「ディープネットワーク」(2006年)と、その重要性に気づいた当時中国・百度(バイドゥ)所属のアンドリュー・ング氏の論文で謳われた「ディープラーニング」ですが、複数の入力値について、重みづけ、バイアス、しきい値といった「パラメータ」を設定し「程度」を判定していくものです。ベストではなくベターな解を長年の経験から掴み取るようなものと言いましょうか、人間の脳の神経細胞・ニューロンの樹状突起(入力)と軸索(出力)の接続部シナプスが、頻繁に刺激を受けると感度が鈍くなったり、しきい値を超えると出力されるのと同様です。

そして、このパラメータは何億、何十億個もあり人間が設定するのが不可能であるところ、大量の正解データを与えることで、正解から逆方向を辿って途中のパラメータをコンピュータが自動的に決定する「学習」を行えるようになり、現在のAIが実現しました(大量のデータでパラメータを自動決定する「学習」済のAIは、生データから「推定」さらには「生成」を行うのです)。
その要因の1つは、そのゲームの普及でGPUが大量に使われ安価になり、スマホやニューラルネットワークに活用できるようになったことです。
そしてもう1つは、オープン化です。グーグルがAIソースプログラムのAPIの公開を進めたことがきっかけで、マイクロソフトやアマゾンも追随しました。アルファ碁を開発したグーグル傘下のディープマインド社は、化学式からタンパク質の三次元折り畳み構造を推測するAIも開発し、GitHubでプログラムや学習データを公開しています(例えばアルツハイマー病は、化学式的には同じなのに正常とは違う折り畳みをしたタンパク質が脳に沈着することで引き起こされます。)。通常は10年かかると言われてきたワクチン開発が、たった1年程で緊急承認までこぎ着けられたのも、ディープマインド社のAIをはじめ、世界規模での研究の連携が背景にあるのです。

そして「推定」だけでなく「生成」ができるようになり、AIは新たな局面を迎えています。奇しくも(Googleにとっては皮肉なことに)、究極の検索エンジン(質問すれば、大量の検索結果を並べるのではなく、的確な唯一の解答を出す)と言える優れた対話型AI「ChatGPT(Generative Pretrained Transformer)をOpenAI研究所が先行して開発を進めてきました(奇しくもマイクロソフトが出資しているように、AIの「OS」の位置づけになっており(相当のデータ量)、このOSと連携した個別AI開発が進んでいく様相ですが、イライザ(外部リンク)など国産も開発が進んでいます)。GPTとは、同社の自然言語処理技術のことで、「プログラム言語にも応用できるのでプログラムを書かずともPROMPT(言葉)でコンピュータを動かせる」「現在のGPT4はMultimodal Modelと言って、テキストだけでなく、絵や構造を理解できる(ただし無料版はGPT3.5で不可)などの特徴があります。一定時期までのデータしか持っておらず、データそのものが不正確なものも含まれているなど、課題もありますが、大量のデータから特徴を学んで推定する「従来AI」に対し、データから学習して、0から1を生成する「ジェネレーティブ(生成)AI」と呼ばれています。

  • 推定(認識)AI:既にあるデータを用いるためプロンプト(入力)不要
  • 生成AI:プロンプト必要

APIを使って他のツールと接続するなど作り込むことで便利なシステム(外部リンク)が多く生まれてきています(GPT4やGPT4ta4ターボでは、パラメータ設定すら不要と言われています)。

  • 人気の論文を抜粋して要旨を抽出する「Consensus AI」。インターネット上の情報だと「でっち上げ」が起こるケースが多々ありますが、査読済み論文のみを情報源とすることで不正確な文章となる可能性を下げています。
  • 3DCGアニメーションを作成アプリBlenderとGPT-4を組み合わせ、自然言語で命令をすることでBlender用のPythonコードを生成してくれる「BlenderGPT」
  • GPT-4とジェネレーティブAIを使用してムービーや画像の作成・編集を行う「Genmo Chat」
  • ブラウザで開発環境を整えられるReplit、テキストの説明文から画像を作成するジェネレーティブAIのMidJourney、ChatGPT以上に会話らしい会話を生成すると言われるチャットbotのClaudeをGPT-4と組み合わせることで、フル3Dのゲームをゼロから作成
  • GPT-4をiOSと組み合わせることで、Apple Watchに話しかけるだけでコーディング
  • 大規模言語モデル(LLM:large language model)のロボット制御への応用(ロボットの物理的な動きを数値で指し示す/Google)
  • コーディング支援:GitHubでの生成AI取り込み、「Code Llama」(メタ・プラットフォームズ)
  • ぐるなび「ぐるなびFineOrder」AIチャットボット:顧客の希望を自ら聞き出しメニュー提案(2023年6月実証実験)

生成AIの課題としては、次のとおりです。

  • 特別な設備:大規模モデルは、AIスーパーコンピュータのような特別な設備なしでは開発困難
  • 著作権問題:日本では著作権法第40条の4(2019年1月施行)により、営利・非営利問わず「学習」は認められる(米国では営利目的の場合は議論が分かれています)が、「生成」物が著作権を侵害しておれば著作権法違反
  • ハルシネーション(幻覚):事実に反することをもっともらしく生成する現象

 

マイクロソフトはさらに、無料アプリ「BingAI」を提供しています。「ChatGPT」に比べて、検索エンジンを用いているため最新情報を反映しており、無料でもGPT4対応であるため絵も描いてくれます。こうした人工知能(Artificial Intelligence:AI)を「知能拡張技術」(Intelligence Amplifier:IA)として捉えていくことが重要だと考えています。

 

AI時代のDX、デジタル時代のDX、そしてアフターコロナ時代のDXを支える「情報」「カネ」の基盤

このように、従来のDXが、データ化を人手で行い課題抽出し、デジタル化を人手で行いシステム開発し、変革というアウトプットが出てきたのに対し、AI時代のDXは、デジタル化、データ化が自動で行われるようになり(人を介さずリアルタイムに進化する)、デジタル時代のDXは、他者や社会とも繋がるようになりました(System of Systems/自由につなげる反面、脆弱性は増す)。これにより、社会全体の大きな変革を乗り越えていこう、人間中心の新価値を実現しようというのが、アフターコロナ時代のDXではないでしょうか。

  • まず、社会の諸課題を解決するには、社会そのものに目を向けなければなりません。「答ありき」ではなく「データから」であり、「答に合わせてデータを揃える」ではなく「データを掛け合わせて問題を突き詰める」である必要があります。(例えばメジャーリーグでは近年「フライボール革命」と言って、打球は転がすよりも打ち上げた方がヒットになりやすいことがデータで示されました)。そして、ディープラーニングや因果推論(入力と出力の因果の統計(確率)上の推論。もし入力を変えたらどうなるか)等のデータ解析(データベース管理システム:Oracle、データ操作言語:SQL、マークアップ言語:XMLなど)、回帰分析(将来予測)により真の課題を見つけたら、ビジネスへと展開するわけですが、それもプロダクトアウトで「生み出す」のではなく、データから利用者を理解し「体験価値を意識する」ことが重要です。本人すら気付いていないことをAIやデータで気付かせることができれば、なお良しです。つまり、「DX×UX」です。そこにはデータを様々な視点で考察できるデータサイエンティストの能力が不可欠ですが、日本の大学では統計学を教えてこなかったため、大学院レベルで育成することが重要とも言われます(海外では、データをオープンにして、様々な分野の方に解析を競わせる手法も採られています)。
  • その際、「技術」ではなく「課題解決」が重要であり、問題を見誤らないことが重要です(「待ち時間」が問題なのか、「何もすることがない時間」が問題なのか)。サービスも、「単独」ではなく「複合」させることで、コストも価値も補うことができるはずです。
  • そして、「技術競争」に飲み込まれないために、技術の基礎となる「思想」を見定めることも重要です。技術の進歩に対してお互いに教えたくなる仕組みを作ることも有効です。
  • さらに、産業構造が変化する中でサプライチェーンの一部に特化してみることで新サービスが展開でき得ること、デジタル化に取り残される方も多く存在する中で、人間が介在してもいいし、むしろそういうサポート人材を増やすことが重要です(取り残されている人であっても、周囲が問題に気づくことで解決できるケースもあるのです)。

また、政府のデジタル臨時行政調査会では、7項目のアナログ規制、すなわち(1)目視規制、(2)実地監査、(3)定期検査、(4)書面掲示、(5)常駐選任、(6)対面講習、(7)往訪閲覧についてデジタル技術の活用方針を示しており、例えば、ドローンによる遠隔確認による河川・ダム検査、カメラ監視による介護施設管理などが期待されます。

実際、コロナ禍を経て、様々な分野で、DXが進んできています。

そして、こうしたDXを支える「基盤」、すなわち「情報」「カネ」の基盤の構築が重要です。

 

プライバシー対策

「情報」基盤の構成は次のとおりです。

  • 利便性
  • プライバシー対策
  • セキュリティ

そのうち「プライバシー対策」に関してです。

  • 個人情報保護法個人情報(氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報)の取扱いに関し、(1)利用目的を通知又は公表して「取得」し、目的の範囲内で「利用」する、(2)従業員・委託先含めて安全に「保管」する、(3)第三者に「提供」するには、予め本人から同意を得る、(4)本人からの「開示等の請求」に対応することが必要です。
  • 情報公開条例:公開できない情報は、(1)個人情報(個人に関する情報、個人が特定され得るもの、個人を特定され得ないが公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあるもの)、(2)個人の生命等の保護に関する情報、(3)法人等情報、(4)法令秘情報、(5)非公開約束情報、その他があります。
  • 高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法/2000年):行政のデジタル化
  • GDPR(EU一般データ保護規則/2016年):(1)規制対象情報は、個人情報保護法では個人を直接特定できる情報が対象ですが、GDPRはIPアドレス」Cookie(ウェブサーバーから発行され、閲覧履歴等をブラウザに記録しておくもの)などのデータも含む場合があります。(2)規制内容は、「処理」(記録、収集、参照、削除、組織化など、販売業務、サービス提供などで発生するいわゆるデータ処理に含まれるプロセス)と「移転」(個人情報を含むデータを、EEA域外にメールなどで送信するような操作)です。
  • 官民データ活用推進基本法(2016年):「日本再興戦略2016」に端を発し、個人の多様なデータを一元管理し、個人の意向に合わせて、情報を必要とする企業への提供を仲介するビジネスを行う「情報銀行」構想が練られているところです。
  • 医療ビッグデータ法(2017年):医療機関が持つ医療情報の「提供」に関して、次の場合に限って、オプトアウト(本人が利用停止を求めるまで提供可)認めるものです。すなわち、 (1)高い情報セキュリティーの認定などで担保された認定匿名加工医療情報作成事業者へ限り、(2)認定匿名加工医療情報作成事業者は、ビッグデータ(「匿名加工医療情報」)を作成して提供することができます。
  • 改正電気通信事業法(2023年):Cookieのうち、ファーストパーティCookie(閲覧したウェブサーバーが発行するもの)ではなく、サードパーティCookie(閲覧したウェブに広告を出しているなどの第三者サーバーが発行するもの)の利用を制限
  • マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律/2023):番号法、健康保険法、住民基本台帳法、公金受取口座登録法など11法律にまたがる束ね法。(1)従来の保険証を廃し、マイナ保険証としてマイナカードに一体化:行政による交付義務から住民による申請主義へ(申請しない人は「資格確認証」を申請)、医療機関にはマイナ保険証によるオンライン資格確認システム整備を義務付け、(2)マイナンバーと預貯金口座を紐づけ、(3)マイナンバーの利用範囲拡大:従来の「社会保障」「税」「災害対策」の3分野から、「国家資格の取得更新」「自動車登録の手続」などの追加
  • 改正電子帳簿法(2024年):電子取引について、紙保存ではなく、電子データ保存が義務化

データ分析技術の進化によって、携帯電話の位置やパソコンの動作環境等の匿名データからもその人の好みや生活習慣が導き出せるようになりました。このため、氏名や住所など個人を特定するデータだけでなく、そうした「顔の見えないプライバシー」も個人情報をみなす動きが、EU(「一般データ保護規則(GDPR)」)を中心に加速しており、便利さとプライバシー保護の両立が不可欠な時代となってきました。ブラウザからサーバーに閲覧履歴を返すCookieも個人情報保護の観点からEUやアメリカで制限されるよういなりました(今後「人」ではなく「枠(ページ)」にあった広告づくりが求められましょう)。

データを活用する際には、OECDのプライバシー原則や日本における個人情報保護法は、データの安全管理はもちろん、データの利用目的の特定、同意なしに第三者に提供不可などの制約を設けており、データをプライバシーを保護した状態に加工(仮名化:個人が特定できるデータをID等に変換(他のデータから特定できる可能性が残る)、匿名化:データの抽象度を高めて管理)することでの活用が考えられます。

  • 違法情報は、法執行機関を中心に取り締まる
  • 有害情報は、民間関係者の協力により自発的な対策を講じるのが望ましい。

日本では、1970年に税や社会保障に関する情報の管理をめぐる検討が始まりましたが、国民総背番号制への国民の反発がありました。1980年代には納税者番号制度についての検討が行われましたが、国民の理解が不十分であることから継続的検討課題となりました。1994年に住民記録システムのネットワーク化に向けた検討が始まり、住民基本台帳法が改正され、2002年からいわゆる住基ネットが随時稼働されていきました。その後、年金記録の管理に不備等があり、消えた年金記録などが大きな社会問題となりました。年金記録問題を機に政権交代が行われ、民主党がマイナンバー制度を設計しました。早くから国民番号制度を早くから実現し社会福祉を充実させてきました北欧等と比べて、日本ではマイナンバー制度に対して慎重な議論が続いています。

  • 税と社会保障の公平公正な負担という利用目的に対し、マイナンバー制度を支える法律の正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(番号法)」であり、「行政手続」を対象とした広い法律名称が用いられており、附則第6条には、「民間における活用を視野に入れ」ることまで記載されているということ。
  • マイナンバー制度の運用の条件として、個人情報保護の監視役としての第三者機関である個人情報保護委員会が設置ており、それが十分に機能するかどうかということ。
  • 不正利用などの罰則のみが規定されており、漏洩や不正利用の被害が生じた場合の国民に対しての救済措置や補償について手当てされていないということ。

 

情報セキュリティ

次に「セキュリティ」に関してです。テクノロジーの進化とともに、サイバー攻撃のリスクが拡大し、それに対応するセキュリティもまた同時に発展を遂げ続ける時代です。

デジタルコンピュータが誕生したのは1940年代です。世界初のコンピュータは、最大29元の連立方程式を解く目的で、1942年に米国アイオワ州立大学のアタナソフとベリー によって作られた「ABC」です。学習机程の大きさで、二進法を使って数値やデータを表す、計算をする部分とメモリを分離する、計算は歯車や機械的なスイッチではなく300本の真空管を用いて電子的に行う、原理的にはDRAMと同じキャパシタメモリ(1600個のコンデンサを内蔵)を用いる、交流電源の周波数である60Hz がマシンの基本動作周波数としているといった「コンピュータ」の原型となっている一方、プログラムは内蔵しておらず、メモリの読み書き、十進法と二進法の相互変換、連立方程式の整理などを操作者がスイッチ操作するものでした。

ハッキングのはしりは1950年代後半に台頭した電話マニア(フリーク)による「フォンフリーキング(電話のハッキング)」です。通信技術者が遠隔作業で用いるプロトコルを乗っ取り、無料通話や長距離電話の料金帳消しなどが行われました。こうしたフリークのコミュニティにはスティーブジョブスなどテクノロジーの先駆者も参加していたと言います。

ハッキング初登場は1960年代後半です。1967年、IBMが高校生たちを招待し、新しいコンピュータを試用させます。学生たちは、外部からアクセス可能なシステムの脆弱性を発見した後、より深く探究するためにシステムの言語を学び、システムの他の部分にもアクセスできるようになりました。高校生のおかげで、コンピュータの脆弱性が明らかになり、防御手段を開発することになったのです。

インターネット、サイバーセキュリティの誕生は1970年代です。1972年にインターネットの起源であるARPANETという、米国国防総省の高等研究計画局(ARPA)が実行した研究プロジェクトに端を発し、社会におけるコンピュータの重要度が高まり、ネットワーク化が進むにつれて各国政府の認識も高まっていきました。1979年、ケビン・ミトニックという16歳の青年が、OSの開発に使用されていたコンピュータをハッキングし、ソフトウェアのコピーを作成しました。その後も数十年に渡ってサイバー攻撃を繰り返しますが、最終的にハッキングからセキュリティへ転身し、コンサルティング業を展開しています。

  • OSI参照モデル:物理層(ピン、ケーブル等【ハブ】)、データリング層(物理通信路、MACアドレス等【スイッチングハブ】)、ネットワーク層(通信経路、IPアドレス等【ルーター】)、トランスポート層(HTTPなどのポート)~アプリケーション層(【ゲートウェイ】)(IETFが標準化している「TCP/IP」プロトコルに対し、ファーウェイが「New IP」を提案)
  • NAT:プライベートIPアドレスのグローバルIPアドレスへの変換(IPマスカレード:複数のプライベートIPアドレスと1つのグローバルIPアドレスの割り当て)
  • DHCP:グローバルIPアドレス自動採番
  • DNS:グローバルIPアドレスとドメイン名を対応させる仕組み

ウイルス、ワーム、トロイの木馬、アンチウイルスの登場は1980年代です。不正なコンピュータプログラムが核ミサイルのシステムを乗っ取る映画『ウォーゲーム』が公開された1983年には、コンピュータウイルストロイの木馬という用語が初めて使われ、1987年はアンチウイルス製品が誕生しました。ワームによる世界で最初の攻撃は、1988年11月、コーネル大学の学生であったロバート・T・モリス氏(現在MIT教授)がMITから放った「Morris Worm」です。ただし、攻撃目的ではなくインターネットの広がりを知るため、電子メールシステムの欠陥等を利用して、各コンピュータにワームを侵入(増殖)させました。その際、バッティングしていた場合は潜入しないプログラムに欠陥があり、一定の割合で何度も同じコンピュータへ侵入を繰り返す想定外の動作(今で言うDoS攻撃と同じ効果)で、各コンピュータがダウンしてしまったのです。当時インターネットに接続された世界6万台のコンピュータの1割が被害を受けたと言われています。

  • ウイルス:「宿主(寄生先)」となるプログラムの一部を書き換え、自己増殖していくもの
  • ワーム:ウイルスのように他のプログラム(宿主)を必要とせず、自己増殖していくもの(ネットワークに接続しただけで感染するものも数多く存在)
  • トロイの木馬:一見しただけでは問題のない画像や文書などのファイル、スマートフォンのアプリなどに偽装して、デバイス内に侵入して、外部からの指令によってそのデバイスを操るもの(自己増殖しない)
  • スパイウェア:本人も気付かないうちにPCなどのデバイスにインストールされ、ユーザーの個人情報やアクセス履歴などを収集するもの。うち、ランサムウェアは、データを暗号化して操作不能にし、復号するために料金を請求するもの(近年、増加傾向で、特に企業への攻撃などビジネス化している例が目立つ。報復の例として、パソコンが勝手に起動して、プリンタからは大量印刷、電子カルテが使用不能となったものなど)

多様なマルウェア、ファイアウォールの登場は1990年代です。新種のマルウェアの数は1990年代に爆発的に増加し、NASA のある研究者が、建物の火災における延焼を防ぐ物理的な構造をモデル化し、初のファイアウォールプログラムを開発しました。

  • ネットワーク対策:ファイアウォール(パケットフィルタリングやプロキシ機能のルーター、サーバーによる不正アクセスの排除)、IDS(不正アクセスの監視)、DMZ(公開サーバーを内部ネットワークと区分して設置)、バックアップとミラーリング
  • 権限の制限:アクセスコントロール、認証
  • 運用面の対策:ウイルス対策ソフトを導入し常に最新バージョンにアップデートしておく、PCの場合にはインストールしているOSを最新版に保っておく、怪しいURLはクリックしない、不審なメールや不審な添付ファイルは開かない、重要なファイルは漏洩しても開けないように暗号化しておく、機密情報を保存してあるサーバーは許可のないデバイスから隔離しておく、暗号化(共通鍵暗号方式、公開鍵暗号方式)するなど

クラウドアンチウイルス、OSセキュリティパッチの登場は2000年代です。アンチウイルスにおける重要な課題は、コンピュータのパフォーマンスを低下させないまま、機能することであり、クラウド技術を導入したアンチウイルスが発達しました。また、定期的なOSのパッチ更新、アンチウイルスのアップデート、ファイアウォール、アカウントの安全管理など、様々なセキュリティ機能がOSに組み込まれました。その後、スマートフォンの普及に伴い、iOSやAndroidにも適用されます。そして、サイバー攻撃も多様なものが登場しています。

  • マルウエア(ウイルス、ワーム、トロイの木馬、スパイウエア(ランサムウエアなど)
    --フィッシング:なりすましメールなどで、悪意のある添付ファイルを開くと、コンピュータにマルウェアがインストールされ、リンクをクリックすると合法に見えるウェブサイトが開き、重要なファイルにアクセスするためという理由でログインが求められるなど、認証情報を入手するためのトラップ
    --SQLインジェクション攻撃: Webサイトのフォームに、アプリケーションが想定しないSQL(シークエル。データベースと通信するために使用されるプログラミング言語)コマンドを実行させることにより、データベースを不正に操作し、情報漏洩・改ざん・消去されたりするもの
    --クロスサイトスクリプティング:Webサイトのフォームに、悪意のあるJavaScriptなどスクリプトへのリンクを埋め込むなどすることで、ユーザーがサイトに送信する機密情報(認証情報、クレジットカード情報、個人データなど)がハイジャックされるもの
  • 大量負荷
    --バッファオーバーフロー攻撃:コンピュータのメモリの容量以上のデータを不正に送りつけ、不具合を起こさせるもの
    --DoS攻撃:WebサイトやWeb上のサービスに対し、メールを大量に送信する、F5キーを何度も押してページを繰り返し再読み込みするなどの方法で過大な負荷をかけ、システムの動作や機能を停止させるもの
    -- DDoS攻撃: DoS攻撃がひとつの端末から行われるのに対し、DDoS攻撃は、まず多数のコンピュータや機器に侵入し、それらの機器から一斉に攻撃が行われるもの(行政情報のポータルサイトなどでの被害が相次ぐ)
  • 不正アクセス・不正アカウント
    --パスワードリスト攻撃:ユーザID、パスワードを何らかの方法で入手し、そのユーザIDとパスワードを利用して別のサイトなどで不正ログインを行うもの

デジタル化の進展で国家や大企業に甚大な被害をもたらすようになったのは2010年代です。2012年、サウジアラビアのハッカー「0xOMAR」が40万枚分以上のクレジットカード情報をオンラインで公開し、2013年には元CIA職員が国家安全保障局(NSA)の機密情報を流出しました。2014年にかけてヤフーのシステムからユーザーの個人情報30億人分を奪取しました。2017年、1日で23万台のコンピュータが「WannaCry(ワナクライ)」というランサムウェアに感染する事件が起こり、2019年には、複数のDDoS攻撃により、ニュージーランドの株式市場が一時的に閉鎖しました。そして、次世代型のアプローチも目指されるようになりました。

  • 多要素認証
  • ネットワーク動作分析(通常の動作パターンから逸脱した動作を検知し、悪意のあるファイルを識別する手法)
  • 脅威インテリジェンスとアップデートの自動化
  • リアルタイム保護(オンアクセススキャン、オートプロテクト)
  • サンドボックス(疑わしいファイルやURLの開示を仮想のテスト環境で実行する手法)
  • フォレンジック (既出の攻撃を分析し、将来的な攻撃の対策に役立てる手法)

ボットの暗躍、ランサムウェア・DDoS攻撃が続く2020年代。AIの進展に伴い「買い占めボット」が世界の通信の25%を占め、ネット上の自動プログラム「ボット」が暗躍しています。また、ハッカー集団ロックビットによる徳島の町立病院へのランサムウェア攻撃(電子カルテが使えないなど)、ハッカー集団ロビンフッドによるトヨタ下請会社へのランサムウェア攻撃(データ暗号化)、ロシアのハッカー集団キルネットによるリトアニア政府機関や民間企業へのDDoS攻撃など続いています。

  • アイデンティティへの脅威:最も一般的なものとして、個人情報の窃盗やアカウントの乗っ取りなど、アイデンティティの脅威(フィッシング、不正アクセス・不正アカウント)は引き続き大きなテーマです。
  • 組織内部からの攻撃:2022年にカーネギーメロン大学が行った調査では、セキュリティ事件の15%から25%は、内部の人間やビジネスパートナーが関与しているとのことです。
  • クラウドサービスプロバイダへの攻撃:リモートワークの増加に伴い、データ共有などの目的でクラウドサービスを利用する個人や企業も増加し、アフターコロナにおいてもクラウドサービスの利用は増加すると見込まれますが、2020年に発生したデータ漏洩は、オンプレミス(企業等に設置された情報システム)のストレージよりもクラウドシステムで多く発生しています。
  • 医療機関への攻撃:コスト削減のためにセキュリティ機器が古いままであることが多く攻撃しやすいこと、個人情報が多く究明手術など命に関わるケースも多く「身代金」要求に応じる可能性が高いと一般的に思われてしまうことから、医療機関へのサイバー攻撃が増加しています。
  • 自動車への攻撃:自動化された様々なソフトウェアが搭載されています。ただし、これらは通信にBluetoothやWi-Fi技術が使用されているため、ハッカーによる脆弱性や脅威にさらされています。特に2022年からは、自動運転車の普及に伴い車両の制御やマイクを使った盗聴が増加すると予想されています。
  • 5Gの脆弱性への攻撃:5Gの構成は業界でも比較的新しいものであり、外部からの攻撃に対してシステムを安全にするための方法を見つけるためには、まだまだ多くの研究が必要です。データ漏洩を制御するために洗練された5Gのハードウェアとソフトウェアを厳密に構築する必要があります。

米セキュリティ大手・マンディアント社によると、組織がサイバー攻撃を受けた場合、米大陸では組織内検知が60%、外部指摘(犯罪集団からの脅迫状を含む)が40%であるのに対し、日本を含むアジア太平洋地域では、それぞれ24%、76%で、世界全体で攻撃者が組織内のシステムに侵入してから検知までに要した日数を調べたところ、組織内検知での中央値は18日、外部指摘では28日とのことです。セキュリティ体制の強化が急がれています。
その際、単に「技術的セキュリティ」だけでは不十分で、「人的セキュリティ」にも細心の注意を払う必要があります。2022年5月には経済安全保障推進法が制定されたところですが、ものづくり企業で特に問題となっているのは技術情報の流出であり、技術情報流出防止の肝は人から人に漏れる情報にあります。企業間の取引で、特に技術情報流出のリスクが高いのは、「ヘッドハンティング(従業員の移籍)」「共同研究」「製品の引き合い」「合併買収」「情報の持ち出し(インサイダー)」「海外展開」です。特に日本が優位に立っている技術は狙われやすいと言われています。

 

キャッシュレス化

キャッシュレス決済比率(キャッシュレス支払手段による年間支払金額/国の家計最終消費支出、2020年)は、韓国93.6%、中国83.0%、オーストラリア67.7%、イギリス63.9%に対し、日本は29.8%と大きく出遅れています。

キャッシュレスのメリットは、次のとおりです。

  • 政府:インバウンド消費拡大による経済活発化、現金製造・流通・保管コストの削減、資金の流れを把握することによる徴税の徹底
  • 国民:現金をなくすリスクがなくなる、記録が残り使い道を検証できる、ポイントが貯まる
  • 社会:人口減少時代にあってストア無人化による生産性向上、支払データ活用による利便性向上・消費活性化

キャッシュレスの方法は、次のとおりです。

  • カード決済:「カード」と「読取端末」
    読取端末が必要で、大手販売チェーン向け。

    --クレジットカード【ポストペイ=後払い】
    「カード会社」は、「ストア」に立替払して、「ユーザー」に事後請求する。「大手クレジットカード会社(国際ブランド・イシュアー:VISA、マスターカード、ダイナースクラブ、アメリカン・エクスプレス、ディスカバー、銀聯(中国)、JCB(日本))」と契約している「一般のカード会社(アクワイラー)」が、審査してクレジットカードを発行。
    アメリカでは、「クレジットヒストリー(過去一定期間の返済履歴、借入残高等の情報)」、「クレジットレポート(ヒストリーを見やすくカスタマイズ)」「クレジットスコア(ヒストリーから信用度を3桁数値で表したもの。760点以上=プライム層、660点未満=サブプライム層)」などの信用情報が、決済シーンだけでなく、就職やアパートの賃貸など広く社会経済活動全般で活用されており、プライム層は借入金利は低く、預金金利は高くなる。本来住宅ローンを借りられないサブプライム層への住宅ローン焦げ付きに端を発したのがリーマンショック。
    日本でも、全国銀行個人信用情報センター(銀行系)、CIC(信販系)、JICC(消費者金融系)などの信用情報機関に所属する金融機関と、携帯キャリアが連携し、「Jスコア(ソフトバンク)」「ドコモスコアリング(ドコモ)」などの信用スコアビジネスが始まっている。

    --デビットカード【リアルタイムペイ=即時払い】
    銀行口座さえあれば審査なく発行。Jデビット(ゆうちょ銀、みずほ銀)のほか、VISA、JCBなどの国際ブランドも参入。
    中国では、銀聯(クレジットカード)に、信用の有無に関係ないデビットカード機能を付けることで、キャッシュレス化が大きく進んだ。

    --電子マネー【プリペイドが多い】
    いずれもソニーが開発した非接触ICカード技術「フェリカ」を使った、Suica(JR東日本)、PASMO(首都圏私鉄)、楽天Edy、WAON(イオン)、nanaco(セブン&アイ)。
  • スマホ決済:「カードの代わりとしてのスマホ」と「読取端末」【クレジットカード、電子マネーに対応】
    読取端末が必要で、大手販売チェーン向け。グーグルペイ(アンドロイド端末)、アップルペイ(iPhone端末)、PayPalなど
  • QRコード決済:ストアスキャン型(ユーザーがコードを提示)、ユーザースキャン型(ストアがコードを提示)【基本は即時払い】
    デンソーが開発した「QRコード」が世界に広まっている。読取端末不要で手数料が低く、中小小売店向け。オリガミペイ(クレジットカードにも対応)、楽天ペイ(クレジットカードにも対応。楽天ポイント支払も可能)、LINEペイ(プリペイド対応。割り勘機能、ポイント還元も可能)、d払い(ドコモ)、アマゾンペイ、ペイペイ(ヤフー・ソフトバンク。なりすましを防ぐため、クレジットカード会社と同様に、事前に登録したID/PWで本人認証をする「3Dセキュア」を導入)、銀行カード(デビットカード対応)、ゆうちょペイ、コンビニペイ(ファミペイなど)
    中国では、アリペイ(アリババ、信用格付け「ゴマ信用」付で点数を高くするために個人情報を提供する)、ウィーチャットペイ(テンセント)

一方で、キャッシュレスのデメリットあるいは覚悟としては、次のような点が挙げられます。

  • 国民:金の使い方の情報が国や企業に筒抜けになる(KYC(本人確認手続)等の問題)
  • 社会:信用スコアビジネスの発達にともなう信用格差社会化、データ監視社会化

 

デジタル通貨

法定通貨をデジタル化した「電子マネー」、中央銀行発行デジタル通貨「CBDB」、特定国家の保証を持たない「暗号通貨」などがあります。また、キャッシュレスの推進のためにも「ポイント還元」を組み合すケースが多いです。

  • 共通ポイントカード
    「ストア」は、「ポイント事業者」から買い取ったポイントを(1ポイント=1円とした場合、ストアは手数料を含めて数円で買い取る)、買い物をした「ユーザー」に発行。「ストア」にとっては、手数料の負担があるものの、自社でポイントを発行した顧客囲い込みのほか、他ストアで発行されたポイントユーザーの新規獲得の機会がある。「ポイント事業者」(Tポイント(CCC)、楽天ポイント、Pontaポイント(ロイヤリティマーケティング)、dポイント(ドコモ))は、手数料ビジネスのほか、データ活用ビジネスに繋がる。
  • 自社ポイントカード
    「ストア」は「ポイント事業者」への手数料を抑えられる、顧客情報をすべて自社で囲い込める反面、マーケティングに必要な顧客データ量が少ない。

 

ブレインテック

以上のスマートシティ、すなわち環境を改善する方向とは逆に、人間自身を改善するのが、ブレインテックです。既にスウェーデンでは、人間の体内に注射で埋め込んだマイクロチップでデジタル決済を行っているそうですが、ここでは「脳」に注目しています。

従来、アルファ波、ベータ波等の「ムード」のような脳の状態を把握する「EEG」、動作や知覚、思考の際の脳内各部の血流動態反応を画像化する「fMRI」がありましたが、近年注目されているのが、脳にマシンを接続し双方向で情報をやり取りする「BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)」。
「知覚」の際の「脳内反応部位」をfMRIで捉えた画像を、「AI」に学習させることで、「脳内反応部位のパターン」から、知覚した映像の再現がある程度なされるように、ある「動作」をする際の「脳の電気信号」を捉え、そのデータを「AI」に学習させることで、「脳の思念(意図)だけ」で、つまり「動作なし」で物事を行えるようにするものです。これまでも、パーキンソン病の患者らの脳に小型電極を埋め込み、微弱な電気信号を与えることで各種症状を沈静化する治療方法が既に活用されていますが、事故や病気で身体の麻痺した患者が手足を動かそうと念じることで、自身の手足の筋肉あるいは代替ロボットを動かすBMIや、念じるだけでテキスト入力ができるBMI等の開発が進められています(文字を手書きするイメージを持つと正確性が増すなど様々なノウハウが試されています)。
半導体チップ等を脳に埋め込む「侵襲型」は、イーロン・マスク氏らのニューラルリンク社等が取